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指標 前編

 母艦による攻撃によって、アルゴにかなりの重症を負わす事には成功した。

 しかし、その喜びもつかの間。

 脳の大部分を吹き飛ばしたにも関わらず、アルゴは活動を再開。

 傷を再生させると共に、周辺の機械魔物を取り込んで更に速い速度で修復を続けている。


「どういう事だ?こんなしぶとい魔物、見た事無いぞ」

「生体反応を複数確認、また機械魔物共を呼び込んでる、それ抜きにしても、奴の再生能力と生命力は異常すぎる、生体機能を維持する魔石はエーテルリアクターとして改造されてるけど、さっきの長距離砲撃でも脳諸共吹っ飛ばした筈、でも生きてるとなると、調査チームの連中でも予想してなかった進化が起こってる?」


 苦虫を噛んだ表情を浮かべるライルの横で、リージアは何時にない早口で状況を解析する。

 先ほどホスタが行った長距離砲撃で頭部を吹き飛ばされても、単体で再生を行えていた。

 ここまで来ると、見つけたカタログから大きく逸脱した性能を発揮している事に成る。

 機械魔物達をナノマシン化させて回復する行為は、あくまでも傷の治癒を早める為の物。

 アルゴ自体そんな物無しでも、十分回復しきる事は出来る。


「進化だと?どういう事だ?」

「つまり、今の奴には備わっていなかった筈の魔法が備わっている、可能性としては、この艦の生成AIと同じ機能が奴にもあるって所かな?それで何らかの魔法陣が生成されて、奴は不死身に近い能力を得てるんだと思う……あくまでも推測だけど」

