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別れと出航 後編

 翌日。

 日の出に照らされるタラッサの町に、洪水のような音が響き渡った。


「な、何だ!?」

「海からだぞ!」


 ギルドの一階で酔いつぶれていた傭兵の一部は、水の音に反応して飛び上がった。

 飛び上がった面々の中にはヴォルフもおり、いの一番に窓へと手をかける。

 鎧戸をこじ開けると、何時も勢いよく差し込んでいた朝日は無かった。

 代わり、ずっと海に陣取っていた巨大艦が映り込む。


「ふ、船だ、アイツ等」


 リージア達が奪取した超大型艦は、その雄姿を見せつけながら浮遊。

 再び海から上昇した事により、大量の海水が滝のように流れ落ちていく。

 先程の音は、それが響きわたった音の正体だった。

 三百メートル近い巨船が浮き上がる様子は、改めて見ると圧巻だった。


「……もう発つとはな」


 窓から手を離したヴォルフは、少し物悲しい表情を浮かべた。

 この日に出発するという事は聞いていたのだが、まさかこんな早朝に行くとは思わなかった。

 せめて見送りの一つもしたかったが、どうやら彼女達のリーダーは馴れ合いが相当嫌いらしい。

 よく見れば、途中から参加して酔いつぶれたフォスキアの姿も無い。


「もう行ってしまわれたのですか?」

「ああ」

「……少し、寂しいですな」

「なんだかんだ、途中から混ざって楽しんでいたものな」


 最初の祝宴以来、傭兵達は毎日飲んで騒いでいた。

 初日こそ遠慮がちだったアンドロイド達だったが、次第に打ち解けて一緒に楽しむようになった。

 いずれもリージアだけは参加していなかったが、他のメンツは中々楽しんでいた。

 飲む事は出来なくても、様々な余興を行う事で場を盛り上げていたのだ。

 フォスキアが全勝した投げナイフによる的当て。

 アンドロイド対人間による腕相撲大会。

 飲めなくても、思いつく限りの方法で場を盛り上げてくれた。


「だが、結局当てっこだけは、誰も全問正解はなしえなかったな」

「ええ、体格の違いが有るとはいえ、髪型まで崩されると、もう誰がだれだか」


 ケタケタと笑みをこぼすヴォルフの発言に、シロウは首を縦に振った。

 五人程選ばれたアンドロイド達の容姿を何時もと違う物にして、誰なのかを当てるクイズ。

 それが地味に盛り上がったのだが、結局フォスキアを含めて誰も正解できなかった。


「……結局、何だったんだろうな、アイツらは」

「まさか、異界の連中だった、何て事はないでしょうね」

「案外正解かもな」


 適当な所で軽口を切り上げた二人は、早速雑魚寝状態の傭兵達を蹴り起こしていく、

 既に別の町から応援が来る事に成っているので、いい加減作業を進めたかった。

 彼女達の事は秘密にする、という事に成っているが、どこまで守れるか解らない不安も抱きながら。


 ――――――


 その頃。

 出航を確認したリージアは、モミザと共にフォスキアの居る部屋へ足を進めていた。

 艦橋から出るなり、またかぶっていた艦長風の帽子をクルクルと回す。


「良かったのか?あいつ等、一応見送る気満々だったぜ」

「彼らには悪いけどね、私そう言う見送りとか苦手なのよ」

「見送りがって言うか、ありがとう、とか言われんのが嫌なんだろ?」

「まぁね~」


 軽口を叩いていると、フォスキアを寝かせている部屋に到着。

 部屋に入る前に、モミザは少し嫌そうな表情を浮かべた。

 間取等に多少の差異はあるが、この艦の内部は以前の物に酷似している。

 今目の前に有る部屋も、リージア達が使用していた物にも同じ場所に同じ部屋が有った。


「……姉貴の部屋か」

「そ」

「許し過ぎじゃないか?お前にしては」

「……」


 フォスキアを寝かせている部屋は、元はリージア達の長女が使用していた物。

 リージアにとっては、神殿や祭壇とも言える程神聖な場所と形容できる。

