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激突の予兆 後編

 フォスキア達が補給任務に就いてしばらく経過した頃。

 ブロッサムの格納庫にて。

 ホスタ達の登場するE兵器たちは、スタッフや設備のおかげで元の姿を取り戻しつつあった。


「ふぅ、何とか出撃には間に合いそうね~」


 工具を片手に、ヘリコニアは修復をあらかた終えたストリクスに笑みを浮かべた。

 ストリクスもエレファントも、一応はアンドロイド部隊の使用する機体と規格は同じ物。

 補修パーツはほとんど流用できるので、思ったよりも早く終わった。


「(後は背部にウィングユニットね~)」


 早速作業に取り掛かろうと、ヘリコニアは工具箱へと手を伸ばす。

 その時、一つの影がコックピットの方へ近づいた事を感じ取る。


「ほう、これか、ゼフィランサスが乗っていた機体は」

「ん?あら~、サクラちゃんじゃなぁい」

「ああ、悪いな、整備中に」

「いいのよ~、変な所触らなければ」

「そうか、ちょっとコックピットを見させてもらうぞ」

「……」


 会話のキャッチボールを大暴投させたサクラは、困惑するヘリコニアを横目にコックピットハッチを開く。

 早速義体とストリクスを接続し、なんとも清々しい表情を浮かべる。


「おお、良いな、これ」

「そぉ~、満足したのなら、降りてくれる?」

「ああ、柔らかな関節の駆動、そしてこの反応速度、素晴らしいな」

「……」


 まるで入浴中であるかのような表情を浮かべるサクラは、勝手に両腕を動かしだす。

 おかげで動作チェックの手間が省けるが、整備中である事に変わりは無い。

 ヘリコニアの柔和な笑みに影が落ちていき、徐々に怒りが見え隠れしてくる。


「あの~、そろそろ」

「わかった、おお、コイツがリアクターか、この旋律、甘美だな」

「(……装甲切断用のチェーンソー、どこやったかしら?)」


 リアクターの動作音を入眠用の音楽であるかのように堪能を始めるサクラの姿に、ヘリコニアは静かに怒りを露わにした。

 しばらく使用していなかったチェーンソーを探し始めた瞬間、格納庫内にアラートが響き渡る。


『輸送機が帰還する、着艦の用意をしろ』

「あら~、みんな帰ってきたのね~」


 どうやら補給に言っていたフォスキア達が返ってきたらしく、迎え入れる為に出撃ハッチが開く。

 機内の空気が外部へと吹き出すと共に、明かりの灯った誘導灯が出現し、輸送機が着艦。

 後は係員の誘導に従って格納庫へと収まる輸送機より、フォスキア達は魔石の入った木箱を持って降機してくる。


「しっかし、お前どんだけ金持ってんだよ、アーマードパック九十機分の金ポンッと出しやがって、何とかなったら、全額返済しなきゃだな」

「大丈夫よ、あの馬鹿止められるなら、タダで引き受けるわ」


 どこかで聞いた事の有るやり取りをしながら、モミザはフォスキア達と共に魔石を整備班達へと手渡していく。

 一つ辺り日本円換算で数千円は下らない魔石達だが、フォスキアの貯金で全て購入できた。

 百年以上強くなるために危険な依頼を多くこなしていたため、高級酒につぎ込んでも余る程所持している。


「みんな~、収穫はどう~?」

「ヘリコニアか、まぁこの通りだ」


 モミザ達に続くようにして降りて来たゼフィランサスは、手に持つ木箱の中身をヘリコニア達に見せつけた。

 まるで宝石の詰め合わせとも言える程、目を見張る美しさが広がる。


「あら~、綺麗ね~」

「ああ、後はコイツをジェネレーターに積み込めば、用意されているE兵器を使える」

「カタログによるとぉ、ペットネームは『カローラ』らしいわ~」


 整備班へと魔石を譲渡して行く傍らで、ゼフィランサスとヘリコニアは用意されたE兵器へと目をやる。

 この艦と同様に、リージアが陰で設計と開発を行っていた量産機『カローラ』。

 ストリクス程細くも無く、エレファント程太い訳でもない。

 特徴が無いという事を特徴とし、整備面と扱いやすさに重点を置いた機体だ。


