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深まる愛憎 前編

 司令官達が出発した頃。

 レーニア達双子は、サーバー内の情報を集め続けていた。


「……あの大型艦みたいに、司令船となる存在は、二つって所か」

「早くしないと、この世界の人間、絶滅すっかもね」


 大型艦同様に、機械魔物を使役している指令船は二つ。

 といっても、データを見る限りでは建造された大型艦は一隻。

 他には、その艦と同等の存在である何かが作られているという事が判明した。

 次からの相手は前回のように艦船ではなく、他の何かなのだろう。


「それに連中、機械魔物以外にも、色々作っていたみたいだね」

「侵略するかどうかはおいといて、アイツらの辞書に倫理観って言葉、無いの?」


 色々調べていると、エーテルの遺伝子への影響利用し、新種の魔物を作り出すというプランが見つかった。

 エーテルを用いた事で、既存のクローン技術は更に発展させたようだ。

 そのおかげで、新種の魔物を生成する事に成功したらしい。


「けど、今回の騒動で全部逃げ出したみたいだね、次の戦いは、こいつ等にも用心した方が身の為だろうね」


 製造自体は成功したらしいが、今回の一件で彼らも脱走したらしい。

 とは言え、制御の面で問題が有ったらしく、実戦投入はまだ先というレベルだ。

 だが、生物兵器として強化された面も有るので、次の戦いでは用心しておいた方が良いだろう。


「そんなバカな事するから、こうしてバチが当たった訳だけど、その尻拭いすんのがあーしらってのが、何か納得いかない」

「それには同感だけどね、次の戦いは、面白くなりそうだよ、見なよ、面白い武器が次々できてる」

「ん?どれ?」


 不機嫌そうにデータを漁り続けるブライトを横目に、レーニアはリージアが製作中の武器を検めだす。

 丁度良い休憩になるので、二人でデータを共有する。


「……なにこれ」

「どうやら、大戦時代にアリサシリーズが使っていた武器を再現して、アイツなりに強化してるようだね」


 リージアが基本的なベースにしているのは、大戦時代に姉妹が使っていた武器群。

 構造を把握しているという事もあって、作業スピードが速い。

 彼女が言うには、前の使用者は色々とこだわってピーキーに仕上げたらしい。

 改善云々は彼女のセンスに任せるが、中々面白そうな物が揃っている。


「量子通信端末を用いた攻撃ドローン、エーテル偏光障壁を利用した圧縮技術……こっちが被害拡大させるような事が無いと良いんだが」

「アイツも、自分のせいで環境根こそぎぶっ壊した、とか言ってたしね」


 強力な武装を使用するのはまだ良いとして、逆にこちらが被害を拡大させるような事は無いと信じたかった。

 実際現在の地球環境破壊は、リージア達が暴れ回った結果も大きい。

 文字通り根こそぎ吹き飛ばす威力が出てしまうので、二の舞は避けてほしい所だ。


「んで?そのリージアは、今どこなん?」

「あ~?オートメーション化しているし……またサボりかね?」

「何?最近やたら没頭してたくせに、結局サボり?」

「むしろ休んだ方が良いレベルだったからね、今回は大目に見ようじゃないか」

「確かに」


 この基地に来てからという物、リージアは見違える位の働きを見せていた。

 まるで依存でもしているかのようにデスクにカジリ付き、次々と兵器の製造を続けていた。

 むしろ心配な程に働いていたので、この際うんと休んでもらった方がいいだろう。


「ん?」

「どったの?」

「……司令官からのメッセージだ、何々?」


 リージアの事を話していると、司令官からのメッセージが届いた。

 早速開封し、内容を確認していく。


 ――――――


 司令官からのメッセージが届く少し前。

 大型艦船用ドッグにて。

 ナノマシンで再構築され、鈍い銀色の光を輝かせる空間で、リージアは一人整備を続けていた。

 そこら中からナノマシンと電力供給が受けられるので、一人でも十分に作業を行える。

 しかし最近の激務の疲れが出たのか、甲板の上で仰向けに倒れていた。


「……何か、何だろう、気分が悪い」


 鈍い銀色に輝く天井を眺めながら、リージアはそうつぶやいた。

