トライアングルラブ 後編
「え?電気って、あの、雷とかの?」
宇宙艇内のラボにて、フォスキアは目を丸めていた。
予定通りリージアの研究の手伝いをしていたのだが、その休憩中に彼女達の動力の話になった。
魔力ではなく電気で動くという事を打ち明けられ、思わずキョトンとしてしまっている。
「そ、まぁそうだね……あ、後これとかも含めて大体の物は電気が動力だよ」
「へ、へ~」
ついでに、その辺に有る装置を指しながら動力を話した。
しかし、実感の湧かない説明を前に、フォスキアは口元をひきつらせる。
フォスキアにとって、電気とはあくまでも攻撃の手段や自然現象。
その二つがリージア達にとっては、魔力と同価値のエネルギーなのだ。
「……で、でも、その電気?はどうやって生むの?」
「う~ん、方法は色々有るけど……一番身近なここだと説明が圧倒的に難しいんだよね」
発電方法と言えば、火力や風力など様々な方法がある。
現在は太陽光発電や融合炉が用いられており、この宇宙艇はその後者に近い物が積まれている。
構造が複雑なので、質問されても説明がとてつもなく面倒な代物だ。
「簡潔に言うと?」
「まぁ、うん、人工的に太陽作ってその熱で発電する、的な?」
「うん、わからん」
とても簡潔に説明できるような代物ではないので、もうこの話は終わりにする事にした。
太陽を人工的に作る何て、その時点でもう訳がわからない。
「……まぁとにかく、その動力から得られた電気で私達は動いてるの、因みにその電気はここに貯めてるの」
「……」
話題を逸らしつつ、リージアは腹部を開いた。
中にはバッテリーが二本入っており、それが発電装置を搭載できない彼女達の命の灯だ。
それを見せられるフォスキアは、思った以上のギミックに口をあんぐりと開けた。
「……フォスキア?」
「あ……えっと、それに電気が入ってるの?」
「そ、バッテリーって言う道具だよ(ちょっと引かれた、まぁしょうがないか)」
少し怖かったフォスキアだったが、変異した姿を受け入れてくれたのだから、恐怖は気合で抑え込んだ。
とは言え、アンドロイド扱いは慣れているリージアにとっては、多少ひかれる事は慣れている。
「まぁでも、普通に生活してれば三日、戦闘中だとどんなに長くても一日持つかどうかだから、電力供給源のここから離れるのはあんまりしたくないんだよね」
「え、じゃぁ、私に付いて来たのって結構危なかったんじゃ」
「まぁね、でも、これだけじゃなくて、他にも代えのバッテリー有るから、それさえ無くならなければ大丈夫だよ」
「そうなのね(あ~、砦崩れた時、二人で何かしてると思ったら、あれ交換してたのね)」
二つある内の一つのバッテリーを抜いたリージアは、フォスキアにそれを見せながら解説を行った。
下手に戦闘さえ行わなければ、三日は持つ蓄電量を持っている代物だ。
戦闘時は義体の出力を引き上げる為に、一日位しか持たない問題もある。
それを解消する為の装備が、飛行ユニットでもある。
「そう言えば、バルバトスと戦っている時に何かつけてたけど、あれ着けると飛べる以外に何かできるの?」
「装備にもよるけど、基本はステータス向上と蓄電量向上だね……それでも一日までって事に変わりないけど」
「……も、問題は有るけど、あれにも、ばってりー?って言うのが有るの?」
「そ、使える電力量が増えれば、その分力が上がるからね、私達」
少しため息を混じらせながら、リージアは飛行ユニットの説明を行った。
以前のモミザのように、バッテリーがカツカツの状態から戦闘可能状態まで回復する事は出来る。
とは言え、ユニットの方に電力が食われるので、総合的な稼働時間はあまり変わらない欠点もある。
「成程ね~……あれ、でも、その電気作る奴が有るんなら、それ小さくして貴女達に持たせればいいんじゃないの?」
「良い質問だね、フォスキア……結論を言うと、可能なんだけど、不可能だね」
フォスキアの言い放った疑問に、リージアは笑みを浮かべながら答えた。
その気になればリージア達程のサイズのアンドロイドにも、ジェネレータを取り付けられる。
だが、諸事情から全機バッテリー式へと変えられてしまっているのだ。
