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少女達の計画 後編

「ハアアアアア!!?」


 リージアの信じられない発言により、フォスキアの金切り声が室内に響き渡った。

 とんでもない声量だったので、ここに居たメンバーは皆耳を抑えてしまう。

 何しろ、返答があまりにも現実離れしていたのだった。

 数千人程度であればまだしも、数千万規模となれば話は別だ。

 それだけの規模の施設か何かをダンジョン化させるとなれば、魔力量だけでも途方もない物となる。

 それこそ、一国に住まう人間全ての魔力が必要になるかもしれない。

 もちろん維持と構築を行う為の魔法陣も、聖書数十冊分の文字数に達してもおかしくない。


「あのね、そんなの不可能よ!簡単なダンジョンの作り方しか知らないけど、それだけでもこの前頼まれた魔法陣の構築より複雑なのよ!」

「だね、空気や水の清浄と循環、動植物の維持、とにかく、外部からの一切の供給も無く一つの世界を作ろうって魂胆だよ」

「そうか、政府の連中がこの世界にこだわったのは、宇宙への移民を確実な物にする為かい」


 フォスキアの訴えに、レーニアは政府がこの世界にこだわった理由を察した。

 この世界に目を付けた時点で、技術の一部は政府へ既に流出している事は間違いない。

 そこにダンジョンの作り方でも有れば、彼らが食いつかない筈がない。

 折角統合政府なんて物を樹立させ、半ば強制的に市民を宇宙へ上げたのだ。

 半世紀程度でその体制が瓦解する何て、彼らのプライドにかけて阻止したいだろう。


「無謀何て言葉じゃ片付かないわよ、それ」

「だろうね、だからこの計画は、ここに来て数年でボツにしてる」

「そう、でもお仲間は何十年もここに居るのよね、じゃぁ、何で」


 解説を続けながら、リージアは端末から情報に再びアクセスを開始。

 リージアの勘違いでなければ、政府が考えている事は相当ふざけた事だ。

 無数の機械化魔物達に加え、アリサシリーズのリバースエンジニアリング。

 それらを見て、ある程度の検討はついていた。

 だが、ここのレポートや通信記録で確証を得た。


「ダンジョン何て作らなくても、もっといい方法が見つかったからね」

「もっといい、方法?」

「そ、私ならもっといい感じにしたけど」

「……貴女ならどうするの?」

「自然環境の改善かな?痩せこけた土でも、エーテルを供給してあげれば多少は蘇るからね」

「下手したら、魔の大森林みたいな事になるわよ、大量の魔物だったり、変な植物だったりが育つわ」

「アイツらの代案のよりマシだよ」


 二人の話の傍らで、隊員達は息を飲んでいた。

 現在宇宙に上がった人間達を生活させる為の、もっといい方法。

 リージアの提案の方がよほど現実的だが、政府達の持つ思想を考えるとそれは絶対にない。

 考えられる最悪な考えが、この場に居る全員に過ぎる。


「アイツらがやろうとしているのは、この世界への移民だろうね、下手したら侵略紛いな事するかもね、それっぽいメッセージも見つかってるよ、あ、フォスキアにはこれ」

