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深まる愛憎 後編

 リージア達が準備を進め、二か月半が経過。

 そんな時であっても、人間達の指揮系統を外れた機械魔物達は侵攻を続けていた。

 特に酷い被害を被っていたのは、リージア達も活動する『ラマネス王国』

 確認された二つの目標の内一つは、タラッサの町とは違う方向から上陸。

 彼らにとっての目標である人間達を追って、いくつもの町を蹂躙していた。

 しかし、人間達もただ滅ぼされるのを座して待ちはしなかった。

 何度も傭兵や軍隊で混成した討伐隊による攻撃が行われたが、見た事の無い武装や圧倒的な数を前に何度も敗走を重ねていた。

 やがて討伐隊は、王都近くの平原にまで戦線を下げる事となった。


「この、もののけ共、が」


 燃え盛る平原の中、一人のダークエルフの少女が鞭を振るって機械魔物を撃退していた。

 ゴールドランクの傭兵として、パーティメンバーや他の傭兵達、さらには騎士団と共に共同戦線を張っていたが、現在戦線は崩壊。

 負傷者達を逃がすために、一人で殿を引き受けていた。


「はぁ、はぁ……」


 しかし、それもそろそろ限界だった。

 全身からの出血に加え、多勢に無勢の状況。

 体力も限界だったが、目の前にいる最悪な存在が戦意を削いでいく。


「(何なんだ、アイツ等は)」


 片膝を突く彼女の目に映るのは、体長五メートルは有る悪魔の形相をした巨漢の化け物。

 筋肉質な体格には機械を直に接続された手術痕が見られ、顔も角や牙の生えた魔物。

 ダークエルフとして、長年魔物を相手にしてきた彼女も初めて見る種類だ。

 開戦直後から数十種類程似たような魔物が確認され、ここに来るまで二十体近く撃破した。

 だが戦闘力は非常に高く、その辺の傭兵では歯が立たない。

 雑兵と言える魔物達と連携して襲い掛かってくるので、本当に厄介なのだ。


「まだ、来るか」

「ライル!お前もさっさと下がれ!」

「ネロ!何故戻って来た!?」


 頭から流れる血をぬぐいながら立ち上がると、ダークエルフの少女ことライルの仲間が戻って来た。

 獣人族の青年であるネロは、まだ戦おうとする彼女を無理矢理にでも連れて行こうとする。

 既に新種の魔物も間近に迫っているので、さっさと担ぎ上げる。


「おら、早く逃げるぞ!」

「離せ!私はまだやれる!」

「アホ!もう全員王都に逃げてんだ、もうじきアイツらは勝手に引き上げる!それまで籠城だ!」


 暴れるライルを抑え込みながら、ネロは自慢の身体能力を活かしながら駆けだす。

 後方からの弾幕をかいくぐり、遠い彼方に有るとしか思えない王都を目指す。

 人を担ぎながらであっても、その俊敏性は失われる事無い。

 だが、こうして逃げる事にライルは反対だった。


「籠城?馬鹿を言うな!一体どれだけの砦が突破されたと思っている!?」

「ああ、だが、王都指折りの司祭が、特性の防御魔法の使用許可をとったらしい、そいつで何とか別の地区に居る連中を待って、攻勢に出る」

「何が応援だ!それで勝てたら苦労は無い!それ以前に、一番の問題はまだ、オワ!」

「クソ!」


 言い合いながら走っていると、ネロの足元に砲撃が命中。

 二人は爆風で吹き飛ばされ、地面を転がっていく。

 破片や擦り傷などは装備している防具の恩恵で問題はないが、それを突き破る爆炎によって皮膚が少し焼けた。


「おのれ……ッ!」


 新たにできた火傷を抑えながら立ち上がったライルは、勢いよく上を向いた。

 第二波として放たれた大量のミサイルが降り注ぎ、二人にトドメを刺そうとしている。

 それを見るなり、咄嗟に魔法陣を生成する。


「シャドウ、バイト!!」


 魔法陣から繰り出されたのは、一匹の狼の影。

 上半身のみの狼は、ミサイルへと突撃。

 広範囲にわたって破壊したが、爆炎によって影は霧散した。

 その爆炎と影から残りのミサイルが突き抜け、もう一つの魔法陣を展開する。


「チ、ダークボム!」


 魔法陣から放たれたのは、複数の黒い球体。

