茶番の開廷 後編
ライラック達が配置に付いた頃。
彼女達とは別ルートで行動を開始していたスイセンとサルビアは、レーザー誘導装置の射程距離へと入り込んでいた。
姿勢を低くするスイセンはライフルを構え、周辺の安全を確認する。
『……クリア』
『了解』
無線で安全を報告されたサルビアは、背負って来た追加パーツを展開しつつ、視覚センサーの感度を上げて目標を視認する。
目標であるトーテムことダンジョンコアは、敵の本陣の真上に展開している。
下手をすればフォスキアも巻き込む事に成るが、それは彼女も承知の上だ。
『こちらサルビア、攻撃目標を確認、これより母艦へデータ送信を開始する』
ライフル側面に取りつけておいたレーザー誘導装置を起動させ、ターゲットをマークする。
使用されているレーザーは彼女達の視覚では可視化されているが、人間の目には見えない特別製。
おかげで、目標の真下に居るエルフ達に気付かれる事は無い。
『……こちらレーニア、座標データをロード中、引き続きターゲットをマークしてくれ』
『了解、データ送信を継続する』
レーニアとコンタクトをとったサルビアは、引き続きレーザー照射を継続。
追加で背負っていた通信装置を介し、徐々にダンジョンコアの正確な位置情報が送信されていく。
『相変わらずの手際ですね』
『基本僕の役割こんな感じだからね』
サルビアはレーニア達IS型並みとはいかずとも、こう言った機械には強い。
型はリージア達と同様CA型であるが、前線へ出てコンピューター関連の担当する事もある。
時には最前線で空軍や海軍からの支援を誘導する事も有るので、こう言った状況は慣れっこだ。
『さて、後はどれ位時間を確保できるか、だね』
データ送信を続けるサルビアは、自身の視界の隅に表示されたメーターに目を移した。
送信の進捗状況を数値化した物が表示されており、徐々に百パーセントへ向かっている。
「(何時も思うけど、こういう時は送信時間がやたら長く感じる)」
間に合わなければどうなるか解らない、そんな緊張感に襲われるサルビアの横で、スイセンは難しい顔をしていた。
『……しかし、解せませんね』
『何が?』
『彼らにとってエルフィリアさんは、刺客を差し向けてでも殺したい対象の筈、わざわざ捕まえる道理は有りません、こんな回りくどい事せず、ガンシップごと撃ち落とす事も可能だった筈』
『……なんか有るって事?』
『恐らく』
巡りだした疑問の答えを探るべく、スイセンは無線機に耳を傾ける。
――――――
データ送信が開始された頃。
公国軍本陣へと連行されたフォスキアは、テントの外で兵士二名に槍で抑えられながら座り込んでいた。
腕の痺れるような痛みと屈辱をこらえながら、テントの中を睨みつける。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
いや、痛むのは腕だけではない。
ここに来るまでの間、アスガルドの取り巻き達から散々いたぶられた。
体力も低下しているというのに、ロードバードに引っ張られながら走らされ、後続のエルフから槍で突かれ、転んだら身体を斬られて走る事を急かされた。
防具も取り上げられているので、身体中ボロボロだ。
「(身体が、再生しない、当たり前よね、魔力が使えないんだもの)」
フォスキアの再生能力は、魔力が使えてこその物。
全て上空のダンジョンコアに吸い取られてしまっているので、通常の刃物で斬られただけでも致命傷になりかねない。
しかし、周りの兵士達は熟練の精鋭たち。
馬上からの攻撃をしておきながら、全て急所を外している。
相手の腕に感心していると、テントの奥から初老のエルフが歩み寄って来る事に気付く。
「ふ、ふふ、寛大なおもてなし、痛み入りますよ、陛下」
「……口を慎め、世界の歪みよ」
陛下と呼ばれたエルフの男性は、緑色をベースとした聖職者のようなローブを揺らしながらフォスキアへと侮蔑的な目を向けた。
