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向けられた敵意 後編

 フォスキアがダウンして数分後。

 何とか復活し、ちょっと気まずく成りながら立ち上がる。


「ご、ごめんなさい、ちょっと、うん」

「よかった、身体に異常が無くて」

「(私はお前の頭に異常が有るとしか思えないんだが)」


 マジで風邪と思っていたので一先ず安堵したリージアは、ライルから冷めた視線を向けられてしまう。

 呑気に笑みを浮かべるリージアの死角に入り込み、フォスキアとコソコソ話を始める。


「おい、お前、少しチョロすぎないか?それに、アイツもアイツで鈍すぎるだろ」

「チョロいのは認めるけど、あの子自身恋愛に興味ないからそう言うの気付きにくいらしいのよ」

「そんな奴に惚れたのか?」

「残念ながら」

「あ、あの~」


 出来ればこのままヒソヒソ話を続けてリージアを嫉妬させたかったが、アンジェラに申し訳なさそうに入り込まれてしまった。

 ここで話を打ち切り、二人の目はアンジェラの方へ向く。

 ついでに、リージアも話へ参加する。


「私は彼らを本格的な治療をする為に教会へ運びますので、これで」

「あ、ああ、すっかり忘れてた、ごめんね、でも、誤魔化しておいてよ、先に手を出したのそっちだし、後首輪は繋いでおいて、こういう奴は何しでかすか解らないから、逆恨みで作戦を台無しにされたらたまんないし」

