交わりの戦火 後編
レーニア達がハッキングを進めている頃。
リージアとフォスキアは、大量のリザードマンを相手に接近戦を展開していた。
武器はナイフやチャクラム等の軽い装備のみだが、何とか防衛を続けている。
「ああもう!何時までかかってるのよ!!」
リザードマンの首を左腕の羽を用いて、フォスキアは切り裂く。
変異させた左腕の羽は、魔力をおびた事でノコギリのようになっている。
おかげで疑似的な二刀流状態だが、状況をひっくり返すような事まではできない。
体感で、数時間は戦っている気分になってしまう。
「あの二人の事だから、この艦を掌握するのに五分かかる、発射ギリギリで何とかって所かもね!」
「てことは、もうすぐって事よね!!」
リージアの計算では、発射まで後一分。
双子の能力がリージアの期待通りであれば、発射ギリギリで完了する筈だ。
その答えを聞きながら、フォスキアはリージアと共に戦闘を続行。
魔法を使えない歯がゆさを覚えながら、リザードマン達を切り裂いて行く。
「(やっぱり、最大稼働だとバッテリー食っちゃうな~)」
少しでも戦いを有利に進める為に最大稼働状態となったが、やはり一筋縄ではいかない。
戦車の装甲さえも切り裂けるナイフは、リザードマンにも十分な一撃を与えられる。
燃費こそ良いが、最大稼働で得られる性能の恩恵が有ればこそ。
ダメージも受けてしまえば、電磁装甲の影響で更に電力を失う。
バッテリーを変えてから三分程立っている事を考えると、そろそろ限界だ。
「私の家で、これ以上好き勝手するな!!」
「(私の、家?)」
だが、闘志を奮い立たせたリージアは、全力でリザードマンを叩き潰していく。
今の発言の意味に、首を傾けるフォスキアを隣にしながら。
――――――
その頃。
傭兵ギルドの前は、アンドロイド部隊と傭兵達による総力戦が繰り広げられていた。
銃声や爆発音が鳴り響くという、ファンタジー世界ではありえない状況が繰り広げられる。
そんな中であっても、剣同士がぶつかり合い、魔法が放たれるという姿も散見される。
「もう弾が無い!」
「こっちは推進剤が無くなった!」
「剣折れたぁぁ!!」
しかし、長期戦によってアンドロイド達は後が無く成りつつあった。
バッテリーと弾丸は予備に交換すれば大丈夫だが、推進剤はそうはいかない。
補給の為には相応の設備と時間が必要なので、下がって傭兵達に任せるにはリスクが高い。
「クソ、補給だ!」
「下がって補給する!少し頼むよ!」
「任せろ!」
傭兵達に前線を任せたアンドロイド達は、補給の為に一度下がっていく。
その際多くの者が飛行ユニットを放棄、素の状態になりながら後方に有るウェポンコンテナへ向かう。
しかしコンテナの中に有るのは、リージア達が持って来た普通の武器。
威力が心元無いが、無いよりはましだ。
「強化弾はもう無いのかい!?」
「元々少なかったんだ、後はオメガの連中が持って来た通常兵器だけだ」
「文句を言っている暇が有ったら準備を進めてください!」
エーテルで強化された銃弾は勿論だが、近接武器も底を尽いている。
もう一般兵程度の火力しかないが、代わりに対戦車兵装を多めに持ちだす。
倒す事はできないが、今は時間さえ稼げればいい。
「補給が終わり次第、攻撃再開!敵を近づけるな!」
『了解!』
補給を終えたスイセンは、この場に居ないモミザとゼフィランサスの代わりに指揮を取った。
手に取ったグレネードランチャーを構え、一人の傭兵の近くへと走る。
予備のグレネード弾でかなり重く感じるが、この程度で根を上げる作りではない。
そのまま引き金を引き、榴弾によって傭兵の一人に近づいていたゴブリンを吹き飛ばす。
「無事ですか!?」
「ゲホ、ゲホ、嬢ちゃん!こっちはもう限界だ!」
「こっちも同じです!武器はもう貧弱な物しか!」
「(貧弱?)」
