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切られた火ぶた 前編

 リージア達の蹶起の準備が進む中。

 何時もの小部屋とは異なり、薄暗い部屋に赴いたストレリチア指令官は、近くに有った端末を操作していた。

 政府要人たちにばれないように秘匿回線を用いた通信を用いて、総司令官と会談を試みていた。


「(……成功したか)三日ぶりです、総司令」

『ああ、久しいな、司令官』


 映し出された総司令に敬礼したストレリチアは、彼の今の様子に冷や汗をかく。

 一見すると清々しいお爺ちゃんという印象を受けるが、その姿がかえって怪しい。

 三日前の会談から、政府達の動きが激しくなっていた。

 その事を考えると、よくない事が起きているのだろう。


『……いや、ストレリチアさん、と言ったところでしょうか、どうやら、時は来てしまったようです』

「……」


 彼の口調が変わり、ストレリチアは全てを察した。

 この話し方は彼が現在の席に着く前、士官学校を出たばかりの頃、つまり、二人が初めて会った時の物だ。


「そうでしたか、ですが、貴方は」

『いえ、この命は貴女に救われた物、貴女とその姉妹達に幸せがあれば、それで十分です』

「……」


 総司令からの言葉に、ストレリチアは大戦時を思い出した。

 以前よりアンドロイド部隊の司令官として役目を全うしていたが、場合によっては前線に立つ事も有った。

 当時はまだ若かった総司令と偶然同じ戦場に立つ事になった彼女は、総司令の事を救う事に成った。

 そんな経緯もあって、二人の仲は親密となった。

 偶然では有ったが、総司令クラスのパイプを得ることができた。


「そんな昔の事、まだ覚えているとは」

『ええ、おかげで、面倒な仕事が増えてしまいましたが』

「人間の義理堅さ、我々アンドロイドがまだ学びきれない部分ですね」

『義理、ですか……』


 深く帽子を被った総司令は、軽く赤くした顔を隠した。

 しかし、内に秘められている想いは打ち明けようとしない。

 どんなに高い地位に立っていても、二人の行いは政府への背信行為。

 ずっと秘めて来た思いを伝えようと、実ることはない。


「どうやら、義理なんて言葉では、片付かないようですね」

『はい、だからこそ、貴女方に最後の指令を下します』

「……」


 もはや必要のない事ではあるが、総司令は前から頼まれていた指示を下す。


『これからは、貴女方の意思に従ってください』

「……了解」


 既に人間からの指示を聞き入れる回路は焼き切ってあるが、彼の口からそのセリフが聞きたかった。

 彼からの最期になるかもしれない言葉を聞き入れ、ストレリチアは敬礼した。

 同時に通信も途切れてしまった。

 明らかに第三者の介入による切れ方だったが、むしろそれが狼煙となった。


「……我々も、計画を進める時が来たか……いや」


 涙をのみ込みながらそう言ったストレリチアは、拳を握り締めた。

 リージアにそそのかされなければ、こんな事にならなかったかもしれない。

 だが、いずれ避けては通れない道である事も事実。

 生き残るためには、計画を進める必要がある。


「ロストフラワー計画、すっかり歪んでしまったな」


 ――――――


 同時刻。

 通信後もデスクに座る総司令は、大量の銃口を向けられながら煙草を吹かしていた。

 彼の事を囲っているのは、全員統合政府の正規軍達だ。

 その中心には、ガラシアの映るモニターを持った兵士が居る。


「感謝するよ、最期の一本を許してくれて」

『貴方には失望しましたよ、古来より続く軍人の家計が、まさかアンドロイド如きに魂を売ってしまうとは』

「ふん、大間違いな方向に舵を切る事しかできない方向音痴親子に、仕えようなどと思わん」


 煙草の灰を灰皿に落としながら、総司令はため込んでいた言葉を吐き捨てた。

 そもそも、彼とその父である前代表がリージア達を貶めなければ、総司令もこんな事をするつもりは無かった。

 だが彼ら親子は来る筈の無い恐怖に押しつぶされ、自ら破滅への道に足を踏み込んでしまった。


『大間違い?いや、むしろ父上は正しかった、あのガラクタ共を野放しにしてしまえば、やがて厄災が訪れると何度も言っていた、しかし、貴方があの程度の処置で済ませたが故に、アイツ等は創造主たる人類に弓を引いた、その責任は重い』

