最強のアンドロイド 後編
モミザ達が応援に駆け付ける事を決めた頃。
リージアは、未だに劣勢に立たされていた。
「ウワアアア!!」
リージアは大きく吹き飛ばされ、悲鳴を響かせながら建造物の柱へと激突。
身体は柱にめり込み、身動きが取れなくなってしまう。
「ウグ……ッ!」
何とか身体を引き抜こうとした瞬間、追撃を繰り出そうとしてくるアリサの姿を捉えた。
咄嗟にシールドを構え、スラスターの推力を乗せた重たい蹴りを受け止めた。
電磁装甲とエーテルの防御装置を使っても、衝撃までは殺しきれずに踏みつぶされる形となる。
めり込んでいた柱もへし折れ、リージアは更に吹き飛ばされた。
「ッ、クソ!」
無理矢理姿勢を直したリージアは、後方へスラスターを吹かして衝撃を相殺。
ハルバードを構え直すなり、アリサへと再び食らいつく。
空中での模擬戦も何度も挑んだが、こちらも同様に勝てた覚えがない。
一人でなんでもこなしてしまう姉は、以前まで心強い家族だった。
それが今やリージアにとって、最大の脅威となっている。
「大人しく、落ちろぉぉぉ!!」
気合と勘だけで攻撃をさばき、ようやく一発の蹴りを顔に入れた。
それほど効果が有ったとは思えないが、一矢報いる事は出来た気分だ。
そんな喜びもつかぬ間、何処からか爆発音が響く。
音からして、ミサイルの類の発射音だ。
「もう!」
理不尽とも言える弾幕に、リージアは不満を垂れながらライフルでミサイルを迎撃。
通常のエーテル弾よりも幅が広いおかげで、一発でも複数のミサイルを破壊。
何発も撃ち込んだのだが、放たれたミサイルの量想像以上だった。
爆炎からいくつものミサイルが姿を現し、その全てがリージアへと襲い掛かる。
「チ!」
舌打ちをしたリージアは、急いでミサイルから距離を取る。
幸い建造物のおかげでかなり入り組んだ地形となっており、誘導しきれないミサイルたちは次々と進路を阻まれて爆発する。
それでも多くのミサイルが残っており、痺れをきらしたリージアはミサイルを視界に収めながら後退を続ける。
「(この濃度のエーテル下でもここまでの誘導、やっぱりレーザー誘導か、でも)ここでなら!!」
レーザー誘導式のミサイルであると悟ったリージアは、腰のレールガンとライフルを構える。
誘導装置は建造物の何処かに有るのだろうが、探している余裕は無い。
ライフルとレールガンの照準を建造物に合わせ、手あたり次第に破壊。
無理矢理ミサイルに命中させ、爆発して行く。
何とか迎撃して行くと、死角に有った建造物が爆散する。
「な!?グゥっ!!」
爆散した建造物から斬撃と共にアリサが出現し、リージアのレールガンを二つとも両断。
間髪入れずにリージアの顔面を掴み取り、反対方向の建造物へと接近。
連絡通路らしき場所を貫通しながら進まれ、最終的に壁へと叩きつけられた。
クレーターができる程強くぶつけられ、一瞬意識が飛びそうになってしまう。
「ア……ガッ!」
数秒程リージアの事を押し付けたアリサは、そそくさと退避。
その瞬間、リージアの視界に新しく飛来してくるミサイルが映り込む。
「しつこいッ!」
反射的にシールドを構え、襲い掛かるミサイル群を受け止める。
分厚い装甲と強固なフィールドによって、爆炎に飲み込まれようとリージアの事を守ってくれる。
「はぁ、はぁ……ッ!」
全弾防ぎきれたと思ったら、耐えている間に大型の砲台が複数生成されていた。
新しく生成された砲台達は一斉にリージアへと砲撃を開始、追加で別のミサイルまで降り注いでくる。
「ああああ!」
断末魔と言える悲鳴を上げるリージアの事を、シールドは守り続ける。
エーテル技術を使ったシールドであっても、その強度は有限。
視界の端に表示されているシールドの耐久値は、著しく減少していく。
シールドの強度限界を迎えた頃に、叩きつけられていた背部の建造物は崩壊。
瓦礫に巻き込まれながら、リージアは落下していく。
「ウ、また!」
身体の所々に火傷を負いながらも、リージアは斬撃を繰り出しながら接近してくるアリサへとライフルを構えた。
