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姉妹の悶着 前編

 フォスキアが酔いつぶれ、しばらくした後。

 時刻は何時しか午後九時を回り、隊員達それぞれの作業は終了。

 リージアに医務室へと運ばれたフォスキアは、ヴァーベナの看護を受けながらベッドでスヤスヤと眠っていた。

 診察を行ったヴァーベナは、彼女の無事が確認できるなり胸をなでおろした。


「はぁ(度数八十度のお酒をジョッキで一気飲みした、何て聞いて恥ずかしい位叫んでしましましたが……これで急性アルコール中毒起こさないって、代謝能力どうなってるんでしょう?軽く計算しただけでも、量的に分解に百時間以上かかる筈なんですが)」


 軽くアルコールチェックを行ってみたが、既にビール一杯を飲んだ後程度に落ち着いている。

 僅か数時間でかなり分解されており、この分だと日をまたぐ頃には完全にシラフだろう。

 二日酔いになるかどうかは、今の所解らない。


「(とりあえず点滴を変えて、二日酔いに効く物を幾らか処方しましょう)」


 検査を終えたヴァーベナは、フォスキアに施していた点滴を交換。

 フォスキアの酒好きを考えれば、こうなるかもしれないと懸念していたので、飲みすぎの際の水分不足や肝機能回復に効く物を多めに用意していた。

 もちろん二日酔いの物もあるので、色々と見繕う。


「ふぅ、後は、カルテをまとめておいて……」


 点滴と薬の用意を終えたヴァーベナは、現在のフォスキアの容態をカルテへまとめる。

 この艦に人間が彼女しか居ない以上、医療関連でヴァーベナの仕事になるのはこれ位だ。

 せめて誤診の無いように、しっかりと診察する事が大事だと思っている。

 入念な確認の元カルテをまとめていると、不意にライルの物と比較を開始してしまう。


「(……ダークエルフとエルフ、二つの種族の違いはあくまでも肌の色だけ、でも)」


 タラッサの町では、エルフとダークエルフの両名が何人か居た。

 その際の検査で、二つの種族の主な違いはメラニン色素の量程度であると解っている。

 つまり、肌の色以外は完全に同じ生物という事に成る。

 だがフォスキアの場合、ライルや他のエルフ達との差異があまりにも多すぎる。


「(DNAの作り、脳内物質、身体のホルモンバランス、染色体、あらゆる部分が、人間はもちろん、エルフ達ともかけ離れてる)」


 今更ながら、フォスキアが半分悪魔である事を自覚してしまう。

 リージアも気付いているかもしれないが、フォスキアはこの世界の人間や同胞であるエルフとも違う生物と言える。

 外観は同じだというのに、医学的に見ても生物学的に見ても異質な彼女には変な恐怖心がわいて来る。


「……大変そうだね」

「ッ、お、起きたんですか?」

「うん……」

「あ、ちょっと座って待っててください、今診察を」


 カルテのまとめ作業をしていると、いつの間にかフォスキアは覚醒していた。

 見たところかなり回復しているようにも見えるが、念のためヴァーベナは診察の準備を開始。

 目をフォスキアの方から離し、診療器具を幾らか自分の義体へと取り付けていく。


「そ、それでは、ちょっと失礼……」

「へ~」

「え?」


 準備が整ったと思ったら、フォスキアは自分のカルテの表示されるパソコンに興味津々だった。

 恐らく操作方法も知らないマウスやキーボードを用いて、自分に関係しているデータを覗いている。

 その手さばきは、パソコンの扱いを熟知しているようだった。


「成程……面白い身体」

「あ、あの~、診察しますので、一旦そちらの椅子に……」

「あ、あはは、ごめんね、ちょっと気になってね」


 我に返ったヴァーベナは、フォスキアの事を椅子へつかせる。

 素直に座るフォスキアを診断し、異常が無いかどうかを調べ始める。

 そのついでに、ヴァーベナは通信機をリージアへ繋げる。


『えっと、こ、こちら、ヴァーベナ、隊長、エルフィリアさんが目を覚ましました』

『あ、ヴァーベナ、報告ありがと、でも、ちょっとこれから立て込むから、通信しないで』

『え、あ、はい、失礼しました』


 通信に出たリージアは、妙に真剣な声をしていた。

 どうやら本当に立て込んでしまっているらしく、すぐに通信を切断されてしまう。


「おいヴァーベナ、居るか?」

