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束の間の安息 後編

 リージアとフォスキアが食事を始め、数十分後。

 用意された料理は全て無くなり、空の器だけが残る。


「はぁ、美味しかった、ご馳走」

「お粗末様」


 心地よく酒に酔う二人は、食事を終えた余韻に浸る。

 フォスキアはリージアより先に余韻から復帰し、食器を片付け始める。

 そんな彼女を見て、リージアも立ち上がる。


「手伝うよ」

「良いわよ、私がやるから」

「そ……なら、ちょっと夕涼みに行って来る、すぐ戻るね」

「え」


 断られたリージアは、笑みを浮かべながら部屋の出入り口へ向かう。

 彼女の手がドアノブにかかった時、フォスキアは言葉の違和感に気付く。


「ちょ、私が居ないとこの部屋には……」


 フォスキアのライセンスカードが無ければ、この部屋には入れない。

 それを伝えようとしたが、既にリージアは扉の先。

 言葉が耳に入る前に、扉は閉じられてしまう。


「まぁ良いわ、すぐに片付けて追いかければ」


 そう言い、フォスキアは水道を使って食器を洗っていく。

 部屋の外とは隔絶されているとは言え、こういった生活用水の供給や排水などもしっかり行える。

 構造もフォスキアさえ把握できない物なので、どうなっているのかはこの空間を作った人物しか分からない。

 洗い終えた食器を片付けたフォスキアは、早速荷物の整理を開始する。


「あら、あの子ったら、武器忘れて行っちゃって、まぁ夕涼みって言ってたし、仕方ないわね」


 自分の荷物をまとめたフォスキアは、ついでにリージアの武器類も回収。

 それらを持って部屋の外に出ていく。


「さて、あの子、何処にッ!?」


 ロッカーから出ると、突然フォスキアの頭に針が刺さったような痛みが走った。

 同時に耳鳴りまで襲いかかり、立っている事さえままならなくなる。

 その辺に手をつき、苦しさを耐える。


「……飲みすぎ、かしら?」


 すぐに症状は治まったが、どうにも違和感がある。

 最近自分の身体に妙な事が起きている気がしてしまっているが、ヴァーベナの診断では特に問題は無いとの事だった。


「……ウ、また、耳鳴り」


 頭痛は収まったが、耳鳴りは再び起きてしまう。

 こんな症状は初めてだったので、困惑もある。

 耳と言うより、頭蓋に甲高い音が響いているかのような感覚。

 それが耳を刺激し、耳鳴りのような症状を出しているようだ。


「何なのよ、これ」


 ――――――


 その頃。

 酒が入り高揚する気分に任せ、リージアは夜の街を徘徊していた。

 街灯なんて物も無ければ、かがり火のような物もない。

 星と月の明かりだけに照らされ、気分がフワフワとする。


「(……何度も味わって来た、この風情と苦しみの入り混じった夜、もううんざりだ)」


 大戦時の夜も、こんな気分だった。

 背景だけを見れば、呑気に酒の一つも傾けたくなるような夜。

 しかし視界以外の五感が捉えるのは、戦いの焦げ跡。

 焦げた鉄臭さが残り、人の悲しい声も耳に入る。

 いい加減うんざりする位味わって来たが、もう少しの辛抱だと耐える。


「(でも何故だろう、気分がいい……酒のおかげかな?いや、フォスキアとの食事会のおかげかな?)」


 それでもリージアの気分の高揚は、未だに収まっていない。

 雲の上を散歩しているかのように身体が軽く、戦いの事を忘れられる。

 そしてしばらく歌っていなかった歌が、彼女の口へ上って来る。


「さ~いぃた~、さ~いぃた~、チューリップゥのはぁなぁが~」


 柔らかな声で歌うリージアは、適当に足を動かして進む。

 傍から見れば千鳥足にしか見えないが、ただの童謡でステップを踏んでいるだけだ。


「よう!今朝の無礼女じゃないか」

「……」


 突然入った男の声に、リージアは足と歌を止める。

 笑みの消えた顔を聞こえて来た方へ向けると、五名の聖職者が酒瓶を手に屯していた。

 先頭でバカにしているかのような笑みを浮かべる男の顔は、リージアの記憶の隅に有った。


「(ああ、あの時の、大方、権力にすがる寄生虫か、揉め事はゴメンだし、今は無視だな)」

