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ロスト・フラワー アンドロイド少女はエルフ少女に恋をするか  作者: B・T
終章 ※ここから毎日投降いたします
134/138

私が必ず守り抜く 前編

 温かな光をもたらす太陽、そして現代の技術によってなんの汚染も無い澄んだ空気と言う、素晴らしい環境で育つ青麦が広がる麦畑のあぜ道に、一台の荷馬車が二頭の馬に牽引されながら進んでいた。

 荷馬車を引く二頭の馬の手綱を握る白髪の少女の隣で、もう一人の白髪少女は不満そうな顔で麦畑を眺めていた。


「……あ~、今日で二年か」

「……何時からです?」

「あの馬鹿妹二人が消息絶ってからだ」


 麦畑を陰気な顔で眺めるのは、破損した薙刀の代わりにバルバトスの太刀を担ぐモミザ。

 その隣で手綱を握るのは、カービンライフルを背負うホスタ。

 荷台には双子とヘリコニアが乗り込んでおり、リージアを除いた最初のメンバーは全員居る。

 リージアとフォスキアの二名が消えて、今日でおよそ二年。

 司令官の言い渡した猶予の一年はとうに過ぎており、予定通りモミザ達が捜索に駆り出された。

 だがリージアの残したデートスポット集を参考にしても、二人の尻尾は全く掴めていなかった。


「レーニアぁ、本部からはどうだ?」

「……定期報告によると、未だに連絡も何も無しだと」

「チ、アイツ等……ブライトの方はどうだ」

「んー?衛星からでも二人のこと見つけてないっぽ」

「クソ」


 入れ違いにならない様にレーニアが据え置きの通信機を使って定期的なやりとりを受けているが、リージア達が基地に到着したという報告は無い。

 オマケにこの世界での活動の為に人工衛星も打ち上げられており、そっちでも捜索は行っている。

 双子は人工衛星からの情報を受け取って捜索しているが、一向に手がかりは掴めていない。


「まぁリージアちゃんの事だしぃ、見つけるのは難しいのはぁしょうがないわよねぇ~」

「そうだけどよぉ」


 暇つぶしに木の模型を彫るヘリコニアは、リージアの逃走能力を指摘した。

 司令官達からの助力も有ったとは言え、リージアは誰にも気づかれずにブロッサム等の兵器を制作していた。

 時にはモミザでさえ本当に見つけられなかった事もある程、彼女は雲隠れをしたら見つかりにくい。


「……まぁそれはそれとして、もうしばらくで次の目的地に着きますよ」

「え、あ、ああ、確か次の町はっと、美味い酒とか揚げ物が有るとかな」

「はい、今度こそ居ると良いのですが」


 今彼女達が向かっているのは、酒などが比較的有名な地域。

 酒好きのフォスキアも同行しているうえに、今のリージアもそれなりに酒を嗜むようになった。

 元々酒に興味を持っていたリージアは、以前まで飲めなかったというのに、酒造が盛んな地域のデータも書き記していた。

 そう言った地域はこれで三か所目だが、今回も淡い希望を抱きながら向かっている。

 とは言え、モミザとしてはここに居て欲しくない気持ちも有る。


「まぁ仮に居たら、マジで十回位殴ってやるかもしれないぜ」

「何故です?」

「いや、ここかなり内陸だぞ?なんならアイツ等の落下地点より海から遠いぜ、ここに居たら、全く持って帰って来る気が無かったって事だろ?マジ腹立つわ」

「……程々にしてくださいよ」


 この近辺は基地の有る海からも遠く、なんならリージア達の落下地点よりも内陸部だ。

 こんな所で見つかったら、彼女達は全く帰る気が無かった事になる。

 そんな事に成れば、ずっと二人を心配していたモミザの怒りは爆発しかねない。


「でぇもぉ、白髪の少女を連れた赤目のエルフを見たって話はぁ、この辺りだって噂よねぇ」

「……それなんだよなぁ」


 しかし今までの情報収集によれば、二人の主だった活動拠点はこの辺り。

 おかげでますます嫌な予感が過ぎり、モミザはあからさまに落ち込んでしまう。

 リージアは知らないとは言え、一年間の猶予を与えたのはあくまでリージアのメンタルケアが目的であり、遊び惚けさせるためなどでは無い。

