交わりの戦火 前編
リージアがハッキング用の端末をセットした頃。
二人はマスターキーを通じて敵艦のシステムへ入り込み、作業を進めていた。
見た事の無い艦艇であるだけに、セキュリティもかなり堅い。
一般的な艦船とは根本から異なる物なので、少し苦戦しそうだ。
「ちょっとお姉!化け物がウジャウジャ来たよ!」
「ヘリコニア!まだかい!?」
アクセスに気付かれたのか、魔物達は二人へ向かって群がって来る。
地上や空中の両方から来ているが、今の二人に迎撃する余裕は無い。
ハッキングにリソースの大半を裂いているので、避ける事は出来ても攻撃ができないのだ。
射撃は何とか回避するが、リザードマンの接近を許してしまう。
「ヤバ!」
向けられるハルバードを回避しようとするが、とても回避の間に合う状態ではない。
狙われたブライトは、思わず目を瞑ってしまう。
「今到着したわ!」
攻撃が命中する直前に、ヘリコニアが到着。
秘密道具を取り付けたチェーンソーによって、樹木の如く切り裂かれる。
黒い血しぶきを上げるリザードマンは、胴体を半分にされながら地上へ落下。
そのショッキングなシーンに、ブライトは顔を青ざめてしまう。
「……あ、ありがとう」
「良いのよ~、それより、早くハッキングやっちゃって!」
「わ、わかった(しばらく夢にでそう)」
特に寝る必要はないのだが、少しトラウマになったブライトだった。
この先も次々とチェーンソーで斬り裂いて行くヘリコニアの姿は、極力見ない様にして作業を続行する。
「それじゃ、私は地上をやるから、貴女は空中をお願いね~」
「……勘違いしないでよね、私が死にたくないから手伝うだけよ」
「あらあら」
嫌々な感じを出すサイサリスだったが仕事は仕事、サイサリスは仕方なく剣を構える。
魔石は補給しておいたので、前線へと出ていく。
次々と襲い来る魔物を相手に、二人は戦闘を続ける。
「手伝ってくれるのは良いけど、あの態度どうにかなんないの?」
サイサリスの悪態に辟易するブライトは、敵艦の掌握作業に入る。
リージア以上のタイプ速度で、相手のシステムの奥深くへと入り込んでいく。
その際、巨大砲台のチャージ状況を抜き取った。
「……ヤッバ!お姉!砲台の発射まで、後五分も無い!」
「だったら口じゃなくて手を動かしな!エネルギー量からして、あんなのが撃たれたら、町ごと吹き飛んじまうよ!!」
「ふざけんな!」
逆上しながらも、二人は仕事を進める。
政府や軍の機密ファイルの防御の方が、まだ小難しかった。
それでも、焦りから手元が少しブレてしまう。
「落ち着きな!変に焦ると、できる仕事もできなくなるよ!」
「わ、わーった」
レーニアから喝を入れられ、ブライトは少し平静を取り戻す。
何としてでも砲撃を阻止するべく、二人は作業を続行する。
その二人を守るべく、駆け付けて来た三人は応戦を続ける。
「と、とりあえずこの二人を守れば良いのか!?」
「ええ、そうよぉ!」
ヘリコニアとサイサリス以外に駆けつけたのは、たまたま一緒にいた武者の青年。
彼も刀を武器に、魔物達を撃退している。
「援軍も期待できそうだし、それまで頑張りましょう!」
「あ、ああ!」
彼女達が来た方角とは、別のほうから向かってくる勢力に青年は笑みを浮かべた。
――――――
ヘリコニアが双子と合流した頃。
モミザ達も合流を果たすべく、地上で戦闘を繰り広げていた。
船体下部にある主砲に関しては、彼女もゼフィランサスへと報告をしてある。
退避する事も考えたが、それでも発射されてしまえば意味がない。
町全体が吹き飛ぶことになるのだから、退避したとしても巻き込まれる可能性の方が高い。
「オラッ!!」
薙刀によって魔物を切り裂いたモミザは、次々と迫りくる魔物達に目をやる。
視界に捉えた魔物達は、彼女へ向けて次々と弾幕を形成させた。
モミザはリージアと同様に、弾幕の中をかいくぐりながら魔物へ接近。
間合いに入り込むなり、多数の魔物を切り裂く。
「良い働きだな!モミザ!」