「おい!!折角俺が酒の席に誘ってやろうってんだ!無視してんじゃねぇよ」

「……」


 これ以上の揉め事を起こさない為に無視して進もうと思ったが、アンジェラの側近であるガルムはリージアの事を引き留めた。

 肩に手を置かれたリージアは、必死に殺意を抑え込む。

 気分が高揚していたのが幸いし、相手の腕を引き裂かずに済んだ。


「手を放せ、私は今気分が良い、今ならタンコブ一個で済むよ」

「何だと?英雄ってもてはやされているからっていい気になるな、所詮貴様は漁夫の利で勝った事に変わりは無い、それが何でかわかるか?」

「……」

「この俺様が、大量の魔物を殺したからだ、つまり、お前達は偽りの英雄って訳だ!ハハハハ!」

「チ」


 ガルムに続き、その取り巻きらしき者達は高笑いだす。

 嘲笑の渦の中で舌打ちをしたリージアは、ガルムの手を掃った。

 確かに漁夫の利であった事は、リージアも認めている。

 だが、それは英雄となる為ではない。

 ただ自分の役割を果たす為に機械魔物共を排除したにすぎない。

 それ以前に、過去一の地雷を踏まれて気分がゼロに差し掛かってしまう。


「貴様、何をしたか分かっているのか?」

「……それ以上口を開いてみろ、殺すぞ」

「ッ!」


 折角プラスだった気分を台無しにされたリージアは、ガルム達へ視線と殺意を向ける。

 突き刺さりそうなその目に、ガルム達は怯む。


「な、何だ?やるってか?」

「……このまま回れ右して、小便まき散らしながら神様にお祈りしに行くんなら……見逃すぞ」

「このアマ、舐めやがって」


 完全に喧嘩腰になったリージアはハルバードを手に取ろうとしたが、フォスキアの部屋に置いて来た事を思い出す。

 銃も愛用のリボルバー程度しかなく、ほとんど丸腰と言ってもいい。

 だが、武器が完全に無い訳でもない。


「誰に喧嘩売ったか、思い知らせてやる!」

「……」


 額に青筋を浮かべたガルムは、リージアにかざした手に白い魔法陣を展開。

 それを見たリージアは、左腕一本で防御体勢を取る。

 同時に魔法の準備が整ったのか、ガルムは叫ぶ。


「神の刃で身を裂かれろ、シャイニングジャベリン!」


 魔法陣から放たれたのは、一筋の光の刃。

 その光は弾丸の如くリージアへと迫り、身体を斬り裂こうとする。

 常人であればその速さに反応できず、瞬きをした次の瞬間には身体は半分になっている。

 しかし、左腕の装甲を展開したリージアは違う。


「な!」


 光の刃はリージアの左腕に命中する前に形を崩し、多方向へと散った。

 その様子を見たガルムは、目を見開いた。

 この光景は、一部の機械魔物を相手にした時に何度か見た事が有る。


「き、貴様、何者だ!」

「グガアアア!!」

「何だ!?ッ!」


 錫杖を強く握りしめ、リージアに迫ろうとした時、ガルムの取り巻きの一人が苦しみだした。

 悲鳴の方を振り向くと、その男の両足が切断されている事に気付く。

 彼の足の近くにはうごめく黒い何かを確認したが、すぐに隣に居たもう一人の取り巻きへ迫る。


「ヒ!ウワアア!腕が!!」

「クソ、何だ!?コイツ!」


 その何かはもう一人の取り巻きの腕切り裂き、反撃を避けるように飛び上がる。

 彼らの視線も上へと上げられ、その何かの正体を目にする。


「あ、悪魔」


 月光を背にするリージアの姿を前に、ガルムは自分達が対峙したのが悪魔である事に気付く。

 月明かりを背景に飛び上がったリージアは、生やした尻尾を取り巻きの一人へ放つ。

 鞭の如く音速を超えて放たれた一撃は、取り巻きの一人の耳元へ接近。

 耳元で戦闘機並みのソニックブームを発生させ、取り巻きの聴力と意識を奪う。


「ッ」

「おい!しっかり」

「フン!!」

「シッ」


 地面に降り立ったリージアは、残りの一人のアゴに蹴りを入れた。

 その一撃で脳にダメージを負い、最後の一人は意識を手放す。


「く、クソ、あ、アンジェラ様!」


 意識を失って倒れ込む最後の一人を目にして、ガルムは助けを請いながら逃げだす。

 背を向けるリージアは、後ろに目が付いているかのように尻尾で追跡を開始。

