反逆への一歩 前編
フォスキアの食事が終わり、しばらくして。
二人は艦内に保管されていたフォスキアの大剣を持ちだし、基地内に有る鍛冶工房に運ばれた。
そこはレーニア達の手により、ナノマシンで構築された工房。
モミザの役目は近接武器を制作する事なので、頼まれた物は全て用意してある。
既に作業準備は整っており、部屋は蒸し風呂のような暑さが二人を襲う。
そんな環境の中で、モミザはフォスキアの大剣の様子を検める。
「ひっでぇな、姉貴と打ち合ったとは言え、全体的にガタガタだぞ」
「その剣を鍛え直せるのは、一定以上の腕を持ったドワーフだけなのよ、その辺の鍛冶屋じゃどんなに熱して打っても意味がないの」
「そんだけ頑丈って事か」
改めてフォスキアの大剣を見てみると、刃はノコギリのように粗くなっていた。
幾らか刀傷のような物も見えるが、それ以外にも潰れたり割れたりと言うような損傷が見られる。
ここに来るまでかなり振るっていたが、ずっと鍛え直す事無く使い続けて来たのだ。
アリサとの戦いで折れなかったのが不思議なくらいだ。
「コイツは、大仕事になるな」
バンダナをきつく結んだモミザは、フォスキアの大剣を熱し始める。
重さもそうだが、なにより大きさはフォスキアの身長程。
持ち上げるだけでも一苦労だが、熱するのにも時間がかかる。
「大丈夫なの?」
「安心しろ、以前から刀剣の手入れは俺の担当だ、大船に乗った気で居な!!」
そう言いながら、モミザは大剣を叩く。
――――――
その頃。
アリサと死闘を繰り広げたクレーターの上空にて。
一機の黒い機体が、大きな翼を広げながら飛行を続けていた。
今回の一件を解決する為に造られた高機動機の一機で、テストパイロットはホスタが勤めている。
「(凄い、こんなに動き回っているのに、全く負担がない、そのうえ、私の反応速度について来れてる!)」
従来のアーマードパックを素体に、ナノマシンでE兵器に強化した機体。
エーテル制御によって、反応速度は従来型の比ではない。
ガンマチームというエリートだっただけに、通常機体ではホスタの反応速度について行けていなかった。
その不満が無くなり、更にはどれだけ無茶な操縦をしてもホスタに一切の負荷は無い。
おかげで、彼女の顔は驚愕と喜びに満ち溢れている。
「これがE兵器!これが大戦を終わらせた力!!」
縦横無尽に動き回りながら、ホスタは用意された的を狙い撃つ。
ホスタが得意な射撃戦に調整されている訳ではないが、全くの誤差なく的の中央を撃ち抜く。
思い通りに動いてくれたおかげで、ほんの数秒で的を全て撃ち抜けた。
「はぁ、はぁ……凄い」
まるで初恋をしているかのような胸の高鳴りに、ホスタは息を荒くする。
しかも試験内容を終えて動きを止めた途端、手の震えが止まらなくなった。
未だ興奮は収まらず、落ち着くのに時間がかかってしまう。
「……」
『ホスタ君?熱は治まった?』
「はぁ……はい、すみません、少し取り乱してしまいました、これより帰投します」
リージアからの無線を切ったホスタは、クレーターの中へと入り込む。
中はすっかり変わっており、今やE兵器の製造ドッグだ。
中央の制御コンソールを軸に、改造用のマシンを設置。
何とか原型の残った五機と、宇宙艇用の六つが有る。
その内の一つの装置へ、ホスタは降り立つ。
「……ふぅ」
「凄かったよ、初めてなのにあんなに動かせるなんて」
展開されたコックピットから降りると、笑顔で拍手を送るリージアと対面した。
他にも待機していた隊員達にも出迎えられ、ホスタは興奮を抑え込む。
「どうだった?『ストリクス』の使い心地は」
「最高の一言です、少々抵抗の有る点はいくつか有りますが……」
「抵抗?」
「我々は問題有りませんが、この機体には動力となるエーテルリアクターが詰まれています、いくら独立したとはいえ、条約違反ですから」
「あはは、マジメなホスタ君らしいよ」
「ええ、ですが」
リベリオンズとして独立したとはいえ、やはり元は正規軍の一人。
