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プロトタイプ 後編

 戦闘終了の翌日。

 傭兵達の救助は終了し、行方不明者はゼロだった。

 しかし、十名以上の犠牲者が出てしまった。

 アンドロイド部隊の被害も少なくないが、修復すればまだ稼働できる。

 艦のシステムはレーニアとブライトが完全に支配してくれたので、艦内に有るラボにて修復作業が行われている。

 その艦の中に有るブリーフィングルームにて、リージアとモミザ、そして、ゼフィランサスが集まっていた。


「……やっぱり、撤退を考えてたんだね、ゼフィー」

「当然だ、お前は知らないと思うが、島にあるプラントを奪還する事は、先ず不可能だ」


 電灯さえ点けていない、薄暗い部屋の中。

 三人だけの秘密の話し合いと言える状況で、リージアとゼフィランサスはにらみ合う。

 互いの意見の相違による衝突は、アンドロイド同士であっても避けられる物ではない。


「そんな事、やってみないと解んないでしょ」

「いや、やらないでも解る、機械化された魔物達程度なら、我々はどうって事無かっただが、基地のメインサーバーを守護するアイツだけは、規格外だ」


 苦い表情のゼフィランサスが想起するのは、基地での戦い。

 そこでも機械化された魔物達を相手に、ふんだんに有ったE兵器を駆り戦っていた。

 十分な戦力のおかげで、ゼフィランサス達は圧倒していた。

 しかし、彼らを統括支配する最奥の存在こそが、彼女達の壊滅の原因を作ったのだ。


「……奴は」

「ガーデンコード搭載型E兵器、つまり、エーテルを動力や制御システムに使ったアンドロイド、でしょ?」

「……貴様、一体どこまで知っている?」


 完全に言い当てたリージアを前に、ゼフィランサスは睨みを利かせた。

 何となく解っていた事だったが、リージアは現状を把握しすぎている。

 と言うより、全てを知っているような気がする。


「正確には何も知らないよ、でも、政府のクズ共が何を考えているのか考えれば、色々と察しがつくだけ」

「……なら、上層部は何を考えて」

「究極の目的はいくらか予想できてるけど、直近の目的として確実なのは……」


 銃をクルクルと回し始めたリージアは、近くに有った長テーブルに腰掛ける。

 政府達がこれを考えているという、確かな確証が有る訳でもない。

 それでもゼフィランサス達の話を聞いて、確証を得られた事は有る。


「大戦時に活躍した、英雄たちのリバースエンジニアリング」

「……あの英雄たちを復活させようというのか?」

「そ、自分で用無しって言った奴を、自分で復活させようとしてんの」


 最後の方はドスの効いた声で答えたリージアは銃の回転を止め、ホルスターへと戻した。

 様子を見ていた二人は、少し息を飲んだ。

 今のリージアの目は、完全に怒りに飲まれている事を物語っている。

 後少し機嫌を悪くすれば、その辺の物に八つ当たりするかもしれない。


「それで、一体何を」

「さぁね、完全にこれって言う証拠がないからね、今話す訳にはいかないよ」

「そうか……だが、英雄の復活か……成程、あのプロトタイプの武器が、英雄たちの物に酷似している訳だ」


 リージアの言葉は半信半疑だったが、思い出してみればプロトタイプの武器は英雄たちの物と酷似していた。

 恐らく、研究者たちが英雄を復活させようとしているのは明らかだろう。

 その事には賛同するが、ゼフィランサスは軽くため息をついてしまう。


「しかし、残念だ、彼女らを再現した物という事は、過去の英雄たちとは全くの別人、当時の戦いについて色々と聞きたかったんだがな」

「それは残念だったね」


 ガーデンコードは、アンドロイド達それぞれに固有の感情や人格さえもたらす代物。

 その反面、複雑で繊細であるが故にバックアップが取れないのだ。

 つまり、命に関しては人間と同じ。

 核になるユニットを積んだ頭部が無くなれば、それで終わりなのだ。

