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降下作戦 前編

 ラマネス王国の壁が破壊される前。

 準備の整ったリージア達は、大型艦で王都へと急行していた。

 到着までの間、リージアは自室のベッドに転がりながら王国の衛星写真を確認していた。


「さてと、私達が向かうのは、ラマネス王国の王都か……」


 そこは一言で言うのであれば、巨大な壁に覆われた城塞都市。

 とてつもなく馴染みに有る雰囲気の都市であるが、リージアは少し目を細めた。

 都市の要である壁は、この世界でも有名な観光地。

 この世界に来てすぐの時、モミザに焼却された観光スポットの一つでもある。


「……今の状態で、楽しめるのかな?」


 今のリージアの心情は、自覚できる位沈んでいる。

 やはりアリサを撃ち殺してから、以前まで楽しめていた物が楽しめない事が多い。

 本来ならば、こんな時でも羽目を外してはしゃぎたかった。

 だが、以前のように飛び跳ねるだけの元気が出ない。


「シャウルちゃん、元気かな?あわよくば、次の町で会えたり何て……」


 ベッドの上に仰向けになったリージアは、不意に獣人の少女の事を思い出した。

 彼女の能力は仲間に欲しい位だったが、彼女には彼女の居場所が有る。

 もしかしたら、次の町の応援で来ていないかという淡い希望が渦巻く。


「クソ、獣人ロリでも高揚しない、どうなってんの?やっぱ強がらずにヴァーベナの診療受けた方がよかったかな?」


 しかし、彼女に会えるかもしれないと言う希望でさえ、リージアの気分は優れない。

 以前までの彼女であれば、この世界の住民に対してであれば拒絶心は無い。

 精々嫌悪感が有る程度で、社交辞令的に接するのには問題無なかった。

 何時にもまして人間嫌いが加速しているが、この世界の住民まで嫌いになるつもりはない。

 エルフやドワーフと言うような、亜人と取れる存在はなおさらだ。


「……会えてないのは、人魚、別タイプの獣人、それと、ダークエルフ、か」


 いずれも女性である事が前提であるが、他にも会いたい種族は居る。

 特にフォスキアと同様のエルフ、その亜種とも取れるダークエルフには是非会いたい。

 今の状態で会っても喜ぶ事は難しいだろうが、せめて一目見ておきたい。

 虚無の宿る目を天井へ向けながら、リージアはため息をつく。


「はぁ……ん?」


 ゴロゴロしていると、部屋の扉が叩かれた。

 考えてもみれば、もうじき目的地に着く頃合い。

 集合時間も地味に過ぎかけているので、誰か迎えにでも来たのだろう。


「はい、は~い、今行きますよ~っと」


 気怠そうに後頭部をかきながら起き上がったリージアは、ベッドの上から降りようとする。


『リージア?皆もう待ってるわよ』

「ッ、フォスキア!?」


 聞こえて来たフォスキアの声に驚いたリージアは、盛大に足を滑らせた。

 結果、母なる床にヘッドバットを決めたが、痛みを我慢しながら立ち上がる。


「ちょ、ちょっと待って!すぐ用意するから!」


 来たのがフォスキアだったせいなのか、焦りながら身支度を開始する。

 本当はグダグダと歩く道中で寝癖などを直していくつもりだったが、その全てを部屋の中で整えていく。


 ――――――


 同時刻。

 モミザの頼みでリージアを連れに来たフォスキアは、部屋の前で冷や汗をかきながら突っ立っていた。

 ちょっと待ってほしいと言われてスタンバイしているのだが、聞こえて来る音には困惑しかない。


「……何が起きてるの?」


 中で何かが衝突するような音や、崩れる音が響いている。

 部屋の中のリージアが一人で戦争でも始めているとしか思えない程うるさい。

 そんな音を一分程響かせていると、扉はフォスキアから見て奥へ開かれた。


「お待たせ!」

「ちょ!それ自動ドア!!」


 この部屋のドアは、自動で横にスライドするタイプ。

 その筈だというのに、リージアは自分の方へとこじ開けた。

 しかも相当焦っていたらしく、着ている迷彩服が地味に崩れている。


「い、いや~、ちょっと寝過ごしちゃって」

「それより注目するべき所あるんじゃないの?」


 ホホを桜色に染めるリージアは、とんでもない勢いで話の舵をとった。

 そんな事より、リージアの剛腕によって変形しながら千切り取られた自動ドアが目に着く。

 力ずくで壊された事で配線がむき出しになっているせいで、今も色々な部分がバチバチと火花が散っており、気が散って仕方なかった。


「……そ、そんな事より、早く行こうか」

「……そうね」


 一瞬だけ壊れたドアの部分へ目を向けたリージアだったが、見なかった事にしてブリーフィングルームへと歩いて行った。

 もう考える事を放棄したフォスキアは、壊れた扉を放置して彼女の後へ続く。


 ――――――


 そこから数十分後。

 リージア達はブリーフィングルームへ到着。

