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降下作戦 後編

 大型艦から出撃したガンシップは、リージア達を乗せて降下を続けていた。

 彼女達が居るのは、コックピットから離れた出撃ハッチ。

 揺れの激しい機内の中で、アーマードパックに乗っていないリージア達は、外の様子をモニターで確認していた。


「何なのよ今の、かなり遠くからの攻撃だったのに、セイントウォールを破壊した……」

「……レーニア、観測してた?」

『ああ、こっちで発射対象は確認できなかった、少なくとも五十キロ以上は離れているよ』

「チ、とりあえず、射線から位置を特定しておいて、もしかしたら、探し出す手間が省けたかも」

『了解、それより、そっちは大丈夫かい?』


 先ほどまで町を覆っていた壁を破壊した砲撃は、レーニア達が捉えている映像には映っていなかった。

 その範囲外からという事は、かなり超射程砲撃という事になる。

 それだけの事を行えるとしたら、大型艦クラスの化け物だ。

 威力に見合うだけの衝撃波も発生したので、揚陸艇もバランスを少し崩している。

 安否を確認する為に、リージアは内線用の受話器を手に取る。


「という事だけど、ヴァーベナ、大丈夫!?」

『心配すんな!ちょっと流されただけで問題はない!お前達は愉快なフライトを楽しんで居ればいい!!』

「……ん?」


 首を傾げるリージアの耳に入り込んできたのは、やけに体育会系のセリフ。

 操縦系がヘリに近いという事だったので、経験豊富を自負しているヴァーベナに頼んでいた。

 弱腰な彼女からはあり得ない言葉の数々だったので、通信をする相手を間違えたのではないかと思ってしまった。

 しかし、使っている通信機はちゃんとコックピットに通じている。


『あー、心配するな、コイツ、ヘリの操縦桿握るとこうなるんだ』

「……そ、そう、なんだ、あはは(今時そんな奴居たんだ)」


 ヴァーベナの事を詳しく知るのは、同じ部隊の隊員だったライラックのみ。

 彼女からの話を受けて、先ほどの通信相手がヴァーベナ本人という事が確信した。

 しかも彼女のバカでかい声は、リージア以外にも届いてしまう程。

 モミザとフォスキアまで、その威圧感に臆してしまう。


『もうじき降下ポイントだ、地獄旅行をしたい物好き共は気を引き締めろ!』

「……別人じゃない、ヴァーちゃん」

『おい!今言ったのはエルフィリアか!?貴様の方が婆ちゃんだろうが!死にたくなければ口を慎め!!』

「調子に乗ってごめんなさい!!」


 正反対の人格となっているヴァーベナの恐怖を前に、フォスキアは頭を下げてしまう。

 彼女の姿はヴァーベナには見えていないが、反射的に謝ってしまった。

 そんな彼女を横目に、リージアは苦笑しながら指示を開始する。


「あはは……よし、先ずは私とモミザ、それとフォスキアの三人で市街地に降下、その後で、壁の外周にサーモバリック爆雷を投下して降下地点を確保、ヘリコニアとベゴニアを投下、その後はお好きなように空爆しちゃって」

