燃える花たち 後編
平原での戦いが開始された頃。
ライラック達が狙撃ポイントに選んだ丘は、イダヴェリルの攻撃で焼け野原となっていた。
「キャッハハハハ!首吹っ飛ばしまくってたからどんな奴かと思ったら、ザッコ!キャハハハ!」
複数の人形に守られる彼女は、焼け焦げた草と爆発で掘り返された土だけの光景に高笑う。
彼女の笑いに合わせ、小さな人形達もケタケタと笑い出す。
なんともホラーな光景を見せる彼女の耳に、複数の炸裂音が響き渡る。
「ッ!」
完全に彼女の意識の外からの攻撃であったが、成人サイズのフルアーマーの人形がそれを阻止。
保持する盾を用いて、死角より放たれた銃弾を弾いたのだ。
「チ、防がれたか」
イダヴェリルの死角に居たのは、駆け付けて来たモミザとスイセン達。
モミザの手にはライラックが持っていた筈の狙撃用ライフルが握られ、本人たちは三人によって守られている。
急いで救出しに来たが、ライラックの義体の左半身は融解し、ヴァーベナも両足を失うという重体だ。
不意打ちの狙撃も防がれた姿を見て、スイセンとサルビアはライフルを構えながら前へ出る。
「グレネード!!」
「ついでにこれも!」
「ザコどもが!」
スイセンとサルビアはいっそ爆発でまとめて吹き飛ばしてやろうと、ライフル下部に装備されているグレネードを射出。
更に肩部にマウントしたミサイルも放ち、イダヴェリルは人形諸共爆炎に巻き込まれる。
二人はグレネードを再装填し、煙の中をスキャンする。
「……生体反応有り、まだ終わって無いようです」
「チ、お前らはライラック達と下がれ、あのメスガキは俺が片付ける」
「その方が、良さそうだね」
「そうですね、お願いします」
爆炎の中に生体反応を見つけたモミザはライフルを捨て、愛用の薙刀に持ち替える。
彼女に任せた方が良いと判断した二人は下がり、ライラック達の応急処置に専念しだす。
そう言った陣形に持ち込んだ辺りで、爆炎は人形によってかき消される。
「このクソザコ共が!アタシの可愛いお人形ちゃんに何て事しやがる!!」
「その人形が可愛い?全部ホラーにしか見えないんだが」
黙って薙刀を構えるモミザは、イダヴェリルの周囲を漂う人形たちに目をやる。
成人サイズで全身に鎧をまとう騎士のような外観の人形は、爆風で兜が取れて露わになった顔はゾンビのように枯れ果てた物。
特に数が多いのは、両手を重ねたかのように指が六本ある腕。
残りは全て人間を六分の一スケールにしたかのような人形達だが、背中からナイフやらを生やせるなど魔改造が施され、顔もかなり崩れている。
いずれもホラー映画にでも出てきそうな外観で、とても可愛いと思えるデザインではない。
「(確か、類まれな人形使いとしての能力を買われて、他の候補押しのけて史上最年少で家督を手に入れたらしいな)」
人形への文句を垂れながら、モミザはフォスキアから聞いたイダヴェリルの情報を思い出した。
かなり魔法の腕が立つようなので、警戒するに越した事は無い。
「うるっせぇ!テメェみたいなザコに、この子達の可愛さがわかるかよ!!」
「(どういうカラクリで浮いてるか知らんが、今ので戦い方は把握できた)」
「テメェら全員、絶対にぶち殺してやる!!」
「やれるもんならやってみろ!このメスガキが!!」
薙刀を軽く振り回したモミザは、瞬時にイダヴェリルとの距離を詰める。
見たところでは、彼女の戦い方は全方位からのオールレンジ攻撃による物。
その戦い方であれば、彼女のよく知る所だ。
「近いてんじゃねぇ!!」
「知るか!」
小さな人形や腕から放たれる火球や電撃を回避しつつ、一部は薙刀で切り伏せる。
そうしてどんどん接近して行くが、途中で騎士型の剣によって阻まれてしまう。
「邪魔だ!」
「やれ!」
距離を取りながら何かを操作するように指と腕を動かすと、騎士型人形と切り結ぶモミザへ向けて大多数の人形たちが包囲。
全方位から魔法攻撃が開始されるが、読んでいたモミザは左拳を力いっぱい握り締める。
騎士型人形の攻撃をいなしつつ、過電圧でスパークの走る拳を人形に振るう。