 もうリージアの遅刻は誰も目も気にせず、早速会議が開始される。


「さて、今回の戦場、ラマネス王国の王都だけど……」

「かなり押されているな」


 暗い部屋の中、この艦から映し出される映像に全員息を飲んでいた。

 現在近くの平原で防衛線が展開されており、魔法や砲撃によって平原はボコボコになっている。

 しかし、肉の波ともとれる敵の進行を前に、退却を余儀なくされている。

 逃げようとする人影も見られ、徐々に籠城戦に持ち掛けられそうになっていた。

 既に壁の内部では負傷者で溢れ返っており、前線に立つ者はほとんど居ない。


「やっぱり数が数ね、その上異世界の技術で作られた武器防具の数々に、ゾンビみたいに立ち上がる生命力、ヴォルフからの経由で弱点何かが知れてても、敗走は必至ね」

「ああ、だが……司令船は何処だ?」


 フォスキアの言葉に頷いたレーニアだったが、一つ気がかりな事が有った。

 これだけ内陸で戦っているというのに、指令船の類が見当たらない。

 熱光学迷彩などで姿を隠している可能性も有るが、大型艦程大きな物が内陸に有るとなると隠すのも難しい。


「……どうやら、ここで確認できるだけだと、認識できない見たいだな」

「そうなると、以前みたいにエルフィリアの力を使う事に成るだろうね」

「ああ、今回も頼むぜ」

「ええ、でも……」


 今回も以前のようにフォスキアを経由して、敵の指令船を見つけ出す事が提案された。

 それを行う事自体に、フォスキアは特に反対はない。

 だが、彼女の横で震えている人物には恐怖を覚えた。


「……」

「(やっぱ、これ以上E兵器で虐殺が行われるのは、我慢ならないか)」


 次々と殺されていく人間達に加え、燃やされていく平原。

 正にリージア達が大戦時代に見て、その手で行って来た事と同じ。

 自分たちを作ったマスター達が抱いた理念とは、まるで正反対の状況。

 それを目にしたリージアは、怒りで体を震わせていた。


「……何でだろうね、さっきまでいろんな女の子の事を考えても、私の心は全く反り立たなかったのに、この現場見ただけで闘志湧いて来るし、黒い物が渦巻いて仕方ないよ」


 そんな事を、リージアは小声でつぶやいた。

 さっきまで無気力だったというのに、この惨状を前にてリージアの心に熱がこもりだす。

 確かに二人の掲げていた思想は、理想論以外の何物でもない。

 リージアだって、叶えばいいな、程度の認識だった。

 だが、親でもある二人の思想を真っ向から否定されるのは気分が悪い。


「ん?おいエルフィリア、この魔物は、何だ?」

「え?」

「レーニア、もう少しズームしてくれ」

「えっと……コイツかい?」

「……何?コイツ」

「ん?」


 ゼフィランサスが指をさしたのは、映像に流れる一体の異質な魔物。

 映像を操作するレーニアは、その魔物の解像度を高めた。

 だが、その魔物はフォスキアも見た事の無い個体。

 それだけ希少な個体とも思えたが、そうでもないようだ。


「レーニア、例のコーディネート野郎のデータと照会して」

「……待ってな」


 リージアの言葉に従い、レーニアは基地から持ちだしたデータを確認し始める。

 準備を進める中、双子の見つけた嫌な情報が脳裏を過ぎった。

 遺伝子操作によって、生物兵器として生み出された魔物。


「……有ったよ、『タイラントモデル008号』例の人造魔物だ、痛々しいね~」

「成程……ハハ」

「あ、ヤベ、話変えねぇと」


 レーニアの報告を前にして、気づけばリージアの怒りは更に沸騰していた。

 目の光は完全に断たれ、声もどこか黒い。

 エーテルを遺伝子操作に用いている事は既に周知の事、それがこうして暴れ回っているとなれば怒りも沸く。

 切り替える話を探すべく、モミザは話題を探す。


「(えっと……)あ、こいつ等なんかする気だぜ」

「あら、取って置きを使うつもりね」

「とっておき?壁の中から巨人でも出て来るのか?」

「別に進撃なんてしないわよ、むしろ逆ね」

「逆?」


 二日かけて見せられたアニメの内容を思い出していると、町を囲う城壁が光りだす。

 そして、強固な魔力の障壁が形成。

 砲弾やミサイルは勿論だが、空から来ようという賊まで防ぎだす。


「セイントウォール、この町の守りの最後の要ね、まぁ、初めて見たけど……完全に籠城を決めるつもりね、出撃するなら今よ、これなら私達の攻撃が町に被害を及ぼす事も無い」

「そ、なら……」


 フォスキアの話を聞き、リージアは予め考えていた戦術をまとめだす。

 壁内部に居る民間人へ被害が出る恐れはない、ならば心置きなく戦える。


「レーニアとブライトは、この艦に残ってオペレートを行って、ストリクス隊、ホスタ君とサイサリスは、先行して制空権を確保、ゼフィーはあの化け物を対処して、残りはガンシップを使って降下、地上を整地して、部隊を展開する、機械魔物共は片っ端から燃やし尽くせ!!」

