燃える花たち 前編
ミサイルが着弾したその頃。
ガンシップ内にて。
「なんの音だ!?」
「本陣の方だぞ、一体何が」
「まさか、こいつ等以外に仲間が居たのか?」
「だがあり得ないぞ、魔力も何も感じなかった」
リージア達の監視を行っていたエルフ三名は、着弾の爆発に動揺していた。
しかし、それは彼らにとってあり得ない事。
生物が行動する際に必ず有る魔力の反応を感知するようダンジョンが形成されているというのに、全く何も感じなかったのだ。
困惑するエルフ三人の前で、リージアは立ち上がる。
「……フォスキア」
哀れみの込められたリージアの目が捉えるのは、変異して空へと飛びあがったフォスキア。
無線越しに聞こえて来た彼女の正体を思い出しながら、リージアは胸に手を当てる。
「貴女も、私達と同じ、造られた存在……私達の、同類」
「き、貴様!勝手に動くな!」
剣を引き抜いたエルフ何て全く気にも留めず、リージアは身体の節々を軽く動かす。
ダンジョンコアが破壊された事で、義体へのエーテル供給が再開。
徐々に正常な出力を取り戻し、関節も滑らかさを取り戻す。
「行ける」
「おい、聞いて」
エルフの接近に気付いたリージアは瞬時にリボルバーを引き抜き、発砲した。
一瞬にして三発の弾丸が発射され、撃ちこまれたエルフは被弾箇所から出血させながら倒れ込む。
「な、何をしやがった!」
「こうした!」
一人の無力化を確認したリージアは、もう一人にも鉛玉をおみまいした。
銃弾は脳幹部を貫き、撃たれたエルフは綺麗に倒れ込む。
飛び散る鮮血を横目に、リージアは残ったエルフの額に銃口を突きつける。
「ヒ!」
「ラスト」
「ま、まt」
何か言い出す前に、リージアは迷いなく引き金を引いた。
もう彼らの交渉さえ聞くつもりもない、と言わんばかりだ。
「……リージア」
同じく機能が正常に戻ったモミザも、拳銃の弾丸を確認しながらリージアの方へ視線を向けた。
その顔はリージア同様に吹っ切れており、指示を待ちかねる猟犬の如く眼光だ。
「モミザ、私はフォスキアの元に向かう、貴女は補給と飛行ユニットを持ってスイセン達を拾って」
「了解だが、補給まで必要か?」
「……念のためね」
「分かった」
「ヘリコニア、ベゴニア、貴女達はフォスキアの援護、装備は持てるだけ持って」
『は~い』
『了解した』
リロードを行いながら指示を下したリージアは、急ぎ足でガンシップから出て行く。
彼女に続き、モミザも行動を開始する。
――――――
その頃。
ミサイルの雨から逃れるために空へ上がったフォスキアは、立ち上る爆炎から距離を取っていた。
両腕を軽く羽ばたかせ、羽を数枚程散らしながら移動していくが、僅かな距離で限界を迎える。
「ウ、あの、クソ侯爵……」
未だ激痛はしる右肩を抑えるフォスキアは、耐え切れずに着陸して片膝をついてしまう。
雑兵や手枷でつけられた傷は回復したが、聖剣でつけられた傷は回復していない。
アンジェラ達の魔除けとは異なり、彼の剣は正真正銘対魔の武器。
再生能力は阻害され、体力も血と共に流れ落ちる気分だが、耳に入り込む地鳴りの音のせいで休む気になれない。
「……でも、ここで、立ち止まってる場合じゃないわよね」
「怯むな!ここで悪魔を仕留められなければ、陛下に顔見せ出来ぬ!」
『ウヲオオオ!!』
大地と空気を振動させるのは、生き残った公国軍の面々。
貴族や王様が爆炎に包まれようが、残った将校たちは軍旗を掲げてフォスキアへと軍配を振るった。
その士気に圧倒されかけながらも、フォスキアは立ち上がる。
「生きてやる、あの子が、それを望む限り、私は、あの子達と言う、巣に」
変異した左腕を構え、力無くぶら下がる右腕を隠しつつ、迫りくる軍勢を睨みつけた。
数は一万を超えており、騎兵を前線に置きつつ後方の歩兵達が迫りくる。
更に後方からの弓と魔法の攻撃が降り注いでおり、フォスキア一人に典型的な攻め方をしようしている。
「チ!」
雨のように降り注ぐ矢と魔法を風魔法で弾き飛ばしたフォスキアは、軍機を掲げながら騎乗する将校を睨んだ。
前方は魔力による障壁が張られているが、今のフォスキアであれば破れない物ではない。
掌に魔法陣を生成し、狙いを定める。