『了解した!最初に地獄の門を通りたい奴は前に出ろ!』

「はいは~いっと、よし、聞いての通り、早速降りるよ!」


 ハルバードとショットガンを携えたリージアは、フォスキアとモミザを連れて出撃ハッチへと歩いて行く。

 後部ハッチが開かれ、熱を帯びた外気が機内へと入り込む。

 全身にドライヤーを浴びている気分になりながら、その先へと進んでいく。

 ガンシップは町からかなり高い位置で旋回を続けているが、見た限りホスタとサイサリスの活躍で制空権は確保。

 少し待って身を投げれば、あっという間に戦場だ。


「ちょ、ちょっと!こんなに高いなんて聞いて無いんだけど!!」

「大丈夫だ、俺がちゃんと送り届けてやる、ていうか、これ位の高さ飛んだ事無いのか?」

「こんなに高い所で飛んだ事何て無いわよ!」


 しかし、これだけの高さは初めてのフォスキアは、足がすくんでしまっていた。

 本来なら、この高さでは訓練を受けていない人間は失神してしまう。

 それだけの高さから何の装備も付けずに飛び降りろと言われているのだから、初心者には厳しい。

 街中に降下するので、変異も使う事はできない。


「ほら、ちゃんとシュートも使ってやるから」

「大丈夫よね!?地面に叩きつけられてトマトジュース何て事ないわよね!!ていうかアンタ、背中の羽飾り!?」

「生憎俺の奴は人一人担ぎながら空中を動くのに向いて無くてな、安心しろ、使った事は無いが……うん、死ぬ事は無い」

「今不安要素の火の玉ストレート叩きこまれたわよ!」


 アンドロイドであるモミザ達にとって、パラシュートはあまり意味を成さない。

 何時も飛行ユニットを使い、直接空中で戦闘を行うからだ。

 しかも今のモミザは大戦時に使っていた物を再現した物なので、格闘戦用に低空飛行ように調整されている。

 使う機会がなかったが、無いよりはマシだとフォスキアにもハーネスをまきつけていく。

 そんなやり取りをする二人に目もくれず、リージアはハッチの先に佇んでいた。


「人間を助けるのは不本意だけど……これ以上あの人達の技術で血が流れる位なら」


 多くの人命が失われているのは、ここからでも見て取れる。

 今でもマスター達の技術で人の血が流れていると思うと、自然とハルバードを握る力が強まる。

 先ほどまでは空っぽの元気を振りまいていたリージアだが、この惨状には怒り以上の物がわいてくる。


「……そっか、今の私が引き出せるのは、アイツ等への憎しみだけ……なら」


 予定地点が近づき、リージアはその身を重力に任せる。


「私の憎しみを、味わえ!!」


 全身に大気を浴びながら叫んだリージアは、ハルバードへとエーテルを流し込む。

 そのまま重力に身を任せながら落ちて行くと、ショットガンを使って手ごろな魔物を一体撃破。

 反動も利用しながら姿勢を変え、ハルバードを地面に叩きつける。


「死ね!」


 刃が地面に食い込むと共に、ハルバードに刻まれた魔法陣が発動。

 ハルバードに込められていたエーテルは爆発となり、城門を突破してきた魔物達は地面と共に爆散する。


「(やっぱりお姉ちゃんみたいには行かないか)」


 本来ならばもう少し威力が強い筈だったが、アリサに憧れて魔法陣制作の手を抜いたせいで思った威力が出なかった。

 おかげで、殺しきれなかった機械魔物達は次々リージアへと向かってくる。


「……な、何なんだ、お前は」

「……」


 向かってくる機械魔物を前にして悔やんでいると、後ろから女性の声が聞こえて来た。

 魔物以外あまり見ていなかったので、何者なのかまでは認識していない。

 ただ、今は人に話しかけられるだけで腹立たしい。


「話しかけるな、人間」


 ドスの聞いた声を発するなり、リージアはハルバードを振り回しながら魔物の群れへと突入。

 襲い掛かる弾の雨をかいくぐり、再び突破してきた魔物達へ狙いを定める。


「フン!!」


 踏み込みを加えたハルバードの一撃によって、大量の魔物が両断され、血飛沫を上げた。

 相手にもリージア同様の防御装置が組み込まれており、前の戦いではそれがなによりの障害だった。

 しかし、強化と洗練の済んだ義体の出力と、フォスキアのおかげで身に着いたエーテル制御技術は、ハルバードの破壊力を向上させている。


「(良いね、ハルバードがまるでウェハースだ)」


 大振りで重いハルバードは、今となってはナイフを扱うように振り回せる。

 それだけ義体の性能が向上しており、電磁装甲さえ紙のように両断してしまう。


「さて、アンタ等に恨みは無いし、なんなら同情もしてるけど」


