ミッションブリーフィング 後編
その日の深夜。
ギルドへ移動したリージア達は、傭兵達との話を終えていた。
二階の会議室をお借りし、ヴォルフをはじめとした傭兵達へと作戦を提示。
多少の反対も有ったが、ゼフィランサス達の信頼も有って、何とか説得に成功する。
会議は終了し、リージアとフォスキアは二階の別のエリアへ移動していた。
目的地は、傭兵用のコテージだ。
「こっちよ」
「にしても、こんな所に傭兵用の宿泊施設が有った何てねぇ、しかも異空間に」
「それも古代魔法の恩恵よ、私達みたいな高ランクの傭兵は、色々物入りだから」
傭兵用の宿泊部屋は借家とは言え、大体の用途は彼らの物置。
定住する傭兵も居るが、多くは辺りを放浪する者が多い。
手荷物を少なくするために装備や私物の保管庫として扱い、必要な時に必要な物を装備する形式を取る。
「でも、ごめんなさいね、折角作ってくれたのに、私の大剣に移植したいなんて」
「良いよ良いよ、戦場には扱い慣れた武器を持っていきたいって、良く解るから」
「ありがとう、色々と理解してくれて」
「あはは、私とモミザの使う武器や、この義体の一部のパーツは、大戦時代の物だからね、わざわざ司令官が根回しして引っ張り出してくれたの」
何故二人が部屋へ向かっているのかと言うと、目的はフォスキアの大剣だ。
バルバトスの太刀も良いのだが、やはりフォスキアは自分の愛剣を所望していた。
リージアの作った装置は外付けなので、取り外してしまえば移植できる。
「あ、ここね」
「へ~(木造のロッカーしか無いんだけど)」
「えっと……あ、これが良さそうね」
大小さまざまな木造ロッカーの並ぶ中で、フォスキアは少し大きめな物を選んだ。
家財道具等の出し入れの為に、サイズは色々な物が有る。
その中で、大剣を出すのに邪魔にならない物を選択した。
「さて、じゃぁ……」
「ん?如何したの?」
一緒に入ろう。
そう言いかけたフォスキアは、ライセンスカード取りだした辺りで硬直してしまった。
よくよく考えれば、この部屋の中は町を出る前に飲んだくれた後のまま。
飲み散らかした酒瓶や、脱ぎ捨てられている衣服等が散乱している。
しかもあの日は今までに無い位泥酔したので、気づいたらゴミ屋敷になっていた
立てかけていた剣や消耗品等も倒れ、余計に散らかってしまっている。
「(ヤバい、この中散らかったままだった!)」
冷や汗なのかどうかも良く解らない汗を滝のように流しながら、フォスキアは変な妄想を浮かべる。
『フォスキアって、意外とズボラなんだね、同行の件は破棄させてもらうね』
何て事を言うリージアの幻覚が見えてしまい、焦りを見せてしまう。
「ちょ、ちょっとごめんなさい!すぐに持って来るからここで待ってて!」
「え~、この中どうなってるのか是非見たいんだけど」
「あ、後で見せるから!とにかく待ってて!!」
顔を真っ赤にしたフォスキアは、リージアに有無を言わせる事無くロッカーの中へと飛び込んだ。
あまりに勢いよく扉を閉めたので、リージアの近くは少し揺れた。
「……」
外に取り残されて十数分後。
とりあえず、作る予定の物の設計図のチェックを行いながら時間を潰していた。
「お、お待たせ」
「遅かったね」
「お、乙女には色々有るのよ」
設計図のチェックを止めたリージアの前から、大剣を持ったフォスキアが出て来た。
顔を赤く染めるフォスキアは、片づけに手間取っていた理由を適当にはぐらかした。
「さ、行こうか」
「え、見ないの?」
「意外と時間食っちゃったからね、そろそろ作業進めないと」
「(折角片づけたのに)」
思ったより時間がかかってしまったので、リージアは宇宙艇を目指すのだった。
――――――
その頃。
同じ階の会議室にて。
大体の皆は外へ出て行ったが、ホスタとサイサリスは後片付けの為に残っていた。
「改めて挨拶しておくわ、『元』ガンマチームのホスタさん」
「……」
片づけを終え、撤収する前にサイサリスはホスタへと絡んでいた。
憎たらしい笑みを浮かべた彼女は、元と言う部分を強調して挨拶をした。
一応二人は何度か顔を合わせているが、面と向かって話すのはこれが初めてだ。
サイサリスの笑みを前にして、ホスタは聞こえないフリをして逃れようとする。
「待ちなさいよ、折角可愛い後輩が挨拶してるのよ」
「……仕事が有りますので、これで」
「あらそう、じゃぁ私も仕事に移るとするわ、でも、後ろには注意しないと、油断したらどこかのアバズレに命を狙われてしまうわ」