動力を積んではならない、という条約を破っている事に抵抗はある。
しかし、一番の抵抗は他に有る。
「一番の抵抗は、このナノマシンですね」
「……だよね」
機体の性能などは全てナノマシンの恩恵であるが、そのナノマシンこそが一番の種だ。
便利とは言え、元になったのは調査チームやここで倒れた機械魔物。
彼らが含まれていると考えると、思う所がある。
「気持ちはわかるけど、今はとりあえず、こっちの強化が優先だよ」
「……はい」
どうも割り切れないホスタは、返事も少し歯切れが悪い。
そんな彼女へ、ゼフィランサスが歩み寄る。
「ホスタ」
「ッ、隊長、あ、いえ、少尉」
「まだ慣れないか、だが今はリージアの言う通りだ、彼女達の無念を思うのならば、同じような被害者はこれ以上だしてはならない、ここは、飲み込んでくれ」
「……はい」
「さて、暗い話はこれで終わり、早速だけど、この機体の概要を話すよ、ちゃんと聞いてね、サイサリスちゃん」
「ちゃんは止めなさいよ、馴れ馴れしい」
「はいは~い」
新型であるストリクスは、全部で三機。
まだシンプルな武装しかないが、リージアも色々と考えている。
「一応、アーマードパックと同じ位の汎用性を持たせているから、武装面は好きな物を装備できるよ、色々作っていくから、好きなの使ってね、それに伴って、操縦者の特性に合わせていくらでもOSをカスタムできるから、三人とも好きなように改造しちゃって」
「了解した」
「了解」
「分かったわ」
「それと、ヘリコニアとベゴニアだけど、こっちはもうちょっと待ってて」
ストリクスの説明を簡単に終えると、次はヘリコニア達の乗機の話へ移る。
彼女達の機体はホスタ達の物と異なり、陸戦を主体に設計されている。
使用されているのは、到着と同時に脚部が大破した個体と、砲撃戦モデルの二機。
これらは少し時間がかかりそうだった。
「もぉう、結構待ってるのよ~」
「あはは、機体の大半に魔物の素材使うから、結構時間かかっちゃって」
「わざわざ魔物の素材使う事も無いだろうに」
「折角手に入れたからね、有効活用して行かないと、それと、皆の機体にも最大稼働の機能つけておいたから、今度テストしておこうか」
時間がかかる一番の原因は、素材に魔物を用いている事が起因している。
ストリクスにも用いられているが、こちらはスラスターだけなのであまり時間はかからなかった。
しかし、ヘリコニアの乗る機体は下半身が全壊しているので、まるまる製造する必要がある。
ベゴニアの乗る機体も、想定される地上での激戦に備えて頑強にする予定だ。
外装をまるごと変えるので、こちらも時間がかかっている。
「だから、できるまで二人は彼女達のサポートお願い、宇宙艇も結構改装に手間取ってるから」
「分かったわ~」
「りょ~かい」
リージアの指示を受けた二人は、宇宙艇の改修作業を手伝に行く。
こちらは魔物の素材をあまり使うつもりはないが、それでも大きさが大きさなので結構手間取っている。
指示を終えたリージアは、中央の端末の前に座る。
「……さて、色々と説明はできたし、私は私の作業が有るから」
「……そう言えば、何を作っているんだ?」
「ん、ちょっとね」
ゼフィランサスからの質問を軽く流しながら、リージアは作業を進める。
リージアの座るコンソールには、貝殻の乗った小さな作業台が置かれている。
他の作業台ともリンクしているが、基本的にこちらを重点的に見るつもりだ。
「後はここをこうしてっと」
これと言って難しい物では無かったので、リージアは最後に強めにキーボードを叩いた。
そして、早速できあがったガチェットを手に取る。
何やら色々と取り付けられているが、楕円状の綺麗な貝殻だ。
すぐ近くで見ていたゼフィランサスは、何を作っていたのかを見て小首を傾げてしまう。
「……まさか、髪飾りか?」
「そ、色々貝殻拾ったからね、丁度良いのを使って作ってみた」
「テロを画策しておいて、呑気な事を」
「あはは、フォスキアのお悩みは、こっちとしても解決してあげたいからね、サイコデバイスの技術を応用したテレパシー制御装置作ったの」