「え、あ、どうも(なにこれ?聖書?)」


 ざわつく空気の中で、リージアはまとめておいた資料のコピーを隊員達に配る。

 フォスキアには翻訳して印刷した物を渡したのだが、文章量が文章量だったので聖書並みに厚い。

 データが行きわたる成り、半信半疑ながら全員データに目を通す。

 怒りでねじ曲がった解釈で、そんな風に言っているとしか思えてならない。

 全員資料を余すところなく読み、変な編集が加えられていないかも確認する。


「……これは各国の戦力図、でしょうか?それに詳細な地形データまで、ですが、これだけでは」

「いや、他にもある、全国に有る軍事基地の正確な場所、魔法に関する注意事項、それに、この世界の兵士を仮想敵とした訓練メニューに、進軍ルートまで」


 書かれている軍事的な内容に目を通していくゼフィランサスは、同封されているメッセージの履歴を確認する。

 交流をするというのであれば、相手の国の軍事力を把握する事は珍しくない。

 このデータだけで、統合政府がこの世界の侵略を思い描いているとは考え辛い。

 しかし、そのメッセージだけは違った。


「……この内容、まさかと思うが」

「外交開始の際に連れて来るのが、統合軍宇宙艦隊総数の三分の二以上、途方もない数ですよ」

「え、それどれ位なの?」

「そうですね、この世界に有る国全てを同時攻撃できる位、でしょうか?」

「……マジで戦争吹っ掛ける気なの?アンタ等?」

「い、今政府高官とのやり取りを記したメッセージを読んでいる所だ」


 スイセンの口から帰って来た答えに、フォスキアは本当に戦争を仕掛けるつもりなのではないかと懸念してしまう。

 三分の二以上の宇宙艦隊を連れて来るとなると、艦艇だけでも正に星の数だ。

 急に空を覆いつくす量の軍艦が降って来れば、とてつもない圧力をかけた外交になる。

 だが、全ての国に平等に接するという意思表示の可能性もある。

 その可能性を信じ、ゼフィランサスは調査チームと政府高官とのやり取りに目を通す。

 どうやら原文をそのまま転写したようだが、その内容に眉をひそめてしまう。


「内容は分かった、だが条約も平等、これと言って脅しをかけている様子も無い、侵略をしようとしている確証何てどこにもないぞ」

「確かにね、でも、ここで作られていた機械魔物、何を仮想的に作られたのかって事や、コロニーの現状、どうしてもそうとしか考えられなくてね」


 資料に目を通す隊員達は互いに意見を述べ合いだし、更なるざわつきを見せ始める。

 一応最初のコンタクトで交渉自体はするらしいが、あくまでも交渉はしたという事実を得たいだけという事も考えられる。

 つまりは見せかけの茶番を行った後、力で欲しい物全てを根こそぎ持っていく方式が思いつく。

 信じたくはないが、今まで見て来たE兵器を用いれば侵略は容易だ。


「でも、その基盤の一つは、お姉ちゃんのおかげで防がれたっポイね」

「そうなのか?」

「まぁね、例の任務は制作時には発令されてたから、この基地のサーバーに繋げられている時、お姉ちゃんは薄れかかっている意識を何とか働かせて、任務を果たそうとしたんだろうね」


