王都ラマネス 前編
降下したアーマードパック部隊に続き、リージア達まで戦線へと参加。
その結果、平原は更なる地獄となっていた。
空中はホスタとサイサリスの二名が血の雨を降らせ、彼女達の援護を受けるヴァーベナは、遠方に居る機械魔物へ次々爆撃を降らせている。
その地上でも、リージアを筆頭にアンドロイド達が暴れ回っている。
「オゥリャッ!!」
特にイキイキとしていたのは、全身をアーマーで包んだミノタウロスを殴り殺したモミザ。
防弾性も高く、戦車砲さえ防ぐようなアーマーをぶち破り、その奥の本体は彼女の拳で潰された。
以前の義体であれば、こんな事は出来なかった。
だが今使っているのは、大戦時の物を改修した義体。
威力が数段跳ね上がった事を認識し、笑みを浮かべながら薙刀を振り回す。
「はははは!やっぱりエーテル使うと義体が軽いな!!」
「何時になく嬉しそうだね、魔法が怖いとか言ってたクセに」
「それはそれ、これはこれだ!」
フォスキアの魔法に恐れを見せていた彼女だが、これまでのストレスを乗せて機械魔物を殴りつけた。
薙刀で間合いの外の敵を斬り裂き、内側の敵は殴る。
大戦時に使っていた戦い方によって、モミザは気分良く戦いを続ける。
「アンタ達、こんな状況でよく余裕で居られるわね」
「あはは、私達にとって、戦場がホームグラウンドだから」
「難儀な物ね、と!」
リージアの育ちに同情しながらも、フォスキアは機械魔物達を両断。
一振りで複数体の魔物が斬り裂かれ、改めてモミザの仕事に感服した。
そして、魔物達が集中している所に手をかざす。
使用するのはテンペスト・ブラストより範囲は狭いが、貫通力の高い風魔法。
「ソニック・シュート!」
フォスキアの手から放たれたのは、地面えぐり射線上の魔物を消滅させる風の砲弾。
自分で放った魔法を前にして、フォスキアは目を点にしてしまう。
「(……なにこの威力?何時もならお腹に風穴が開く程度の威力なのに)」
何時もであれば、成人男性のお腹に大きめの穴が開く程度の物の魔法。
一見するとサイクロン・ディスラプターに見えたが、今回使ったのはその下位互換。
今のように、地面をえぐる程の威力が出る事は無い。
「……」
『ちょっとぉ~、ボ~っとしないの!!』
「あ!」
ついこの違和感を考え込んでしまい、フォスキアは襲い掛かって来るサイクロプスに気付けなかった。
そんな彼女を救ったのは、ヘリコニアの駆る四本脚のアーマードパック。
彼女が仲裁に入り、左腕の武器を掲げる。
『エイヤッ!!』
彼女の機体の左腕に搭載されているのは、巨大なチェーンソー。
表面の装甲は火花を散らしながら破り、その先の肉体へ刃が到達する。
『グゲァァァ!!』
「……」
ノイズのかかった断末魔と共に、サイクロプスの返り血が吹き荒れる。
ここまで残虐な殺し方を初めて見たフォスキアは、顔を青ざめながらキョトンとしてしまう。
以前からチェーンソーを使って戦う彼女だが、よりによってその大型を自作していた。
その威力は見ての通り、アーマードパックと同サイズのサイクロプスを両断する程。
『アハハハハ!次よ!もっと来なさい!!』
恐怖で身体を震わせるフォスキアを他所に、狂喜するヘリコニアは火炎放射器を噴射。
エーテルを燃料に、フォスキアが構築した魔法陣に従って魔物を燃やしていく。
風以外は滅多に使わないとの事だったが、この程度は容易らしい。
炎の暴風は機械魔物の事を焼却し、焼け焦げた装備と肉だけが残される。
『フフフフ!もっと踊りましょう!私達と一緒に!!』
不気味な笑い声を上げながら、ヘリコニアは二本の前足で敵を踏みつぶす。
更にスラスターを一気に吹かし、回りながら前方へと飛び掛かる。
空中でミサイルとグレネードをばらまき、周囲を爆破。
落下した勢いで魔物を踏みつぶし、回転しながら火炎放射器とチェーンソーを振り回す。