 ソニックブームを発生させる程の速度を人力で振り切れる訳もなく、ガルムは巻き付いた尻尾で全身を拘束される。


「アガ!は、放せ!」

「黙れ、野郎の触手物何て興味無いどころか、胸糞過ぎて脳破壊もんだからな、それ以上話されると力加減を間違えそうだ」

「ガ、アア!」

「(はぁ、クソ、何かお尻痒くなってきた)」


 リージアの尻尾に伝わって来るのは、ガルムの骨がきしむ音。

 出来ればこのまま意識を失ってほしいが、これ以上胸糞が続くとこのまま圧壊させそうだ。

 落ち込む彼女の尻尾には、蕁麻疹的な物ができている感じがしてくる。


「ッ!(あ、あれ?なんか、マジで痒い、なにこれ?蕁麻疹?)」


 気のせいかと思っていたが、本気で痒くなり始める。

 おかげで、リージアの義体に鳥肌のような物が立つ。


「あ、あああ!ヤバい!マジ無理!これ以上無理!」

「ウワ!」

「痒い!痒い!クソ!」


 痒みが限界を迎えたリージアは、ガルムの事を投げ捨てた。

 その痒みを抑える為に、お尻をかき始めだす

 手の届かない尻尾の方は、地面や家屋に叩きつける。

 しかし自分の手ならばともかく、石や木では鋼鉄以上の強度を持つ尻尾相手に刺激にならない。

 その事に気付いたリージアは尻尾を止め、冷静にリボルバーを抜く。


「このこの!この!」


 五発の銃声が響き渡り、痒みの有った個所に弾丸が命中。

 強化弾のおかげで、何とか痛みを感じた。

 傷一つ付かなくても気休めにはなり、リージアは暴れるのを止める。


「はぁ、はぁ、なにこれ?人間アレルギー?」

「あ、ああ、あ、あ」

「……」


 痒みの収まったリージアは、逃げ腰になるガルムに目をやった。

 歩く事さえできないダメージを負い、情けなく這うように逃げている。

 そんな彼を前にして、リージアは弾を込め直す。

 本来は最高六発装填だが、普段は暴発を避けるために五発しかいれていない。


「さて、アンタみたいなのは、変な因縁付けて後で面倒起こすかもしれないから、ここで死んでもらおうか」

「や、やめてくれ!」

「おやめなさい!」

「おっと」


 止めを刺そうとすると、上空から一つの影が降り立つ。

 明らかに刃のような物が見えたので、リージアはすぐにバックステップで回避した。

 距離を取ったリージアは、誰が降って来たのか視界に収める。


「……ああ、今朝の」

「……貴女、その姿は」


 二人の間に入ったのは、槍を携えたアンジェラだった。

 今のリージアは尻尾を出している状態の為、悪魔のようにしか見えない。

 聖職者である彼女からしてみれば、敵以外の何物でもない。


「どうも、改めて今朝はすみませんでした、言い訳にもなりませんが、ちょっとイラ立っていたので」

「……」

「怪我人はどうなりましたか?うちの軍医は優秀です、問題は無いでしょうが」

「黙ってください!」

「……」


 作り笑顔で話しかけるリージアだったが、アンジェラは途中で切り上げた。

 彼女の視界に映るのは、リージアの手で無力化された取り巻き達。

 どう見てもリージアが殺害し、ガルムまで手にかけようとしていたようにしか見えなかった。

 と言うか、尻尾出しっぱなしで言うセリフではない。


「何故、彼らを殺したのですか?」

「殺したいのは山々だったけど、全員生きてるよ、焼きながら切ったから止血もできてるし、ちょっと休めば、人間以下の生活はできるよ」


 それぞれ四肢の欠損や、鼓膜の破裂、脳震とうによる気絶。

 回復しても結局社会的ハンデを背負う事になるが、それでも生きている事に変わりない。


「……では、質問を変えます、貴女は、何が目的なんですか?何が狙いで」

「目的?私の目的は、あの機械魔物共を一体残らず破壊する事、それ以外どうでもいい」

「自分でこんな事態を起こしておいて、何を言っているのですか!?」

「……は?」


 アンジェラの突拍子もない発言に、リージアは首を傾げた。

 確かにこの事態を引き起こした一因である事は否定しないが、厳密に主犯ではない。

 しかし、悪魔が主犯であると伝えられているアンジェラには、リージアが犯人と認識していた。