『了解!』


 全員リージアへと敬礼し、作戦行動へ移って行く。

 E兵器が相手である以上、何が起きるのか予想は難しい。

 下手をすれば、魔物達が撤退する前に壁が破られる危険性が有る。


 ――――――


 数分後、双子を除いた隊員達は格納庫へ移動。

 リージア達は、ガンシップへと改造した元宇宙艇へと乗り込んだ。

 ストリクスを駆るホスタ達は、先行するべく機体へ搭乗する。


「……ストリクス三号機起動、エーテルリアクター安定稼働、量子通信ネットワーク同調、戦術ネットワーク構築、エーテル供給異常なし」


 次々と機体の点検をしていき、出撃の準備を開始。

 両腕に専用のエーテルライフルを保持し、右の腰に手持ち式レールガンが取り付けられる。

 武器のチェックも進めるホスタの機体へと、リージアからの通信が入る。


『ホスタ君』

「はい」

『先鋒はお願い、制空権を取らない事には、ガンシップが危ないからね』

「……任せてください、貴女への今までの非礼、今後の行動で償います!」

『あはは、そんな気負わなくていいよ』


 笑みを浮かべたホスタは、生き生きと敬礼をした。

 同時に通信は切られ、リージアからの目が無くなる。

 その事を確認したホスタは、今までに見た事の無い笑みを浮かべだす。


「ふふ、ふふふ」

『随分ご機嫌じゃない』

「当然ですよ、あの英雄が、私の事を頼っているんですよ、それも、かつて彼女のお姉様方が使っていた武器を、私達に託してくれて」


 ホスタにとって、リージア達は目指すべき目標だった。

 そして今はその英雄の一人に頼られ、英雄たちが使っていた武器を託された。

 しかも、その武器はホスタ程の能力が無ければ扱えないとまで言われて。

 ファンの一人としては、ここまで嬉しい事は無い。


『流石、部隊一のファンだな』

『追っかけって奴?そう言うの嫌われるわよ』

「何とでも言ってください、ですが、これまでの非礼は詫びなければなりません」

『お喋りタイム終わり!さっさとカタパルトデッキに移すよ』


 三人のお喋りは、ブライトからの通信でお開きとなった。

 その上で、ホスタの気は一層引き締まる。

 知らなかったとは言え、ここに来るまでリージアには数々の非礼を働いた。

 それ以前に、彼女のおかげで解体処分を免れた身。

 ここで返さねば、今後何時返せるか解らない非を続けていたのだ。


『ハッチ解放、電磁カタパルト出力安定、進路クリア、発射タイミングをホスタへ譲渡』

「……了解、ホスタ、ストリクス三号機、出撃します!」


 ホスタを乗せた新型機は、強いGを彼女に与えながら射出された。

 彼女の目に映るのは、闇のように真っ黒な空と、燃え上がる平原。

 しかも、例の壁は破られかけている。


「こちらホスタ、隊長、壁が破られつつあります」

『え、マジ?』

『何ですって!』

『ちょ、フォスキア退いて……そっか、なら、町内は私とモミザ、フォスキアで食い止めるから、貴女は当初の予定を遂行して』

「了解……」


 フォスキアからの驚愕の声も有ったが、リージアからの指示は変わらない。

 ならば、ホスタのやる事に変わりは無い。

