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ロスト・フラワー アンドロイド少女はエルフ少女に恋をするか  作者: B・T
終章 ※ここから毎日投降いたします
131/138

愛しき貴女と 後編

 購入した物をリュックに詰めて服屋を後にした二人は、その足で屋台や居酒屋の立ち並ぶ町の区画へと移動していた。

 特に何か祭りが有る訳でもなく、そこでは人が込み合い、飯喰らい、酒に酔う者達でにぎわっている。

 昼下がりと言う事も有り、誰もが空の胃袋を満たそうと賑わっている。


「うわ~、虫と変わらないね、無駄に集っちゃって」

「アンタホント、半年前のテンションどこ行ったの?」

「宇宙で死んだ」

「まったく」


 獣人や魔物にお熱だったリージアはどこへ行ったのか、多種族の賑わうこの空間であってもリージアは冷めてしまっていた。

 本人の言う通り、過去に縛られてファンタジーに逃避していたリージアは死んでいる。

 そのおかげでファンタジー感の有る物を見ても、それ程反応する事は出来ない。

 だが、代わりに別の物が反応するようになった。


「……ジュルリ」

「テンションは死んでも、食欲は有るのね」

「う」


 先ほどから漂ってくる香りに、増設されたリージアの胃袋は反応していた。

 元々無かった筈の三大欲求に従ってその香りの方へと視線は向けられ、勝手に口からヨダレが垂れる。

 好き好んで付けた機能とは言え、フォスキアに指摘されて顔を赤くしてしまう。


「まぁでも、もうお昼過ぎだものね、先に適当な所で買って食べちゃいましょうか」

「そ、そうだね」

「もちろんあれ買ってあげるから」

「あ、ありがとう」


 二人の視界の隅に表示されているデジタル時計は、既に正午を過ぎている。

 昼食に決まっている店に向かう前に、折角なのでリージアが目を付けた屋台に足を運ぶ。


「……えっとこれは」

「いらっしゃい可愛いお嬢さん方!ウチの屋台自慢のコカトリスのフランゴ焼きだよ!」

「は、はぁ……」


 早速前にした屋台は、コカトリスを用いた焼き鳥。

 店主はバンダナにエプロン姿と言う、絵に描いたような屋台のおじさんだ。

 何とも明るく喜作な笑顔で商品の説明を行われたが、こう言った場所での注文に慣れないリージアはモミザのようにたじろいでしまう。

 だが、そんなリージアに助け舟を入れる様にフォスキアが前に出る。


「とりあえず二本ずつ頂戴」

「はいよ!待ってな!」

「え」


 代金を貰ったおじさんは、早速予め火を通しておいたと思われる肉に味を付けて炙りだす。

 しかも炭で焼いているおかげで、待っているだけで良い香りをもたらしてくれる。

 更に肉にまぶされている香草で食欲は増進され、今すぐにでも肉にかぶりつきたくなってしまう。

 もうこの香りの香水でも欲しい位だが、ちょっとした不安もよぎる。


「良いの?」

「ええ、今日はお財布の紐緩めで行くわよ」

「あ、いや、お金の話じゃなくて……」


 今日のフォスキアは財布の紐を全開にしていく予定であるが、リージアの不安はその視線の先に有る。

 何しろ、今焼かれている鶏肉は全て握りこぶしサイズ三つを木の串に刺している。

 一つだけでかなりお腹が一杯になりそうなサイズとなっており、食べきれるか心配になる。


「ああ、サイズの心配してるのね、それなら大丈夫よ、この状況だと案外入っちゃうから」

「そ、そうかな?」

「はいよ!フランゴ焼き二本ね!串はそこのゴミ捨て場に頼むぜ!」

「どうもっと、はいこれ、食べてみなさいって」

