十三人目の妹 前編
辺りでエルフの貴族達との戦いが繰り広げられている頃。
リージアは、エルフらに雇われた傭兵ジャックを相手にしていた。
「さっさとくたばりやがれ!!」
「生憎仕事でな!そう言う訳にもいかないんだよ!」
「じゃぁ死ね!」
フォスキアが言い掛かっていたが、ジャックは世界で唯一のプラチナランク。
つまり、この世界では最も名の売れた最強の傭兵。
その名は伊達ではない事を証明するかのように、変異したリージアと正面から斬り合っている。
「死ね!死ね!生ゴミ野郎!!」
「そんなに飛ばして大丈夫か!?戦いはこれからだぜ!!」
「黙れ!」
地を割き大気をも切り裂く二人の戦いだが、リージアは劣勢に立たされていた。
フォスキアを助けたい気持ちが先走り、リージアの攻撃は焦りを生んでいる。
呼吸もブレ、戦い方も雑になってしまっているのだ。
そんな攻撃は歴戦の傭兵であるジャックには、次の一手を大声で叫びながら戦っている事も同じ。
「素人か?」
「グッ!」
長剣でハルバードの一撃は弾かれ、その隙にジャックの拳がリージアの横腹を貫いた。
魔力を纏う一撃は電磁装甲を徹し、外装だけでなく内部機器にもダメージが入る。
「この、クソが!!」
「やれやれ」
衝撃で後ろへ軽く飛ばされたが、立ち直ったリージアは正面から突っ込む。
猪突猛進でしかない彼女の戦い方にため息をついたジャックは、長剣を構え直す。
「悪魔の嬢ちゃんを助けたいんだろ?だったらもうちょっと冷静になった方が良いぞ」
「お前の意見なんか知るか!」
「あっそ」
涼しい表情を浮かべるジャックは、人間とは思えない動きでリージアと切り結ぶ。
互いに小細工無しの、純粋な力と力をぶつけ合う。
完全に頭に血が上るリージアは、ジャックの忠告さえ無視して正面衝突を続ける。
「(死ね!死ね!早くしないと、早くしないとフォスキアが!)」
チラチラとフォスキアの安否を伺うが、彼女はもう戦っているというより虐められている状況。
残った二人の貴族と王からの集中攻撃を受けており、防戦一方となってしまっている。
回避を続けているが、手負いの状態で何時まで持つか解らない。
「そんな攻撃じゃ、俺は倒せないぜ!」
「うるさい!!」
煽りを受けたリージアは、更に逆上してしまう。
変異した際のメリットの一つは尻尾が使えるようになる事だが、先ほどからハルバードによる攻撃しか行っていない。
逆上によって気ばかりが焦り、攻撃もワンパターンになっている。
「うるさい!うるさい!あんな奴らに!あの子を奪われてたまるか!!」
「グッ!」
ワンパターンだった攻撃から一転し、ジャックの意識の外から外れた一撃が横腹に突き刺さった。
それは怒りを乗せたリージアの足蹴り。
クリーンヒットにより、内蔵の破裂と骨の折れる感覚が彼女の足に伝わる。
「お前はそこで寝ていろ!!」
「ガハ!」
怯んだジャックの腹部へと、リージアはハルバードを突き刺した。
そのまま地面へと叩きつけた事でハルバードは深々と刺さり、地中へと沈んでいく。
無力化には成功したが、ハルバードの回収は断念して翼を羽ばたかせる。
「フォスキアアア!」
今自分が出せる最高のスピードを叩き出したリージアは、フォスキアの元へと駆けだした。
――――――
少し前。
フォスキアは大剣を用いて、アスガルドと切り結んでいた。
「哀れな奴だ!」
「何がよ!?」
前衛に立ってフォスキアへと対峙するアスガルドは、聖剣を振りかざす。
フォスキアの大剣とは異なり、アスガルドの聖剣は細身かつ軽量。
反撃の隙さえ与えない猛攻で、フォスキアを着実に追い詰めている。
「大人しく傭兵に殺されていれば、こんな目には遭わなかったものを!」
「やっぱり、アンタ等の依頼だったのね!」
「ああ!貴様のような汚らわしい存在は、薄汚い傭兵に任せるのが一番だからな!!」
聖剣の猛攻を受けながらも、打ち明けられた真相にフォスキアは憤慨する。
モミザから示唆された可能性が的中した驚きより、関係の無い傭兵達まで巻き込んでいたのが腹立たしい。
「何よ!それ!」
何とか反撃に出フォスキアだったが、聖剣によって攻撃は阻まれる。
それでもかまわず、フォスキアは左腕一本で大剣を振り回す。
