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巨神 後編

 リージア達が巨人のブレスで吹き飛ばされた頃。

 人間を乗せた二羽の大きな鳥たちが、平原を颯爽と駆ける。


「しかし、このタイミングでこの騒ぎとは、アイツ等、本当に喧嘩を売りに行ったようだな」

「そのようですね、それにこれだけの振動、彼女達以外にあり得ないかと」


 アンジェラとライルの二人は、ロードバードと呼ばれるダチョウのような魔物を駆りだしてリージア達の戦地へと向かっていた。

 早朝から異常な地震が起きた事で、町の上層部は傭兵や教会へ調査を要請。

 リージア達が絡んでいると予測した二人は、騒ぎを防ぐためにも色々な静止や提案を跳ね除けてここまで来たのだ。


「とは言え、私達が付く頃には終わっているだろうな」

「はい、この子達がどんなに速くても、グレートタイタンの居る山岳地帯に着く頃には昼頃ですからね」


 彼女達の駆るロードバードは、馬より積載可能な荷物は少ない代わりに迅速な行動が可能になる。

 普通の動物ではなく魔物という事も有り持久力も並外れているので、半日程八十キロ近い速度で連続して走り続けられる。

 しかしそれは平坦な道が続く時に言える事、山岳地帯に入る頃には大きく減速してしまう。

 リージア達の事を考えれば、到着する頃合いには終わっているかもしれない。


「それで、仮に終わっていなかったとして、どうします?我々も参戦しますか?」

「そうするしかあるまい、それに、借りを返すいい機会だ」

「……」


 二人に言い渡された任務は、あくまでも事態の調査。

 本来なら見て帰って来るだけなのだが、わざわざ行くのであれば彼女達の手伝いを可能な限り行うつもりだ。


「ッ、ギィィィ!」

「な、何だ!?」

「ギア!ギア!」

「ど、どうどう!」


 軽快に走っていた二羽のロードバードは、突如慌てふためき出す。

 何か危険な物を感じ取ったのか、二人の言う事を全く聞かない。

 猛スピードで走るが魔物の中でも比較的大人しい種類なので、ここまで焦るのは珍しい。

 こうなるという事は、相当な危険が二人の身に襲い掛かろうとしているという事だ。


「……ん?な、なんだ?」

「ちょ、あ、あれって」


 困惑していると、ライルの長い耳は異様な音を拾った。

 更に二人の居る場所が暗くなりだし、二人も自分の危機を感じ取る。

 何しろ、まだ米粒サイズであるが、リージア達の乗る母艦がこちらへ近づいているのだ。

 しかも制御を失い、吹き飛ばされてきている。


「逃げるぞぉぉ!!」

「はいぃぃぃ!」


 命の危険を悟った二人は、ロードバードを全速力で走らせる。

 数分走らせていると、リージア達の母艦は地上に激突。

 地面を掘り返し、地鳴りを引き起こす。

 衝撃でロードバード二頭と二人が飛び上がり、砕かれた地面達と共に吹き飛ばされてしまう。


「ギャアア!!」

「イヤアア!!」


 二人共ロードバードから振り下ろされ、そのまま地面を転がって行く。

 パラパラと落ちて来る土くれや石などを身体に受け、全身真っ黒になった辺りでようやく騒ぎが収まる。


「プハ!ぺ、口入った……って、な、何だ、これ?」

「……な、何でしょう、鳥?いえ、船、でしょうか?こんな天気の良い日に変な物が降って来ましたね」


 口に入った土などを吐き出し、土を掃う二人は目の前の大型艦に釘付けとなる。

 まるで一つの島のような大きさのそれに警戒しつつ、二人は連れてきていたロードバードを探す。

 一緒に吹き飛ばされたが、恐らく生きている。