「あ、ありがとう……」


 二本の焼き鳥を受け取ったフォスキアから、その内の一本を手渡された。

 手にずっしりと来るその焼き鳥は、まるで大食い大会にでも出て来そうなボリュームだ。

 だがそんなインパクトとは裏腹に、リージアの腹の虫は鳴り響く。

 朝は軽食しか入れていない事も有って、食物を求める口は無意識に鶏肉へとかぶりついてしまう。


「ガブ」

「あら、せっかちね」

「ガハハハ!良い食いっぷりだね!」

「ムグムグ……」


 大きな一口で噛み千切られた鶏肉を咀嚼するリージアは、フォスキアの料理とはまた違う味に舌鼓を打つ。

 肉は弾むように歯を押し返し、かみ砕かれるにつれてリージアの口内は肉汁で一杯になる。

 程よい塩加減と鼻を通り抜ける香草の香りが、肉の持つ旨味をより引き立ててくれる。

 炭火焼き故の焦げも良いアクセントとなり、肉を呑み込んだリージアが口にする感想はただ一言だった。


「美味しッ!」

「ふふ、そうよね」

「ガッハハ!そんな良い表情されると、疲れも苦労も吹っ飛ぶぜ!!」


 焼き鳥を頬張ったリージアの表情は、屋台のおじさんやフォスキアもほっこりする物だった。

 そんな二人を横目にしながら、リージアは焼き鳥をどんどん食べ進める。


「まぁそれはそうと、ここだと他の人の迷惑だから、ちょっと移動しましょうか」

「あ、うん」


 とりあえず他のお客の迷惑にならないように移動しつつ、その道中でフォスキアは予定の店を探すために目を配らせだす。

 先ほど買った焼き鳥もかじりつつ、フォスキアは目的の酒場を探し当てる。


「あ、あそこね、先ずこれ食べてからね」

「う、うん」


 店を見つけた二人は、先に焼き鳥を片付けていく。


 ―――――


 数分後。

 焼き鳥を食べ終えた二人は目的の店に入店し、テーブル席に案内されると共にフォスキアのおススメするランチを注文した。

 食事が到着するまでの間、二人は先に来た物を楽しむ事にする。


「乾杯!」

「乾杯!」


 嬉々として叫んだ一言と共に、二人は先に来たビールを体内へと注ぎ込む。

 しかもリージアが想像していたようなぬるめの物では無く、キンキンに冷えたラガービールだ。

 フォスキア曰く、ドワーフ族の酒への執念と魔法技術によって制作されたらしい。

 麦の海に飛び込む事のできたリージアは、ホホを緩める。


「プハ~、蒸留酒も良いけど、ビールも良いねぇ」

「ええ、私も酔いたい時は強めの奴にするけど、ランチタイムはやっぱりこれよ、お酒にもTPOってのが有るのよ」

「確かに、こう言う場末の酒場感漂う場所だと、オシャレさより、人目を気にせず雑多にビールが一番だね」


 フォスキアの言う通り、ここではオシャレな酒よりも冷えたビールだ。

 まだ昼間であるが、非番か夜勤開けか、傭兵や職人らしき人達が騒がしく飲んでいる。

 入店時はやはり気分を悪くしたリージアだったが、酒のおかげですっかり上機嫌となる。


「ふぅ……」

「ふふ」

「ッ、あ、なんか、ゴメン、ガッついちゃって、はしたない、はは」

「良いのよ、ここではそう言う風に飲むのが通例なのよ」

「……」


 折角のデートだというのに、自分本位な楽しみ方をしてしまった。

 その事に少しショックを受けてしまうが、そんなリージアの横でフォスキアも同じようにジョッキを空にする勢いでグビグビと飲んでいる。


「プハッ、そんな気負う事は無いわ、アンタの世界のデートって言ったら、お高いレストランなんかに行くのが普通なのかもしれないけど、ここじゃそう言うオシャレな所は文字通り貴族や金持ちの道楽なのよ」