「……承知しました(注文多い)」

「ごめんなさいね、変な喧嘩売っちゃって、私達体質上、貴女みたいな聖職者は敵視しちゃうから」

「そう言う事でしたか、では、これで」

「じゃぁな」


 一礼したアンジェラは、転がるガルム達を魔法で浮かび上がらせた。

 プカプカと浮く彼らを運び、アンジェラは夜の町へと消えていく。

 それよりも、ライルは気になる事をリージアに聞くことにした。


「それで?お前達はこれからどうするんだ?」

「これから?決まってるでしょ?ここの壁ぶっ壊した奴殺しに行く」

「……そうか、だが、そいつが何なのか解っているのか?」

「さぁね、知ってる事が有るんなら、情報提供してほしいんだけど」

「……はぁ」


 基地のデータでどんな物が作られているかは知っているが、ここに何が居るのかは把握できていない。

 せめて情報の一つでも貰おうと、リージアは対価代わりの魔石をチラつかせた。

 麻袋にギッシリと詰め込まれた魔石を見たライルは、ため息をついた。


「グレートタイタン、サイクロプスとは別種の巨人型魔物だ」

「そっちか」

「あらあら、また厄介なのが相手ね……でも、この前の奴に比べたら、迫力不足ね」


 ライルからの話を聞いて、リージアはグレートタイタンのデータの閲覧を開始した。

 何が作られたのかは、レーニア達双子が二つ見つけ出している。

 二つ有るデータの内タイタンに関係する物を選び、改めて対策の考察を始めようとする。


「(グレートタイタン、召喚のみで出現するタイプの魔物か)」

「けど、普通の奴なら貴女でも倒せたのに、相当強化されてるわね」

「ああ、それも有るが、とにかく周辺の守りが硬い、そのうえ、見た事もない魔物が常に数十体屯している」

「見た事無い魔物?(ああ、タイラントね、中には既存の魔物を遺伝子操作で強化した奴も居るからね)」

「そうだ、相手するなら覚悟しておけ、既にアイツのせいでいくつもの町が踏みつぶされている」

「ご忠告どうも」


 軽く返事をしたリージアを前にするライルは、カタログに有ったタイタンのスペックを思い出す。

 全身を重武装させられ、生半可な攻撃は通らず、一歩歩くだけでも攻撃となる。

 そんな親玉だけならばともかく、非常に厚い肉の壁が討伐を阻んで来る。

 思い出すだけで身震いしてしまうその存在に、何度も辛酸をなめさせられてきた。


「とりあえず言っておくが、ここに来る前の戦いでエクスプロージョンを使用して鎧は破壊しておいた」

「エクスプロージョン?何?爆裂魔法?」

「そんな所ね、でも、こっちだと貴女達の感覚言う反応弾みたいな物よ、国の魔法使いが総出で魔法陣を構築して使う、戦略魔法とでも呼べる物だから、それに耐えるとなると」

「かなり強力、か」

「そう言う事だ、その時は向こうが撤退して取り逃してな、鎧を破壊できた分楽だとは思うが、油断はするな」


 アリサシリーズ級のE兵器であれば、反応弾にも耐える場合は有る。

 しかし、魔法であるエクスプロージョンであればその威力は計り知れない。

 そんな攻撃で中身を守りきれる鎧はかなり強力だろうが、それが無くなったのであればだいぶ楽だろう。


「ありがと、色々教えてくれて」

「ああ、だが、おススメはしないぞ」

「それでも行くのが、私の役目だからね」

「命知らずのバカか……」


 軽い笑みを浮かべたライルは、次の瞬間リージアの首に手をかけた。

 首を掴まれた程度で命に係わるような事は無いが、リージアはその手を掴む。


「ライル!」

「……」

「止めたい訳じゃないが、是非ぶっ殺してほしい気分なんだよ、そう言うヘラヘラしたツラを見ていると気分が悪い」


 フォスキアが止めに入る中で、ライルはリージアへキツイ目を向けた。

 今回の戦いのせいで、ライルの傭兵団は半数近くが命を散らしている。

 本当なら自分で行って殺したい気分だというのに、リージアのヘラヘラな態度には鼻に突いてしまう。

 そんな彼女の気持ちを察してか、リージアは笑みを消し、眼光も鋭く光らせる。


「安心してよ、確実に破壊する、それと、戦う時、私は何時も真剣だから」

「……せめて武運は祈っておく」

「ありがと」


 向けられたリージアの殺意が籠った目に、ライルは少し安堵する。

 明らかに戦場や仲間の死を知っている目をしており、先の戦いで見た姿とも重なる。

 リージアにこの場を任せ、ライルもこの場を離れる。


