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ロスト・フラワー アンドロイド少女はエルフ少女に恋をするか  作者: B・T
終章 ※ここから毎日投降いたします
135/138

私が必ず守り抜く 中編

 リージアとモミザ達が合流した二日後。

 予定通り回収に来た輸送機に運ばれ、リージア達は新たに建造された基地の有る島へと移動。

 到着するなりリージアだけは司令官の部屋へと連行され、フォスキア達とは別れた。

 前の基地よりも立派な執務室にて、リージアは司令官の前で正座していた。


「……あ、えっと、ひ、久しぶ」

「黙れ」

「……ちょ、ちょっと綺麗に」

「こちらの質問以外口を閉じろ」

「……ごめんなさい」


 とてつもない威圧感で仁王立ちする司令官を前に、リージアは完全に委縮していた。

 彼女の怒りのレベルが天井を突破していると察するなり、頭をフローリングでできた床にこすりつけだす。

 何しろ基地に向かう事を放棄し、ほとんど遊んでいたという事はモミザの経由で伝わっている。

 フォスキアは後で数時間の説教以外免除となり、今は一人で押しつぶされそうな怒りを受ける事となっている。


「さて、今からの質問に、ハイかイイエで答えろ……貴様はこの二年間、己の責務を放棄し、遊び惚けていた、間違いはないな?」

「はい」

「次に、最初は基地に向かっていたが、途中で面倒になっていた、そうだな?」

「はい」

「当然、それに伴う罰も受けるつもりだな?」

「……」

「チッ!」

「はいぃぃぃ!!」


 罰を受けるのは面倒だという事で返答が送れ、司令官の逆鱗に触れてしまった。

 何時もの十倍くらいの恐怖で、もう目に涙が溜まり始めているリージアを横目に、司令官は中々質の良さそうな椅子へと座り込む。


「よし、では貴様の罪状と、それに関して執行すべき刑は、残っているメンバーで厳重に審議した結果を言い渡す、そのままで聞け」


 リージアの目の前で女王様の如く座り込む司令官は、視界の隅に表示される罪状に目を通す。

 土下座状態で震えるリージアを見下ろし、セリフをまとめ終える。


「貴様の罪状は、先ず戦争誘発、非人道兵器の乱用、国家反逆、その他モロモロ」

「ウ」

「数多くの死傷者を出した大罪人である貴様には相応の罰を与える事を決めたが、情状酌量の余地も考慮しつつ……」

「……」


 刑罰が言い渡される一秒前。

 リージアの思考に、様々な感情が過ぎる。

 情状酌量と言う言葉に対する喜びと、司令官がそんな素直に減刑する筈無いという不安。

 彼女の性格をある程度知っているが故に、特に期待もせずに耳を傾ける。


「禁固一か月とする」

「……え?」


 全く予想していなかった軽い刑に、リージアは目を丸めた。

 想像もつかない酷い目に遭うと思っていたというのに、一か月を凌げればいい。

 この二年で少し丸くなったのかと思いながら、少し笑みを浮かべながら顔を上げる。


「え、えっと……」

「何だ?嬉しそうだな?」

「あ、いや、その、思ったより、軽いなって」

「ほう、軽いか」


 笑みを返してきた司令官の姿に、リージアは確信した。

 アリサとは反対に位地するような厳しさを持つ彼女も、正規の軍から離れた事によって丸くなったのだ。


「トイレと水道、机以外何も無い個室に放り込まれ、水以外一切の食物と娯楽を禁止し、尚且つ一定量の写経を行うのが軽いか、随分と胆が太くなったな」

「……」


 全く丸くなっていなかった。

 禁固一か月の真実を聞き、リージアの思考は停止した。

 一か月間写経を行うのであればまだ良いが、最低限の家具以外無い部屋で水だけで過ごす。

 司令官の性格を考えれば、恐らくエアコン何て無いだろう。

 飢え死ぬ事は無いだろうが、下手したら気が狂ってもおかしくないだろう。


「あ、あの、し、質問、よろしいですか?」

「何だ?」

「その、その刑の、意味は……」

「貴様のせいで同胞も含めて多くの者が死んだ、その追悼も込めている、さて、さっさと懲罰房に移動してもらう」

「う、うへ~」


 涙を零しながら、リージアは司令官の命令で動いたスタッフ達に連行されていった。

 目的地は新たに設置された懲罰房であり、リージアはそこで一か月過ごす事となるのだ。

 死んだ魚のような目になるリージアは大人しく連行され、亀のような足取りで歩いて行く。


「(はぁ、スト姉って何でこんなお姉ちゃんと正反対の性格なんだろ)」

『……すまんリージア、伝え忘れていた事が有った』

「ん?何?」


 トボトボ歩いていると、司令官からの通信が入った。

 正直今は声も聞きたくない気分だったが、もしかしたら甘い言葉が来るかもしれないと、叶う筈もない希望を抱く。


『写経の道具は獄中に有るが、正座していなければ書けなくなるギミックが仕掛けられている、つまり、疲れて姿勢を崩しただけで作業は行えなくなる』

「……」

『それと、部屋の広さはトイレを除けば一畳にも満たない、睡眠も座って取ってもらう、最後に、写経は一文字でも遅れたら、期間を一年に伸ばしたうえで、五十倍の量を追加する、まぁ気を付けてやる事だな』