『成程、確かに踊っている様だな!』
『あら、少尉さん!』
狂喜乱舞するヘリコニアの元に、全身凶器のゼフィランサスが降り立つ。
近接武器しか装備しない彼女も、ヘリコニアと共に魔物を刻む。
エースの彼女と肩を並べて戦うが、一応ヘリコニアは非戦闘タイプ。
アーマードパックは元々アンドロイド用の重機として作られた物だったので、作業タイプの彼女もよく使っていた。
安全第一の繊細な作業を続けていただけあって、技量はすさまじく高い物へと吟味されている。
『何時見ても全身凶器ね!』
『ああ、だがお前ももう少し増やそうとしていただろ!』
『当然よ!何故なら』
エーテル駆動にしたおかげで、従来型よりも積載可能な重量は増えている。
それを聞いた二人は、調子に乗って可能な限り武器を積もうとしていた。
ヘリコニアは技量の問題で今の分が限度だったが、下手したらもっと積んでいた。
その理由を、二人は同時に答える。
『武器は多い方が有利なのよ!』
『武器は多い方が有利だから!』
等と言う脳筋発言を繰り出しながら、二人は舞い踊る。
お互いに気が合ったせいか、踊りには余計に熱が入りだしている。
その戦いを細めた目で見ながら、ベゴニアは応戦を続けていた。
『全く、少尉は、相変わらずだね!』
巨大なカマキリ型の機械魔物と取っ組み合っていたベゴニアは、腹部に搭載してあるエーテルキャノンをおみまいした。
これによって、カマキリの上半身と下半身はお別れ。
その死骸を避けたリージアは、近くにいた細かい魔物を吹き飛ばす。
「相変わらずって、何時もあんな感じなの?あっちに居る時は、ゼフィーの戦う所見た事無いから」
『ああ、剣は使い捨てだが、多すぎるって何時も司令官に怒られていたよ!』
両肩のサブアームで保持されたエーテルランチャーを放ちながら、ベゴニア喜びの孕んだ声で答えた。
そのまま右手のガトリング砲を乱射しながら、リージアを置いて前線へ出ていく。
置いて行かれたリージアは、ハルバードの血をぬぐいながらここに来る前の事を思い出す。
「(どうりでガンマだけ剣の消費が多いと思った)」
オメガの部屋は備品倉庫を間借りしているだけあって、その管理も任されていた。
サボってばかりだったが、多少の仕事はしていたので在庫は大体頭に入っている。
ガンマにやたらアンドロイド用のブレードの補給の手配を頼まれていたので、管理する方も大変だった。
『だが、今回はアタシも楽しませてもらうよ!!』
なんだかんだ言って、ベゴニアもE兵器を気に入ったらしい。
彼女の機体の盾つきのランチャーは、肩に片方ずつ一つずつ搭載されている。
両腕の武器にもシールドを装備し、防御と攻撃の両立を目指した構成となっている。
背中は榴弾砲とレールキャノンの二門を乗せたバックパック背負うという、かなりの重装備だ。
かなりの重量級となったため、ヘリコニアより四本の足は少し太い。
しかもその足にもミサイルが搭載されており、ゼフィランサス同様に全身凶器だ。
「……」
次々と爆散する平原を目の当たりにするリージアは、ハルバードで近くにいた魔物を叩き潰す。
張り切って大量のE兵器を用意したが、やはり正解だった。
敵の数は予想通り大多数だったので、一機に大火力を集約させてある。
相応の技量が求められる構成になってしまったが、操縦者の多くはエリートのガンマ達。
ヘリコニアは違うが、十分戦線を押しあげる事に貢献している。
「……懐かしいな、こうしてE兵器振り回して、皆と戦う何て」
複雑な心情になりながらも、リージアは懐かしさを覚えていた。
状況だけで言えば、以前と同様。
記憶の中だけだと思っていた光景は、再び現実となった。
笑みを浮かべたリージアはハルバードを握り締め、より白熱する戦火の中に身を投げた。
――――――
リージア達が降下して二時間後。
機械魔物達は司令船から号令がかかったのか、陽が昇る頃に撤収していった。
