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精鋭対精鋭 前編

 フォスキアが旗艦ハイリトゥムへ向かった頃。

 母艦ネメシス近辺では、モミザ達と機械魔物達の激戦が幕を開けていた。


「目指すべきは頭部だ!一気に駆け抜けるぞ!」

『了解!』


 ゼフィランサスの指揮の元、モミザ達はネメシスへ向けて疾走する。

 以前は船の状態で相手をしたが、今回はフルパワーを発揮できる人型形態。

 しかも直掩の部隊は、統合軍艦隊を取り込んだリージアの艦隊と共に機械魔物も展開し、以前より優れた統率と連携を見せつけて来る。

 以前より厄介である事に変わりは無いが、ネメシスの頭部さえ破壊できれば全て停止する。


「おいおい、ぎょうさんと来たぞ!」

「モミザ!サイサリス!ホスタ!進行ルートを切り開け!」


 護衛として同行するカローラの部隊の一人より言い放たれた言葉に応えるように、ゼフィランサスの指示が下った。

 射撃と砲撃に特化する三名が先行し、それぞれの武装を展開させる。


「一気に片づけるぞ!」

「はい!」

「火器管制システムを同期!」


 ゼフィランサスに指名された三人は、火器管制システムを同期。

 ホスタの機体は両腰にレールガンが一門ずつと、ドローンを二機格納する為の翼を一対追加された。

 サイサリスの機体は増加装甲を兼ねたエーテルの貯蔵タンクが各所に設けられ、背中には大型のミサイルコンテナを取り付けられている。

 追加されたそれらの兵器も押し寄せて来る大軍を次々とロックオンし、行動も予測しつつ狙いを定め、三人の同時攻撃が繰り出される。


「行けえぇぇ!」


 三人の同時攻撃はミサイルやエーテル弾の嵐となり、機械魔物と艦隊へ降りかかる。

 同行してきた護衛部隊からしてみれば、正に圧巻の一言。

 たった三人の攻撃によって向かって来た敵部隊は、次々撃ち抜かれ、爆破されていく。

 どれもネメシスの頭部には届かなかったが、それでも進行する為のルートは切り開けた。

 それを見るなり、ゼフィランサスは剣を進行ルートへと向ける。


「行くぞ!誰か一人でも頭部にたどり着け!」


 開かれたルートを辿り、モミザ達を筆頭にして駆け抜けていく。

 当然道を閉ざそうという動きも見られ、その補助のために次々機械魔物達が襲い掛かる。

 それぞれ装備する武器を駆使して迎撃し、数百キロ以上ある距離を詰めて行く。


『左側面!サイクロプス級が複数!』

「ヘリコニア!頼む!シータチームも彼女を援護!」

「任せて!」

『了解!』


 左側面の担当であるヘリコニアは、報告に有ったサイクロプス級の対処を開始。

 彼女の元同僚のシータチームと共に、多くのサイクロプスサイズの魔物達を撃ち落とす。

 特にヘリニアは、戦闘タイプである筈のセリ達を差し置いて一番活躍している。

 近くの敵はチェーンソーで切り刻み、遠くの敵には火炎魔法を埋め込んだ火炎放射器で焼いて行く、というか、出力を上げ過ぎてレーザー砲の照射のようになっている。


「(ヘリコニア、あんなに強かったのか)」

「フフフ!アハハハ!もっと踊りましょうよ!面白い事を沢山しましょう!」

「(そしてこんな感じになるのか)」


 非戦闘タイプである筈の彼女の活躍は、元上官のセリでさえ度肝を抜いてしまう。

 重機と工具だけでゲリラを退けた実力を誇るだけあって、ハイエンドモデルのエレファントを扱えば正に鬼に金棒。

 機体の性能は抜きにしても、シータチームの戦闘タイプの面々以上の戦闘力だ。


『各隊に通達!敵艦から高エネルギー反応!!』

『ブロッサムにも通達しておく!』

「主砲が来る!隊列を崩してでも退避しろ!!」


 ヘリコニア達の応戦する中で、そんな通信が入った。

 全員の目は主砲を構えるネメシスへと向けられるなり、危機を察知して退避を開始する。

 砲門の向きはモミザ達も狙いに入っており、撃たれたら一網打尽にされてしまう。

 ブライトの報告を受けた隊員達は隊列を崩しながらも、回避に専念する。


「流石にあれを防ぐ術はない!下手したら掠めただけで大破するぞ!!」

