対面 後編
試験飛行から二日後の早朝。
朝日が出ると共に、リージアは艦の出撃ハッチへと赴いていた。
この時の為に持っていく装備は入念にチェックをいれ、一切の妥協も泣く吟味してある。
近接武器はモミザのおかげでコンディションは最高、銃器もヘリコニアがしっかりと整備してくれた。
「(よし、駆動系は問題無し、武器と飛行ユニットも私の思考とペアリグ、エーテルリアクター安定、体内・武装共にエーテル蓄積量規定値、発電率問題無し)」
出撃ハッチのアームによって次々と装備が取り付けられ、軽く点検も開始する。
背部には愛用のハルバードとバルバトスの太刀、両腰にはレールガンが一門ずつ。
左腕には小型のシールドをセットし、右手にはロケットランチャーを保持する。
折角制作した特別製のライフルは、腰部レールガンの片方の隣に設置。
念には念を入れ、全てE兵器で構成するだけでなく、増加装甲も取り付ける。
エーテルを用いた推進装置のおかげで、あまり装備の重量を気にする事も無い事が幸いした。
「(相手が相手だ、油断はできない)」
『電磁カタパルト解放、ハッチオープン』
装備のチェックが終わると共にレーニアのアナウンスが響き、ハッチが開かれる。
海風と共に、僅かな陽光が艦内へと入り込む。
波の音をBGMに、リージアはカタパルトへと足を乗せる。
『進路クリア、出撃タイミングをリージアに譲渡する』
「了解……リージア、出撃!」
宇宙艇の時と同様、電磁誘導による駆動でカタパルトが動く。
いきなりの高Gをリージアへとぶつけ、艦の外へと投げ飛ばす。
ロケットランチャーをしっかりと保持しながら、リージアは目的地の島へと舵を切る。
――――――
リージアが発艦した頃。
艦橋には全員が集まっており、全員大型のモニターに釘付けとなる。
この艦には量子通信用の装置が積まれており、おかげでドローンが無くてもリージアとコンタクトがとれる。
モニターに映っているのは、リージアの視覚情報だ。
ほぼリアルタイムの映像が送られており、緊迫した空気が艦橋に漂う。
「まさか、一人で行くとはな」
「……ああ、自分一人で、ケジメを付ける気だ」
「……そうか」
置いて行かれたモミザは、ゼフィランサスの言葉に落ち込みながら答えた。
本当だったらモミザも僚機として随伴する気だったが、義体の生成に時間がかかりすぎるという事で留守番をくらった。
と言うより、全員この艦内で待機という命令をされた。
「チ、水臭い奴だ」
「ほんとよ」
それは、艦長席の近くに立つフォスキアも同じ事だった。
いっそ三人がかりで行った方が安全だとも思ったが、それでもリージアは一人で行くと聞かなかった。
お互いに見放されてしまい、二人は特にいがみ合う事も無く一緒に落ち込んでしまう。
「……レーニア、通信の状況はどうだ?」
「今の所問題はないよ、やっぱり量子通信ならちゃんと機能してくれるね」
「そいつは何よりだ」
エーテルが阻害するのは、あくまでも電子。
今居る海上近辺も大気中のエーテルが濃く、通常の通信ではノイズまみれになるだろう。
量子通信という通常の方法とは異なる通信方法のおかげで、問題無くリージアとの通信が行えている。
「さて、お手並み拝見だな」
既に島へ上陸したリージアの映像を前に、ゼフィランサスは通信機を構える。
――――――
その頃。
島に上陸したリージアは、止まる事無く島の中央へ向かう。
施設が有った場所は、ゼフィランサスが教えてくれたので問題はない。
反応弾なんて物を打ち込んでいるので、恐らく目的地にはクレーターでもできているだろう。
「この辺りの、筈……ッ!」
目的地と思われるポイントの上空に到着したリージアは、地上の様子に息を飲んだ。
調査チームの基地が有った場所は、反応弾によって壊滅している。
想像できるのは、クレーターや廃墟となった建造物の組み合わせの光景だった。