「そ、そうなんだ」

「それに、貴女もそんな格式ばった所より、今はこれ位の奴が楽しむ分には丁度いいんじゃない?やっぱり二人で楽しんでなんぼよ」

「ま、まぁ、そうだね」


 フォスキアの言う通り、いきなりオシャレなレストランに行かれても味が解らずじまいだったろう。

 それを考えれば、こんな大衆が楽しめるような場所で丁度良かった。

 そんな事も考えていてくれたことに、フォスキアの性格の良さが伺えてしまう。


「(……やっぱ、フォスキアと出逢えた事が、一番の幸運だよ、貴女に逢えて、本当に良かった)」

「お待ちどう様です!本日のランチ二つをお持ちしました!」


 フォスキアに出逢えた幸せをかみしめていると、注文していたランチが到着。

 二人の前に、二枚の木製の大皿とパンが置かれた。


「ありがと、後、ビールもう二つお願いね」

「はーい!少々お待ちください!」


 給仕の女性の元気いっぱい名返事に一礼しつつ、リージアは運ばれて来たランチに目をやる。

 大皿のセンターを陣取る様にハンバーグに似た肉塊が置かれ、マッシュポテトと炙られた腸詰めが添えられている。

 更には野菜なのか植物系の魔物なのか良く解らない物も付け合わせとして盛られており、豪華さと共に彩もしっかりしている。

 思ったより良い物が出され、リージアは思わずスクリーンショットで料理のデータを保存した。


「じゃ、早速頂きましょうか」

「い、いただきます」


 写真もとった事で、早速リージアは木製のナイフとフォークを手にする。

 先ほどから目を奪われていたハンバーグっぽい料理にナイフを突き立てると、沈み込むように木の刃は飲み込まれていく。

 フォークも同様の形で突き刺さり、すぐに一口サイズに切って口の中へと運ぶ。


「あぐ……ムグムグ」


 静かに咀嚼するリージアは、食べた肉料理をしっかりと味わう。

 完全に解る訳では無いが、ハンバーグには少なくとも二種類の肉と様々な香辛料や炒められた野菜が混ぜ込まれている。

 おかげで先ほどの焼き鳥のように肉単体では出せない複雑で練り込まれた味を実現し、口の中を支配せんと肉汁が溢れ出してくる。

 この肉単体でも十分な満足感をもたらし、文句なしの一言が口からこぼれ出る。


「美味いッ!」

「でしょ?十年くらい前に来て同じように驚いたわ」

「へ~、結構前から有るんだ」


 まぁまぁ長続きしている店である事を告げられながらも、リージアは食べる手を進めていく。

 それはフォスキアも同じ事で、十年ぶりの味を堪能している。


「さて、次はウィンナーっと」


 フォスキアをしり目に、次にリージアが選んだのは腸詰め。

 何の肉なのかは解らないが、ハンバーグとは違って軽めの抵抗感をリージアへ与えて来る。

 強欲な人間に食べられまいとしているかのような物に思えたが、食べる側からしてみればそれは抵抗の内に入らない。

 外装は簡単に破られ、リージアの口内で、パリッ、という音と共に食いちぎられる。


「うん!」


 口内で蹂躙される腸詰めより、ハンバーグとは比較にならない量の肉汁が吹き出て来る。

 先ほどの物を肉汁の川と例えるのであれば、これは肉汁の海と言えるだろう。

 溺死するのであれば、この汁の中が良いかもしれないと一瞬思えてしまった。

 そんな物を口にしたリージアは、思わずまた叫んでしまう。


「これも美味しい!」


 思わず叫んでしまう程の美味しさに、リージアはすっかり舌鼓。

 すぐに一本を食べつくし、その勢いでハンバーグも食べ進める。

 しかし、次は肉たちの最後の抵抗であるかのように、リージアの口内を脂で支配していく。


「(う、成程、肉ばっかだと結構きついね)」


 フォスキアの料理がここまで茶色だった事は無かったという事も有り、脂のくどさを初めて味わった。

 これでリージアの進撃は終わりかと思われた時、援軍が駆けつける。


「はい!ビール二丁おまちどうさま!」

「ん、どうも」

「あ、ありがとうございます」


 丁度良いタイミングで先ほど頼んだビールが到着し、リージアは笑みを浮かべた。

 早速ジョッキに手を伸ばし、フォスキアと軽くぶつけ合うなり、一気に口の中へと流し込む。

 軽い苦みと炭酸を孕む液体は、口内を支配していた脂を一掃。

 食事時の回復薬であるかのように、リージアの食欲を回復させた。


「ブハッ!これならあと十人前位食べられそう!」

「ふふふ、調子乗らないの」


 ジョッキをテーブルに置いたリージアは、酒の影響で随分調子に乗っていた。

 ビールと肉料理のループを繰り返し、何とも美味しそうに皿を空にしていく。

