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記憶の箱舟 後編

 リージアとフォスキアが飛び立ってすぐ。

 レーニアとブライトは、リージアからの連絡が来るまで待機していた。


「何か、すんごい事に成ってない?」

「なってるんだよ、でも、今のアタシ達は戦う事が出来ないんだから、見守るしかできないよ」


 二人が身に着けるアーマードパックの装備は、電子戦に特化した物。

 強力なレーダーや通信装置で固めているので、自衛用のライフル位しか装備できない。

 通常兵器相手なら十分な火力を出せるが、E兵器相手では豆鉄砲でしかない。

 前線に出て繊細な装備を破損されるよりも、出番が来るまで身を隠す事に成っている。

 しかし、それまでの間、二人は仲間を見殺しにする羽目になっている。


「もどかしんだけど」

「我慢しな、最後の最後はアタシらが決め手なんだから」

「わーってるけど……アイツ、何かチャージしてない?」

「ああ、あれ、絶対ヤバいだろうね、発射されるギリギリで、何て事にならないと良いけど」


 敵艦の下部に有る巨大な砲台に、二人は気づき始めていた。

 砲口の光はどんどん強く成っており、嫌な予感がどんどん強まって行く。

 流石の二人でも、一瞬でハッキングを完了する何てことは不可能。

 せめて五分以上の余裕をもって、渡しておいた装置を艦橋の端末にはめてほしい。


「でも、またあれが役に立つ何てねぇ、もしかしてアイツ、あれの為にあーしらの事引き入れたん?」

「それも有るんだろうね、ま、あの船に使う事にする事まで予想してたかは分からないがね、リージアかモミザ、どっちかが艦内に入り込めれば、後はマスターキーが道を開けてくれるよ」