「……ゼフィー、これ、どう言う事?」
『……わ、分からん』
戦慄するリージアの通信に反応したゼフィランサスも、驚いたように声を震わせていた。
反応弾によるクレーターらしき物は、確かにある。
しかしそのクレーターの中には、金属製の建造物が広がっていた。
構造から察するに、地下と地上に設けられた調査チームの基地。
地面を無くしているので、横から巨大な蟻の巣を見ているような気分になる。
「……まさか、これって」
冷や汗をかきながら、リージアは警戒しつつ建造物の方へと降下。
至近距離まで移動すると、恐る恐る構造物に手を置く。
完全に金属でできているが、軍事用の建築素材として使われている物ではない。
そもそも反応弾による爆撃で岩盤がえぐられているのに、施設だけが残っているとは思えない。
『リージア、まさかそいつは』
「そ、全部ナノマシンだね、誰が何の為なのか知らないけど、反応弾で爆発させた後で基地を再現したって所だね」
『そこから見える構造体全てがナノマシンか、だが、奴は何処だ?』
「……」
ゼフィランサスの疑問に呼応したリージアは、すぐにロケットランチャーを構えた。
驚いて警戒を怠ってしまったが、改めて周辺を見渡す。
深さはリージア達の艦位ならスッポリ入ってしまいそうな程だが、構造物のせいで視界が悪い。
前後左右は勿論だが、上下にも気を配る。
「……」
環境音を除けば、耳に入るのはリージアのスラスター音のみ。
完全な静寂に包まれ、小石が崖を下る音や構造物の隙間風にすら反応を見せてしまう。
どれだけ索敵を続けても、目標のプロトタイプは影も形も無い。
流石に空気を読んでか、通信も一切入ってこない。
もしかしたら別の場所に行ってしまったのかもしれないと、ランチャーを下ろしかけた。
「……ッ、来る!」
頭に電流のような物が走ったリージアは、すぐに気を張り詰め直した。
確かな殺意を感じ取ると共に、先ほどまで聞こえなかったスラスター音が耳に入って来た。
物凄いスピードだが、確かにリージアの方へ近づいてきている。
空を切る音と共に、遂にその姿を現す。
『……来たぞ、リージア』
「アイツ?」
『ああ、忘れもしない、そいつが調査チームの作ったプロトタイプだ』
「そっか……やっぱり、アリサシリーズのデッドコピー」
『アリサ、シリーズ?』
リージアの目の前に有る構造物に着地したプロトタイプは、その姿をリージアへと見せつけるように立ち上がる。
義体はリージア達同様に女性らしいフォルムをしているが、顔はフルフェイスのヘルメットで覆われている。
背部には羽のようなスラスターがあり、そこからエーテルが放出され、再び飛び上がる。
武装は、見たところ腰の刀一振りのみ。
飛び上がったプロトタイプは、両手を地面へ突き出す。
「何だ?」
改めて警戒心を強めたリージアは、先ほどまでプロトタイプの居た地面が光った事に気付く。
その光は、どうも嫌な物だった。
ナノマシンで何かを作る時と、同じ光だ。
「まさか」
『おい、なんだよそれ』
「……障害を検知、排除、執行」
「ッ」
酷いノイズのかかった声を発したプロトタイプは、光っていた場所から出現した八つの飛行体と共に周囲へ展開。
驚愕するゼフィランサスの言葉と共に、飛行体は赤い光をまとう。
それを見たリージアは、直感でその場から離れる。
「攻撃用のドローンか!」
飛行体全てから赤いエーテルが放たれ、リージアへと襲い掛かる。
連続して放たれる攻撃は、エーテルによる弾幕が形成された。
狙いは正確で、撃たれる前に回避したリージアの足を掠めた。
生体パーツのせいで、言い知れぬ熱さと激痛がリージアへ襲い掛かる。
「あっちゅ!あっつ!!」
『何をしている!来るぞ!』
「チ!」
逃げたリージアを追い、プロトタイプもドローンによる攻撃を行いながら接近してくる。