 それぞれデタラメな軌道を描きながら飛び散り、ミサイルに接近するなり全て爆発する。

 全てのミサイルが破壊されたが、代わりにガス欠になってしまう。


「……はぁ、はぁ、ネロ、大丈夫、ッ!」

「す、すまねぇ、折角助けに来たってのに、このざまじゃ」


 敵の攻撃を退いたのは良いが、ライルはネロの状態に目を見張った。

 彼の片足は、爆発でズタズタになっていたのだ。

 爆発の直撃を受けたせいか足の防御は剥がされ、破片が突き刺さって骨もむき出しになっている。

 回復魔法を使おうと完治できそうになく、最終的に切断する事に成りそうだ。


「……謝ってる暇があるんなら、さっさと逃げるよ!」

「クソ、不甲斐ねぇぜ」


 ネロを担ぎ上げたライルは、今度は代わりに彼を運び出す。

 二人は長い事共に傭兵として共に戦い続けた戦友、こんな所で死んでしまわれては困る。

 先ほど使用した魔法で疲弊した身体に喝を入れ、ネロを王都までひきずって行く。


「チ、まだ追って来やがる」

「気張るぞ、もうすぐ王都だ!」


 見えて来たのは、ラマネス王国の王都の城壁。

 国全体を取り囲むのは、全高五十メートルはある巨大な壁と堀。

 完全に要塞化されており、城下の人間達を確実に守る為の砦でもある。

 そこに強固な防御魔法を張るというのだから、そこに逃げ込めさえすれば大丈夫だ。

 後ろからの弾幕に、飲み込まれる事が無ければ。


「姉御が来たぞ!城門を開けろ!」

「ネロも一緒だぞ!」

「援護だ!動ける奴らは援護しろ!!」


 目と鼻の先に達すると、先に逃げていた傭兵の仲間達が城門を開けだす。

 ついでに、壁に設けられた大砲やバリスタなどと言った兵器も稼働。

 二人が逃げる為に、援護の攻撃が開始される。


「姉御!早くしてくれ!」

「分かっている!」


 仲間の案内を受けながら、ライルは半開きになった城門を潜り抜けた。

 ネロを抱えて滑り込むと共に、開かれていた城門は閉ざされていく。


「閉めろ!あの化け物共が来る前に!」


 重々しい音と共に、鉄製の巨大な扉は閉ざされる。

 更に堀との間を埋めていた橋も上げられ、外と完全に隔絶された。


「助かった!」


 ライルの叫びが木霊すると共に、城壁全てに巨大な魔法陣が複数展開。

 強固な魔力の壁が生成され、ミサイルやエーテル弾による攻撃は阻まれる。

 これによって、空中より襲い掛かる魔物さえも拒む。

 数十人がかりの魔力を動員し、形成された魔法の壁は余程の事が無ければ突破される事は無い。


「この国最強の守り、セイントウォール、初めて見たが、大規模だな」

「ああ……アガ、クソ」

「あ、そうだった、おい!誰か回復魔法使える奴連れてこい!」


 ネロの足の事を思い出すなり、ライルは急いで回復魔法の使い手を探し始めた。

 回復魔法を扱えるのは、聖職者か一握りの魔法使い。

 ライルの率いている傭兵団でも一人居たが、現在は彼女も燃料切れ寸前だ。


「こちらへ!すぐに手当をいたします!」

「アンタ、良いのか!?」


 運よく一人の聖女が名乗り出てくれたが、彼女も聖職者の一人。

 一人でも離れてしまう事に不安も有ったが、彼女は笑みを浮かべる。


「はい、一度発動してしまえば、後は少数でも何とかなります」

「すまない!」


 おかげで、ネロは治療の為に彼女の元へ寝かされた。

 しかし彼の足の状態には、彼女も顔を青ざめる。


「う、ひ、酷い」

「頼む、気休めだけでも」

「……はい」


 足の切断も考えられる酷い状態だったが、痛み止めも兼ねて聖女は魔法の使用を開始。

 白い光がネロの足を包みだし、出血も徐々に止まって行く。

 痛みも和らいでいるのか、苦痛に歪むその顔も緩やかになる。


「頑張れよ、ネロ」

「死にぞこなったようだな」

「……」


 ネロの安否を気遣っていると、一人の青年がライルへ話しかけて来た。

 この世界の宗教団体、ヘリオス教の人間だ。

 修道着である白いフードを被り、錫杖を手に近づいてくる。


「……ガルム、誰よりも先に逃げ出した小童に用は無い」

