ミッションブリーフィング 前編
日が完全に沈み、暗くなったタラッサの町。
ガンマ達の宇宙艇にて、復活したリージア達を含めた会議が開かれた。
宇宙艇のミーティングルームへと、アンドロイド少女達は集る。
久しぶりに会う面々を前に、募る話がある者も居るが今回はそんな場合ではない。
「では諸君、これより敵に関する情報を交換する、と言いたいところだが……」
モニターを背後にするゼフィランサスは、目の前に座る仲間達を見渡す。
視界に映るのはオメガチームの面々と、ガンマとデルタの生き残りたち。
そこまではわかるが、もう一人部外者のエルフがチョコンと座っていた。
「何故彼女まで居る?」
「(……やっぱ、そうなるわよね)」
オメガ以外のメンバーの視線を向けられるフォスキアは、浅いため息をついた。
一先ずリージアの勧めで呼ばれたのだが、やはり部外者という事で歓迎はされていない。
とりあえず隣に座るリージアに助け舟を求めようと、フォスキアは肘で彼女をつつく。
「ちょっと、貴女から何か説明してよ」
「……うん、聞いてる聞いてる」
「……はぁ」
しかし、リージアは少し前から機嫌が悪く、先程から指令座りをしながら黙り続けている。
復活した時はそうでもなかったが、一足遅れてこの部屋に来た時には死んだ顔をしていた。
おかげでゼフィランサスにはまだ何の説明もされておらず、他のメンバーもどうした物かと言う表情を浮かべている。
ただモミザだけは、その機嫌の悪さの理由に気付いていた。
「無駄だ、今のソイツは機嫌が悪い」
「それ位見ればわかるわよ……ねぇ、ちょっと」
「聞いてるよ~」
どこ吹く風のリージアは、聞いている、と言うセリフしか言わない。
フォスキアが肩を軽く叩いても、それは変わらない。
それに嫌気がさしたフォスキアは、少しホホを膨らませた。
「ちょっと、いい加減にしてって」
「痛て」
とうとう痺れをきらしたフォスキアは、リージアの後頭部を軽く殴った。
おかげで神妙な顔つきと姿勢は崩れ、後頭部をさする。
「だから聞いてるって、やっぱりポニーテールからチラッと見えるウナジが至高って話でしょ?」
『ロクに聞いてねぇじゃねぇか!!』
「ブロリスト!!」
そんな彼女の発言を聞いたゼフィランサスとホスタは、リージアの顔面へと同時に足を入れた。
ダブルキックを受けたリージアは、変な悲鳴と共に吹き飛んでいき、壁へと衝突。
巨大なヒビの入った壁から剥がれ落ちたリージアは、力無く地面へと落下する。
「お前神妙な顔つきで何考えてんのかと思ったら!そんなロクでもない事考えてなかったのかよ!!」
「下手したら国際問題に発展しかねないんですよ!それなのにウナジって!!」
二人そろってリージアへと指をさし、避難の言葉と目を浴びせてだす。
実際国際問題に発展しかねない状況だというのに、そんな事を呑気に考えるリージアの気が知れない。
何しろ、町の一つが完全に潰れているのだ。
国家間の問題に発展していてもおかしくない状況だ。
「全く、この前もシャウルの事前にしたら暴走したし、もうちょっと自制心持ちなさいよね」
等と言いながら席に座り直したフォスキアは、持っていた紐で自分の髪をくくりだした。
モミザと同様のポニーテールにした事で、さりげなくウナジをチラつかせる。
「おーいエルフィリア、何さりげなくポニテにしてんだ?」
「何よ、ここ暑いんだから別に良いでしょ」
「いや明らかにリージアの性癖聞いたからやっただろ!!」
確かにエアコンが機能していないので、この部屋は地味に蒸し暑い。
長髪の彼女は暑苦しいのは解るが、明らかにリージアへのアピールだろう。
「あの、そんな事よりリージアですよ」
「アンタ、何気にもうリージアの事呼び捨てにしてんのね」
もう階級でなく呼び捨てを始めたホスタに仲裁され、フォスキア達はリージアを救出。
壁から引っこ抜かれたリージアは、身体に着いた破片を嫌そうな顔で払う。
「うるさいなぁ、こっちは人魚と一緒に夏の海でキャッキャする妄想してたのに」
不機嫌さはそのままに、リージアは何を考えていたのか打ち明けた。
実はこの騒動で、リージアの望んでいた人魚は遥か沖へと避難している。
しかもギルドに居るのはむさ苦しい男性陣ばかりで、フォスキアのような美少女系の傭兵は少ない。
魔法使いや聖職者の中には女性陣も居たが、及第点では無かったせいで、彼女はずっと機嫌が悪かった。
「ウラッ!」
「フンッ!」
「ドボス!!」
そんな事を打ち明けられた二人は、リージアへと渾身のダブルパンチをおみまい。
先ほどまで後頭部がめり込んでいた部分と同じ所へ、リージアの頭が再度突っ込んだ。
「全く、何考えているのかと思ったら、そんな事考えてたの?」
「どうせそんな事だろうとは思ってたぜ、クソが」
「良いじゃん!あんなムサッ苦しい場所に居たんだから!ちょっとくらい美女と戯れる妄想位良いじゃん!」
「(美女ならここにいるでしょここに!)」
壁から頭を引き抜いたリージアは、溜まっていたウップンを吐き出しながら席へ着いた。
彼女の発言に内心怒るフォスキアを横目に、リージアはテーブルに両足を乗せてふんぞり返った。
しかしまだ零しきれていないグチが有るらしく、彼女の顔から青筋は消えていない。
「そもそもさ!こっちは整備ついでに観光する気で来たのにさ!何!?この騒動!こっちは二・三日程度で出発する気持ちだったの!魔物だって精々十匹程度相手にするつもりだったのに!何あの大群!