「エルフの方々が掴んだ情報です、この事態は悪魔が引き起こしていると!」

「……そのエルフさんがどこでそんなバカみたいな事にたどり着いたか知らないけど、生憎、この事態を引き起こしたのは私じゃないよ、関りは有るけど」

「……それでも、私は貴女が何なのか解らない、誰なんですか?貴女は?」

「……リージア、ただのアンドロイドだよ、悪魔を使って作った」

「ッ!?」


 正体を明かした方が良いと判断したリージアは、全身を変異させた。

 以前とは異なり、完全に義体と融合させている。

 前回のように途中で力尽きるような事は、先ずないだろう。

 そんな義体の変異に驚くアンジェラの前で、リージアは自分の腕を外す。


「ま、ようするに、金属の中に悪魔の細胞を溶かし込んで構成した金属の塊、かな?」

「……全然分からないんですが」

「アンタに理解されよう、何て思ってないからね、それとも、解っても私を排除する?聖職者として、悪魔は許せない?」

「許せませんよ、どんな理由が有っても、悪魔に魂を売るなんて、許される筈が有りません!」


 そう言いながら、アンジェラは槍を構えた。

 身体は震えており、正体不明の敵への恐怖が身体を支配している。

 そんな彼女を前にして、腕を戻したリージアは黒い笑みを浮かべながら構えを取る。


「やる気なら、相手になるよ、アンタを見ると、どうもイライラして仕方無いんだよね、さっきの戦いだとこれ使う必要も無かったし、慣らしに丁度いい!」

「分かりました、では、私は!」

「来い!」


 お互いに敵意を向け合うと、二人そろって足に力を入れた。

 間合いを詰め、一撃を入れようとした瞬間。


「ちょっと待った!」

「ッ!」

「何!?」


 二人の間にチャクラムが投げ込まれ、一人の少女の声の元に仲裁された。

 地面に叩きこまれたチャクラムを前に動きを止める二人へ、緑と白のグラデーションの入った羽毛が降り注ぐ。


「もう、何をしているのよ」

「ふぉ、フォスキア、何でその恰好で来ちゃったの!?」

「……何で、ですって?」


 現れたのは、悪魔の姿に変異したフォスキア。

 リージアの忘れ物を持って来た彼女は、そのままリージアの近くに降り立つ。

 地に足を付けたフォスキアは、驚くリージアを睨みだす。


「アンタが変異なんてするから!何かヤバいの来たのかと思ってこうして駆けつけて来たんじゃない!!」

「ごめんなさい!!」

「全く」


 威圧感マシマシで怒鳴られ、リージアは涙目になりながらフォスキアに頭を下げた。

 変異を行う際の気配は察知できるので、フォスキアが変異してきたのはリージアのせいなのだ。

 その怒りを露わにしながら、フォスキアはチャクラムを回収。


「貴女は、確か、ライルさんと話していた」

「ええ、お昼ぶり」

「貴女まで、何なんですか?その姿」

「ただの訳アリよ……それより、ここで一番得するのは、あの機械共なんだから、喧嘩は後にしなさい」


 クルクルと指でチャクラムを回すフォスキアを前にするアンジェラは、槍を構えながら少し下がる。

 アンジェラの目線からしてみれば、敵となる悪魔二人が同時に現れたような物。

 完全に劣勢に立たされてしまい、冷静さを欠如させてしまう。


「貴女まで、悪魔に魂を売ったのですか?何故こんな事に」

「……随分面倒な話をしてたみたいだね、と言うか、余計に面倒になりそうだけど……そろそろ出てきたら?ライル?」

「え?」


 困惑するリージアは、フォスキアが視線を向けた方を見る。

 呼ばれた事で、建物に隠れていたライルはゆっくりと姿を現す。

 それも、困惑して冷や汗を流しながら。


「……お前、その姿」


 フォスキアの姿を見るなり、ライルは腰に下げていた鞭を構えた。

 いくら旧知の仲でも、やはり悪魔の状態であるフォスキアには敵意を持ってしまっている。


「あはは、これ、修羅場確定ね」

「……そだね」


 アンジェラとライル、彼女達に睨まれるリージアとフォスキアの二人。

 どう考えても戦う一歩手前の空気が出ており、話し合いができそうな空気ではなかった。



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