 他にも部屋ならいくらでも有るというのにここに寝かせたという事は、相当信頼しているという事に成る。

 その事をモミザに諭されたリージアは、少し硬直する。


「何で、だろうね、何かここじゃないといけない気がした」

「はぁ?」


 リージアの返答に首を傾げたモミザだったが、そんな彼女の事を置いてリージアは入室。

 少し置いてきぼり感を覚えたが、モミザも続いて入る。


「(ま、付いて来て良かったって事で)」


 因みに、別にモミザはここに用は無い。

 単純な付き添いと、リージアとフォスキアがいい感じの仲になるのを防ぐためだ。


「フォスキア、お目覚めはいかが?」


 前の船と異なり、リージアの目にはワンルーム程の広さの部屋が広がる。

 簡易的な椅子と机も置かれており、なんとも寝心地の良さそうなベッドまでもが用意されている。

 質素ながらも清潔な部屋で、フォスキアはベッドの上に座りながらスキットルを傾けていた。


「……ぷは、ちょっと悪いわね、目が覚めたら知らない天井が広がってて、中々上等なベッドが下に有ったけど、光景が変わり過ぎて状況を呑み込むのが大変だったわ」

「あはは、それはゴメンね、酔いつぶれてた所運ばせたから」


 実は酔いつぶれていた所を荷物ごと連行したので、フォスキアは何も知らずにここに送られていた。

 おかげで目覚めたてはかなり困惑したが、ヴァーベナが介護の為に訪問していたのですぐに分かった。


「でも今回の部屋は中々良いわね、前は洞穴みたいに狭かったのに」

「元々私達姉妹だけで使ってた奴だからね、その分広い部屋を作ってたの」

「成程ね~」


 椅子をフォスキアの前に引きずったリージアは、背もたれを前にして座る。

 モミザは二人の事を視界に収められるように、出入り口の近くに立ったままもたれかかった。


「さて、今回のお仕事は?」

「あはは、話が早くて助かるよ」

「……」


 ほほ笑むフォスキアを前に、リージアは今回の仕事内容を打ち明ける。


「これから人体錬成実験するから、貴女にはその手伝いを依頼するね」

「ええ、任せなさい」


 親指を立てたリージアに合わせ、フォスキアはスキットルを突き出した。

 拳とスキットルが当たり、コツンと軽い金属音が響く。

 その音と共に、フォスキアは徐々に冷静さを取り戻す。

 頭の中で響きわたる、人体錬成、等と言う物騒な言葉。


「じゃないわよ!」

「あら」


 その意味を理解したフォスキアは、顔を青ざめながらリージアの手を叩いた。

 この世界でも、錬金術の類は存在する。

 ゴーレムのような物は合法だが、ホムンクルスのように人工的に人間を生成する行為はまともな国であれば許容していない。


「なにヤバい事口走ってるのよ!思いっきり違法じゃない!その前に倫理的にアウトよ!!」

「あ~、やっぱここでもタブーだったのね」

「やっぱ、て何!?てか、ここでもって事はアンタの世界でもアウトなのよね!?」

「そだね」


 リージアが思い浮かべるのは、有名な錬金術師の話。

 他にも錬金術を取り扱う作品では、人体錬成は悪である、と言う思想が有る。

 一応リージアの世界でもクローン技術の類が進んではいるが、やはり倫理的な思考から最近は違法とする活動が盛んだ。


「流石に私もそんな事には付き合えないわよ、ていうか、やり方知らないし」

「あ~、大丈夫、人体錬成って言うのはちょっとした比喩、作るのはあくまでも私の義体だよ」

「……義体って、貴女の身体の事?」

「そ」


 リージアの言葉に、フォスキアは安堵すればいいのかどうか分からなかった。

 何かしらの装備を作ると思っていたが、まさか身体の方を作るとは思わなかった。

 確かにゴーレムの作り方なら知っているし、金属製のゴーレムであればこの世界でも合法。

 しかし、リージアに使われている技術はどれもフォスキアにとってはオーバーテクノロジーだ。

