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届かない想い 前編

タラッサの町を出て三日後の早朝。

朝の支度を整えたフォスキアは、リージアの元へ向かっていた。


「(今日で三日目、随分時間がかかっているわね)」


作業を初めてから、リージアは文字通り三日三晩設備を稼働させていた。

それでも義体は完成しておらず、フォスキアに頼み込んだ装備もまだ完成しきっていない。

本人が言うには相当時間のかかる手法らしく、時間がかかるのは仕方がないとの事。

身体の方は昨日の段階であらかたできていたが、装備の方はまだ時間がかかりそうだった。


「もどかしいけど、どうなるのか気になるわね」


義体を生成する光景は、フォスキアの常識では考えられない物。

かなりチマチマとした作業だったが、気付いた頃には身体と呼べる物がどんどんできていた。

結果的にどんな物になるのか、かなり気になる所だ。


「さて、今日も頑張りますか」


寝起きの身体をほぐしながら、フォスキアはラボの扉をくぐる。

いいベッドを使わせてくれているので、ここに来てから寝つきがいい。

おかげで、頭もかなりスッキリしている。

無理に酔う必要もないというのも有るが、こんなに気分がいいのは久しぶりだった。

その事に笑みを浮かべながら、フォスキアはラボの中に目を移す。


「……」

「……あ」


最初に目に飛び込んできたのは、棺の上に座るリージア。

何時の間にか義体は完成しており、険しい顔で自分の身体を観察している。

外観の方は以前よりも少女らしさが際だっており、隙間や駆動音が減っている。

カラーリングは以前の黒ではなく、顔と同じ白っぽい肌色となっているので人間味が増している。

かといって、人間と見分けがつかないかと聞かれると、そうでも無い。

遠目では分かり辛いが、近くに行けば人でないとすぐにわかる。


「あ、おはよう、フォスキア」

「え、ええ、おはよう(やば、思ったより可愛くなったわ)」


完成した義体に、フォスキアは釘付けとなった。

より洗練された人型でありながら、首から下は完全な機械。

以前と変わらない筈なのに、より美しく思える。

何故か恥ずかしくなったフォスキアは、服や髪を気休め程度に直してしまう。


「ん、ん~」


身体を伸ばしたリージアは、色々な枷から解放されたような気分だった。

バッテリーではなく、エーテルリアクターによる半永久的なエネルギー。

電動ではなく、エーテル駆動による滑らかな動き。

そして何よりも、殻の中から出られたかのような解放感が心地よい。


「フォスキア、ちょっと良い?」

「え?」


箱から降りたリージアは、キョトンとするフォスキアの前に立ち、彼女の手を握り締めた。

フォスキアの右手を自らのホホに当て、自分の右手はフォスキアの左ホホに当てた。

何をしているのか解らないフォスキアだったが、とにかく恥ずかしかった。


「ちょ、ちょっと、リージア?」

「……良いね」

「な、何が?」

「スベスベしてて、暖かくて、プニプニで、モチモチしてる」

「はぁ?」


リージアのセクハラ同然の発言に、フォスキアは更に顔を赤く染めた。

そんな彼女の気持ちを汲む事も無く、リージアは自身の感じる感触を堪能する。

バルバトスの細胞を培養し、ナノマシンでコーティングして形作ったこの義体。

センサーは神経の代わりになり、リージアへと感覚を伝えている。


「(これが、人の感覚、気持ちいい)」

「ちょ!あ」


リージアの行動は、更にエスカレート。

フォスキアの事を抱きしめ、彼女の身体を余すとこ無く感じる。

絹のように滑らかな長い髪は勿論、酒と汗の匂いが混じる身体のにおいまで。

おかげで、フォスキアの心臓は太鼓のように鳴り響く。


「い」

「(ん?なんか鼓動が)」

「イヤアアアア!!」

「え?ブヘッ!!」


恥かしさが限界を超えたフォスキアはリージアの拘束を解き、強烈な平手打ちを繰り出した。

まるで銃声のような炸裂音が響き、リージアは少し回転しながら吹き飛んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ(心臓に悪いのよ)」


