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星空の恋心 後編

 ゼフィランサス達がギルドの面々と合流した頃。

 月明かりと満天の星空に照らされる海に浮かぶ艦船、その甲板の上にて。

 モミザは甲板へと上がり、いつの間にか姿を消したリージアの事を探していた。

 彼女もさりげなく出席を断っており、リージアとこの艦で過ごす事を選んだ。


「(アイツの事だ、多分この辺に……)」


 汚れていない澄んだ空気のおかげで、まるで宇宙を見ている気分になる綺麗な星が見える夜。

 かつての艦と同型の船に居るというのであれば、リージアの行く場所は見当がつく。

 そして案の定、リージアは寝転がりながら空を眺めていた。


「……まさか、またこんな景色が見える何て」


 笑みをこぼしたリージアは、思わずそんな事を呟いていた。

 わざわざ艦の修復作業をサボってきただけあって、身体を大の字にして眺めている。

 以前も一人になりたいときや、落ち込んだ時はここから星を眺めていた。

 宇宙とは異なり、落ち着きの無い波たちが潮風と共に水の音を運んで来る。

 そこを除けば寝心地も以前と変わっておらず、安らかな気分になる。


「(たく、昔と変わってないな)」

「(フォスキアのおかげでトラウマが和らいだし、ここで過ごすのも悪くないな)」


 最初にこの艦を見て、中に入った時にはそれだけで気分を害していた。

 だが、フォスキアと抱き合い、彼女の温もりを感じた事でそれらは緩和された。

 まだ少し気分が悪くなる事は有るが、傭兵達に持ち上げられてバカ騒ぎするよりはマシだった。

 別物とは言え、この艦は家族と一緒に過ごした思い出を想起できる。

 今はこうしてのんびりするのも、悪くは無かった。


「……で?私は良いとして、なんでモミザまで居るの?」

「悪いか?俺もああいう空気が嫌なんだよ」


 足音でモミザの存在に気付いたリージアは、転がりながら足と手を組む。

 リージアの横に腰掛けたモミザも、改めて一緒に星を眺め始める。

 綺麗な月と星が昇る夜空が広がる海上で、折角二人きりになる。

 そんなロマンチックな状況作り出せた事で、内心喜んでいた。


「でも、来るとき一人だったのに、よく見つけられたね」

「アホ、この艦の中でお前が来るとしたら、ここくらいしかないだろ、てか、何時も一緒だったし」

「あはは、そう言えばそうだったね」


 モミザも大戦時からリージアとこの艦で過ごしていた仲。

 当時から想いを寄せていた身としては、リージアが何処で何をするか位わかった。

 起き上がったリージアは、今度は胡坐をかきながら空を見上げる。


「……綺麗な空だよ、私達の世界から見ていたのと、まるで違う」

「そりゃ、見る位置が違うからな」

「そうだけど、印象の方も大事だよ、大気汚染も無いし、明かりも少ないから余計によく見える、宇宙に居るのと同じ気分だよ」


 手を伸ばしたリージアは、夜空の美しさに改めて見惚れだす。

 空の星よりもリージアを見るモミザは、過去の記憶を掘り起こしていた。

 ここからの眺めを楽しむときは、大体何時も長女や他の姉妹も居た。

 メンバーは何時も違ったが、リージアとモミザの二人は何時も一緒だった。


「(いや、ここだけじゃない、戦場でもどこでも、コイツとは一緒だった……)」

「さぁ~いぃた~、さぁ~いぃた~、チューリップぅの、はぁなぁが~」


 何時もの鼻歌を歌い出したリージアを見ながら、モミザは目覚めたばかり頃を思い出す。

 リージアよりも早く目覚めたので、彼女が目覚めた頃には意識がはっきりしていた。

 その縁も有って教育係のような事もしていたので、彼女とは他の姉妹よりも付き合いが長い。

 だからこそ、戦場でも私生活でもリージアと一緒だった。


「(それでもコイツは、俺なんかよりずっと優秀だった、前線で切り込む事しかできない俺より)」


 そもそもの役目の違いも有ったが、リージアは先に目覚めたモミザより優秀だった。

 近接戦闘による切り込みばかりだった自分と異なり、リージアは指揮能力を発揮していた。

 指揮統括は長女の役目だったので、リージアが作られたのはその代役と言う意味合いもある。

 何度か反発する事が有っても、最終的にはリージアのおかげで助かった事も多い。

 そう言った経緯を経て、こうして想いを馳せる事に成った。


「(けど、ここに来てから)」

「……正直、フォスキアをこれ以上連れていくのは、悩みどころだったんだよね」

「何だよ、急に、てか、そう思うならここで下ろせよ」


 物思いにふけっていると、リージアは本音を呟いた。

 艦内に有ったデータを洗い、知りたかった情報は入手できた。

 その結果、フォスキアを置いて行った方がいいのでは無いのかと言う考えに至っている。

 しかし、まだ置いて行く訳にはいかなかった。


「新型の義体を作るには、彼女の持つ魔法陣の理論が必要になるからね、まだ置いて行く訳にはいかないよ」

