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ダンジョン 後編

 砦の地下深くに有る広い空間。

 薄暗く広いその空間で、サイクロプスと対峙しフォスキアは剣を構えた。


「(あれだけの群れを率いておいて、出て来たのがサイクロプス?……それに、あの足元)」


 思っていた物と違う魔物を前に、フォスキアは周囲を警戒する。

 サイクロプスは戦闘力こそ高いが、知能は通常のゴブリン並み。

 先ほどまでの量の魔物を使役できるようなタイプではない。

 だが、今サイクロプスが踏みつけている床には、血で描かれた魔法陣が有る。


「(あの模様は、召喚魔法……クソ、という事は、ここに捕まっていた連中は触媒にされたかもしれないわね)」


 真っ先に浮かんだ可能性に、フォスキアは歯を食いしばった。

 魔法陣は規模に応じて、発動に使用する魔力の量が多く成る。

 だが、人間や動物等の血や肉などを用いて描けば、その負荷は軽減される。

 目の前に有る魔法陣に使われたのは、ここに連れ去られた人間達の血肉だろう。


「ケケケ!マヌケなヤツがイテくれてタすかった!」

「ん?」


 耳に障りそうな笑い声を耳にしたフォスキアは、視線を上へと向けた。

 暗くて分かり辛かったが、ローブを着込んだ背の高いゴブリンが宙に浮いていた。

 魔法陣で作った足場に立っているだけだが、割と高等な事をしている。


「エルフごとき、サイクロプスだけでジュウブン!外に居る二人は、ワがユウシュウなヘイシたちでカタづけるとシヨウ!」

「(ゴブリンウィザードね)」


 現れたのは、メイジ以上に魔法の扱いに長けたウィザード。

 この砦を根城にするゴブリン達の頭目であり、サイクロプスを召喚した存在だろう。

 ならば、生かしておく理由は無い。


「フン!」

「グギャ!?」


 妙な事をされる前に、フォスキアはチャクラムを二枚投擲した。

 いきなりの攻撃に驚くウィザードだったが、攻撃はサイクロプスが受け止める。

 銃弾並みの速さのチャクラムは丸太のように太い腕に突き刺さったが、本人に痛がる様子は無い。


「チ、やっぱりサイクロプス相手に、この程度は効果が薄いわね」


 投げつけたチャクラムは、サイクロプスの腕から剥がれ落ちた。

 弾力のある脂肪と、程よい柔軟性と強度の筋肉。

 この二つの効果によって、簡単な投擲武器の効果が薄い。

 本気を出せば腕の一本や二本を切り落とす何て容易いが、今居る場所で使いたくない。

 しかも、折角の切創は数秒で再生してしまう。


「流石、この程度じゃすぐ再生されるわね」

「き、キサマ!いきなり我をコウゲキとは!レイギをシランのか!?」

「ゴブリン相手の礼儀作法何て知った事じゃないわよ!」

「ぎぎゃ!」


 急に抗議をしてきたウィザードに、フォスキアはその辺の小石を投げつけた。

 こちらも防がれたが、少しはビビらせる事は出来た。

 だが、今の行為は彼の逆鱗に触れる。


「ええい!エイヘイ!あのナマイキなエルフのナカマを、ヒキサイテやれ!!」

「ッ」


 と、持っている杖に呼びかけた。

 マイクの役割が有ると気付いたフォスキアは、急いでリージア達の方を向く。


「二人共!気を付けて!さっき逃がした連中がわんさか来るわよ!」


 ウィザードの言葉から察して、来ると予測できるのは先ほど逃がしたゴブリン達。

 あの量が一方向から押し寄せるとなると、数の暴力で制圧されかねない。

 二人なら心配ないと思うが、念のために注意していた。


「うん!知ってる!今メッチャ来てるから!!」

「お前はそのデカブツ始末しろ!こっちは気にすんな!」


 という具合に、二人は押し寄せるゴブリン相手に銃撃を加えていた。

 奇襲で焦っている様子だったが、あまり心配はなさそうだ。


「(考えてもみれば、ツブテを超高速で撃ちだす武器なら、一直線に来る相手何て敵じゃないわよね)」