そんな彼女に背を向けながら、フォスキアは息を整えつつ身体をさする。

考えてもみれば、両親以外でここまで身体を許した事がない。

察しが良い人間だと、触れただけでフォスキアの正体に感づく場合が有る。

なので、接触さえも回避していた。


「(痛て~、本当に痛い、マジで痛い、エルフのビンタ何てご褒美だって考えてたけど、実際くらうとマジで痛い)」


恥かしがるフォスキアとは反対に、リージアは自分の研究成果を喜びながら、慣れない痛みに涙を浮かべていた。

ダメージを受けても、痛みはデータとして記録されるだけ。

神経をセンサー代わりにする今の義体では、本当に痛みを感じてしまう。

より人間らしい身体を求めて作ったのはいいのだが、こう言うデメリットには頭を抱えてしまう。


「あはは~、ごめんね、ちょっとスキンシップがすぎちゃった」

「……」


手の形に赤く染まるホホをさすりながら、リージアは少しムスっとするフォスキアに謝った。

やはり恥ずかしかったのか、フォスキアは少しご機嫌が斜めだ。


「ご、ゴメンって、また良いお酒あげるから」

「……」


そんなフォスキアを見て、リージアは両手を合わせながら謝った。

また上物の酒で釣る作戦なのは見え見えなので、今回ばかりはフォスキアも首を縦に振らなかった。


「あ、貴女だけよ、あ、あんなに身体を許したのは、前にも言ったけど、私の身体は安くないのよ」


不機嫌ながらも、長い耳の先まで赤くしたフォスキア。

髪をいじる事で恥ずかしさを紛らわせる仕草は、リージアも少しトキめいていたが、とある事を思い出して少しうつむいてしまう。


「そ、そうだよね、そう言えばフォスキアって女の子同士のイチャイチャは嫌だもんね、ごめんね」

「(しまった、そう言えばリージアに気が変わった事伝えるの忘れてた)」


落ち込んだ理由は、フォスキアにそう言う趣味が無い事を思い出したから。

最近の距離感のせいで、すっかり忘れていた。

既に気が変わっている事を伝え忘れていたので、ちょっとしたすれ違いが生じた。


「な、ならさ、一緒に何か楽しいことしない?」

「(……リージアの楽しい事、ていうか、それってデートよね、まだ諦めてなかったのね)」

「(あ、でも、これだとデートになるか、どうしよ、こういう時ってどうすれば)」


まだデートをする事を諦めていなかった事に呆れつつ、本音は少し喜んでいた。

しかも、この場所でデートをするという事は、少しでもリージアの趣味等に触れる機会ができる。

そう考えたフォスキアは、少し悩んだ表情を浮かべた。


「……フォスキア?」

「い、良いわよ」

「え?」

「こ、今回は、それで手を打ってあげる、でも、今度何も言わずにあんな事したら、許さないから」

「……は、はい(ちゃんと言えば、ああいう事していいの?)」


顔を赤くしながらデートを許したフォスキアに、リージアは冷や汗をかいた。

とは言え、この結果は喜ばしかった。


「(まいっか、義体の慣らしもできるし、なにより、念願のエルフとのデート、艦内なのが残念だけど、しっかり楽しまないと……これが最期になるかもしれないんだから)」

「……それで?この船、何か見る所とかあるの?」

「う~ん、休憩用の展望室が有るから、先ずはそこだね」


記憶に有る中で、リージアはデートスポットになりそうな場所を示した。

展望室ならばここからそれ程遠くは無いので、さっそくリージアは足を進める。

歩き去ろうとする彼女の後姿を前にして、フォスキアはスキットルを傾けて冷静さを取り戻す。


「……ねぇリージア」

「ん?何?」

「良いの?仕事サボる事になるわよ」

「良いの良いの、サボりも仕事の内ってね」

「……あの子の世界ではそれが普通の事なのかしら?」


変な誤解を与えられたフォスキアは、首を傾げながら後を追う。


――――――


その頃。

リージアが居る場所とは別のラボにて。

モミザは、リージア用の武器の手入れを続けていた。

愛用のハルバードは勿論、バルバトスが使っていた太刀や、軍用の一般的なナイフ。

これからリージアが使う刃物と言う刃物を研磨し、万全のコンディションを引き出す。


「……よし」


鍛冶職人のような姿をするモミザは、研ぎ上げたハルバードの刃のチェックを終えた。

大戦時から使い続けて来たと言うのに、風化や劣化は見られない。

