タラッサの町 後編
リージア達がタラッサの町に不時着して二時間後。
彼女達が暴れたおかげで、更に町の荒廃が進んだ。
その代わり襲ってきた魔物達は壊滅し、次々と海の方へと撤退して行った。
辺りには砲撃で潰れ、リージア達の手で刻まれた魔物の死体が散乱している。
「ふぅ、中々の数だったわね」
「ほんと、砲撃やら何やらしてきたしね(何か妙だ、見た感じこっちの傭兵達も抵抗を続けてるみたいだし、半年持つとはおもえないんだよね)」
得物の血を振り払うリージアとフォスキアは、今回の相手の事を思い出す。
魔物達は携行している火器以外にも、体内に複数の武器を埋め込んでいた。
リザードマンの背中には、フライトユニット以外にもミサイルの発射口も有る。
他の魔物達も、武器をボルトで固定させる等の改造が施されていた。
いくらフォスキアレベルの傭兵が複数人居ても、半年も持つとは思えない。
「この魔物達貴女のお仲間が改造したの?」
「そ、完全に機械化手術を施してるね、身体にボルト打ち付けて武器を固定、体内にも給弾機構が有るけど……コイツ、それ以上の弾を撃ってた筈」
早速オーク型を調べるリージアだったが、腕と上半身を切開して首を傾げた。
腕に給弾用の機構が内蔵され、体内にも弾倉と言える部分が有る。
だが、今調べている個体は、明らかに装填できる弾以上の量を撃っていた。
「……何にしても、流石に可愛そうね」
「ホント……アイツら、五十年前から何も学んで無い」
「え?」
「おーい、お前ら大丈夫か?」
どす黒い声でつぶやいたリージアに首を傾げるフォスキアだったが、すぐにモミザとヘリコニアが合流した。
彼女達の到着に気付いたリージアは、ゴム手袋を外しながら立ち上がる。
すると、先ほどまで浮かべていた形相を変え、何時もの社交辞令的な笑みを浮かべる。
「どう?秘密道具の使い心地は」
「ふ、ふふふ、あははは!最っ高よ!動物さん達を次々葬れたのよ!」
「落ち着け」
「(やっぱこの人怖い)」
道具の使い心地を答えるヘリコニアは、もたらされた結果に狂喜していた。
返り血が他のメンバーより酷いので、何時もより怖い。
モミザになだめられ、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「しっかし、よく三日程度で作れたな、大変だっただろ」
「まぁね、エーテル技術に関しては、あまり聞かされて無かったし、二つが限界だった」
フォスキアの太刀に取りつけた装置へ、リージアは視線を落とした。
無理矢理彼女の武器の柄に取りつけられるように設計したので、ちょっと握り辛そうになっている。
もう少し吟味できる時間が有れば、太刀を分解して専用の物を取り付けられた筈だった。
その事に、少し反省の色を示す。
「でも、何をしたのよ?硬めのチーズみたいに切れたわよ」
「私達にも説明をお願いします、百二十ミリでも倒せない奴をどうやって」
「はいはい、ちゃんと皆に種明かししてあげるから」
ホスタとレーニア達まで合流し、種明かしを急かされた。
三人はアーマードパックを急いで降り、リージアの方へと固まる。
彼女達の気迫に押されながら、リージアは頭の中で内容をまとめる。
「先ず、今回の相手は先のメタルリザードみたいにエーテルを固める形の防御と異なって、対流させる事によって攻撃の筋をずらす方法が取られているの」
「……つまり?」
「魔力を常に動かして攻撃を受け流す形にしているの、だから威力が半減しちゃう……しかもこいつ等の鎧は電磁装甲、衝撃にも相当強いよ」
「だから通常兵器で打ち破るには、大口径の砲弾で押しつぶすのが一番なのさ、ま、あの程度のサイズに限った話だがな」
その辺に有った死体を持ち上げながら、リージアとモミザは解説を行った。
エーテルを常に動かす事によって、相手は常に攻撃を受け流せる状態だ。
銃弾を撃ちこんでも、それでは弾かれてしまう。
しかも下部にある電磁装甲のせいで、衝撃も相殺される。
ちょっとやそっとの攻撃では、効果は薄い。
「斬撃の場合は、二層の防御壁として機能するから、体内に到達する頃には大分威力が落ちちゃうって感じ」
「で?何でこれつけたら切れるように成るの?」