爆炎でむせ返りながら、傭兵は自分たちの状況を伝えた。
土嚢から身を乗り出すスイセンは、機械魔物達へと砲撃を加えていく。
普通の人間であれば軽く爆散できる威力の筈が、やはり足止めにしかならない。
貧弱と言う言葉に小首をかしげた傭兵だが、魔物を殺しきれていない光景には頷くしかなかった。
「悪いがこっちも魔力が残っている奴が少ない、これ以上は持たないぞ」
「クソ!」
ボロボロの傭兵を横目に、スイセンはグレネードをもう一度装填。
しかし、次々と視界に入って来る悪い情報に顔をしかめる。
統制を失い、数を活かさずにただ押し寄せるだけ。
戦術も何も無く、死を恐れない兵士達が武器を乱射しながら迫って来るので、かなり厄介だ。
「(あの艦のせいで、全部ひっくり返された、こんな筈じゃ……)」
傭兵達は残りのポーションを全て持ち出し、できるだけ多くの精鋭を連れて来た。
アンドロイド達も持てるだけの武器を引っ張りだし、最初の奇襲作戦は成功。
だが敵艦が出現し、その火力や艦載されている全魔物による状況の変化。
予想以上の消耗を被り、更には圧倒的な数の魔物による物量攻撃。
遠距離からの爆撃が無いのが救いだが、状況はどんどん切迫している。
「グワッ!!」
「一人被弾した!誰かカバーしろ!」
傭兵の一人が敵の弾にやられ、倒れてしまう。
彼の事を助けるべく、数名の仲間が駆けつけた。
そんな彼らを狙いすますかのように、ロケット弾が数発放たれる。
「伏せな!」
「ウワ!」
彼らの危機に駆けつけたのは、ガンマチームの一人であるベゴニア。
攻撃と負傷者に割って入った彼女は盾を構えて防御体勢をとり、全弾自分に命中させる。
彼女のモデルは、防御力に秀でたDF型。
おかげで、ほぼ無傷で傭兵達を救う。
「早く行きな!」
「た、助かった!」
「ウア!」
重装甲の義体と盾を使い何とか攻撃を防ぎ止めたが、攻撃が止む事は無い。
レールガンやビームまでもが集中的に放たれ、ベゴニアは次々と被弾。
頑丈さが取り柄の彼女の義体は、どんどん傷ついて行く。
衝撃までは完全に消せないので、片膝をついてしまう。
「大丈夫なのか!?」
「いいから行け!」
傷つく事を心配してくれるのはありがたいが、今は早く離脱してほしかった。
しかし、危険なのは彼女だけではない。
「クソォォ!」
「ライラック!」
被弾したライラックは、ノイズのかかった声を出しながら崩れ落ちた。
彼女を回収しようと、ヴァーベナやヘリコニアが駆けつける。
「早くその子を!!」
「ありがとうございます!」
ライラックを引きずりながら下がっていくヴァーベナを背後に、ヘリコニアはエーテルライフルを放つ。
残った数少ないE兵器のおかげで、ライラックの回収に成功。
それと同時に、ライフルからビームが出てこなくなってしまう。
「……え、エーテルが」
珍しく悔しがるヘリコニアは、ライフルを放棄。
残されたチェーンソーを構えながら、攻撃を防ぎ止める。
既にチェーンの部分が断裂し、ただの鉄板と化していのでこれ位しか使い道がない。
皆が劣勢に立たされる中で、三人だけは最前線から離れて居なかった。
「まだか!?もう皆限界だ!!」
「砲台発射まで、後僅かだぞ!」
唯一前線から離れていなかったのは、ゼフィランサスとモミザとヴォルフの三人だけ。
ゼフィランサスはバッテリーの切れたアーマードパックを脱ぎ捨て、予備で持っていた剣で応戦している。
二人の持つ近接武器は、残った唯一のE兵器。
その上、ヴォルフの実力はフォスキアにも並ぶ物。
魔物達の波の中に居ても、三人だけは敵を一切寄せ付けていない。
「そいつは俺達じゃどうしようもない!あの双子が何とかしてくれるのを祈るだけだ!」
ゼフィランサス達の言葉をあしらったモミザは、最大稼働状態で薙刀を振り回す。
魔物達の魔石を破壊し、次々と行動不能にしていく。
リージアの作った装置を持っているのも、モミザの薙刀だけ。