「チ、あの時はああするしか無かったんですよ」
気にしている事を突かれたホスタは、舌打ちと共に鋭い視線をサイサリスへと向けた。
力強く握りしめられた拳は、彼女の怒りを表す。
その目に気付いたサイサリスは口に手を当て、更に笑みを浮かべる。
「あら~?何かしら?その目、別に貴女の事だなんて言ってないわよ」
「……」
「そんな目を浮かべるって事は、自覚が有るって事よね?見方殺しさん」
「ッ!」
何度も逆鱗に触れられ、目を見開いたホスタは勢いよく振り向く。
同時に硬く握られた拳が、サイサリスへと向かう。
「(ふふ)」
しかし、それはサイサリスの策略だった。
逆上したホスタに殴られる事で、彼女の悪名を際立たせる。
それによって、ゼフィランサスの目を少しでも向けさせるのが目的だ。
「な!」
「え」
ホスタの拳は、サイサリスには命中しなかった。
代わりに、その拳は間に入ったリージアの顔面を捉えていた。
鈍い音も響き、人工皮膚はホスタの拳の形に変形する。
今回は殴るつもりはなかった事もあり、ホスタは申し訳なさそうに拳を離す。
「あ、えっと」
「……いやぁ、ありがとうねホスタ君、丁度蚊が止まってたんだ、さっきから鬱陶しくて」
「……」
そう言いながら、リージアは顔についていた蚊の死骸を引きはがし、その辺に捨てた。
さっきまでこの部屋には飛んでいなかったので、恐らくリージアがその辺で捕まえたのだろう。
刺される心配こそないが、やはり鬱陶しい物は鬱陶しい。
「さ、皆待ってるから、早く行こ」
「は、はい」
まるで殴られた事なんて気にしていないかのように、リージアはフランクに接した。
あまりの緩さに困惑するホスタだったが、流されるように外へと出ようとする。
残されそうなサイサリスだったが、すぐに我に返る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「……何?時間内に準備済ませないといけないんだから、貴女も持ち場に着いたら?」
「う、うるさいわよ!こっちはその仲間殺しに殴られかけたのよ!さっさと隊長に報告しなさいよ!それとも、怠け者は報告もできないの!?」
彼女の言う通り、本来ならば暴力沙汰は容認できるような事ではない。
リージアのようにふざけている者への制裁ならまだしも、正当な理由も無く殴るのは御法度だ。
それを訴えるサイサリスは、ついでにリージアの事も貶した。
リージアにそんな戯れ言は通じないという事も知らずに。
「……私が怠け者なら、貴女はただの無能だよ」
「な、何ですって!?私はガンマ、ガンマチームなのよ!貴女みたいな雑魚とは違うのよ!」
「ふ~ん、バカって言う奴がバカ、とはよく言うけど、雑魚って言う奴が雑魚何だろうね」
足を止めたリージアは、あざ笑うようにサイサリスの方を向いた。
確かにアルファ、ベータ、ガンマのいずれかになる事は、彼女達にとって栄誉有る事。
そんな彼女達を無能呼ばわりするような人物は、先ず居ない。
「ああ、そう言えば貴女って35号だったっけ?雑魚故の35か~、可愛そうに、相手の力量も正確に評価できない奴何て、所詮その程度か」
ケタケタと笑いながら、リージアはサイサリスの事を煽った。
だが、自分でやろうとした事と同じ罠にひっかかる程、サイサリスも馬鹿ではない。
悔しそうに歯を食いしばったが、すぐに髪をかき分けて平静を取り戻していく。
「ふ、ふふ、でも貴女だって、13番目に加えて、名前まで変えちゃって、不吉でしかないじゃない」
「不吉?ああ、いいじゃん、そんなジンクス持ちながら勝ち続けるって、カッコいいじゃん」
「本当に頭のネジが外れてるのね、だからそんな反応弾女何て囲えるのね」
「……反応弾女、ね」
相変わらずホスタの事を危険人物として捉える彼女を前に、リージアは少し表情を暗くした。
自分の事をどれだけ悪く言おうが、正直構わない。
しかし、自分の仲間を貶されて黙っているようでは、隊長失格も良い所だ。
「相手の事貶す暇が有るんなら、自分の事磨く事に集中したらどう?」
「ッ」
「ガーデンコードのおかげで、私達は他のアンドロイドと違って鍛錬で強く成れる、ガンマ以上の皆、勿論ホスタ君も、大戦時を必死に戦い抜いてからも、ずっと自分を鍛えぬいて来たからこそ、今の地位に居る、それも解らないようじゃ、貴女は何時まで経ってもホスタの後釜何て務まらないよ」
「……」