「……あ、そ」


 抱いていた希望全てを叩き折られたリージアは、このまま卒倒しそうになった。

 もうこれであれば、電気ショックなり鞭打ちなり、痛みを伴う拷問の方がマシだろう。

 倒れる寸前の放心状態になりつつ、リージアは懲罰房を目指す。


 ――――――


 その頃。

 リージアと別行動をとっていたフォスキアは、お説教タイムまでの間モミザに島を案内されていた。

 その過程で、二人は島の一部を見渡せる高台へと移動していた。

 移動手段はモミザがプライベートで使用している車で、降りたフォスキアは少し凝り固まった体を伸ばしてほぐす。


「ん、ん~、ふぅ、やっぱ、車って良いわねぇ、そんなにガタガタ揺れないし」

「そいつは何よりだ」


 払い下げられた軍用のジープだが、馬車なんかより乗り心地は良かった。

 リージアの要望で何度か乗合馬車に乗ったが、やはりお尻は痛いは、気持ちは悪くなるわ、本当に大変な思いをした。


「それで……これが今のこの島、ね」


 柵にもたれかかりながら海風にホホを撫でられるフォスキアは、高台から辺りを見渡す。

 所々建設中の建物は散見されているが、車や信号機等の現代的なインフラも確認されている。

 この島だけ文字通り異世界の状態となっており、現代社会に近い様子だ。

 飲食店、コンビニ、病院、他にも様々な娯楽施設などが作られ、現代と変わらない生活を送っている。


「……奇妙な物ね、初めて見る筈なのに、久しぶりに見た気がするわ」

「……姉貴の影響だろうな(一年離れてただけで結構発展したな)」

「そうね」


 鉄筋コンクリートで作られた建物や、ビュンビュン走る車達。

 一応この開発プランはモミザも聞いていたが、離れていた一年でここまで発展しているとは思いもしなかった。

 本来フォスキアの世界に有る筈の無い物がほとんどを占めているというのに、初めて見たと思える物が一つも無い。

 これも同化したアリサの影響なのだろうが、そんなフォスキアでも信じられない物も見られる。


「でも、一番奇妙なのが……あれ、なのよね」

「……ああ」


 だが、一番信じられないのは、アンドロイドと共に歩く元統合軍らしき人間。

 カップルか友人か、どちらかは解らないが、犬猿の仲、水と油、そんな表現しか思いつかないというのに異質でしかない。

 同化の影響でその辺の事情も把握しているだけあって、違和感ばかりが襲ってくる。


「アンドロイドと人間の共生、まさか実現するなんて」

「て言っても、最初の半年くらいは本当に大変だったんだぜ、反発してくる連中が多かったからな」

「でしょうね」


 最初の半年近くは、アンドロイド側と人間側に分かれる形で何度も衝突した。

 その度に司令官が仲裁へ入り、人間側のリーダーに任命されたソルダと一緒に騒動を治めていた。

 リージア捜索開始時は、頻度は少なくなっただけで無い訳では無かった。

 捜索中も似たような話を耳にしたが、とある日を境目にめっきり無くなったのだ。


「けど、この義体の普及も有ったからなのか知らんが、最近もっと打ち解けられたらしいぜ」

「新型の義体だっけ?リージアと同じで、人間みたいに生きられる」

「ああ、一緒に飯食ったり、酒飲んだり、一緒に笑い合っていたら、って理由も有るかもな」


 一番の要因と考えられるのは、やはり現在普及している人間に近い義体。

 一緒に飲み食いをした事によって、打ち解けるキッカケとなったのだろう。

 そんな考察を聞きながら、フォスキアはとある話を思い出す。


「(……元々戦争しあっていたけど、所詮彼らも駒、上の連中の命令で戦っていただけなのよね、大戦の中で、一日だけ勝手に休戦した、何て話も有る位だし)」


 脳裏を過ぎったのは、大戦時クリスマスの一日だけ勝手に休戦したという話。