「はぁ……」


 大戦終結後、アンドロイド達は全て厳重な管理を強いられる予定だった。

 ただの武器や兵器と同じように、不必要な時は意識を奪って格納させておく形だ。

 しかし、総司令官の判断のおかげで、なんとか軟禁程度にまで抑え込めた。

 ガラシアからして見れば、そんな野放し状態だったせいでこの事態となった認識。

 だが、総司令からしてみれば、全くの逆だ。


「君は大きな勘違いをしている、彼女達は文字通り勝利の女神だった、しかし君の御父上は、微笑んで天へと帰る女神の羽をモギ取り、武器までも奪い、自らこそが勝利の女神だと名乗った、更には女神を隷属させようとしたのだから、天罰が下っても文句は言えない、正に、触らぬ神に祟りなし、と言った所か」


 ため息交じりに諭す総司令だったが、ガラシアは自分の考えを譲るつもりは無さそうだ。

 双方共に難しい表情を浮かべ、モニター越しの睨み合いとなる。

 ガラシア達にとっては、アンドロイドと言うのはただの道具。

 そんな彼女達をまるで人間のように扱う何て、おこがましいにも程がある。


『どうやら、貴方を優秀と言ったのは訂正しなければならないようだ、アンドロイドを人間のように捉えるような愚か者だったとは』

「彼女達を人間と同様に見る事ができるのなら、私は愚者で構わない」

『そんな心構えであるせいで、その企みを気取られた、そんな連中に何ができる?』

「色々ですよ」


 軍の最上部として、彼は可能な限りの情報をストレリチア達へ流していた。

 そのパイプを利用する事で、リージアの立てた計画の準備を進めて来た。

 しかし、今朝がたにその関係が露呈。

 元々目を付けられていたようだが、総司令の持つパイプによって目を眩ませられていた。

 出来れば、後一日は隠し通しておきたかった。


『だが、全ては無に帰るでしょう、既に艦隊が基地を包囲しています、自ら首輪を噛み切るようなペットは必要無いのでね』

「(彼女達の出発は今日、できれば、突入時には既にもぬけの殻、という状況にしておきたかったが)」

『ガラクタ如きが人間を出し抜ける訳がない、今回の事でそれがはっきりしたでしょう、諦めて我々の下に戻れば、今回の事も不問にいたします』

「……随分と好待遇ですな」

『愚者とは言え、今まで我々に仕えたのは事実、降伏すれば平民待遇は約束しますよ』

「……」


 甘く見られた物だ。

 総司令は内心彼の事を見下した。

 自称人類を導く為に作られた新人類などと豪語していたが、結果的に人間の強みを失っている。

 それが、総司令の見立てだった。


『彼女達はガラクタと言っても、飼い主であろうと噛みつく狂犬、何をしてくるか分かりませんからね、貴方であれば、彼女達のやろうとしている愚かしい事の全てを知っている、移住を前に、無駄な被害は出したくは有りません』