「やっぱり、外装剥がしたのがまずかったか?」

「多分ね、その手の奴は防御目的も有るけど、一番の目的は能力をセーブする為ってのも有るよ」

「クソ」


 モミザとリージアの会話を聞いていたライルは、台を軽く叩いた。

 全てを理解できた訳ではないが、前の町で外装を破壊したのが悪手だった事は分かった。


「……皆さん、巨人の傷が治ったようです」


 話をしている内に、アルゴの傷は完治。

 その事をアンジェラから警告され、構えを取り直す。


「どうする?他に何か良い手は」

「……リージア、このロボットの生成AIとか言う奴、何でも作れるの?」

「どこまでできるかは解らない、何作る気?」

「私の体内に有るシャックスの魔法陣、私に移植した時少し傷ついて一部しか使えないけど、この艦のAIを使って修復して強化する、それで」

「奴の能力を奪う、か」

「そう言う事よ」


 フォスキアの提案に、リージアは一筋の希望を見出した。

 向こうが何らかの魔法のせいで死ねないのであれば、こちらの物にしてしまえばいい。

 なんとも滅茶苦茶な発想であるが、今はこれ以外に方法は無さそうだ。

 リージアからの了承を得たフォスキアは、早速台に手を置く。


「えっと、ねぇ、パイロットオーダー?とか言う奴やりたいんだけど」

『はい、オーダーをお願いします』

「え、えっと、そうね、あの巨人が使ってる魔法を奪いたいの」

『パイロットオーダー、承認、魔法陣を生成します』


 詳細なやり方までは解らなかったが、オドオドとしながらも生成作業を行わせる事に成功。

 彼女の台の画面が切り替わり、『Loading』と言う文字が表示される。

 しかし、ここで一つ問題が起きる。


「え、ちょ、ちょっと、何で私のだけこんなに遅いの?」

「え?」


 首を傾げるフォスキアと見て、リージアは自身の画面にも進捗状況を表示させた。

 文字の周りに出て来たゲージは、確かに先の二人の物より圧倒的に遅い。

 相当複雑なのか、今回は数分程掛かりそうなペースだ。


「ちょ、ちょっと複雑みたいだね」

「それはそうだろうな、敵の使ってる能力の吸収?そんな魔法聞いた事も無い」

「……確か、鳥の悪魔シャックスは、そのような能力が有ると書物に有りましたね、エルフィリアさん、それが貴女と同化した悪魔ですね?」

「そうなのか?」

「ええ、私はそうやって強く成って来たの」


 フォスキアがどんな悪魔と同化しているか聞いていなかったが、かなり厄介な名前が出て来てしまった。

 シャックスやバルバトスは、アンジェラの知る限りでも危険個体であると記憶している。

 今すぐ関係者全員を火あぶりにしなければならない現状に、頭を抱え込んでしまう。

 しかし、相手は自分の常識から逸脱した面々。

 一旦深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。


「……咎める為の説教と審問をしたい所ですが、今は悪魔の手も借りたいです」

「良いの?聖職者がそんな事言って」

「もう貴女方に私達の戒律を当てはめるのは止めました」


 もう、どうのこうのとお説法を垂れても無駄だとアンジェラは諦め、今日の所は心に刻んでいた信仰心をゴミ箱に捨てた。

 聖職者にあるまじき発言に首を傾げるリージアだったが、思ったより頭の柔らかい彼女に内心感謝する。


「さて、お話は終わり、やっこさんお怒りだからね、魔法陣の生成が終わるまで時間稼ぐよ!」

「そうだな」

「だが、あの便利武器は使えそうにないぞ、他に何か白兵戦用の装備はないか?」

『装備、エーテルシュナイダー起動』

「有るみたいです」


 主砲を背部にマウントした母艦はライルの呼びかけに応え、腰部から二本のナイフを装備。

 空母の甲板のように巨大なナイフの刃は発振し、周囲にエーテルが付与される。

 これで殺せる訳ではないが、時間稼ぎには十分だ。


「来るぞ!」

『ギュルアアアア!!』


 咆哮と共に母艦へ襲い掛かるアルゴを前に、リージア達は自然と同じ行動をとる。

 二刀流のナイフ格闘の構えを取り、突進してきたアルゴを受け止める。


「グアッ!」

「凄い衝撃!」


 大地震でも発生しているかのように、コックピット内は激しく揺れる。

 だが衝突に伴い、ナイフは二本ともアルゴの身体を貫いた。

 相当頭に来ているのか、何としてでも殴ろうと暴れ続けている。


「チ、大人しくしろ!」

「任せて!」


 抑え込む操作を続けるモミザに同調し、リージアは自らの足と母艦の足を優先的に接続。

 青い立体映像のような物が彼女の足を包み、モミザは何をするのか察する。

 できる限りアルゴ側へ重心をかたむけ、蹴りに適した姿勢を取る。


「やれ!」

「はいよ!!」


 モミザの合図と共に、リージアは膝蹴りを繰り出した。

 彼女の行動に合わせて母艦も膝蹴りを行い、アルゴの下腹部に突き刺さる。


『グギャ!』

「やった!」