「言ったでしょ?相手のエーテルと周波数を合わせる、つまりエーテル同士を干渉させて防御を中和させる、後は奥の電磁装甲との戦いだね」
解説を終えたリージアは、持ち上げていた死体をその辺に置いた。
リージアの制作した装置は、流し込まれたエーテルを相手の防御に合わせる効果が有る。
一枚目の防御を突破させれば、後は電磁装甲を打ち破るのみだ。
「それと、一層目を中和させる訳だから、多めにエーテルを込めていれば、奥の電磁装甲を破るのは簡単だよ」
「成程ね~、よくそんな装置作れたわね」
「まぁ仕組みを知ってただけだから、作るのは大変だったけど」
リージアが知っているのは、あくまでも相手の防御と装置の仕組みだけ。
設計の方法までは知らなかったので、色々な物を参考にして何とか出来上がった。
あまりに複雑すぎたので、制作できたのは二つだけだった。
「ですが、まだ腑に落ちない事は有りますよ、何で貴女の武器にはその装置は着いてませんし、それに、何故エーテルを使えるんですか?」
「ああ、それもちゃんと話して……」
ホスタの疑問に答えようとした時、笑顔を浮かべるリージアの背後に巨大な影が落ちる。
硬直したリージアへと、背後に現れた生物の生暖かい息が吹き付けられる。
普通に鳥肌物の状況に陥りながら、リージアは錆びついた人形のようにぎこちなく背後を振り向く。
「る、場合じゃ、無かったね」
メタルリザードと似た外観だが、恐らくは別種の魔物だ。
陽光に照らされる機械の身体は、まるで重戦車のように重々しく、所々から機械的な音が鳴り響く。
だが身体は細く、ウロコの形も風を受け流すように特化している。
しかも背中には機械化した翼が取り付けられており、チラホラとアーマードパックに似た武装も見られる。
「あの、エルフィリアさん、これは?」
「わ、ワイバーンね、他の連中と同じで、機械になってるけど」
「マジかよ、よりによってドラゴンか」
ホスタの質問に答えたフォスキアのセリフに、全員顔を青ざめた。
今にも襲ってきそうなワイバーンを前に、リージア達はそれぞれ武器を構えてゆっくりと下がる。
警戒態勢の七人を捉えるワイバーンのカメラアイは、リージアの武器を認識。
内蔵されている特殊なセンサは、フォスキアを高い脅威と識別する。
『ギワアアアアア!!』
危険レベルを識別するなり、彼女達へノイズの混じった咆哮がぶち当てられる。
怯む彼女達へ間髪入れずに踏み込みを入れ、一部がブレードとなっている尻尾を振り抜く。
「来るよ!!」
リージアの叫びと共に、全員は回避行動を取る。
それぞれの方法で迫りくるブレードを回避したが、代わりに乗り捨てられた一機のアーマードパックは無事では済まなかった。
「あああ!アーマードパックがああ!!」
ブライトの悲鳴と共に、棒立ち状態のアーマードパック一機が尻尾の餌食となる。
なんの防御処置もしていなかったせいで、その一機はオモチャのように粉砕。
他の二機を巻き込みながら、パーツが各所へと飛び散る。
「畜生!あれ一機いくらすると思ってんだ!?クソトカゲが!!」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
戦車以上のコストがかかる兵器を壊された事で逆上するモミザ達へと、今度は機銃掃射が開始される。
ワイバーンの両腕に搭載されている機銃が火を噴き、元々ボロボロだった石畳は更に崩壊していく。
「クソ、調子に乗らないでよね……ホスタ!私とモミザとフォスキアで押さえつけるから!アーマードパックに乗り込んで!レールキャノンの準備!」
「りょ、了解!」
「他の三人は退避!コイツはヤバい!モミザ!フォスキア!殺すつもりでやるよ!」
攻撃を避けつつ、リージアは大声で伝えた。
ホスタ以外の返事を受け付けないかのような伝達を受けながらも、他六人も行動を開始。
ヘリコニアは不満げに前線から離れたが、リージアの緊迫した表情は反論を許さなかった。
「分かってると思うけど、殺すんなら殺される覚悟も決めといてよ!!」
「当然!」
「ほんと、こういう時は真面な事言うのね」
「先ずはアイツをここから引き離す!宇宙艇がやられたら、こっちもアウトだからね!」
