Rest In Peace 後編
リージアとアリサの一騎打ちが再開した頃。
空に暗雲が立ち込め、徐々に雨の臭いも漂い出す。
「クソ、降りだしやがった」
悪天候になって来た事に気を落とすモミザは、ゼフィランサス達の救助に当たっていた。
フォスキアはリージアの看病のおかげで、何とか安静の状態。
しかし、一緒に前線に立っていたゼフィランサスはほとんど満身創痍だった。
「おい、大丈夫か?」
「はっきり言って、大丈夫じゃない、バッテリーも限界だ」
「たく、ッ」
瓦礫からゼフィランサスを引き抜いたモミザは、ギリギリだという彼女のバッテリーを交換。
それと同時に、小さな地震が発生する。
一瞬だったがかなり大きく、建造物の破片がパラパラと落ちて来た。
「何だ?今のは」
「……多分あの二人だな」
「戦いでこんな衝撃が」
一瞬の地震から始まり、更に同規模の揺れや落雷のような轟音が響き渡る。
ゼフィランサスの常識では測り切れない戦いが、繰り広げられている事は明らかだ。
だが、二人のおかげで建造物にも影響が出始めている。
「……崩れたりしないだろうな」
「さぁな、だが、念のために離脱した方が良さそうだ」
「コイツの事も運び出さないとな」
「ああ」
揺れはどんどん大きくなっており、まるで怪獣の足音のようだ。
先の戦いのせいで建造物は相当傷んでいるのか、崩落の予兆らしき雰囲気が漂っている。
アリサが不在という事も有って、建造物の修復が行われていないらしい。
そう考えた二人は急いでクレーター内から離脱しようとするが、モミザは少し辺りを見渡す。
「ちょっと待て」
「早くしろよ」
少し周りを見ると、モミザはとある場所に駆けつける。
彼女が走った先にはリージアのハルバードが突き刺さっており、急いで回収。
フォスキアの大剣も回収し、早速脱出を開始。
脱出する道中で、二人はフォスキアの容態を確認する。
「しかし大した娘だ、こんな状態で生きているとは」
「リージアの処置も有るだろうが、確かに生きているのが不思議だ」
フォスキアの身体は現在、肩の先辺りまで再生している。
リージアの拭きつけたナノマシンは、再生する傷に合わせて止血を行っている。
それでも失血等のショックが大きかったのか、まだ意識が戻っていない。
彼女の心配をしていると、モミザ達はクレーターから脱出する。
「ついた、ッ、ドワッ!」
「ノワ!」
クレーターから出た瞬間、三人に衝撃波が襲い掛かった。
熱を帯びた突風に吹き飛ばされ、二人は地表に突き出ていた建造物にしがみ付く。
しかし、フォスキアはそのまま吹き飛ばされかけ、モミザとゼフィランサスはしっかりと彼女の事を掴む。
「な、何だ!?何が起きている!?」
建造物から少し顔を出しながら様子を見たくとも、更に衝撃波が襲い掛かる。
収まった瞬間を狙い、改め状況を目に映らせる。
「……おい、あれって、リージアか?」
「……どうやら、そうらしいな」
「一体何が起きている」
かろうじて二人の視界に入り込むのは、変異したリージアの姿。
アーマーその物が皮膚のように変質しており、羽や尻尾まで生えている。
フォスキア同様の変異らしく、向上した戦闘力を用いて接戦を繰り広げている。
二人共かなりの速度で動いており、何をしているのかほとんど見えない。
「凄いな」
「動きが、見えない」
降り注ぐ雨を背景に戦うのはかなりの絶景であるが、二人とも今のリージアとアリサの戦闘力に唖然するのみ。
次々襲い掛かる衝撃波に耐えながら、二人の戦いを見届ける。
――――――
二人が観戦モードに入った頃。
雨に濡れるリージアとアリサは、更に激しい死闘を繰り広げていた。
本気を出したアリサの義体の性能は、リージアの想像を超えている。
さっきまでは圧倒的な性能差で何とかしていたが、今やそれも不可能。
性能はまだリージアの方が上だが、持ち前の技量でカバーされている。
「(やっぱり凄い、こんなにパワーアップしても)」
切り結び合う中で、リージアは改めてアリサの実力に感服した。
最大稼働を使っているとは言え、相当なパワーアップを遂げたこの義体であっても一撃も入れられない。
