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届かない想い 後編

 リージアとフォスキアが、射撃状訪れてしばらくして。

 いつの間にか本格的に射撃場デートが始まってしまい、気づけば三時間程過ごしていた。

 最初は思う通りに当たらなかったが、練習を重ねる事で徐々に精度は上昇。

 命中する場所はともかく、リボルバーで六発全てを当てる位には成長した。

 異世界の武器を扱う高揚を覚えていたフォスキアの腹の虫が成った事で、ようやく二人は休憩に入った。


「うへ~、うっかり三時間も練習しちゃった」

「私も、楽しすぎて時間の感覚忘れてたわ」


 とりあえず持ってきていた携帯食をかじりながら、フォスキアはソファに腰掛ける。

 空腹を実感するまで、本当に時間の感覚を失っていた。

 何しろリボルバー以外にも色々な銃のレクチャーを始めたのは良いが、次第にリージアまで参加して楽しむようになったのだ。

 マグナムやショットガン、続いてライフルと、徐々に大きな銃へと移行していったので、二人は完全にトリガーハッピー状態になっていたのだ。


「(でも、おかげで収穫は有った、後で色々調整しないと)」


 いろんな銃を試したかいが合って、今の義体の修正箇所が幾らか判明した。

 照準システムの僅かなズレや、義体自体の重心のブレ。

 射撃の際の結果と共に、艦内を歩いた際に手に入れた情報をまとめておく。

 とりあえず、次の作業の時に色々と修正を加えておく事にした。


「(何も無い所で転んでたら世話無いもんね)」

「それにしても、貴女の銃って、他のみんなが使っているのと形が違うわよね」


 そう言いながら、フォスキアはリージアが念入りに手入れをするリボルバーに目を移す。

 サイズが同じ位の銃を他の皆も持っている事は、フォスキアも知っている。

 しかしリージアが使っている形の物は、他の誰も使っていない。


「ああ、これね、結構古いモデルだから」

「古い?」

「そ、一番最初に作られたのは、もう四百年以上前かな?他の奴は三十年とか四十年前位だけど」

「そ、そんなに古いの?何でそんなの」

「う~ん、趣味かな?」

「しゅ、趣味?」


 リージアが使用しているリボルバーは、かなり昔からある物。

 もはや鑑賞用か、撮影や個人的な趣味の射撃位でしか使用する者はいない。

 それでもこうして使っているのは、単純な趣味だ。


「最近の奴より、こう言う古い奴の方が魅力的だからね、カッコいいし、何より」


 銃の手入れを終えたリージアは、シリンダーの部分を勢いよく回転させる。

 その際に響くネジを巻く時のような音に、表情を緩める。

 続けて弾が無い事を確認し、銃を耳元に持っていくと撃鉄を起こし、引き金を引く。

 これらの音に、心地よさそうな表情を浮かべた。


「こういう音がいいのよ」

「そ、そうなのね(分かってあげたいけど、全然分からない)」


 今度はゆっくりとシリンダーを回転させ始め、まるでクラシックでも聞いているかのように、うっとりとしだす。

 流石にそこばかりは、理解しきれないフォスキアだった。


「でも、これを使う一番の理由は、やっぱり……」

「り、リージア?」


 耳から銃を離したリージアは、今度は悲しい表情を浮かべた。

 その顔は、フォスキアも知っている物だった。

 艦内で苦しんでいる時に見せた、姉を想う時の目だ。


「これ、お姉ちゃんの形見なんだ」

「……そう、なの」


 悲しさと安らかさの二つを感じられる表情を浮かべながら、リージアは銃を抱きしめた。

 少々語弊のある言い方かもしれないが、ある意味ではそうだ。

 複雑な気分も有るが、今はこの表現を選んだ。


「昔から同じ感じの奴を使ってたんだけど、それだと弾の大きさが合わない奴が多かったから、お姉ちゃんが特別に作ってくれたの」

「……それで、今も使い続けてるの?」

「そ、私に馴染むようにカスタマイズもしてくれたし、ハルバードとかは取り上げられても、これだけはずっと持ってた」

「……」


 リージアの言葉の一つ一つに、フォスキアは胸を傷め続けた。

 今でもリージアの心の中に居続ける程、影響を与えて来たのだろう。

 姉妹であるが故の関係の深さは、今からでは覆す事はできない。

 死してなおもリージアに想われ続ける彼女に、フォスキアは嫉妬してしまう。


「ね、ねぇ」

「何?」

「その、貴女の言うお姉さんって、その……どんな人だったの?」


 本当は知りたくもない事だった。

 突然の質問にリージアは目を丸めるが、フォスキアは少し目を逸らしていた。

 弱みだけは表に出す事は無いリージアが、ここまで心酔しているのだ。

 人格などに余程の開きが有ると考えると、どうにもやるせなくなる。


「う~ん、そうだねぇ……結構大雑把?お姉ちゃんっていうより、お母さんみたいな感じだったかな?とにかく私達姉妹を大事にしてくれてた人だね、うん、今思うと本当に大雑把だった」

「大雑把?」

「そ、一応指揮官だったから、立てる作戦は繊細で、よく言えば大胆だった、かな?揚陸船とかで敵の守りに突っ込んだり、自分のアジトにわざと敵引き入れてまとめて爆破したり……うん、大雑把っていうか、滅茶苦茶?その場の乗りと勢いで難所を切り抜けちゃう感じ?」

