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沸き上がる殺意 後編

 義体の完成から三日が経過し、リージア達の乗っている艦は目的地から数キロ離れた海上で停船していた。

 甲板には数名のアンドロイド達が昇っており、そこにはフォスキアの姿も有る。

 彼女達の向ける視線の先は、青よりの緑に発光する光。

 その光は慣性の法則を無視しているかのような超高機動を見せつけ、移動を続けている。

 光の正体は、新型を飛行試験中のリージア。

 今までの飛行ユニットを大きく凌駕する性能だが、振り回される事無く操っている。


「(これだ、懐かしい!義体にかかるこのG!この風!これが欲しかった!!)」


 大戦時に使用していた高機動ユニットを彷彿とさせる性能に、リージアはずっと笑みを浮かべていた。

 かかるGは、エーテルのおかげである程度緩和されている。

 そのおかげで、慣性の法則を無視した軌道を描く。


「(それだけじゃない、フォスキアがくれた魔法陣の理論のおかげで、機動力は以前の三割増しだ!)」


 スラスターにもフォスキアの得意な風魔法が用いられ、リージアの記憶より機動力は向上している。

 おかげで、初速から音速に近い動きを行える。

 改めてフォスキアと出逢えたことに運命を感じた。


「ッ!」


 ライフルの性能も確かめるべく、リージアは海面へと最大出力で射撃を打ち込む。

 できれば何か的が有れば良かったが、今回はそんな都合のいい物は無い。

 打ち出された緑色のエーテルは、フォスキアの書いた魔法陣に従う。

 竜巻のような螺旋を描いたエーテルは、とてつもない速度で海面へ着弾。

 海水を掘り進め、一瞬だけ水底が見えた。


「ライフルも調子がいい、あんなオモチャみたいなライフルよりも」


 魔物達に持たせられていたライフルも、それなりの性能は有った。

 しかし、多少のラグや、燃費面での不安が気になっていた。

 同サイズであっても、それらは解消されている。


「……ふぅ」


 海水の雨に打たれながら、リージアはその場で動きを止める

 暴れ回る事一時間前後、満足しつつ調整するべき点も見つけた。

 一息つくと共に、現在のエネルギー残量等を確認する。

 最大稼働を使っていなくても、今はそれと同じ位の性能を引き出せる。

 発揮できる限りの性能で動き回ったが、未だにエネルギーは九割を下回っていない。


「(これで、バッテリーと推進剤の残量を気にする戦いとはおさらば、か)」


 現在は違法な、アンドロイドへのジェネレータの搭載。

 それを完全無視し、今のリージアにはエーテルリアクターが搭載されている。

 しかも以前制作した突貫品ではなく、彼女の記憶通りに制作した正規の物。

 エーテルを生成すると共に、機材を動かす為の電力も生み出している。

 おかげで、今まで重しだったバッテリー残量等を気にする必要がない。

 その事に寂しさを感じながらも、言い知れぬ解放感も覚えた。


「……プロトタイプか、所詮は、私達のデッドコピー、パチモンには負けてらんない、だから」


 薄っすらと見える孤島を睨んだリージアは、安全装置を入れたライフルを構えた。

 引き金は引かず、反動が襲い掛かる動作のみを行う。


「必ず殺す」


 そう言い捨てたリージアは、艦へと帰投して行った。


 ――――――


 時は戻り、リージアが試験飛行を始めてすぐ。

 甲板で様子を見ていたアンドロイド達は、リージアが斬り裂く風に身をさらしていた。


「あれが新型の義体かい、随分速いねぇ」

「まさかあの人にあんな能力が有ったなんてね」

「あれさえ有れば、他の皆も死なずに」


 ベゴニアたちは、新型の装備の試験飛行を続けるリージアに釘付けとなっていた。

 従来の飛行ユニットとは比較にならない性能は、彼女達には非常に魅力的だ。

 もしもリージアの使う装備さえ有れば、仲間達も死なずにすんだかもしれない。

 そんな後悔や嫉妬までもが産まれてしまうが、今はリージアの敵討ちを願うしかない。

 三人のすぐ近くでは、フォスキア達も見物に訪れていた。


「あらあら、新しいライフルまで持ちだしちゃって、ノリノリねぇ」

「ええ、あの銃だけは結構こだわっていたわね」


 スキットルを傾けるフォスキアは、ヘリコニアの言葉を肯定した。

 一応フォスキアも開発に携わっていただけに、武器がしっかり動いている事に笑みが零れる。

 何しろ、リージアの頼みでライフルはフォスキアもかなり念入りに魔法陣を組んだのだ。

 フォスキアの得意な風魔法をベースにしており、貫通力を叩き上げた物だ。


「あらぁ、お仕事大変だったぁ?」

「ええ、得意な風魔法でも、元々の魔法陣を銃の機構と連動させる必要があったから、大変だったわよ」

「風魔法、ああぁ、戦闘データにも有ったわねぇ、確か、地下から岩盤を吹き飛ばしたのよねぇ」

「岩盤、なのかしらね?」


 今リージアが持っているライフルには、フォスキアの得意な風魔法が付与されている。

 既存の魔法陣を付与するだけでは、ライフルはただのお飾りだ。

 引き金を引くと共に、付与しておいた魔法が銃口から放出されるように文章を付け足す必要があった。


「言っておくけど、テンペスト・ブラストの魔法陣なんて書いたら、すぐに魔力使い果たしちゃうから、付与しているのはもう少し下位の魔法よ」

「あらぁ、それって威力は大丈夫なの?」

「大丈夫よ、下位なんて言っても十分な威力を出せる物にしておいたわ、貴女達の使う銃弾の特性も模しておいたから、感覚も普通の銃使うのと同じ感じになっているだろうし……おかげで、何回か書き直す事に成ったけど」