 ――――――


 ライルを見送ったリージア達は、町を後にした。

 夜風を浴びる二人は、ゆったりとした足取りでキャンプへと向かう。


「さぁてと、明日に備えてさっさと休まないと」

「……そうね」


 上半身を伸ばしながら歩くリージアは、どこかご機嫌な様子だった。

 何しろ、念願のダークエルフとの会話。

 しかも互いに息がかかる程接近し、肌に触れ合う事ができた。

 嬉しがる彼女に、フォスキアは冷ややかな目を向けてしまう。


「(全く、確かダークエルフも好きなんだっけ?本人が居ないとは言え、鼻の下伸ばさないでよね……私が言えた事じゃないか)」


 地味に嫉妬するフォスキアだったが、リージアに嫉妬させて喜んでいる自分にそんな権限は無い事に気付く。

 とは言え、ライルを悪く言う事はできない。

 なんだかんだ言って彼女は、リージア以外で悪魔に変異した自分を受け入れてくれた。

 とりあえず今はリージアの気が済むまで、脳内をお花畑にしておく。


「……ねぇフォスキア」

「な、何?」

「さっきお互いの事話して思ったんだけど、そう言えば、貴女は何で傭兵になろうって決めたの?」

「え、えっと……そう言えば、話して無かったわね」


 先ほどアンジェラ達に体の件を話していた時、リージアは一つの疑問を抱いていた。

 これまで気にもとめて居なかったが、何故フォスキアが傭兵となったのか。

 今になってその疑問がわき上がり、こうして星空の下で聞く事にしたのだ。


「まぁ、何と言うか、最初は復讐のつもり、だったかしらね?」

「……復讐、ね」

「そ、勝手に私をこんな身体にして、追い出したアイツらにね」


 改めて故郷での仕打ちを思い出したフォスキアは、拳を握り締めた。

 望んだ訳で手に入った身体と言う訳でもないのにただ一方的に攻められ、殺されかけたのだ。


「その為にわざわざ自分の身体使って武器も作ったわ」

「(覚悟ヤバ)」


 復讐を確実に成し遂げる為にフォスキアは変異させた自身の肉体を素材として装備を制作し、今まで戦い続けて来たのだ。

 その覚悟の凄さに、リージアは少し引いてしまう。


「……でも、十年くらいブラブラしてたら、何かどうでも良くなったのよ」

「え、何で?」

「傭兵として戦って、人助けする事が嬉しいって事に気付いたのよ」


 依頼の為とは言え、フォスキアは何度も人を助けて来た。

 その度に感謝されては、嬉しさが込みあがって来ている事に気付いた。

 何時しか復讐心も薄れ、いつの間にか人助けが傭兵を続ける理由になっていた。

 彼女の話を聞いていたリージアは、驚いた様子で首を傾げた。


「……人助け?」

「ええ、て言っても、自分の名誉を挽回して、汚名も返上する為でも有るかしら?私は悪魔の魔石を体内に持っているけど、人の、人間の味方だって証明したかったのよ、それで、何時かはリージアや、今回のライル達みたいな理解者を増やすつもりでいたのよ」


 悲し気な表情を浮かべたフォスキアは、補充を行ったスキットルをおもむろに取りだす。

 その中身を少しずつ飲みながら、傭兵となった経緯を思い出していく。

 同胞達に殺されかけ、信じていた全てに裏切られた。

 打ちひしがれ、泣きじゃくった先に考え付いたのは、力を有効に活用するという物だった。


「それに、傭兵さえやっていれば、以前みたいに悪魔と鉢合わせする事も有るから、結構好都合だったのよ、悪魔殺しを続けていれば、もしかしたら故郷の連中も理解してくれるって期待してたんだけど……そうもいきそうに無いのよね」

「……成程、本当に苦労してるんだね」

「本当よ、昔は今より全然弱かったから、ゴブリン数体ならまだ良かったけど、ホブにもなると正面からだと全然だったわ、この剣も持つのだってやっとだったし」


 昔のフォスキアは、今程強くは無かった。

 故郷で暮らしていた頃は戦いを学ぶ事も有ったが、それでも基礎部分のみで実戦は経験していない。

 当時は大剣さえ振り回す事もままならず、ホブゴブリンにさえタイマンは挑まなかった。

 しかしいくつもの死線を潜り抜け、やがて大型の魔物さえ一人で倒せるまで成長した。


「そう言えば、何か魔石を吸収して強く成る、みたいな事言って無かった?」

「え?ええ、確かにできるわよ、でも魔法陣が不完全で効率が悪いのよ、パワーアップするパラメータは個体によって違うし……そうね、ゴブリン十体位でパワーのステータスが一個上がる感じかしら?」