リージアの口から放たれる正論に、サイサリスは言葉を失った。
彼女達のようにガーデンコードを持つアンドロイドは、人間のように訓練で強く成れる。
個体差こそあるが、サイサリスだって努力次第ではホスタを超えられる可能性は有る。
彼女だって、元より優秀なスナイパーなのだから。
「それに、ホスタ君を侮辱したかったら、まず四千メートル先の狙撃にでも成功してから出直して来な」
「……」
「さ、喧嘩はこれで終わり、私達に仲たがいしてる余裕無いんだから」
セリフを吐き捨てたリージアは、ホスタを連れて部屋を出て行った。
残されたサイサリスは、ただ悔しさに打ちのめされていた。
――――――
部屋の外へでたリージアとホスタは、部屋のすぐ近くに居たフォスキアと共に一階へと降りていた。
「……あの」
「ん?」
「何故、私を庇ったんですか?私は貴女に」
一緒に階段を降りる途中で、ホスタはずっと浮かない顔をしていた。
この世界に来てからと言う物、リージアにはずっと失礼な態度を取ってきた。
それなのに庇った理由が、ホスタには理解できずにいる。
「気にしないで、何時も失礼してるのこっちだからね」
「……」
それが当たり前であるかのように、リージアは笑みを浮かべながら答えた。
彼女にとって、隊長として当たり前の事をしたに過ぎない。
それも、かつての恩師が教えてくれた事でもある。
「ですが」
「あのね、これ以上変な事言わないで」
「……」
足を止めたリージアは、ホスタの方を向いた。
ついでに人差し指をホスタの唇に当て、言葉を封じる。
優しい笑みを浮かべたリージアは、上目遣いでホスタの事を見つめた。
「貴女が私に何しようが、私は家族を守るだけだよ」
「か、家族?」
「そ、他の同胞たちも皆私の家族だよ、貴女も含めて」
唇から指を離したリージアは、フォスキアを連れてガンマ達の宇宙艇へと移動していく。
残されたホスタは、リージアの背中を見届けた。
「……アイツ、やっぱり相変わらずか」
「相変わらず?」
一足先に作戦の準備を始めていたモミザは、先のリージアの発言に悲しい目を浮かべていた。
モミザの発言に首を傾げるホスタは、階段を降り終えて彼女の隣に立つ。
ホスタの質問に答えようとするモミザは、少し胸を傷めながら思い出す。
「俺達が大戦時に所属していた部隊の隊長の口癖みたいなものだったのさ、俺達は家族だってな」
「……その人は?」
「大戦終結時に死んだよ、俺達の目の前でな……それでも、リージアはアイツの教えだけはずっと覚えてやがる、いや、忘れちゃいけねぇってよ」
「……」
誰よりも尊敬していた人を喪う。
その苦しみから解放されたホスタだったが、リージアそうは行かない。
本当に彼女達の目の前で当時の隊長が死んだというのであれば、その痛みは途方もないだろう。
ずっと勝手な事を言っていると思っていたが、本当にリージアはホスタの気持ちを分かっていた。
「さて、時間が無いんだ、早く準備進めるぞ」
「は、はい!」
――――――
ホスタとモミザが準備を進めた頃。
リージアは大剣を携えたフォスキア共に、ガンマ達の宇宙艇のラボへ入っていた。
「お~、私達の奴より結構原型残ってる、これなら作業に問題無いね」
先ほどまで使っていた方の宇宙艇のラボは、墜落と攻撃の影響で使い物にならなくなっていた。
作った秘密道具は奇跡的に無事だったが、機材はほとんどオシャカだった。
幸いデータは常時リージアの中の別ファイルにアーカイブさせていたので、研究用のデータも無事だ。
義体とコンピュータを接続し、そのデータを共有させる。
「よし、これをこうしてっと」
作っておいた設計図を用いて、色々とプログラムを構築していく。
装置の外側はヘリコニアに任せているので、リージアは内側に集中する。
「……」
「……それで、何かさっきから元気ないけど、どうかしたの?」
「え?あ、その……」
先ほどから、フォスキアの態度はよそよそしかった。
タイミングとしては、リージアがホスタ達喧嘩を仲裁した辺りだ。
何やら言い争っていたので仲裁に入る前は、そでも無かった。
キーボードを素早くタイプしつつ、リージアはフォスキアの事を心配した。
「そ、その、ほ、ほら、さっきは状況が状況だったけど、その、アイツらの血が私に入って、その、私も、アイツらの仲間入りになったりとか」
「……」
本当の所を隠している様子だったが、フォスキアは不安になっている事を打ち明けた。