「新型ね、何かオモチャでも有ったのか?」

「まぁね、医療用の生体プリンターがあったから、それを使えばあの悪魔の血肉を使った義体が作れるよ」

「またとんでもない物作ろうとしてんな」

「元々これが私の役割だったからね、最近すっかり忘れてたけど」

「(……俺も)」


 指揮官代理と言うのは、あくまでもオマケ。

 リージアの持つ本来の役割を達成するには、フォスキアの力が必要だった。

 最近は忘れていたが、ここに来てようやくその役割を果たす事ができる。


「それで、何でアイツを連れて行く事悩んでんだ?」

「艦内に例の微生物に関するデータが有ったの、私のと照らし合わせた結果、色々と分かった」

「例えば?」

「アイツらは元々の身体に有った微生物よりも多数派になると、宿主の魔石を改ざんして、自分の物にする事が分かったの」

「おい、それってつまり」

「そ、出血何かを通して、フォスキアの中にナノマシンが入り込みすぎると、彼女もアイツらの仲間入り」

「なんだそりゃ」


 フォスキアが宇宙艇の中に有るラボで心配していた通り、下手をすれば魔物達の仲間入りをしてしまう可能性はおおいに有る。

 彼女が望まずに機械化するなんて事は、できれば避けたい。

 自分たちのせいで彼女の人生の可能性を奪うのだけは、リージアの信念が許さなかった。


「正直、あの子が望むんなら、サイボーグ化手術自体はできるんだけどね」

「……アイツが言ったのか?」

「そ『もし私がアイツらのような存在になるって言ったら、貴女は、どう思う?』だってさ」


 当時の音声をそのまま再生したリージアを前にして、モミザはため息をついた。

 フォスキアが相当リージアに惚れこんでしまっている事にもショックだが、それ以前にリージアがどう断ったか考えた。


「お前の事だ、どうせ、それがお前が決断した事じゃないんならお断りだ、みたいな事言ったんだろ?」

「何その下手な声マネ」

「どうなんだ?」

「……言ったよ、文脈が違うけどね」


 一応リージアはサイボーグ化に全面的に反対している訳ではなく、よく考えた末の発言でない事を注意しただけ。

 本当にフォスキアが自分で考えた末に、サイボーグ化を望むのならば止めはしない。

 むしろ好意的に受け止め、協力するつもりではある。

 なので、モミザの荒っぽくも少し異なった文と、下手な声マネには頭を抱えた。


「だが、お前は人間にそう言う憧れが有るんだろ?感情的でも、自分の意思でも、道を決められる自由に」

「そ……そこだけは本当に羨ましい、どんなに感情を得ても、私達は自分の道は選べないから」

「得すぎた結果、最初の町での醜態だけどな」

「う……」

「自分が気持ちよくなるためとは言え、かなり恥ずかしかったぜ」


 モミザの発言に、リージアは顔を真っ赤に染め上げた。

 流石のリージアにとっても、あの人違いは本当に恥ずかしい出来事だった。

 それを掘り返された事も有って、思わず感情を表へ出してしまう。


「うるさいな!もう!モミザだってあの時は止めなかったじゃん!」

「チ、確かに俺も勘違いはしたが、先走って突っ込んだお前と同じにされたくないんだが」

「勘違いしてる時点で同じだよ!」

「わかったわかった、落ち着け」


 モミザに宥められ、リージアは腑に落ちない表情を浮かべながら落ち着きを取り戻していく。

 赤くなっていた顔は徐々に収まって行くが、表情だけは変わらない。

 明らかに話を逸らそうとしているので、少し目がきつくなってしまう。


「……で?正直な所、エルフィリアの事はどう思ってるんだ?」

「……話の舵きり過ぎでしょ」

「そう言うな、重要な事だ」


 最近リージアとフォスキアの仲が縮まりつつある事を懸念するモミザにとっては、かなり重要な話題だった。

 なので、前の話なんて全部無視してでもこの話へ持っていきたかった。

 そこまで問題視していないリージアにとっては、緩急が凄すぎてついて行きづらい。


「そうだね、ま、情報源としては本当に役立ってるよ、戦力としても申し分ないし、これからも利用価値はあるよ、」

「……それだけじゃないだろ、お前、アイツへの好感度みたいなのが上がってるだろ?」

「……」


 リージアはすぐに回答できなかった。

 彼女が嫌悪しているのは、政治家や傲慢さが如実な人間。

 フォスキアは嫌いではないが、人間というだけで抵抗は生まれる。

 なので高感度が上がっている事を自覚できても、認める事ができない。

 その事をある程度表情で読み取ったモミザは、徐々に身体を密着させだす。


「何でそこまで入れ込む?あれだけ人間を嫌うようになったってのに」

「あの子は違うから」

「……何がだ?」

「あの子は今まで合って来た傲慢な人間共と違う、存在を否定されてしまう痛みがわかるからこそ、私達に多少の親近感を覚えてる、本人が自覚しているか解らないけど、あの子が抱いているのは、その同情からくる感情だろうね」