「おいおい、俺達みたいな上流階級を守るのが、お前達下賤の連中だろうに」

「口の利き方に気を付けろ、私は今負け戦で機嫌が悪い」

「それは失敬、負け犬は遠吠えで忙しかったか、ハハハハ!」

「クソガキが」


 今すぐ舌でも引っこ抜きたくなったが、今は揉め事を起こす元気もない。

 国から大金を積まれ、何時もの魔物退治と侮ってかかって既に何か月も経過していた。

 タラッサの町では、無所属の助っ人が参戦して何とか抑え込みに成功したらしい。

 しかしこの近辺では何度も敗走が続き、屈辱と疲弊で仲間も心身共に限界を迎えている。

 ゴールドランクまで出世したが、これでは面子は丸つぶれだ。


「……じゃ、俺はこれで、この美しい壁を守る重要なお役目があるんでね」

「チ」


 ライルの舌打ちを聞き流すように、ガルムは人ごみの中へと帰って行く。

 確かにこの壁ははるか昔からこの国を守る最後の希望とされ、絶対に破られる事は無いと言われている。

 それを守るお役目があるのだから、今は見逃す事にした。

 腹立たしい思いをしながらライルは辺りを見渡し、目の前の現実を受け入れる。


「……酷いものだ」


 彼女の目に映るのは、大量の死傷者。

 草木の焼け焦げた臭いの他にも、焦げた鉄や傷の膿んだ臭いまで漂っている。

 耳に入るのも、悲鳴などの苦しみにあふれる声。

 王都と呼ぶにふさわしい活気にあふれていたこの町も、いまや地獄の釜の底のようだ。


「一体どこの差し金だ」


 相手はどう見ても、人為的に強化された魔物達。

 国の連中も、各国との交渉に勤しんでいる。

 タラッサの町の傭兵達も、相手の正体までは掴んでいない。

 だが、魔法関連の攻撃が有効であるという情報だけは掴んでくれた。

 しかし、それだけで戦線を押し上げられるような事は出来なかった。


「……ん?なんだ?」


 突如耳に入り込んできたのは、鐘の音。

 教会が使っている物ではなく、危険を伝える為の警鐘だ。

 壁の大きさ故に、伝達にはこう言った物が使われる。

 聞こえて来る叩き方からして、明らかにマズイ事態だ。


「何が、起きて」


 それを聞くと共に、ライルは信じられない気配を感じた。

 かなりの量の魔力が一か所に集約しており、壁以外に何かが起きようとしている。


「ッ!」


 まばたきをした次の瞬間、壁に途方もない魔力の攻撃が繰り出された。

 その音は、雷鳴が耳元で鳴り響いたような物。

 その一発で、機械魔物達の砲撃を無傷で防ぎ続けて来た魔力の壁に亀裂が入る。


「バカな!あの壁に、亀裂が!?」

「セイントウォール!損傷率四割を超過しています!」

「壁にも少しダメージが入った!急いで修復作業にかかれ!!」

「い、急げ!ここを破られたらおしまいだぞ!」


 この国の象徴たる巨大な城壁にまでダメージが入り、魔力の壁を展開している聖職者たちは急いで修復作業に取り掛かる。

 たった一度の攻撃で四割の損傷が起きただけでなく、先ほど警鐘を鳴らしていた衛兵は、黒焦げになりながら壁の上部から落ちて来る。

 この攻撃を行った存在は、用意に想像できる。


「アイツだ、キリスの町を焼き払ったあの……」


 ライル脳裏を過ぎったのは、正に厄災その物と形容できる存在。

 ここを防衛する一つ前の町、そこにも腕利きの聖職者たちが防御魔法を張ってもらって籠城していた。

 だが、厄災のブレス攻撃によって、焼き払われた。

 城壁が破られる事を懸念したライルは、急いで戦闘態勢を再び整えだす。


「戦える奴は武器を取れ!あと数分もすれば、あの城壁は倒壊する!戦えない連中は、早く逃げろ!!」


 ライルの警告が響く中で、もう一度あのブレスが繰り出された。

 轟音が響き渡ると共に、彼女達の近くの城壁の破片が小雨のように降り注いでくる。

 壁に絶対の自信を持つ者達は、この異常事態に顔を青ざめながら逃げ出していく。

 壁の決壊は、即ちこの国の敗北を意味するような物だ。

 一部の戦闘員は絶望し、完全に尻尾をまいて逃げ出してしまう。


「壁が、壁が崩れる!」

「ラマネスの誇りが、我々の象徴が!」