「ウヲォラァァ!!」
「させるか!」
向かってくる拳を前にして、イダヴェリルは腕を勢いよく突き出した。
彼女の動きに少し遅れる形で、騎士型は盾を使ってモミザへと攻撃を開始。
騎士型とモミザの拳同士がぶつかり合い、甲高い音と共に衝撃波がまき散らされる。
「チ(なんだコイツ、バカみたいに硬てぇ)」
「キャハハ!そんなザコパンチがこの子に通じる訳、ないでしょ!!」
更に両腕を振り回したイダヴェリルの動きに合わせて騎士型は下がり、周囲のコマかい人形たちが魔法を繰り出す。
着弾する前に動いたモミザは、下がるのではなく、更に騎士型へと接近する。
「(この手の攻撃をする奴は、大体接近すれば良い!下手したら自滅の危険が有るからな!)」
モミザの脳裏に浮かぶのは、姉妹のナンバー2ロータスの姿。
彼女はホスタの使うドローン兵器の雛形となったドローンを二十機以上扱う戦法を取っており、全方位からの攻撃を回避する訓練も担当していた。
彼女の場合近づいて来た相手はナイフで切り捨てていたが、それでも接近による攻撃は有効と言う事は織り込んでいる。
「(どうやら人形であっても、多少は仲間意識が有るみたいだな)」
思った通り、騎士型の近くは周りの人形たちの射線から外れている。
だがイダヴェリル本人に近づこうにも、騎士型が邪魔をしてくる。
しかもその騎士型はやたらと強く、モミザの繰り出す薙刀は全て防がれてしまっていた。
「キャハハ!その子に勝てると思ってんの!?」
「うるっせぇんだよ!」
「一人でそれじゃ、他の子達も倒せないよ!」
「あ!?」
騎士型と切り結んでいると、土の中より騎士型の別個体が三体出現。
囲まれたモミザは、振り下ろされて来る魔力の籠った武器を回避する。
「キャハハ!それじゃ、面白いショーを見せてね!」
「クソ!」
後方で高笑うイダヴェリルは、更に出現した二体の大盾を持った騎士型に守られながら高みの見物を始めた。
彼女に腹を立てながらも、モミザは迫りくる四体の騎士型の内一体へ薙刀の刃を突き立てた。
「無駄に硬いんだよ!!」
強めに突き刺したつもりだったが、刃は騎士型の持つ盾によって防ぎ止められた。
その攻撃を皮切りに、四体の騎士型人形たちは攻撃を開始。
ずば抜けている連携は正に一糸乱れぬ戦いと呼べる物で、モミザは少し押されてしまう。
「へ~、やるじゃん、ザコのクセに」
「ザコザコうるっせぇんだよクソガキが!」
「キャハハハ!そんなに元気なら、もっとやってやろうか!」
ふんぞり返りながら笑うイダヴェリルは、両手の指をクネクネと動かせる。
すると薙刀を振り回しているモミザへ、細かい人形たちの攻撃が四方八方から襲い掛かる。
「(クソ!ふざけんじゃねぇぞ!)」
目まぐるしく繰り広げられる激戦に、もう頭の回転が身体に付いて行かなくなり、何度か身体の一部に傷をつけられてしまう。
どんどん劣勢に追いやられる状況に、表情を曇らせてしまう。
「(クソ、流石にこれだと、俺でも)」
『こちらスイセン!二人の応急手当を完了!』
『このクソガキが!さっきはよくもやってくれたな!』
「ッ!」
押されている状況の中でスイセンからの無線が入り、一部の人形達に銃弾が撃ち込まれた。
どうやら先ほど吹き飛ばされた二人の応急処置が完了し、援護射撃を開始したようだ。
補給で手に入れた飛行ユニットの機動力を活かし、全方位から機関銃やミサイルによる弾幕射撃を人形達へ降り注いでいる。
『援護します!貴女は騎士型を!』
「頼むぜ!」
「ザコ共が、邪魔してんじゃねぇよ!」
一部の人形は防御魔法を展開し、スイセン達の攻撃を防ぎ止めつつ反撃を繰り出す。
おかげでモミザの負担は軽減され、騎士型の戦いに集中する事ができるようになった。
「人形共ぶっ壊したら、次はテメェだからな!クソガキ!」
「ああん!やれるものならやってみやがれ!クソザコがよぉ!」
暴言を吐き合った事で、二人はヒートアップ。
ふんぞり返っていたイダヴェリルは立ち上がって攻撃頻度を高めだし、モミザも久しぶりに最大稼働を使用する。