「向こうでよっぽどの事故が起こったって事だろ!つーかテメェ!やっぱ旅行気分じゃねぇか!」
「良いじゃん!ここの朝日メッチャ綺麗って話なんだもん!ちょっとくらい見物したってバチは当たらないでしょ!デートスポットにも最適なんだからね!!」
「お前ら人が大変な時にそんな事考えてやがったのか」
やはり旅行気分だったリージアだが、その横でゼフィランサスは顔に青筋を浮かべていた。
何しろ自分たちが死ぬ思いをしていたというのに、彼女は観光をしようとしていたのだ。
しかし、怒りを呑み込む彼女を横目に、リージアとモミザは口論を続ける。
「知った事かぁぁ!今はちゃんと作戦会議に参加しやがれ!」
「だったら宇宙艇爆破して町ごと吹っ飛ばした方が早くない!?どうせこの町瓦解してんだから!」
「本当にこの町地図から消えるわ!」
「大丈夫!人って言うのはね、諦めなければ何度でも這い上がれるんだから!」
「町吹っ飛ばす事考えてる奴が言うセリフじゃねぇ!!」
「話を続けて良いか?」
ゼフィランサスの仲裁によって、二人の口論はパタリと止まった。
デルタやガンマ達からの冷たい視線にも気付き、落ち着きを取り戻していく。
「……そうだな、すまん」
「だがリージア、民間人を争いに巻き込むな」
「アンタ等だって成り行きとは言え、傭兵共と共闘してるじゃん、それに、フォスキアには色々と事情を話してるし、知識はこっちの役に立つ、今回の相手にも何かヒントを掴んでくれるかもよ、」
「チ、痛い所を突きやがる、わかった、同席を認める」
リージアの反論を聞き入れたゼフィランサスは、フォスキアの同席を黙認。
その足をモニターの方へと向け、自分のデータを転送。
今日に至るまでの間に収拾していた写真の一枚を映し出した。
「……リザードマン型か」
「そうだ、死体の一部を回収し、我々のラボで可能な限り調べていた」
「何故だい?調査チームが作ったんなら、調べる必要はないだろう?」
「……彼らは起動実験中に暴走を始めてしまいまして、こちらも情報を持ちだす事すらできなかったのです」
レーニアからの質問に答えたのは、生き残ったデルタの一人『ヴァーベナ』。
彼女はすっかり怖気づいた様子で答えており、当時の惨状が伺える。
人間は全滅な上に、彼女達の部隊は半数以上が破壊されているのだから。
「何が有ったんですか?」
「暴走によって、メインのサーバーは乗っ取られ、制御を失った彼らは人間を攻撃対象へと認識しました、中には人間を求めて島の外へ出る者もあり、我々は開発されたE兵器を用いて応戦を続けていたのですが、順次製造される彼らの抑え込みに失敗し、ガンマの方々が来ても状況は変わらず、結局ここに逃げ延びる事に」
「成程、半年前から確認されていたのは、その時の取りこぼしか」
「はい」
「そして、孤島から一番近いこの町に目を付けた奴らは、メインサーバーからの任務を遂行する為に今も戦いを続けている」
実はこの町とリージア達の目的としている島は、地理的に最も近い場所に有る。
故に彼女達が逃げ延びる為の場所となり、魔物達にも目を付けられる羽目になった。
しかも、魔物達の目的は人間の抹殺だ。
この町に人が居なくなっても、また別の場所に狙いを変えるだろう。
「だが奴らは、任務を通達されなければ比較的無害な存在だ、その通信先を叩けば問題はない」
「つまり、奴らには司令船の類が有るって事ね」
鋭い目つきのリージアの返答に、ゼフィランサスは頷いた。
殺意の籠るリージアの目には、流石のゼフィランサスも一歩引いてしまう。
指令船の有無も、最初から知っていたような雰囲気だった。
「ここと島は距離が離れすぎてるし、ルーターみたいな物で統率取ってるって所でしょ」
「……そうだ、統率の取れ方といい、脳の状態といい、その可能性が高い」
「脳の状態だと?」
「奴らの脳は、ほとんど生体CPUのような状態だ、身体と装備を動かす為だけに機能している、これが解剖の結果だ……今は失われているがな」