確かに彼女の体内にも例の微生物が存在しており、心臓も魔石と同化している。
しかし、本人の心配も解る。
戦っている最中に、返り血が体内に混入する事は珍しくない。
少し怖くなっていてもおかしくない。
「うーん、その辺は後で調べるよ、アイツらの特性考えるとその可能性もすてきれないからね」
魔物の持つ微生物達は、出血等によって体外へ排出される。
その際に、僅かな魔力を周囲から吸収しながらキノコ等の植物へと乗り移る。
微生物を吸収したキノコを他の動物が食べ、今度はその動物を宿主とするケースが有る。
そうして、魔物達は種類を増やしていく。
フォスキアもそうなる可能性は、十分あるのだ。
「でも、仮にそうなっても、私達と戦う何てことにはならないよ、今度の作戦さえ成功すれば」
「……」
リージアの説明を受けて、フォスキアは良い知らせと悪い知らせの両方を聞かされた気がした。
実は先ほどのホスタ達の会話を聞き、ずっと悩んでいた。
人間嫌いのリージアだが、同胞のアンドロイドはみんな家族のような物。
それが解ってから、少しやるせない気持ちだった。
「(あの魔物達の血を取り込めば、私もこの子達のように)」
魔物達のように操られるのはゴメンだったが、少しでもリージア達の事を知れるのなら悪くないと思っていた。
シャックスの能力によって、相手の力の一部を取り込むことができる。
それを応用すれば身体を機械に置き換え、リージア達に近づける。
「はい、ちょっとこれ被って」
「あ、うん」
悩んでいると、リージアはフォスキアに妙な物を頭に被された。
金属製なので重みで少し頭がぐらつくが、すぐにバランスを整える。
頭に妙な違和感が有るが、辛くはない。
「ね、ねぇ、リージア」
「何?」
素早くタイピングするリージアの横で、フォスキアはモジモジと言葉を詰まらせた。
集中を切らせてしまう事を申し訳なく思いながら、フォスキアは自分の考えを打ち明ける。
「その、もし私がアイツらのような存在になるって言ったら、貴女は、どう思う?」
「……」
忙しく動いていたリージアの指は、フォスキアの言葉と共に動きを止めた。
部屋に鳴り響いていた軽い音も止まり、コンピュータのファンの音だけが部屋に響く。
急に環境音だけになってしまい、フォスキアの耳には自分の心音ばかりが入り込んで来る。
「フォスキア」
「は、はい」
「それは貴女の決断?それとも流れ?」
「え?」
「それがしっかり考えた決断なら、私は賛成するけど、一時の感情に流されて決めた事なら、私は反対だよ」
何時ものとぼけた顔ではなく、神妙なリージアの顔に少しキュンと来たが、すぐにその言葉の意味を考え出す。
身体を機械に変えれば、確かにその後の生活はかなり変わるだろう。
好奇心や流れで言って良い事では無かった。
「……ゴメン、そこまで、考えて無かったわ」
「もう、好奇心だなんだで人生を棒に振るような事は沢山あるんだから、それに、改造したら元に戻るか分からないし、成功する保証もないんだから下手にそう言う事言わないの」
「ごめんなさい……」
リージアのセリフの前に、フォスキアはすっかり落ち込んでしまった。
やはり現実は甘くないらしく、リージアから甘い言葉は出てこない。
確かに改造して元に戻れる保証も成功する保証もないが、実行する事を考えた途端に不安が襲った。
そう考えると、やはり感情に流されていたという事だろう。
「……貴女は人間なんだから、悩む分には私は何も文句は言わないよ、悩んで悩んで、どうなるか分からない未来を決める、それが人間でしょ?」
「……え、ええ」
「誰かから定められた運命しか生きられない私達とは違う、悩んだ末、自分で決断した道を生きられるんだから、感情なんかに流されちゃダメだよ」
「……」
向けられてくる言葉と視線を前に、フォスキアの中に一つの疑念が生まれる。
何故リージアが人間嫌いとなったのか、その理由が垣間見えた気がした。
説教をするリージアの声色や、向けられてくる目。
それらからは、何故だか渇望を感じられた。
「さ、こんなしんみりした話は終わり、次の作戦の要は貴女なんだから」
「分かったわ……可能な限り協力するわ」
作業に戻ったリージアの横顔を、フォスキアはまじまじと見つめた。
先ほどまでとは僅かに異なり、どこか悲しそうだ。
「(……もしかしてこの子、本当は人間が)」
好きの反対は無関心。
そんな言葉がフォスキアの脳裏に過ぎり、疑念は更に深まった。




