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再会の拳 後編

 フォスキア達が到着した頃。

 彼女達を認識したリージアは、目の前に広がる無数の敵を睨みつけていた。

 一部はリージアの策略で混乱していたが、先ほど出現した竜騎士連隊によって八割方制圧されている。

 今居る戦域は敵の旗艦に近い場所に当たり、直掩の艦隊や部隊がひしめき合っている。

 一部は乱入してきたフォスキア達で崩れた陣形を少しでも治すために、主力艦隊の援護次々と向かっている。

 おかげで旗艦の守りは手薄になっているが、今のリージアに戦況の云々はどうでもいい。


「……何人来ようと私は、いや、彼女は渡さない、この命に代えても!」


 翼を羽ばたかせたリージアは、敵の防衛網に向けて一気に飛ばした。

 向かってくる全てをハルバードで斬り裂き、尻尾を用いて死角をカバーする。

 邪魔者は全て排除し、リージアは敵の旗艦を目指す。

 せめてフォスキアの姿を見られ、認知される前に終わらせたいと願いながら。


「(けど、私の目的は、奴らを全員排除する事でもある、この手で、自分の、私の戦争を終わらせるために!)」


 フォスキアを守りたい一心の彼女の目に映るのは、腐った政府を形作る薄汚い人間達。

 家族を生み出すキッカケを与え、そして全てを失わせた者達。

 そんな彼らだけは小細工なんて物を使用せず、自分の手で終わらせるつもりでいる。

 自分を含めた全てを自らの手で葬ってこそ、リージアの中の戦争は終わり、そしてフォスキア達の安全は確立される。


「(なのに、私は、まだ彼女の事を……)」


 銃砲飛び交う戦場であっても、彼女の脳裏には必ずフォスキアの影が有る。

 作戦の一番の障害である彼女への気持ちに決着をつけ、全ての未練を帳消しにしておきたかった。

 その筈だったと言うのに、全てを断ち切ったつもりでいたのに、未練は燻り続けている。

 また彼女に会いたい、来てくれて嬉しい、このまま逃げてしまいたい。

 頭の中でグルグルと巡る煩悩こそが本音と言わんばかりに、リージアの意識を乱してくる。


『排除する』

『先へは行かせない』

「……うるさい、退けぇぇぇ!!」


 目の前に現れた特務機二機を斬り裂き、リージアは旗艦へと急ぐ。

 早急に到着する前に全てに決着を付けなければ、フォスキアにはまた別の毒牙が向けられてしまう。

 いや、そんな事は建前でしかない、

 彼女への想いとは裏腹に、今はフォスキアというイレギュラーの存在に怯えてしまっていた。

 今ここでフォスキアと対面したら、折角の決心を保てる自身が無かった。

 情緒を不安定にしながらも、リージアはとうとう機関の防衛網へと突入する。


「(あの石ころの防衛網に入った!)」


 一見すれば岩の塊に見えなくも無いが、死角なんて無いと言わんばかりの弾幕がリージアへ降り注ぐ。

 嵐のような攻撃だが、今のリージアであっても回避は容易だ。

 弾幕の間をすり抜けながら、船体への取りつきを試みる。


「(急げ、せめて、あの子が来る前に!!)」


 気持ちを焦らせながらも砲撃の雨を掻い潜り、向かってくる敵兵はハルバードの餌食にする。

 顔に大量の汗を流しながら、リージアの脚は岩石で出来た船体に取りつく。

 多少の人工重力の影響も有るらしく、脚に久しぶりの負荷を感じる。


「(着いた、確かこの辺りに……ん?)」


 岩山を歩くような感覚になりながら船体を走るリージアは、ドローンを使って予め用意していた侵入ルートを探し始める。

 広大すぎる故の多少の誤差を加味しながら進んでいると、エアロックの一つが開くのを確認する。


「……なんか来るね」


 立ち止まったリージアは、赤いランプの光るハッチへと視線を送った。

 明らかに敵の新戦力が出現しようとしていると思われるが、地震のように響き渡るその振動は明らかな異質さを醸し出す。


