表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/138

可能性の兆し 前編

 リージアがアンジェラを投げ飛ばし、しばらくして。

 気絶したアンジェラは医務室へと運ばれ、ヴァーベナの処置で意識も回復した。

 特に命には別状もなく、後に重い症状が出るような負傷も無かった。

 その事に皆安堵したのは良いのだったが。


「あの、隊長?一日経過したとはいえ、昏睡から目覚めたばかりの方を投げるのはどうかと思いますよ」

「ご、ごめんなさい」


 普段のヴァーベナからは考えられない怒りの覇気を放出された彼女の前で、リージアは正座をさせられていた。

 アンドロイドとは言え、ヴァーベナは根っからの医者。

 昏睡から回復した者を乱雑に扱う、何て事をすれば憤慨するのも仕方のない事だ。

 ここから小一時間程ヴァーベナのお説教が続き、普段静かな人を怒らせてはいけないと、リージアは改めて実感した。


 ――――――


 しばらくして。

 ヴァーベナのお説教から解放されたリージアは、意気消沈しながら展望デッキに足を運んでいた。

 他の面々は自分の装備を取りにランドリーへ足を運んだので、モミザと二人だけだ。


「あ~、怖かった~」

「ああ、アイツ、あんなに怒れたんだな」

「普段優しい人が怒ると怖い、あの超有名監督も言ってた」


 ぶつけられた恐怖を拭うリージアは、展望デッキに映し出されている外の様子を目の当たりにする。


「さて……改めて見ると酷いね」

「ああ」


 標高数十メートルを超す山々が数多く有った筈の山岳地帯は、リージア達が暴れ回ったおかげですっかり瓦礫の山になってしまっている。

 今までそこに有った山々が無くなった場合、その周辺の気候の影響は予測がつかない。

 分かるのは、間違いなく近隣の町や生態に悪影響が出て来る事だ。


「……私達は、いわば外来種だよ」

「どうした?」

「多くの外来種がもたらすのは在来種への悪影響、この世界に居なかった異物、突然やって来た悪意無き侵略者、それが私達だよ、政府だけじゃない」

「成程、外部から来た強い生物に在来の生物が食い荒らされ、生態系が無茶苦茶になるって奴か……確かにそうだな」


 モミザが頷く横で、リージアは頭を深く抱え込む。

 方法があれしか無かったとは言え、破壊が過ぎた事は目の前の現実が物語っている。

 自分達は侵略的外来種であると。


「……何とかして、元に戻せないかな?」

「無理言うな、魔法でも時間を戻す何てできないだろ?」

「うへ」


 無茶ぶりという事は、リージアも解っていた。

 だが、故郷の自然を滅ぼしてしまった罪悪感は、今でも彼女の中で燻っている。

 E兵器の使用によって植物を文字通り根こそぎ破壊し、広げた戦火で動物たちを死に追いやった。

 このままでは、また過ちを繰り返す事となる。


「……でも、私は、アイツ等とは違う」

「気持ちもわかる、だが、エーテル技術が有っても、俺達は神になれる訳じゃない」

「そだね……向こうはそう思ってないだろうけど」


 小声でつぶやいたリージアは、目を鋭くしながら視界の中に資料を表示した。

 その内容は、司令官からの通達と共に送られて来た統合政府の切り札と称せる物。

 リージアからすれば、虫唾の走る研究結果の数々だ。


「ここで培った遺伝子操作技術を人間に用いて作られた新人類、ジェネラス、人の夢と望みと業から生まれた産廃」

「そんな風に思ってたのかよ」

「単純に宇宙に適応したいとか、健康に生きて欲しいとか、そんな純粋な願いからなら私は別になんとも思わないよ、でも、人の上に立つとか支配するとか、そう言う傲慢が過ぎる行為は好かないよ」