「マジかよ!」

「それを早く言え!」


 モミザからの注意喚起を受け、彼女達は射線上から離れる速度を速めた。

 偏光障壁さえあれば生きながらえるかもしれないが、それらの装備を持たない彼女達の機体は掠った熱だけで誘爆しかねない。

 そんなマヌケな死に方は勘弁してほしいと、全員機械魔物からの邪魔も気にせずに行動する。


「来るぞ!」


 回避行動の完了と共に、ネメシスの主砲は発射された。

 射線上の小惑星やデブリを全て消滅させるその攻撃は、近くに居るだけでシステムが熱暴走を起こしかねない余波を生み出す。

 空気の無い宇宙空間で有っても、発生するエーテルの余波は熱を伝えて来る。

 幸いモミザ達の部隊は被害ゼロだったが、統合軍や他のアンドロイド部隊には被害が出てしまう。

 回避の遅れた者は敵も味方も全て消え去り、その攻撃を模る様にポッカリと大穴が開く。

 正にジェノサイド砲の名前の通り、一撃で数多くの人命が奪われた。


「……クソ、何で俺らはこんな物作っちまったんだ!?」


 回避に成功したモミザは、自身と姉妹達の行動を悔いた。

 ヴァルキリー級は主砲も含めてリージア達姉妹の設計であり、モミザも制作を手伝った。

 本来ならば暴走したE兵器に対抗する最終手段で、大虐殺を行う為の物ではない。

 だが、今は後悔している場合ではないと、モミザは通信を開始する。


「ゼフィランサス!他の連中も無事か!?」


 安否確認の連絡をするモミザだったが、余韻とも言える高濃度のエーテルは強力なレーザー通信と量子通信さえ遮ってしまう。

 その事に気付くなり、モミザは目視での確認に切り替える。


「(……こんな所で通信なんて無理か)」


 陣形は完全に崩れてしまっているが、合流を試みる味方のスラスターが目に見える。

 光の数は合わないが、ストリクスの独特な光は二つ確認できた。

 今のままでは各個撃破されかねないので、モミザも仲間を探しながら合流を始める。


「……アイツ等は何とか無事か、俺も合流を」

「副長!無事で何よりです!」

「ホスタか!」


 合流の為に動こうとした所で、モミザの駆るケルンにホスタの機体が触れた。

 彼女達の機体は身体のどこかに触れる事さえできれば、高濃度のエーテル空間においても通信を行える。

 その方法で対話を行って来た彼女の無事に安堵する中で、散り散りになっていた仲間が集まって来る。


「他の連中も集まってるな」

「……では、私達だけでも行きましょう」

「そうだな、これ以上俺達の研究を悪用されてたまるか!」


 まだ指揮系統に不安は有るが、生存者と合流したモミザは行動へ移る。

 この戦域で展開するリージア側の敵は、全てネメシスからの制御で動いている。

 ネメシスさえ破壊できれば、E兵器の悪用を止める事ができる。

 その信念を再燃させて動いた瞬間、護衛部隊の一人が爆散した。


『ウワ!』

「何だ!?」


 まだノイズがかかっているが、エーテルの濃度が薄まったおかげでモミザ達は彼女の断末魔を拾えた。

 カローラの撃墜で進行は止まり、彼女達は警戒を強める。


『う、上だ!上からの攻撃でナズナが!』


 隊員の一人の報告を拾うなり、全員の視線と銃口は上を向けられる。

 全員の目が捉えたのは、統合軍の特務機体センチネルの一団。

 だが他の多くの機体と異なり、全体的に黒く禍々しい色となっている。

 彼らの内一機の持つライフルは赤く赤熱化し、つい先ほど射撃を行った事を示している。


「……あれは、雰囲気からしてマズイな」

「はい……副長、貴女は行ってください」

「ホスタ?」

「貴女であればあの艦の攻撃の避け方を理解できているでしょうし、適任です」

「……」


 ホスタの提案には頷くしかなかった。

 確かにモミザであれば安全にネメシスの懐に入る事ができ、守備隊も火力に物を言わせて突き抜ける事ができる。

 何よりケルンは接近戦や自分と同レベルの敵に弱く、ホスタに任せるしかない。


「(通信も回復してきたか)護衛に二人程付けます、残りの隊員であれの対処を行います」

「わかった、死ぬなよ!」