 銃の特性を思い出したフォスキアは、二人の事は気にせず、サイクロプスの方を向く。


「グ!」


 だが、完全に気を緩めていたフォスキアに、サイクロプスの拳が繰り出されていた。

 まるで岩石のように硬く巨大な拳に吹き飛ばされ、フォスキアは壁に叩きつけられる。

 普通の人間であれば、今の一撃でひき肉になっていただろう。


「……ケケケ、サスがエルフ、そこらのニンゲンよりは、ガンジョウだな」


 高みの見物をするウィザードは、瓦礫に埋もれるフォスキアをあざ笑う。

 先ほどの奇襲の仕返しも兼ねた攻撃だが、原型をとどめている事は素直に認めた。


「(あのオンナ、ケケケ、じっくりアジわったノチ、すぐにアタらしいショウカンのザイリョウにしてくれる)」


 血肉を媒体にする場合、使用する動物の種類等に魔法陣の質は左右される。

 フォスキアのように健康で実力も有るエルフは、これ以上無いと言える程の高級食材と言える。

 だが、先ずは彼女の美しい身体をむさぼる事も考えていた。


「……たく、男って、何でそう言う事ばかり考えるのかしらねっと」


 瓦礫を退け、適当に砂埃を掃ったフォスキアは一度剣を地面に突き刺す。

 準備運動も兼ねて身体を伸ばし、指や首の関節をボキボキと鳴らす。


「さて、酔いも醒めちゃったし……アンタ!さらった人間達はどうしたの!?」

「ニンゲン?あんなカトウなヤツら、イッピキのこらず、ワレワレのカてとなったわ!ケケケ!」

「……そう、今もそうだけど、最近ムカつく事有ったし、サンドバッグに丁度いいわ」


 目を鋭くしたフォスキアは、素手による格闘戦を行うべく剣を鞘へ納める。

 滅多に使う物ではないが、少しうっぷんが溜まっていた。

 しかも、目の前には耐久とパワーだけが取り柄と言える魔物。

 予想通りの事態を耳にしたので、ストレス発散には丁度いい。


 ――――――


 その頃。

 リージアとモミザは、逆方向から襲い掛かるゴブリン達を相手にしていた。


「クソ、流石に多い!」

「あ、弾切れた」


 折角装填したというのに、弾はすぐに尽きてしまった。

 有利な場所とは言え、飲み込まれかねない物量には火力が不足していた。

 仕方がないので、モミザは背中の銃と交換。

 リージアは、左足の拳銃を手に取る。


「やれやれ、厄介だな」

「ほんと、でも、こういう事態に備えて持って来た武器も有るし」


 モミザが持って来たのは、統合政府軍正式採用のアサルトライフル。

 威力向上のために、銃身にリニア技術が用いられた物だ。

 重量や反動の問題でアンドロイド兵にしか支給されていないが、その分威力は高い。


「着剣!」

「はいよ!」


 掛け声と共に、モミザは銃剣を装着。

 しかし、横に並ぶリージアはナイフを抜いただけ。

 強いて言うのであれば、リボルバーの代わりに通常の拳銃を持っている。


「……何でお前はそんな軽装なんだよ」

「私が持って来たのって、ショットガンだから」

「はぁ」


 ため息をついたモミザは表情を引き締め、引き金を引く。

 リニアによって加速された銃弾は、先ほどの物と違って細長い物。

 太めの拳銃弾と違って、一気に五体程貫く。


「仕方ねぇ!バッテリーが尽きる前に終わらせるぞ!」


 連射を制御し、数発ずつ撃ちだしながら格闘戦へ移行。

 取り付けた銃剣を槍のように使い、間合いに入り込んだゴブリン達を斬り裂く。

 残りのバッテリーを考えれば、二時間程であれば接近戦を行える。


「大丈夫!最大稼働状態に成らなければ、後二時間は暴れられるよ!」


 全力を出さないようペースを守りつつ、リージアも戦闘を開始する。

 拳銃とナイフを用いた格闘戦術と持ち前の身軽さを活かし、ゴブリンを相手にしていく。

 少し不満げな表情で。


「……」

「(またか)」


 ゴブリンを倒す合間に、リージアは何度か使用している自動式拳銃を目にする。

 銃身の先に、ストライクフェイスと呼ばれる物を装着した小型の物。

 これで押し付けながらの射撃や、反動の軽減を行える。