 人間嫌いのリージアであるが、善意から生み出された技術などには敬意を払う。

 実際彼女達を作った博士達の抱いていた感情は、あくまでも善意。

 悪意なんて全くなく、ただ純粋に第二人類と形容できるアンドロイドを作っただけ。

 生みの親の彼女達を想いながら、立ち上がったリージアは外を虚ろな目で眺める。


「(そうだ、彼女達がこの事態を予想していないなんて考えられるか?危険性は勿論、無限に秘められた可能性に目を向けて来たあの人達が)」


 エーテルのあらゆる可能性を考慮した研究を続けていた事を思い出したリージアは、アゴに手を置きながら思考を巡らせ始める。

 彼女達が作り出した技術の数々を思い出し、リージアは解決策を考えていく。


「(人間の脳波によるエーテルの活性化、生成AIを用いた魔法陣の構築、そして、それらを最大限に活用する為のこの船……あの人達が、こうなる事態を予想していたら……)」


 思い出した技術類は、全て大戦時には最大限の活用は行えていない。

 完全に活用する為には、人型形態へと変形した時のようにフォスキア達の助けが必要になる。

 その結果もたらされたのは、見ての通りだ。


「(加えてナノマシンは元は有機物、アルゴも身体に取り込んだ時に自身の肉体へと変換していた、という事は、植物の細胞を再現できる可能性は有る)」


 併せて表示した資料に目を通したリージアは、アルゴが使用していた回復方法を確認する。

 リージアのように金属のまま細胞をコーティングした訳ではなく、ナノマシンを有機物へと変換して自分の身体としていた。

 その性質を利用した場合の事を考え、一つの可能性を見出した。


「どうした?」

「……試してみる価値は有るかも、でも、その為には」

「何をだ?」


 笑みを浮かべたリージアは、困惑するモミザを連れて展望デッキから出ていく。

 その道中、レーニア達に聞きたい事を聞く為に連絡を繋げた。


 ―――――


 その頃。

 ランドリーを訪れていた三人は、手入れを終えた装備を回収していた。


「ふぅ、やっぱりこの恰好が落ち着くな」


 褐色の浅黒い肌に馴染む愛用の防具を身にまとい、預けていた鞭も腰に下げた。

 軽く柔軟性のある病人服や軍服も着心地は悪くなかったが、やはり何時もの恰好がしっくり来ていた。


「あの、アンジェラさん、頭の痛みはどうですか?」

「大丈夫です、回復魔法もかけましたので」


 ライルの横でも、修道着に着替えたアンジェラがヴァーベナの診療を受けている。

 回復魔法で既に痛みも引いているのだが、彼女は気になって仕方ないらしい。


「それにしても、貴女はお役目に真摯なのですね」

「え?」

「会ったばかりの方をここまで心配できるのは、見習いの聖職者でもそんなに居ませんから」

「え、えっと、し、真摯、と言うより、わ、私は、その、助けられる命を、そ、粗末にして、悲しく成りたくないだけなんです」

「……訳あり、のようですね」


 診療道具をカバンに詰めたヴァーベナは、少し悲しい表情でアンジェラからの言葉を返した。

 大戦を生き抜いて来たと言う事も有り、彼女は多くの死者を見送って来た。

 トラウマと呼べる記憶を掘り起こしてしまった事を悪く思いながら、アンジェラは自分の荷物をまとめる。


「どう?準備は済んだ?」

「ああ、私はもういい」

「私も、今終わったところです」