斬撃の隙間をくぐりつつ、何度も引き金を引く。
苦し紛れとも言える射撃は全て回避され、接近を許してしまう。
串刺しにしようと迫るアリサに対し、再びシールドを構えた。
もうただの盾でしかないが、もう一つ使い道がある。
「この!」
僅かに展開した盾より大量の煙を放出させ、アリサの目をくらました。
本来は排熱の際に出る煙なので、こう言った使い方は想定されていない。
ほとんど苦肉の策だったが何とか成功し、リージアは何とか距離を離す。
「この!この!この!」
煙幕の中に薄っすらと見えるアリサへ、リージアはライフルを発砲。
しかし、これと言って手応えは無かった。
それどころか、アリサはエーテル弾を次々と両断しながら距離を詰めて来る。
しかも接近する速度は一切落ちておらず、気が付けば間合いに入り込まれていた。
「ッ!」
ハルバードでの迎撃も間に合わず、ライフルを身代わりに難を逃れる。
蓄積されていたエーテルの暴発をシールドで防ぎつつ、リージアは背中の太刀を引き抜く。
「こん、のぉぉ!!」
ハルバードと太刀を巧み扱い、リージアは絶え間ない連撃を始める。
反撃を一切許さない二刀流による攻撃を繰り出していき、一気に攻勢へと出た。
対するアリサも、刀一本で対処を始める。
現在の義体が出せる最大の速度を叩き出しているというのに、アリサとギリギリ渡り合えている状態だ。
「いい加減にして!いい加減死んで!私に、殺されてよ!!」
泣き言のように叫ぶリージアは、勢いよくハルバードを振り下ろした。
大振りな一撃に反応したアリサは、リージアの懐へ入り込み刀を振るう。
刀の刃はリージアの腕に命中し、いとも簡単に切断されてしまう。
「なッ!」
右腕を失って絶句するリージアは、アリサの回し蹴りをまともに受けてしまう。
「ガハッ!!」
建造物に叩きつけられたリージアは、力無く地面へ落下。
地面に衝突して瓦礫を身体にまといながらも、太刀を杖代わりにして根性だけで立ち上がる。
そのまま改めて右腕を確認すると、赤熱化した断面から煙が上がっている。
傷を認識したせいか、言い知れない激痛に襲われだす。
「あ、アアッ!」
四肢を失う事は過去に何度か有ったが、痛みが伴う事は初めてだ。
苦痛に顔を歪めるリージアは、上で高みの見物をきめるアリサを睨む。
彼女は先ほど生成したライフルを再び手に取り、その照準をリージアへ向けていた。
他にも、建造物に生成された砲台達は一斉にリージアへ向く。
見るからに全火力を叩きつけて、確実に始末しようという魂胆だ。
それを見たリージアは、うつむきながら持っていた太刀を手放す。
「……ここで、お姉ちゃんに殺されるのもいいかもね」
「障害を、排除、スる」
太刀と地面が触れ合う音が虚しく響かせ、リージアはゆっくりと上を向く。
すっかり改造されてしまっているが、アリサがリージアの最愛の姉である事に変わりは無い。
そのうえ折角用意した装備も、もう通常のアーマーと盾位しか残っていない。
望んだ最期ではないが、ここで彼女の手にかかるのも悪くない。
諦めの境地に立たされたリージアは、赤く染まる周囲を虚ろな目で見つめる。
「最期に会えて、良かった」
涙を零しながら笑みを浮かべ、その死を受け入れる。
「諦めるなぁぁぁ!!」
「このバカヤロォォォ!!」
「ッ!」
諦めた瞬間、構造物を斬り裂きながら緑色の円盤が飛来。
円盤を追いかけるように、大量のミサイルやロケットが降り注ぐ。
ミサイルとロケットは、建造物に生成された砲台類を破壊。
円盤はアリサの持っていたライフルに命中し、そのまま切断されて自爆した。
「ソコオォォォ!!」
「グ!」
アリサの攻撃を全て阻んだ後で、ゼフィランサスは死角から蹴りを入れた。
彼女専用の高機動型飛行ユニットの最大速度に乗せた蹴りは、アリサの事を大きく吹き飛ばす。
アリサは建造物を次々貫通して行き、リージア達の視界から完全に外れる。
「……命令違反してまで来るなんて」
助かった事に安堵と落胆を覚えていると、助けに来た三人がリージアの前に降り立つ。