一部のメンバーは追撃を行おうとしたが、考え無しに戦ったせいで弾切れを起こして中止。
空中に居た部隊は町から少し離れた場所に着陸し、地上部隊も合流する。
「はぁ~、久しぶりに楽しかったわ~」
「おかげで文字通りの焼け野原になったけど」
「やっぱE兵器って二次被害が凄いわ」
笑顔でホホをツヤツヤにするヘリコニアの横で、リージアはフォスキアと共に改めて周りを見渡す。
空爆や砲撃によって、平原はリージア達が参戦する前よりもボコボコになってしまっている。
エーテルで武器が強化されたのは良いが、はやり二次被害は大きくなってしまった。
「ま、今はさっさと補給済ませちゃおうか」
「そうね~」
周りの事はもう仕方ないので、リージアはそそくさと補給を開始する。
補給は上の大型艦からドンドン降りてきており、先ずは自分の武器の弾を込める。
「あ、あの、隊長……」
「あ、ヴァーベナ」
ショットガンの弾を込めていると、ガンシップの陰からヴァーベナが話しかけて来た。
なにやら周囲を気にしており、特にフォスキアの方に視線が行っている気がする。
「あ、えっと、ヴァーベナ、さん?」
「や、やっぱり私、また酷い事言っちゃいました!?」
「だ、大丈夫よ!そんなに変な事言ってないから!」
「そうそう、あんま気にしないでいいから、それより何か用が有ったんでしょ?」
操縦桿を握っていた時の事は何も覚えていないのか、ヴァーベナはやたらと取り乱している。
確かに暴言と取れる言葉は言っていたが、自業自得であるフォスキアは真っ先に否定。
とりあえずこれ以上落ち込まれてもあれなので、リージアは話の方向を変えた。
「でもすみません、本当にすみません、あれは私であって私でないって言うか、操縦桿を握ると、ちょっと」
「それはライラックから聞いたから、早く用件言って」
「ごめんなさい!私の身の上話何て誰も興味ないですよね!耳障りな話をしてしまってごめんなさい!」
「ダメだこの子何言ってもネガティブに捉える」
暴言を吐いた事を根に持ってしまい、ヴァーベナはネガティブな思考になってしまっている。
後頭部をかきむしるリージアは、何とか機嫌を取ろうと頭を巡らせる。
「あのね、誰も貴女の事否定してないから、ね?話はちゃんと聞くから、先ずは貴女の用件を聞かせてよ」
「……あの、貴女さえよければ、その……臨時の治療所を、町中に設置したいのですが」
「……」
ガンシップに積まれた医薬品類で何となく予想はしていたが、やはり彼女の一番の目的は負傷者の救助だ。
リージアとしては、単純に機械魔物を殺すだけが目的。
これ以上E兵器で血が流れないのならば、人間がどれだけ死のうが知った事ではない。
だが、彼女が志願した理由まで否定する事はできない。
「分かった……ライラック!スイセン!この女医さんのお手伝いをお願い、ホスタ君も護衛について、かなりピリ付いているかもしれないし、とりあえずフォスキアも同行して、適当な言い訳で彼女達を味方って事しておいて」
とりあえず他に医療知識の有る面々と、護衛にホスタを行かせる事にした。
ついでに周囲からの理解も取り付ける為に、顔の広いであろうフォスキアも同行させた。
彼女達はリージアの指示に従い、医療用の道具を取りに倉庫へ向かう。
「残った人達は、ここで補給と整備、今日中に全部済ませるよ!」
後の面々はこの場に残り、装備の整備と補給を行う。
恐らく前の町と同じようにインターバルが存在するのであれば、手を休める訳にはいかない。
次の襲撃に備え、彼女達はピッチを速める。
「つっても、多すぎだろ、積載過多も良い所だ」
「エーテル駆動にしたから、この程度は問題無いよ、それに、頭数の少なさは手数で埋めないと」
いくらE兵器で武装しているとはいえ、相手との戦力差は如何ともしがたい。
それを埋める為、武器は詰めるだけ積んである。