「それで話す程、私は愚かではない」

『いいや、話さない事が愚かしい』


 総司令からしてみれば、彼らの言動は実に愚かだった。

 被害を出したくないのなら、今頃艦砲射撃なりで一方的に彼女達を潰しにかかっている筈。

 それを行わないという事は、やはり彼らはアンドロイド部隊を舐めている。


「……彼女達を倒したければ急ぐ事をお勧めしますよ、計画は既に動きだしている」

『であれば丁度いい、兵隊の良い訓練になりますよ、我々の世界にあんな身勝手なガラクタは必要ない、勿論、わが身可愛さに人間を見捨てるような出来損ないも』

「……」


 やはり彼らにとって、アンドロイド達は生贄の材料。

 向こう側にあえて付け入る隙を見せ、その誠意と責任として彼女達の処刑を公開する。

 元々彼らはアンドロイド達を疎ましく思っていたのだから、外交の為というよりは、単純に目障りな彼女達を始末する事が目的だろう。

 自分の手綱に従わない物を許しはしない彼らならやりかねない事だ。


「では、もう一つアドバイスをお送りしましょう」

『……アドバイス?』

「彼女達のガラクタ呼ばわりは止めもらう、もはや、彼女達はただのアンドロイドの枠組みには居ない」

『何を言い出すかと思えば……その言葉、我々への完全な背信とみなしますよ?』

「構わん」

『……もう一度言う、我々に従え』


 圧力を強めて来た彼を前に、司令官はもう一歩も引かない。

 最後に煙草を灰皿へこすりつけ、火の始末を終える。

 堕落しきった人間達に、もはや従うつもりもない。

 これまで彼らが口にしてきた言葉を思い出しながら、全身の血管を浮き上がらせる。


「……何が、人類の新たな一歩だ、何が古い世界との決別だ、ただ面倒なだけだろ」

『所詮貴様は、古く歪んだ考えに縛られ、新しく正しい考えに賛同できない愚か者か』


 拳を力強く握りしめた総司令は、懐にしまっておいたスイッチを取りだす。

 戦争を否定しておきながら、彼らは結局暴力で屈服させることしか考えていない。

 それどころか、上手く行かなかったら全て放り出す結果となった。


「そんな惰弱精神では、彼女達に勝つ事はできんぞ!若造が!!」


 怒号と共に立ち上がり、総司令はスイッチを押した。

 彼の行動を見た兵士達は、一足遅く引き金を引いた。

 ライフル弾が身体を貫くと共に、執務室に仕掛けられていた爆薬が炸裂。

 逃げようと扉へ向かおうとする兵士諸共、全て燃え上がって行く。


「(ストレリチアさん、貴女達の未来に、幸あれ)」


 そんな祈りを捧げながら、総司令は周りの兵士達と共に爆炎に包まれた。


 ――――――


 その頃。

 議事堂の円卓にて。

 以前総司令が赴いた時と異なり、全貌はかなり変わっていた。

 円卓を頂点に、まるで軍の司令本部のように広がっている。

 生き残った突入部隊からの通信に、ガラシアは耳を傾けていた。


『こちらA小隊!反乱勢力の自爆によって、隊員の多くが死傷!』

「これだから、古い頭の持ち主には始末に悪い……生存者を可能な限り回収、直ちに医療班の元へ運べ」

『了解!』


 僅かな生き残りの可能性に賭け、救助の指令を下した。

 現在統合軍の用いている戦闘服は、爆発への高い耐性を持っている。

 よほど至近距離から強力な爆発を食らわなければ、生きている可能性が高い。

 その指示を終えると共に、今度は艦隊へ通信を入れる。


「艦隊へ通達!ベース422へ砲撃を加えろ!」

『了解!これより砲撃を開始……どうした!?』

「何だ?」

『で、殿下!基地が、奴らの基地が!』


 何やら艦長の様子がおかしい。

 状況を確認する為に、ガラシアは別のモニターに目を通す。

 基地を包囲する五隻の艦艇から確認されている映像が流れており、一目で何が起きたのか判明した。


「バカな、基地その物を爆破しただと」


 大量の爆薬でも使ったのか、ベース422は大量のデブリと化した。

 その爆炎が艦隊へ伝わると共に、彼らとの通信の一切が切断されてしまう。

 加えて、艦隊から送られている映像まで途切れる


「な、何が起きている、通信状況はどうなっている!?」

「分かりません、回線は異常なし、ただ電波障害のみが起きています!」

「どういう事だ、E兵器の類は漏れていない筈だぞ」