 そんな彼女の前で食事を続けるフォスキアからしてみれば、その幸せな表情だけでも酒が美味しくなる。


「(本当に幸せそうに食べるわね、なんかこっちまで嬉しくなるわ、それに、ここの味も以前と変わってないわね)」


 二人で楽しく食事をしつつ、フォスキアは以前来た時の事を思い出した。

 十年程前に来て、滞在中は週に一回ほどのペースで食べに来ていた位にはお気に入りだ。

 まさかリージアと落ちた先がここの近辺とは思わなかったが、おかげでリージアと楽しいひと時を過ごせる。

 ありがたい偶然に感謝しながら、フォスキアは店を見渡す。


「(味は変わってないけど、このお店、以前来た時は……)」


 しかし、味とは別に変わった物はいくつも有る。

 先ず店内は老朽した部分が散見され、綺麗にしていても建築材の寿命は進んでいる。

 とは言え、まだ崩れる事を気にするくらいではない。

 次に目に着くのは、オーナー兼料理長である男性の髪が少し白くなっている事と、その奥さんとの娘さんだ。

 先ほどからウェイトレスとして料理を運んでおり、奥さんは裏方に徹しているようだ。

 フォスキアの記憶が正しければ、以前来た時の娘さんは軽いお手伝い程度だったというのに随分と成長したものだ。


「あの給仕やってる子も、大きくなったわね、昔はお盆一枚でせっせと運んでたのに」

「ん、ああ、あの子?昔からいたの?」

「ええ、ここの店主と奥さんの娘さん、小さくて可愛かったのに、今はジョッキ六個一辺に運んでるわね」


 昔来た時の店主の娘さんは年相応の力しか無く、給仕はお盆一枚に乗る分を頑張って運んでいた。

 それなのに、今や飲兵衛たちの為に一度に複数の食器をもって行動している。


「(今私と居るんだから、他の女の事見ないでよね……でも)」


 彼女の姿を眺めるフォスキアの目にはどこか羨ましそうな物が宿っている事にリージアは気づき、軽い嫉妬を覚えながらジョッキを傾けつつ、彼女の気持ちを紐解きだす。


「(娘さん、か……あ、もしかして)フォスキア、子供とか、欲しい?」

「ブッフォッ!!?」


 半分勘だったが、どうやら図星だったようでビールを吹き出した。


「ゲッホ!ゲホ!い、いきなり何言うのよ!?」

「何となくかな?まぁでも、そればかりは叶わないんだよね……性別以前に、私アンドロイドだし」

「……」


 軽くビールを飲みながら、リージアは叶わぬ夢を語った。

 性別がどうのと言う話の前に、リージアはアンドロイドだ。

 どうあがこうとも、フォスキアが子を成すにはリージア以外の存在との繋がりが必要になる。

 つまり、どんな方法を用いようと、フォスキアの子にはリージアとの繋がりは無い。

 それでも、ここまで尽くしてくれているフォスキアの為に何とかしてあげたいと頭をひねる。


「……強いて言うんなら、私の義体を改造して、フォスキアの細胞を培養すればもしかしたら」

「待ちなさい待ちなさい、考えが飛躍しすぎよ、確かに羨ましいな、みたいな事は思ってたけど、そんなマッドサイエンティスト染みたマネしなくて良いのよ」

「そ、そう?基地に戻って頑張ればクローン生成する為の機能位付けれるけど」

「ホムンクルスのクローン人間とか余計に訳解らなくなる事に成るからやめなさい、それに……子供にまでこんな業を背負わせたくないわよ」

「……確かに」


 フォスキアが一番懸念していたのは、自分と同じ業を子孫にまで受け継がせる事だった。

 確かにどうあがいてもフォスキアは子供より長く生きる事はできないうえに、リージアもこの先どうなるか解らない。

 基地で半永久的に保護するというのもできるかもしれないが、それは子供の自由を奪う事に成る。


「だからリージア、この先も、私を一人にしないで」

「……もちろんだよ、貴女が私を生かしてくれたように、私も貴女を生かすから、死ぬまで」

「……ありがとう」


 少ししんみりした空気を作りながら、二人は両手を繋ぎ合った。

 互いに子孫を残せない事情が有るにしても、今自分達が幸せで居る事は出来る。

 せめてその幸せが最期の時まで続く事を二人は祈ると、笑いながら手を離す。


「し、しんみりしちゃったわね、す、すみませぇん!ビール二つおかわりお願いします!大ジョッキで!」

「そ、そうだね、じゃ、出来る限り飲んで騒ごうか!」

「もちろんよ!それに、今日はまだまだこれからよ!他にも色々回るから覚悟しなさい!」


 微妙にビールの残るジョッキで乾杯した二人は、再び食事に手をつける。

 これからの楽しみに向けて、今の幸せを噛み締める。


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