その事に気付いたリージアは、即座にランチャーの引き金を四度引く。
弾倉に装填されている五発の内四発が放たれ、接近してくるプロトタイプへ迫る。
とてつもなく早く動くプロトタイプに、弾速の遅いロケットでは向かないかもしれないが、リージアはそんな事は織り込んでいる。
ロケット弾はプロトタイプに当たる事無く、接近した途端に爆発した。
『近接信管か』
「まぁね!」
使用したのは、目標の接近を感知した瞬間に爆発する特殊な弾頭。
しかもエーテルをまとっているので、爆発やまき散らされた破片にも十分な威力を持っている。
周りのドローンと爆炎に包まれたが、プロトタイプは平然と出て来る。
「今の爆発でもお構い無しかよ!」
このまま接近戦を仕掛けるつもりだったが、残ったドローンによる射撃を続けながら接近してくる彼女を見てすぐに引いた。
ドローンからの攻撃をかいくぐりつつ、リージアは建造物を回避しながら逃げ回る。
周りの施設が傷つくこともお構いなしのプロトタイプの攻撃は隙が無く、スピードも僅かに向こうが早い。
「(爆発が無理なら、直撃させる!)」
逃げながら地形を確認しつつ、リージアはランチャーの引き金近くのダイヤルをいじる。
腰のライフルも手に持ち、レールガンも両方展開。
身を反しながらライフルとレールガンの引き金を引き、三丁同時に射撃を開始する。
「ほらほら!こっち!こっち!」
流石のプロトタイプもフォスキア特製の魔法は脅威と感じ取り、初めて回避運動を取る。
レールガンの弾も回避する事で、追跡の足が僅かに遅くなった。
その姿を見逃がなさなかったリージアは、施設の一部にも銃撃を打ち込んだ。
破片やチリが舞い、ライフルで貫かれた施設が崩落。
短時間ながらプロトタイプの視界を塞ぎ、その間にリージアは通路と壁の隅っこにランチャーを置く。
「これで、ッ!」
ランチャーの代わりにハルバードを構えたリージアは、刀で崩落して来た施設を切り裂いたプロトタイプへ肉薄。
スラスターを最大にしつつ、義体へのエーテル供給量を増加。
僅かに義体性能を上げ、プロトタイプとすれ違いざまに刃をぶつける。
「……今の」
違和感を覚えたリージアだったが、すぐに逆方向を向いて再度プロトタイプへ接近。
今度は鍔迫り合いが始まり、互いに腕力とスラスターの推力で力比べが始まる。
一瞬たりとも気の抜けない状況下で、リージアは視線を刀へと移す。
「……貴様」
刀の独特な波紋と特徴的な星型のツバを見て、リージアはハラワタが煮えくり返る気分になった。
何しろ、その刀は目の前のガン作が使って良い物ではない。
目を見開き、額に青筋を浮かべたリージアは、力強くハルバードを握り締める。
「その刀は、お姉ちゃんのだ……お前みたいな奴が使って良い代物じゃ、ない!!」
「……」
力いっぱいハルバードを振り抜く事で、プロトタイプを突き飛ばした。
怒りで何時も以上の力が出たせいか、プロトタイプは背部の大型スラスターを使って停止。
リージアへの攻撃を再開しようとした時、背中からの爆音が響き、熱と衝撃が背中に襲い掛かる。
「ガ!」
「作戦通りだ!」
ハルバードを構えたリージアは、作戦の成功を前に怒りの孕んだ笑みを浮かべた。
ロケットランチャーに取りつけておいたのは、ロケットを自動発射させてくれるタイマー。
それをセットして放置し、弾道へプロトタイプを誘導したのだ。
「こんの、泥棒野郎がぁぁ!!」
スラスターが損傷して機動力を著しく低下させたプロトタイプへ、リージアは全力でハルバードを振り下ろす。
怒りとスラスターの推力も乗せたその一撃は、姿勢を崩すプロトタイプへ直撃。
左肩からヘソの部分まで刃を食い込ませたまま、共に施設を破壊しながら地上へと落ちて行く。
リージアの渾身の一撃は、とてつもない破壊力を見せた。
下に有った施設は全て貫通し、プロトタイプはむき出しの地面に叩きつけられる。