 そう思いながらチラチラと見るが、どこにも彼らの姿は無かった。


「……あれ?鳥どもは何処に」

「え?……あ!あそこです!」

「ん?あ、あんな所に!」


 気付いた時には、二羽とも二人を置いて町へ逃げ帰ってしまっていた。

 もう安全の筈なのだが、そんな事はお構い無し、と言わんばかりの一目散具合だ。

 仕方ないので、二人は目の前の金属の塊を調べる事にする。


「……金属、のようだな」

「はい、ですが、何故このような」

「あれ?何でアンタ等が居んの?」

「あ?」


 石を投げるなどして様子を伺う二人の後ろに、リージアが降り立った。

 しかも既に悪魔の状態に変異しており、振り返った二人の事を驚かせる。


「ッ、何だ、お前か」

「びっくりさせないでください、魔物の襲撃かと」

「あはは、ゴメンゴメン、まぁそれはそうと……」

「……な、何だ?」


 アゴに指を置きながら、リージアは二人の顔を交互に見始める。

 数秒程舐めまわすような目を向けていると、何かを思いついたように黒めの笑みを浮かべだす。


「二人って、魔法得意?」

「え、あ、ああ」

「私も、回復魔法は高度な技術が必要ですから」

「あはは、これは丁度良い」

「な、何がだ?」

「あは……モミザ!主砲の調子はどう!?」


 まさかの吉兆具合に笑みを浮かべたリージアは、さっそくモミザへと通信を繋げた。

 その際、照準システムやチャージの問題の解決案を提示。

 そして、運よく現れた勝利の女神たちの方を向く。


「……さて、ちょっとは神のご加護ってのを信じられる気がしてきたよ」

「え?」

「は?」


 リージアのリアクションに、二人は首を傾げてしまう。


 ――――――


 数分後。

 よく解らない状況になっていたライルとアンジェラは、リージアに連行されて艦橋に上がっていた。


「……え、えっと、何でそいつら連れてきた?」

「言ったでしょ?勝利の女神が味方してくれたって」

「……確かに、コイツの能力を百パーセント引き出すには、人間が必要だが……まぁ、この際協力してもらうか」


 チラリと連行されて来た二人を見たモミザは、非常事態という事を加味して協力を要請する事にした。

 しかし、まだ二人は状況を呑み込めていなかった。


「す、すごい光景ですね」

「ああ、目がチカチカするが」

「すぐ慣れるわよ」

「フォスキア……何か、顔色悪くないか?」

「ええ、さっき吹っ飛ばされたうえに、耳鳴りとか頭痛が昨日から酷くて」

「大丈夫ですか?回復魔法でも」

「あ、それやったら余計悪化するから、遠慮しとくわ」

「え?あ、そうでした」


 フォスキアの身体の事を思い出したアンジェラは、すぐに錫杖をひっこめた。

 知らない場所での不安感がまだ抜けておらず、なんとも気まずい空気が形成されてしまう。


「……さてモミザ、私はもう行くから、手筈通りにね」

「え」

「フォスキア、辛い所ゴメン、やっぱり貴女の力が必要になったよ」

「いいわよ、こんな状態だけど、やれる事なら喜んでやるわ」

「……ありがと、じゃ、後よろしく!」

「ちょ、おい!」


 まだ整理の付いていない二人と、面倒ごとを投げつけられたモミザを残し、リージアはフォスキアに頭を下げてそそくさと外へ出ていく。

 作戦の指示書を貰ったとは言え、こう言う交渉事はモミザの苦手な分野。

 またこんな役目を押し付けられてしまい、艦橋の出入り口が閉じてから数秒程硬直してしまう。


「……え、えっと、とりあえず、うん」

「話辛いなら、私から話すわよ」

「いや、俺じゃないと良く解らない話だからな、俺がやる」