「先ずは」
「進め!進め!すす」
「あ」
フォスキアの狙っていた指揮官は、一発の炸裂音と共に首から上がお見せできない事に成った。
持っていた旗も折れ、乗っていたロードバードだけが走る。
「な、何だ!?」
「し、指揮官殿が!」
「クソ!悪魔め!」
指揮官死亡の混乱によって一部の部隊の進行は止まるが、残りは怯む事無く進んで来る。
しかし、構えるフォスキアに近づく前に前線の部隊は次々と倒れ、中には爆発で吹き飛ぶ者も居る。
倒れる兵士達の共通点は、いずれも大量の細い穴を身体に空けているという事。
そう言った兵士達はスイセン達の射撃や、グレネードによる砲撃で倒されている。
場所的にリニアライフルの射程ギリギリだが、それでもフォスキアには一発も当てていない。
「チクショウ!まただ!一体どこから、ギャアア!」
「おのれ!妙な魔法をつかいやがって、ヌア!」
「まただ!何が起きて、ウワアアア!」
「さ、流石ね」
次々と敵兵の頭を撃ち抜くのは、丘に陣取っているライラック。
彼女の持っている対物ライフルにも、エーテルを用いた強化弾が装填されている。
おかげで彼らの展開している魔力障壁は勿論、一発で数人まとめて貫いている。
『ボーっとするな!援護するからさっさと下がれ!』
『まともに交戦する予定は無かったので、あまり弾が無いんですよ!』
「あ、ごめんなさい!」
彼女達の腕前に感心しているとお叱りを受けてしまい、さっさと移動を開始。
もちろん向かっているのは、リージア達の待っているガンシップ。
フォスキアの居場所とも言える所へ走っていると、無線機よりヴァーベナの声が入り込む。
『エルフィリアさん!あんな人達の言う事、真に受けないでください!私や隊長は勿論ですが、他の皆さんも、貴女の味方です!』
「……ヴァーベナ」
無線からはヴァーベナの声以外にも、リニアライフルの発砲音が響いている。
医者である故に、人殺しに誰より抵抗の有る彼女であっても射撃を行っている。
その事実に涙ぐむフォスキアだったが、更に別の回線からの声が入り込む。
『ええ、彼女の言う通りですよ!』
通信機から聞こえて来たホスタの声と共に、フォスキアの背後で爆発が引きおこる。
一緒に耳に入り込む独特な飛行音と絶え間のない砲撃音は、ストリクス達の物だ。
フィールドが崩壊した事で、すぐさま駆けつけて来たのだろう。
「ホスタ!」
『あらぁ、私もいるわよ~!』
『耳塞いでな!』
更なる通信を聞いたフォスキアは、すぐに耳を塞ぐ。
視界に入り込んだのは、出撃してきた四脚型のアーマードパック。
ヘリコニアとベゴニアの駆るこの二機の対地制圧能力を活かし、次々と重火砲による砲撃を開始。
ストリクス隊との波状攻撃によって、公国軍は次々と消し炭になっていく。
「……みんな」
同胞たちが吹き飛ぶ姿への嫌悪感より、正体を無線越しに聞いていた筈の彼女達は変わらず味方をしている。
その事に涙を流していると、フォスキアの肩に誰かが手を置く。
「言ったでしょ、アイツ等がどんなに貴女を否定しても、私は貴女を否定しない、他の娘たちもそうだよ」
「……ありがとう」
顔を上げると、変異したリージアが視界に入り込んだ。
柔らかな笑みを浮かべる彼女は、ヘリコニア達を引き連れてフォスキアの警護に移る。
『で?ここからどうするんだい?』
『まだしぶとく生きてる人が居るわよ~』
『隊長、ご指示を』
二人を挟むように立つヘリコニア達は、砲弾の再装填を開始。
やる気に満ちた動作をしていると、ホスタ達もリージア達の頭上に到着。
ヘリコニアの言う通り、残存する兵力に今すぐにでも襲い掛かろうとしている。
そんな彼女達を認識しながら、リージアは指示を下す。
「……撤収する」
「え」
『良いんですか?』
「私達の目的はアイツ等に取られたし、フォスキアも助けられた、それに、これ以上面倒になるのは避けたい」
目標であったウロボロスは既にエルフ達の手によって葬られているので、ここに居る意味もない。
だが先ほどから妙な胸騒ぎがする為、リージアは撤収を決断した。
「ライラック、スイセン、もうじきモミザ達がそっちに行くから、彼女達に拾ってもらって」
『了解、撤収する』