しかし、それはアリサも同じ事。
向上したリージアの反応速度は、彼女の攻撃を回避する事が出来ている。
「もう少しで、任務は終わる、貴女には、普通の人生を……」
「……うるさい!」
うわ言にしか聞こえないアリサの言葉に、リージアは攻撃を強める。
それでも、リージアの攻撃が命中する訳でもない。
尻尾を交えた攻撃を加えても、やはり当たらない。
「(私がやらないと!私が!!)」
はやくアリサを解放したいという焦りを抱きながらも、リージアはアリサへ肉薄。
慣れない義体に振り回され、焦りで太刀筋もブレる。
エネルギーの使用効率も悪く、少し動くだけで無駄な量のエーテルを使用してしまう。
やはり、リージアの勝ちの目は性能差によるゴリ押しのみ。
義体の性能で押し込む事で、アリサを押し潰そうとする。
「(終わらせる、終わらせる!終わらせてやる!!)」
義体を扱う事によって、リージアは徐々にその義体に順応していく。
慣れていくごとに、リージアの攻撃は更に速く鋭くなる。
その速さは、アリサの反応速度を徐々に上回りだす。
「ッ!」
「ウヲオオオ!!」
アリサの目には、リージアの太刀が複数本有る様に映る程の剣速。
嵐のような猛攻を前に、アリサは後ろに下がりながらリージアの攻撃を弾く。
リージアは逃げ腰の彼女を追うように斬撃を繰り出し、進む度に地面まで斬り裂かれる。
「(もう少し、もう少し!)」
少しずつではあるが、握り締める太刀に手応えが伝わる。
背中のスラスターや各部位のアーマーに切創が生まれ、徐々に圧倒していく。
アリサの義体は修復がされていない所を見ると、あの施設から供給がなければ無理らしい。
更に義体の扱いに慣れたリージアは、渾身の一撃を繰り出す。
「これで、王手!!」
「ガッ!」
すれ違いざまに振り下ろされた太刀は、アリサの左翼を切断した。
ギリギリのところで避けられてしまったが、これでアリサの機動力は著しく低下した。
勝利を確信しながら、リージアは振り返りながらもう一度太刀を振り上げる。
「トドメェェェ!!」
「まだ、終わらない!」
そう言ったアリサは残った羽を切り離し、間合いで爆発させた。
「ッ!」
爆風によって、二人共吹き飛ばされる。
背中に爆風を受けたアリサは危機を脱し、リージアは羽を身体へ巻きつけて爆炎を防ぐ。
爆風が止むと共に、リージアは羽を広げて爆炎を払う。
「はぁ!」
「クソ!」
爆炎から現れたアリサは、リージアの持つ太刀を蹴り飛ばした。
太刀を失い、丸腰になってもリージアは諦めずに食い掛る。
得意の蹴りはアリサに容易く見切られる可能性が有るので、基本的に繰り出すのは拳と尻尾。
その二つによる連撃で、アリサの振るう刀と打ち合う。
「(チ、やっぱこの状態でも、斬れる物は斬れるか)」
いくら身体が甲殻のようになっていても、アリサの剣技の前では強度不足。
腕で受ければ、浅く切り込みが入ってしまう。
痛みも襲い掛かるが、そんな事はもはや些細な事。
ナノマシンの供給源を断たれたアリサと異なり、今の義体であればすぐに再生する。
「(でもやっぱり、武器がないと)」
『リージアアアア!!』
「ッ!」
――――――
少し前。
モミザ達が息を飲みながら観戦を続けている中で、フォスキアはようやく目を覚ました。
「ちょ、ちょっと、何が有ったの?」
「生憎、私も解らない」
「あクソ、リージアの奴、武器を無くしやがった」
瓦礫から顔を少し出しながら、モミザは武器手放したことに舌打ちをした。
どんな姿になろうと、アリサに丸腰で勝てない。
その事を身に染みてわかるモミザにとって、今の事態は非常にマズイ事を悟る。
「コイツを!」
「あ、ちょっと!」
頭を回転させたモミザは、回収したハルバードを構える。
瓦礫から身を乗り出し、リージアに狙いを定める。
フォスキア程の投擲技術は持ち合わせていないが、彼女の元に届ける程度は訳ない。
「届くのか?」
「届かせて見せる!!」
「ちょ、待って!!」
フォスキアの静止を振り切り、モミザはリージアへ向けてハルバードの狙いを定める。