「失われている?」
「……」
解剖していた際の写真が次々と映しだされているが、ゼフィランサスは顔を曇らせた。
彼女の言動に、リージア以外は首を傾げる。
通常、回収した検体はこの船の保管庫にしまわれる。
なので、この船が無事である限り、回収した物が失われる事は無い筈だ。
「回収したサンプルは、全て日をまたぐと消滅するようになっている、おかげで、こっちはロクな情報が集められていない、だが、向こうの基地で回収できたデータを参考に、対抗策はおぼろげに見えてきている」
「ま、あのハゲネズミ共ならそう言う設計にするよ、ナノマシンなんて開発すれば」
リージアの発言に、部屋に居た全員がどよめき出す。
チームごとに驚きのベクトルは異なっており、オメガ達はナノマシンと言う単語にのみ驚いていた。
しかし、他のチームメンバーは、どこで聞いたのか、と言う表情だ。
何しろ彼女達がナノマシンの存在に行き着いたのは数日前、それをさっき来たばかりの彼女が言い当てたのだ。
「……どこで知った?我々もそこに行きつくのに、二か月はかかったぞ」
「クズ老害どもの考える事なんて、大体わかるよ」
ふんぞり返ったままのリージアは、ホルスターから銃を取りだしてクルクル回転させだす。
調査チームに同行した科学者や、統合政府の重鎮たち。
彼らの立場になって考えていたリージアは、先ほど以上に不機嫌になっていた。
「それだけでは無いだろ、一体どんな手品を」
「フォスキアの知識を使って魔物達のサンプルを解析したら、その考えに行き着いただけだよ」
「お前、さてはメタルリザードを採取してからその考えが有ったな?」
「まぁね、いくらエーテルが遺伝子に影響が有るとは言え、その程度であんな変異が起こるとは思えなかったし」
銃を回転させたまま座り直したリージアは、予めまとめておいたファイルをアーカイブから取りだす。
そのデータはゼフィランサスへと送信され、数秒間で閲覧を完了。
リージアのレポートは、彼女達が持ちだした物や研究結果よりも詳細な物が記されていた。
その事実を前に、ゼフィランサスは顔をしかめる。
「チ、ここまで調べていたとは……しかも、ナノマシンの正体は奴らの体内に有る微生物、か」
「微生物?」
「そ、以前魔物と悪魔に共通してみられる特徴があるって話したでしょ?」
「ああ」
「それがその微生物たちの事、ゴブリンや悪魔の血が黒いのもそれが理由」
「まるで寄生虫だな」
「寄生って言うか、共生だね」
ゴブリン達の流す黒い血は、ずっとリージアが気になっていた事だった。
赤くない血液と言うのは、深海魚等が持っている。
完全に真っ黒な血を持つような生物は、リージアの記憶には無い。
徹底的に調べ倒し、血中に流れる微生物を発見した。
その微生物のせいで、ゴブリン達の血は黒く見えていたのだ。
「共生だと?」
「そ、微生物にはエーテルに反応して、宿主を環境に適応させ、更には特異な力を与える事が分かってる、その働きをもたらしているのが、奴らの魔石に刻まれている魔法陣」
「てことは、魔石はそのバクテリア共の核」
「そ、そう言う事」
モミザの発言に、リージアは頷いた。
環境に適応させる力も持つだけに、バクテリアの力が無くなれば身体を維持する力も弱まる。
魔石はバクテリアたちだけでなく、宿主の魔物にとっても心臓と言える。
「けど、それとナノマシンが、なんの関係が有るんだい?」
「メタルリザードに寄生しているバクテリアの場合は食べた鉱石を分解して、自分の養分にしつつ、宿主に余分な栄養を分けている、その際のバクテリアは食べた鉱石の成分と同化して、宿主を守るために外殻として機能するように成る、フォスキアのおかげで、この仕組みにたどり着けたよ」
魔の大森林を出てから三日、リージアはフォスキアの知識を利用して研究を続けていた。
フォスキアが居なければ、メタルリザードの主食が鉄鉱石であるというのは知れなかった。