 基地に居るプロトタイプは、当時の英雄の誰かと同一人物で有る可能性は低いだろう。

 もしも同一人物を復活させたければ、彼女達の頭部パーツが必要になる。


「だが、そんな事を聞いてしまえば、なおさらお前達を連れて行く訳にはいかない、この艦を修復した後、衛星軌道上へ撤退する」


 腕を組んだゼフィランサスは、リージアを睨みながら改めて指示を下した。

 本当にリージアの言うような個体であれば、今の人数や装備で勝つ事は不可能だ。

 戦うのであれば、せめて本部からの更なる応援が必要になる。


「……生憎、私は任務が終わっていないのに帰るってのは感心しないよ」


 しかし、何時になくマジメに返したリージアは、ゼフィランサスへと食い掛った。

 睨み合う二人のおかげで、空気が油のように重くなる。


「任務?お前達の任務は、我々の救助の筈だ、ならば、もうこれで終わりだろうに」

「確かに、私達の任務は終わったよ、この船の通信装置だったら、衛星軌道上にさえ上がれば本部に報告ができる、そこまで行ってようやく私達の仕事は終わりだよ……でも」


 リージア達オメガチームの任務は、調査チームやガンマ達の安否報告。

 この船で惑星間の航行は不可能だが、司令官に頼めば救助の部隊をもう一度派遣してくれるだろう。

 それまで待てば、今回の任務は終了。

 鋭い眼光をゼフィランサスへ向けるリージアは、基地へ行く理由を口にする。


「私の仕事は、まだ終わってない」

「お前の、だと?」

「……」

「そ、オメガとしての私の任務は終わったけど、司令官からの特命が、まだ終わってないからね」


 悲しそうな表情を浮かべるモミザを背後に、リージアは答えた。

 オメガチームとしての任務は、確かにこれで終わりだ。

 しかし、出発前に言い渡された特命がまだ終わっていない。


「特命だと?」

「そ、これが証拠」

「……」


 疑念を向けて来るゼフィランサスへ、リージアは特命の指令書を提示した。

 一枚のプリント状のデータが視界に映しだされ、ゼフィランサスは漏れなく確認する

 やはり特命という事もあり、第三者に洩れないよう詳細の部分が文字化けしている。

 解る点があるとすれば、リージアとモミザには暴走したE兵器の破壊が命じられていた。

 指令官からの命令である事は、押印を見ればわかる。

 しかし、そんな事よりゼフィランサスが驚くべき部分が有った。


「確かに、本物のようだが……最上位の作戦司令だと」


 プリント状のデータは、縁が黒く彩られていた。

 総司令官からの許可が降りなければ、決して下る事の無いレベルの指令。

 この場合は、この任務が何よりも優先される事に成る。

 撤回できるのは、総司令官クラスの人間のみだ。

 そんな物を見せつけられ、ゼフィランサスは冷や汗をかく。


「何故だ、総司令までこの件関わっているというのか?」

「まぁね」

「……」


 総司令官の関与まで発覚したゼフィランサスは、息を飲んだ。

 確かに彼は、軍の上層部の中でもアンドロイドへの当たりが優しい。

 噂ではリージア達の司令官に、好意を寄せているという。

 だが、堅実な面もある彼が、それだけで最上位の作戦司令を与えるとは思えなかった。


「(バカな、一体何だというのだ?我々は何に巻き込まれている?)」


 この事実を前にして、ゼフィランサスは困惑してしまう。

 アンドロイド兵である以上、今はリージアの作戦の手助けを行わなければならない。

 協力するという点は、飲み込むしかない。

 だが、現状に不満と疑問ばかりが生まれてしまう。

 確かに、この星の調査は国を挙げての一大プロジェクトだ。

 絶対に基地を奪還しなければならないというのは解るが、それをリージア達にゆだねる道理にはならない。

 詳細を本部へ報告し、増援を待ってもいい筈だ。


「……」

「それで?何か文句はある?」

「……総司令からの命令である以上、私はお前を手伝う義務が生じる、だから止めはしない、だが、せめて本部からの増援を待ってもいい筈だ、まだベータとアルファ、それにサクラだっている」


