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イレギュラー 後編

 ソルダを撃退したモミザは、その足でネメシスの主砲を目指していた。

 既に主砲は膨大な量のエーテルのチャージを終えており、地味に帯びた重力で周囲の細かい小惑星やデブリを吸い込んでは破壊している。

 こうなってしまえば、オリハルコンの性質も相まって通常兵器での破壊は絶対に無理だろう。


「さて、コイツを破壊する訳だが」

『見たところ完全に破壊しないと、周囲に影響がでるわね、下手したら暴発して……』

「……ああ、だが今の俺達ならできなくない、正面から潰してやるさ!」


 完全破壊を行わなければ、暴発によってリージアの用意した魔法が発動する危険が有る。

 何とも高い難易度に緊張が高まるが、今の状態を信じて主砲の前方の方へと向かう。

 本来ならよく考えたうえで慎重に破壊するべきだが、今はそんな時間も無ければ思いつく頭も無い。

 だったらまた力押しで終わらせればいいだけだ。


「……そう言えば、なんか付け加えられてるな」


 確証は無いのだが、今の主砲には明らかに後から付け足されたような装備が見受けられる。

 それが目に入ったモミザは、不意に記憶を呼び起こした。

 艦橋の残骸でサクラ達の戦いを観戦していた時に、視界に映り込んで来た小型艇のような物が主砲へと取り込まれた場所だ。

 その事を思い出した途端、疑問は確証へと変わる。


「(薄っすらだが生体反応が有る……そうか、あの小型艇は人間の脳を乗せた物か、大方コントロールルームの脱出ポッドみたいな物だろうな)」

『そうでしょうね、あの子ならわざわざ増やしてもおかしくないだろうし』

「だったら、さっさとぶっ壊すに限る!!」


 砲門前で太刀を構えたモミザは、フォスキアの脳波と自分のガーデンコードを同調。

 エーテルを大量にチャージし、風を太刀の刃へと纏わせる。

 飛行ユニットも限界以上のエーテルを込め、一気に主砲へと迫る。


「ウヲオオオオ!!」


 スラスターによる爆発的な加速に乗せ、構えていた太刀を振り下ろす。

 しかし、主砲の周囲にまとっているエーテルはその攻撃を防ぎ止めた。

 刃は主砲自体には届いておらず、ゼフィランサス同様に反発する力に襲われる。

 それでもモミザは全身に力を込め、更にはスラスターも全力以上の出力を叩き出す。


「絶対、ぶった切るぅぅ!!」


 視界の隅に表示されるタイマーは、残り四十秒を経過した。

 是が非でもこの一撃で終わらせるために、前進だけを考えて突き進む。

 力ずくで押し込まれる刃は徐々に主砲のエーテルに食い込んで行き、刃を模ったクボミが形成される。


「もう少し、もう少しぃ!!」

『行ける!行ける!』


 フォスキアも大分熱くなっており、大声でモミザの事を後押ししてくれる。

 失敗すれば彼女も死に絶えるのだから、失敗なんて許してはくれない。

 思ったより強固な防御に焦りが出て来ても、太刀を握る力だけは緩めない。

 既にフレームのリミッターは外しており、限界を上回る力を引き出している。


「(押せ!押せ!!)」


 無理矢理刃を押し込んで行き、徐々に主砲を覆うエーテルを両断していく。

 刃にまとうエーテルはフィールドの中和を行い、刃はどんどん奥へと押し込まれる。


「この畜生がアアア!!」


 絶対に負けはしないという思いを乗せ、モミザは更に力を込めた。

 使用できるエーテルの量はリージアと違わなくとも、やはり義体の性能には差が有る。

 その分リージアより力は劣っているが、それでも気合で押し込む。


「ウヲォラアアアア!!」


 獣のような雄叫びを上げたと共に、主砲を覆っていたフィールドは遂に両断された。

 割れたエーテルの中に道が出来上がり、主砲の砲門があらわに成る。

 代わりにバルバトスの太刀の柄がモミザの握力で砕け、モミザの手から離れて行ってしまう。


『太刀が!!』

「ッ!コンチクショウがアアア!!」


 仕方ないので拳で破壊する事にしたモミザは、風の魔法を用いて一気に加速。