「熱源センサーに切り替えます……ば、爆心地より、更なる熱源確認!これは、艦艇です!」

「何だと!?」


 映像も何も無い中で、彼らは巨大な熱源を感知。

 シルエットから推測するに、艦艇の一種である事が判明した。

 どんな方法で材料を集めたのか解らないが、基地の中にはドッグを使い建造したのだろう。


「……クソ、ガラクタ共が」

「レーザー通信回復します……ッ、これは」

「どうした?」

「出現した艦艇からの通信です」

「……なめたマネを、回線を繋げ!」

「はい」


 怒るガラシアからの命令に従い、オペレーターは艦艇からの通信を繋げた。

 流石に映像を送れる程回復している訳ではないのか、目の前の画面には音声のみと言う表記がなされる。


 ――――――


 ベース422より出現した艦『ブロッサム』の艦橋にて。

 ストレリチア司令官は、ダメ元でガラシア達へと通信を行っていた。

 こちら側でもやはり画面は音声のみしか届いておらず、円卓の様子は映されていない。


『ガラクタ風情が、何のマネだ?』

「……無駄だと思っての事だが、停戦と和解を申し出ようと思いましてね」

『和解だと?これだけの事をしでかしておいて、今更何を』

「本来我々は争い合う間ではない、貴方方とフロンティア、そして我々アンドロイド、この三勢力で改めて関係を築き直したい、そうすれば、これ以上無用な血が流れる事は有りません、私も、これ以上部下を失いたくない」


 本来反逆を行った身の彼女達が、政府機関に散圧されても文句は言えない。

 ストレリチア自身も、巻き込んでしまった総司令が自ら命を散らしてしまった以上は戦うべきだとは思う。

 だが、それは彼女が産まれた時に伝えられた遺志に反してしまう事にもなる。

 それ以前にリージアが納得するか解らないが、改めて関係を築き直す事で無用な争いは避けられる。


『バカを言え、何故我々が貴様ら反逆者の為にそんな事をしなければならない?』

「そもそも我々が作られた理由は、人間と共にこれからを歩む為、下手に互いを傷つけあっても」

『アンドロイドは我々人間に仕える為に生まれた!!貴様がどんなに絵空事を唱えようと、この真実は決して覆らない!!だというのに、貴様らは図々しくも我々人間と対等であろうとするというのか!!?』

「……」


 自らの創造主の望みを語ったが、それはガラシアの逆鱗に触れた。

 他にも野次が飛んでいる辺り、参列している重鎮たちも刺激してしまったらしい。

 聞こえて来る怒号に失望するストレリチア指令官は、肩の力を抜く。

 もはやアンドロイドの声何て、彼らには届かない。

 そう考えるだけで、リージアの気持ちがわかってしまう。


「(あくまでもこちらは道具、どう扱おうがあいつ等の勝手か……善悪何て関係なく邪魔したい訳だ)


 この戦いは、リージアの私的な恨みが火種となっている。

 人間を恨み、憎み、羨み。

 負の感情が募りに募り、この戦争を起こす事を決めた。

 最愛の人達にさえ反発し、彼女達が定めた計画を歪めてまで。


「……分かりました、どうあがこうと、我々は戦う定めのようです」


 彼らが考えを改めないのであれば、フロンティアに居るメンバーは全員殺されてしまう。

 もちろん彼女達が簡単に殺されるとは考えていないが、衝突だけは避けられない。


『戦う、か、一体何様のつもりだ?頼りになる十二人のお友達は、もう居ないぞ?』

「そうか、貴様らは知らないのだったな」

『何?』

「向こうに居るリージアとモミザは、その英雄たちの生き残りだ、戦うのであれば覚悟する事だ、それに」


 拳を握り締めたストレリチアは、ずっと隠してきた事を打ち明ける決意をした。

 もはや、隠していても良い事は無い。

 こんな足かせが無ければ、このまま部下達と別の宇宙にでも逃げていただろう。


「英雄は十二人ではない、十三人姉妹だ、そしてこの私が、その十三人目だ!私は姉妹達に誓った、何が有っても、遺された可愛い妹達を守り抜くと!!」

『そうか、ならばせめて同じゴミ箱に捨ててやろう!偽りの英雄共!』


 こうして、二つの勢力は完全に割れた。


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