「あらら~、大きいねぇ」


 放出されたエアロックより、白を基盤とした大型のアーマードパックが出現した。

 その大きさは従来型の倍近くに差し迫り、尋常ではない威圧感をリージアへと向ける。

 データに無い機体を前にハルバードを構えると、大型機は蜘蛛のように多数あるカメラアイが向けられる。


『ほう、これは運がいい、探す手間が省けたな』

「その声……こちらこそ、会いに行かなくて済んだよ、デカブツ」


 通信に入り込んで来た声で、リージアは目の前の敵がガラシアの機体である事が判明。

 わざわざ円卓まで殴り込みに行かなくて済んだ事に喜んでいると、敵の機体の五本の指先が向けられ、そこからエーテル弾の照射がリージアへと放たれる。


『消え失せろ!人類の敵が!!』

「私が、人類の敵、か」


 亜光速で迫る赤い光に照らされるリージアは、ガラシアのセリフに腹を立てる。

 今や人類の敵と言われても文句は言えないが、リージアからしてみればガラシア達だって同じような物だ。

 世界を乱すだけ乱し、何の対処もする事無く、この世界へ逃げて来た彼らへ返す言葉は、すぐにリージアの口から出て来る。


「ならアンタ等は、世界の敵だ!!」


 濁流のように迫るエーテルの照射を回避しきったリージアは、すぐに翼を羽ばたかせる。

 自分の十倍以上は有る体格の大型機へ向けて直進し、ハルバードを構えながら間合いを目指す。


「こんの!!」

『甘い!』


 振り下ろされたリージアのハルバードは、大型機の腕部に防がれる。

 視界の全てが敵機体の機体カラーである白で埋め尽くされ、ハルバードの刃も阻まれた。

 刃は装甲に食い込むが、精々皮一枚を斬った程度で内部機器への手応えは感じられない


『ガラクタ風情が、このアントロポスにたてつくか!?』

「グ!」


 刃を突き立てられた腕を振り抜かれ、そのパワーでリージアは船体へと叩きつけられた。

 オリハルコンで強化された事で、この程度で損傷するような強度では無い。

 それでも、質量とサイズから得られるパワーの差は如何ともしがたい。


「チ、流石に図体だけじゃないか」

『当然だ!貴様のような反乱分子を全て粛清する為に作り上げられたのだからな!!』


 十本の指全てをリージアへ向けたガラシアは、今度はエーテル弾をマシンガンのように連続発射。

 計十門の砲台からの一斉射撃を受けるリージアは、すぐに回避運動をとる。

 船体を傷つける事をいとわない威力だというのに、毎分数千発に迫る連続発射を行う。


「下手くそ!」

『ちょこまかと!』


 爆破範囲に物を言わせているのか、ガラシアの攻撃は直撃する様子が無い。

 ガラシアから見た体格差は十分の一にも満たない大きさである故、当てるのにも一苦労だ。

 その事を有難く思いながら、リージアは再び接近する。


「今度こそ!」

『調子に』


 弾幕射撃を止めたガラシアも、リージアに合わせて間合いを詰める。

 その巨体からは想像もできない程素早い動きを見せつけながら、鉄の巨人とアンドロイドは衝突する。


「(重いうえに速!?)」


 敵機の性能に驚きながらも、リージアは圧倒的な質量差を受け止めた。

 衝撃で互いに弾かれ合うが、ガラシアの機体は先に次の一手へと出る。


『乗るな!!』

「ッ!」


 アントロポスの巨体は、まるでボクサーのように次々と打撃を繰り出す。

 拳のマシンガンとも取れる連打を前に、リージアはひたすらに反応する。

 当たり範囲の広い攻撃ではあるが、ハルバードや尻尾と共に、現在の義体の機動性を駆使して回避に専念する。


「(無駄に早い、その上硬いしデカい、けど、その分私の事も見つけにくい筈)」


 回避中でありながら、リージアは戦力を冷静に分析する。

 ハルバードであっても装甲を破る事は難しく、早さも攻撃力もほとんど大差ない。

 重量も負けている事を鑑みると、性能面では残念ながら負けてしまっている。