「……凄いんだかそうでもないんだか」
フォスキアがテレパシーを本人の意思に関係なく拾ってしまうというのは、リージアとしても解決しておきたかった。
彼女の士気にも関わるうえに、酔った状態で戦う事に成るのは困る。
日常的に付けていても違和感が無いように、こうしてデザインにもこだわっておいた。
そんな物をさりげなく作るリージアに、ゼフィランサスは変な気持ちになってしまう。
「さてと、じゃ、私はフォスキアにこれ渡してくるから」
「そうか、なら、ちょっとモミザに言伝を頼む」
「言伝?」
「ああ、彼女に私の新しい剣を作ってもらうように頼んでおいたんだ、その進捗だけでも確認してきてほしい、ここではエーテルの濃度のせいで無線も通じないからな」
「はいは~い、そんな事なら喜んで」
そう言いながら、リージアはフォスキアの元へと去っていく。
因みに、工房に居る事を知らないので数十分迷う事になった。
――――――
その頃。
鉄を鍛える音が響き渡っていた工房にて、
大きさが大きさだったので、かなり時間はかかったが何とか修繕作業は終了した。
早速使い心地を確かめるべく、フォスキアは少し開けた場所で素振りを行う。
「フン、フン!」
「どうだ?」
「上出来よ、これなら防がれても叩き切れそうよ、親方」
「誰が親方だ、だが、おほめに与かり光栄だ」
軽く振り回した後で、フォスキアは刃の状態を確認した。
正に新品同様、いや、宣言通り新品以上の品質だ。
性能の向上を示すかのように、刃は美しく輝いている。
「それにしても意外ね、貴女が鍛冶何てできた何て」
「あたぼうよ、忘れているだろうが、俺は歴史とかそう言うのが好きだ、刀剣には良し悪しに関わらず、その国の歴史が刻まれているからな」
国によって、刀剣はそれぞれの進化を遂げる。
建造物以外にもそう言った物で歴史を感じるのが好きなモミザは、何時しか自分でも鍛冶を行うようになったのだ。
妙にうっとりとしながら、モミザはフォスキアの持つ大剣を眺める。
「それで何で鍛冶が上手くなるのよ」
「好きな物はとことんと、我が家の家訓だ」
「初めて聞いたわよ」
「初めて言ったからな……ま、腕は信じていい、姉貴のあの刀を鍛えたのは俺だからな」
「そ、そうだったのね」
モミザの意外な特技に感服しながら、フォスキアは背中に大剣を背負う。
「さてと、私はこれ置いたら早速リージア達の所に行くわ」
「ああ、俺はここで武器を作っている、ゼフィランサスにも頼まれたからな」
「大変ね……」
「どうした?」
モミザもモミザで大変である事を感じていると、フォスキアは不意にリージアの事を考えた。
一見すれば立ち直っているようにも見える彼女だが、どうも心配で仕方がない。
サイコデバイスと言う物を使っていないのか、思考を読む事ができない。
それでも時折見せるあの悲しい眼は、どうにも心が痛んでしまう。
「いや、その、やっぱり、リージアが気がかりで」
「……」
やはりモミザも気付いていたらしく、彼女の目にも影が落ちる。
恋路を諦めたとは言え、愛妹である事に変わりは無い。
心境の変化が有れば、ある程度分かる。
「確かにな、平常を装ってはいるが、精神状態は芳しくないな」
「やっぱり、そうよね……何かできる事が有ると良いんだけど」
「ああ、とりあえず……」
内心落ち込んでいるリージアに、何かしてあげたい。
その言葉に応える為に、モミザは少し考えこむ。
「本名でも教えるか?」
「何でそうなるのよ」
「あれだ、この前アイツが言っていた吊り橋効果みたいな物だ、落ち込んでいる時こそが距離を縮める絶好のチャンスなんだよ」
「そうじゃなくて、フォスキアが本名じゃないって事、アンタ等に言った事有った?ていうか私が身の上話しても意味無いでしょ」
色々と気になる事は有ったが、一番ひっかかりを覚えたのは名前の部分。
実はフォスキアというのは、本名ではなく偽名。
完全に捨てたつもりで居たので、リージア達にも話していない筈だ。