 もはやリージアが行く事を止める事は、ゼフィランサスの権限では不可能だ。

 言ってしまえば、今はリージアが部隊全体の責任者と言える立場。

 せめて増援を待つ提案を行ったが、リージアは首を振ってしまう。


「残念だけど、私はそれを待てる位落ちつきが無いんだよねぇ」

「……チ」

「(ま、船体の損傷具合からして、宇宙まで上がる位修復できるかそもそもわかんないんだけどね……それに、そのプロトタイプって奴は、絶対に殺さないと)」

「(……あの目)」


 明らかに最初から待つ気が無いと言わんばかりに、リージアは見下すような表情を浮かべた。

 急がなければならない理由が有るのか、あるいはリージアに何か考えが有るのか。

 そこまでは解らないが、何かしらの理由が有るのだろう。


「じゃ、私はちょっと用が有るから、これで失礼するね」

「……まて」


 退室しようとするリージアを呼び止めたゼフィランサスは、睨むようにリージアを見る。

 作戦遂行を邪魔するような事もできず、応援も待つ事はできない。

 ここで何を言おうと、リージアは作戦を中断する気は無いだろう。

 特例が出ている限りは、彼女の意思でも作戦の中断は不可能だ。

 だがせめて一つだけ聞きたい事と、言いたい事が有った。


「私は最後の抵抗や報復として、奴に、反応弾を撃ち込んだ、それでも奴は生きていたんだぞ、何か秘策でも有るのか?」

「うへ~……そこまで再現できてた事には驚きだけど、安心して、私も負け戦をする気は無いから」

「それは秘策があると捉えていいんだな?」

「もちのろん」

「……そうか、もういい、行ってくれ」

「そうする」

「……」


 意気揚々と親指を立てたリージアを前にして、ゼフィランサスは諦め半分に退室を許可。

 ずっと悲しそうに黙っていたモミザと共に退室していくリージアを見て、ゼフィランサスは椅子に腰かけた。

 リクライニングで少し楽な姿勢を取り、片手を額に乗せる。


「(確かに奴はE兵器の知識があるようだが、本当にアイツを圧倒できる秘策を用意できるのか?それより、もう色々有り過ぎて頭が混乱しそうだ)」


 リージアのE兵器関連の知識は、ゼフィランサスも認める所がある。

 しかし、もういろんな事が立て続けに頭に入り込んできたので、処理が地味に追いつかない。

 元がコンピューターとは言え、人間同様に疲労で頭の回転が鈍る事はある。

 人間と同じ頭の働きを与えてしまうのが、ガーデンコードの欠点の一つだ。

 今日に至るまで色々有り過ぎたので、一時間程頭を休める事にした。


 ――――――


 その頃。

 ウキウキと通路を歩くリージアの後ろを、モミザは重たい足取りで歩いていた。


「バカやろう」

「ん?」


 モミザがボソッと呟いた一言に、リージアは反応した。

 ずっと黙っていたのは、会話に入れなかったというより自分の整理がついていなかったからだ。

 余裕さえ有れば、もっと会話に入っていた。


「どうかした?」


 のほほんとした雰囲気でたずねて来たリージアに、モミザはムスっとした。

 彼女の他人事のような態度は、モミザの感情を揺さぶった。

 殴りたい気持ち何かよりも、疎外感のような物を感じてしまう。


「ッ!」

「うへ」


 うつむきながらリージアの事を壁に叩きつけたモミザは、胸倉を力強く握りしめる。

 モミザのこの行動のせいで、リージアは何となくモミザの気持ちを察した。

 何しろ、彼女の目から涙が零れたのを見逃さなかったのだから。


「……」

「モミザ」

「業を……ッ!」


 声と手を震わせたモミザは、勢いよく顔を上げる。


「業を背負うのはお前だけじゃないだろ!俺と一緒に、姉貴を見殺しにした罪を償うっって約束しただろ!なのに何でお前は一人で背負い込もうとする!!?」


 数滴のモミザの涙を顔に受けたリージアは、薄めた目でモミザの事を見つめる。

 彼女もあの惨劇を生き残った数少ない家族の一人にして、姉の最期を見届けた仲。

 同じ気持ちを分かり合う者同士、同じ業を背負いたいという事位解る。

 だからこそ、最期は一緒に、と言うような約束をしたのだ。


「……気が変わった」

「何だと?」