 統合軍兵士達も政府と言う縛りが無くなり、そしてアンドロイド達も自由にふるまえる。

 これこそが、かつてマスター達の思い描いた姿。

 アリサもリージアも諦めた未来だったが、ストレリチア司令官だけは諦めて居なかったらしい。


「……スーちゃん、頑張ったのね」

「ああ、姉貴も姉貴で、頑固な所が有る、リージアと違って、良い頑固さだ」

「そうね」


 頑固な所が有るというのは、ストレリチア司令官もやはりリージア達の姉と呼べる面だ。

 生き残った姉妹で共生派と呼べるような存在は彼女だけであるが、たとえ姉妹を殺されようと共生の夢は諦めていなかった。

 両片思いの関係となっていた総司令の存在も有ったが、計画の変更をリージアに押し切られても方法の模索は止めていない。

 リージアと同じで、何とも頑固な性格だ。


「……ねぇモミザ」

「何だ?」

「今度、皆で祝宴でも開かない?」

「あ?この前やっただろ?」

「あれは再会祝いよ、次にやるのは戦いが終わったお祝い」

「……何じゃそりゃ」


 茶化すような言い方だったが、モミザの口角はかなり上がっていた。

 相変わらずの口下手であっても、見知った顔だけの宴会であれば喜んで参加する

 酒や食事の味を覚えた事も有ってか、かなり乗り気だ。


「この世界は娯楽が少ないから、何かにつけて、宴会開く理由にしちゃうのよ」

「成程、確かに、付き合って一年記念だのなんだのとか良く言うからな、リージアに面倒くさい彼女とか思われないようにな」

「……どちらかって言うと、それはリージアの方よ、それ含めて、新しい町に来た記念だの、魔物討伐百体超え記念だの」

「……悪い、確かにアイツの方がやりそうだ」


 フォスキアの脳裏に過ぎるのは、何かにつけて騒ごうとするリージアの姿。

 モミザの思っていた事とは全く逆の事が起きており、ちょっとした事でフォスキアは巻き込まれる形で付き合う事に成っていた。

 正直その辺だけはフォスキアも少し飽き飽きしており、柵に深々ともたれかかってしまう。


「でも、だからこそかしらね?たまには本気になって、大勢で騒ぎたくなったのよ」

「……たまには?傭兵仲間とはギャーギャーやってんだろ?」

「そうなんだけどね~」

「……まさかリージアか?」


 この二年近くの間で、フォスキア達二人はコンビで傭兵稼業を続けていた。

 フォスキアは元々名うての傭兵だった事も相まって、一人だった時よりもかなりの額を稼げていた。

 その際に別の傭兵達とも交流の機会も有ったが、リージアは大体問題を起こしていた。

 基本的にフォスキアに言い寄る傭兵を掃い除けようとして、そのまま乱闘に持ち込む事がほとんどだ。

 とは言え、それよりも根深い問題が有る。


「それも有るんだけど、一番の理由はこれかしら?」

「……あ」


 モミザが目にしたのは、半分だけ変異を見せたフォスキアの姿。

 周りの目が変に向かれないようにすぐ戻したが、おかげでフォスキアが何を気にしていたのかを察する事ができた。


「身バレか」

「ええ、それに加えて、変に仲を深めちゃいけないのよね」

「成程、それで、心置きなく騒ぎたいって事か」

「そう言う事よ」

「まぁいい、海辺の町ん時はあまり参加できなかったからな」


 かつてゼフィランサス達と合流したタラッサの町でも傭兵達と騒ぐ機会は有ったが、当時のモミザ達の義体は完全に機械の物だった。

 それ故にちょっとした余興にしか参加できず、酔って騒ぐ事には混ざれていない。

 今の義体になってから酒や食事を嗜む事は有っても、精々仲間内で軽く酔っていただけで、そこまでの騒がしい事はやっていない。


「で、アイツ等呼ぶにしてもどこでやる?ここか?それとも向こうか?」

「向こうでやりましょう、一か月くらい前に、ギルドで新しいサービスが始まったのよ」

「サービス?」