 レーニアとブライトが二人に渡したのは、マスターキーと呼ばれるハッキングツール。

 二人がしでかした政府の機密へのアクセスは、どんなシステムでもアクセスできるツールを作る為の物。

 あくまでも自分たちの能力を誇示する為だったが、おいたが過ぎたせいでこの様だ。

 ただし今回用意できたのは、その簡易版。

 外部からのアクセス拒否をかいくぐる程度の事しかできない。


「……動いた」

「やっと出番?」

「いや、敵艦に突撃してるだけ、もう少し先だろうね」


 じっと敵の艦を観察していたレーニアは、一機分のスラスターの光を確認。

 視覚センサーの望遠機能を用いて、リージアの姿を納めた。

 彼女の接近を探知した敵艦は、大量の兵器を用いて迎撃にかかる。

 形成された弾幕に飲まれるリージアだったが、飛行ユニットの機動力と自らの技術で回避している。


「フォスキアも居るぽい」

「ああ、だが、モミザもヤバいみたいだね、でないと、彼女を使う訳がない」


 共に出撃するフォスキアも、リージアのマネをするように攻撃を回避。

 まだ空中には慣れていないのか、動きがぎこちない。

 それでも、迎撃にでた魔物を排除し、一緒に艦内へと入り込もうとしている。


「こっちも準備の最終チェックに入るよ、こっちがミスをしたら、全部パーだよ」

「わーった」


 自分たちの任務を成し遂げるべく、二人も最後のチェックへと入る。


 ――――――


 同時刻。

 リージアとフォスキアは、敵からの妨害で進路を塞がれていた。


「ねぇ!アンタ等っていつもこんな感じ!?」

「大体こんな感じだった!」


 大量の機銃とミサイルに加えて、レールガンとビーム兵器が二人に襲い掛かる。

 艦載されている全ての兵器が、二人の事を狙い出している。

 加えて、空中戦を行える魔物達までもが襲い掛かってくる。

 やはり二人で来たのは正解だった。


「でも後少しだから!もうちょっと耐えて!」

「そうしたいんだけどって、何か来たわよ!」


 必死に作戦を進める二人の元へ、八機程の機銃が襲い掛かる。

 ワイヤーで繋がれた機銃達は、最低限のスラスターで宙を飛び、射撃を行いながら間合いを詰めて来る。


「誘導砲台!?こんな物まで再現してた何て!!」

「オワッ!ど、どうすればいいの!?」


 今度は四方八方から来る銃撃まで加わり、更に回避運動が困難になる。

 困惑するフォスキアの前で、リージアはライフルを構える。


「見えにくいけど、破壊すれば問題無し!!」


 そう言いながら、リージアは群がって来る機銃達を破壊していく。

 出来れば艦に傷を付けたくないが、背に腹は代えられない。


「簡単に言わないでちょうだい!そして簡単に実行しないでちょうだい!!」


 大きさで言えば人の身長程だが、ビュンビュン空を飛び回っていると認識さえ困難だ。

 今の状況では、豆粒程度のサイズしか認識できない砲台を次々破壊して行っている。

 改めてリージアの腕前に驚きながらも、半分呆れも有った。

 そんな彼女の戦い方は、何度も同じ事をしてきたかのようだ。


「……な、慣れてるのね!」

「こういうのが得意なヤツが居たの!そいつと何度も模擬戦やったから、めっちゃ慣れた!!」

「そいつに感謝しないといけないわね!!」


 リージアが砲台を破壊している合間に、フォスキアは三枚のチャクラムを取りだす。

 通常よりも早く魔力を込め終えると、魔力の分面積を増したチャクラムを投げつける。

 その三枚はフォスキアの思考通りに動いていき、ミサイルや魔物達を次々と斬り裂いて行く。

 銃弾も弾き飛ばし、リージアと共に進む道を作り出していく。


「その魔法陣組むの大変だったでしょ!!」

「ええ!消耗品を手書きしてるから毎度毎度大変よ!!」


 リージアもライフルとハルバードを構え、近づく魔物達を迎撃。

 飛行ユニットが出せる限界近くの性能を叩き出し、血しぶきを辺りにまいて行く。

 状況的に魔法が使えないフォスキアも、強化された身体能力をフルに生かして魔物の数を減らす。

 地道に道を切り開き、とうとう艦内への侵入ルートを確保する。