リージア達の不安は、宇宙艇に積まれている動力。
先の攻撃でどれだけの被害を受けていたのか不明なだけに、これ以上のダメージは許容できない。
爆発するような可能性は低いだろうが、破壊されれば電力の供給元が無くなってしまう。
それを回避するためにも、先ずはワイバーンをここから引き離す必要がある。
「もう、いきなり無茶言ってくれるわね!!」
「あ、モミザ!退避!」
「クソ!」
指示を聞き入れたフォスキアは、いきなり大きな魔法陣を展開。
見覚えのある物だったので、リージア達は瞬時に反応して退避した。
「テンペスト・ブラスト!」
魔法陣から放出された暴風は、ワイバーンへと命中。
周りに民間人が居ないという事も有って、瓦礫もろとも吹き飛ばす。
巨体に加えて、機械化された事によって増加した質量も物ともしていない。
「モミザ!追撃!」
「分かっている!」
瓦礫と共に崩れ落ちたワイバーンへの追撃の為に、リージアとモミザは飛行ユニットのスラスターを吹かす。
一気に間合いを詰めた二人は、直前で最大稼働状態へ移行。
同時に二人の持つ武器が光り輝く。
「コイツで!!」
「どうだ!!」
共に繰り出された斬撃はワイバーンに直撃したが、刃と外殻の接地面から火花が飛び散る。
電動ノコギリで鉄を切るかのように吹き出す火花は、苦い表情の二人へと飛び掛かる。
しかも先ほどの戦いで電力をほとんど使いきっていたせいで、最大稼働を維持できなくなってしまう。
「クソ、やっぱ硬てぇ!」
「高周波にエーテルによる強化、オマケに最大稼働までやってるのに!」
攻撃を弾かれながら、ワイバーンもドラゴンの一種だと実感した。
エーテルを用いた現代兵器、通称E兵器。
その改造を施されたワイバーンは、元より持つ豊富な魔力量によって、外殻の強度はその辺の改造魔物達よりも高い。
実際、フォスキアの魔法が直撃しているにも関わらず、どこも負傷した様子がない。
「(ミスったか?これじゃレールキャノンでも通じるかどうか……)」
「退きなさい!リージア!」
反撃をかわしながら考えているリージアの耳に、フォスキアの声が届く。
瞬時に身をひるがえした所へ、緑色の円盤が飛来。
ワイバーンの首元へと変則的な軌道で襲い掛かるが、少し体勢を崩させただけで、甲高い金属音と共に弾かれてしまう。
「だったら!」
距離を詰めて来たフォスキアは、懐から数枚のチャクラムを取りだす。
取りだした全てのチャクラムへ魔力を流し込むと、それらを順次投げつけた。
接近してくるフォスキアに対処するべく、ワイバーンは背面からミサイルを斉射。
空中へ退避していたリージア達へと、牽制を行った。
「(一体何を)」
投擲されたチャクラムは、機銃の掃射をかいくぐりながらワイバーンへ命中。
やはり有効なダメージは見られないが、姿勢を崩す事には成功。
それを見たフォスキアは、ワイバーンの懐へと飛び込んでいく。
ミサイルを回避しながら彼女の行動を見たリージアは、目的に気が付く。
「そうか!モミザ!アイツの姿勢をもっと崩すよ!」
「何する気だ!?もう燃料も電力もカツカツだぞ!」
「良いから!ここから一気にパワーダイブ!!」
「ああったよ!」
フォスキアの考えに気付いたリージアとモミザは、退避していた位置から一気に降下。
迎撃の為に撃ちだされるミサイルを斬りながら、急激に高度を下げていく。
飛行を行う燃料も、義体を動かす電力もギリギリ。
次の一撃で最後になるだろう。
「こういうドラゴンタイプを倒す時に狙うのは」
「(何をする気か知らないが)」
自らを弾丸とするリージアは、そう呟きながらハルバードを構える。
並走するモミザも、彼女と動きを合わせる。
「ハァァ!!」
「ウヲォら!!」
二人の質量を加えた攻撃は、ワイバーンの背面へと着弾。
その運動エネルギーによって、ワイバーンは完全に地面へ伏す。
巻き上がる土埃の中より、太刀を構えるフォスキアが姿を現した。
「首の下、つまり逆鱗!!」
リージア達の攻撃で浮かび上がった首に狙いを定めたフォスキアは、両足に込められるだけの力を込める。
彼女の視界が捉えるのは、アゴの下と言える場所。
逆鱗と呼ばれる、ドラゴン型の魔物が共通して持つ弱点だ。
「イケエエエ!!」