フォスキアは大剣を担ぎ、既に悪魔の姿へ変異している。
モミザは飛行ユニットを身にまとっており、先ほど撃ち尽くしたミサイルポッドをパージ。
二人に遅れてゼフィランサスも降り立ち、新調した二本の剣を構える。
彼女達を前にして、リージアはほほ笑む。
「どうしたの?待機命令無視しちゃって」
「うるせぇ、お前の無様な姿が目に余るだけだ」
「それに、アンタ今諦めてたでしょ、お姉さんが相手だからって気を抜かないでよ……」
「アイツには借りがあるからな、お前だけに独り占めされる訳にはいかない」
「それと、落とし物よ、ハルバードは見つからなかったけど」
「……どうも」
それぞれ武器を構える三人の中で、フォスキアは切り落とされたリージアの右腕を手渡した。
ただしハルバードだけは見つかっておらず、腕だけが返却された。
右腕を受け取ったリージアは、そのまま患部に押し当てる。
バルバトスの細胞を使った事で入手した再生能力で、腕は瞬時に接合された。
その後で、リージアは太刀を拾い上げる。
「……それで?何か勝算でも有るの?」
「……はっきり言って、今の一撃でダメなら無い」
「だろうね」
モミザもアリサの強さは、その身をもって承知している。
さっきの攻撃だって、奇襲だったからかろうじて当たったような物。
このまま四人で戦った所で、勝てる見込みが有る訳でもない。
悩んでいると、アリサは再び彼女達の前に立つ。
しかも、フォスキアに対して殺意を孕んだ目を向けながら。
「……にん、ゲン」
「あら?もう嫌われちゃったかしら?」
「奴の狙いは元々人間だ、丁重にもてなされるだろうな」
「……なら、私が前に出るから、狙撃お願い!!」
「フォスキア!気を付けて!」
自分が最優先目標であると知らされたフォスキアは、真っ先に前に出た。
リージアの忠告を耳にしながら、アリサの事を視認。
周りの砲台からの攻撃を気にすることなく、前へと進む。
彼女を見送りながら、ゼフィランサスとモミザは特製ライフルの予備を構える。
隙を見て、遠方の死角から狙撃すればダメージを与えられる可能性は有る。
「リージア、お前は休んでろ」
「え、私待機?」
「今は休んでおけ、アイツは私達が仕留める」
「はいは~い」
不服な顔を浮かべるリージアを背後に、二人は狙撃の為に場所を移動。
動きだした二人を認識しながら、フォスキアは大剣を力いっぱい握りしめる。
「(とは言ったけど、リージアをあそこまで追い詰めるような奴、可能なら、この一撃で!!)」
出来る限りの魔力で肉体と大剣を強化し、後方に展開した魔法陣で更に加速。
剣先をアリサへ向けながら、最大速度で直進していく。
音の壁を容易に突き抜け、周りからの攻撃を大剣で弾きながら距離を詰める。
「これで、決める!!」
「ッ!!」
フォスキアの攻撃はアリサを捉え、重々しい金属音が響き渡った。
生きる砲弾と言えるその攻撃は確かに命中し、アリサの事を奥へと押し込んでいく。
しかし、刀一本で受け止められており、肝心のダメージは一切入っていない。
「チ、これでもダメなの」
「見つけた……殺す」
「ッ、やれるものなら」
敵意しか感じない目を向けられながら、フォスキアは一度間合いを取る。
武器のリーチだけで有れば、対魔物用の大剣を持つフォスキアが有利。
しかも悪魔に変異した今ならば、ステータスは人間の状態より数段上がっている。
本来なら百キロを超える大剣でも、体感では発泡スチロール程の重さだ。
「やって、みなさい!!」
舐められた言葉を向けられたフォスキアは、アリサと正面から切り結ぶ。
流石のアリサも初見の敵には慎重らしく、防戦に徹しだす。
あくまでも狙撃の為の囮であるが、できればこのまま押し切りたい。
だがそんな考えは、極めて楽観的な物だったという事を思い知らされる。
「ッ!(何なの、コイツ!)」
何度も剣を振るっているが、まるで手応えが無かった。
攻撃が当たったように思えても、まるで水であるかのように柔軟に攻撃を受け流している。
しかも間合いの差を埋める様に、魔力の斬撃の使用を再開する。