 少し疲れた顔を浮かべたフォスキアは、ライフルが今の出来になるまでの経緯を思い出した。

 相当いい物を作る事に躍起になっていたリージアは、フォスキアに何度も訂正を依頼した。

 その執念は恐ろしい物で、流石のフォスキアも少しついて行けなかった。


「あらあら、意気投合しているようでなによりね~」

「どこをどう聞いたらその返答になるのよ」

「(でぇもぉ、リージアちゃん、前よりちょっと可愛くなった気がするのよね~)」


 ため息交じりにスキットルを傾けるフォスキアを横目に、ヘリコニアは試験飛行中のリージアへ視線を向けた。

 最近のリージアは、どこか可愛げが出てきている気がする。

 義体を一新したというのも有るが、フォスキアと居る時の表情は以前より和らいでいる。

 後は一人の時でも、その柔らかい笑みを見せてくれれば言う事は無い。


「うふふ~、あの子を見ていれば、よくわかるわ~」

「……そう」


 やはり掴み所が無い彼女の性格には、調子を狂わされてしまう。

 それでも、大事な恋愛相談の相手でもあるので無下にはできない。


「それにぃ、貴女も、少し可愛くなったわよねぇ」

「そ、そうかしら?」

「そうよぉ、初めて会った時はぁ、随分濁った顔してたもの」

「……エルフ相手に濁った顔とか言う奴初めてよ」

「じゃぁ~……死にそうな顔、かしら?」

「……そんな顔してた?」

「う~ん、お酒に酔ってたせいかしら?」

「その時はアンタ等が墜落した衝撃でダメにされたから飲んで無いわよ」

「ならぁ、その時は相当落ち込んでいたって事よねぇ?」

「……そんなに落ち込んでた覚えは無かったけど、そこまで言うんならそうなのかしらね?」


 ヘリコニアの目からすれば、フォスキアの目はかなり死にそうな物だった。

 仲間や上司に裏切られ、ヘリコニアはあらゆる希望を失った。

 その時の自分の目は、今でも覚えている。

 初めて会った時のフォスキアは、自分の目と同じだった。

 しかし、今となっては彼女の目に光が戻っている。


「ええ、耳も初めて会った時は萎れてたもの」

「……そ、そうだったかしら?」

「そうよぉ、リージアちゃんの前だと、逞しく反り立つもの」

「何か言い方が嫌なんだけど」

「ふふ、でも貴女なら、あの子を幸せにできる筈よぉ、自身もって」


 ヘリコニアのセリフと共に、海水は勢いよく打ち上げられた。

 リージアの射撃の威力テストにより、海面にエーテル弾が撃ち込まれたのだ。

 その衝撃によって、大量の水しぶきがヘリコニア達に降りかかる。


「……言っておくけど、貴女は私を買い被りすぎよ、ロクな恋愛もした事ないのに、あの子が憎悪に溶けない様になんて」

「……でぇも、貴女があの子に良い影響を与えているのは~、確かよぉ」

「そうかしら?」

「ええぇ、それにぃ、あの子と何かあったでしょ~?」

「……」


 図星を突かれたフォスキアは、顔を真っ赤に染めた。

 何しろあれからずっと、リージアとはマトモに目を合わせる事すらできていない。

 それどころか、好きだという気持ちが更に膨れ上がっている気がする。

 嬉しそうにピクピクと動く耳まで赤くなるフォスキアを見て、ヘリコニアはほほ笑む。


「やっぱり、目に狂いは無かったわ~」

「そうは言ってもね……」


 嬉しそうにするヘリコニアとは裏腹に、フォスキアは表情を暗くした。