緑の光に包まれた長刀を握り締め、風の魔法で身体を一気に浮かび上がらせる。
喉がはち切れんばかりの叫びと共に、ワイバーンの逆鱗へと刺突を入れた。
込められるだけの力と魔力を込めた一撃は、切っ先は音の壁を突き破る。
「……嘘でしょ」
「クソ、嫌な対策しやがって!!」
ワイバーンから降りたリージアも、フォスキアと同じ光景に顔を歪めた。
唯一の弱点と思われた逆鱗には、他の装甲にと同様の物に加えて不可視のフィールドが貼られていた。
更に強固な守りとなっており、フォスキアの渾身の一撃は弾かれてしまう。
『ギュエエエエエ!!』
「ウッ!」
フォスキアが弾かれると同時に、ワイバーンはノイズのかかった咆哮を上げた。
皮膚が痺れるような声に、フォスキアは思わず身体をかがめた。
怯む彼女を睨むと、ワイバーンは頭部を変形。
赤い光が収束していき、嫌な音が響き渡る。
「怒らせただけだぞ!」
「文字通り逆鱗に触れたからね!!」
背景も赤く染まり、ワイバーンの脚部と、翼に生える両腕が地面に食いつく。
明らかに発射体勢が整っているが、リージアは迷わずにフォスキアの元へと駆け付ける。
「フォスキア!」
「リージア!」
フォスキアを抱き上げたリージアは、即座に上昇。
同時に真っ赤なビーム砲が射出されたが、その射線上には宇宙艇が有る。
「あ、マズイ、宇宙艇には!!」
「逃げろホスタ!!」
物資もそうだが、一番の問題はホスタ。
彼女だけはレールキャノンの準備の為に、宇宙艇の中に居る。
しかし、ホスタは丁度準備を終えて外に出た所。
いくら彼女でも、反応できるような状態ではない。
色々と限界を迎えている今のリージア達では、今から射線を変更する事もできない
「……え」
周辺の瓦礫を消し飛ばしながら迫る赤いビームを前に、ホスタは硬直してしまう。
実感の湧く状況ではなく、反応しきる事はできない。
呆気に取られたままのホスタは、光に包まれる。
「ホスタァァァ!!」
「クッソォォォ!!」
着弾の様子を前に、二人は悲鳴とも言える声を上げた。
目を見開くリージアだったが、その表情は徐々に別の意味へと変化していく。
やがて赤く染まる背景は元に戻って行き、ワイバーンは頭部から排熱の為の煙を上げる。
「(あのビームの挙動、屈折してる?)」
命中したビームは拡散し、無人の町を更に破壊している。
リージアには、とても直撃したビームの状態には見えなかった。
呆気に取られる彼女の耳に、別の重々しい音が響いてくる。
「おいリージア、下」
「あ、あれは……」
「新手!?」
瓦礫の山に目を向けた三人は、目を丸めた。
四足歩行の獣と言える容姿だが、全身は金属で覆われている。
もっとも目に付くのは、背部に取りつけられている二門の巨大な砲台。
赤い紫電を砲身にまとわせており、その照準は砲撃を終えたワイバーンへと向けられる。
「統合政府軍、正式採用、砲撃型アーマードパック、それも新鋭機だよ」
「って事は、まさか!!」
けたたましい砲撃音と共に、二発のレールキャノンが放たれた。
一瞬で音の壁を突き破った細長い杭と言える砲弾は、周囲に展開された魔法陣と共に突き進む。
その二発はワイバーンの胴体を捉え、深々と突き刺さる。
「……エーテル仕様のレールキャノン……成程、さっきのビーム挙動は」
レールキャノンの砲撃を受けたワイバーンを見て、リージアはニヤリと笑った。
先ほどの違和感の正体と、何が起きたのか瞬時に理解し、宇宙艇の方へと視線を向ける。
「この前の非礼、お詫びしないとね」
砂塵より現れたのは、まるで騎士のようなデザインのアーマードパック。
所々応急処置を加えたような跡が見られるが、扱っている武装はE兵器だ
その一機は赤く染まる巨大な盾を前面に展開しており、ワイバーンの攻撃を防いでいた。
大盾を放棄するなり、背中にマウントしていた大剣を手にする。
瀕死状態のワイバーンへと迫る機体を前にして、リージアは駆けつけてくれた者達の名を叫ぶ。
「ガンマチーム!」
彼女の呼び声と共に、その機体は大剣をつき出す。
リージア達の攻撃さえ防ぎ止めた装甲を貫き、その下部をも切り裂く。
その一撃によって、ワイバーンの体内に有る魔石を破壊した。