「そう、なら、リージア達に報告して、貴女達を送ってもらうわ」


 準備の済んだ事を確認したフォスキアは、部屋から出ていこうとする。

 町の近くまで船を動かし、二人の事を地上に下ろして町まで護送する事に成っている。

 その用意を頼む為にリージアの元へ行こうとするが、ランドリーの扉が勢いよく開く。


「ヲ」

「フォスキア!他の二人も居る!?」

「え、ええ、居るけど」


 勢いよく扉が開けたリージアは、驚くフォスキアを他所にライル達の姿を確認して笑みを浮かべた。


「良かった、ねぇ皆、悪いんだけど、もう一回力を貸してくれない?」

「何?また何か思いついたの?」

「そ、この辺りの地形を元に戻す方法を思いついた」

「そんな事できるのか?」

「ほとんど賭けに近いからね、神様のご加護に期待するよ」

「そう言う事でしたら、喜んで」

「……隊長」


 少し嫌な顔はされたが、リージアなら何とかしそうだと三人は了承。

 しかし、ヴァーベナだけは反対したそうな表情を浮かべていた。


「どうしたの?」

「……私には、魔法関連の症状は分かりませんが、また気絶するような事は、許容できませんよ」

「……あ~、少なくとも、前回のような事にはならないと思うよ、今回はこの艦の力を引き出すだけだから」

「だといいのですが」


 ヴァーベナの脳裏を過ぎったのは、専用のコックピット内で倒れるフォスキア達。

 症状はそれぞれだったが、目や鼻から出血が主な物。

 場合によっては発作も起きていたので、医者としてはドクターストップをかけたい所だった。


 ――――――


 その後。

 フォスキア達を連れたリージア達は母艦を変形させ、もう一度艦橋下部にある操縦部屋へ移動していた。

 とりあえず、ヴァーベナが即行動できるように待機するという条件で説得しておいた。


『リージア、もう一度言っておくよ、アンタ等が使った大剣のおかげで、この艦に多くの魔法陣のデータを入手できたけど、アンタの言うような結果になるとは限らないよ』

「わかってる、試しにやるだけ」

「でも、本当にできるの?土魔法で山脈を作るとしたら、どれだけの魔力が必要になるか」

「あはは、それを補うために、貴女達を呼んだの」


 フォスキアからの質問に答えたリージアは、早速コントローラーを強く握り締める。

 同時に自身の頭と、この艦のシステムを同期。

 また前回のような融通の利かない魔法陣が生成されないように、詳細な部分をアシストする。


「それは分かったが、何でまた人型になる必要がある?」

「そもそものパイロットが人型だからね、こうして船も人型にした方が制御面での効率は高いの」

「……そう言う物か?」

「よし、それじゃモミザ、調整お願いね」

「ああ、気を付けろよ」

「フォスキア達も、魔力の充填お願い」

「任せなさい」

「……任された」

「分かりました」


 四人に後を任せたリージアは、早速艦のAIを起動させる。

 賭けに近い事なので、拭いきれない不安を抱きながら作業を開始。

 この地形を治すために、専用の魔法陣の構築を開始する。


「(先ずはこの艦とアルゴが捉えた視覚情報を収集して、出来る限り正確な形状をモデリング、消えた部分は機械魔物やアルゴの身体をナノマシン化させた物を使って補強するようにプログラムっと……うん、結構収集できてるな、これなら)」