クレーターの一部に、また小さなクレーターが出来上がった。
「とった!」
ハルバードからプロトタイプを引きはがし、宙に浮かせた所へ更に追撃を開始。
今度は踏み込みも交えて、ハルバードをフルスイングした。
勝ちを確信したリージアだったが、その攻撃は刀によって防がれる。
「チ!」
トドメは免れたが衝撃までは殺しきれず、プロトタイプは吹き飛んでいく。
音の壁を突き破ったプロトタイプは、その先に有る施設へと激突。
突っ込まれた建造物はその衝撃で全体にヒビがはいり、プロトタイプを下敷きにしながら崩壊。
ナノマシンで構成された金属の建造物は、聞いた事の無い音を立てながら瓦解していく。
その光景をみながら、ハルバードを地面に突き刺したリージアはライフルを両手で構えた。
「消えろ!」
最大出力で引き金を引き、強烈な反動を受け止める。
銃身下部のグリップも使ってしっかり握っていたが、反動で銃口は空へ向いた。
その威力は地面を削り、周囲の建物さえも溶かしながら切り裂く。
プロトタイプが居る筈の瓦礫へと、リージアの放ったエーテルは直進して行く。
「ッ!」
聞き覚えのある音が響き、最大出力で放たれたエーテルは瓦礫ごと真っ二つになった。
斬られたエーテルは二つともクレーターの奥まで直進し、奥の方で爆音が響く。
爆炎が舞い上がり、その中から赤い斬撃が出現。
地面や周囲の建造物を斬り裂きながら、リージアへと襲い掛かる。
「これはッ!?」
咄嗟に回避したが、奥まで進む斬撃は建造物や岩盤までも切り裂く。
この光景に、リージアは息を飲んだ。
何しろ、この技は姉妹の誰よりもエーテル技術に長けていた長女の技。
刀を持たせたからと言って、誰でもできるような物ではない。
「今の」
「リー、ちゃん?」
「ッ!?」
もう二度と聞く事の無いと思っていた声に、リージアは心臓が飛び出しそうな思いになった。
錆び着いたブリキ人形のようにギコチ無く振り返ると、瓦礫の上に立つプロトタイプが目に映る。
さっきの衝撃のせいか、ヘルメットの一部が破損している。
下アゴだけが見える状態の彼女はスラスターを吹かし、後ずさりするリージアの前に立つ。
「その義体……でもやっぱり、貴女、なの?」
ゆっくりと立ち上がるプロトタイプは、改めてリージアと目を合わせた。
着けていたフルフェイスのヘルメットは徐々に割れて行き、その素顔をさらしていく。
リージアにとって、絶対に忘れたくない、忘れる事の出来ない顔が出現。
それを見て、リージアの視界は徐々に歪んでいく。
「あ、ああ」
ヘルメットは完全に壊れ、プロトタイプは素顔をさらした。
その顔を前に、リージアは涙を流しながらその名前を呼ぶ。
「アリサ、お姉ちゃん?」
もう二度と見る事の無いと思っていた姉の顔、それも長女の顔だ。
絶対に見間違える事の無い、死んだはずの長女だ。
懐かしい彼女の顔を見たリージアは、徐々に戦意を喪失させる。
しかし、長女は一切戦闘を止めようとは思っていないらしい。
「い、いや、やめて」
「私は」
振るえた声を出しながら首を横に振るが、長女は聞く耳を持たない。
黄色い光の線が彼女の左手に集まって行き、徐々に武器が生成されていく。
それだけでなく、建造物のあちらこちらにも砲台が生み出される。
「もう、私は」
「貴女を……」
涙を垂れ流すリージアの姿を前にしても、武器の生成は止まらない。
やがて左腕に無機質な砲が出現し、砲口より赤いエーテルが充填される。
それだけでなく、周辺の建造物に作られた砲台達も製造が完了。
照準は全てリージアへと向けられ、装填も完了する。
「もう家族を殺したくない!!」
「殺す」
青い筈の姉の目は、血のように赤く染まる。
リージアの泣き言は切り捨てられ、展開していたドローンや生成された砲台達は攻撃を開始。
それに合わせて、左腕に生成された砲の引き金も引かれる。