 体操選手がバトンを扱うようにハルバードをもてあそぶリージアは、まだ無事な機械魔物達を見渡す。

 何体か以前の町では見かけなかったタイプも混じっているが、大体は以前と大差ない。

 そんな彼らも見方によれば、彼らもリージア達と境遇は同じ。

 他人の都合で勝手に作られた挙句、他人の都合で殺されてしまうのだから。


「でも被害を出すようなら、ここでバイバイ、ごめんね、せめて謝っておく」


 軽く謝っておいたリージアは、地面を蹴り飛ばした。

 一瞬にして間合いを詰めた途端、機械魔物を両断。

 彼らはリージアの事を捉える間もなく、つぎの瞬間には赤い噴水と化していた。

 照準を向けるどころか、武器を構える前に切り裂かれている。


「次!」


 魔物は全て一撃で撃破され、中に入って来た魔物はオーク型が最後の一体となった。

 その一体に飛び掛かり、一振りで片腕を切断。

 間髪入れず背中のショットガンに手を伸ばし、銃口をオークの顔面に押し付けて引き金を引く。

 エーテルで強化されたスラグ弾によって、オークの頭部は破裂した。


「こんな物か」


 壁内部の魔物を殲滅したリージアは、ショットガンを回転させながら薬室内の薬きょうを排出させた。

 レバーアクション式という、独特な操作方法のみができる恰好つけの排莢方法だ。

 そんな恰好つけを行いながら、ショットガンを背中へマウント。

 目の前に佇む一体の魔物へと目を光らせる。


『グヲオオオ!!』

「あらら、随分血気盛んだね」


 ノイズのかかった雄叫びと共に、調査チームの作った人造魔物が前へと出て来る。

 相当血の気が多いようで、殺気が嵐のようにリージアへ襲う。

 人造魔物タイラントは両腕に二本の剣を携え、リージアへと襲い掛かる。


『オラ!!』

『ゴア!』


 走りだそうとした途端、ゼフィランサスの駆るストリクスが降り立った。

 蹴りをかますなり、ゼフィランサスはタイラントと正面から斬り合う。

 ホスタやサイサリスの物と異なり、彼女の物は近接戦特化型。

 一応ライフルを一丁だけ持っているが、残りは近接武器ばかりだ。

 改めてその姿を見たリージアは、少し冷や汗をかいてしまう。


「(改めてみると、全身凶器がしっくりくるな~、二刀流どころか四?あれ、何本くらい積んでたっけ?)」


 見た限りゼフィランサスは両手に一本ずつ片手剣を持ち、両足にも稼働する剣が取り付けられている。

 他にも関節という関節の付近に、大小様々な剣を取り付けている。

 その分装甲を削いでダイエットさせているが、大量の剣のせいで重量自体はホスタの物と変わらない。


「(まぁでも、キビキビ動けてるみたいだから、良っか)手伝いは要る?ゼフィー」

『さっきエルフィリアにも言ったが、手が空いた時にでも頼む!』


 どこか嬉しそうな声で返答され、リージアは群がる雑魚に目を向ける。

 何体かゼフィランサスの方へ行っているが、近づいた瞬間にみじん切りにされている。

 ほぼ同じ大きさの二人の戦いは、今までに無い迫力をリージアへ見せつける。

 駆動系をエーテルに変えた事で発揮される俊敏性は、アーマードパック無しの時と変わらない。

 しかし、タイラントの方も負けてはいない。

 リージア達を除き、全てのアンドロイドの中でも三本の指に入る彼女の互角に斬り合っている。


『ゴアア!』

『よく吠える!』


 雄叫びを上げながらゼフィランサスと同レベルの動きで切り結ぶが、やはり手数は彼女の方が上だ。

 タイラントの刃をさばくと回し蹴りを繰り出し、足のサーベルで片腕を両断。

 そのまま空中で一回転し、タイラントの腹部に膝を入れる。

 膝にも仕込まれていた剣は、タイラントのみぞおちを貫く。


『久しぶりに楽しめたぞ!』


 腹部に刺さっていた剣を抜いたゼフィランサスはその勢いで剣を振り下ろし、もう片方の腕を切断。

 両腕を無くしたタイラントの顔面へ、もう一方の剣を突き刺した。

 頭部の剣が引き抜かれ、タイラントは糸の切れた人形のように倒れ込んだ。

 念のため動力部分にも剣を突き刺し、完全に止めを刺す。


『リージア!』

「はいは~いっと」


 タイラントがどんな武装を持っているか分からないので、迂闊にガンシップも近づけなかったがこれで問題はない。

 地上の脅威は取り除かれ、空も確保した。

 ハルバードも地面へ突き刺し、両耳を塞ぐ。


「ガンシップ、お願いね」

『任せろ!派手にかませ!!』

『はいよ!機銃掃射しつつ、サーモバリック爆雷、投下!』