特にガンシップは宇宙艇の輸送能力を活かし、空飛ぶ弾薬庫のようになっている。
補給用のコンテナも後何度か呼ぶ事になってしまう位、積載可能な武装は多い。
「だからって、宇宙艇を戦闘用のガンシップに変えるなよな」
「良いの、輸送機をガンシップに改造した例だって有るんだから、それに、アーマードパックだって、元々はローダーとして設計した奴だよ」
「……それもそうだな」
リージア達の世界でも、元は輸送機だった物を戦闘用に改造した兵器が存在する。
しかもアーマードパックも、元は人間でもアンドロイドでも使える人型クレーンとして、マスターの二人が設計した物。
ただし工業用の物が作られる前に政府に目を付けられ、アンドロイドの強化パーツとして再設計されてしまった。
その事を考えると、宇宙艇をガンシップに変える事なんて些細な事だ。
「……アンタ等の政府どんだけ武器に変えてんのよ」
「そう言う連中なの」
数多くの医療道具を持って来たフォスキアの質問に、リージアは不機嫌そうに答えた。
どうやら本格的に医療行為に臨むつもりらしく、同行するメンバーは野戦病院用のセットまで持ちだしている。
とは言え、壁の中は相当な地獄絵図だろう。
一応ヴァーベナ以外の全員も、弾丸の摘出や切創を縫う事ならできる。
しかし、脳の奥に銃弾が食い込むような重症には、専門的な技術や知識を持つヴァーベナの能力が必須だ。
「はぁ、何時も通りね、でも、護衛なら私で十分じゃないの?」
「まぁ、治療内容によっては、頭蓋骨かち割る事も有るからね、手術して人殺しに間違われたらって思うと」
「それもそうね(未来の医者が過去に行っちゃって、頭斬られた人の手術したらそんな感じになってたわね)」
この世界の医療水準は低く、感染症などの概念がない。
傷を縫う位の技術は有っても、回復魔法やポーション等に頼る節がある為だ。
回復魔法は傷を治す事は出来ても、体内の異物を取り除くなどの事はできない。
頭部の外傷で脳に血が溜まっても放置である為、手の施しようがないと認識されてしまう。
そこにヴァーベナ達の医療方法を持って来れば、何らかの勘違いをされてもおかしくない。
なので、多少は顔の効くフォスキアに説得してもらった方がいい。
「それに、私がここに居ても役に立てそうに無いわよね」
「あはは、それも有るけど、とりあえず情報の引き出しとかもお願い」
「はいは~い、そっちもお姉ちゃんに任せなさい」
「うん(あれ?フォスキアってこんな話し方だっけ?)」
「あ、あの、では、私達はこれで」
「あ、うん、気を付けてね」
小首をかしげていると、選抜されたメンバー達の準備が完了していた。
医療器具や医薬品が大量に入ったカバンを背負うヴァーベナは、率先してリージアに敬礼し、この場を後にした。
他の皆も現地で使う為の道具類を装備し、ヴァーベナに続いて行く。
「では隊長、私もこれで」
「うん、皆の事お願いね」
「はい、皆さん事は、私が必ず守ります!」
護衛として同行するべく、対人装備を身に着けたホスタも意気揚々と敬礼をし、ヴァーベナ達の後を追っていく。
以前とは大違いの態度に困惑してしまうが、リージアも敬礼を返す。
機械魔物と対峙している時もかなりイキイキしていたので、張り切りすぎない事を祈る。
「……何か、ホスタ君イキイキしているね(最近あの子に犬耳とか尻尾見えて来た)」
「英雄と戦えるのが光栄なんだとよ」
「そ、そうなんだ……」
最近のホスタは、妙にリージアに懐いている。
それこそ、頭に犬の耳や、お尻に犬の尻尾を錯覚してしまう程だ。
ゼフィランサスの口からその理由が告げられたが、思わずため息が出てしまう。
「はぁ、何か複雑」
ホスタがちゃんと指示を聞いてくれるのはありがたいが、英雄呼ばわりは好かないリージアにとっては複雑でしかなかった。
少し気分をほぐしながら、リージアも補給作業へ戻って行く。