「何でそんな事」


 何故そんな事がわかるのか、そう問いただすと、リージアは自分の頭を指で何度か小突く。

 その仕草をみて、モミザは察した。


「何故だ?その機能は」

「そ、今は封印されてる、でも、あの子に密着したりすると僅かに反応を見せるんだよ、表層的な部分しか分からないけど、彼女は確かに私達を憂いてた」

「……ッ」

「うへ?」


 僅かに嬉しそうなリージアを見て、モミザは拳を握り締めた。

 このままでは、リージアが更に遠くに行ってしまう。

 そんな不安が込みあがり、気づけばリージアの事を押し倒していた。


「……」

「あ、えっと、モミ、ザ?」

「俺じゃ、ダメなのか?(俺の場所だ、この子の隣は)」


 喉にひっかかった魚の骨のように、ずっとモミザの心に刺さっていた。

 フォスキアから、長女を感じ取った。

 その言葉を聞いてからリージアをよく見ていると、少し彼女を蝕んでいた毒が抜けているように思えた。

 自分がどんなに努力しても成しえなかった事を、全くの部外者が成し遂げたのだ。


「俺だって、お前の姉なんだぞ、そ、そりゃ、姉貴みたいに、気の利いた事もできないし、優しく接する事だってできないが、俺だって、お前の……(隣に居させてくれ)」

「……」


 ポタポタと落ちる涙を浴びながら、リージアは目を細めた。

 モミザと長女の性格は、まるで正反対と言える。

 他の姉妹の誰よりも長女の事を慕っていたリージアは、一番姉を喪失した事実に打ちひしがれていた。

 その時からだった、リージアが人間を嫌い、憎むようになったのは。

 だからこそ、暴走を抑えるには長女の代わりとなる者が必要になる。


「だから、俺だって、アイツの代わり位、ん」

「……同じ人間は一人としていない、他人が他人になり替わる事なんてどうやろうと無理、それがマスター達の開発理念だったでしょ?」


 言葉を続けるモミザの口に、リージアは人差し指を当てた。

 その上で自分たちを作った人物が、アンドロイドを造る際に掲げていた理念を口にした。

 人間とアンドロイドを同列に見ていた彼女達は、あえてバックアップが不可能なプログラムをくみ上げた。

 その代わりに感情をもたらしたのが、ガーデンコードだった。


「(……違う、俺はあいつになりたい訳じゃない、お前を隣で支えたいんだ)」

「貴女がどんなにお姉ちゃんのマネをしても、お姉ちゃんには成れない、フォスキアだって、そんな気分になるってだけで、お姉ちゃんじゃないでしょ」

「そうじゃない、そうじゃないんだ」


 淡白に返されたモミザは、起こしたリージアの事を抱きしめる。

 フォスキア程の抱き心地は無いだろうが、できる限り精一杯抱擁した。

 自分が長女のようには成れないなんて事は、モミザも十分わかる。

 長女であるかのように、もっと頼って欲しい。

 自分だけで背負いこまず、その苦しさを共有してほしいのだ。


「もっと俺を頼れ、俺は何時だって、お前のそばにいるんだから」


 涙を流しながら自分の胸にリージアの事を埋めながら、モミザは頭をなでる。

 本当は艦への突入だって、自分が行くつもりだった。

 自分がリージアを支えなければいけないのに、最近はフォスキアにその部分を取られつつある。

 それがどうにも腑に落ちなかった。


「(傍にいる、か、それは嬉しいけど……)」


 頭に落ちる涙で、リージアは何となくモミザの心中をある程度察した。