「当然だ!この程度で根を上げてたまるか!!」
強がるモミザだったが、視界に映るバッテリー残量には焦りが出てきてしまう。
艦内の構造が同じであるのであれば、リージアが迷う事は無い。
それでも、問題が有る。
「……」
「心配か?アイツの事が」
「ああ、今頃吐き気でダウンしてしてないと良いんだがな」
「はぁ?」
モミザが一番不安なのは、リージアはトラウマの発症でダウンしているという事。
出来れば自分が行ければ良かったと思っているが、もう手遅れだ。
今はこのまま魔物達を排除し、出来る限り犠牲を減らす事が重要だ。
そんな事を考えつつ、モミザは敵の艦を視界に収める。
目標を見失ったかのように、弾幕は再び無差別に周囲へばらまかれている。
しかしリザードマン達は艦内へ侵入し、リージア達の排除にかかっている。
「羨ましいが、まぁいい!!」
険しい表情を浮かべるモミザに気を使い、ゼフィランサスは魔物の対処を進める。
高機動機としての瞬発力を活かし、石畳を破壊しながら魔物達に迫る。
いずれもレーニアかブライトに狙いを定めており、急いで大剣を振るう。
「ウヲラァ!!」
高機動を活かし、僅かな時間で機械魔物達は両断。
双子の危機は回避され、ヘリコニア達との合流に一歩近づく。
「(ほう、あの女もやるな)」
既に到着していたヘリコニアを目にしたゼフィランサスは、僅かな同情と共に笑みを浮かべた。
意気揚々とチェーンソーを振り回すヘリコニアは、射撃こそ下手だが接近戦はかなり強い。
本来は非戦闘員の筈なのだが、前線で活躍できるレベルの強さだ。
「あ、隊長!それに皆も!」
「あら、貴女達も到着したのね!」
「おう!遅くなったな!ヘリコニア!」
モミザや他のアンドロイド達も、続々合流に成功。
彼女達と共に行動していた傭兵達も到着し、頭数も増えた。
後はホスタとヴォルフのグループさえ来てくれれば、何とかなるかもしれない。
周囲の確認を行いつつ、ゼフィランサスは機体の拡声器を起動させる。
「各員!双子を護れ!補給は既に用意してある!武器使用は自由!好きに使え!!」
『了解!』
「傭兵達!我々ができるだけ前に出る!無理せずに下がってくれ!」
ギルド周辺には、こうなる事を予期して大量の武器弾薬が用意されている。
弾薬の一部はエーテルによる強化が施されているが、残りは通常の兵器。
機械魔物達相手にはオモチャ程度の威力だが、無いよりはマシだ。
前線はモミザとゼフィランサスが守りつつ、他のアンドロイド達は補給に専念する。
――――――
同時刻。
フォスキアはリージアの居る艦橋を死守するべく、単身でリザードマンの群れを撃破していた。
通路には大量の死体が転がり、血の臭いが充満していた。
「はぁ、はぁ、トカゲ共が」
剣の血を払いながら、フォスキアは肩で息をしていた。
ここに来るまでで消耗していた事を差し引いても、リザードマン相手にここまで疲れる事は無い。
相手の硬さが並外れているうえに、リージアの道具も無い。
おかげで燃費がかなり悪く、久しぶりに魔力を六割以上消費していた。
「グギュルアアア!!」
ノイズのかかった鳴き声と共に襲い掛かるリザードマンは、どんどんフォスキアへと襲い掛かる。
彼らを前にして、フォスキアは再度剣を握り締めた。
込められるだけの魔力を剣へ流し込み、リザードマンへ振るう。
「フンッ!」
「ギエッ!」
大量の魔力が込められたフォスキアの剣は、リザードマンを両断。
体術も交えつつ、次々押し寄せて来る敵を撃退して行く。
打撃面への防御も高いので、身体にも魔力を込めて威力と体力を水増ししてある。
それらを用いる事で、ようやくダメージを与えられている。
これだけ消費するのは、バルバトス程の相手に遭遇しなければあり得ない。
「(多すぎる)ッ!?」
次々とリザードマンを切り裂いていると、仕留めそこなった個体に後ろから抱き着かれた。
ガッチリとホールドされてしまい、その一瞬の隙を他の個体が見逃す筈無い。