同時に通信も繋げ、最大稼働も使用して大声で名を呼ぶ。
「リージアアアアア!!」
槍投げの要領で投げられたハルバードは、弾丸以上の速度を叩き出す。
別に標的を狙う訳ではないので、かなり大雑把な場所へと飛んでいった。
「(やっぱエルフィリアのようにはいかないか)」
「ダメよ!!」
「おい!」
ハルバードを追いかけるように、フォスキアはリージア達の元へ駆けつけた。
今はリージアの悲しい感情ばかりが流れ込み、アリサの思考だけは解らない。
だが先ほどの爆破のおかげか、アリサの思考らしき物を捉えた。
その時の事を考えると、一つの可能性が浮かんでしまう。
――――――
モミザがハルバードを投げた一秒後。
届いた絶叫を耳にしたリージアとアリサの間に、ハルバードが勢いよく突き刺さる。
おかげで、二人の近くの地面は崩れだす。
「ッ!」
「ちょ!」
せり上がり、陥没する地面に二人は足を取られた。
安定しない足場の中、リージアはすぐに行動を移す。
変異のおかげか、問題無く悪路を走破する。
「滅茶苦茶しちゃって!」
崩れる地面を駆け抜け、リージアは飛んできたハルバードを掴んだ。
地味に熱いうえに、煙まで上がっていたが気にせずにアリサへと迫る。
盛り上がって来る地面を破壊し、無理矢理進路を作りつつ、牽制の為に一部をハルバードで弾き飛ばす。
「ッ」
アリサへ飛んでいく岩に合わせ、リージアも攻撃を加える。
やはり使い慣れた武器と言うだけあって、太刀よりもその攻撃は鋭い。
岩は全て回避されたが、ハルバードだけは僅かにアリサの身体をかすめた。
「(行ける!!)」
すぐに切り返したリージアは、凄まじい槍裁きを披露。
太刀より器用な扱いと、強化された性能による連続攻撃。
先ほど以上の攻撃で、リージアは勝機を見出す。
「ハアアアア!!」
「ガハ!」
刀を弾くと共に、リージアはハルバードの一撃を加えた。
また嫌な感触を味わう事に成ったが、アリサに致命傷を与える事に成功。
アリサの上半身に大きな切創ができあがり、内部の機器がむき出しとなる。
回路のショートでスパークが発生し、大きな損傷でアリサは片膝をつく。
無力化一歩手前である事を確認したリージアは、ゆっくりと近づく。
「……お姉ちゃん」
ハルバードを振り上げたリージアは、アリサの首に狙いを定める。
このまま振り下ろせば、アリサの首は切断される。
そうすれば、彼女をこの地獄から解放できるのだ。
その後治せる保証もないが、覚悟を決めたリージアは勢いよく振り下ろす。
「さようなら!ッ!!?」
振り下ろそうとした瞬間、リージアは目を見開いた。
同時に身体の自由は失われ、全身に電流が走る様に激痛が走る。
「あ、ガアアア!!」
絶叫しながらハルバードを手放したリージアは、異常の出た義体に目を通す。
その痛みは、大量のミミズが全身を這うように襲い掛かる。
視覚にも異常が生じ、義体の状態を調べようにも全てのデータが文字化けを起こしている。
数分間激痛に苛まれていると、変異した義体は強制的に元に戻っていく。
羽や尻尾は溶けながら地面に落ちると、リージアは全身から煙を上げながら倒れ込む。
「ッ、ガハ、ゲホ!ア、アア」
やはり、即席のプログラムでは無理が有ったらしい。
義体の操作事態はリージアでもマニュアルで行えるが、エーテルの流れまではそうは行かない。
アリサの動きに対応するだけで精いっぱいという事も有って、体内のエーテル制御にムラが有ったようだ。
そのせいで制御しきれなかったエーテルが暴走し、痛みとして襲い掛かったのだ。
義体の制御系も今の暴走で一部が焼き切れ、起き上がる事も困難になってしまう。
「ウ、グ」
「……」
気合で視線を上げたリージアの視界に映るのは、憐れんだ表情で立ち上がったアリサ。
完全に形勢が逆転してしまい、リージアは拳を握り締める。
何とか立ち上がろうにも、もう力が入らない。
余裕を得たアリサは、片方の刀を手放す。
「……これで」
「(お姉ちゃんも、満身創痍な事に変わりない、今なら)」
愛刀をしっかり握り締めたアリサは、ゆっくりと刀を振り上げる。