 何時になく真剣で死んだ表情を浮かべるリージアは、自分の予想を打ち明けた。

 件の任務は姉妹全員に通達されており、長女であるアリサも承知している。

 調べた限りでは、アリサはこの基地のサーバーにつなげられていた。

 損傷した意識を使い、彼らの計画を止めようとしたような痕跡が残っていたのだ。


「でも、あまりに自我が崩壊していたせいで、この基地のサーバーを掌握したとしても、大雑把な伝達しかできなくて、今回の事件に繋がった、そんな感じの痕跡が有った」

「……そうか」

「だからって、そのせいで私達の仲間は……」


 アリサ自身も、こんな事に成るとは思ってもいなかっただろう。

 彼女なりに命令を果たそうとした結果、こうして全て裏目になってしまった。

 おかげで、デルタやガンマ達はやるせない気持ちになってしまう。


「それで、ずっと気になっていたんだが、他の連中はどうなったんだい?」

「そうそう、ラフレシアとかリコリスもそうだけど、人間達は何処に?」

「彼女達は……えっと」


 この基地を探索してしばらくしたが、どこにも彼女達の遺体のような物は発見されていない。

 当然この地下深くの区画でも死人が出たのだが、その痕跡はどこにもない。

 その事を問いただしたベゴニアとサルビアの為に、リージアは覚悟を整える。


「ナノマシンに取り込まれた、とだけ、言っておくよ、魔物達も含めて」


 この返答に、デルタとガンマの面々は絶句した。

 機械魔物達は血中に有る微生物群をナノマシンとする事で、サイボーグ化されていた。

 そしてリージアが行ったように、細胞レベルで同化させる事も可能だ。

 その性質を応用すれば、人間やアンドロイドを取り込む事でその数を増やす事が出来る。


「皆さん……」

「クソ、政府の連中、ふざけた物を作りやがって」

「……そうなると、調査チームが利用しない手立てはないな、ナノマシンを身体に植え付け、人間を強化する、と言った事もしでかねない」


 皆が涙を流し、怒りを露わにする中で、ゼフィランサスは冷静に分析を行っていた。

 内心では部下達の末路にショックを受けているが、隊長としてそんな不甲斐ない姿は見せられない。

 なので、巡らせた思考が何とかたどり着いた考えを尋ねた。


「そう言う研究も、一応は行ってたみたいだね、皆失敗しちまってるが」

「……そうか」

「……」


 ゼフィランサスの質問に答えたのは、ずっとこの基地のデータを漁っていたレーニア。

 彼女が調べた中では、確かに全身をナノマシンに侵食させて強化するプランも有った。

 理論上、成功すれば宇宙空間でも生存が可能なうえに、食事も滅多に取る必要がなくなる。

 だが所詮は机上の空論、被験者は全員処置に耐えられず死亡してしまっている。


「(ナノマシンは、魔物達と共生する微生物に機械の特性を持たせたもの、やっぱり普通の人間とは相性が悪いのか?それとも、単にフォスキアが特異体質なだけなのか)」


 以前フォスキアをサイボーグにする事を考えたが、研究結果によってはその考えを捨てた方が良いかもしれない。

 そう考えながら、リージアはため息をつく。


「はぁ(機械化した微生物も、一種のE兵器……マスター達は、こんな事をする為に研究をしていた訳じゃない)」


 人間嫌いのリージアだが、自分たちを作った二人には好感が有る。

 マスター達は最期まで人々の発展と平和を信じ、アンドロイドと共に道を歩む事を望んでいた。

 先ほどレーニアが言っていたような研究や、魔物達を兵器利用する為に研究していた訳ではない。

 根底には、彼女達の善意や希望が詰まった技術だった。

 こんな事に成っては、死んだ二人に顔向けできない。


「……だからみんな、頼みがあるの」


 立ち上がったリージアは、冷や汗をかきながら隊員達を見渡した。

 この場に居るほんの十二機のアンドロイドと、一人のエルフ。

 多少違和感の有る構成ではあるが、十分な人数だ。

 そんな彼女達は資料の閲覧を止めて、一斉に真剣な顔つきのリージアに目を向ける。


「さっきも言ったけど、私は全てのE兵器を破壊する!もちろんこの基地に有るデータも破壊する、この世界を、私達の故郷と同じ目に遭わせたくない、でも、それには私とモミザだけじゃ難しい、それには、貴女達の力が必要になる、だからみんな、私達に、力を貸してほしい!私達がマスターから受け継いだ計画、ロストフラワー計画を完遂する為に!」


 演説と共に、リージアは深々と頭を下げた。

 リージアの行おうとしている事は、明確な離反行為。

 このまま彼女につく事を選べば、全員もれなく極刑だ。

 いや、他のアンドロイド達もどうなるかさえ分からない。

 その不安に駆られながら、リージアはゆっくりと顔を上げる。


「……」


 全員唖然とした表情を浮かべており、皆それぞれ顔を合わせている。

 今まで忠義を尽くしてきたのだ、急に反逆してほしいという頼みに素直に首を縦に振るとは思えない。


「それは、我々に政府を裏切れと言っているのか?」

「あえて言うんならね、司令官も私に協力してくれるし、さっき話したウイルスを使えば、あんな奴らの命令を無視できるよ」


 ゼフィランサスのセリフに、リージアは頷いた。

 人間達からの支配を逃れるウイルスは、今もリージア達の中に有る。

 今から皆に感染させれば、彼女達もリージアの指揮下に加わる事が出来る。

 司令官も協力するとなると、他の隊員もここに来る可能性も有る。


「……仮に、指令官を含めた全てのアンドロイドがこちら側に寝返っても、精々六百人だけだ、対して、政府側は全体の三分の二の艦隊が向かっている、戦力差は大雑把に見積もっても一万対一、勝負にならないぞ」