 この艦はアルゴが再生の為に吸収した魔物達の記憶の中に有る魔法陣まで奪っており、おかげでAIはかなり学習していた。

 中には土魔法も存在しており、今回の地形の修復に役立つ。

 しかもアンジェラの覚えている回復魔法まで学習しているので、山以外にも修復が行えそうだ。


「(良いぞ、ちょっと頭痛いけど、今は戦闘中じゃないから、回路のほとんどを生成AIに回せるし、エーテルも効率よく集まってる)」


 今回は安静にしている事も幸いし、艦の能力のほとんどを動員できる。

 リアクターもフォスキア達の脳波を受け取り、途方もない量の魔力を生成している。

 その量は主砲の消耗を気にしなければ、最大出力で三回は撃てる程だ。


『生成完了』

「よし、生成できたのは……『レストリアフィールド』らしいよ」

「随分大仰な名前ね、でも、面白い事がおこりそう」

「多分ね、主砲使うみたいだから構えるよ」


 魔法陣の生成を完了したリージアは、銃を構えるようにコントローラーを保持。

 彼女に合わせて他の四人も構えると、主砲を模した緑色のホログラムが展開する。


「で?どうするんだ?」

「こういう時は、天高く撃つのがセオリーだよ!!」

「そうね!」

「そうだな!」

「(こいつ等ってどんな認識で生きて来たんだ?)」

「(どういう意味かてんで分かりませんが、とりあえずこの人達のマネをすれば良いでしょう)」


 とりあえずノリノリで上を狙う三人に合わせ、ライル達も照準を上に向ける。

 五人の動きに合わせ、母艦は携えていた主砲を天へと向ける。

 魔力は主砲へと収束され、砲門には先ほど生成された魔法陣が展開。


「それじゃ、綺麗な花火でも上げますかい!!」


 意気揚々と叫んだリージアは、引き金を引く。

 母艦も引き金を引き、収束されたエーテルは天高く発射された。

 白銀の砲弾は空へと飛んでいき、数百メートル上空で爆散。

 光は雪のように降り注ぎ、幻想的な光景が画面に広がりだす。


「……綺麗ね」

「はい、まるで神の国の光景のようです」

「ああ」

「見ろ!瓦礫が!」


 光景にうっとりとする女性陣に先んじて、モミザは画面を指さした。

 彼女に続き、他の四人も画面に目をやる。


「……やった、成功した!」


 光が次々と地形を回復させていく光景に、リージアは歓喜の声を上げた。

 地面に落ちた光は瓦礫を浮かし、元有った場所へと運搬を開始。

 立体パズルを組み立てるかのように形を取り戻していき、元々生い茂っていた植物たちも再生していく。


「ここじゃ邪魔だ、飛ぶよ!」


 再生の邪魔になると判断したリージアは艦を操作し、上空へと移動する。

 その予想は当たり、彼女達が居た場所に大量の瓦礫が集約して山の形成を開始。

 幾らか形が歪な物も有ったが、それらはナノマシンが岩に擬態して補う。

 更に草木も次々生え変わって行き、立派な樹木が立ち並び、新たに生まれた草が柔らかく揺れ動く。


「まるで、神の奇跡」

「こんな事が起こるなんて」

「ええ、大抵の事はもう慣れたと思ってたけど、これは開いた口が塞がらないわ」

「(これが、マスター達の抱いていた可能性)」

「……ッ!」


 驚く四人を他所に、リージアは脱出の為の装置を起動。

 画面の一部が開いて外に通じる道が出来上がり、気圧の違いで暴風が起きる中を突っ切る。

 外へと飛び出し、変異しながら降下していく。


「リージア!」

「ちょ!待ちなさい!」


 流石に装備を付けていないモミザは無理だったが、変異したフォスキアはリージアの後を追う。

 降下の最中でも、降り注ぐ柔らかな光たちは修復を続けている。

 神聖魔法の雰囲気は有るが、フォスキアに当たってもあまり影響はない。


「(不思議ね、こんな光で元に戻っちゃうなんて)」


 不思議に思いながらも、フォスキアは地面に足を付く。

 数枚の羽がゆっくりと抜け落ちていく中で、変異を解除してリージアを探す。


「リージアぁ!どこー!?」


 辺りを見渡していると、四つん這いになっているリージアを発見する。


「(あ、居た、何してるのかしら?)」


 ゆっくりと歩いて近づいて行いたフォスキアは、うずくまってリージアの顔に視線を合わせる。


「……どうしたの?」

「う、うう」


 リージアは、泣きながら地面をさすっていた。

 フォスキアが近くに来た事にも気付いていないのか、ただすすり泣いている。


「(これが、あの人達の見ていた可能性、これが、あの人達が思い描いていた理想)」


 フォスキアが近くに居る事に気付く事もなく、リージアは生えて来た植物をスキャンしていく。

 いずれも生きた植物として機能しており、組成が金属でできている何てことは無い。

 しだいに木々の修復も完了し、咲き誇る木の葉たちの宴が始まる。

 気づけば周囲の山々も完全に再現され、最初から戦い何て無かったかのような光景が広がっていた。


「(そうだ、アイツ等が艦を破壊しなければ、私達を裏切らなければ、母星だって元の緑豊かな世界に再生できた)」


 込み上げて来る悔しさと怒りで草を握り締めたリージアは、更に涙を零し始める。

 もう叶いもしないもしもの世界の事が頭を離れず、溢れる涙は止まらない。


「(……これが可能性だというのなら、もう二度と、アイツ等にこの技術を渡しはしない)」


 彼女達の制作者たちの考えていた事を目の当たりにし、リージアは更に政府への恨みを募らせてしまう。

 この技術であれば、どんな事でもできる。

 政府がこの技術を使って、よりよい未来を創るかもしれない。

 だが、それさえ許せない。

 どんな形であっても、政府の面々が成功の道を進む事を台無しにしたくなる。


「(アイツ等の善悪何て関係ない、必ず、アイツ等を否定してやる」


 涙を拭ったリージアは立ち上がり、空を睨みつけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