オリーブの枝を編み込んだようなデザインの王冠を被り直すと、側近の持って来た杖を受け取ってフォスキアへと向けた。
「(あれって)」
「神の祝福を」
「ッ!」
枝木の束とも呼べるような杖が光ると共に、フォスキアの全身に電流が走った。
言葉の通り電流には神の祝福のような物が織り交ぜられているらしく、聖剣に刺された時以上の苦しみが襲い掛かった。
「ウガ、ガ!!」
「ふん」
「ウ」
全ての筋肉が破裂しているかのような激痛は、陛下の気が済んだおかげか終了。
まだ痺れた痛みが続いているが、フォスキアはゆっくりと視線を上げる。
「はぁ、はぁ、はぁ……(やっぱり、アイツが居るんなら、こいつ等も居るわよね)」
フォスキアの目が捉えたのは、陛下の周囲を取り囲むように座る四人の貴族。
一人は、先ほどガンシップに来ていたアスガルド侯爵。
他の三人は、彼に並ぶ爵位を持った重鎮たちだ。
全員公国のパレードなどで顔を目にした程度であるが、一般常識程度に知っている。
そんな彼らの中央にある豪華な椅子に陛下は腰掛け、杖を勢いよく地に叩きつける。
「これより、この者の審議を、エグゼサス・ル・ユグドラシルの名の下に執り行う、立ち合いの者は名乗り出よ」
「アーヴィング・ル・アスガルド、神と陛下のご意向の元、立ち合いに参加します」
「(こんな茶番に、わざわざ通常の裁判の形式をとるなんてね)」
エグゼサス陛下とアスガルド侯爵のやり取りは、フォスキアの国における最高裁判のような物の形式。
とは言え、正式の場では無いのでかなり省かれている。
軽い挙手を行って立ち合いの参加を申し出たアスガルドに続き、もう一人の貴族も挙手する。
「ミーナ・ル・イダヴェリル、立ち合いに参加するよ、キャハハ!」
高らかに笑ったのは、周囲に不気味な人形を漂わせる最も幼い見た目をしている御令嬢。
ツインテール状にまとめられたボリュームの有る髪を揺らし、真っ白い八重歯を見せつけながら黒い笑みを浮かべた。
「イグニス・ル・ムスベルヘル、立ち合いに参加いたします」
片眼鏡の位置を直したオールバックの髪の生青年エルフも、向かいに座るミーナに続いて手を上げた。
彼もその細く鋭い眼をフォスキアへ向け、この茶番の参加を申し出た。
「マーギア・ル・ヴァナヘルム、立ち合いに参加するぜ」
最後に手を上げたのは、ウェスタンハットのような帽子を被ったエルフ。
四人の貴族の中で言えば最年長の男は、片手に握る二つの石ころを弄りながらフォスキアへと視線を落とす。
かけている色眼鏡で表情が読み取り辛いが、ロクな事を考えていなさそうだ。
「(……公国を代表する四大貴族、平たく言ってしまえば四天王のような連中、そんな奴らまで呼び出して、こんな茶番劇を開く何てね)」
「では、これより開廷する」
立会人の確認をしたエグゼサス陛下は裁判で使われる木槌のように、地面に置かれた木製の板を杖で数度突いた。
乾いた音がテント内に響きわたると共に茶番劇が始まり、間髪入れずにアスガルドが挙手する。
「陛下、もはや審議などをする必要などございません、ムスベルヘル卿の読み通り、こうしてこの悪魔が現れた、これが何よりの証拠です、今すぐにでも極刑に処すべきであります」
「(読み?)」
アスガルドの言う事に少し首を傾げたフォスキアだが、彼らに彼女の事は眼中に無い。
勝手に話は進むが、ヴァナヘルムは不服そうに立ち上がる。
「おいおい、まさか面白みも無く火刑、何て言い出すんじゃないだろうな?お坊ちゃん」
「誰がお坊ちゃんだ、火刑は最も後腐れが無い」
「何時もそれだ、どうせ殺すんならもっと派手に行こうや、折角なら、爆裂魔法使って空中で爆散なんて良いな」
「キャハハハ!それより、血と内蔵全部引っこ抜いてはく製にしてやろうよ!エルフの皮被った悪魔なんて、そうそう手に入る物じゃないし!」
「テメェのバカみたいな趣味に付き合ってられるか!」
「貴様の方が余程バカだ」
「ああ!?テメェ、剣聖の座について侯爵になったからって調子に乗るな、聖剣が無きゃ、テメェなんざただのお坊ちゃまなんだからな」