「……アンタ、苦労してんだな」


 ライルに同情されながらも、モミザはアタフタとしながら説明を開始。

 とりあえず状況説明などはフォスキア達に任せ、何をするのかはモミザが説明する。


 ――――――


 数分後。

 モミザの説明はぎこちない物であったが、周りからのサポートも有って、二人はかろうじて把握できた。


「ばかな、我々が対峙した時はそんな大きさでは」

「多分、外装ぶっ壊した時に何か制御装置みたいな物が、外れたんだろうな」

「それで、貴女方の武器のほとんど通用せず、取って置きを使うと」

「そうだ、だが、そいつを使うには、アンタらの力が要る」


 アンジェラの言葉に頷いたモミザは、さっそくコンソールをいじりだす。

 この艦の機能の全ては、リージアと同様に記憶に組み込まれている。

 そのファイルを元にして操作を行い、取って置きの為の設備を稼働させる。


「(使う事は無いと思ってたんだがな)」

「おわ!」

「い、椅子が」


 モミザの操作に応え、新たに三つの席がせり上がった。

 その事に驚くライル達を置いておき、モミザは動作のチェックを開始。

 シートベルトや付属パーツに不備が無いか見ていき、問題無い事を確認して頷く。


「よし、先ずここに座ってくれ」

「……フォスキア、こう言うのって何時もの事なのか?」

「ええ、そんなに頻繁じゃないけど、まぁ、その内慣れるわよ」

「……」

「……主よ」

「浮上するよ」

「ああ、頼む」


 浮上で揺れる中、モミザはライルとアンジェラを席に着かせる。

 扱いの解らないと思われるシートベルトは、モミザが代わりに締める。

 そして、背もたれに取りつけられているヘルメットのような物を三人に取りつける。


「何だ?これ、兜か?」

「それにこのベルト、なんのために」

「これはしておきなさい、事故ったら前の方に突っ込むわよ(とりあえず、これ取っておいた方がいいわね)」

「はい」


 タラッサの町での墜落でモニターに突っ込んでから、シートベルトだけはきっちりするフォスキアは、アンジェラにベルトをする事を促した。

 本人は大体何をすれば良いのか察しているのでプレゼントの髪飾りを外し、頭部に付ける装置を被る。

 まだ困惑の心が抜けない彼女達を他所に、モミザは次々準備を続ける。


「それで?どうやってチャージ時間を短縮するのよ」

「……そもそもチャージに時間がかかるのは、リアクターからのエネルギー供給をほぼ均一にしているからだ、主砲の方にエネルギーを回しすぎると、飛行能力も迎撃用のシステムも維持できないからな」

「……つまり?」

「えっとだな……この艦には三機の大型エーテルリアクターが分散配置されてる、で、それら一つ一つを、人間の脳波で活性させることで生成効率を向上させ、主砲への供給量を増加させる」

「何か読んでないか?」

「多分リージアがカンペでも持たせたのね」

「……そうだよ」


 顔を真っ赤にするモミザは、視界の隅に表示されていたカンペを消した。

 もしかしたら説明に詰まるかもしれないと、こっそり送信されていたのだ。

 一先ず彼女の頭に組み込まれているこの艦を運用するにあたって、想定していた運用方法のマニュアルを見ながら作業を進める。


「とりあえず、私達の力でリアクターの能力を向上させる、って事で良いのよね?」

「ああ」

「そう、でも、リージアがそんな機能付けると思えないけど」

「そもそもこの艦は、俺達アリサシリーズと人間の共同運用を想定していた、構造が九割以上同じだったおかげで、その名残の装置が有ったらしい、基地に居た時にその辺をナノマシンで再現したらしいんだ」