「正体明かして即日殺しにかかって来る連中を相手に、名前の一つも変えないようなアホでも無いだろ」
「……そうだけど、私は過去を捨てたのよ、今更前の名前を名乗る気は無いわ」
「そうかよ、その考えは見習わせたい、ぜ……」
本名を伏せるフォスキアを前にして、モミザはとある事を思い出した。
森で初めて会った時、彼女は別の傭兵から命を狙われていた。
今更ではあるが、その時の事にどうもひっかかりを覚えてしまう。
「なぁエルフィリア、お前最初に合った時、他の傭兵に命狙われてたよな?」
「え?ええ、ちょっと騙されてね」
「それ、お前の故郷の連中の差し金だった、何てオチじゃないよな?」
「……」
そうかもしれない。
そんな考えがフォスキアの頭にも過ぎり、二人の間に妙な空気が流れた。
極力人と関わる事は避けて来たので、これと言って恨まれる覚えはない。
それでも自覚してないだけで、何らかの恨みを買っていたのではないかと考えていた。
他に刺客を差し向けるとすれば、後は故郷の連中しか居ない。
「ま、まさか、ね、あははは」
「いや、笑いごとじゃないんだが」
「……正直、なんかそんな気はしてたわよ、ええ、ホント」
適当にはぐらかしたフォスキアだったが、実は内心そんな事を思っていた。
しかし、嫌な事には目を背けて来たので、考えても内に秘めて考えないフリをしていた。
モミザに諭された事で、ようやく認める気になったのだ。
「……とりあえず、そう言う可能性が有るって事はリージアに報告しておく、変な横槍入れられても困るからな」
「ごめんなさいね」
とりあえず推測でしかないので、注意するくらいの事をリージアに伝える事にした。
謝罪しつつ、フォスキアは部屋の外へ出る。
モミザも見送る為に、部屋の扉に寄り掛かる。
「それじゃ、私は今度こそ戻るわ」
「ああ、他に作って欲しい物が有れば言ってくれ」
「そうね、今は特にないわ、思いついたらまた伝えるわね」
「ああ、待っている、妹の事、頼んだぜ」
「……ええ」
期待の眼差しを受けるフォスキアだったが、善意しかないその目が痛い。
正直、リージアの事を支えられる自信がなかった。
彼女の傷は、思った以上に深く大きい。
だがこのまま何もせず、彼女が憎しみだけでなく絶望にまで飲まれて欲しくない。
大剣より重たい荷を背負わされながらも、フォスキアはモミザと笑顔を浮かべ合いながら手を振り、この場を立ち去っていく。
「(いろんな意味で複雑ね……お姉さんの事も有るし)」
未だにリージアにアリサの事を伝えられずにいた。
今の彼女の精神状態からしても、とても言えるような状態とは言えない。
「はぁ……ッ、おっと」
「……」
「あ……」
ため息をつきながら歩いていると、偶然にもリージアと蜂合った。
ボーっとしていたので、うっかりぶつかってしまった。
妙に暗い顔をしているのが気になり、フォスキアは少し言葉に詰まってしまう。
「えっと、リー、ジア?」
「ん」
「え?」
「ん!」
「ちょ」
言葉にすらならない声を出しながら、不機嫌そうにフォスキアへ小箱を渡した。
渡したというより、無理矢理胸の谷間に押し込んだ感じだ。
こんな彼女は初めて見たので、本当に困惑してしまう。
「な、何?どうしてそんなに不機嫌なの?」
「……別に、モミザと随分仲良くなって、良かったなって」
「え」
「さっき楽しそうにお喋りしてたじゃん」
「あ、ああ~」
「それは、あげるから、じゃぁね」
「リージア!」
不機嫌な表情はそのままに、リージアはその場を去って行った。
手を伸ばしながら静止を促すが、少し力の籠った歩き方をしながら歩いて行ってしまう。
心の内から変な感情が湧き出るのを感じながら、フォスキアは胸の間に押し込まれた小箱を手に取る。
「……あの子」
包装を解き、その中身を目にする。
タラッサの町で拾ったと思われる綺麗な貝殻を、髪飾りに改造した物。
オシャレなんてした事もないフォスキアには無縁な物だったが、戦闘時の事も考えて装着する。
「可愛いわね、ふふ、ふふふ」
同時に、ホホを赤らめながら、口元を緩ませた。