その答えに、フォスキアは首を傾げる。
「どういう事?」
「昔は皆つけてたんだけどね~、ちょっと色々有って」
大戦時は皆、ジェネレータを取り付けていた。
その事を陽気な雰囲気で話すリージアは、過去を思い出す。
こうなってしまったのには、複雑な歴史的背景が有るだけに、話をまとめるのに苦労してしまう。
「ほら、この前言ったでしょ?政府が存在を抹消した英雄が居たって」
「え、ええ」
「彼女達の稼働時間は、無補給でも数か月連続で戦い続けられる位だったんだよ」
「……普通の子は?」
「大体一週間だね、連続して戦った場合」
連続で戦い続けた場合の比較を語られ、フォスキアは考え込む。
一週間と数か月の差は、かなりの開きだ。
それだけ余りある力を扱えるのであれば、平和を勝ち取った政府からしてみれば英雄と言うより危険因子だ。
「多くのエネルギーを持てるって事は、それだけ性能も強化される、アイツらにとっては危険な存在でしか無かったんだよ
「……鋭い刃は、持ち主まで傷つけるって所かしら?」
「そう言う事、だから、彼女達は歴史の闇に葬られてしまった、って感じ」
「世知辛いのね」
「うん、そんな勝手な理由で消されたあの子達には、同情しちゃうよ(けど、傲慢故にアイツらは何時も力を求める)」
悲し気な表情を浮かべるリージアは、歴史の闇に埋もれてしまった英雄たちに同情した。
危険すぎるが故に、戦争の後で存在を消される兵器は珍しくない。
それでも敵を圧倒する為の力を持つことは、何時の時代もどの国も同じ事。
その歴史を思い浮かべるだけで、リージアの気分は余計に悪くなる。
「……でも、よくそんな処分下せるわよね」
同情するリージアの横で、フォスキアは悲しい表情を浮かべた。
フォスキアもまた、自身の存在を否定されてきた身。
他者の価値観で消される気持ちは、よく解っているつもりだった。
「……そう言う物なんだよ、貴女のように、私達を普通の女の子として扱ってくれる人何て、滅多にいないから」
「な、何でよ?」
「アイツらにとって、私達は貴女の下げてるナイフや剣と同じ、気分次第でいくらでも乗り換えられる物なの」
「……」
リージアに諭されたフォスキアは、言葉を失ってしまう。
考えてもみれば、リージア達は自分をゴーレムと呼ぶ存在。
こうして自由に話す事はできても、ただの無機物である事に変わりは無い。
都合の悪い真実のせいで、リージアはずっと苦しんでいた。
そう考えただけで、フォスキアは自分の胸が痛むことに気付く。
「さ、気を取り直して、研究を続け、え?」
「リージア」
「ちょ……」
涙を目に貯めたフォスキアは、作業を続行しようとするリージアの事を抱きしめた。
フォスキアの豊かな身体に包まれたリージアは、訳も分からないままその身をゆだねる。
「辛かったね」
「(……私、もしかして同情されてる?落ち込んでるって思われて慰められてる?)」
表面では気取っていたリージアだったが、確かに落ち込んではいた。
だが、まさか同情されるとは思っていなかった。
フォスキアの鼓動と体温をセンサで捉えていると、何故だか張りつめていた何かがほどけていく気分になる。
「(こういう時って、他にどうすれば……とりあえず、頭撫でておくのかな?)」
歪んだ愛しか受け取ってこなかったフォスキアは、困惑しながらもリージアの頭を軽くなでた。
人工的な毛髪ではあるが、触った感じは人間の物と変わらない。
胸に包まれているせいでフォスキアからは見えないが、頭をなでられたリージアの表情は更に緩んだ。
「(……何でだろう?この感じ前にも)」
気の抜けたリージアは、昔の事を思い出してしまう。
暖かさに包まれるリージアの脳裏を過ぎるのは、かつての最愛の人。
今まで嫌な事しか思い出す事が出来なかったというのに、今回は暖かな思い出が想起される。
『きっと何時か、リーちゃん達家族皆と、幸せに暮らせる世界を』
何時だったか、彼女に甘えていた時に言われたセリフを思い出した。
「(お姉、ちゃん)」
おぼろげに思い出したのは、リージアのもう一人の姉。
フォスキアのハグは、彼女から受けていた愛に酷似していた。
「……ちょ、フォスキア、も、もう、大丈夫」