「ああ、この艦からのエネルギー供給を受けて何度か試運転したが、お前の奴程では無いな、ゼフィランサス」

「ッ、サクラか」

「ん?」


 カローラを観察している所へ、サクラが口を挟んで来た。

 モミザと共に魔石の譲渡を終えたフォスキアは、彼女との初対面を遂げる。

 他のアンドロイドとはまた別の雰囲気を醸し出すサクラに、フォスキアは首を傾げる。


「……誰?この子」

「ああ、紹介する、アルファチームリーダー、CA-2203-01サクラだ」

「久しぶりに型式番号聞いたわね」

「それは置いておけ、まぁとりあえず、俺らを除けば最強の個体……らしい」

「実際に最強だ、私が保証する」


 部隊最強であると補足説明をするモミザだったが、実際に戦っている所は見た事ない。

 フォスキアも最強と言われてもピンと来なかったが、ゼフィランサスが証人となった。

 一応、彼女もアンドロイド部隊の中で三本の指に入る実力者。

 共闘する事も多かったため、信用度は十分高い。


「……さて、見知らない顔が居るが、コイツは誰だ?見たところ人間の様だが?」

「(……ま、そうなるわよね、厳密にはエルフだけど……ていうか、ホムンクルスだけど、エルフで良いわよね、面倒くさい)」


 値踏みを行うかのように、サクラはフォスキアの方へと詰め寄った。

 ボーイッシュな印象を持つ彼女は、リージアとはまた違った魅力を感じる。

 だが、彼女の内面は戦闘欲ともとれるものが渦巻いている事もあり、思わず警戒してしまう。


「ふむ、面白そうだ、どうだ?私と一戦どうだ?」

「え?」

「待てサクラ、今はそんな事してる場合じゃ」

「サクラ!やはりここだったか!」


 サクラがフォスキアへナンパを行った直後、格納庫内に少女の声が響き渡った。

 モミザ達の視線は不意にその声の方を向くと、三つ編みの髪を肩にかける少女が上の通路から落ちて来る。


「カエデか」

「サクラ!貴様自分の機体の整備をほっぽり投げて何をしている!?」

「やっべ」


 どうやらサクラは自分の機体の整備を放り投げてここに来たらしく、ゼフィランサスは『やはりか』と言わんばかりに呆れた。

 期せずしてアンドロイド部隊の実力トップ3が揃い、フォスキアはまたモミザの方を向く。


「あの子は?」

「CA-2203-15カエデ、部隊のナンバー2だ」

「申し訳ないな、この戦闘狂は私がすぐに連行する」

「ああ、どうせお前らは強制参加だろうからな」

「ちょ!カエデ!変なとこ掴むな!」


 解説するモミザの横で、カエデは素早い動きでサクラをホールドした。

 その方法は、装甲の隙間から背骨に当たるパーツを無理矢理鷲掴みするという物。

 もう慣れているゼフィランサスは、その様子に違和感一つ覚えずに普通に会話を続ける。


「まぁそれより、ゼフィランサス、無事で何よりだ、また会えて嬉しいぞ」

「ああ、痛手は被ったがな」

「(カエデさんが笑ってる所三年ぶりに見ましたね)」


 再開を祝し、互いに笑顔を浮かべながら固い握手を交わした。

 カエデは滅多に笑う性格ではないので、ホスタも彼女の笑顔を見たのは三年ぶりだ。


「では、私は私の仕事が有るのでな」

「ちょ、待て!そこ掴みながら移動するな!バランサーが変になる!」

「頼むぞー」


 軽くあしらうように手を振るゼフィランサスは、二人の事を見送った。

 背骨状のパーツは彼女達にとって色々重要な機能が詰まっているので、雑に扱われたくはない部分だ。

 そんな場所を握られながら連行されるサクラは、少し涙目になりながら引きずられていく。

 ホスタや他のガンマチーム達にとっては、結構見慣れた風景だ。


「……それにしても、この艦よく九十機以上もアーマードパックを積めましたね」

「露骨に話逸らしたな」


 連行されるサクラの悲鳴を耳にしつつ、ホスタは格納庫を見渡しながら感想を述べた。

 サクラ達の使用するカローラは全部で九十機、つまり部隊三個分の数を収容している。

 もちろん通常のアーマードパックも積んでいるので、その積載量の高さは目を見張るものがある。