 ゴーレムとも根本的に異なっていると思われるので、力になれるとはとても思えない。


「わ、悪いけど、私が貴女の身体を作る手伝いができるとは……」

「そ、確かに貴女じゃ無理だろうね、でも魔法陣の構築はできる」

「ええ、私が手を貸せるとしたら、精々マジックアイテムを作る事位ね」


 フォスキアには義体の配線を弄る事は勿論、金属の加工やプログラミングの知識なんて物は無い。

 リージアもそれは重々承知しており、助手を行う事は不可能に等しい。

 しかしリージアは笑みを崩しておらず、フォスキアの手を優しく取る。


「ちょ、ちょっと」

「貴女の頭には、魔法陣を構築する為の知識が有る、私が欲しいのはそれ、後は」

「後?」


 包み込むようにフォスキアの手を握るリージアは、妖艶な笑みを浮かべた。

 また珍しい表情を見たフォスキアの心臓は、緊張から大きく動き出す。

 そんなフォスキアを知ってか知らずか、リージアは右手で自分の胸へとフォスキアの手を押し付けた。


「あっ」

「ちょ、り、リージア!?」


 人間の女性らしい柔らかさはないが、好意の有る女性の胸に触れるというのは緊張してしまう。

 彼女のこの行動には、モミザも反応してしまった。


「……人間の胸には魂が有る、スピリチュアルに言えばそうなるけど、本当はどうなんだろうね?この鼓動の無い胸にも、魂は宿っているのかな?」

「え、あ、いや……」


 小悪魔的な笑みを浮かべるリージアは、フォスキアへと徐々に顔を近づけていく。

 傍から見たら、今にもキスしそうな雰囲気だ。

 そんなリージアを前にして、フォスキアの顔はどんどん真っ赤に染まる。


「もしそんな物が有ったら、貴女と」

「え」


 左手をフォスキアのホホへと乗せたリージアは、優しく唇を向ける。

 思わず目を瞑ったフォスキアは、自分の唇に意識を集中させだす。


「フ~」

「ヒャイン!」


 しかし、襲ってきたのはリージアの吐息。

 それも耳にかけられた事で変な声が出てしまい、鳥肌も勢いよく逆立ってしまう。


「何てね、この前私のあられもない姿を見たお返し」

「……」


 ささやきと共に種明かしをされたフォスキアは、目玉焼きでも焼けそうな程に顔を真っ赤に染め上げる。

 耳の先まで熱がこもり、心なしか煙が出ている気がする。

 恥かしさと怒りがこみあげて来るが、それらを紛らわすためにスキットルを傾ける。


「あはは、からかってゴメン」

「プハ、うっさい(本当にするかと思ったじゃない)」

「あはは~、まぁそれは置いておいて、早速ラボに……行こうか」


 顔を真っ赤にするフォスキアを可愛く思うリージアだったが、視界の傍らに映ったモミザは全力で見ない事にした。

 何しろ、今のモミザは目から血の涙を流し、瞳孔も可能な限り小さくなっている。

 もう殴る殴らない以前の感情らしく、リージアを殺して自分も死ぬ、とでも言いそうな雰囲気だった。


「ええ……それより、モミザは大丈夫なの?」

「……はぁ」


 フォスキアも少し怯えてしまっており、リージアはため息交じりモミザの方へ行く。

 本当にキスでもしていたら、この部屋は血で染まっていたかもしれない。

 そんな殺気を何時までもまき散らされていたら、たまった物ではない。


「モミザ、ちょっとした悪ふざけだよ、機嫌治して」


 そう言いながら、リージアはモミザのホホに軽く口づけをした。

 おかげで、モミザの表情は幾らか和らぐ。


「……【やっぱりお前、アイツの事好きなんだろ】」

「ん?」

「……はぁ」


 ホホを膨らませたモミザは、母語を使って気になっていた事を訊ねた。

 何を言っているか解らないフォスキアは置いておき、リージアも母語を使う。

 少し酷い事を言うので、これはこれで丁度いい。


「【あのね、彼女との関係は精々友人まで、それ以降の感情は抱かないよ】」

「【本当か?お前心なしか前より目がキラキラしてんぞ】」