 ナノマシンで再構築されたこのドッグは、海や宇宙と比べればやはり息苦しい。

 しかし身体に特に異常はなく、精神的な疲れの影響だと思いこうして横になっていた。


「こうして倒れて二時間、一向に気が晴れない……空が見えないからか?」


 どんなに気分が晴れなくても、空を眺めていれば一時間で治っている。

 だが、今は空が無い生なのか全く気が晴れない。

 作業を進めようとしても頭にモヤがかかったように何も見えず、やる気も起きない。

 無機質な天井を眺めながら、リージアは何故こうなってしまったのか、鈍くなってしまっている頭を動かしだす。


「ここ最近、仕事ばっかだから?それともお姉ちゃん達の事思い出したのが、今になって来た?なんだろ、ここ最近、お姉ちゃん達関連以外で何か有ったかな?」


 姉妹関連の事以外で何か有ったか、それを考えても特に思いつく事は無い。

 やはり仕事ばかりだった、という考えに行き着いてしまう。

 しかし、この基地で作業を行うようになってから精々一週間程度しか経っていない。

 社畜同然の仕事内容では有ったが、こんな風になる程では無い。


「う~ん、やっぱりヴァーベナに診察してもらった方がよかったかな?てか、そうした方が良いか……あ、でもその前に、一旦フォスキアの所に行って……」


 とりあえずヴァーベナに診察してもらう事にしたが、フォスキアに用が有った事を思い出した。

 先日渡した髪留めの効果がしっかりと現れているのか、人の居ないこの場では判別が難しい。

 現地に行って効果無し何てことが無いように、検査を行いたかった。

 しかし、彼女の事を思い出すと、胸に痛みを感じた。


「……そう言えば最近、モミザと仲良さそうなんだよね~」


 ここ最近、フォスキアとモミザの仲が改善されつつある。

 しかも仕事終わりには、二人共モミザの部屋に入って翌朝まで一緒に居る。

 その事を思い出すと、突然胸の奥にモヤモヤとした感覚が生まれて来る。

 感じた事の無い痛みを握り締めながら、リージアは半身を起こす。


「二人共何してんのかな~、一昨日私も混ざりに行ったら門前払いされちゃったし……二人には仲良くしてもらいたかったんだけど、そこまではね~、何か、嫌だな~」


 初めて会ってから少しして、二人の仲は何故か悪くなっていた。

 出来れば今後の為にも仲良くしてほしかったが、二人がひとつ屋根の下で、ゆうべはお楽しみでしたね、何て事までは望んでいない。

 というか、勝手にそんな事を妄想しただけで余計に気分が悪くなる。


「はぁ、何だろ、この感じ」


 ため息と共に、リージアは再び仰向けに転がった。

 すると、視界にフォスキアの顔が入り込んだ。


「わ!」

「ふふ」

「……脅かさないでくんない?」

「貴女が勝手に驚いたんでしょ」


 少し顔を赤くしながら悪態をつくリージアの横に、フォスキアは小バカにするような笑みを浮かべながら座った。


「てか私、誰にもここに居るって言って無いんだけど」

「モミザが、仕事場に貴女が居ない時は、大体この船の甲板に居るって」

「……ふ~ん、モミザが、ね~」

「え、ええ」


 基本的にリージアの行動パターンを知っているモミザは、サボる時に何処に行くのか理解している。

 現状リージアがサボりに行くとすれば、この船の甲板位だ。

 その事を伝えられたリージアは目を細め、フォスキアを緩やかに睨んだ。


「(ああ~、その目、良い、もっと嫉妬してほしい)」


 だが、いつの間にか変な扉を開いてしまったフォスキア。

 妬みの籠ったリージアの目に反応し、身体を震わせてしまった。


「(でもダメ!ここに来たのはこんな事する為じゃないんだから)」


 思わずにやけてしまいそうな口角を必死に黙らせ、当初の予定を思い出した。

 ここに来たのはリージアを嫉妬させたいからではなく、元気にさせたいからだ。

 その為に、モミザやヘリコニアからの助言を得て色々と準備をしてきたのだ。


「随分仲良く成ってくれたようで、私は嬉しいよ」

「んッ(ダメ、興奮しないの)」


 何時もより低いトーンの声を発しながら、そっぽを向くリージア。

 ツーンとしたその態度に、再び心が揺らされた。

 鼻血でも出そうな程の血の高まりを感じるが、それをグッとこらえて用意した物を取りだす。