「一気に行くよ!フォスキア!!」

「分かったわ!!」


 チャクラムの誘導を辞めたフォスキアは、リージアと共に一気に加速。

 最後の砦と言わんばかりに配置されている魔物達を蹴散らし、遂に艦内への侵入に成功する。


「ギャ!」

「キャ!」


 勢いを付けすぎた二人は、魔物達の死骸をクッション代わりにして強引に着地。

 血や肉片が身体にまとわりつき、なんとも不快な気分だ


「あたた~、ウワ!無茶しすぎた!」

「だ、大丈夫なの?」


 立ち上がったリージアは、無茶な運用のせいで所々スパークの走る飛行ユニットを脱ぎ捨てる。

 下手したら燃料に誘爆する可能性も有ったので、慌ててパージして行く。

 エーテルリアクターは背中に残し、ケーブルも両腕に再度繋げ直す。


「ふぅ、何とかなった」

「良かったわね、で?この後どうするの?」


 飛ぶ必要が無くなったフォスキアも、通常の人間姿へと戻る。

 辺りには彼女の羽が散乱する中で、この後の事を訊ねた。


「ここまで来れば、後は流れで何とかなるよ、艦橋を目指そう」

「え、ええ」


 背中にハルバードを戻したリージアは、ライフルを構えながら艦橋を目指す。

 迷いの無い彼女の足取りに首を傾げながら、大剣を背負い直した。

 背後からの警戒を行いつつ、二人は早めの足取りで通路を進む。


「この船って、貴女の世界だと普通な感じなの?貴女達が使ってたのと、随分外観が違うけど」

「……いや、これを合わせても二隻しかないよ、一隻目は、破壊、された」


 低い声で、リージアは答えた。

 同時に、彼女の脳裏を爆炎が過ぎった、

 炎に包まれる艦船に、焼け焦げていく姉の姿。

 次第にリージアの視界に映る通路は、記憶の中に有る物と同じになる。


「ウッ!」

「リージア!?」


 咄嗟に口を押えたリージアはその歩みを止め、膝から崩れ落ちてしまう。

 嫌な汗が顔から滲み出て来た上に、有る筈の無い内容物が昇って来る感覚に襲われる。

 解放される事の無い吐き気に、リージアは悶絶する。


「オエッ!!ヴォエッ!!」

「しっかりして!どうしたの!?」


 限界まで開かれた口からは、ただツバだけが吐き出される。

 次第に涙までもが垂れ流され、苦しみ続ける彼女へとフォスキアは駆け寄った。

 まるでトラウマに苛まれる兵士のように、リージアは苦しみ続ける。


「ハァ!ハァ!」


 だが、フォスキアの声はリージアに届かない。

 息も乱れ、視界も歪んで来る。

 同時に湧き出て来るのは、人間達への怒りと憎しみ。

 拳を握り締めたリージアは、その怒りを乗せて床を殴りつける。


「ヌゥッ!」

「……」


 この一撃で歪んだ床を目にして、フォスキアは少しリージアから離れてしまう。

 驚いたというのも有るが、今のリージアの抱いている怒りが僅かに伝わってきた。


「……リージア?」

「……ゴメン、早く行こう(過去の決着を付けないと)」


 汗と涙をぬぐいながら立ち上がったリージアは、ライフルを構え直す。

 そんな彼女を心配そうな目で見つめるフォスキアも、片手剣に手を伸ばす。


「……何?」


 鞘から剣を引き抜こうとした瞬間、二人が来た方から複数の足音が響いてきた。

 他のアンドロイドチームも突入してきたのかと思ったが、リージアは自らのセンサーで何が来ているのか探知する。


「ヤバい、リザードマン共が入って来た!」

「う、ウソでしょ!!」

「……急ごう」

「大丈夫なの?」

「もう大丈夫……踏ん切りはついてないけど」

「え?」


 後半は声量が小さすぎて聞き取れなかったが、暗い表情を浮かべるリージアと共に、フォスキアは進む。

 幸い敵のほとんどが出撃していたという事も有り、内部の守りは薄い。

 敵もリージア達と同じルートを通る必要があると考えれば、正面衝突する危険は薄いだろう。


「後ろから撃たれる危険はないの!?」

「アイツらもそこまで馬鹿じゃない、外での戦いから考えても、アイツらは母艦を傷つけないように戦ってる、内部の強度は外程高くないし、艦内で発砲するような事はしないよ!」