「掴みどころがないのね」

「そだね、戦いの時だと、本当に破天荒な事してたよ」


 改めて姉の事を考えたリージアは、戦いの時は本当に滅茶苦茶だったことを思い出した。

 等と言う事を証言するリージアだが、その滅茶苦茶に呼応した彼女も同じ位無茶な事をしていた。

 と言うか、リージアが一番付いて行けていた。


「でも、私生活だと聖女だったよ、姉妹達のアフターケア、部隊の指揮統括、事務仕事、姉妹達の学習・訓練、いろんな事をこなしてた」

「本当にお姉さんって言うよりお母さんね」

「それでも、訓練とかは凄い厳しかったけどね」


 話を続けるリージアは、訓練を思い出した。

 任務遂行を確実にするために、戦闘データの同期を行う目的も有って何度も組手を行ってきた。

 例え愛する妹達が相手であっても、彼女は容赦がない。

 他の姉妹全員と徒党を組み、全員で相手しても返り討ちにされた程に彼女は強かった。

 お世辞さえ嫌味に思えてしまう程コテンパンにされた事も思いだし、リージアは徐々に気が沈んでいく。


「(……そう言えば全員で最大稼働使っても返り討ちに有ったっけ)」

「どうしたの?」

「いや、その、うん、訓練の時にボッコボコにされてさ、そう言えば勝てた事一回も無かった」

「え、そんなに強かったの?」

「……」


 フォスキアの発言に、リージアは静かに首を縦に振った。

 長女とだけでなく、モミザを含めた他の姉妹達との組手では何度か勝つ事は有った。

 しかし長女との模擬戦だけは、一度も勝てた事がない。

 そんな憧れやカリスマも有って、姉妹達は皆長女の事を慕っていた。


「ほんと、大人気ないって感じだったよ、強さだけは本当に理不尽だった」

「(どこで沈んでんのよ、この子)」


 何時もトラウマなどで沈んでしまうリージアは、今回は長女の強さのせいで落ち込んでしまう。

 記憶に出て来るその強さは、正に異次元と言える物だった。

 どんなに自分の力を研磨しても、彼女と言う次元に到達できない。

 周りからは怠け者などと言われていたが、陰での訓練は怠って居なかった。

 何十年も積み上げてきたが、今でも彼女に勝てる気がしない。


「だから、本来ならここには私じゃなくて、お姉ちゃんが」

「え?」

「……何でもない」

「(やっぱり、お姉さんの事はあまり話題に出さない方がいいようね)」


 最近よく見せる暗い顔を見て、フォスキアは少し考えだす。

 ここは何か話を変えた方がいいと考え、聞きたかった事を幾らか聞く事にする。


「……そう言えば、その、リージアって、髪、伸ばしてたの?」

「……」


 リージアの暗い顔を見たフォスキアは、少し無理矢理話を変えた。

 名前の件など、色々聞きたい事もある。

 その中で、一番聞きたかったこの話題を選択した。


「何で、その事を?」

「え、えっと……この艦に干渉した時に、その、見た気がするのよ、髪の長い貴女を」


 予想以上に驚かれ、また失言だったかもしれないと思いながらフォスキアは話した。

 過去のリージアはホスタより髪が長く、毛先は腰よりも低かった。

 色々有って今の髪になったが、当時の髪型を知っているのはこの中ではモミザ位だ。

 彼女が易々と教えるとも思えないので、この艦に何か情報が有ったのだろうとリージアは考えた。


「……たぶん、この艦は前の奴の残骸から回収したデータでも使ってるんだと思う、その中に、当時の私の姿が映っていた物が有ったんだろうね」

「えっと……」

「ようするに、前の艦の記憶がこの艦にも有る、フォスキアに干渉してもらったのは中枢部分だったから、たまたまその記憶に触れさせちゃったんだろうね」


 リージアの考えでは、この艦は政府の技術者の頭だけでは再現不可能だ。

 それでも姉妹艦となるこの船が作れたという事は、破壊した前の艦の残骸からデータを回収したのだろう。