「ほら、これあげるから機嫌治して、それと元気も出して」

「何?」


 何とか感情を抑え込んだフォスキアは、ここに来る前に用意しておいた箱を取りだした。

 リージアの為にと、早朝に用意したランチボックスだ。

 先日からモミザがリージアとの距離を近づける為にと、色々と仕込まれていた。

 この件も、彼女の仕込みのような物だ。


「……サンドイッチ?」

「ええ、持って来た食材で作った有り合わせだし、私も、普段から料理とかしないから、味の保証とかはできないんだけど」

「……」


 ランチボックスの中身は、粗雑なサンドイッチ。

 使った食材は、フォスキアが持参した物。

 料理をしないので、形だけは何とかとりつくろえたが、味の保証はない。

 恥ずかしさから視線を少しずらしてしまうフォスキアだったが、その視界の外れではリージアはホホを赤らめていた。


「(フォスキアの手料理?え?エルフの手料理が食えんの?携帯食だと思ってた)」

「(あれ?なんか嬉しそう)」


 以前にもリージアに食事を運ぼうとしたが、とうの本人は携帯食の事だと思っていた。

 まさかこうして手料理を振舞われる何て、微塵も考えていなかったのだ。


「た、食べて良いの?」

「え、ええ(すんごい眼ぇ綺麗)」


 最近はハイライトオフ状態が続いていたが、今のリージアは初めて会った時と同じ。

 ファンタジーを目の当たりにした時に、よく見せていた宝石のような目だ。

 これだけでここまで機嫌が戻るとは思わなかったので、フォスキアは冷や汗をかいてしまう。


「ありがとう、これ、真空パックに入れて永久保存しとく」

「カビそうだからすぐに食べてちょうだい」

「ちぇ……アグ」

「……」


 少し惜しみながらも、リージアはサンドイッチを少し観察した後、ようやくかぶりついた。

 手料理を振舞うなんて家族以外にした事がないフォスキアは、息を飲みながら見守る。

 心臓はバクバクと鳴り響き、変な汗まで流れて来る。


「……うん、美味しい」

「そ、そう、お、お世辞でも嬉しいわ」

「あはは、大丈夫、本当に美味しいから」


 笑みを浮かべたリージアは、もう一度サンドイッチにかぶりつく

 パンは遠征中の傭兵が食べるような硬くスカスカな物、それをプレスしてトーストした物だ。

 その間には辛みを抑える処理をした玉ねぎと、良い具合に炙られたベーコンが挟まれている。

 間の具の旨味は柔らかなパンに吸い取られ、酸味と臭いの強いチーズを活かしたソースが、全体の味を引き締めている。


「これって確か、イタリアのパニーニ?」

「そ、そうなのね……は、初めて作ったから、良く解らないけど」

「……モミザにでも教わったの?」

「い、いや、その、そうやったら、美味しいかなって?」

「……」


 少し冷や汗をかきながら、リージアはサンドイッチを頬張って行く。

 お世辞抜きに美味しく、とても料理をしない人が不意に思いつくような味とは思えない。

 教わっていないともなれば、何故彼女がこれを作れたのか解らなかった。

 しかし、食べ進めている内に、リージアの目から徐々に涙があふれて来る。


「美味しい、美味しいよ」

「ちょ、無理しないでちょうだい」

「本当、本当だから」


 リージアが思い出すのは、徐々に貧しい食事を摂る様になっていくマスター達。

 何もする事の無い艦の中で、彼女達との通信は数少ない楽しみだった。

 好物のオムライスも食べられなくなり、添加物まみれの食事しかできない彼女達の為に戦ってきたつもりだった。

 できる事であれば、最終的にこういった物を食べさせられる状況にしたいと考えていた。

 悔しさと、を抑えきれない中で、リージアはサンドイッチを完食した。


「んぐ……ふぅ」

「……本当に、美味しかったの?」

「うん、本当、美味しかった」

「……そう」


 涙を拭きながら喜ぶリージアを前に、フォスキアは顔を赤くしながら喜んだ。

 もう美味しかったのか無理した結果なのか、そんな物はどうでもいい。

 彼女の笑顔には、確かに嬉しさを感じ取った。

 なんとも言えない空気が漂い、リージアは話を変える事にする。


「てか、料理しないって言ってたけど、普段何食べてるの?」

「え、そうね、大体は食堂で適当な物食べて、買い込んだおつまみでお酒飲んで、故郷出てから自炊何てあんまりしてないわね」