――――――
その頃。
アーマードパックを着用した部隊は、平原で巨大な岩の化け物となったヴァナヘルムとの交戦を続けていた。
彼女達より遥かに巨大な体格を持つヴァナヘルムは、その巨体のリーチと岩魔法によってフォスキアの救援を妨害している。
「邪魔するな岩男!」
「貴方に構ってる暇は無いんですよ!!」
『悪いな!不本意だが、命令通りお前らを消さなきゃ俺が消されちまうんだよ!!』
現在モミザが相手しているイダヴェリルと彼以外の貴族は、全てフォスキアへと向かっている。
彼らの猛攻に晒されるフォスキアを救援に向かいたいのだが、リージアも急に現れた傭兵に足止めされ、ゼフィランサス達をこうして行く手を阻まれてしまっている。
「もう、面白くない事しないでちょぉだい!」
早くフォスキアの方へ向かおうとするヘリコニアは、ヴァナヘルムの岩肌へとチェーンソーを突き立てた。
甲高い金属音が響き渡り、とてつもない衝撃が左腕へと襲い掛かる。
「な、何よこれ、ただの岩じゃ」
『ご明察だ!』
「ッ!キャァァ!!」
ヘリコニアの攻撃は文字通り歯が立たず、反撃によってチェーンソーは左腕ごと破壊されてしまう。
メタルリザードのウロコで作った強靭な刃と、近接武器として頑丈に作った本体は粉々に砕け散った。
おかげで分かったのは、ヴァナヘルムの身体を覆っている岩はただの岩ではないという事だ。
「クソ、カバーしろ!!」
吹き飛ばされたヘリコニアをカバーするように、周囲の隊員達は砲撃を開始。
ミサイルやエーテル弾が撃ち込まれ、ヴァナヘルムは爆炎に包まれていく。
その隙にベゴニアがヘリコニアの機体を確保したのは良いが、結果は芳しくなかった。
「無傷だと!?」
「あれだけ撃ったのに!」
『当然だ!』
「ウワ!」
爆炎をかき分けて反撃してきたのは、無傷の岩肌を持つヴァナヘルム。
振り抜かれた腕を回避したゼフィランサスは、彼を睨みつけながら指示を下す。
「諦めるな、攻撃再開!ありったけ撃ちこめ!」
ゼフィランサスに鼓舞され、ヴァナヘルムの周囲から一斉に砲撃を開始。
上空のストリクス三機と、復帰したヘリコニアも加えた地上のエレファント二機による飽和攻撃。
岩でできた巨体の各所で爆発や火花が散り、嵐のような轟音が響き渡る。
「やっぱり、ただの岩じゃないわぁ!」
「そんなの見りゃ解るわよ!」
「(そう言えばアイツ、何か鉱山の管理とか任されてるみたいな事、エルフィリアが言ってたな」
『ケ!解ったらな、無駄なあがきは止める事だ!』
全く攻撃を受け付けないヴァナヘルムは、アーマードパック五機の攻撃を受けながら巨大な岩の両手で地面を殴る。
すると地鳴りが起こり、地面から巨大な岩達が天高くせり出してくる。
「クソ!魔法か!」
『ガハハハ!精々逃げ惑いやがれ!』
上空に居るホスタ達さえ捉えかねない速さでせり出す岩魔法により、辺りは剣山のようになってしまう。
地上に居るヘリコニア達は足を取られながらも回避する様を高笑うヴァナヘルムは、今度は拳同士をぶつける。
『お次はコイツだ!』
ぶつかり合った拳の間から火花が散ると共に、せり出て来た岩達は爆散。
全方位に放たれた散弾銃のように、地上も空中も岩の破片が襲い掛かりだす。
「な、何ですか!?」
「こんなの反則じゃない!」
「もう!ズルよ!ズル!」
「言ってる場合か!グアアア!」
「クソォォォ!」
爆散した破片にさらされた彼女達は、全員被弾してしまう。
損傷こそ大した事無いが、それでも装備の喪失や駆動系の異常が出る。
周囲から悲鳴が響き渡る中で、ゼフィランサスは損傷したライフルを放棄する。
「チッ、調子に、乗るなァァァ!」
ライフルを捨てたゼフィランサスは、背中にマウントしていた大剣を保持。
背中のウイングユニットの出力を最大にし、雄叫びを上げながらヴァナヘルムへと接近して行く。
「こいつなら!」
『ケ、良い度胸だな!』
間合いを詰めて行くゼフィランサスに、ヴァナヘルムの魔法が襲い掛かる。
ストリクスと同サイズの岩が砲弾のように繰り出され、岩の壁が生成させて進路を妨害。