 オマケの機能で、窓ガラスを叩き割る為の突起も取り付けてある。

 接近戦を好むリージアにとっては、有難いカスタムだ。


「便利なんだけどな~」


 と、愚痴をこぼしながら、側面から襲ってくるホブゴブリンの喉にナイフを突き立てた。

 ついでに弾も数発プレゼントし、蹴り飛ばして無理矢理刃を引き抜く。

 その上で、リージアは弾がきれた拳銃を目にする。

 弾切れを知らせる為にスライドか後退したままの拳銃を前に、リージアはホホを膨らませる。


「……はぁ」


 ため息交じりに弾倉を外す為のボタンを押し、自重で落下した弾倉を足でキャッチ。

 銃本体を咥え、新しい物を挿入してスライドを元に戻す。

 片手で薬室内に銃弾が入っている事を確認し、射撃を可能な状態にする。


「……」

「ギェアアア!」


 不満を表に出すリージアへ向けて、一匹のゴブリンが襲い掛かって来るが、リージアは足で掴んでいた弾倉を投げつけた。

 頭部への衝撃で怯んだ隙に、足へ銃弾を撃ち込む。

 そのついでに、募っていた不満を口に出す。


「やっぱりロマンが無い!!」


 嘆くように声を発しながら、銃先端の突起でゴブリンをぶん殴った。

 もう突起の有無では無く、単純に彼女のパワーで頭蓋骨は砕け散る。


「テメェ、まだそんな事言ってやがんのか!?いい加減戦場にロマン持ってくんのやめろよな!」


 響き渡る愚痴を聞いていたモミザは、戦闘しながら苦言を呈した。

 何しろ、リージアがリボルバーを愛用しているのは、ただ格好いいから。

 とは言え、今のような状況も考えて、今回は無理矢理持たされた。


「良いじゃん!そもそも拳銃使う位なら蹴った方が早い時の方が多いし!」

「そう言って、お前捕縛対象何人蹴り殺した!?」

「よく言うよ!モミザだって勢い余って首千切ってたじゃん!指示が無いと勝手に突入して、結局私達が尻ぬぐいしたんじゃん!」

「テメェこそ!指示通りに行動しても結局無茶苦茶して、俺達まで危ない目に遭ったんだろうが!!」

「結果的にみんな助かってたでしょ!!」

「危ね!」


 口論に発展したと思えば、リージアはモミザに向かって発砲した。

 至近距離だったが、軽々と避けた事で奥にいたゴブリンに命中。

 拳銃程度で壊れる義体ではないが、当たるのは普通に嫌である。


「何しやがる!?このクソレズが!」

「アンタもレズでしょ!」


 今度はモミザがライフルを連射。

 弾倉に残っている弾を全て吐き出す事も厭わず、引き金を引きっぱなしにする。

 リージアは当然のように銃弾を避け、流れ弾はゴブリンを射貫く。


「ちょっと!こっちは連射できる武器持ってないのに、ズルくない!?」

「知った事か!先に手ぇ出したのそっちだろうが!」

「お姉ちゃんなんだから妹との喧嘩位対等にしたらどう!」

「テメェこそ!姉に勝ち譲る位の謙虚さ持ちやがれ!」


 とうとう喧嘩に発展した二人は、ゴブリンを投げ飛ばす等を始める。

 おかげでゴブリンの数は減っていくが、喧嘩の方法がグロテスクすぎる。

 銃撃も行うが、武器扱いされるゴブリンが気の毒になってしまう。


「(……無視しろ、あのバカ共は無視、集中だ)」


 見えない壁に血しぶきがかかろうと、ゴブリンの顔面が直撃しようと、シャウルは壁の解除に専念していた。


 ――――――


 そんな彼女達を横目に、フォスキア達の戦闘は繰り広げられる。

 いや、戦闘というよりも、もはや一方的な暴力だった。


「グヲオォ!」


 投げ飛ばされたサイクロプスは、壁に激突した。

 サイクロプスの身には痛々しい痣が大量にできており、片腕も変な方に曲がっている。

 そんな重傷を負っても彼の巨体は再生するが、フォスキアへと襲い掛かる事無くぐったりしてしまう。


「ば、バカな、ナンだ、アイツは、あんなヤツがいるなんテ、キイてないゾ」

「ま、脳筋のサイクロプスじゃ、この程度ね……これ以上何されるか分からないし、そろそろ終わりにしましょうか」