ゼフィランサスの手柄を横取りする形になってしまうが、致し方の無い事だ。
「なら早くしてくれ、もうバッテリーが!」
「こっちだってそうだ、今は手を動かせ!」
「喧嘩している場合か!」
奮闘する三人のおかげで、後方への魔物の進軍は抑えられている。
それでも苦戦を強いられる程であるが、彼女達が居なければもっと酷い状態だっただろう。
大量の魔物を相手に戦う三人の姿。
それはまるで、形成された黒い血の池の上を乱舞するかのようだ。
「チ、早く頼むぞ、レーニア!ブライト!」
ヴォルフの言葉で喧嘩を辞めたモミザは、二人の名を呼びながら大量の魔物へと身を投げる。
――――――
皆が苦戦している頃。
双子の最後の砦となるホスタとサイサリスは、ギリギリの抵抗を続けていた。
「キャアア!」
「サイサリス!」
接近を許してしまったサイサリスは、オークの持つ斧の一撃を受けてしまう。
左腕が斬り落とされ、怯んだ所へ機関砲が向けられる。
しかし、そこへホスタが駆けつけた。
「離れろ!!」
空中からの落下による飛び蹴りを放ち、ホスタはサイサリスを救った。
同時に飛行ユニットの推進剤は底をつき、すぐに放棄する。
すぐにサイサリスの方へ駆け寄り、介抱を始める。
「大丈夫ですか!?」
「人の心配、してる場合!?」
駆け寄って来たホスタを無理矢理どかしたサイサリスは、すぐに発砲。
レーニア達を狙っていた魔物に一撃を加え、攻撃を防ぎ止めた。
「これで、貸しは返したからね」
「別に、返さなくていいですよ」
互いに嫌味の籠った笑みを浮かべ合うと、二人は改めて機関砲を構えた。
残弾は今持っている物で最後となっており、最終的に鈍器にして戦うつもりだ。
できればそんな事はしたくないので、よく狙って撃つ。
「でも、こいつ等やれるの!?」
「……レーニアさん!まだですか!?」
『もう少し、も少しだ!!』
ライフルを構えると共に、ホスタはレーニアに進捗を訊ねた。
既に巨大砲台は眩い光を放っており、発射一歩手前と言うのが伝わって来る。
銃声を耳にし、冷や汗も滝のように流しながら、レーニア達は作業を急ぐ。
「はやく、はやく!」
ない筈の心臓がバクバクと鳴る思いになりながら、レーニアはキーボードを叩く。
もはや自分の指が叩くキーの音だけが、彼女の耳に入る位の集中力。
隣ではブライトも同様の状態となりながら、艦のセキュリティを破って行く。
「(発射まで十秒をきった!)」
『レーニア!ブライト!急いで!艦橋に入られそう!!』
「うっさい!!」
苦しそうなリージアの通信だけでなく、周りからの音さえもレーニアとブライトは遮断した。
完全に集中モードに入った二人は、今までに無い程の作業スピードを見せる。
次々とセキュリティを突破し、中心まで突き進んでいく。
『お姉!!敵艦のエネルギー制御システムを掌握した!!』
「ナイスだ!ブライト!こっちも、アクセス完了!!」
とうとう中枢にアクセスしたレーニアは、制御権限を書き換えていく。
ブライトからの嬉しい報告に笑みを零しながら、レーニアは目を見開いた。
「いい加減、大人しくしな!!」
渾身の力でスイッチを押すと、レーニア達は艦のシステムを完全に掌握。
同時に魔物の進軍も停止し、巨大砲台からも光が失われ、沈黙する。
次々と銃声が止み、金属が落ちる音が辺りから響き渡る。
「止まった、のか?」
攻撃を止めて倒れさる魔物達を前に、ヴォルフは目を丸める。
武器も魔物達の手から離れ、どんどん静寂が訪れていた。
他の者達も、訳が分からず辺りを見渡す。
「やった!巨大砲台も止まってるぞ!」
「流石だ!レーニア!ブライト!!」
砲台の沈黙を確認するなり、モミザは武器を高々と上げた。
彼女の行動のおかげで、勝利を確信した傭兵やアンドロイド達も彼女と同様に武器を掲げる。
皆弾けるような笑みを浮かべ、歓喜の声がギルド周辺を包む。