「え、あ、ご、ごめんなさい、急にこんな事しちゃって」
リージアの言葉に反応したフォスキアは、顔を真っ赤にしながら離れた。
おかげで自分が何をしていたかに気付いてしまい、椅子に座るなり羞恥に襲われる事となる。
「(ああああ、何してんのよ私!……絶対変に思われた、同情するにしたって限度があるわよね)」
「……」
「(顔上げられない、何か凄い怖い)」
椅子の上で委縮するフォスキアは、未だに黙るリージアへと恐る恐る視線を上げていく。
「……」
視界に映り込んだのは、以前よりも穏やかな表情のリージア。
戦闘時以外は基本朗らかだったが、今の彼女は何か満たされたかのような清々しさがある。
「へへ、ありがと、元気出た!」
眩しいばかりの笑顔を向けられたフォスキアも、自然に笑みがこぼれた。
――――――
その頃、ラボの外で。
「ギ、ギギギギ、ギギィィィ」
不安になって結局戻って来たモミザは、聞き耳を立てながら般若のような表情を浮かべていた。
内部の様子は、監視カメラにアクセスする事で捉えている。
扉に顔がめり込む程耳を押し付ける事で、室内の音を拾う。
おかげで内心穏やかじゃない、何て表現では足りない位乱心していた。
「あんの駄肉エルフゥ~、人の妹に何してやがんだ~」
「いやアンタが何してるんだい?」
「ヘア!」
歯がへし折れそうな程食いしばるモミザの耳に、レーニアの声が入り込んだ。
完全に意識の外からの呼びかけだったので、変な悲鳴になってしまった。
「れ、レーニアか」
「嫉妬も良いが、そんなに成る位なら、いっそ告白すりゃ」
「できるもんならとっくにやってるわ!愛妹が可愛すぎて、恥ずかしくてできねぇから悩んでんだよ!!」
彼女達にとって、姉妹であるかは製造段階で決まる。
レーニアとブライトのように、最初から姉妹機として製造された場合だ。
役割が被っていないからと言って姉妹でないとは限らないので、レーニアもモミザ達が姉妹と言う事は知らなかった。
「ウワ(こいつ等仲良いとは思ってたけど、姉妹機だったのかい)」
いい加減なアドバイスと取れてしまったモミザは、レーニアの胸倉に掴みかかった。
墓まで持っていくつもりの感情でもあるが、ぽっと出のエルフに取られるのも気分がよくない。
だからと言って告白するにしても、彼女にそこまでの度胸は無かった。
顔を真っ赤にしたモミザは、その事を自信ありげに打ち明けた。
「何が恥ずかしくてだ、ただヘタレてるだけじゃないかい」
「うるっせ!そもそもテメェだって、ブライトと言う妹に変な女にくっつくのは嫌だろ!!?」
「……」
他にも姉妹と呼べる機体達も居るが、全員が全員モミザのような感性を持ち合わせている訳ではない。
レーニアもそう言う方向の性癖ではないので、彼女の発言には賛同しかねた。
「おい、何だよ?その表情」
「アホ、確かにブライトは可愛いと思うがね、アタシはアンタと違って、あの子にそう言う人が出来たら素直に祝福してやるつもりだ」
「お前……」
レーニアにとって、ブライトは可愛い妹である事に変わりは無い。
しかし、モミザのように不純な感情は抱いていない。
正面切って言われたモミザは、顔を青ざめた。
「頭大丈夫か!?帰ったら整備班に診てもらえ!俺が話通してやるから!!」
「おーい、これアタシがツッコミ入れるパターンかい?ていうか、全ての姉が妹に欲情する訳ないだろ」
「なん、だと……」
「アンタ、もしかして姉妹関連の話になるとIQ下がるのかい?」
全力で驚くモミザを前にして、レーニアは目を細めた。
恐らくここまで驚くモミザを見る事は、金輪際ないだろう。
――――――
数分後。
移動したレーニアとモミザは、食堂に足を運んでいた。
食べられる物何てないが、今人のいない場所はここだけだ。
適当な席に着き、改めて話を再開する。
「それはそれとして、どうすりゃぁ良いんだ?スタイルとルックスと顔に関して、俺はエルフィリアに勝ち目がない」
「何時からアタシはアンタの相談役になったんだい?」
二人だけと言う状況を良い事に、モミザはレーニアを相談相手に仕立て上げた。
モミザからしてみれば、自分がリージアに恋心を抱いていると気づかれていると思っているのはレーニアだけ。