 向かいもせずにここで遊んでいたとなれば、リージアへの罰はかなり重い物となる。


「やれやれ、これじゃあの野郎、姉貴にどんなしおきされるか解らんぞ」

「ですね……あ、見えてきましたよ」

「……やれやれだぜ」


 しばらくして、彼女達の視界に目的地の城壁が見えて来た。

 とりあえずここで見つけたら十発位殴る事にしつつ、彼女達は目的地の町へと向かう。


 ――――――


 しばらくして。

 モミザ達オメガチームは町へと入り込むと、早速行動を開始していた。


「さてと、あの野郎はどこかね」

「とりあえず馬車のメンテナンスは彼女達に任せて、我々は二人の捜索ですね」


 町の捜索を行っているのは、モミザとホスタの二名だけ。

 他の三人は乗ってきた馬車の点検を行っており、それが終わり次第参加する予定だ。

 と言うのも、乗ってきた馬車は輸送用のトラックを改造した物。

 馬も姿を模しているだけのロボットである為、整備は技術者である三人に任せる事が一番良い。


「……そう言えば、ヘリコニアさんはまた情報収集がてら商売でしょうかね?」

「多分な、まぁ何時もの事だ」


 街道を歩く二人の脳裏に過ぎったのは、適当な所で露店を開くヘリコニアの姿。

 ここに来る道中で制作していた人形やらオモチャやらを売り、活動資金や情報を集めている。

 そして、双子はモミザ達と同様に直接捜索するというのが何時もの捜索方法だ。


「(アイツ等はアイツ等で探すだろうし……さてと、あの馬鹿はどこだ?)」


 それぞれの捜索方法を思い出しつつ、モミザは町の中を見渡す。

 多種族の入り混じる事の多いこの世界であっても、やはり白髪と言うのは珍しい。

 なので、リージアを見つけるには白い髪を探す事が一番手っ取り早い。

 サーチモードも起動させつつ捜索していると、モミザの嗅覚に良い香りが漂ってくる。


「……お」


 その良い香りは揚げ物の屋台から漂ってきており、その香ばしさで腹の虫が鳴り響く。

 猶予期間である一年の間に、彼女達の義体はリージアの物と同様に生体パーツを用いるようになった。

 おかげで空腹も有れば、睡眠の必要も出て来る。


「その前に飯だな」

「……副長も、隊長のお姉さんですね」

「それどう言う意味だ?」

「美味しい物には目が無い、と言った所でしょうか?」

「……否定はしない」


 食事を行えるようになってから、モミザもリージア同様に食事等に興味が出ていた。

 それこそ、今までも捜索がてらに様々な町でその地元の特産品を味わって来た程だ。

 なんだかんだ言って、モミザもリージアの姉と言う事だろう。


「お前の分も買ってきてやるから、ちょっと待ってろ」

「わかりました、私はここで目を光らせています」

「ああ、頼む」


 ホスタにこの街道での捜索を任せ、モミザは屋台へと向かう。

 近づくにつれて鮮明になって来る油の音に口角を上げつつ、モミザは財布を懐から取り出す。


「さてと、この屋台は何が有るんだ?」


 早速屋台にかけられているメニューに目を通し、何が有るのかを確認する。

 どうやらレイジングボアと言うイノシシ型の魔物の肉をメインにしているようで、その部位がメニューとして並べられている。

 種類も豊富で、どれにするか悩んでしまう。


「(おし、これにするか、マジで良い匂いだ、コイツにつられてリージアが来ると良いんだが)」


 その間でも他のお客の頼んだ物を揚げる音と、具材より漂ってくる匂いが空腹感を加速させる。

 ウキウキとした気分になりつつ、モミザは早速選んだものを頼もうとする。


「あ、すみません」

「はいよ!ロース串二本だ!」

「え?」


 しかし、注文する前にモミザが頼もうとした筈の物が手渡された。

 店主に変な能力でも有るのではないのか、何て事を考えるが、普通に考えて人違いだろう。


「あ、え、えっと、た、頼んで、無いです」

「え?だってさっき」

「あ、それ私です」

「え!?あ!わ、悪かったね!」