「皆、さっさと戻るよ、母艦に戻った後、空爆でこの辺り一体を吹き飛ばして証拠を隠滅する」
『了解』
「フォスキア、飛べる?」
「ええ、でも、ちょっと手を貸して」
「はいはい、ちょっと、応急処置するよ」
隊員達に撤収の命令を下したリージアは、手負いのフォスキアに応急処置を開始。
止血用の吸着パットを傷口へ押し当て、その上に包帯を巻いて行く。
その後で彼女の事を担ぎ上げ、撤収の用意を済ませる。
変異状態であれば、少女一人を担いで母艦まで撤収する事は容易い。
『こちらスイセン、飛行ユニットの受領と換装作業を完了、これよりライラック達を回収します』
「はいは~い、お願いね~」
『た、隊長!想定外の事態が……』
「ヴァーベナ!?」
モミザからの通達の後、突如ヴァーベナからの通信が入った。
その通信は丘の方で響いた爆炎と共に切断され、砂嵐のような雑音しか聞こえなくなってしまう。
――――――
数分前。
『ライラック、スイセン、もうじきモミザ達がそっちに行くから、彼女達に拾ってもらって』
「了解、撤収する」
「ふぅ」
リージアからの無線を受けた二人は、構えていた銃器を下ろした。
特にヴァーベナは、もう戦闘が無いという事に安堵。
一先ずモミザ達が来るまでの間待機しつつ、周辺の警戒を行う。
「残党も散り散り、傭兵共も動き無し、か」
「できれば、これ以上戦闘が無い事を期待したいです」
「全くだ、残弾一発だけってのもあるが、お前もこれ以上人を殺したくないだろ?」
「……はい」
医療型であるヴァーベナだが、衛生兵である以上銃を持つことはある。
それでも医療で人を助ける事を心情とする彼女にとっては、人を撃つ事に抵抗がある。
もう戦闘が行われないというだけで、かなり肩の荷はかなり下りた。
伏せた状態から腰を落とした姿勢に変えると、二人に影が落ちる。
「ん?モミザ、か……」
「キャハハハ!何か変だと思ったら、お芋さんみたいに隠れてる奴はっけ~ん!」
「ッ!」
モミザが到着したのかと思って見上げた空には、ツインテールを揺らすエルフの少女が大小様々な複数の人形たち浮かんでいた。
ゴスロリ風と形容できるドレスのスカートをなびかせ、二人の事を見下した目を向けている。
先ほどアスガルドと共にフォスキアを囲っていた貴族の一人、ミーナ・ル・イダヴェリルだ。
「クソ!」
姿こそ見えていなかったが、フォスキアに仕込んだ無線から聞こえて来た声と一致している。
その事に気付いたライラックはすぐに自分のリニアライフルと共に、ヴァーベナのライフルを構える。
「キャハ!遅いよ!」
戦闘態勢に入ったライラックよりも早く、イダヴェリルは片腕を振り抜く。
その瞬間、盾を持った大人の人形が彼女の前に立ち、腕だけの人形の手は二人へとその手をかざす。
間髪入れずにライラックは両手に持っている銃器の引き金をひき、弾幕斉射を開始。
応戦するライラックの横で、ヴァーベナはリージアへと救援の無線を繋げる。
「隊長!」
しかし、一歩早くイダヴェリルの攻撃が開始。
攻撃を行ったのは、左右の手を重ねたように六本の指を持つ手。
手の平に刻まれた魔法陣に魔力が流し込まれ、浮いている十五本すべての腕から火球が放たれた。
「想定外の事態が」
しかし、セリフの途中で火球は着弾。
二人は爆炎に包まれる事となった。
――――――
場所は戻り、リージア達の居る平原。
撤収の準備を進めていた彼女達だったが、ヴァーベナからの緊急通信が来たせいで撤収を中止した。
「モミザ、ちょっと急いで、マズイ事になってるかも」
『……』
モミザに連絡を入れたのは良いが、何故か彼女の方の無線も砂嵐がかかっている。
完全な緊急事態と判断し、リージアはハルバードを構える。
「各員、戦闘準備、マスターアームオン」
『クソ、対艦ミサイル三十発も撃ちこんだってのに、まだ生きていたか』
『この反応、地中から来るよ!』
索敵を行っていたベゴニアの言う通り、地中から何かが接近している事を現すように、強い地鳴りが発生。
揺れはどんどん強く成り、やがてリージア達からそう遠くない場所の地面が盛り上がる。
「しぶとい奴らだ」
地中をぶち破って来たのは、巨大な岩の塊と言える化け物。