 大気圏内で使用していたら火ダルマになりかねない速度を叩き出し、主砲へと接近して行く。

 接近と共に右腕に風を纏わせ、移動の時間を全て使ってその風を暴風へと強化する。


「(もう後が無い、渾身の力、会心の一撃、そんな生易しい物じゃない!さらに、その先!もっとその先!今の俺の全て、その先の力を前借りしてでも!!)」


 フレームの限界や、込められるエーテルの限度、エネルギーの残量。

 それら全てを無視したモミザは、主砲の破壊だけに注力する。

 下手をすれば衝突の衝撃で自壊する危険も有るが、今はそんな事は関係ない。

 半ば神風特攻を覚悟しながら、圧壊しかねない程強く握られる拳を振りかぶる。


『モミザ!!』

「これ以上、アイツ等の技術で虐殺されてたまるかアアアアア!!」


 スピーカーが損傷する程の大声をひねり出しながら、モミザは主砲へと全力を超えた一撃を繰り出す。

 その時既にモミザの意識は半分無く、放出されるエーテルで顔の表皮の一部は剥げ、人工の毛髪も燃え上がっている。

 自分の義体の事なんて一切考慮しないその一撃は、砲門内に貯められていたエーテルと衝突。

 モミザの拳で砲身内部のエーテルは押し込まれ、徐々にその形成は崩壊して行く。

 押しのけられたエーテルは内側から砲身を破壊し、破損個所より暴走したエーテルが漏れ出る。

 モミザが奥へと進むにつれて連鎖的な崩壊と爆発が引きおこり、外装は赤く赤熱して膨れ上がる。


「(終わらせる、終わらせてやる!!)」


 いつの間にか先ほど見つけた小型艇にまで直進したモミザは、その事にも気付かずに突き進む。

 捕らわれたエルフ達の脳を焼失させ、更にその奥のリアクターにも到達して突き抜ける。

 直列で並ぶ三つのリアクターは同時破壊されて次々と爆発していく主砲より、モミザは貫通する形で脱出した。


『やった!』


 おかげで主砲は完全に破壊され、蓄積されていたエーテルは暴発した。

 エーテルの制御装置も損傷したのか、魔法陣は発動せずに消滅。

 純粋な爆発によってネメシスは片腕を吹き飛ばされ、右半身の装甲が剥ぎ飛ばされる。

 フォスキアもその事に歓喜するが、すぐに異常に気付く。


「……」

『モミザ?ちょっと!?』


 全てのエーテルを放出したモミザは、意識を保つだけのエネルギーまで使い果たした。

 しかも右半身は時間差を生じて崩壊して行き、まとっていた飛行ユニットも全て崩壊。

 損傷したフレームだけとなった彼女は、フロンティアの引力に捕まる。


『ちょ、ちょっと!起きなさいよ!このままじゃアンタ燃え尽きるわよ!!』


 必死に呼びかけるフォスキアだったが、もはやそれだけで起きるような状態ではない。

 予備電源さえ食いつぶしてしまったため、もう彼女はただのマネキンだ。

 こんな状態で大気圏に突入すれば、すぐに燃え尽きてしまう。


「何やってるんですか!?アンタアアア!!」


 だが、彼女のピンチに駆けつけたホスタの手で、何とか救助された。

 ストリクスのスピードを最大限活かし、周辺に散らばるデブリを避けながらモミザの義体をキャッチ。

 そのまま安堵する事無く、モミザを連れて引力から脱出する。


「全く、妹さんに一発入れずに死ぬつもりですか!?」

『ホスタ、マジナイス』


 聞こえる事は無いが、フォスキアは安堵と感謝の言葉を漏らした。

 そんな彼女の気持ちを知る由も無く、ホスタはモミザに怒鳴りながら宙を漂うガンシップへと帰投していく。


 ――――――


 その頃。

 フォスキアはモミザの無事が確認し、更にはネメシス破壊の完了も見届けた。

 旗艦であるハイリトゥムは轟沈し、最終的に統合軍艦隊は七割以上の損害をだした。

 これでリージアの目論見は全て潰え、統合軍も撤退せざるを得ない程の打撃を受けた。

 安堵するフォスキアは、貝殻の髪飾りを付け直す。


「……これで、終わったわね」

「……そっか」

「あ」


 不意に呟いた言葉に反応するかのように目覚めたリージアは、近くに有ったハルバードを手に立ち上がった。

 刃を引きずり、なんとも重たい足取りで二人の居る小惑星からネメシスの見える方へと歩いて行く。