「一応この艦、私達が母艦にしてたヴァルキリー級の補給艦として建造される予定だったのよ、だから積載量は結構あるわよ」

「成程、そう言えば、最終的には我々も連れて行く算段でしたものね」

「ええ、かなり初期から計画されたから、貴女達が向こうで使ってた基地も、この艦を建造する為の偽装ドッグだったらしいわ」

「最初から人間達の事信用してないじゃないですか」

「らしいわね」


 ホスタの疑問に答えたのは、アリサの記憶の一部を持っているフォスキア。

 彼女が知っているという事は、アリサも知っているという事。

 基地がこの輸送艦を建造する為の場所という事は、もう最初から人間達を信用していない事なる。


「でぇもぉ、そんなに沢山積める艦でもぉ、ちゃんと渡り合えるのかしら~?」

「確かに、隊長がどんな戦力を有しているかもそうですが、やはり政府軍の数が厄介ですよね」

「それに関しては問題無いわよ、外から見えたけど、この艦エーテル・アームズ『ケルン』を二機搭載してるみたいね」

「……え、エーテル、アームズ?」


 急に出て来た知らない単語に、モミザ以外は頭の上に疑問符を浮かべた。

 モミザも数秒程驚いた表情を浮かべると、艦へと帰投した時に類似した物を積んでいた事を思い出す。


「……そう言えば、そんなの有ったな、アイツそんな物まで」

「ちょっと待て、姉妹だけの世界に入るな」

「あ、そうね、まぁ簡単に言うんなら、飛行ユニットを装備したアンドロイド一個小隊分の火力をぶち込んだアリサシリーズ用の強化ユニットね、大戦時は開発が間に合わなくてお蔵入りだったけど、あの子がデータを元に作ったって所かしら?」

「そんな事までわかるのか?」

「一応、お姉さんの記憶の一部が有るから」


 アリサから共有された情報を元に、フォスキアはエーテル・アームズの説明を行った。

 そして、解説と同時にフォスキアの脳裏に機体の影が過ぎる。

 艦船の主砲としても扱える程大きく強力な為、艦の外に砲台として設置されている。

 丁度二機あるので、その気になればフォスキアでも扱える筈だ。


「となると、装備するのはモミザとお前になるな」

「そうなるな、問題は、俺も使った事無いって所だな」

「開発途中って言ってましたね」

「ええ、あの子がちゃんと完成させている事を祈るわ」


 問題が有るとすれば、開発を中断した物なので誰も使った事無いという事。

 対応するOSは有るが、使うのは訓練無しのぶっつけ本番になる。

 もちろん何とかするつもりであるが、不安はいくらかある。


「まぁそれより、さっさと司令官の所へ報告に行きましょうか」

「そうだな」

「私は残って整備を続けるわ~」

「私達も手伝いますので、報告へは副長達で行ってください」

「ああ、そうだな、何時戦いが始まるか解らない、機体の整備だけは終わらせておかないとな」


 話をきりあげたフォスキア達は、報告の為に司令官の元へと移動して行く。

 スイセンや一部の隊員達は機体の整備を手伝うべく、格納庫へ残って作業を開始する。


 ――――――


 しばらくして。

 フォスキアとモミザ達は、報告も兼ねて改めて執務室へと赴いた。


「と言う訳で、納品終わったわ、じゃなくて、終わりました」

「よくやった、早速だが、次の仕事だ」

「相変わらず人使い荒いな」

「……」


 モミザの言葉に咳払いをしつつ、司令官はデータの共有を開始。

 もちろんフォスキアの目の前にも、他の隊員と同様の物が表示されている。

 その上で、司令官は彼女達が補給へ赴いている時に考えていた作戦の概要の解説を開設する。


「数で劣る我々に重要なのは、電撃作戦による短期決戦だ、E兵器の全ユニットと、エーテル・アームズ二機を使用してな」

「それで、布陣はどうするんだ?」

「部隊は四隊に分ける、アルファとベータは敵艦隊のかく乱、エーテル・アームズを使用するモミザとプロテアスは、オメガの面々と残る三十機ずつと連携し、ネメシスと統合政府の旗艦を破壊する、残りの部隊はローテーションでこの艦の防衛を務めさせる」