その化け物の中から他の貴族達とユグドラシルが現れ、不満そうに地面に足を付ける。
「クソ、貴様に借りを作る事になるとはな」
『感謝しろよ、ま、あのメスガキは一人で逃げたみたいだけどな』
「アイツめ、後で不敬罪をくれてやる」
「よい、此度は、あの悪魔とその一味さえ消せれば、如何なる無礼も不問としよう」
「陛下……何と寛大なお心」
ユグドラシル達を救ったのは、得意の土魔法で地下へ避難したヴァナヘルム。
彼に助けられた貴族の面々はかなり不満そうにしているが、最前列に立った王様だけは不満も無くフォスキアだけを睨む。
杖を力いっぱい握り締めるユグドラシルは、憎悪の籠った目をしながら杖を地面へ突き刺す。
「まさか二匹目の悪魔が居るとは……もはや、情け無用!王家の杖・フェストゥン!!」
ユグドラシルの叫びと共に杖に込められていた魔力は解放され、地面を伝って広範囲に魔力が展開されていく。
突き立てられた杖を中心に、周辺から巨大な塔が複数形成される。
「な、何!?」
「この力、噂は本当だったの?」
フォスキアの口から出て来た意味深な言葉と共に、地面からせり上がった巨大な塔は先端に魔法陣を形成し、ドーム状のフィールドが生成される。
「エルフィリア、何だ?これは」
「……先祖代々王家が受け継いできた杖の力よ、確か、王族しか使えない代わりに、保有できる魔力は無限で、国民から税として魔力を収集して、有事の際は戦略兵器として用いられる物だけど……力を使った所は初めて見たからどんな力なのか知らないけど、明らかに私達にとって良い状況ではないでしょうね」
「そんな便利な物有るなら最初から使えばいいのに」
「敵から魔力を頂戴できるダンジョンコアと違って、こっちは国民の血税よ、優先順位はダンジョンコアの方に有るわ」
「そう言う事ね」
フォスキアの持っている情報にも存在しない敵の兵器を前に、全員は完全に戦闘態勢に入った。
どんな事になるか解らない状況だが、一つだけわかる事は有る。
それを実行するべく、リージアは持って来たフォスキアの大剣を地面に突き刺す。
「リージア?」
「王族しか使えない、という事は」
ハルバードを構えたリージアは足に力を込め、地面が崩壊するレベルで蹴り飛ばした。
初速から音速を突き破り、一気にユグドラシルの首目掛けて距離を詰める。
妙な事をされる前に、唯一使用できるという彼を倒す魂胆だ。
「死ね!」
「そうは行かないぞ!」
「ッ!」
後数歩と言う所でリージアのハルバードと進行は防がれ、突然出現した何者かと鍔迫り合い状態となってしまう。
「急に誰だ!?」
「よく聞いてくれたな、俺は」
「男の名前とか知るか!」
赤い長剣を保持する青年は黒いコートをなびかせながら名乗ろうとするが、その隙に死角からリージアの蹴りが炸裂。
青年のアゴ目掛けて放たれたが、つま先が喉元にさしかかると共に後ろへとのけぞりながら飛び上がった。
「チ」
「折角名乗ろうとしてる所に蹴り入れんなよな」
「そ、それはゴメンね、あ、それとアンタ……」
「ッ」
不意打ちに謝りながらも、リージアはもう一度不意打ちで青年の顔面目掛けて蹴りを放った。
その不意打ちさえ回避されてしまい、リージアは本格的に構える。
「(コイツ、できるな)」
「無礼な奴だな、全く」
『リージア気を付けて!ソイツは、世界で唯一のプラチナッ!』
「フォスキア!」
フォスキアからの通信で誰なのか判明しかけたが、彼女や他の隊員達も話す余裕がなくなってしまっていた。
貴族たちの攻撃でフォスキアは隊員達と分断され、ユグドラシル、アスガルド、ムスベルヘルの三人にリンチされている。
他の隊員達は岩の化け物となったヴァナヘルムに足止めされ、苦戦を強いられてしまっている。
ライラック達がいた丘でも度々爆発が起きており、戦闘態勢である事を暗示している。
もうリージア一人では収拾がつかない状況となった事で、目の前の青年は長剣を弄りながら名乗りだす。
「と言う訳だ、折角だから改めて名乗らせてもらうぞ、俺の名はジャック、プラチナランクの傭兵だ」
「……そうか、ならさっさと死んで、そこを退けッ!!」
ハルバードを振り抜いたリージアは、ジャックとの戦闘を開始する。