 表情がモミザの視界に映って居ないのを良い事に、リージアは目から光を失わせる。

 嬉しくても、やはり艦内での考えを変える気は無い。

 数少ない肉親であるモミザには、今後も生きて欲しい。


「(アアア!言っちまった!ハズイ、めっちゃハズイ!!)」

「(てか、さっきから何か強いんだけど)」


 自分で言っておきながら、モミザはさっきの発言を物凄く恥ずかしがっていた。

 感情的に思わず口走ってしまったが、少しだけ冷静さを取り戻したせいで羞恥が勝ってしまう。

 その恥ずかしさを隠すかのように、思わず抱きしめる力を強くしてしまっている。


「……モミザ」

「ッ、な、なんだ?」


 名前を呼ばれた事で、モミザは少しリージアを抱く力を弱めた。

 苦しさから少し解放されたリージアは、モミザの顔を視界に収める。

 改めて見るモミザの顔は、泣いていた事と恥ずかしさですっかり赤くなっていた。

 可愛くて新鮮な気分になるが、やっぱり何時もの顔付きの悪いモミザが恋しい。


「やっぱ、フォスキアの方が抱き心地良かったよ、良い匂いもしたし、色々柔らかかったし」

「……」


 等と失礼な発言をした事で、モミザの顔の赤さは別の意味になって行く。

 額にも青筋が浮かび、嫉妬の炎らしき黒いモヤを空目してしまう。

 もう怒りを通り越して、憤怒と言えるような感情が吹き出している。

 涙すら浮かべながら、モミザは拳を硬く握りしめだす。


「この……」

「(ああ、やっぱ)」


 リージアの首根っこを掴んだモミザはゆっくりと立ち上がり、リージアをの事を片手で持ち上げた。

 完全に殴るフォームに入ったモミザを見て、リージアは笑みをこぼした。

 滅多に見る事の出来ない泣き顔も良かったが、やっぱりこういったモミザの方がいい。

 安らかな表情を浮かべながら、リージアはモミザの拳を受け入れる。


「変態女がァァァ!!」

「ズンビッパ!!」


 恐らく歴代で最強の拳が振るわれ、リージアは高く打ち上げられた。

 下アゴのパーツが完全に破損した事を伝えるアラートを聞きながら、リージアは一目で艦の全てを納められる程の高さにさしかかる。

 上昇が終わった事で久しぶりに無重力を感じながら、リージアは落下を終えるまでに空中からでしか見えない星空を眺める。


「(やっぱ、何時ものモミザの方がいいな)」


 感傷に浸りながら落下するリージアは、甲板に背中を打ち付けてしまう。

 くぼみを作りながら少しバウンドし、また仰向けとなる。

 その衝撃で下アゴ部分のパーツが外れ、感じない筈の痛みに襲われた。


「(でも、アゴ完全に外れるまでやらないでよね!!)」

「たく、リージアめ、もう知らね!」


 無事帰って来たリージアを見捨てたモミザは、勢いよく方向転換して戻っていく。

 顔を膨らませ、不機嫌そうに大きめの足音を立てながら。


「(なんだよ、どうせ俺は女っ気も色っ気もねぇよ!)」


 身体の全てが金属でできているだけに、身体はフォスキアどころかボディビルダーよりも硬い。

 最初から戦う為に作られたため、戦闘用の義体を持つ事はやむを得ない。

 今までも、特に不満を持つ事は無かった。

 しかし。


「(けど……せめて、俺もフォスキアみたいな体なら、少しは、振り向いてくれたのか?)」


 今はフォスキアのような体が、妙に羨ましく思えてしまった。


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