たとえ右肩の傷口が開こうとも、攻撃を続ける。
「ようするに、私の存在を表ざたにしたくないから、傭兵達を巻き込んだんでしょ!気高いエルフの国からホムンクルス作った奴が出ただけじゃなくて、そいつが悪魔と同化してるんだから、少しでもそんな噂が流れれば、長い年築き上げた崇高なエルフ像は崩壊するものね!」
「知ったような口をきくな!!」
「ウ!」
フォスキアの考察が図星であったかのように、アスガルドはゼロ距離で魔法を繰り出した。
寸前で大剣によってカバーしたが、爆炎に紛れてアスガルドは離脱した。
「ホーリーレイン!」
「ッ!」
上空からの声に反応したフォスキアが見上げた先には、大量の魔法陣が展開されていた。
しかも、フォスキア達悪魔に対しての特効属性。
展開しているのは、ユグドラシルを守る様に前に立つムスベルヘル。
王家の杖からの魔力供給とサポートを受けつつ、通常では考えられない量の魔法陣を作り出しているのだ。
「もう!」
空を埋め尽くすばかりの魔法陣を前に、フォスキアは回避行動を開始。
同時にホーリーレインの名の通り、雨の如く勢いと量で五寸釘程の大きさをした光の針が降り注ぐ。
弾丸を上回る速度と威力に加えて圧倒的な密度の攻撃だが、フォスキアは大剣も駆使しながら回避をする。
「あ!グ!(クソ、右肩が)」
しかし、無茶な動きで傷口が開きだす。
聖剣で刺された肩の再生は未だ阻害されており、電流の走った痛みが襲う。
痛みで動きを鈍らせたフォスキアは、大剣を右手に持ち替えて左腕を振り抜く。
「こんの!!」
腕が振り抜かれると共に、大量の羽毛がショットガンのように放たれた。
その羽たちは降り注ぐ光の針を相殺したが、当たらなかった分はフォスキアの身体を貫く。
刺さったのは数本でも、全身を焼かれるような痛みが襲う。
「ウ!」
「そこだ!」
「アッ!」
痺れるような激痛で怯む中、アスガルドは死角から聖剣を繰り出した。
その一撃によって、振り抜かれていたフォスキアの左腕は持っていかれる。
「あ、ああ」
「フン!」
「ッ!」
追撃の蹴りを腹部に受けたフォスキアは、力無く地上へと落下していく。
出血と激痛で意識を持っていかれそうになるが、首を振り回したフォスキアは無理矢理意識を回復させる。
「フン、ぐ!」
「まだ抵抗するか……」
空中で何とか姿勢を戻したフォスキアへ、ムスベルヘルの次の一手が繰り出されようとする。
自らの手が持つ杖を構え、フォスキアへと狙いを定める。
「先ずは、そっちから!」
攻撃が来る前に一手を繰り出そうと、痛みをこらえるフォスキアは大剣をムスベルヘル達の元へ向けた。
「サイクロン・ディスラプター!」
「……はぁ」
ため息を零すムスベルヘルへ、フォスキアは使用できる最強の魔法を放った。
変異によってノータイムで撃てるようになったその一撃は、まっすぐ二人へと向かう。
最近調子がいいという事も有り、その威力は前回放った物の三倍近く。
しかし、その攻撃は彼らに当たる事は無かった。
「ッ!そんな」
「確かに、それは最強クラスの風魔法だが、私の防御魔法の前には通用しない」
涼しい顔で展開された防御魔法に阻まれ、フォスキアの風は力なく崩壊してしまう。
魔法技術の差を見せつけられて動揺を見せるフォスキアを前に、ムスベルヘルは予め用意しておいた攻撃魔法を展開する。
「洗練に洗練を重ねた我が魔法、その身に刻め!」
「もう!」
再び光の針による攻撃が降り注ぎ、フォスキアは回避行動を再開。
逃げ回る彼女を見下しながら、ユグドラシルは杖を構える。
「苦戦するようなら、手を貸そう」
「そ、そんな、陛下のお手を煩わせる訳には」
「悪魔が二匹も居るのだ、たかが一匹に手こずっている場合ではない」
「……御意」
「ライトニング・ハウンド」
ユグドラシルの持つ杖より、無数の魔法陣が放出された。
魔法陣達は俊敏な動きでフォスキアへと向かい、四方八方へと展開される。
「しつこい!」
ユグドラシルの放った魔法陣は飛行する彼女を猟犬の如く追いかけ、あらゆる方向から電撃が繰り出される。
ムスベルヘルの攻撃だけで手一杯だというのに、更に攻撃を展開された事を疎ましく思いながら、フォスキアは次々と反応する。