「【そりゃ推しとこんなに触れ合えてるんだから、嬉しくて当然だよ、でも、推しは推しってだけ、恋愛感情とは違うよ】」

「【本当にそうなのか?】」

「【ほんとほんと、エルフでも人間って事に変わりないみたいだし、その時点で抵抗生まれるもん】」


 モミザが言う通り、最近のリージアは何時もの明るさとは少し違った。

 フォスキアと関りが深くなってから、一層何時もと違う明るさを放ちつつある。

 確かに一番の推し属性であるエルフと触れ合えるというのも有るが、モミザにはリージアから別の物を感じていた。

 もしかしたら、リージア自身が自覚していない、という最悪な状態さえ考えてしまう。

 今は確認のしようも無いので、悩んだ末にこの件は引っ込める事にした。


「チ、わかった、けど、次やったらマジで殴る」

「(あ、こっちの言葉に戻った)」

「この前マジで殴られたばかりなんだけど」

「じゃ、それ以上で」

「止めて」


 またアゴが全壊する以上の損傷を被るのは嫌なので、リージアは今後自粛する事にした。

 その後すぐに笑みを取り戻したリージアは、フォスキアを手招きしながら部屋を出た。

 リージアの後を追うように歩くフォスキアは、扉の前で立ち止まる。


「……アンタ、そう言うの本当に嫌われるわよ」

「不誠実を修正するだけだ」

「だからって殴る事無いでしょ、あの子甘えん坊ちゃんみたいだし……先に行ってるわよ」

「チ……」


 そう言ったフォスキアは、部屋から出る。

 舌打ちをしたモミザは壁から背中を離し、二人の後を追う。

 既に追いついていたフォスキアは、リージアと通路を進みながら話をしていた。

 大方、リージアが作ろうとしている義体だろう。


「(あいつの言う義体、やっぱりあれを作る気か)」


 目を鋭くしたモミザは、リージアの思惑を察した。

 大戦前から彼女に与えられていた、別の任務を続けるつもりだ。

 素材はともかく、技術と知識が足りずに断念していた物。

 その話をしているのだろうと考えながら、モミザは少し聞き耳を立てる。


「先ず、材料は水が三十五リットルと、炭素がニ十キロ、それからアンモニアを」

「フン!!」

「ヨォォン!!」


 普通に禁忌を犯しそうなリージアの発言に、モミザは後頭部を殴り飛ばした。

 変な悲鳴と共に、リージアは通路を吹き飛んでいく。


「マジの人体錬成する奴があるか、たく」

「何か急に材料の話始めたと思ったけど、何の材料だったの?」

「……俺らの世界の、錬金術師が主人公の話に出て来る人体錬成の材料」

「あはは~、何かモミザが近寄って来たからふざけてみました」

「何でそんな事」

「最近シリアス続きでマトモにボケられてなかったから」


 モミザが説明を終えると共に、後頭部を抑えたリージアが戻って来る。

 実はフォスキアとは適当に世間話をしていただけで、材料の話はモミザの気配を感じたから始めただけ。

 と言うのも、ほとんどふざけられていなかったので、ガス抜きをしたかったのだ。


「さぁ、行こ行こ、今回はフライト時間に制限がないとは言え、限度は有るからね」

「……」

「……」


 鼻歌交じりに意気揚々とラボへ向かうリージアに置いて行かれた二人は、互いに顔を合わせる。

 確かに最近のリージアは、真剣過ぎて違和感は有った。

 だが切り替えが急ハンドル過ぎて、二人はあまりついて行けなかった。


「アイツって、何時もあんな感じ?切り替えが早いっていうか」

「ちゃんと仕事に取り組む時だけは、私事は置いておくタイプなんだよ」

「いやしっかり分けなさいよ」

「そう言う奴なんだ、仲間か家族の命を守る以外は不真面目なんだよ」

「何よそれ」

「知らん」


 適当に話を切り上げたモミザは、リージアの事を追いかけていく。

 ため息をついたフォスキアも、その後に続く。



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