 その中に監視カメラのデータでも入っていて、それがフォスキアに影響を与えたのだろう。


「そうだとしたら図々しいよ、ホント」

「ご、ごめんなさい、何か色々踏み抜いちゃったみたいで……」

「いいよ……でも懐かしい、前はフォスキア位長くて、よくお姉ちゃんにすいてもらってた」


 笑みを浮かべるリージアは、今は短い髪をいじりだす。

 訳合って断髪してしまったが、懐かしい気分になる。

 その気になれば、長い方には何時でも戻せる。

 なので、機会があれば戻してみるのもいいかもしれない。


「……」

「まだ何か聞きたい事あるの?」

「え、あ、その……」

「良いよ別に、貴女と居ると昔の事思い出しても辛くないし」


 まだ聞きたい事がありそうなフォスキアに気付いたリージアは、何時でも聞ける体勢を取った。

 もうどんな疑問をぶつけても、リージアの地雷を踏み抜きそうだった。

 なので、質問する事が地味に不安だ。


「え、えっと……名前」

「ん?」

「名前、何で、変えてるのかなって、ぜ、ゼフィランサスから聞いたのよ、色々と」

「あ~、名前変えると不吉ってやつね」

「そ、そう」


 不安になりながら聞いてみたが、リージアはそれほど気にしていないらしい。

 その事に少し安堵するが、あまりにあっさりしているので逆に不安になる。


「う~ん、単純に偽装の為だからね、たいした理由は無いよ」

「……たいした理由よね?何偽装って」

「……深い意味はないよ、詳しい事は、向こうに着いたらちゃんと話すから、お姉ちゃんの事も」

「そ、そうなのね(……この子のお姉さん、抱擁力のある人だったのは間違いないようね)」


 どうもモヤモヤする言い方だったが、今はリージアを信じて待つ事にした。

 そのついでに、フォスキアは改めて長女の事を考えた。

 断片的な事しか語ってくれなかったが、リージア達の事は大切に思っていたようだ。

 能力もかなり高いらしく、リージアからしてみれば高嶺の花のような物だろう。


「……さて、今日はありがとう、デートに付き合ってくれて」

「良いのよ、と言うか、私が言った事だし」

「あはは、でも、美人エルフとデート何て夢みたいな事を叶えてくれたんだから、感謝しか無いよ」


 立ち上がったリージアは、笑顔で感謝を述べた。

 なんだかんだ言って、フォスキアの容姿はリージアの好み。

 例え人間嫌いであっても、自分たちの事を邪険に扱っていないフォスキアには気を許せる。

 最近はフォスキアから親しみのある気配も有るので、余計に親しめる。


「……そ、そう、ありがと」

「(やっぱ可愛い)」


 髪をいじりながら顔を赤くするフォスキアに、リージアは少し見惚れた。

 彼女がエルフで有る事を差し引いても、本当に彼女は魅力的だ。

 恥かしがる姿を堪能していると、フォスキアは少し勢いをつけて立ち上がる。


「さ、行きましょ」

「そだね……ウワ!」

「え?きゃ!」


 フォスキアと共に退室しようとしたら、リージアは足を引っかけてしまう。

 こんなマヌケな事に成ってしまうあたり、やはりプログラムに不備が有るのだろう。

 転んでしまったリージアは、そのままフォスキアに被り掛かる。

 リージアはうつ伏せに、フォスキアは仰向けとなりながら倒れ込んだ。


「……」

「……」


 構図的に、リージアが押し倒したように見える物になってしまった。

 互いに目と鼻の先の位置に赤くなった顔があり、二人の息がかかり合う。

 顔が急接近しあい、二人の鼓動は高まり合う。


「ご、ゴメン、わ、わざとじゃ、ないから」

「……」

「……フォスキア?」


 押し倒されたフォスキアは、今回は特に騒ぐことは無かった。

 それどころか、妙に嬉しそうに顔を赤くしている。