「グ!ア!はぁ!はぁ!ッ!」
頭が理解する前に体が先に動き、反射的な動きだけで大量の魔法を回避し続ける。
しかし、それはフォスキア自身が思う以上の動き。
むしろ身体の方が付いて行けず、逆に回避行動で体を傷めかねない動きをとってしまう。
しぶとく逃げ回るフォスキアを前に、アスガルドは前へと出る。
「貴様は殺される運命にある!何故それを受け入れない!何故そこまで生きようとする!そんなに世界の平穏を踏みにじりたいか!」
「グッ!」
心にもない事を言われながら、フォスキアはアスガルドの一撃で吹き飛ばされた。
そんな彼女へ、上空の二人は追撃を開始する。
「痴れ者には、死有るのみ!ホーリー・ボム!」
「いい加減神の意向を受け入れよ!ライトニング・スピア!」
三人の完全なコンビネーションにより、逃げ場のない猛攻が始まる。
弱点属性の魔力が付近で爆発し、それを避ければユグドラシルの雷撃が襲い、二人の魔法の合間を縫ってユグドラシルが斬り掛かる。
そんな中であっても、フォスキアは反論を開始する。
「世界何て知らないわよ!こんな世界、どうなろうが知った事じゃないし、何かしようなんて考えても無い!全部アンタらの妄想よ!!」
「ふざけるな!貴様のせいでどれだけ我が国の民が死んだと思っている!?」
「だから、やったの私じゃなくて、他のクズ共よ!私は彼女達の依頼でそれを止めていただけよ!」
「何を言うかと思えば!そんな世迷言、誰が信じるか!この世界の崩壊こそが、貴様の求める事だろうに!!」
「ギッ!」
嵐のような猛攻の中でも、フォスキアはアスガルドと舌戦を繰り広げた。
攻撃は身体が勝手に避けてくれるような物だが、それでも彼女の身体は反射に追従しきれていない。
身体中に切創を作られながらも、言いたい事は有った。
「私が求めるのは、ただ一つだけよ!」
「何だ?それは!?」
「あの子の、リージアとの愛よ!!」
「何を言い出すと思えば!」
怒りを乗せた聖剣の一撃で、フォスキアが愛用してきた大剣は真っ二つに両断された。
その奥に居たフォスキアも巻き込まれ、上半身に大きな切創ができてしまう。
「ガハッ!!」
「貴様のような悪魔が、愛を語るか!浄化だ、浄化が必要だ!」
大量に血を吹き出すフォスキアに、次々聖剣が振り下ろして全身を滅多切りにしていく。
種族の象徴たる耳の一方を切り落として片目を潰すと、アスガルドは一度引く。
「セイント・ランス!」
「ッ」
退避したアスガルドの後方より、ムスベルヘルの魔法が繰り出された。
血で塗れた目で攻撃を認識したフォスキアだったが、回避しきれず右足は切断される。
「あ、ガ!」
「これで!」
完全に気動力を削がれたフォスキアを見て、アスガルドは聖剣に魔力を纏わせた。
数倍の大きさの大剣と化した剣を振るい、フォスキアへ向けて突き進む。
「終わりだ!」
「ガアアアア!!」
聖剣の切っ先はフォスキアの腹部へ突き刺さり、アスガルドと共にウロボロスの死骸へと激突。
全身が燃えるような痛みが襲い掛かり、腹の底から大量の血がフォスキアの口内へと昇り上げる。
「ゴハ!あ……」
「……貴様の生み出した物と共に、死にゆけ」
「……リー、ジア」
目に涙を浮かべたフォスキアだったが、アスガルドにそんな物は同情の余地もない。
リージアの名を呼ぶと共に聖剣は引き抜かれ、池ができる程溢れ出る血はウロボロスの身体を濡らす。
そんなフォスキアの姿を見たアスガルドは、聖剣にまとわせていた魔力を解く。
「終わったか、ッ!」
「……」
フォスキアの死に安堵したアスガルドは殺気に反応し、瞬時に後ろを振り向いた。
そこには目を見開くリージアがおり、無言の怒りを乗せた蹴りがアスガルドの顔面に炸裂。
彼の顔は半壊し、歯などのパーツをまき散らしながら吹き飛んでいく。
それを見届けたリージアは、上空に浮かぶユグドラシル達を睨む。
「次ぃぃ!」
「忘れものだ!」
攻撃を繰り出そうとした瞬間、死角から投げつけられたハルバードがリージアの横腹を裂いた。
「アガ!」
「貴様ァァァ!!」
ジャックによって返却されたハルバードの刃は、リージアの義体を砕く。
いつの間にか拘束を逃れ、回復魔法によって傷は塞がれていた。