「だったらアンタもそろそろ隠居したら?お得意の魔法が無きゃただのお爺ちゃんじゃん、キャハハハ!」
「(……付き合ってられん)」
もはや有罪無罪の審議ではなく、どうやって処刑するかと言う話となっていた。
勝手に三人は盛り上がり、完全に彼らだけの世界に入り込んでしまっている。
そんな騒がしい中であっても、ムスベルヘルは冷静に分厚い本に目を通している。
「……静粛にせよ!」
「ッ」
しかし、騒がしい三人のやり取りは、渇いた木を叩く音とエグゼサス陛下の鶴の一声で終了。
王に相応しいとも言えるその気迫はフォスキアにも襲い掛かり、全身の肌がピリピリする。
「この悪魔を捕らえられた功績は、ここへ侵攻する化け物を排除すれば、この悪魔がここに来るという予測を立てた、イグニス・ル・ムスベルヘルに有る、処罰を決める権限は彼に有る」
「(説明どうも)」
「……」
どうやらかなり偶然と不運が重なり、この状況に陥ってしまっているらしい。
加えて、もう裁判何て呼べない会話内容にため息が出そうになる。
そんなフォスキアを置いておき、ムスベルヘルは読んでいた本を閉じて立ち上がる。
「私は、アスガルド公の提案を採用したいと考えております、邪なる道に足を踏み入れた者は、炎によって浄化する事が最善であります、何より、我々の潔白も証明できます」
「(……確かあの人と侯爵って、結構な信者なのよね)」
「け、相変わらず炎か、面白みも無ぇな」
やはりヴァナヘルムは火刑に不満を持つらしく、再び悪態をついた。
そんな彼に対してか、片眼鏡をかけ直しながら杖を突くムスベルヘルは、演説じみた事を開始する。
「炎、それは神の与えし形ある救済、冬をしのぐ暖をもたらし、腹を満たす術を与えてくれる、だが、時に我々を裁く化身となる、この者を裁くには、これ以上の解は無い」
「……ケ、クソみたいな説教はどうだっていい、勝手に燃えてやがれ」
「ふん、ここからだというのに」
長いお説法が始まりそうになったため、ヴァナヘルムは彼の案を黙認する事にし、不満そうに深々と椅子に座り込んだ。
そんな彼を横目に、片眼鏡に軽くふれたムスベルヘルはフォスキアの前に立つ。
「まぁいい、そう言う訳だ、貴様は神聖なる種族たるエルフの種全体の品位を下げるだけに飽き足らず、劣等種も含まれているとは言え、多くの国の罪なき民を殺した、その罰は公開される炎の中で償われる」
「(やば、ミサイルは?まだなの?)」
このままでは早急に話が終わってしまうと焦ったフォスキアは、上空の様子を見上げた。
まだ何の兆候もなく、音も聞こえてこない。
エルフの国における火刑と言えば、やはり公開処刑だ。
この場で殺される事は無いが、解除に専用の鍵が必要になる奴隷用の魔道具を着けられる可能性が有る。
「……ねぇ!悪魔と同化した私を消したいのはわかるけど豪勢よね、貴方達程の存在が、随分な怯えようじゃない!」
貴族である彼らは、自身が低くみられるような表現を嫌う事が多い。
特にムスベルヘルとアスガルドは、エルフとしてプライドが無駄に高い。
極力バカにするような声のトーンで発せられた言葉に、やはり目の前の男は反応を見せる。
「我々が怯える?馬鹿を言うな、万全を期しているにすぎない」
「万全を尽くすって言うのは、心の底から怯える事って、私の仲間の持って本に有ったわよ」
「黙れ、やはり貴様は自分がどれだけ禁忌か分かっていないようだ、だからこそ、死ななければならない」
「……は?」
ムスベルヘルの意味ありげなセリフに、フォスキアは本気で首を傾げた。
彼の言動や乗せられている感情は、悪魔と同化しているというだけの物ではない。
困惑するフォスキアを見て、ムスベルヘルはため息をつく。
「やはり知らぬか、では教えてやろう、貴様の両親が拷問の末に吐き出した真実をな……思い知れ、どれだけ貴様がこの世界の歪みであると」
「な、何よ」
身構えるフォスキアは、告げられようとする真実に耳を傾ける。