「しまった!」
引きはがそうとしていると、他のリザードマン達はフォスキアに抱き着く個体ごと彼女を串刺しにした。
群がって来た四匹に順番に突き刺され、内蔵さえも滅茶苦茶にされる。
攻撃力を上げる為に赤熱化されているマチェットの一撃は、文字通り体内を焼いてくる。
「ゴフッ!」
激痛に顔を歪めたフォスキアは口から血を吐き、マチェットが引き抜かれる。
焼かれた事で出血は少ないが、それ以上の痛みが襲う。
「クソ!」
力ずくで拘束を引きはがすと、振り返りざまにリザードマンを撃破。
血液と共に体力まで流れ出るような気分になりながら、数歩下がる。
傷はどんどん回復して行くが、体力まで回復はしない。
苦痛を押し殺しながら、フォスキアは片腕だけを変異させる。
好機と捉えたリザードマン達は、再度フォスキアへと襲い掛かる。
「ウ、グッ!」
「グルア!」
ノイズがかった叫びに合わせ、リザードマンはマチェットを振り下ろした。
迎え撃つために、フォスキアも剣を振るった。
マチェットと剣がぶつかり合い、甲高い金属音と共に火花が散る。
しかし、フォスキアは目を見開いてしまう。
「そんな!」
今までの酷使のせいで、ずっと使って来た愛用の片手剣は敵のマチェットと共に破損。
すぐに剣を壊したリザードマンへと柄の部分を投げつけたフォスキアは、少し距離を取る。
「ちょっと位の傷は、許してよね!!」
そう言いながら、フォスキアは変異させた右腕を一気に振り抜く。
魔力をおびた事で硬質化された羽毛は、散弾銃のように射出された。
ナイフのように鋭い羽は、リザードマン達の身体に突き刺さり、斬り裂いていく。
全てを命中させることはできず、船の通路にも傷が付いてしまう。
「……こいつ等には、牽制程度にしかならないわね」
ゴブリンやオーク程度の下級の魔物は勿論、通常のリザードマンならば今の攻撃で前衛だけは殺せた。
しかし、強化された彼らには、これと言った効果は無い。
少し突き刺さって、進軍を多少遅らせた位だ。
その結果を前にフォスキアは両腕のみを変異させ、リザードマン達を睨みつける。
「さぁ、第二ラウンドよ」
「私も加えてね!」
気合を入れなおしたフォスキアの背後の扉が開き、そこからリージアが転がり出る。
姿を現した瞬間、リージアはライフルの引き金を引く。
フォスキアの身体スレスレに放たれたビームは、リザードマンに命中。
質量を持つ程圧縮された魔力が命中し、後方へと突き飛ばされる。
「リージア、そっちは大丈夫なの?」
「後の事はレーニア達の仕事だからね、私は、邪魔されないようにこいつ等をやるだけだよ」
そう言いながらリージアはライフルを捨て、予備のバッテリーに切り替える。
下手したら艦を傷つける危険が有るので、ここからは武器を切り替える事にした。
両足の大腿部分に格納されている二本のナイフを取りだし、その内の一本をフォスキアに手渡す。
「これ」
手渡したのは、ひと昔前のアクション映画で出てくるような大型のナイフ。
それを見たフォスキアは、軽い笑みと共にナイフを受け取る。
「あ、ありがとう、丁度剣が折れちゃって……でも、使えるの?」
「大丈夫、それもハルバードと同じ技術で作ってあるから、魔力流し込みながらグリップ部分のスイッチ押してみて」
「えっと、こう?」
そう言いながら、リージアは簡単に使い方を教えた。
彼女に従いながらナイフに魔力を込めたフォスキアは、グリップについているスイッチを押す。
すると、刃の部分が振動を始めた。
「あら、これでいい?」
「もちろん……ここから先は、通さない!」
叫んだリージアは、フォスキアと共にリザードマンの群れへと突っ込んでいく。
――――――
その頃。
レーニアとブライトの駆るアーマードパックのハッキングに気付いた魔物達は、続々と彼女達の元へと集まっていた。
「はぁ、はぁ、推進剤が」
倒しきれていない魔物達は傷を再生して立ち上がり、再び襲い掛かろうと戦闘を再開。
もたもたしていると、何処からか新手の魔物が出現する。