その隙に傷を完治させたアスガルドにより、聖剣の一撃がリージアへ牙を向く。
「この痴れ者が!!」
「ガハ!」
「高貴な私の顔に傷をつけるとは!その罪!永久に焼却しようが消える事は無い!!」
聖剣の影響で怯む所へ、何度も何度も刃が襲い掛かる。
全身を滅多裂きにされた衝撃でハルバードは抜け落ち、身体は激痛で痺れる。
明らかに死なない程度に加減しつつ、その怒りをぶつけて来た。
「ッ、クッソオオオ!!」
「フン!」
僅かな隙をついて反撃の脚を繰り出したリージアだったが、破損した義体の動きはアスガルドから見て非常に緩慢な物。
反撃の一撃によって、その脚は斬り落とされてしまう。
その事実にショックを受けるリージアへ、アスガルドは手をかざす。
「ハッ!」
「ガハ!」
手から放たれた光の弾は、リージアの義体を焼く。
神聖な力の籠ったその一撃は、全身を煮え油に押し込まれたような痛みをもたらす。
落下しながらも翼を羽ばたかせたリージアは、フォスキアの上で静止する。
「あ、く」
「消え失せろ、悪魔共!!」
「ッ!」
「ホーリー・アロー!」
飛びそうな意識を何とか維持した所で、奥に居たムスベルヘルの魔法が放たれた。
回避しようにも、リージアの背後には瀕死のフォスキアが居る。
降り注ぐ大量の矢を前にリージアは腕を構え、攻撃に備えだす。
「ク、ウウ!」
腕より展開される偏光障壁によって魔法は阻まれ、二人は何とか守られる。
だが、この程度はムスベルヘル達も予想していた。
「ぬるい!」
「ッ!」
攻撃に気を取られるリージアの左右に、魔法陣が一つずつ発生。
そこから火球が放たれ、障壁が展開されていないがら空きの部分から義体を焼く。
一応は機械魔物と戦いを繰り広げていた事もあって、障壁の弱点は理解していたのだ。
「ガアア!」
「貴様も、これで終わりだ!」
全身が軽く融けだし、意識もはっきりせず、もう飛んでいられる力さえ無くなった所へ、アスガルドの一撃がリージアの胸部を斬り裂いた。
この一撃を受けたリージアは、力無くウロボロスの死骸へと落下。
変異していた身体も徐々に戻って行き、意識さえ遠のき出す。
「あ、ウ(痛い、そんなの通り越して、全身の感覚が無い)」
痺れる全身を引きずりながら、リージアはぼやける視界でフォスキアを捉えた。
ぎこちなく這いつくばり、血まみれで倒れるフォスキアの元へと近寄って行く。
義体の各所パーツは悲鳴を上げ、動く度に体からスパークが散る。
「フォス、キア(何で、何で何時もこうなるッ)」
歯を食いしばり、睨みをきかせた目に涙を浮かべだす。
これでは以前と同じだ。
生み出してほしいと頼んだ訳でも、こうなりたいと望んだ訳ではないのに、一方的に存在を否定され、未来を奪われる。
「フォ、スキア(自分でこうなる事を望んで、生まれた訳でもないのに、どうして、否定されなくちゃならない、殺されなくちゃいけない、どうして……)」
涙を零すリージアは意識を無くすフォスキアへとすり寄り、抱き着く。
まだ息は有るが、既に虫の息。
胸をナイフで裂かれるような痛みに襲われながら、リージアはすすり泣く。
「ウ、うぅ……フォスキア(この子が何をした?人助けで、汚名を晴らそうとしただけなのに)」
「これで世界は救われる、忌まわしき悪魔は、太陽神の加護を得た浄化の炎で消え失せる」
「フォスキア(憎しみに駆られてばかりの私なんかより、よっぽど、いい子なのに、私より、救われなきゃいけないのに)」
聞こえて来る演説に腹を立てながら、リージアは拳を握り締めた。
リージアがトラウマと眼前の事実で苦しむ中、ユグドラシルはバランスボール程の白い炎の球を作り出す。
「くや、しい……ウ」
「アーギオフォス!!」
「ウアアアア!」
むせび泣くリージアと意識を無くすフォスキアへ、太陽のような光の球が放たれた。
ただ光を浴びているだけなのに、全身を焼かれる痛みが襲い掛かる。
正に浄化の炎と呼ぶにふさわしい一撃を前に、リージア達は成す術もない。
着実に最期が迫る中で、リージアの頭に手が置かれる。
『もう、こんなに泣いちゃって、しょうがないな』
「……え?」
懐かしい声が耳の中で囁かれた気がしたリージアは、意識を手放してしまう。