「(やれない訳じゃない!)」

『逃げるな!』


 軽く笑みを浮かべたリージアは、アントロポスから距離をとる。

 当然ガラシアも彼女の事を追いかけ、打撃やエーテルによるビーム攻撃を行う。


『非道の限りを尽くしておきながら、結局自分では何もできないか!出来損ないめが!』

「(ほざいてろ)」


 リージアを煽りながら攻撃を行うが、リージアの心には一切届いていない。

 完全に無視するリージアは、タイミングを見計らう。


『やはり父上の言う通りだ!貴様らは人類の邪魔でしかない!破壊しなければ人類の未来は無い!』

「(ここだ)」


 セリフの終わりと共に怒りに任せた重い一発が、リージアへと襲い掛かる。

 そんな攻撃に笑みを浮かべたリージアは、その一撃をあえて受けた。

 拳は船体へと食い込み、瓦礫が辺りに散らばる。


『まだ終わりじゃないぞ!』


 腕を引き抜いたガラシアは、もう片方の腕の指先を形成された穴に向ける。

 すぐさま砲撃を加えようとするが、すぐに固まってしまう。


『居ないだと!?』


 しかし、穴の中には誰も居なかった。

 その近辺を中心にリージアの姿を探すが、彼女と思われる反応は後方から現れる。


「後ろにも目を付けろってね!!」

『何!?』


 リージアが居たのは、引いた方のアントロポスの腕。

 めり込んだ腕に尻尾を絡ませ、そのまま死角へと回り込んでいた。

 体格差のおかげで、身体の小さいリージア相手には死角は多い。

 ガラシアがリージアを見失っている僅かな時間を使い、ハルバードへ大量のエーテルを送り込んでいた。


「消え失せろ!!」

『クソ!!』


 全力で振り下ろされたハルバードは、アントロポスの背面に大きな切創を形成。

 胴体部分の装甲は溶け落ち、内部の機器がむき出しとなる。


「クソ(どんだけ分厚い装甲だよ!)」


 思っていた以上にアントロポスの装甲は分厚く、内部にまで損傷を与えられていなかった。

 すぐに二度目の攻撃を行おうと、リージアはハルバードを構える。


「次こそ!!」

『させるか!!』

「チ!」


 攻撃を行う寸前で、アントロポスの攻撃が振り返りざまに放たれた。

 超重量級の裏拳が繰り出され、リージアは瞬時にハルバードの狙いを拳へと向ける。


「クッソ!」

『やはり私の方が上だ!!』


 重量と遠心力を乗せた一撃でリージアは殴り飛ばされ、また船体へと叩き落された。

 義体外部は無事だが、衝撃のせいで視界は僅かにブレてしまう。

 形成された小さなクレーターで横たわるリージアは、体中を石で覆われ、まき散る砂埃は宙を漂う。


「(クソ、ふざけた物作りやがって、人間如きが)」


 思った以上の防御力を腹立たしく思いながら、リージアは体の石を退けてクレーターから身体を引き抜く。

 相変わらず後ろの連中は、悪い意味で勤勉に働いているらしい。

 リージアのマスター達の技術を盗み続けて完成した結果が、今踏みしめている船と目の前のデカブツだ。

 ここで放置すれば、量産でもされてフォスキアの世界の住民は焼き払われる危険が有る。


「(まぁ、マスター達の兵器を悪用しているって所では、私も同じ穴のムジナか)」

『大口叩いておいてその程度か?まぁ所詮はただのガラクタだ、できる事もたかが知れるな』

「……アンタに言われたくないね、戦争でしか人をまとめる術を知らない猿が」

『また減らず口を、どんな言葉を並べようが我々の正義は覆らない、それがまだ解らないのか?』

「とりあえずアンタ等に何言っても無駄って事はわかった(私やフォスキアの救われない正しさや正義に、用は無い)」


 スラスターでゆっくりと近づいてくるアントロポスを見ながら、リージアはもう彼らとの口論を諦める事にした。

 相変わらず聞く耳を持っておらず、父親から譲り受けた正義だけが彼の中の絶対らしい。

 そんな思考停止に近い考えの人間に、何を言っても無駄だ。