「へ~、じゃぁ、旅してる時は?」

「その時は、燻製肉焼いたり、その辺で捕まえた魔物料理したりって感じね、でも、おつまみみたいな物ばかりで、サンドイッチみたいなオシャレなの作った事無かったわ」


 フォスキアが作る物と言えば、焼くだけで作れるような物ばかり。

 食材の味を活かして、何てオシャレな物とは縁遠い。

 今回もそれで行こうとしたのだが、モミザが無理矢理この路線に切り替えさせた。


「この世界だと、食品の保存とかは塩漬け位しかないだろうしね」

「ええ、貴女の世界みたいに、工業とかそう言うので発展してないから」

「まぁでも、私の世界も、フォスキアと似たような時代だって有ったし、それどころか、ここより落ちぶれてた時代だって有ったよ」

「え、そうなの?」

「でもね、マスターが言うには、その落ちぶれて立ち直る、この一連の歴史で、私達はエーテル関連の技術を失ったって、言ってた」

「何が有ったの?」

「……魔女狩り」


 リージアの脳裏に過ぎるのは、かつて起きた魔女狩りと呼ばれる出来事。

 その出来事が有ったために、リージアの世界はエーテル関係の技術を失ってしまった。

 もうかなり昔の話なので確証が有る訳もないが、それがマスター達の見立てだ。


「正史では、戦争や疫病のせいで傾いたうちの世界にある宗教の威厳を保つために、あらぬ疑いをかけて、魔女と疑われた者達を処断する、そんな感じだったかな?」

「それで何で魔女狩り?」

「魔力を扱うには脳の働きが必要になる、マスター達の予想では、人間はある一定の進歩を遂げると、自然に有るエーテルの影響を受けて、魔法を扱えるように進化する、それは女性が発現しやすかったからこそ、宗教家たちの威厳を潰しかねない魔女を殺した、ていう見立て」

「何で女性?確かに、魔法使いに適性がある人は女の人が多いけど」

「それは解らない、けど、そこに目を付けて、二人はガーデンコードのモデルを女性の脳の作りに寄せたの、だから男性型のアンドロイドが作れなくなったみたい何だけど」

「そ、それで女の子ばかりだったのね」


 リージアは何故自分の世界にもエーテルが有るのに、そちらの方向で発展しなかったのかを話した。

 あくまでもマスター達が立てた仮説ではあるが、リージアは核心を突いていると思っている。

 だが、何故現在の結果になったのか、その部分が分からなかった


「それで、何でアンタ等が魔法を失うのよ」

「魔法で必要なのは無意識に信じる事、でも、先人たちは信じようとしなかった、ようは、魔法を無意識で信じなければいけない、そうでないと、どんなに表面で信じても実現はできなくなっちゃうの」

「信仰とかしてるんなら、その無意識でも、魔法を信じるんじゃないの?」

「でも、結局は信仰さえ勢いを失って、最終的には科学が勝利したの、目覚ましい発展の末に、誰もが魔法を信じる事を止めた」

「そして、今度は魔法を求める様になった」

「そ」


 信仰は完全に廃れた訳ではないが、それでも科学面の進歩が世の中をつくった。

 魔法は物語の中だけのただの空想でしかなく、科学こそが真実の世界。

 だが、今は空想となった魔法を求めている。


「魔法が発展したこの世界と、化学が発展した私達の世界、本来なら、交わる事でもっといい物を創造する、それが理想なんだろうけど、アイツらは傲慢すぎた、この世界に来たら何をしでかすか解らないよ」

「……だから、アイツ等が何をしようが止める、か」

「まぁ何が有ろうが、アイツらがここに来れば私達は吊るしあげられる、それだけは止めないとね」


 政府が何をするつもりであっても、この現状ではリージア達は殺される。

 そんな理不尽で誰かが死ぬ事は、絶対に阻止したかった。


『こちらレーニア、各員、作業を止めて聞いてくれ、司令官からの通達だ』

「リージア」

「……」

『政府の連中は母星を出発、到着予想時刻は、三か月後だ』


 レーニアの放送を聞き、リージアは甲板に立ち上がった。

 もう体調はすっかり良くなり、労働意欲も回復している。


「……三か月、か、十分だ」


 黒い笑みを浮かべながら拳を握り締めたリージアは、その拳を突きあげた。


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