 まだハイテンションなヴァーベナの言葉と共に、ガンシップはさっきより低めに飛びながら作戦領域へ侵入。

 火器管制を担当するライラックの操作によって、牽制を行うガンシップ下部より爆弾が複数投下。

 無誘導の弾頭が複数降り注ぎ、外に居た大量の機械魔物達は炎と高圧力に襲われた。

 使われた爆弾は、貧乏人の核兵器何て呼ばれている凶悪な物。

 それをエーテルで強化しておいたので、E兵器で武装する魔物達にも十分な殺傷力を発揮する。


「お~、吹っ飛ぶ、吹っ飛ぶ」


 爆炎を身体に浴びるが、フィールドのおかげで義体にダメージは無い。

 文字通り地獄絵図が広がり、ゾンビのように群がっていた魔物達は炎に包まれる。

 それでもまだ全てを片付けた訳ではなく、奥で待機していた機械魔物達が総動員でリージア達を潰しにかかって来る。


『こちらスイセン、空爆に成功、これより残りの二人を投下します』

『二人共、準備は良い!?』

『何時でもどうぞ!』

『待ちくたびれたよ』


 ガンシップに乗り込んでいるのはデルタの二人以外に、スイセンとサルビアも居る。

 スイセンは機内での指揮、サルビアはサブパイロットとして乗っている。

 地上の整地が済むなり、ガンシップの格納庫が開く。

 リージアの頼みに応えるように、ガンシップは彼女達を投下。


「お願いね~」

『いやっフォォォォウ!』

『はしゃぎ過ぎだ』


 二機の新型アーマードパックが舞い降り、二人の声が無線に乗せられて聞こえて来る。

 妙にはしゃぐヘリコニアと共に、ベゴニアの乗った新型機が降下。

 二人共装備は異なっているが、特徴的なのは四本の脚部。

 オルトロスやメタルリザードをベースにサイボーグ化させた物に、アーマードパックの上半身を乗せ、機動力や姿勢安定性を向上させた物だ。

 二機は衝撃を緩和させるためにブースターを吹いた事で、その熱風がリージアに降り注ぐ。


「(あっつ!)」

『さぁ、楽しいダンスを始めましょう!』

『もうちょっと落ち着いて戦いな』


 降下完了と共に、ヘリコニアは狂喜しながら右腕の火炎放射器から炎を発射。

 今度は普通の燃料ではなく、エーテルを用いた火炎魔法によって接近してきた機械魔物を焼却。

 遠くの敵には、右肩の大型グレネードランチャーや、左肩の連装ミサイルを放つ。

 考え無しにしか見えない彼女の攻撃によって、機械魔物達の侵攻は阻まれる。


『まったく、非戦闘タイプは、ペースってのを知らないのかい?』

『アイツらの目的なんざどうだっていい!燃え尽きるまで撃ちやがれー!!』

『こっちもこっちか』


 ガトリング砲で弾幕を張るベゴニアは、狂ったように暴れ回るヘリコニアとヴァーベナに呆れてしまう。

 二人共非戦闘タイプのせいなのか、完全にトリガーハッピー状態だ。

 一応ガンシップの火器管制は、ホスタと同じGS型のライラックが担当している。

 今やヴァーベナの圧力に屈しているのか、全ての弾を使い切るつもりで爆撃を行っている。

 できるだけ彼女達の穴を埋めるように、ベゴニアは援護の砲撃を開始する。


「あ~、皆好き勝手やっちゃって」


 空でも地上でも、E兵器を手にしたアンドロイド達は暴れ倒している。

 一応彼女達は、タラッサの町で辛酸をぶっかけられた者達。

 言うなれば、アクションホラーゲームの強くてニューゲーム状態。

 クリア特典の強力な武器を手に入れ、さんざん怖い目に合わせて来たゾンビ共を吹っ飛ばす感じだろう。

 しかも、今回は弾の消耗を気にする必要はない。


「まるで軍隊式の芝刈りね……」


 モミザに無理矢理見せられた映画のワンシーンを思い出したフォスキアは、大剣を担ぎながらリージアの元へと移動。

 ペース配分を気にしていない戦い方に呆れながら、彼女の隣に立つ。


「良いの?あんな考えなしに戦わせて」

「う~ん、普通の隊長なら、こういう時止めさせるんだけどね」

「お前は普通じゃねぇだろ?如何するんだ?」

「決まってるでしょ」


 合流すると共に放たれたモミザの言葉に、リージアは黒い笑みを浮かべた。

 もう彼女達は、無線で呼びかけても攻撃を止める事は無いだろう。

 そんな彼女達を前にして、マトモな隊長ではないリージアが打ち出した提案は。


「私達も混ざればいい!!」


 ハルバードを担いだリージアは、爆炎の中へと突っ込んでいく。

 苦笑しながら目を合わせたフォスキアとモミザは、諦めながら彼女に続く。


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