「ええ、傭兵達であれこれ騒がれてもいいようにって、異空間設置型の宴会場ができたのよ、酔った勢いでお店とか壊す人多いから」

「そんな物がね、まぁいい、全員に予定合わせる様に伝えておく、リージアの奴が上手い事やれば、一か月後だな」

「決まりね、予約は私が行くわ、ライセンスカードが無いといけないから」


 場所と日にちが決まり、二人は変な高揚感に包まれだす。

 考えてもみれば、揃いも揃ってこう言った宴会の企画等は初めての経験。

 後は一か月後に全員集まれるか、と言う問題だけだ。


「それじゃ、今度何人か貸してもらえる?折角だからパーティ用の料理用の食材が欲しいのよ」

「あ?ここにも一応店は有るぞ」

「そうでしょうけど、折角だから良い奴採って来るわよ、こっちだと強い魔物程美味しい事があるから、ワイバーンとか料理してあげる」

「……そ、そうか、けど、護衛なんか付けなくても、お前なら一人で大丈夫じゃないか?」

「それはそうだけど……もし一人で動いてた、何てリージアの耳に入ったら、あの子絶対発狂する」

「……だな」


 狩りの為の護衛、フォスキアには必要無いとしか思えないが、リージアの事を考えたら絶対に必要だ。

 何しろ、リージアやモミザも良く読む薄い本で起こる事は、この世界でも起こりかねない。

 その用心と言うのも有るが、ならなくても一人で狩りをしていた何てリージアの耳に入れば、不安感で発狂してもおかしくは無い。


「まぁでも、大きい獲物とか捕らえた時は人手が要るのも事実だし、居て損は無いわよ」

「だ、だよな、アイツは心配し過ぎなんだよ」

「……けど、そう言う風に心配してくれるのも、結構可愛いのよね」

「……そうか」


 モミザ視点では何を想像しているか解らないが、惚気るフォスキアの姿に胸を痛めた。

 二年前にキッパリ諦めた恋心のつもりだったのだが、未だにこういった話にはナイーブになってしまう。

 そんなモミザの姿に気付き、ちょっと気を使うような表情を浮かべてしまう。


「……え、あ、もしかして」

「いや、いや、いや……うん、いい、もう吹っ切ってる」

「とてもそうには見えないけど」


 吹っ切っている何て言っているが、本人は柵に捕まりながら地面を見つめている。

 明らかに落ち込んでおり、完全に虚勢を張っている。


「それで……その、リージアとは、一応、経験してんだよな?よ、夜の、方」

「え?ええ」

「……その、セクハラかもだが、その、えっと、ひ、頻度は?」

「マジでセクハラよ、それ」

「……わ、悪い、嫌なら、答えなくて良い」

「……」


 また自傷行為と言えるような発言をし、尚且つ嫌ならいいと言いながら知りたそうな目を送ってきた。

 どうした物かと考えつつ、ちょっと胸を痛ませながら顔を真っ赤にする。

 正直答えるのも恥ずかしく、大声で言えるような事でもない。

 なので、耳打ちで答える。


「……しゅ、週、五、かしら?」

「……そうか、ありがとうな、恥ずかしいだろうに、ゴハッ!!」

「モミザァァァ!!?」


 しかし、時間差を生じてモミザは吐血。

 しかも地面に伏せ、痙攣を開始。

 顔の穴と言う穴から液体を噴出させ、地面に放置された魚のようになってしまう。


「ちょっとぉ!?大丈夫!?ねぇちょっと!?」

「だ、だだだ、だいじょ、だいじょ、ぶ、だ、ただ、は、はき、吐き気がして、ず、ずつ、頭痛が、いた、いたたた、いたくて、めまいが、くらくら、する、だ、だだだ、け、けけけ」

「いや言語機能バグってるじゃない!呂律とか色々変だし!ちゃんと答えておいてあれだけど、自分の質問で脳破壊されないでちょうだい!!」


 顔の周りにちょっとした水たまりを作るモミザは、一時間程悶え苦しむ事となった。



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