「それもカンペ?」

「……」


 やっぱりカンペを読んでいたモミザは、エンターキーを強めに押した。

 フォスキアの言う通り、リージアが人間と協力する想定の機能を付けるとは思えない。

 なので、わざわざ再現した理由までは解らない。


「なぁ、そろそろ何をすればいいか教えてくれないか?」

「ああ、そうだった、とりあえず、あれだ、うん、魔法使う感じで集中してくれ」

「いや、魔法って一口に言っても、物によって集中のしかたが違うんだが」

「まぁとにかく、あー……」

「(全く、相変わらず説明苦手ね、えっと、こうかしら?)」


 煮え切らないモミザを見て、フォスキアは勘でアクセスを開始。

 まだ耳鳴りや頭痛は無い程度に続いているが、辛いような物ではない。

 すると、無理のない程度に情報が共有される。

 そのおかげなのか、モミザが言わんとしている事がわかって来る。


「成程、二人共、とりあえず深呼吸して、魔法の基礎練習の感じよ」

「そ、そうか」

「魔法の基礎」

「……あ、成功した」


 フォスキアのおかげで、二人も艦のシステムにアクセスされる。

 自分の不甲斐なさに落ち込むモミザは、慣れない手つきでその事を確認。

 早速主砲の起動を行い、準備を進める。


「これ、私達には影響ないのか?」

「さっきの説明だと、生贄にされている気分が有りますね」

「あ、それなら、大丈夫だ、えっと」

「……成程、元々魔法は人から発せられる脳波が必要になる、でもこの艦にはそれを模倣したガーデンコードしかない、だから主砲のチャージには時間がかかるけど、私達本物を用いる事で魔力を活性化させてチャージ時間を短縮……つまり、必要なのは私達の脳波だけだから、特に心身に影響はないわよ」

「……そう言う事だ」


 説明するまでもなく、ある程度の情報をコンピューターから共有されたフォスキアが全部説明してくれたおかげで、モミザは完全に立場を無くす。

 もうただ座ってキーボードを叩く人になってしまい、肩身が狭くなってしまう。


「(いや、これだけで落ち込むな、こういう時はアイツの副官としての役割を任されてんだ)」

「帰投中のホスタから入電、ゼフィランサスとサイサリスが被弾したって、二人と機体の両方を何としてでも回収してってさ」

「分かりました、ではヘリコニアとベゴニアはガンシップを使い、二人の救助をお願いします」

「了解した!」

「分かったわ~」

「ではレーニアさん、操舵をお願いします、ブライトさんは対空警戒、ライラックとサルビアはマニュアル操作で接近してくる敵を迎撃、主砲への充填で実弾兵器しか使えない事をお忘れなく、決戦です、次で決めましょう!」

『了解!』

「……」


 リージアの副官として指揮を行おうとしたが、そこはスイセンに取られてしまう。

 白目を向くモミザは、他に何かできる事が無いか頭を回転させる。

 主砲に使用するエーテルの制御も重要な役目であるが、手持無沙汰な気分も有るのだ。


「よ、よし、三人とも、気分が悪くなったら」

「あの皆さん、すぐ近くに居ますので、気分が悪くなりましたらすぐに言ってください」

「……」


 せめて三人の介抱を、と思ったのだが、より適任なヴァーベナが名乗り出た。

 特にフォスキアは、この大型艦を相手にした時グッタリしてしまった。

 その事を気にかけての事であろうと、ヴァーベナはすぐ近くに医療道具を準備してある。


「(俺の存在意義って、一体)」


 劣等感を抱きながらも、モミザは全ての思考をエーテル制御に回しだす。

 悔し紛れのその行動のおかげで、エーテルのチャージは更に加速。

 以前は二十分程かかっていたというのに、今の調子であれば三分で済みそうだ。


『こちらホスタ、現着しました』

「ホスタさん、作戦内容は聞いていますね?」

『はい、来る途中に隊長からデータを送信していただきました』

「では、早速お願いします」


 母艦へ帰投したホスタは、早速作業を開始する。

 中途半端に損傷していた左腕を放棄し、自身の機体と母艦の照準システムのコードを引っ張り出して強引に接続。

 失われた母艦の照準システムをホスタとストリクスで補い、狙撃体勢を取る。


「ホスタ、今回はサイズがサイズだから、あーしがアシストしてやる、けど、最終的に当たるかはアンタの腕次第だかんね」

『解っています、けど、貴女の持ち場は』

「大丈夫、サルビア、おねがーい」

「りょぉかい、初登場から全然出番無いし、ここで少しでもいい所みせてやる」

「それは知んないけど、お願い」


 ブライトはホスタの駆るストリクスと母艦の照準システムをリンクさせ、ホスタ一人では難しい部分をアシスト。

 任されていた対空警戒はサルビアに任せておき、絶対に失敗しない様に限界まで集中する。

 準備は完了一歩手前に足を踏み入れ、後はチャージが終わるのを待つのみ。

 艦橋内には緊迫した空気が流れ、フォスキア達の息づかいさえ聞こえて来る。

 重たい空気の中で、スイセンは言葉を発する。


「巨神撃滅作戦、開始!」


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