「あ、ライラック」


 少し申し訳ない気持ちになっていると、ライラックが医務室に入って来た。

 何故か急ぎ気味の様子になっており、ちょっとホホを赤くしながらヴァーベナの元へ歩み寄る。


「なぁ、隊長と副長がガチの模擬戦やるらしい、一緒に見に行こうぜ」

「え、立て込むって、それ?」


 リージアの事情の正体を聞き、ヴァーベナは少し口元をピクつかせた。

 彼女達アンドロイドが行うガチの模擬戦は、確かに集中力を使う。

 何しろナイフ一本のタイマンによる接近戦を行い、先に三回切った方が勝ちと言うシンプルな物。

 とは言え正式な訓練と言う訳でもなく、ただ単純に喧嘩を正当化した野蛮な物だ。

 娯楽の少ない彼女達にとって、賭博や暇つぶしにうってつけのイベントだった。


「面白そうだね、私も行くよ」

「え、良いのか?」

「え、えっと、まぁ、多少であれば、ただし、点滴は外しませんよ」

「あはは、別に良いわよ、ちょっと邪魔な位だし」

「……では、ライラックも、手伝って」

「ああ」


 悪酔いから覚めたばかりだというのに、妙に元気な彼女に違和感は有るがヴァーベナは同行を許可。

 ライラックと共に看護しながら、会場である運動場へと足を運びだす。


 ――――――


 その頃。

 最低限の明かりだけが灯る薄暗い運動場にて、リージアとモミザの二人は武器であるナイフをもてあそびながら互いを睨んでいた。

 無線もオフにしたリージアを前にするモミザは、笑みを浮かべながらこうなる状況を思い出す。


「ビックリしたぜ、急に部屋に来たと思ったら、ソワソワして眠れないから模擬戦やろう何てな」

「……ゴメンね、最近ソワソワする事は合ったけど、今日は特に酷くて、多少斬りあえば落ち着くと思ってさ」


 二人共間合いに捉えながら円を描くように歩き、隙を伺いながら適当な会話を行う。

 元は喧嘩から発展したという事も有って、正式な開始の合図は無い。

 本来ならいつでも斬り合っても良いのだが、懐かしさに浸っていた。


「それにしても懐かしいね、ここでガチの模擬戦何て」

「ああ、何時も姉貴達にボコボコにされていたけどな」

「そうそう、結局お姉ちゃんに勝てたのは、島での本番だけだったよ」

「ああ」

「それと」

「ッ」


 リージアが何かを言い出そうとした瞬間、彼女の鋭いハイキックがモミザの顔へ襲い掛かった。

 しかし、何度も使われた手だったという事も有って、モミザは瞬時に反応して腕で受け止める。


「……やっぱ古い手にはひっかかってくれないか」


 軽い笑みを浮かべたリージアは、足を戻してナイフを構えた。

 ルール上ナイフを義体に当てる事でポイントを得られるので、下手したら足にナイフを当てられてモミザの加点になっていた所だ。


「全くだ、姉貴には使わないクセにな」

「お姉ちゃんに使ったら、どっかの雷神の弟みたいな目に遭うから」

「そうだったな!」


 有名な映画のワンシーンを思い出す二人は、いきなりナイフファイトを開始。

 刃同士がぶつかり合い、甲高い音が運動場に響きわたる。

 二人の使っているナイフは、高周波も流れていないただのナイフ。

 義体に展開している電磁装甲のおかげでダメージは無く、突き刺さって悲惨な結果になる訳でもない。

 そのおかげで、お互い心置きなく戦える。


「それで!原因の心辺りは有るのか!?」

「正直無い!!」

「チ、朴念仁が!!」

「ゴフッ!」


 何故リージアがソワソワしてしまうのか、その理由を察しているモミザは鋭い左ボディブローを繰り出した。

 ナイフを当てていないので加点にはならないが、怯んだリージアに追撃のナイフが突き立てられる。


「……先制、許しちゃった」

「へ、人の事キレさせるからだ」

「はいはいっと!」

「おう」


 仕切り直しの為に回し蹴りを繰り出し、リージアはモミザと距離をとった。

 互いに近接格闘の構えを取り直し、牽制を行いつつ相手の出方を探る。


「で?私のどの辺が鈍いって!?」


 先に動いたリージアはナイフを振り回し、モミザも彼女の攻撃に対応。

 目にも留まらないナイフファイトが繰り広げられ、ぶつかり合う刃から火花が散る。


「こう言われて気付かない辺りだ!!」

「アンタの説明は戦術以外分かり辛いんだよ!!」

「俺だってその辺気にしてんだよ!昨日言っただろうが!!」