 どうやら本当に人違いだったらしく、隣で待機していたもう一人の客がその串を手渡された。

 間違いに気付いて謝った店主は、改めてモミザの方を向く。


「さ、さぁ、注文はなんだい?お嬢ちゃん」

「あ、え、えっと、さっきのロース、二本、お願いします」

「はいよ!待ってねぇ、すぐ揚げてやるからな!」


 元気よく注文を受け取った店主は、早速串に衣を付けて揚げ出す。

 ちょっと待つだろうと思い、モミザは店の端の方へ移動。

 揚げる光景を見ながら、完成を待つ。


「いやぁ、おじさんには困りましたねぇ」

「あ、そ、そうですね」


 待っていると、先ほど受け取りを間違えられた人に話しかけられた。

 視線はフライヤーの方を向いているので顔は見てないが、声で同一人物と判断してとりあえず相槌を打った。

 以前であればマトモに注文できなかっただろうが、最近はようやく初対面の人とも軽いやり取りを行えるようになっていた。

 だが完璧になった訳では無いので、こうして良く喋る人とはできれば早い所別れたい。


「じゃ、私はこれで、連れを待たせているので、ここの揚げ物凄く美味しいですから、楽しみにしてくださいね」

「あ、はい、楽しみにして、ま、す……」

「……」


 愛想笑いをしながら振り返ったモミザは、その人を見て硬直した。

 話しかけて来たのは、綺麗な白髪をなびかせる少女。

 魔物から剥ぎ取ったと思われる革の鎧を身にまとい、巨大なバトルアックスを背負っているあたり傭兵である事はうかがえる。

 だが、思いっきり顔見知りだ。


「リー、ジア?」

「も、モミザ?」

「お、おーい、お嬢ちゃん、揚げ終わったよぉ……てか、本当によく似てるな、お二人」


 話しかけて来たのは、先ほど買った串カツにかぶりつくリージア。

 まさかこんな所で本当に再会できるとは思っていなかったので、思考はフリーズを続ける。

 それこそ、店主が注文の品を渡して来ても気付いていない。

 だが、目の前には確かにリージアが存在している。

 それを認識し、モミザはゆっくりと足を踏み出す。

 ずっと会いたかった最愛の妹を前にして、拳を力いっぱい握り締める。


「……ヌンッ!!」

「え?ブベラッ!!」

「ええええ!!?」


 驚きのあまり思考を錯乱させたモミザは、リージアへと固く握り締めた拳を放った。

 半分条件反射のような物だが、モミザ自身何でこんな凶行に出たのか解っていない。

 おかげで屋台のおじさんも驚かしてしまうが、そんな事はもうお構いなし。

 ノックアウトしたリージアへ接近し、モミザは更なる追撃に出る。


「え!?ちょ!モミザ!」

「オラッ!」

「オブッ!」

「オラ!オラ!オラ!」


 馬乗りになりながら、容赦なくリージアへの追い打ちを繰り出す。

 モミザの拳はリージアの両ホホを何度も交互に殴り、それはリージアの歯が折れようが止まらない。

 周りの人間からドン引きされようと、モミザは気にする事無く殴り続ける。


「あのー、副長、エルフィリアさんが、見つかりました、よ……」

「……何してんのよ、アイツ等」


 そんな民衆の中にはフォスキアと合流できたホスタも混ざっており、モミザは気の済むまでリージアを殴り続ける事に成る。


 ※なお、殴られた衝撃でリージアが落とした串カツは、モミザと責任をもって食べ、屋台のおじさんにも全力で土下座して謝りました。


 ――――――


 しばらくして。

 モミザの気は済み、リージアは何とか解放された。

 その後で他のメンバーも集め、適当な酒場で合流していた。


「で、気は済んだのかい?」

「あ、ああ」

「ああ、じゃないよ、何本歯ぁ折れたと思ってるの?」


 レーニアの問いかけに答えるモミザの横で、リージアは鏡で自分の口内を確認していた。

 自己修復機能で徐々に生え変わっているとは言え、やはり痛みはまだ有る。


「そんな事よりぃ、リージアちゃん、フォスキアちゃん、また会えて良かったわ~」

「そんな事って、まぁいいや、私も、また皆に会えて良かったよ」

「ていうか、この二年何してたんだい?随分探したんだよ」