 目を逸らし、口元に手を置きながらモジモジしている。


「い、いい、のよ」

「(何その反応!?勘違いすんぞゴラ!!)」


 喜んでいるとしか思えない表情を前に、リージアは更に顔を真っ赤にした。

 同性愛の趣味は無いと言われ、その気にならない様に気を付けていたが、今回は本気で勘違いしそうになった。

 これ以上妙な勘違いをしない様に、リージアはすぐに離れようとする。


「(や、やばい、これ以上変な気持ちになる前に離れ)あ」

「え?」


 しかし、まだ不完全なプログラムのせいで手を滑らせてしまう。

 途中で止まろうとしたが、既に遅かった。

 唇は重なり合い、二人は心臓がはち切れそうな気分になった。

 数秒程硬直した後、二人は立ち上がる。


「い、行こうか」

「そ、そうね」


 顔を真っ赤にした二人は、気まずい空気の中で退室。

 早速ラボへと歩みを進めようとするが、その途中で違和感を覚えた。

 さっきまで無かった筈の切り傷のような物が、壁に一つ付いていたのだ。


「(……こんな傷、有ったかな?いや、今はもうそれ所じゃねぇわ)」


 気にする事無く、リージアはラボへと移動して行った。

 ラボに通じる道とは逆方向の通路にて、すすり泣く声には気付く事無く。


「……何が惚れる訳ないだ、バカやろう」


 ハルバードを抱えながら座り込むモミザは、涙をぬぐい取った。


 ――――――


 リージア達が退室する数分前。

 武器の研磨を終えたモミザは、ハルバードを持ってリージアを探していた。

 リージアの喜ぶ顔を思い浮かべながらラボへ向かったが、無駄足となってしまった。

 ラボにすら居なかったおかげでで、わざわざ無駄に広いこの艦内をアテもなく歩く羽目になっていた。


「どこ行きやがったんだ?あいつ等」


 リージアが何処に行くのか、大体の予想はつく。

 それでも、気まぐれで変な場所に行く事も有るので、アテが無いのと同じだ。

 とりあえず思い付く場所は回り、たまたま射撃場の近くを通り掛かった。


「……まさかな」


 ここでリージアがサボるとすれば、甲板の上が有力だった。

 そこに居なかったという事は、射撃場で遊んでいる事が予想できる。

 フォスキアと一緒だと気まずいので、モミザは中に有る監視カメラにアクセス。

 自分の視覚とペアリングし、部屋の中を見る。


「……う、やっぱ居やがったか」


 モミザが見たのは、丁度立ち上がった二人。

 入らなくて正解だったと考えていると、リージアは転んでしまう。

 そのままフォスキアの事も押し倒す、という事故シーンを目撃する。


「ッ!?ま、まぁ事故だ、ただの、事故……」


 見る限り、リージアは新型の義体を使っているので、まだ事故で有ると思える。

 しかし、二人共表情はとても嬉しそうだ。

 明らかに以前よりも親密になっており、甘い空間が広がってしまっている。


「……ッ!」


 更に手を滑らせたリージアがキスをしてしまう場面で、思わずハルバードを握る力を弱めてしまう。

 柄が床に着き、重量の有る斧の部分が壁に衝突。

 壁に傷ができた事にも気付かず、モミザは涙を流してしまう。


「……クソ」


 前回の事故でのキスとは、まるで違う二人のやり取り。

 気まずそうにするリージア達は、我に返ったように外へ出ようとする。

 そんな二人の姿を見たモミザは監視カメラとのリンクを解除し、急いでラボとは別の方向の曲がり角へ身を隠す。

 曲がり角の陰に丸まったモミザは、すすり泣きながら言葉を漏らす。


「何が惚れる訳ないだ、バカやろう」


 先ほどのリージアの表情は、恋する乙女だった。

 確証はないが、モミザの中に有る乙女の勘はそんな確信を与えた。


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