「当然です、英雄には指一本触れさせません!」


 ケルンのブースターが火を噴くと共に、ホスタはウィングユニットのドローンを展開。

 護衛部隊から二機程モミザへ随行し、残った部隊はホスタと共に行く。


「どんな敵であろうと、英雄には近づけさせない!」


 ライフル二丁を握り締めながら、ホスタはドローンを駆使してセンチネル達へと向かう。

 彼女達に気付いた敵側も散開し、ホスタ達を迎え撃とうと動く。

 ホスタが狙うのは、十体程の敵部隊の中でも特に異質な存在。

 先ほど味方を一機落とした、ただならぬ気配を醸し出す機体だ。


「(あの機体以外からは殺気が感じられない、けど、このプレッシャーは普通じゃない)先ずは貴方から!」


 計十二機に増設されたドローンは囮と本命に別れ、ホスタ本人は第二の本命として行動。

 どれだけ機敏に動かれようと、相手の機体は後退を余儀なくされる位置取り。

 ドローンで撃ち落とせればそれでいいが、思った通りの動きさえ取ってくれればホスタの腕で撃ち落とせる。

 だが、その期待は瞬時に裏切られる。


「ッ!?そんな!!」


 後ろに下がるしかない、そんな位置取りと銃撃を前にしたと言うのに、ホスタの獲物は前進。

 ドローンの射撃をかいくぐり、ブレードを装備してホスタとの間合いを詰める。

 驚きながらドローンの向きも変えつつホスタ本人も銃撃を行うが、全て突破されて間合いに入り込まれてしまった。


「クソ!」


 振り下ろされたブレードに対し、ホスタはライフルを差し出した。

 今回のライフル下部には銃剣状の刃が装備されており、その刃と敵のブレードを衝突させる。

 この状況が有るかもしれないと思い追加しておいたが、まさか使う事になるとは思っていなかった。


「できる、ッ!」


 鍔迫り合いとなる状況で、ホスタは腰のレールガンを展開。

 間髪入れずに発砲するが、その頃にはホスタの前にはいなかった。


「そんな!」


 レールガンは展開から砲弾の射出というプロセスをとるも、その間隔はまばたきする間も与えない。

 密着数歩手前からの奇襲であれば、反応できる者はそうそう居ない。

 だが、ホスタの視界から消える何て事はほぼあり得ない。


「(私が外しただけでなく、敵を見失った!?)」


 まるで、飛んでいる蚊のように視界から消えた。

 その事に驚く間も無く、背後からの殺気に反応する。


「(後ろか!)」


 勘で反射的に動いたホスタは、背後からの一撃を受けた。

 直撃は免れても凄まじい振動に襲われたが、すぐに敵の方へと身体を正す。


「ッ、クソ!(速すぎる!)」


 受け身をとったホスタに襲い掛かるのは、敵からの苛烈な猛攻。

 間髪入れる事の無い連撃は二丁のライフルで受けるしかなく、どんどん押されてしまう。

 機動性や運動性能だけで言えば、ストリクスに軍配が上がっている事は間違いない。

 だが乗り手の反応速度と情報処理能力は、相手の方に分があるようだ。


「あ!(ライフルが!)」


 受けに回り過ぎたせいか、ホスタはライフルの一方を破壊された。

 すぐに残骸を捨て、せめて一矢と拳を繰り出す。


「こんの!」

『甘いな!』


 突き出したその拳は阻まれ、触れた事で機体は勝手に通信を繋げてしまう。

 通信相手である敵機体のパイロットは、統合軍最強と太鼓判を押されているソルダ。

 パイロットスーツに身を包む彼の姿はホスタの視界の隅に映され、苦い表情を浮かべてしまう。


「チ、人間如きが!」

『俺からしてみればガラクタ如きだ!俺達に目をかけられたからには、ゴミ箱しか行き場はないと思え!』

「ウッ!」


 通信の終わりと共にホスタの機体は蹴り飛ばされ、完全に隙を作ってしまう。

 そんな絶好の機会をソルダが見逃す訳も無く、ブレードをホスタの機体へと向ける。


『先ずは一機!』

「チィ!」


 ライフルを持たない手を差し出して抵抗を見せるが、その矛先はホスタに届いてしまうだろう。

 後数歩で串刺しという所で、二人の間に赤い線が通り抜ける。


「あ!」

『なんだ!?』

「ホスタアア!」