「え?あ、あはは」


 レーニアからの質問で、リージアは返答に困ってしまう。

 彼女の脳裏に過ぎるのは、この世界での傭兵としての生活。

 昼は魔物と戦い、夜はフォスキアと二人で過ごす。

 そんな充実しすぎた生活のおかげで、基地に帰る事なんて忘れてひたすらに傭兵ライフを満喫していた。


「(普通に遊んでたのと変わりないよね、てか、今はお金が要りようだから何時もより頑張って稼がなきゃって状況だったんだよね)」

「帰る事ほとんど忘れて、傭兵ライフ満喫してたわよ」

「ちょ、フォスキア!?」

「ほう、ソイツはまたお楽しみだったようで、人を散々心配させておいて」

「まぁまぁ!落ち着きなって!」


 散々心配していた身であるというのに、リージアは普通に傭兵としての人生を満喫していた。

 そんな事を聞かされたモミザは太刀を鞘から少し引き抜き、リージアへと食い掛ろうとする所へレーニアが仲裁に入った。

 だがそれだけでは決め手に欠けてしまったが、第三者の介入でようやく収まる。


「あ、あのー、料理をお持ちしましたけど」

「ほら!料理が来たよ!そんな物騒な物はしまいな!」


 また騒がしくなろうとした辺りで、頼んでいた料理が運ばれて来た。

 料理や酒はテーブルを埋め尽くす程であり、少なく見積もっても七人前以上有る。

 そんな量の注文を前にして、リージアとフォスキアは他の隊員達の身体へと目をやる。


「……それにしても、本当に飲食とかできるようになったんだね」

「ああ」

「て言っても、コイツは去年完成したばかりの新型さ、アタシらが出発した頃にはチームの分しかできて居なかったものを、無理言って使わせてもらったのさ」

「へ~、よくそんな事が通ったわね」

「姉貴に無理言ったのさ……それに、約束したからな、全部終わったら、一緒に飲もうって」

「(そう言えばそんな約束したわね)」


 モミザ達の義体は最近できたばかりの新型で、モミザ達が出撃する頃にはまだ彼女達の分しかできていなかった。

 それでもこの義体で来たのは、カモフラージュ以外だとこの瞬間の為でも有った。

 これであれば、フォスキアと一杯飲もうと言う約束を果たせる。

 加えて、リージアと一緒に食事を楽しめる状況になった事も嬉しい。


「それじゃ、乾杯、だな」

「そうね、じゃ、リージアお願い」

「はいはい……乾杯!」

『カンパーイ!!』


 オメガの面々はジョッキをぶつけ合い、最初の一杯を飲み始める。


「プハッ、やっぱ良いな、酒ってのは」


 酒が入ったモミザは、心地よく顔を赤くしながらジョッキを置いた。

 最初は目が回って仕方なかったが、今ではもう心地よく酔えている。


「とりあえずだ、二人共、明日にはテメェらを連行させてもらう、迎えの輸送機が夜明けに来るはずだからな、姉貴にみっちり叱られるこった」

「うへ、でもまぁ、しょうがないか」

「二年も開けちゃったし、流石に結構怒られるわよね」

「ああ……」


 そもそもモミザ達の任務は、リージア達を連れ帰る事。

 この再会の祝宴が終わったら、先ほど呼んでおいた輸送機に乗って帰る予定だ。

 その事を説明されて少し顔を青ざめるリージアとフォスキアを観察するモミザは、とある事に気付いてしまう。

 良く見ればリージアは二年前よりも可愛く思えるだけでなく、フォスキアも以前よりも色気のような物が更に強まっている。

 気のせいでなければ、二人は間違いなく関係を持っている。


「……ところで、ゆうべはお楽しみだったのか?」

『ブフッ!!』

「やっぱりな、お熱いこった」


 茶化されて飲んでいた物を吹き出した二人の姿で確証を得たモミザは、少し視線を逸らしながら酒をふくんだ。

 祝福も有れば、嫉妬も有り、尚且つ喜びも悲しみも有る。

 同時に頭がチカチカした症状を覚えながら、モミザは酒を飲み干す。


「ブハッ(けど、なんだろう、祝福してやりたいってのに、妙に頭が)」


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