 本当に喧嘩に発展し、刃のぶつかり合う音は激しさを増す。

 実は変異さえ使わなければ、リージアとモミザの義体性能に対した差は無い。

 互いに互いの手の内を知り尽くしている事も有って、攻防は一進一退。

 模擬戦なのに、息を飲む緊張感が走り続けている。


「それにアンタ、フォスキアと隠れて映画見たってどういう事?私に告白しておきながらさ、何?話さえ合えば誰でも良いの?それともちゃんと返事しなかった私が悪いの!?」

「は!?まだ気にして、アガッ!!」


 嫉妬をナイフに乗せてモミザの腹部を斬り裂いたリージアは、追撃の回し蹴りを繰り出した。

 これで同点となったが、電磁装甲さえ貫通しかねない一撃だった事も有ってモミザは胆を冷やした。


「(マジで腹斬れたかと思った)う、うるっせぇ、それより、お前自身、エルフィリアの事どう思ってんだ!?」

「ッ!」


 赤熱化はしても斬り傷一つ付いていなかった事は置いておき、色々貯め込んでいたモミザは怒号と共にリージアとの間合いを詰めた。

 その言葉はリージアの心に突き刺さり、僅かながら生じた隙をつく。


「アッ!」

「二点目!!」


 懐に入り込んだモミザは、すれ違いざまにリージアの義体にナイフを命中させた。


「……どうって?どういう事?」


 斬られた部分をさするリージアは、ナイフを構え直したモミザを睨みつける。

 地味に言葉が心に突き刺さった事も有って、少しご立腹状態になりながらナイフを構える。


「お前が思っている事だ、あのエルフの事、どう思ってる?」

「……どうって、良い友達だよ」

「本当にそうか?」

「ッ、そうだよ!」


 モミザの返しに若干動揺するリージアは、再度切り結びだす。

 ナイフが折れてしまうのではないかと心配してしまう程、刃同士が激しくぶつかり合い、薄暗いこの部屋に火花が一際美しく散る。

 少し勢いの付いたリージアの連撃は、モミザの事を徐々に追い詰めていく。


「グ、クソ」

「そこッ!!」

「ガハ!」


 目にも留まらない連撃の末に、リージアのナイフはモミザの義体に命中した。

 またかなり強い一撃でくりだされ、モミザは少しノックバックしてしまう。


「はぁ、はぁ、それ以上無いよ、あの子には」

「そんな事言って、お前、自分がどんだけ嫉妬してるか自覚してないだろ?」

「……嫉妬?誰に?」

「そこまで来ると、もう白々しいな」

「……あの子には、私は絶対友情以外の物はないよ、ただ、四六時中あの子の事が頭の中から離れなくて、胸がポカポカするってだけ!!」

「マジでお前!!」


 気付いている事が多い割に、その原因がわかっていない。

 鈍すぎて腹立たしいレベルだが、同時に沸いて来た怒りに任せながらモミザは再びリージアとの間合いを詰める。


「この!」

「グ!」


 体重の乗ったモミザの一撃は受けとめられ、鍔迫り合い状態となった二人の握るナイフから火花が散る。

 片や、イラ立ちからリージアへと睨みを利かせるモミザ。

 片や、何故モミザがそんなに怒っているのか本当に理解できていないリージア。

 力任せに押し合う二人によってナイフは悲鳴を上げているが、二人は気にする事無くにらみ合う。


「お前って奴は、本当によ!」

「何!?本当に!何がそんな気に入らないの!?」

「テメェの胸に、聞いてみろ!!」

「グあ!!」


 甲高い金属音と共にリージアの持っていたナイフが弾かれ、モミザの重く鋭い拳がリージアの胸に突き刺さった。

 電磁装甲で怪我は無いとは言え、彼女の重量級の一撃によって数メートルも吹き飛ぶ。

 その瞬間、運動場内に歓声が響き渡った。


「あたた」

「お!どっちだ!?今どっちが勝ってる!?」

「同点です、互いにマッチポイント!」

「……全く、耳ざとい子達だよ」


 気づけば、仕事を終えて暇を持て余していた隊員全員が駆けつけていた。

 一応誰にも伝えずに来たのだが、どこからか漏れていたらしい。

 元々人気のある余興である事に加え、今回の参加者は大戦の英雄二人。

 そんな二人の喧嘩とあっては、見に来ない方が邪推と言う物だ。


「……どうする?続ける?」

「当然だ、それとも、負け恥じ晒すのは嫌か?」

「……全然!」


 モミザの分かりやすい挑発にあえて乗ったリージアは、前傾姿勢になりながらモミザの間合いへと入り込む。


 ――――――