斬首一歩手前の中で、リージアは急いで義体の復旧作業に貼りだした。
先ほど付けた重症のせいで、アリサの動きは緩慢になっている。
施設内でなければ再生を行えないらしく、戦闘力は大幅に低下しているらしい。
今ならば奇襲さえ行えば、致命傷を与えられるかもしれなかった。
「(早く、早く!!)」
「マスターの、命令を!!」
珍しく大声を出したアリサを前に、リージアは義体の応急処置を続ける。
急ぐ中で、アリサの刃はどんどん迫って来る。
バルバトスの再生能力さえ発動しておらず、全て自分で治す必要があった。
「ヌアアアア!動けぇぇ!!」
「なッ!」
ギリギリの所で、リージアの義体の一部修復が完了。
と言っても、寝返りができた程度。
完全修復には程遠いが、両腕の修復にリソースを全てさく。
避けられた事に驚くアリサだったが、すぐに斬り返す。
「アアアア!!」
「ッ!」
刃が当たるその寸前で、リージアはリボルバーを引き抜く。
得意の早打ちを披露し、五発連続で弾丸を打ち出す。
腕が治りきっていなかったので、五発撃つのに時間がかかった。
「……あ、グ!その、銃」
「はぁ、はぁ……」
使用した弾丸は、エーテルによって威力を上げた強化弾。
至近距離からであれば、たとえE兵器であっても貫通できる。
それを証明するかのように、アリサの動体部分に弾痕が五つ出来上がった。
「……でも、まだ」
硝煙の上がる銃を前にしても、アリサはエーテルを刀に流し込む。
得意の斬撃を放つつもりなのだろうが、もう飛ばす力も無いらしい。
直接斬るべく、アリサはリージアへとゆっくり斬り掛かって来る。
「お姉ちゃん!」
限界の義体を引っ張るように突っ込んで来るアリサに、リージアは再び銃を向ける。
引き金を引くのに大分躊躇してしまうが、もうこれ以上彼女を傷つけたくなかった。
照準は震えながら頭部の急所に向け、ハンマーを起こす。
「リージアアア!!」
「フォスキア!?」
「ダメエエエエ!!」
「ッ、アアアアア!!」
アリサが目と鼻の先まで迫る所で、フォスキアが横やりを入れて来た。
もう飛ぶ力すらないのか、悪魔の状態でも走って来ている。
一瞬だけ彼女の方を見てしまうが、すぐにアリサの方を向き直す。
今すぐに引き金を引かなければ、ここで切り裂かれる。
覚悟を決めていたリージアは、フォスキアの言葉を遮る様に絶叫し、引き金を引く。
「グ!!」
「ガ!!」
一発の銃声が響くと共に、リージアの右肩にアリサの刀が差し込まれた。
眉間に弾丸を打ち込まれたアリサは仰向けに倒れ込み、リージアも肩を抑えながら尻餅をつく。
その横で、遅れたフォスキアは息を荒くしながらアリサの方へ歩み寄って行く。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「……」
ポタポタと滴る雨の中で、フォスキアは倒れ込むアリサの前に座り込む。
見開かれている目に、眉間に空いた穴。
素人目でも死んでいると解る状態である彼女へ、フォスキアは手を置く。
「(間に合わなかった)」
「……そっか、リー、ちゃん」
「え?」
「新しい、家族、が、でき、た」
「……ッ!?」
手を触れていると、アリサは遺言のような事を呟いた。
その後で、フォスキアは自分の中へ何かが流れ込んだような感覚を覚えた。
「(今の、前にも)」
「……お姉、ちゃん」
「……リージア」
雨脚が強く成り、滝の中に居るような大雨が降りだす。
重たい足取りを見せるリージアは、アリサの近くでリボルバーを手放す。
すぐ傍で膝から崩れ落ちると、アリサの事を抱き上げる。
「う、うう」
「(何もできなかった、この子の力になりたかったのに)」
降り注ぐ雨目の中、リージアはアリサの目をそっと閉ざした。
内から湧き出るドロドロとした感情や、溢れそうな涙もこらえられなくなる。
フォスキアもまた、彼女の前で涙を流す。
「ウアアアア!!」
「……」
感情が決壊したリージアは、喉がはち切れそうな程の声で泣き叫ぶ。
降り注ぐ雨は、まるで彼女の心が流す涙の様だった。