「最近になって、昔の事を深く思い出しちゃってさ、お姉ちゃんの事は特に」


 悲し気な表情を浮かべるリージアは、気が変わった理由を打ち明けた。

 今やっている事は、二人の過去を追いかける事でもある。

 そのせいで、過去の記憶がどんどん掘り出されている。


「……それで、思ったんだ、この作戦が成功すれば私達は死ぬ、でも、もう家族には死んでほしくない、だから、モミザだけでも」

「ッ!!」


 壁からリージアを引きはがしたモミザは、硬く握りしめた拳を振るった。

 金属同士がぶつかり合う音が通路に響き渡り、リージアは吹き飛んでいく。

 流れる涙をぬぐったモミザは、倒れるリージアを再び持ち上げた。


「勝手な事いうな!だったらお前も生きろ!姉貴だって、お前が死ぬ事なんざ望んで無いんだ!!」

「……ごめんね、私、もうちょっとグータラ隊長続けたかったけど、もう生きていたくない、これ以上人間の汚れた部分を見たくないんだ」


 弱気な発言に、モミザは再び拳を握り締めた。

 歯も食いしばり、目に涙を溜めながらリージアを睨む。

 人間の汚れた部分ばかり見続け、疲れてしまったのは解る。

 そんな理由で愛妹の自殺を認める程、モミザは愚かではない。


「……クソ」


 しかし、モミザはリージアを殴る事はせずに手放した。

 代わりに行き場の無い怒りと悲しみを発散するべく、壁を殴りつける。


「……ごめんね、何か弱気で」

「……」


 立ち上がりながら謝ったリージアを横目に、モミザは壁にめり込んだ腕を引き抜く。

 手に着いたゴミを払いながら、モミザは黙って壁に背中からもたれる。

 気になるのは、何故リージアがこんなに弱気なのか。

 なんだかんだ言って、リージアの神経は丸太より太い。

 そんな彼女がこんなに弱気になるというのは、何か有ったとしか思えない。


「なぁ、何でそんなに弱気なんだよ」

「な、何でって、言われても……」


 訊ねられたリージアは、思わずフォスキアに甘えていた時の事を思い出した。

 何故か知らないが、フォスキアからは姉に似た何かを感じてしまうのだ。

 そのせいで心置きなく甘えてしまい、その時に家族を喪う感情を思い出してしまった。

 おかげでモミザも一緒に死ぬ事に、躊躇が産まれていた。


「(フォスキアに甘えたせいで、そんな考えに至った何て言えない)」


 その時を思い出したリージアは、顔を真っ赤にしてしまう。

 耳まで真っ赤になる彼女を前にして、モミザは別の怒りがわいてくる。

 一応リージアとフォスキアが抱き合う姿を見てしまっただけに、顔を赤くした理由はすぐに解った。


「おい、何でそこで顔赤くする?」

「あ、あはは」

「やっぱりあの女か!?やっぱりあの女なのか!?」

「い、いや~、そんな目くじら立てる程でもなく」

「うるせぇ!何であんな部外者に心揺らされてんだ!?後なんか言葉変だぞ!」


 恥かしさからなのか、言葉が変になるリージアは三度モミザに首元を掴まれた。

 モミザの危惧していた通り、やはりリージアにフォスキアは悪影響らしい。

 思っていた影響とは少し違ったが、それでも彼女の干渉でリージアの内面に変化が出ているらしい。


「え、えっと、こんな事言うの変だと思うけど、何か、フォスキアからお姉ちゃんを感じるって言うか、時々お姉ちゃんと重ねちゃうって言うか」

「……何言ってんだ?」

「いや、気持ちわかるけど、本当なんだよね、昨日から特にね……変だよね、見た目も声も似てるって訳じゃないのに」


 リージアの正常と思えない発言の数々に、モミザはウイルスの感染を疑った。

 直接的にではないにせよ、彼女はこの艦にアクセスした。

 その時に変な物を入れられていても、おかしくは無い。


「お前、一旦レーニアかブライトに診て貰えよ」

「あはは、そうした方がいいかもね、マリー」

「ッ」

「え?……あ、ヤベ」


 マズい事を口走ったリージアは、口を手で覆いながら周囲に視線を送った。

 幸い誰の気配も感じず、ゼフィランサスも休憩中だった。

 誰も聞いていなかったという事に、二人は安堵した。




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