「……相変わらずだね」


 薄暗い運動場の中央で、ナイフの激しくぶつかり合う金属音と、二人の金属製の足音が不規則に鳴り響き、その中にわずかに駆動音が混ざり込んでいる。

 ヴァーベナの付き添いを受けるフォスキアは周辺の歓声を弾きながら、二人のナイフが奏でる音にのみ集中する。

 目はひたすらに二人の動きを追っており、僅かにほほ笑む。


「(次、左下からナイフの一撃、フェイントで右上からナイフを振り下ろして、遠心力に任せて後ろ回し蹴り……変わってない、何時ものデタラメな戦い方、でも、ちょっとは改善してる)」


 ほほ笑んだフォスキアの考えた事は、この一秒後にリージアは全て実行した。

 反応したモミザは、リージアの攻撃全てを回避。

 リージアの着地と共に、今度はモミザが仕掛ける。


「(あの構えだと、相手の目前で横に一閃、次に右上から振り下ろして、左手に持ち替えて突き上げる、その上で、十八番の右ストレート)」


 その次の瞬間、フォスキアの思った通りの行動をモミザは取った。

 モミザの構えから、フォスキアは彼女の攻撃パターン全てを当てたのだ。


「(相変わらずのパワーファイトね)」

「え、エルフィリアさん、凄い食いつきですね」

「……うん」


 点滴スタンドを握りながら少しずつ前に出ていくフォスキアは、いつの間にか最前列に立っていた。

 その事に本人は気づいていなかったが、隣に居たホスタに言われて気付く。


「ですが、それも分かります、徐々に凄くなって」

「危ない」

「え?」

「そろそろ、ヒートアップする頃合いだからね」


 本人の言うように、二人の戦いの激しさは凄まじくなる一方だった。

 もっと近くで見ようと前に出ようとしたホスタを止め、自分達より前に誰も居ない事を確認。

 改めてリージア達へと視線を向けると、ソニックブームがフォスキア達の元へと襲い掛かる。


「ッ、凄い」


 更にヒートアップした二人の攻撃は、正にハイエンドモデルとも呼べる性能を見せつけた。

 壁や天井さえも床として扱い、運動場を破壊しかねない程に暴れ出す。

 踏み込みで床は陥没し、二人の攻撃によって発生したソニックブームが野次馬達に襲い掛かる。


「何だこれ!」

「きゃ!」


 二人の戦いの激しさが増した事で、部屋の壁や床などにナイフによる切り傷が出来上がる。


「あーあ、二人共夢中になっちゃって」

「何でお前そんなに落ち着いてんの!?」

「これ位茶飯事だもん」

「どこがだ!?」


 ゼフィランサスのツッコミが炸裂すると共に、強烈な金属音が響き渡った。

 これによって、壁また新しい切り傷が形成された。

 義体の出力を相当上げているらしく、二人が行動するだけで部屋中に傷が出来上がる。

 もはや模擬戦と言って良い領域ではなくなっており、下手したら今後運動場が使えなくなる恐れがある。


「でも、そろそろ止めないと、下手したらこの艦落ちちゃうね」

「え、あ、おい!」

「危ないって言ったの貴女ですよ!」


 ゼフィランサスとホスタの静止を聞き流したフォスキアは点滴の針を抜き取り、暴れる二人の元へと歩いて行く。

 どれだけ強い風圧が襲おうと、彼女は余裕そうに指を鳴らす。

 素早い二人の行動は、もはや常人には認識が困難な物となっている。

 それでもフォスキアの目は二人の事を捉えており、タイミングを見計らう。


「(3、2、1)そこ」

「え?」

「は?」


 二人は予想通りの場所で衝突しようと接近し、フォスキアは彼女達のナイフの握られる腕をつかみ取った。


「二人共」


 困惑する暇も与える事無く、フォスキアは合気道のような動きを披露。

 掴まれたリージアとモミザは、抵抗できずに床に叩きつけられる。


「お遊びはおしまいぃぃ!」

「うげ!」

「ウベ!」


 投げ飛ばされた二人は床に頭から衝突し、腰の辺りまで埋まってしまった。


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― 新着の感想 ―
リージアは鈍感と言うより、好きになっったことを認めたくないっていう感じですね。 そして、フォスキアがどんどん姉に呑まれてるようで怖い.... 2人もそろそろ異常に気付くでしょうね
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