 元気よく動いていた耳も力無く下を向いてしまい、あからさまに落ち込んでしまう。

 と言うのも、未だにリージアは長女の背中ばかり見ている事を思い知ったばかり。

 多少好感度が高くなっても、リージアの心には長女が居る。


「あの子には、お姉さんしか見えて居ないのよ」

「……思った以上に深刻だったのね」


 胸に痛みを覚えていると、身体の芯から響く轟音が鳴った。

 海面に向けてライフルを撃ちこんだらしく、海水の雨がフォスキア達へと降り注ぐ。

 苦い笑みを浮かべるヘリコニアを横目に、フォスキアはリージアの方を見た。

 なにやらライフルを島の方へ構え、鋭い目つきを浮かべている。

 特に撃ってもいないのに、肘を曲げて反動を吸収する動作を見せる。

 同時に妙な寒気が走り、フォスキアの鳥肌が立った。


「……何かしら?今の殺意」


 何かを呟いたリージアは、そのまま艦へと戻って行った。


 ――――――


 その頃。

 艦橋でもリージアの新装備を見物する者達がいた。


「なるほど、大口を叩くだけの事はあるな」

「はい、あれほどの装備を作れるとは、思ってもみませんでした」


 艦長の席に着くゼフィランサスは、モニターに映るリージアの動きに唖然としていた。

 明らかに従来の飛行ユニットとは一線を画す性能を見せつけており、ゼフィランサス達へ僅かな希望を与えている。


「驚いたねぇ、アイツあんなの作れたのかい」

「ほんと、わざわざ来たかいがあったよ、モミザも来れば良かったのに」


 艦橋の端末を使い、先ほどから色々と調べるレーニア達姉妹も、リージアの作った兵器の性能に驚いていた。

 ある程度のプログラムなどはできる事を知っていたが、これ程とは思っていなかった。

 出来れば部屋に引きこもって居たかったブライトも、今回はついて来て良かったと思っている。


「……そう言えば、モミザの奴はどうした?操舵にも顔を見せていなかったな」

「さぁね、最近塞ぎ込んでいてねぇ」


 リージアがフォスキアへキスをした場面を目撃したモミザは、それ以来ずっと塞ぎ込んでいた。

 そのせいか、交代で行っている操舵にも顔を見せていない。

 レーニアも何度か話をしようとしたが、それでも扉すら開けてくれなかった。


「大方、恋愛面でエルフィリアに一歩リードされた、って所かね?」

「……そんな事でか?」

「恋する乙女にとっては、死活問題なのさ」


 レーニアの返答により、ゼフィランサスは頭を抱えた。

 何らかの異常が義体に起きたのならばともかく、完全な私情による不調。

 この先どうなるのか解らない以上、早く復帰してほしい所だ。

 悩むゼフィランサスは、改めて端末と睨めっこするレーニアの方を向く。


「それで?さっきから難しい顔で何をしている?」

「なぁに、個人的な興味さ、この艦のブラックボックスを覗いているのさ」

「よく今まで解体されずに済んだものだ」


 何をしているのかと思えば、どうやらレーニアは艦のブラックボックスを覗いていたらしい。

 ブラックボックスは、技術的に機密とされている部分。

 通常は人間の兵士でさえ、覗くことを禁止されている物だ。

 下手をしたら、レーニアは今度こそ解体処分を受ける事に成るかもしれない。


「……それで?何か分かったのか?」

「そうだねぇ、ちょっと疑問だった、機械魔物どものインターバルの理由位なら分かったよ」