 空中の敵を排除し、後続の道を作る。

 その為に先行していると地上からの対空砲火が襲い掛かり、空中に居る魔物達もホスタ達へ牙を向けていく。


「ッ、なめるな!」


 次々と昇りくる攻撃を回避し、ホスタはライフルを構えた。

 それに続き、リージアから託されたもう一つの武器を起動する。


「ドローン、展開!」


 背部の大きな翼より、ホスタは八機のドローンを展開。

 空中に居る機械魔物達に向けて、ドローン達を駆り出す。

 展開したドローン達は、ホスタの意思で動く。

 自らの身体となる機体を動かしつつ、八機のドローン達一つ一つを操らなければならない。

 扱いは難しいと言われ、補助する処置は施されたが頭がキツイ。


「ッ……信じろ、私の能力を信じてくれたあの人の為に、行けぇ!」


 頭の痛みを耐えながら、ホスタはドローン達を駆る。

 搭載されているライフルで貫き、表面をフィールドで覆って突撃させる。

 そう言った攻撃方法を展開しつつ、対処できなかった魔物を二丁のライフルで仕留めていく。

 初めての戦い方に不安に不安は有ったが、訓練は何度も行った。

 その成果が功を成し、数十体の機械魔物を葬った。


「はぁ、はぁ……行ける!」


 エーテル補充を行う為に、ホスタはドローン達を回収。

 チャージが済むまでの間は二丁のライフルで次々と敵を撃ち抜いていくが、やはり一人では対処が難しい数だ。

 次々襲い掛かる魔物を前に、ホスタは二丁のライフルを直列に連結。

 できるだけ多くの魔物をまきこめるように、照準を合わせる。


「こんの!!」


 引き金を引くと、紫電を纏った緑色の光が射出された。

 その太さは一丁の時より遥かに太く、射線上に居る魔物達は次々と蒸発し、多少掠めた魔物さえも葬る威力を発揮した。

 以前現地改修したレールキャノンをヒントに、連結させる事で威力と射程を上げる構造とした物だ。


「道を開けろ、鳥やろう共が!」

『アンタね!私も居るの忘れないでちょうだい!』

「ッ!」


 仕留めきれなかった魔物達をドローンで制圧しようとした瞬間、ホスタの後方から大量のエーテル弾が射出された。

 その攻撃を行ったのは、通信を送って来た人物だ。


「……横取りしないでください」


 嫌そうな顔で振り向いた先には、ホスタの期待より若干太い身体のストリクスがいくつもの砲を携えていた。

 サイサリスが自分用に、砲撃を行う事に特化させたモデルだ。

 元々彼女は精密な狙撃や早打ちより、こちらの方が得意との事だ。


『あのね、二人でって言われたじゃない、ちょっとは頼りにしなさいよ』

「……はぁ、分かりましたよ」

『……それに、アンタには借りがあるし』

「何か言いました?」

『うっさい、良いから、さっさと蹴散らすわよ!』

「了解!」


 照準システムをリンクした二人は、空に浮かぶ大量の魔物達をロックオン。

 多数の火器を構えた二人による同時攻撃が行われ、まるで夜空は流星群が降り注ぐような輝きを見せた。



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