刀身が届かないのなら遠距離攻撃を、と言う大雑把な考えだろう。
だが、その攻撃方法にフォスキアは困惑してしまう。
「(この斬撃、魔法陣無しで直接魔力を撃ち出してる、こんな事、私だってできないわよ!!)」
アリサの斬撃は本来魔法陣で形作る魔力を、思考だけで制御しているのだ。
言うなれば、複雑な計算式を全て飛ばして暗算で答えを出しているような物。
フォスキアであっても、それ程高等な事はできない。
かなり頭を使うので、実戦でやるメリットはあまりない。
「(二人共早く、思ったより、持ちこたえられそうにない!)」
そのやり方のおかげで魔法陣の形状に捕らわれない柔軟さを発揮し、多種多様な斬撃が繰り出され続ける。
しかもフォスキアの動きに慣れてきたのか、徐々に押し返してきている。
期待できるのは二人からの早急な狙撃なので、容易にできるようにその場に抑え込もうとする。
その事はフォスキアも重々承知だが、二人そろって動き回っていた。
これでは狙撃もままならないと心の底では思いながらも、狙撃の催促も考えてしまう。
「この!こ、ッ!」
激しい戦いを行っている中で、フォスキアはモミザ達の姿を目にした。
彼女達は狙撃の為のポイントと思われる場所で、二人は遠隔攻撃用のドローンを相手にしている。
ドローン達に加えて、各所からの砲台やミサイルまで二人に降り注ぎ、足止めされてしまっている。
とても狙撃を行える状況ではなかった。
「そんな」
「よそ見、しない!」
「グアッ!!」
唖然としていると、フォスキアの右胸部にアリサの刀が突き立てられた。
寸前で筋をずらした事で幸い魔石への直撃は逸れたが、激痛に襲われる。
しかし、アリサに攻撃を入れられる千載一遇の好機でもある。
すぐに大剣を放棄し、ガッチリと刀身を掴み、もう片方の手に魔法陣を形成した。
「ゼロ距離なら!!」
この姿であれば、普通の状態でチャージの必要な魔法も即座に撃てる。
しかも威力の減衰も無いので、人間状態より遥かにメリットが大きい。
アリサの顔の目の前に手を突き出し、魔法を発動させる。
「テンペスト・ブラスト!!」
「ッ」
魔法の発動と共に、アリサは左手をフォスキアの手の平へかざした。
二人の手の僅かな間に暴風が吹き荒れたが、その暴風たちは周辺へとまき散らされる。
放たれた魔力は全て拡散し、周辺へと被害が出て来る。
「……うそ、でしょ」
この結果に、フォスキアは目を丸めた。
アリサからは一切の魔力は感じ取れず、何が起きたのか解らない。
しかし、リージアと共にE兵器の研究をしていたおかげで、多少の予想はできた。
魔力を形作る際に出て来る力場を発生させ、出力に問われず魔力その物を捻じ曲げる技術。
「(有無を言わさずに魔力の流れを変える偏光障壁、リージアでも盾に仕込むのがやっとだったのに)」
エーテル偏光障壁はリージアであっても、装備している盾程の小ささにするのがやっとであった装置。
アリサはそれを手のひら、もしくは腕に仕込んでいる。
存在は知っていたが、こんな至近距離でも防がるとは思わなかった。
「(そんな事より、早く次の手を!)
「フン!」
「アグッ!」
急いでチャクラムに手を伸ばした所で、アリサは一手早く行動にでる。
刀を更に深く突き刺し、大量の魔力を流し込み始めた。
それを感じ取った瞬間、フォスキアは目を見開く。
「ッ!」
「死ね」
刀を通じて集められた魔力は、アリサの意思で爆破された。
その爆発によって、フォスキアの右半身は吹き飛んでしまう。
白目を向きながら宙を舞い、意識の多くを削がれながら地面に激突。
地面に大量の血の池を作りながら、フォスキアは意識を手放してく。
「……ゴフ(今、の)」
吐血しながら、フォスキアは一瞬だけ見えた映像を思い出す。
いや、映像というより、彼女の感情らしき物。
何故か解らないが、怒りと憎しみがフォスキアへと向けられていた。
しかも、リージアの身を案じている様子だった。
「フォスキア!フォスキア!!」
「リー、ジ、あ」
駆け付けて来たリージアにその事を伝えようとしたが、その前に意識を手放してしまう。