「だから、ここで色々と準備する、これだけのナノマシンと、最初の町で採れた魔物達の素材さえあれば、何でも作れるからね」


 リージア達と政府軍の戦力差は、文字通り子供と大人。

 正面から戦えば、間違いなくリージア達が敗北する。

 例えこの施設のナノマシンを使った所で、勝てる保証はどこにもない。

 そんな不安も、皆の間の空気に漂い出す。

 もちろんリージアだって、強制するつもりは一切無い。


「強制はしないよ、嫌なら武器の準備だけ手伝って」

「だが、どのメッセージも侵略しようと言う確証が無い、それなのに政府にたてつくことはできん」

「……ゼフィー、私は別に、この世界の侵略を止めたい訳じゃないよ」

「……じゃぁ、何だ?」

「私はね、善悪関係なく、あのゴミ共の計画潰してやりたいだけだよ」

「なおさらできるか!」

「ロストフラワー計画自体そう言う物だからね」


 リージアの計画は、どんな物であっても政府の目論見を潰す事。

 マスター達の遺志を果たす為に、現在この世界にはびこるE兵器を破壊する事は確定だ。

 その後は彼女達を縛る物は何もなく、リージアの自由に動ける。


「それに、このままだと、アイツ等の事だから責任は全部私達になすりつけるよ、下手したら全員さらし首もあり得る」

「……だとしても、私は統合政府に忠誠を誓った身だ」

「アイツらが死ねって言えば死ぬと?立派だね、ま、嫌ならいいよ、さっきも言ったけど強制するつもり無い、けど、私はもう同胞が理不尽に死ぬ所何て見たくないからね」

「……」


 例え機械であっても、リージア自身生きている。

 どんな形であれ、生きているからこそ他人に生殺与奪の権を握られたくない。

 ここでゼフィランサスが首を横に振るのなら、彼女の意思は尊重する。

 他のメンバーも嫌だというのなら、リージアはモミザとだけで行くつもりだ。


「皆が参加したくないなら、私とモミザで行くよ」

「ちょっと」

「ッ」


 二人の喧嘩でざわめく空気の中、フォスキアが手を挙げた。

 アンドロイド達を押しのけ、腕を組みながら笑みを浮かべる。


「アンタ、二人だけで行く気?私、まだアンタ等に雇われてるつもりなんだけど」

「……良いの?」

「ええ、勿論、延長料金は要らないわ」

「私もご一緒させてもらうわ~、あんな政府につくより、貴女の所に居た方が面白そうだもの~」

「ヘリコニアも?」

「ええ、私は常に面白い方の味方よ~」


 最初に名乗りを上げたフォスキアに続き、ヘリコニアまで手を挙げた。

 名乗りだした二人に感化されたのか、次々と敬礼をする者が現れる。


「アタシらも一緒させてもらうよ」

「あーしも、あのクソ共に一泡吹かせてやる」

「私も、今回はオメガとして、貴女に仕えます」

「ホスタ君?」

「伝説の英雄と戦えて光栄です、その力になれるというのであれば手を貸します」

「言っとくけど、下手したら前の町以上だよ」


 これでオメガチームは、全員参加する事は決定した。

 彼女達に続いて、今度はデルタの二人も手を上げる。


「で、では、わ、私も、医師として、戦火で苦しめられる人たちを、見捨てる訳にはいきませんからね」

「ヴァーベナが行くんなら、私が行かない訳いかないか」

「……ありがとう、歓迎するよ」


 皆が手を上げる中で、ゼフィランサスは自らの部下達の元にいた。

 先ほどまでは反感を持っていたゼフィランサスだったが、何やら話している。

 そして意見がまとまったのか、チームを代表して彼女が前へ出る。


「一つ聞かせてほしい」

「何?」

「他の地区で暴れているという機械魔物達だが、ここからどうにかならんのか?」

「それは無理だね、他の連中はここのシステムから独立してる、ここからじゃ暴走は止められないよ」


 タラッサの町に居た傭兵達の話では、他の場所でも機械魔物達が暴れているらしい。

 どうやらシステムが独立しているせいで、ここからでは止められないようだ。

 止める為には現地へ赴いて、直接始末するしかない。

 それを聞かされ、ゼフィランサスは敬礼する。


「ガンマチーム、全員指揮下に入る」

「……さっきまで反発してたよね?」

「政府達に喧嘩を売るかどうかはこの際いい、だが、軍人として民間人が危機にさらされているというのに、放ってはおけない」

「仕方ないわよね、英雄様の頼みじゃ」

「僕は元々政府を嫌悪してたからね、その後も着いて行くよ」

「仲間をやられたウップン、まだ晴らしきって無いからね」

「……ありがとう」

「すまないな、巻き込んじまって」


 こうして、ガンマ全員が敬礼し終えた。

 全員の参加が決定し、リージアとモミザは深々と頭を下げた。

 これで、後は準備を整えるだけだ。

 その第一歩を思いつき、リージアは頭を上げる。


「よし、以降、チーム名を変更しよっか、これより私達は、反乱する者達『リベリオンズ』って事で!!」


 その後。

 熱くなっていた事に気付いたリージアは、三十分程恥ずかしさで悶絶するのだった。



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