「次、来るぞ!」


 武器を構える仲間を背後に、ライルは壁の決壊を目の当たりにした。

 赤黒い光線が壁を貫通し、吹き飛ばされた瓦礫が次々と民家を破壊していく。

 開いた穴から上がる土煙からは、まるで暴徒のように機械魔物が雪崩れ込む。

 この地獄絵図を前にしても、ライル達は戦意を敵にぶつける。


「構えろ!」


 銃口を向けて来るオークを前にして、ライルは鞭を振るおうとする。

 しかし一部の敵がライル達だけでなく、上の方へ攻撃を開始。

 その姿を見て、ライルは動きを止めてしまう。


「何だ!?」

「……ライル、上だ!」


 後ろから聞こえて来たネロの言葉に、ライルは上を向いた。

 いくつもの光の筋が行きかい、爆発が引きおこっている。

 まるで流星群のような光が空を駆け巡っており、何かが上に居る事だけが認識できる。


「あ、新手か?いや、魔物共まで、何を狙って……」

「姉御!そんな事より、魔物共が」

「そうだ、今はあいつ等ッ!!」


 再び魔物達に気を移すと、上から緑の光が降り注いで来た。

 その光は近くに居たオーク型を貫き、地面にも浅めに穴をあける。

 次々と起こる事態に、再び動きを止めてしまう。

 その行動が幸いしたのか、二回目に降り注いできた光の巻き添えを食う事は無かった。

 次に振って来たのは、短く白い髪をなびかせ、黒い鎧を身に纏うハルバードを持った少女。

 彼女の一撃によって、魔物達は地面から発生した魔力の衝撃波に一気に吹き飛ばされた。


「……な、なんだ、お前は」

「……話かけるな、人間」


 魔物達が持っていたような武器をしまった彼女は、ドスの効いた声を出しながら魔物達へ襲い掛かる。

 まるで死肉を漁る猟犬の如く、魔物達を消し飛ばしていく。


「何者だ、あの女」

「はぁ、はぁ、もう……て、やっぱ機嫌の悪さが限界超えちゃってるじゃない」

「ありゃ完全にブチギレてんな」

「(また来た……ん?あの耳)」


 少女の戦いに見入っていると、上から白い傘のような物を使って二人の少女が降りて来た。

 一人はハルバードを振り回す少女に似ているが、もう一人は見知った顔だ。

 身にまとっている装備は空から降って来た達の物と異なっており、特徴的な耳と瞳は忘れる訳がない。


「お前、フォスキア、フォスキア・エルフィリアか!?」

「あら、ラーちゃんじゃない、三十年ぶりかしら?」

「誰がラーちゃんだ、馴れ馴れしい、それよりお前、群れないのがモットーじゃなかったのか?」

「ちょっと大枚叩かれて雇われちゃって、まぁ安心しなさい、こいつ等が来たんだから、ここに居る雑兵位は片づけてくれるわよ」

「……ありがたいが、ここを片付けただけじゃ」


 ライルの言葉と共に、壁の外は爆炎に包まれた。

 それだけでなく、先ほどのハルバードを持った少女によって大量の魔物が斬り裂かれ、血風と共に空を舞う。

 確かに優勢に見えなくもないが、彼女の不安はまだ別に有る。


「一体何?何が有るの?あの怪物?」

「……あんなのは序の口だ、だが、奴もそう簡単には倒せないぞ」

「成程……らしいけど、やれそう?ゼフィランサス」

『ああ、何とかなりそうだが、コイツ、ちょっとできる』

「そう……手伝いでも要る?」

『手が空いた時にでも頼む!』

「あっそ」

「……」


 ライルの目は、独り言を続けるフォスキアから壁の外へと移る。

 外では黒い巨人らしき存在が、あの化け物と対峙していた。

 巨人は大量の刃を身体から生やしており、化け物を相手に激しい戦いを繰り広げている。


「お前、一体誰に雇われた?」

「ん~、何て言えばいいのかしら、ねッと!」


 大剣を握ったフォスキアは、二人の白髪の少女をかいくぐって来た数匹の魔物を斬り裂いた。

 血の降り注ぐ中で、フォスキアは自身の雇い主の事を話す。


「世界一重いシスコン、かしらね?」


 城壁の外へと走り去るフォスキアの発言に、ライルは首を傾げた。


「い、意味が、分からん」


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