「良いかフェアローレン、貴様はホムンクルスなのだ!」
「ッ!」
放たれた言葉に、フォスキアは言葉を失った。
この世界において、悪魔と同化した事と同等の禁忌。
人工的に生命体を作るという事は、自然への冒涜として決して行ってはならないとされている。
フォスキア自身さえも忌避していた存在その物と聞かされ、顔を深く俯かせてしまう。
「……私が、ホムンクルス?作られた、命?」
「貴様を作った魔導学の研究者二人は自己顕示欲に負け、自らの力と技術を証明する為に禁忌に触れた、だが、その命は劣等種程度のぜい弱な物だった、故に、召喚した悪魔の魔石を埋め込む事で補おうとした、その結果生まれたのが貴様のような忌まわしき物なのだ」
ショックでうつむき、硬直するフォスキアに告げられる事実。
ただでさえ頭の処理が追い付かない中で次々と情報が開示され、あまり話が頭に入ってこない。
「だが、奴らの求めていたのは従順な人形、つまり自我なんぞと言う物は必要無かった、だが貴様は人形の分際で自我を得たが故に、作った二人からも軽蔑された、奴らもそんな失敗作を提示する訳にもいかず真実を秘匿していたが、愚かにも貴様は自らその正体をさらしたのだよ」
「……」
何とか言葉の一つ一つを拾うフォスキアは、幼少の頃に過ごした両親の事を思い出す。
自分から悪魔の魔石を埋め込んでおきながら、勝手な目を向けていたと何時も思っていた。
だが、その目は研究の失敗作を見る目だった。
数々の真実が打ち明けられ、笑いが込み上げてしまう。
「(そう、私は、作られた、それも、失敗作……)ふ、ふふふ、ふふ」
拷問されたと言っていた辺り、恐らく両親はもう死んでいるか廃人状態だと思われるので、正直どうだっていい。
むしろ、それ以上にいい事を聞く事ができて感謝の念すらわいて来る。
「どうした?自らが恐ろしくなったか?」
「いえ、ふふふ、むしろ、お礼を言いたい位よ、ふふふふ」
「何?」
「はははは!!」
思わず出て来た笑い声を抑えきれず、フォスキアは高笑ってしまう。
悪魔と同化したホムンクルス、そんな物が世に知れれば今まで以上に非難される。
だが、それでも解る事が有る。
「はぁ……おかげで、良く解ったわよ」
笑い終えたフォスキアは、まるで首を差し出すかのように顔を下げた。
ただ笑い続ける彼女に引いていたムスベルヘルは、彼女の行動を前に我に返る。
「そうか、貴様の居場所はこの世界の何処にもない事が、ようやくわかったか」
「いいえ、そんな訳ないでしょ」
ゆっくりと顔を上げたフォスキアは、視線を天空へと上げる。
分厚い雲のせいで分かり辛いが、複数の明かりが空に点在している。
これを見て、フォスキアは口角を上げた。
「ふふふ、やっぱり、そう言う事よね」
「……所詮は、痴れ者より生まれた生ゴミか、この物に奴隷の輪をかけよ」
「は!」
ムスベルヘルの言葉に反応し、フォスキアを抑えていた兵士達は懐から首輪を取りだした。
首輪を着けられれば専用の鍵を用いなければ破壊すら不可能となり、外されない限り彼らの言いなりとなる。
そんな物が取り付けられようとする寸前で、突如爆発が空中で起こる。
「何だ!?」
「爆発!?ダンジョンコアが!?」
「面妖な」
鳴り響く爆音にテントの中と周辺は騒然とし、驚く兵士は首輪を捨てて槍を構えた。
「クソ!仲間でもいたのk」
辺りを警戒した途端、フォスキアを抑え込んでいた兵士二人は首から上が無くなる。
首無しの死体として地面に倒れ込み、それを見たフォスキアは手枷を破壊する。
「私の居場所は!」
魔力が使えるようになった事で傷も再生し、可能になった変異を駆使してすぐにその場を離脱。
聖剣で刺された場所は治らず激痛が走ろうと、根性で耐えながら翼を羽ばたかせながら言葉を投げ捨てる。
「あの子達の所よ!!」
彼女の離脱にあわせるかのように、ダンジョンコアに命中しなかった対艦ミサイル群は地上へ激突。
敵の本陣は一気に爆炎に包まれた。