 外での戦いから考えても、彼らは母艦を傷つけるような事はしていなかった。

 陣形や統率に乱れが生じていても、艦の防衛と言う指令だけは覚えているらしい。

 流石に内側にまで電磁装甲の類を導入するとは思えないので、発砲すればただでは済まないだろう。

 それを考えると、艦内で発砲するようなマネはしない筈だ。


「え?じゃぁアンタその武器マズいんじゃ……」

「……私は外すヘマはしないから」

「その間は何よ」


 ハルバードでは閉所の戦闘には向かないから、ライフルを構えているのは解る。

 しかし、リージアが使っているのは彼らと同じ物。

 外れれば、船体に穴が開く危険性が有る。


「それより!発射まであと十三分をきった!」

「そうだったわね!後ろの連中は無視して、さっさと行きましょう!」


 後ろから聞こえて来る足音の数が増えている事にも焦りを覚えるが、今は砲台の発射時間だ。

 外での妨害で手間取ってしまったので、残り時間を考えると余裕がない。

 後ろからの引っ掻くような足音に追われながら、二人は艦橋へと急ぐ。


「まだ!?」

「この先を右!」


 幸いな事に、艦内の構造はリージアの記憶とほとんど合致する。

 記憶を頼りにしながら、リージアは歩みを進める。

 しかし奥へ行く度に、彼女の顔色も悪くなっていく。


「ハァ、ハァ、こんな時に」


 おぼつかない足を無理矢理動かしながら、リージアは走る。

 視界も呼吸も乱れ、涙が垂れ流しになる。

 人間に近づけるために施された技術は、次々と足かせとしてのしかかる。


「あ!」

「リージア!」


 重くのしかかる苦しみは、遂にリージアを横転させた。

 既に満身創痍でも立ち上がろうとする彼女に、フォスキアはかけよる。


「らぃりょ、う、大丈夫だから!」

「来たわ!」

「チ!」


 そうこうしている内に、後方から迫りくるリザードマン達が到着。

 彼らはマチェットを構えながら、波のように迫って来る。

 少しでも進行を遅らせるべく、リージアはライフルを構える。


「これで……」


 狙いを定め、引き金を引こうとした時。

 リージアは目を見開きながら硬直してしまう。


「はぁ、はぁ……」

「リージア?如何したの?」

「あ、ああ」


 リージアは幻覚を見ていた。

 迫りくるリザードマン達の姿は、かつての家族達に切り替わっていた。

 悲しさと悔しさのにじみ出る表情を浮かべながら、襲い掛かる家族達。

 そんな姿を目にしたリージアは、身体を震わせる。


「う、うう~」


 涙を流したリージアは、銃口を下ろしてしまう。

 うずくまりかけているリージアを見かねたフォスキアは、背中の大剣に手をかける。


「リージア!!」


 扱うには狭すぎたので、フォスキアは大剣をリザードマン達へと投げつけた。

 すぐ間近に迫って来た三体のリザードマンは、大剣の重量と威力によって潰される。

 おかげで後続も足を取られ、進軍はかなり遅くなる。


「ほら!行くわよ!!」

「あ」


 彼らの進軍が遅くなった事を確認したフォスキアは、リージアをひきずり始める。

 大剣が無くなった事で身軽になったのを良い事に、荷物のようにリージアを運ぶ。

 強力な魔法扱えないもどかしさを覚えながら、フォスキアはその足を止めようとしない。


「ごめん」

「そう言うのは、終わってからにしなさい!」

「……あの扉の先」

「あれね!」

「え、ちょ!!」


 艦橋への扉が見えた途端、フォスキアはリージアの事をぶん投げた。

 後ろを振り向いたフォスキアは、再びリザードマンの方を向く。

 片手剣とチャクラムに手を伸ばし、防衛の姿勢を取る。


「フォスキア!?」

「ここは私が引き受けるから、早く行きなさい!時間も無いでしょ!」

「……ありがとう」


 残り時間を考えれば、戦闘を行えないリージアが残るよりもいいだろう。

 時間を稼ぐべく、フォスキアは向かってくるリザードマンへチャクラムを投げつける。


「早く!」

「分かってる!」


 ロックのかかっていた扉をこじ開けたリージアは、急いで艦橋の中に入り込む。

 その姿を確認したフォスキアは、笑みを浮かべながらリザードマン達との距離を詰める。

 リージアの作った道具も無いので、何時もより多めの魔力を込めながら。


「ここからは、一歩も通さないわよ、トカゲ共!」


 雄叫びを上げたフォスキアは、トカゲの群れの中へと迫る。


 ――――――


 金属音とフォスキアの雄叫びを耳に入れながら、リージアは艦橋内で端末を握りしめていた。


「……こんなの」


 艦橋の設備は、前の艦とほとんど同じ内装だった。

 以前はアンドロイド用に最小限の席だったが、これは人間用で席がいくつも有る。

 何時も長女が座っていた艦長席の横には、副長用の席が設けられている。

 リージアにとっては、嫌がらせのような物だ。


「……急がないと」


 セットしておいたタイマーの残りが僅かである事を見たリージアは、家族たちの幻影をかき分けながら端末を目指す。

 徐々に幻聴まで彼女に襲い掛かり、リージアの歩みを阻む。

 それでも、リージアは端末まで重い身体を引きずる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 端末に手をついたリージアは、接続端子を発見。

 持って来たマスターキーと同じく、共通規格の端子である事も確認する。

 マスターキーのスイッチを入れ、狙いを定める。


「これは、私の、いや、私達の船だ、返してもらうぞ!!」


 怒りを乗せながら、リージアは端末に装置を差し込んだ。

 レーニア達のウイルスを流し込み、アクセスの下準備は整う。

 ドローンを通じたレーザー通信によって、リージアはレーニア達双子と連絡を取る。


「二人共!始めて!!」

『任せな!!』

『待ちくたびれた!!』


 艦のセキュリティとぶつかった二人は、ウイルスを流し込みながらハッキングを開始する。

 その作業を見たリージアは、足から力が抜けてしまう。

 気のゆるみ等も影響しているが、色々と限界だった。


「作戦成功まで、休みたい、けど」


 鳴り響いている金属音を耳にするリージアは、ライフルを構えた。

 自分たちの船で、これ以上大事な人を喪いたくなかった。

 たとえこの船がかつての自分たちの拠点でなくても、同じ場所である事に変わりは無い。


「もう二度と、私達の家で、犠牲を出させてたまるか」


 重たい足を引きずりながら、リージアは通路を目指した。

 これ以上仲間を喪わない為に。



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