モミザ達を作った人物達がごく少量のみ精製した特殊合金のおかげで、こうして手入れするだけで半世紀以上その性能を維持し続けている。

リージアですら再現不可能な特殊素材なので、壊れたらもう二度と作れない。


「後は」


ハルバードを置いたモミザは、今度はバルバトスの太刀を手に取る。

柄の部分は取り外され、完全にむき身の状態の太刀。

ハルバード等とは異なる素材でできており、モミザの知る素材でできてない。

しかし、今日に至るまでの戦いで大分傷んでいる。


「リージアが言うには、普通にメンテナンスしても大丈夫って事だが……」


リージアのアドバイス通り、モミザは普通の作業工程で手入れを開始。

それと同時に、不機嫌そうな表情を浮かべだす。

何しろ、その情報はフォスキアとの研究の末に分かった事だという。

彼女の知識は確かに有益な結果をもたらしているが、同時にモミザへと嫌悪感をもたらしている。

研究が進むにつれて、二人の仲はどんどん縮まっている、気がしている。

そう考えると、なんともやるせない気持ちとなってしまう。


「……いや、俺がいい仕事すれば、アイツだってちょっとは」


姉妹と言う大きなハンデを持っているが、それさえ覆す程の仕事をすればいい。

そう結論づけたモミザは、自分の出せる最大のスキルを発動しながら仕事に打ち込む。

例えナイフのような細かい武器であっても、一切の手を抜くつもりはない。

もちろん、初めて手入れを始めるこの太刀であっても。


「絶対に俺の方に振り向かせてやる」


リージアが喜ぶ姿を思い浮かべながら、モミザは作業に没頭。

更に大きな金属音が部屋中に響きわたり、火花が花火のようにちりばめられる。


――――――


モミザが作業に没頭している頃。

リージアとフォスキアの二人は、展望室へと足を踏み入れていた。

本来は宇宙の空を見る為の部屋なのだが、今見えるのは辺り一面青い大海。

魚が見えるような環境ではないが、晴天が幸いして素晴らしい景色が広がっている。


「へ~、こんな部屋が有ったのね」

「まぁね、ここに居た時の娯楽何て、こうして景色眺める位だったし」


厳密には映像として映し出されているだけだが、外の景色である事に変わりは無い。

おかげで太陽に焼かれるような事は無いが、リージアとしては物足りない感じがする。

やはり甲板に出て寝転がり、直接見た方が心地よい。


「でも、ゼフィランサス達はボール遊びしてたわよ?」

「そ、本当にそれ位しかないの、後は任務任務、とにかく物としてしか扱ってくれなかったの」

「……えっと、貴女を作った人が?」


フォスキアの疑問に、リージアは首を横に振った。

リージア達が元居た艦は、確かに彼女達の開発者が基礎設計を担当している。

だが、開発者たちに与えられた権限は、基本的にリージア達への武器の開発のみ。

物資の搬入と管理は別の者が行っていたので、娯楽に使えるのはボール位しか無かった。

今のようにオタクじみた事ができるようになったのは、現在の基地に配属されてからだ。

ファンタジーな物への興味や、エルフが好きになったのはその反動とも言える。


「基本的に私達を管理しているのは、軍か政府の連中だからね、本当に退屈だったけど、何とか皆で楽しみを模索して来たの」

「た、たとえば?」

「うーん、余った弾薬無くなる位撃ちまくって、廃材壊しまくるとか?」

「なにそれ野蛮」

「いや~、本当にそう言う事する事でしか無かったからね、まぁ、その後メッチャ怒られたけど」

「勝手に軍の備品使ったんなら当然じゃない」

「そだね」


リージアが示したのは、彼女の中で一番ストレスを発散できた娯楽。

たまたま弾薬がかなりの量余ったので、演習を名目に廃材に向けてぶっ放した、という物。

その後で嘘がバレ、リージア達はかなり怒られた。


「……さて、次はどこにしよう、本当にここ何も無いから、後は射撃場位しかないね」

「……」


そろそろ景色はもう良いかと思い、リージアは次に何処へ行くかの検討を開始。

しかし、フォスキアの話ぶりからして、運動場は既にフォスキアは見ている。

できればこのまま二人で過ごしたいので、人が多そうな場所は避けたい。

次に見せられる場所と言えば、射撃場位しかない。


「なら、そこに行きましょうか」

「え?いいの?デートスポットとしても最悪だけど」

「いいのよ、それに、その銃って言うの、撃ってみたいし」