全て回避しながら接近するゼフィランサスは、大剣に大量のエーテルを流し込む。
「くらいやがれ!!」
何とか懐に入ったゼフィランサスは、両手に握り締める大剣を振り下ろす。
「ッ!?」
甲高い音を立てながら火花を散らすが、その岩肌には全く傷をつけられなかった。
機動性を確保する為にかなりの軽量化が施されているとは言え、その重さは戦車を超えている。
その機体重量をウイングユニットの加速に乗せた一撃だったが、それでもゼフィランサスは立て続けに攻撃を行う。
「この!野郎!」
『ケ!こそばゆいんだよ!』
「グ!」
放たれた岩の拳をスレスレで回避したゼフィランサスは、更に斬撃を繰り出す。
エーテルのほとんどを機体の駆動系へ回し、何度も刃を振るっても全くと言っていい程手応えが無い。
それどころか、大剣の方がダメージを受けているような感触がゼフィランサスの腕に伝わる。
その猛攻の隙を突き、ヴァナヘルムは大剣を鷲掴みにする。
「バカな!!」
『ナマクラが!』
「ッ!」
握力によって大剣は握り潰された事に目を見開くゼフィランサスを見たヴァナヘルムは、もう片方の拳を力一杯に握り締める。
『そろそろくたばれ!』
「ウ、グハッ!!」
「少尉!」
岩の拳による鋭い一撃が繰り出され、防御体勢となったゼフィランサスは大きく殴り飛ばされた。
両腕のパーツの残骸をまき散らしながら地上へ激突し、地面を大きく削って行く。
「よくも!」
「やってくれたわね!」
行動不能になったゼフィランサスを見たホスタとサイサリスの二名は、自分の持つ最高火力の攻撃を準備する。
ホスタはレールガンとライフルの二丁を連結させ、限界まで電力を回す。
サイサリスは全ての砲門を展開してエーテルを圧縮し、全ての増加装甲を展開させてミサイルを露出させる。
「これで決める!」
「終わりなさい!」
『無駄って言ってんだろうが!』
二人の叫びと共に放たれた砲撃は、順次ヴァナヘルムへと着弾していく。
最初にサイサリスのエーテルが着弾し、その次にホスタのレールガンが衝突、最後にダメ押しのミサイルが降り注ぐ。
爆炎に包み込まれたヴァナヘルムだったが、すぐに二人は顔を青ざめる事となる。
「……そんな」
「これだけやっても倒れないなんて」
『ガッハハハハ!!無駄なんだよ!何をやっても!!』
「(こうなったら、母艦からの艦砲射撃で)」
爆炎から無傷の状態で出て来たヴァナヘルムは、驚愕する彼女達をあざ笑うように岩肌を見せつける。
今の攻撃が通じないとなれば後はもう艦砲射撃しかないと考えたホスタは、母艦へ連絡を取ろうとする。
「……クソ、あの変なフィールドのせいで、母艦に連絡が届かない」
『どうした?万策尽きたか?なら、せめて教えてやろうか?何で貴様らの攻撃が通じないのか』
「……あの野郎、余裕見せやがって」
しかし、ユグドラシルの形成したフィールドのせいで通信は遮断されていた。
おかげで艦砲射撃も期待できなくなったが、余裕を見せるヴァナヘルムは説明を始める。
『生憎、俺の周りに有るのは、ウチが先祖代々守り続けて来た鉱山で採取できるオリハルコン鉱石だ、魔力を込めれば込める程、際限無く強度を増すのさ』
「……そんな事すれば、貴方も無事では済まない筈」
『ああ、だからこその王家の杖だ、ここでは今まで国民から徴収した魔力をあの王様が味方と認識している奴へと供給している、更に悪い事に、超強力な治癒魔法もかけれている、俺達を殺したければ、完全に消滅させる位の事はしないとな』
「……長ったらしく演説してますけど、何が言いたいんですか?」
「へ、要するにだ」
少しイラ立つホスタを前に、ヴァナヘルムはオリハルコンの中で嫌味な笑みを浮かべた。
ここに居るエルフ達の体力は無限に等しく、更には治癒魔法も永延とかけ続けられている。
そんな状況を伝えつつ、結論をホスタ達へ突きつける。
『テメェらが俺達に勝てる可能性は、ゼロって事だ!!』
「……ぶっ殺す!」
煽られたホスタは、他のメンバーを差し置いて一人でヴァナヘルムへと駆けだす。