「効率悪」

「あはは、確かに悪いよ、だから普通の鍛錬とかも欠かさなかったわ」


 フォスキアの体内に埋め込まれている魔石は、シャックスと呼ばれる個体の物。

 その悪魔はあらゆる物を奪い、吸収する力を持つ。

 力の一部はフォスキア自身にももたらされており、魔物の魔石を介して力を吸収できる。

 しかし効率は非常に悪く、そこまでアテに出来るような物ではない。


「鍛錬か、技量以外の向上だと、私達には縁がないね」

「確かに、細胞使ってるってだけで、筋肉とかは無いのよね」

「まぁね」


 アンドロイド兵にとって、筋力・体力を向上させる鍛錬は意味がない。

 今のリージアであっても、鍛錬で向上が見込めるのは技術だけだ。

 全体的に悪魔の細胞を用いられているとは言え、筋肉や骨が有る訳でもない。


「(でも羨ましいな、私もそんな風に自分の道を選んでみたかった)」


 フォスキアの話を聞き、リージアは少し考えこんだ。

 人間は忌み憎む存在ではあるが、羨ましく思える事も多い。

 その内の一つは、形はどうあれ自分の人生の道を選べる事。

 戦う為のアンドロイドとして生まれたリージアには、その自由は無かった。


「ねぇ、やっぱり、その道を進むようになって、後悔する何て事、有った?」

「そりゃ有るわよ、それも一回や二回なんかじゃなかったし、何度も死にかけて、痛い思いして」

「……まぁ、戦ってるんだもんね、それはそうか」


 フォスキアの脳裏に過ぎるのは、駆け出しの頃の苦い思い出。

 刺され、斬られ、殴られ、時には毒に侵された事も有った。

 再生能力が有っても痛みが有り、心が折れそうになった事は数え切れない。

 色々な事を思い出しながら、フォスキアはリージアの手を握りだす。


「でも」

「ちょ!」

「傭兵にならなかったら、貴女とこうして居られなかったわよ」

「え、あ……そ、そう」


 フォスキアに触れられ、リージアは顔を真っ赤にしながらうつむいた。

 無い筈の心臓が高鳴っているような気分になり、頭の中がフォスキアの事ばかりになってしまう。

 フォスキアの体温が伝わり、自分の身体も火照りだす。

 全部投げ捨て、この手を引いてどこか静かな場所に逃げ出したかった。


「……ッ、さ、さぁ、は、早く、行こうか」

「あ」


 邪な考えが浮かんでしまっている事に気付き、リージアはフォスキアの手を振り払う。

 顔を真っ赤にしたままキャンプへと歩いて行き、火照った心身を冷ましていく。

 そんな彼女を見て、フォスキアは少し顔を赤くする。


「……ちょっと、やりすぎたかしら?でも、人助けを楽しく思えてても、今まで何のために生まれて来たのか疑問に思う事も有ったのよね……でも、貴女に逢えたおかげで、私は生まれて来て良かったって思えたわ」


 一瞬ゼフィランサスが持ちかけたナゾナゾも脳裏を過ぎったが、今はそんな事はどうだっていい。

 傭兵になったというこの事実は、決して間違った選択では無かった。

 それだけははっきりと言う事ができると、フォスキアは確信している。


「て、もうあんな所に!ちょ、ちょっとリージア!ま、グッ!!?」


 いつの間にか遠くに離れたリージアを追いかけようとした瞬間、フォスキアに再び耳鳴りが襲い掛かった。

 頭全体に高周波が響き渡るかのような、不快な音に襲われてしまう。

 めまいと頭痛が襲い、立つ事ができなくなる。


「あ、う、何?これ」


 めまいや耳鳴りに苦しむフォスキアは、徐々に妙な幻覚が見えだす。

 何故か解らないが、その幻覚にはリージアが作った新型のストリクスが現れている。

 それだけでは無く、他にもリージアの作った新型も確認できる。


「(これって、戦いの記憶?)」


 まるで戦いの記憶その物のような映像がフォスキアへ襲い掛かり、情報が直接脳に叩きつけられている気分になる。

 耳鳴りも鼓膜に高周波を直接流されているかのように響きわたり、頭の痛みに拍車がかかる。

 視界も徐々に歪みだし、幻覚以外何も見えなくなってくる。

 頭が割れそうま気分になりながら、フォスキアは地面に膝をつく。


『……キア……フォ……ア!』

「え?あ……」


 高周波音ばかり聞こえていたが、徐々にリージアの声が耳に入る。

 彼女の声のおかげか、症状は徐々に緩和されていく。

 幻影しか見えていなかった視界は元に戻って行き、耳鳴りも収まる。


「フォスキア!」

「ッ!リー、ジア」

「どうかしたの?急に倒れたから」

「……ごめんなさい、ちょっと、耳鳴りとかが」


 いつの間にか滝のように流れていた汗をぬぐったフォスキアは立ち上がろうと、膝に力を入れた。

 しかし身体は思う通りに動かず、足から勝手に力が抜けてしまう。


「あ」

「……待ってて、すぐヴァーベナの所に連れて行くから」

「あ、ありがとう」


 明らかに病気にしか見えなかったリージアは、再び倒れてしまったフォスキアの事を担ぎ上げて運びだす。

 そろそろヴァーベナ達も戻ってきていると信じ、キャンプへと走る。

 生物関連の研究も行っているリージアも多少の医療知識は有るが、フォスキアを想うのならば、やはり専門的な知識を持つ彼女に頼るのが一番だ。

 彼女を治す為と自分に言い聞かせるリージアの足は、フォスキアの容態を考え、程よい速度を維持。

 しっかりと速さを出しながらも、安定感のある走り方を意識する。


「(何この感じ、私の身体、どうなって)」


 今まで味わった事の無い気分の悪さを前にして、フォスキアは身体を震わせる。

 言い知れない恐怖に襲われながら、フォスキアはリージアにしがみ付く。


「(あ、柔らかい、じゃなくて、今は真剣に!変な事考えちゃだめ!)」


 自分の煩悩と戦うリージアの事を知らずに。



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