「そ、そう言う事なら」

「じゃぁ決まりね、案内してちょうだい」

「う、うん」


少しウキウキした様子で、フォスキアは展望室を出ていく。

そんな彼女の背中を見ながら、リージアは少し硬直してしまう。


「射撃場でデートって、どんなカオスなラブコメ?」


小声でそう言いながら、リージアも射撃場へと移動を始める。


――――――


移動開始から数分後。

一度弾薬庫へと訪れ、武器弾薬等を回収してようやく射撃場に到着した。

かなり遠回りになってしまったが、弾と銃が無ければ、ただ無機質な空間で過ごす事に成る。


「ここが射撃場ね」

「そ、まぁやる前に、幾らか準備有るから」

「え?」


物珍しい空間に少し興奮するフォスキアの後ろで、リージアは装備をチェックしていた。

目や耳を保護する為の装備類を念のため二セット用意しており、その内の一つを自分へ、もう一つをフォスキアへ取り付けていく。


「えっと……よし、これでばっちり」

「こう言うの必要なの?」

「耳が聞こえなくなるよ」

「わ、わかったわ」


リージアの忠告を聞き入れたフォスキアは、大人しく装備を付ける。

しっかりと取り付けた事を確認すると、リージアは自分の銃を取りだす。

持って来た政府仕様の銃弾を装填し、的を起動させる。


「先ずは私がやるから、見てて」

「わかったわ」


何時もは恰好を付けて撃つが、今回は教科書通りの律儀な構えを取る。

初心者のフォスキアの事を考え、グリップは両手でしっかりと握り込み、姿勢もしっかりとする。

その上で狙いをつけ、射撃を開始。


「ッ」


三発の銃声が鳴り響き、フォスキアは瞬時にヘッドフォンを抑えた。

ダンジョン内とは異なり、今回は音を減らす為の装備を付けていない。

と言うより、リージアが愛用するリボルバーは、構造上サイレンサーを付けても意味がない。

大雑把に言うと、弾を入れる部分と銃身が僅かに離れているので、そこからも音が漏れてしまう。

なので、今回はかなり響いた。


「まず最低限、戦い以外で人に向けない、引き金に指をかけたままにしない、慣れない内はしっかり構える、銃口を除かない、顔を近づけすぎない、これは守ってね」

「え、ええ」

「なら、はい」


銃は競技でも使われる事は有るが、武器である事に変わりは無い。

リージアも一介の軍人として、初心者の銃の扱いには厳しい。

戦いの時のように真剣なリージアを前にしたフォスキアは、渡された銃をしっかり握り込む。


「……意外と重いのね」


感想を呟きながら、フォスキアはリージアの見様見真似で構える。

後ろに立ったリージアは、彼女のスタンスを観察。

安全な射撃を行わせるために、注意を怠らない。


「こうしてしっかり握って、もう少し肩の力抜いて、足は肩幅くらいに」

「え、ええ」


基本的な構え方を教える為に、リージアはフォスキアへ僅かに密着。

少し恥ずかしがりながらも、構えを作る。


「そう、そのままここをこうすれば、何時でも撃てるよ」

「……」


レクチャーを終えたリージアは、フォスキアから離れる。

初めての射撃の興奮と緊張で踊る心を静めながら、フォスキアは引き金を引く。


「イ!」

「ふふ」


思ったより強い反動が襲い掛かり、フォスキアの肘は少し高く上がる。

銃声が響き、銃口からは硝煙が上がる。

嗅ぎ慣れない臭いがフォスキアの鼻に入り込み、初の発砲で少し気分が高揚する。

そんなフォスキアを見て、リージアは思わず笑みをこぼしてしまった。


「驚いたわ、意外と反動有るのね」

「まぁね」


驚くフォスキアを他所に、リージアは近くに有ったスイッチを押す。

その動作と共に、使用していた的は二人の目前まで迫る。

簡単に人の形を模した的、その頭に一発と、胴体に二発。

計三発の銃弾の後があるが、一発分足りない。


「あら?外れた?」

「あはは、初めてなんだから当然だよ、今度はちゃんと教えてあげるから」

「え、ええ、ありがとう」

「先ず、弾の装填と排莢だけど……」


見た事無い位ウキウキとした表情で、リージアはフォスキアに銃の扱いをレクチャーする。

構えだけでなく、正しい引き金の引き方や、銃の装填方法等。

楽しそうに教えるリージアを見ながら、フォスキアは真剣に話を聞く。


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