「何だと?補給以外に理由が有ったのか?」

「ああ、どうやら奴らは、生き残りや撃破された個体から戦闘データを抜き取り、そいつをフィードバックして艦の頭に学習させていたらしい」

「成程、その為のインターバルか」


 考え込むゼフィランサスは、レーニアの発言に納得した。

 一日の間隔が有ったおかげでリージア達の到着まで持ちこたえられたが、代わりに魔物達の攻撃の精度も上がっていた。

 大方そう言う物だという考えは有ったので、それ程驚きではない。


「けど、一つ疑問があってね」

「疑問?」

「……何と言うかね、頭の部分が無いんだ」

「頭が無い?学習させているのにか?」


 提示された疑問には、ゼフィランサスも食いついた。

 学習させようにも、肝心の頭が無いのであれば意味がない。

 疑問符を浮かべるゼフィランサスを横目に、レーニアは少し口元をピクつかせた。


「あー、ちょっと語弊のある言い方だったね」

「なら、正確に言ってくれ」

「人間で言うのであれば、今この艦は小脳しかない状態さ、敵の迎撃何かはできても複雑な戦術や攻撃はできないよ」

「途中で陣形が崩れ出したのはそれが原因か、ホスタの砲撃の影響か?それともお前達のハッキングのせいか?」

「ん~……」


 ゼフィランサスの上げた要因は、どちらも可能性としては考えられる。

 砲撃によって、データの一部が破損してした。

 ハッキングのせいで、プログラムに影響が出てしまった。

 と言うような事はあり得るが、レーニアの難しい顔は収まらない。


「何だ?」

「何と言うかねぇ、アンタの言った二つが原因だとすると、ちょっと妙でね」

「妙だと?」

「ああ、大脳部分がごっそり無くなっているのさ、本で言えば重要な事が書かれている後半部分のページが破り捨てられているって状態だね」

「……大丈夫なのか?この船」


 画面を睨むように見るレーニアは、見つけた妙な部分をゼフィランサスへ伝えた。

 おかげで、変な不安が産まれてしまう。

 ここに来るまでは大丈夫だったが、その後で航行不能何てことになっては困る。

 それ以前に、プロトタイプに捕捉されでもしたら大変だ。


「その点なら心配しないでくれ、状態から見て、リージア達が突入した時点でこの状態だ、つまり、航行や攻撃システムには異常はない、もっとも、こっちがどうにかしなければ動けない、指示待ち戦艦だけどね」

「ようは、今や普通の戦艦という事か」

「ああ、そう言う事さ……ん?」


 現在統合政府軍でも運用されている艦と同様である事に、ゼフィランサスは安堵した。

 その横でキーボードを叩き続けるレーニアは、更に妙な物を見つける。

 鋭い目つきで観察し続けるが、最終的にため息が出てしまう。


「はぁ(なんだ、何か面白い物でもあるかと思ったが、肩透かしなプログラムだったよ)」

『こちらリージア、帰投するからハッチ開けて』

「おっと、まってな、今開ける」


 このまま手を加えなければ、何の為にあるかさえ分からない代物だ。

 作っている途中で暴走してしまったのか、あるいは本当に無駄なプログラムなのか。

 どちらかは分からないが、とにかくこの艦には必要のない物だった。

 落胆したレーニアは端末を閉じ、試験を終えたリージアの迎え入れを開始する。


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