 間一髪で駆けつけたのは、最高速度で接近するサイサリス。

 ホスタとソルダの間を開けたサイサリスは、保持するランチャー全てで弾幕を形成して更に間を開けて行く。

 当てるつもりだった砲撃は全て回避されたが、ホスタの救援という一番の目的を果たして合流する。


「無事!?」

「ええ、ありがとうございます、助かりました」

「お礼言ってる暇有るんなら構えて!」


 合流しつつ、サイサリスはまた間合いを詰めて来るソルダに狙いを付けた。

 ドローンを回収するホスタは、彼女の意図を汲んで予備の手持ち式レールガンも一緒に構える。

 二人は射撃管制システムを共有させ、全ての火砲でソルダを狙う。


「何なのよ!?アイツ!!」

「分かりませんけど、アイツは飛びぬけて危険過ぎます!」


 二人の連携攻撃は数多の敵を射貫いて来たと言うのに、ソルダはまるでお散歩感覚で距離を詰めて来る。

 何発かは直撃コースだったが、その攻撃はブレードで切り捨てられてしまう。

 明らかにアリサやサクラと同レベルの反応速度に驚いていると、すぐに間合いを詰められてしまう。


『無意味な抵抗を!』

「クソ!」

「見つけたアアア!!」

『何!?』

「え!?」

「え!?」


 今まさに斬られるという所で、ソルダの機体はまた横槍を入れられてしまう。

 しかも横やりを入れたのは、ここから遥か遠くに居る筈のサクラ。

 ソルダの横腹にタックルを入れたサクラはそのまま遠くへと移動していき、ホスタ達の目では豆粒程度にしか見えない場所で二人の戦いが始まる。

 明らかに命令違反の彼女の登場に驚きの声を出した二人は、そのまま硬直してしまう。


「……あの人、もっと離れた場所の担当でしたよね?」

「ええ、ま、まぁ、アイツの独断専行は何時もの事じゃない」

『ようやく見つけたぞ色男!さぁ!あの夜の続きと行こうか!私ともっと熱くなろう!』


 誤解を招きかねないセリフがレーザー通信に乗せて二人の機体に運ばれ、ホスタ達は更に身体を固めてしまう。

 だが、サクラはアリサシリーズを除けば部隊で最強のアンドロイド。

 敵の化け物には自陣の化け物をぶつけてやればいいと、二人は余計な考えを振り払っていく。


「……それより、こいつ等の撃破ですね」

「……ええ、そうしたら、少尉達の援護に行くわよ!」


 厄介者が居なくなった二人は、カローラ達と共に残った部隊に向けて攻撃を開始する。


 ――――――


 その頃。

 他の部隊と合流していたゼフィランサスは、ホスタ達が前にした部隊と似通った敵と遭遇していた。

 ホスタ達と対峙した部隊より数は多く、しかも他の統合軍より戦闘力は高い。

 折角合流した護衛部隊は既に五機も落とされており、彼女達の実力では手に負えないと判断した。


「護衛部隊はガンシップと共に下がってネメシスの破壊に移れ!こいつ等は私達三人でやる!!」

『しかし少尉!三人で大丈夫ですか!?』

「ああ!少し厳しいかもしれないが、対処できない訳じゃない!!」

『りょ、了解しました!』


 結果的にガンシップや他の部隊はネメシスへの破壊へと向かわせる事にし、ゼフィランサス達は目の前の精鋭部隊の相手をする事に決定した。

 ガンシップは機動力の高い敵部隊が相手では彼女達は巨大な的でしかなく、下げさせた護衛部隊達と共にネメシスへと出発。

 残された三名は、目の前の敵へ注力する。


「サイサリスの奴、ちゃんとホスタと合流できてるんだろうね?」

「あの子達ならきっと大丈夫よ~、でぇもぉ、今はこっちに集中ね~」

「ああ、こいつ等、さっきまでの連中と格が違う」

「お話は終わりだ!敵の精鋭部隊を始末する!連携に注意しろ!!」


 三人は敵の精鋭部隊へ向けて一斉に進行し、相手も三人を包囲するように展開。

 注意するべきは相手の異常なまでの連携を取る為、護衛部隊は動きに翻弄されて何機も落とされた。

 下手をすれば、三人もどうなるか解らない相手が小隊規模も居る。

 ホスタ達がすぐに来る事を祈りながら、三人は戦闘を開始する。


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