「(あ、やっぱあの二人の部隊は強制参加なのね、ていうか目が回る)」


 目の前に表示される過程の布陣に、次々作戦概要が表示される。

 情報量に目を回すフォスキアだったが、司令官は次々話を続ける。


「前線にでる志願兵は既に選抜済みだが、後は、お前らがどうするか、だ」

「我々ですか」

「(き、気持ち悪くなってきた)」


 画面酔いするフォスキアを横目に、司令官はゼフィランサス達の方へと視線を向けた。

 当初の予定が崩れた事もあり、専用のE兵器を持つ彼女達の扱いに困っていた。

 質問を投げかけられたゼフィランサスは、数秒程考える素振りを見せる。


「……ストリクスの高機動と、エレファントの重火力、それとガンシップか、できれば均等に分けたいが」

「おい、大丈夫か?」

「オ、オエ~(ふ、二日酔いより気持ち悪い)」

「一旦画面閉じろ」


 そろそろ画面酔いが限界を迎えたフォスキアを介抱するモミザ達を置いておき、ゼフィランサスは戦力分けを考える。

 どの組に入れようと、決死の激戦となることは間違いない。

 五機のアーマードパックと、一機のガンシップ。

 それぞれの特徴を加味しつつ、均等になるような分け方を思案する。


「……へ、変な事考えないで、貴女達だけでネメシスの方行けば良いと思うわよ」


 ようやく視界がクリアになったフォスキアは、顔を少し青ざめながら意見を述べた。

 かなり不安の募る提案に、ゼフィランサスは不満を漏らす。


「……それは自信か?それとも」

「別に他意はないわよ、ただ、あの子の手元にはオリハルコンが有るわ、かなり汎用性の高い金属だから、きっと残りの時間目一杯使って、アップグレードしてるはずよ」

「……オリハルコン、か」


 母艦ネメシスには、先の戦いで入手した大量のオリハルコンが積まれている。

 それを用いて義体のアップデートをした時の事を考え、ゼフィランサスは難しい顔を浮かべた。

 何しろ彼女は、オリハルコンの強度や怖さは身に染みている。

 原石で固めただけの人形に、なす術も無く敗北したのだから。


「それに、あの子のことだから、きっと総大将の首は自分で上げたがる筈、だから、あの子は向こう側の旗艦に頃合いを見て向かうわ」

「確かに、アイツならやりかねないな」

「仮に強化していたとしたら、止められるのはお前位な物か」


 フォスキアの仮説に頭を抱えながらも、今の彼女の実力は以前よりも上がっている。

 強化しているかもしれないリージアを抑え込めるのは、今の所彼女しか居ない。

 リージアの相手をする事に成れば、むしろ他の隊員は邪魔になってしまう。


「……よし、そこまで言うんなら、お前にはリージアを任せる、他の部隊は露払いに徹してもらおう」

「その方が良いわ、多分戦いの邪魔になるし」


 司令官がフォスキアの案に乗った瞬間、艦内のアラートが響き渡る。

 それと同時に、司令官の視界の隅にこの艦のオペレーターの顔が映り込む。


『こちらブリッジ!』

「どうした!?」

『宇宙空間に閃光を確認!統合政府軍の物と思われます!』

「始まったか、お前達はすぐに格納庫へ向かえ!私は部隊に作戦の通達を行う!」

『了解!』


 司令官の命令を受けて敬礼をしたフォスキア達は、すぐに行動を開始。

 大急ぎで格納庫へと赴き、司令官は全ての隊員達へ作戦概要の通達を行う。


「恩知らずの馬鹿女も、政府のボケ共も、必ず止めて見せる」


 決意を新たにした司令官は、早速部隊へと作戦の通達を開始する。


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