他の皆は既に知っている事も知らず、コソコソと悩みを打ち明けた。
「そもそもアンタ、姉妹での交際は普通だと思っているんなら、他の連中にもそうだって伝えたらどうだい?」
「ああ?男女交際は普通だからって、アイツが好きだこいつが好きだって、周囲に言いふらすバカが何処にいる?」
「正論で返さないでくれないかい?」
正論パンチをくらわされたレーニアは、軽くため息をついた。
常識と非常識が変に入り混じっているモミザを前に、レーニアはその場しのぎの適当な案を考える。
「……そうだねぇ、向こうが胸で誘惑してくるんなら、アンタは尻で誘惑したらどうだい?そう言うパターンちょくちょく有るだろ?」
「知らねぇよ、大体俺らケツも胸の全部ガチガチじゃねぇか、どう誘惑するんだよ」
「だったら、何かプレゼントでもしてアピールしたらどうだい?一番モダンだろ?」
「……」
二つ目の案を聞いたモミザは、少し深めに考え込む。
確かにモミザは、リージアの好みをあらかた知っている。
有効かもしれないが、ここではリージアの好きな漫画やアニメのグッズは手に入らない。
「それがダメなら、いっそ料理でも」
「お前、ラブコメあるある適当に並べてるだけじゃないか?」
「人に相談しといて贅沢言ってるんじゃないよ、アタシは恋愛にさして興味は無い」
「そう言うのはもっとマトモな意見言ってから言えや!」
テーブルを強めに叩いたモミザは、適当な態度のレーニアを叱責した。
スタイルうんぬんは無理として、プレゼントも該当する物がない。
ましてや料理なんて、飲食の必要がないリージア達にとっては意味がない。
しかし、文句を言ってくるモミザに対し、レーニアは青筋を浮かべる。
「チ、プレゼントなら手編みの手袋なりマフラーなりセーターなり、色々有るじゃないかい」
「アンドロイドにはどれも役に立たないだろ、そもそもアイツが着る服なんて迷彩服か軍服だけだわ!」
「だったら手編みの軍服でも送ってやるんだね!」
「何処の世界に手編みの軍服送る奴が居るんだよ!!?」
「ほらあれだ、士官になれるように頑張れ、的な感じで、ヒロインが送る作品が有るかもしれないじゃないかい!?」
「いや、どんな作品だよ!?」
何時しかヒートアップしてしまう二人は、気づけばテーブルに乗りだしていた。
モミザのツッコミを境に、睨み合いに発展。
その最中、不意に我に返った事で、二人の熱は鎮火。
二人共肩で息をしながら、席に着く。
「はぁ、はぁ……わ、悪かった、こっちから頼んでおいて」
「はぁ、はぁ……いや、良いよ、アタシも少し熱くなり過ぎた」
もう数時間もすれば、目的地へとたどり着く。
そこに着いても喧嘩中何て事になれば、色々と支障が出てしまう。
お互い大人な対応を行い、手打ちにした。
「はぁ……ん?」
深く椅子に座り込んだモミザは、とある事に気付いた。
考えてみると、レーニアがラボの近辺に来る用事と言えばリージアへの要件だ。
彼女の趣味である機械等は、自室のお手製の物を使っている。
ラボに行くような事は、基本的に無い。
「そう言えばお前、何であそこに来たんだ?」
「ああ?それは……あ」
本来の要件を思い出したレーニアは、冷や汗をかきながら硬直した。
――――――
その頃、艦橋にて。
ホスタは疲れた表情で、操縦桿を握りながら暗い空を眺めていた。
その隣の席には、ブライトが気ダルそうにレーダーを見つめる。
「……あの、ブライトさん」
「なぁに?」
「貴女のお姉さん、何時になったら来るんですか?」
「あー、リージアが駄々こねてたら、一時間位来ないかもね」
宇宙艇の操縦の順番を変わろうと、ホスタはレーニアにリージアを連れて来るよう頼んでいた。
しかし肝心のレーニアはその事を忘れて、モミザの相談相手になっていた。
遅れている事に青筋を浮かべるホスタは、耳をよく研ぎ澄ませ出す。
『イヤアアア!まだ調べたい事とか沢山あるのにぃぃぃ!!』
『わがまま言わないの!仕事の時間なんでしょ!』
『ほら!早く来るんだよ!モミザ!ちょっとぶん殴ってしまいな!』
『殴って気絶させたらダメだろ!』
という叫び声が、ホスタの耳に飛び込んできた。