 膝蹴りによりナイフは引き抜かれ、血を吹き出しながらアルゴは後方へ下がった。

 何とかバランスを取って姿勢を正し、リージア達は目標を再度視認。

 既にナイフの傷は塞がり、血も止まっている。

 回復したアルゴは、リージア達へ向けて口を大きく開く。


「次が来るぞ!」

「エンゲルヴァント、再展開お願いします!」

『エンゲルヴァント再展開』


 アンジェラの要請に応え、母艦の左腕にシールドが発生する。

 しかしシールドが展開するなり、アルゴは上を向いてブレスを放つ。


「何!?」

「上!?」

「何かヤバそう!」


 上空に放たれたブレスは、巨大な球体となって空中で静止。

 後ずさりをする母艦は、シールドで身体を覆う。

 その次の瞬間球体は爆発し、ブレスの雨となって降り注ぐ。


「おいマジかよ!」

「ホスタ君たちが落とされる訳だ!」


 ホスタ達を撃墜した物と同じ攻撃を前に、リージア達は防御に徹する。

 不規則な弾道を描く魔力の塊の一部はシールドに阻まれ、見当はずれの場所に命中。

 しかし、一部の攻撃は母艦に命中してしまう。


「どわ!」

「被弾してるわよ!」

「あの密度にこんな巨体じゃ避けるの無理だって!」


 船体のあちらこちらに被弾しているが、ストリクスより硬いおかげで外装が剝がれる程度にとどまる。

 本体への攻撃によ生まれた衝撃は不規則にリージア達へ襲い掛かり、操作すらままならない程シェイクされる。

 行動できない彼女達に向けて、アルゴはブレスの構えを取る。


「今度は直接来るぞ!」

「防御!」


 咄嗟にシールドを構え、放たれて来たブレスを防御。

 シールドでは殺しきれない衝撃が襲い掛かり、完全にバランスを崩してしまう。


「クソ、バランサーが!」

『グルヲォォ!!』

「コイツ!」


 バランスを整えている所に、アルゴのタックルが母艦に直撃。

 後方の岩山を崩しながら倒れ込み、リージア達はアルゴに完全にマウントを取られてしまう。


「クソ!生成はまだ終わらないのか!?」

「九十五パーセントを超えたわ!後三十秒!」

「上等!」


 マウントを取るアルゴは、母艦へ向けて何度も拳を繰り出す。

 外装は所々潰れ、剥がれると言った被害が出ても、頭部だけは何とか死守している。

 何しろ頭部はこのコックピットでも有り、彼女達の上にはホスタ達も居る。


「頭部やられたら終わりだからね!」

「当然だ、俺達は勿論、上の連中も無事じゃすまねぇ!」

「直撃コースよ!」

「クソ!」


 言っている傍からアルゴの拳は母艦の頭部へと接近し、リージアは咄嗟に砲台を起動。

 首回りに有る連装砲の砲撃は、アルゴの眼球に命中。

 おかげで拳の軌道がズレ、拳は岩山へとめり込む。


『生成完了』

「できたみたいだ!」

「よし、コイツを引きはがす、気張ってよ!!」

「当然だ!」


 リージア達は母艦を操作し、力押しでアルゴを払いのける。

 流石にダウンさせる事は出来なかったので、アルゴは即座に斬り返す。


『ギグアァ!』

「よし、それで!?何ができたの!?」

「えっと、ッ、こんな時に耳鳴りが……ドレイン・バスターソード、だって」


 耳鳴りを耐えながら、フォスキアは生成の完了した武器の名称を告げた。

 名前が告げられると共に、母艦はナイフをしまい、マウントしていた主砲を取りだす。

 砲身の冷却は完了しており、そこから巨大なエーテルの剣が出現する。


「これなら!」

「行くよ!」


 五人は新たに生成された大剣を振りかざす動作を行い、母艦を操作。

 砲身を柄のように扱い、母艦は大剣を保持する。


『ギュルアアアア!!』

「どうなるか分からないが!」

「賭けるしか有りませんね!」


 復帰したアルゴは構えられている大剣何て気にも留めず、ノイズのかかった咆哮を上げながら距離を詰めて来る。

 詳しい使い方までは解らないが、新たに作られた大剣にリージア達は自分達の運命を預ける。


『行けええ!』


 コックピット内にリージアの絶叫が木霊すると共に、母艦は彼女達の動きに合わせる。

 彼女達の方からも接近し、お互いの運動エネルギーを乗せながら大剣を突き刺す。

 大剣は豆腐に包丁を突き刺す位簡単にアルゴの腹部を貫通、そのまま奥の岩山へと叩きつける。


「どうだ!?奪えているのか!?」

『スキルドレイン発動』

「今からみたいだな!」

「それじゃ、奪わせてもらうよ、アンタの力!!」

「これでッ、終わりよ!」


 鳴り響いたアナウンスを聞き入れ、リージア達はドレインを発動。

 この時フォスキアの耳鳴りは悪化したが、本人は気にする事無く続行する。


「ウッ!何、これ!?」

「……どうしたの!?」

「何か、あ、アアアア!!」

「フォスキア!?」


 ドレインを開始した途端、フォスキアはコントローラーを手放しながら苦しみだした。

 両手で頭を押さえ、膝から崩れ落ちる彼女にいち早く反応したリージアもコントローラーを置き、彼女の方へと駆け寄る。