しかも、食べ続けた物によって、成長先も変わるというのも教えられた。
これはスライム等、無機物を摂取する魔物に共通してみられている。
「つまり、ナノマシンって言うのは」
「そのバクテリアに機械の特性を持たせた結果だよ、おかげで外部からプログラムを書き入れて、自己修復や強制的な服従も可能だろうね、完全に服従するサイボーグ兵って感じで」
「察しの良い奴だ」
「ゴミ政府の考える事は大体わかるよ」
苦い笑みを浮かべ、遠まわしに肯定したゼフィランサスを前にリージアは黒い笑みを浮かべた。
統合政府が欲しい物を考えれば、その考えにたどり着く。
微生物をナノマシン化させた後で、魔物達の脳を支配。
無理矢理サイボーグ兵にする事によって、完全に制御させている状態だ。
「そして、完全に制御しているつもりだったが、奴らは暴走し、攻撃目標を全ての人間へと定めてしまったんだろうね」
「奴らの正体に関してはここまでだ、そろそろ本題に入ろう、ヴォルフ達を待たせているんだ」
「そうだね」
銃をホルスターへしまったリージアは、ふんぞり返るのをやめた。
かなり脱線してしまったが、ゼフィランサスの中のリージアへの評価が少し上がっていた。
彼女への期待を更に膨らませ、敵の解説を再開する。
――――――
一時間後。
「と、現状はこんな所だ」
「……成程ね」
ゼフィランサスから聞いた情報に、オメガの面々は難しい顔を浮かべた。
状況としては幸か不幸か分からないが、多少の時間は有る事は分かった。
「まとめると、司令船は現在捜索中、奴らは一度襲い掛かってきたら、一日のスパンが有る」
「そうだ、やはり補給の必要が有るのだろうな、おかげで、我々は三か月間何とか持ちこたえる事が出来たが……」
ゼフィランサスは三か月間この町で戦闘を繰り広げ、僅かなインターバルを利用して司令船を捜索していた。
インターバルの理由は分からないが、恐らく補給等が有るのだろう。
そのおかげで今日まで持ちこたえる事が出来たが、問題も有る。
「襲撃の度に、奴らの攻撃は苛烈さと精度を上げている、でなければ、彼ら傭兵もあれだけの被害をだす事は無かった」
「だからこそ、さっさと司令船を見つけないとね、後は装備を整えないと」
「何か手は有るのか?」
「司令船を見つける所までは何とかね、問題はその後だけど」
話を聞いたリージアは、司令船の探査に関する事であれば何とか思いついた。
しかし、司令船を見つけた後が問題だ。
「破壊ではなく、あくまでも奪い返す、か……」
リージアからの提案で、敵の司令船は鹵獲する事にしていた。
当然反論もあったのだが、それではリージア達の目的を果たす事ができない。
「そ、危険な事は私達がやるから」
「……分かった、ただし、失敗だと分かった場合、即座に破壊へプランを変更する」
「はいは~い」
「(さて、後は傭兵達をどう使うか)」
しかし、失敗の場合は破壊するというのが、鹵獲作戦の妥協案だ。
とは言え、どちらにせよ司令船を止めるという結果に至る。
指令船を見つけた後は、傭兵達の助力も必要だ。
彼らの力を借りる事さえできれば、どちらか一方の作戦を成功させる事は出来る。
協力の要請を行う為に、この会議はお開きとなった。
――――――
誰も居なくなったミーティングルームにて。
ゼフィランサスは、一人で残っていた。
「……仮に船を盗んだ所で、我々の選択肢は一つしかない」
モニターに映る写真を動かすゼフィランサスは、先の会議では映さなかったデータを表示した。
機械化された魔物達であれば、彼女達だけでも問題なかった。
上手く行けば、犠牲何て無かった。
「奴だけは、どうあがいても無理だ」
そのデータを見たゼフィランサスは、目を細めた。
他の五十機近くのアンドロイド隊員は、今映っている存在によって破壊された。
今彼女が負っている傷も、そいつに付けられた物だ。
「……クソ」
画面を消したゼフィランサスは、傭兵達の集まる場所へと足を運んだ。