「……やって、くれたね」

「……ええ」


 崩壊していくネメシスを眺めるリージアの後ろでフォスキアも立ち上がり、自分の大剣を手元へ呼び寄せた。

 哀愁のような物を漂わせるリージアの背中を見つめていると、何故だか嫌な予感が過ぎってしまう。

 今のリージアからは、何故か危険な香りがする。


「……フォスキア、貴女は本当に、私の中の戦争で一番のイレギュラーだよ」

「そう」

「貴女と会えなければ、私はお姉ちゃんに殺されてた、貴女と会えなければ、私の心は憎しみだけに支配されてた、貴女と会わなければ……こんなに、人間を好きになる事なんて無かった」

「……」


 ゆっくりとフォスキアの方を振り向いたリージアは、狂気のこもる艶やかな笑みを浮かべた。

 その表情を目にするフォスキアは、今のリージアがどんな気持ちなのかを悟った。

 もはや心を読むまでも無く、彼女は愛に溺れてしまっている。


「リージア、私だってそうよ、貴女に逢わなければ、私は一生誰かを好きになれず、なっても自分の正体を明かせずに怯える日々だったでしょうね」

「難儀だね」

「ええ、それに、貴女達と行動していて、教訓も得られたわ」

「教訓?」


 愛に溺れるリージアを前にして、フォスキアは彼女達と過ごしたうえで得られた教訓を思い浮かべる。

 たった三か月と少し程度しか一緒に居なかったが、もう一年以上過ごしてきたような気分でいる。

 死にかける事も有れば、人格の一部を乗っ取られかけた事も有った。

 そんな出来事の中で得られた事を、首を傾げるリージアへ告げる。


「……何かに溺れた人は、一番近しい人が引き上げてあげないと、ロクな事をしない」

「……」


 ほんの数名程度であったが、何かに溺れた人物たちにロクでもない目に遭わせられた。

 名声や宗教、更には正義。

 大勢を引きこむ事で自らの正当性を強め、自分の意見に相反する物は排除し、受け入れたい物だけを受け入れる。

 その為であればどんな手段でも取るという事を、今回の旅で学ぶ事ができた。

 そんな人間引き上げる事は難しい上に、逆に引き込まれてしまう危険もある事も。


「だから私が、溺れた貴女を引き上げる」

「私が溺れた?何に?」

「ホント鈍感よね、その辺……私が自意識過剰じゃなかったら、高感度の天井無くなってる感じでしょ?」

「……あ、あは、あははは、確かに、確かにそうだね、この感情……好き、貴女が好き、好きで好きで、好きすぎるよ!」

「(やっべ、余計溺れた)」


 胸を抑えて顔を赤らめるリージアは、笑みをより狂わせた。

 フォスキアの言葉で自分の気持ちに気づき、そのおかげで更に感情が噴き上がって来る。

 まるで火山の噴火のように吹き出るフォスキアへの想いに飲まれだし、そして先ほどまでリンクしていた事も思い出す。


「リンクのおかげで良く解った、貴女の私への好意、予想よりずっと強くて、戦ってる時はそればかり意識しちゃってた、それが嬉しくて、たまらなく恋い焦がれて、どうしようもない位愛おしかった」

「……だったら、大人しくそのハルバード捨ててくれる?一緒に帰りましょ、私達の世界に」


 相思相愛であるという事は間違いないのだが、今のリージアにはイチャコラしようという空気が見られない。

 どう見ても、ピンク髪のヤンデレヒロインが浮かべるような笑みを浮かべている。

 ダメ元で手を差し伸べたフォスキアだったが、リージアは首を横に振ってしまう。


「……本来イレギュラーは排除されるべきと存在、でも私は上手い具合に取り込んだつもりだったんだけど、貴女は私達に予想以上の影響を与えて、私の計画どころか政府の計画さえも潰した」


 先ほどまで愛情に溺れ込んだ表情をしていた筈のリージアは、艶の有った声から急に冷静さを取り戻して淡々と話しだした。

 その急カーブにとまどいながらも、フォスキアも冷静に返す。


「……それで?」

「それは良いんだよ、結果的にこうなって良かったと思ってる、貴女を愛せたし、お姉ちゃん達の仇もとれた……けど、あくまでも今の話でしかない、こんな幸せは一時だけ、いずれ消えて行く、いや、消される事になる白昼夢」