剣は傷みつつあり、推進剤も無くなってしまう。
完全に劣勢に立たされたサイサリスは、飛行ユニットを放棄しながら剣を構える。
「き、来なさいよ!この化け物共!」
他のアンドロイド達も補給を終えて戦闘を再開しているが、予想以上の数を前に手こずっている。
サイサリスは震える手で剣を握り締め、向かってくるオークに狙いを定める。
元々接近戦は苦手なので、弱腰な彼女へと斧を構えるオークは襲い掛かる。
「チェストォォ!!」
「きゃ!」
そんな彼女を見かねたのか、青年が全体重を入れた一撃でオークを両断。
驚いたサイサリスは、思わず尻餅をついてしまう。
彼女を守る様に、青年は前に立つ。
「無事か!?」
「え、ええ、何とか」
「それは何よりだが、早く構えろ!まだ来るぞ!!」
顔を赤くしながら頭を下げたサイサリスだったが、状況はまだ変わっていない。
サイサリスと共に退却を開始しようとしても、彼らはそれを許そうとはしなかった。
魔法や弓矢、銃弾によって迎撃を行っても、時間稼ぎにもならない。
ほとんど乱戦になりそうな程、魔物の波に飲み込まれた時。
「そこを動かないでくださいよ!!」
「え?」
ホスタの大声が、全員の耳に入り込んだ。
バッテリーの切れたアーマードパックを脱ぎ捨てた彼女は、上空に上がりながらライフルを構える。
ミサイルも含めて、全ての武器を魔物へロックオン。
下に居るサイサリス達が動かない事を祈りつつ、ホスタは引き金を引いた。
「う、ウソでしょ!」
「まだ俺達が居るんだぞ!!」
ホスタの行動にも驚く彼らは、爆炎と銃弾の雨の中で目を瞑る。
爆発の熱に包まれ、魔物達の断末魔が響き渡った。
二丁の二十ミリ機関砲と対空ミサイルの飽和攻撃によって、魔物達は次々と倒されていく。
「……まさか(私達に被害が出ないように、全弾化け物共に当てたの?)」
ミサイルは外側の魔物だけを捉え、破片もサイサリス達に当たらないような場所を狙っていた。
空中の敵さえも燃やしているというのに、サイサリス達は無傷だ。
勿論ライフルは一発も外しておらず、地面にすら当たっていない。
「やれやれ、またこれをやる事に成るとは思いませんでしたよ」
「……」
ミサイルポッドをパージしながら降り立ったホスタは、うずくまるサイサリスに手を伸ばした。
少し見下している様子だったため、サイサリスは一瞬だけ拒んだ。
しかし今はホスタの実力を認めるしかなく、その手を取った。
「……認めた訳じゃないからね」
「別に良いですよ、これを」
「……ありがと」
小声で呟きながら、ホスタは二十ミリ機関砲をサイサリスへ渡した。
受け取った機関砲を操作したサイサリスは、残弾を確認する。
予備の強化弾も受け取ると、ついでにバッテリーも取り換える。
「空中は私がやります、貴女は地上を!」
「私に命令しないで!!」
等と言うが、サイサリスは地上の敵を狙撃。
強化された二十ミリ弾によって、機械魔物達を次々撃ち抜く。
「ヌンッ!!」
ホスタと行動を共にしていたヴォルフ達も到着し、サイサリス達と合流。
それと同時に、ヴォルフのハンマーは近くに居た魔物達を叩き潰した。
「ヴォルフ殿!」
「無事だったか!シロウ!だが、再会を喜ぶのは後だ!!」
合流した事を喜び合う事さえ許さず、魔物達は攻撃を続ける。
恐怖さえない彼らは、仲間が叩き潰されようとかまわず進む。
苦戦を強いられる事は確実であるこの状況で、頼みの綱はやはりレーニア達だ。
『レーニアさん!まだですか!?』
「もう少し耐えてくれ!無駄にセキュリティが硬いんだ!!」
ホスタからの言葉に返答しながら、レーニアは目を見開く。
久しぶりの一進一退の攻防に楽しさも出て来るが、少しでも遅れれば皆消し炭だ。
その事に焦りも出て来てしまうが、仕事は確実にこなす。
「止めてやる、こんな所で死んでたまるか!!」
「もちろん!折角皆そろってくれたんだから!!」
そろってくれた全員の為にも、双子は更に気合を入れて作業を続ける。