『そのうえ、貴様の計画は既に破綻している、もうじき我が忠臣が、貴様の旗艦を落とす頃であろう』

「忠臣?まぁ良いか、でも、アンタが手を下さなくても、私の計画何て、とっくに破綻してる、あの子達が来た時点でね」


 誇らし気に作戦を話してくるガラシアを他所に、リージアは戦闘の続く宇宙に目をやる。

 戦火に燃える宇宙の遥か奥で佇むのは、フロンティアを守る様に立つネメシス。

 確かにあの艦を潰されてしまえば、機械魔物達は機能を停止してしまう。

 忠臣が誰であれ、それを成し遂げられる人物であれば可能だ。

 とは言え、そんな事を言われえる前に、リージアの考えていた事は九割破綻している事位自覚している。


「(中央には司令官達の船か、スト姉なら攻略法知ってるモミザを行かせるだろうし、まぁその前にアイツの言う忠臣とか言う奴との衝突は必至か)」

『どうした?ショックで固まったか?いや、ただのガラクタにそんな事できないか、ただ予想外の事で思案が追い付かないだけか』

「(あーもう、うるさいガキだ)」

『その身に我が正しさを刻んでやる、そのまま人形らしく佇んで居ろ』

「……ムカつく」


 何時も正しさを盾に、他人の意見には耳を貸す事は無い。

 正義何て物を掲げているクセに、自分の世界の再生何て一切考えていない。

 煮えくり返って来る怒りを解放するかのように、リージアはハルバードを船体へ突き立てる。


「何が正しさだ、クソが、テメェらのやる事が正しければ、私だってこんな戦争は起こさなかった!自惚れてんじゃねぇぞ!クソボンボンが!!」

『……所詮はガラクタか、その頭に我々の正しさは進み過ぎていたようだ!』


 怒りを表面に表す二人は、互いに一歩踏み出すと共に旗艦の船体を砕いた。

 正に一触即発の空気が流れ込み、艦の疑似重力よりも重くなる。

 これから殺し合う二人が構えた瞬間、遠くから爆発が何度も引きおこる。


『ッ、何だ!?』

「ん?あ、あれって!」


 二人の目に飛び込んできたのは、爆炎に包まれる兵器が飛び上がる様子。

 酷く不安定な軌道を描くその兵器は、燃えながら進路を変更。

 ガラシアの駆るアントロポスへ、迷いなく直進を開始する。


「リージアアアアア!!」

「ふぉ、フォスキア!?」

『な、何者だ!?』


 向かってくるフォスキアへ、ガラシアはリージアに向けていた指先の砲を放つ。

 濁流のように迫る十本のエーテルを前にしても、フォスキアは前進を続ける。

 その途中で残っていた片方の主砲も破壊されても、すぐに手放してエンジンを全開でふかせる。


「アンタは、黙ってなさい!!」

『ッ!』


 もう制御が利かない事を察したフォスキアは、エーテルアームズとのドッキングを解除。

 放棄されたバックパックは、一気にアントロポスへと迫る。


『おのれ!』


 エーテルアームズは防御体勢をとるアントロポスへと直撃し、その衝撃で爆散する。

 爆炎に包まれたアントロポスを背景に、投げ出されたフォスキアは船体を転がっていく。

 その進行方向にはリージアが居り、ほとんど狙って向かう。


「ふぉ、フォスキア!」

「リージアアアアア!!」


 鬼の形相をするフォスキアを前に、リージアは硬直。

 そんな彼女へ転がりながら接近するフォスキアは、拳を鋼鉄のように硬く握り締める。


「え?」

「こんの、馬鹿女ガアアアア!!」

「ブッファァァァァ!!」


 間合いに入り込んだフォスキアは、リージアの顔面へ拳をぶつけた。

 モミザの想いも乗せたおかげか、命中したリージアのホホには二つ分の衝撃が有ったように思えた。

 それ以前に質量の有る鉄球のような一撃は、彼女の顔を半壊させてしてしまう。

 パーツを辺りに散乱させながら、リージアは吹き飛んでいく。

 そのダメージは、フロンティアに来てから一番の痛みを伴った。


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