「おい!一体どうした!?」

「分からない……ちょっと調べてみる!」

「早くしろ!ここは、俺達が押さえつけておく!二人共!」

「とりあえず押さえておけばいいんだな!」

「みたいです!」


 当然アルゴの方もただ黙っている訳ではなく、もがきながら脱出を試みている。

 大剣が押しのけられようとしている感覚は彼女達にもフィードバックされ、原因の究明を急ぐリージア達が開けた穴を埋めるように力を込める。

 四人の負荷が限界に達する前に作業を終わらせなければならないプレッシャーを浴びながら、リージアは台にある端末で解析を続ける。


「……なにこれ、ドレインされてる能力が、フォスキアの方に共有されてる!?」

「それマズイのか!?」

「あのデカブツの全部を吸収して、フォスキアを介してからこの艦のサーバーに流し込んでるから、下手したらフォスキアの頭がパンクする!」

「どうすんだそれ!?」

「……」


 考える余裕もないというのに、リージアは思わぬ状況を前に考え込んでしまう。

 焦りで正常な思考は失われ、頭は真っ黒になる。

 彼女が想定していたのは、アルゴの不死身レベルの回復魔法だけを奪う事。

 しかし、オーダーが大雑把すぎたせいか、対象の全てを奪うようにプログラムされてしまっている。

 アルゴは巨体を修復する為に、他の機械魔物達を取り込んでいた。

 その際に機械魔物達の能力も取り込んでいたとしたら、その量は膨大な物だろう。

 それを一個人の頭へと叩きこまれれば、どうなるか分からない。


「(どうしたら良いの?こんな事に成るなんて……いや、考えろ、考えるんだ、どうすれば)」


 無理矢理にでも思考を巡らせたリージアは、今のフォスキアの状況を元に対処法を考え出す。


「そうだ!」

「何か浮かんだのか!?」

「なら、早くしてくれ!そろそろ限界だ!」

「腕が痺れてきました!」


 ジタバタと暴れるアルゴを押さえつける三人だが、いい加減限界が差し迫っている。

 とんでもないタイムプレッシャーを感じるリージアは、大急ぎでプログラムを書き換えだす。

 一応フォスキア以外も、装置は着けたまま。

 ならば、彼女達にも同じような事ができる筈だ。


「悪いけど、アンタ等の脳と私とモミザのコンピューターを使って、フォスキアの負荷を軽減させる!」

「は!?そんな事しなくても、エルフィリアを経由しないルートに再設定すれば良い話だろ!」

「この剣の力はフォスキアの体内の魔法陣を間借りして使用してるから、その設定にするのは無理だからね!」

「クソ」

「ライル!アンジェラ!ちょっと頭痛くなるよ!!」

「は!?ちょ、アガッ!?」

「イギッ!」


 本人の承認無しで実行され、ライルとアンジェラに今までに無い頭痛が襲い掛かる。

 もちろんこの負荷は、アンドロイドであるリージアとモミザにものしかかっている。

 焼けた石を頭に置かれているような熱を感じながら、二人は他の彼女達の負荷を軽減して行く。


「(なにこれ、これなら焼き土下座とかの方がマシかも!……ドレインの、進捗は)」


 義体の動きさえ重く感じるリージアは、台に手をつきながらドレインがどれだけ進んでいるのか台の画面で確認する。

 既に七十パーセントに差し掛かっており、あと十秒程で完了するだろう。

 しかし、今の五人にはその十秒でさえ永遠のように感じてしまう。

 全員コントローラーを手放し、頭を抱えながら苦しみを味わっている。


「(クソ、後少し、後、すこ、し)ッ!」

『ギュル、グオアアアア!!』

「この」


 数字が百に近づくにつれ、リージアの意識は遠のいて行く。

 だが、アルゴも最後の悪あがきを開始。

 剣を引き抜こうともがきだし、艦内も少し揺れ動いてしまう。

 下手をすれば、ドレインが完了するまでに脱出される。

 虫の息同然の状態であるのだが、リージアはコントローラーを片手に持つ。

 しかし、揺れたせいでもう片方を何処かに紛失していた。


「あれ、もう片方、は」

「ほら、これ」

「あ」


 もう片方はフォスキアが持っており、二人は互いを支えながら立ち上がる。

 二人は息を合わせ、一緒に剣を保持するように構える。

 襲い掛かる頭痛や耳鳴りに耐える二人は、気合だけで母艦を操作。

 最後の力を振り絞り、アルゴを押さえつける。

 結果、彼女達の無茶が功を成した。

 ドレインは成功し、ゲージは百パーセントに達する。


「これ、で!」

「終わり、よ!」


 完全に無防備になったと思われるアルゴを前にして、二人は大剣を持ち上げる動作を行う。

 僅かな抵抗を力ずくで振り切り、アルゴの身体を両断する。

 今度こそアルゴの動力部と脳は完全に破壊され、周辺に居た機械魔物達も沈黙。

 しかし、それはリージアとフォスキアも同じ事。

 無茶がたたり、倒れ込んだ二人は鼻血を流しながら意識を手放す。


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