「良かったよ……」
仲間達の歓喜の声が聞こえる中で、レーニアはコックピットでぐったりとする。
今までに無い位頭を働かせたおかげで、コンピュータが熱暴走を起こしかけていた。
ぼーっとするレーニアに合わせて、アーマードパックも尻餅をつく。
自然と上に上がった視線は、敵の艦の方へと向いた。
「ん?」
たまたま入り込んだ敵の艦は浮力を失い、徐々に海へと落下している姿が映った。
かなりの質量を持つ艦が海に堕ちればどうなるのか、考えなくても答えは解る。
「あ、ヤバ」
気づいた頃にはもう遅く、敵艦は着水。
一切減速する事無く海に堕ちた事で、巨大な水しぶきが発生。
折角生き残ったモミザ達へと襲い掛かる。
「オイイイイ!!何でこうなるんだぁぁ!!?」
「何かに掴まれぇぇ!!」
「いや!私達もうそんな体力ないって!」
歓喜の声は、襲い掛かる波によって再び悲鳴に変わるのだった。
――――――
艦が落下する少し前。
リージア達も、もはや戦闘中と言うにはおこがましい状態になっていた。
「このぉぉ!そっち行くなぁ!!」
「ここでじっとしてなさい!この!トカゲ共!!」
残り三体まで減らす事は出来たが、その時点で二人の体力も限界を迎えていた。
リージアはセーフモードに入ってしまい、艦橋へ向かっているリザードマンに噛みつきながら阻止している。
フォスキアも身体にマチェットを刺されながら、リージアと一緒に進行を止める。
ただの取っ組み合いになりつつあり、なんともみっともない。
「レーニアぁぁ!ブライトぉぉ!早くぅ!!」
リージアの悲痛な叫びが木霊した直後、リザードマン達の動きは止まった。
ネジの切れた人形の如く少しずつ動きが止まり、二人は目を丸めてしまう。
「……え?」
「と、止まった……うぇへ」
突き立てるナイフを握る力を弱めたリージアの顔は、徐々に笑みが戻っていく。
完全に力が抜けたリザードマンと共に崩れ落ちてしまっても、嬉しさから笑みを崩す事は無い。
二人の技術を心の中で称賛しつつ、リージアはナイフを引き抜く。
「はぁ、流石、軍の機密にアクセスしただけは有るよ、勧誘して正解だった」
「……良かった、それを聞いて、安心したわっと」
リージアが喜ぶ姿をみたフォスキアも、ナイフを引き抜きながら肩の力を抜く。
ついでに空に刺さっていたマチェットも抜き取り、傷を再生させる。
「(このマチェット貰えないかしら?結構頑丈そうなのよね)」
「さて、こっちもこっちで仕事しないとね」
折れた剣の代わりにマチェットを頂けないかと悩む横で、リージアは艦橋への扉に手を伸ばす。
制御を奪った後は、この艦が落下しない様に舵を取るだけ。
そんな甘い事を考えていると、リージアとフォスキアに変な浮遊感に襲われだす。
「え、ちょ、な、何!?」
「どわっと!」
急な揺れを感じた二人は、自然と抱き着く形になってしまう。
互いに支え合うような構図になった途端、二人は宙に浮きだす。
艦と共に重力に身を任せながら、落下しているのを認識する。
「ちょ、ちょ、ちょっとコレ!もしかしなくても落ちてる!?」
「うん!普通に落ちてるね!あの二人推進装置まで止めちゃったよ!」
涙目になるフォスキアの悲鳴に応えながら、リージアも叫びだす。
出来れば砲台のエネルギーと、魔物の制御を行うシステムだけを止めてくれればよかった。
どうやら全システムを停止させてしまったらしく、飛ぶ事すら不可能になってしまった。
そう考えながら、リージアは今の現実を受け入れる。
しかし、フォスキアはそうはいかなかった。
「何でこんな事に成るのよ!もぉぉぁぁ!!」
「あははは」
フォスキアの悲鳴が艦内に響きわたると共に、艦は海へと着水。
僅かに海に沈んだ事で、二人の侵入経路から海水が侵入。
艦橋へ通じる扉まで浸水してきた事で、二人は海水に飲み込まれてしまう。