「消される?」


 計画にとってのイレギュラーであるフォスキアとの出会いは、リージアにとって良い影響も与えた筈だった。

 だが、今のリージアに考えられる未来は悲しい物だ。

 それ故に口から出て来た、消される、という単語に首を傾げるフォスキアの為に説明を続ける。


「私達の存在は、両方の世界においてもイレギュラーでしかない、個人的なんかじゃない、世界にとってのイレギュラーは例外なく排除される、エルフ達を相手にした時のように……また、他の奴に貴女を殺されてしまう位なら」

「……」


 覚悟を決めたように、リージアは形態を変異させた。

 もう言葉だけで愛に溺れたリージアを引き出す事はできないと悟り、フォスキアも再度戦闘形態へと移行する。

 彼女が何をしようとしているのかは、アリサとモミザからもたらされた知識のおかげで察する事ができたのだ。


「私の手で貴女を殺して、その後私も死ぬよ」

「……ま、そうなるわよね」

「一緒に抱き合って、この綺麗な虚空を永久に漂い続けるのも、良いよね?」

「(……そんな冷たい未来何て要らない、私が欲しいのは、もっと暖かい未来、だけど)」


 身震いするような提案をされたが、フォスキアは引く事をしない。

 スペースデブリとして半永久的に抱き合い、この宇宙を漂い続ける。

 それがリージアの望みでも、フォスキアの望みは別に有る。

 その望みを叶えるために、リージアの提案をあえて飲み込む。


「良いわよ、貴女の望み、叶えてあげる」

「……え」

「何よその顔」

「いや、絶対断ると思ってたから」

「絶対断ると思ってた事提案したの?」

「……うん」


 どうやら普通であれば断るような提案、と言う事は認識していたらしい。

 何しろガラシアとの戦いの時に、フォスキアの望みは既に口にされていた。

 それと相反するのであれば、断る事位はリージアでも解る事だ。

 だというのに肯定してきた事に表情とペースを崩してしまうが、フォスキアは気を引き締める。


「ま、まぁでも最後まで聞いて、ただし条件付きって奴よ」

「……何?条件って」

「私に勝ったら、よ」

「……成程、じゃぁ、貴女が勝ったら?」

「私が勝ったら」


 何が言いたいのか解ったリージアは、フォスキアが勝った時の事も聞いた。

 フォスキアはこの戦いに何を賭けるのか提示しながら大剣を展開し、その間から魔力を放出して刃を一回り大きくする。

 翼や他の装備の駆動も確認しつつ、完全に戦闘態勢を取る。


「言う事聞きなさいよ、リージア」

「……良いよ」


 互いの願いはベットされ、リージアもその事を承諾した。

 一触即発の緊張感を漂わせる中で、ハルバードをもてあそびながらリージアは辺りを見渡す。

 先ほどまで起きていた戦いのせいで散らかってはいるが、それでもデートにはおあつらえ向きな美しい星空が広がっている。

 思わず表情筋を緩ませるリージアは、改めてフォスキアを目にする。


「ここは綺麗だ、散らかってるのが残念だけど、この満天の星空の下で貴女と最期のデートができる何て幸せだよ」

「……ええ、だけど、私はこれで最期にしない、貴女に見て欲しい絶景何て、私の世界にも沢山あるんだから」

「それは残念だけど、私は静かな方が良い、だから……」


 ハルバードを構えたリージアは、改めてフォスキアを睨みつける。

 その睨みは敵意というより、愛する人に向けられる物だ。


「貴女を殺すよ!フォスキア!」

「……そう」


 艶の有る笑みを浮かべたリージアは、小惑星が陥没する程強く蹴り飛ばす。

 向かってくるリージアを前に、フォスキアも大剣を握り締める。


「なら私は、アンタを生かすわ!リージア!!」


 互いにエーテルを込めた武器を構え、お互いの間合いへと入り込んだ。


「ウヲオオオオ!!」

「ハアアアアア!!」


 虚空の中に雄叫びを木霊させた二人は、互いの武器を衝突させる。

 反発しあったエーテルは衝撃波として辺りに散らばり、立っていた小惑星は崩壊。

 こうして二人のイレギュラーによる、血濡れた純愛の殺し愛が始まった。


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