 予想外の展開に、ウィザードは自分の目が信じられずにいた。

 サイクロプスを相手取る場合、普通であればバリスタや投石器のような攻城兵器を使う。

 その筈がフォスキアは素手で対処しており、しかもまだまだ余裕が有る。

 とても現実とは思えない事態だ。


「オノレ、これでは、イマまでのクロウが、ミズのあわダ」

「アンタの都合何て知らないわよ」


 目に魔力を流し込んだフォスキアは、サイクロプスの急所を探り当てる。

 大体の魔物は体内の魔石を破壊するか、取り除く事で始末できる。

 サイクロプスのような大型の魔物を倒すには、それが手っ取り早い。


「そこね」


 魔石を見つけたフォスキアは、剣を鞘から引き抜いた。

 一突きで終わらせようとした時、背後から爆音が響く。


「な、何!?」


 反射的に構えを取りながら振り向いた先は、リージア達が居る筈の通路。

 爆炎の吹き出す通路の近くに居たシャウルは、頭を抱えながら自らを守っている。

 そんな彼女はお構い無しに、土煙の中から二つの影が飛び出す。


「あ、アイツら!」


 出て来たのは、何故か喧嘩中のリージア達。

 二人の様子を見て、嫌な予感を覚えたフォスキアは、すぐにシャウルの元へと避難する。


「そもそも!モミザだってラ〇ボー風のナイフ使ってんじゃん!それでよくロマン求めるなって言えるよね!」

「うるせぇ!テメェみたいにレバーアクションとか使い勝手悪すぎるロマン武器と比べんな!」

「ナイフだって大きすぎても邪魔なだけでしょ!」

「んだとぉ!!?」


 リージアの発言に頭にきたモミザは、ライフル下部のグレネードランチャーを構える。

 なんの躊躇もなく引き金は引かれ、グレネードは発射された。

 しかし、その弾速はライフル弾に比べれば、止まっているような物。


「そんな物!」


 着弾前に、リージアは弾を蹴り飛ばした。

 吹っ飛ばされたグレネードは、天井で爆散。

 瓦礫が部屋中に落ちて来る。


「ギエエエ!ここをハカイするキか!?あのバカドモ!」


 瓦礫から身を守るウィザードの事は眼中にないかのように、二人の喧嘩は続く。

 落ちて来る瓦礫や手持ちの火器は勿論、使える物は全て武器として扱っており、周囲の被害なんて考えていない。


「……や、やるわね、アイツら」

「認めたくないけど、シルバーランク位の動きだ」


 その戦いに、何時の間にか逃げていたフォスキアは、シャウルと共に物陰から釘付けとなっていた。

 アクロバティックな動きで室内を縦横無尽に飛び回り、打撃や銃弾を撃ち、回避する。

 身のこなしもさることながら、そのスピードも凄い。

 感覚の鋭いシャウルでも、目で追うのがやっとだ。


「く、クソ、ニンゲンどもメ……ん?」


 二人の戦いの真っ只中に居るウィザードは、不意に上を見上げた。

 頭上からは大量の小石が落ちており、それに続くようにしてウィザードと同じくらいの岩が落下。

 反応しきる事が出来ず、押しつぶされてしまう。


「ブヘ!」

「ま、マズイわね、ちょ、二人共!そこまで!このままだとここが崩れちゃう!!」

「え!?」

「なんて!?」


 瓦礫の下敷きになったウィザードを見て、すぐに二人へ注意喚起を行った。

 幸い気付いては貰えたが、既に手遅れの状態。

 砦は崩壊に迫っており、地震のような揺れが起きている。

 フォスキアの言葉で少し冷静に成った事により、二人もその事に気付いた。


「て、何か崩れそうなんですけど!!」

「畜生!暴れすぎた!テメェが喧嘩売って来るからだぞ!」

「モミザだってノリノリだったじゃん!」

「そんな事よりアンタ等!早く外ににげ」


 逃げる事を促すフォスキアだったが、一歩遅かった。

 天井は崩れ落ち、かろうじて取られていたバランスは完全に崩壊。

 元々古い建造物だったという事も有って、一瞬にして全員下敷きとなった。



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