合流 後編
ガンシップ爆散から一時間後。
モミザ達は爆散したガンシップから救助され、全員はブロッサム内にある司令官の執務室に集められた。
「さて、報告を聞こうか?」
「色々有ってリージアのバカが恋情こじらせすぎて人類皆殺しルートに突入した事に付いて話し合っていたら……事故で丸コゲになりました」
「……よろしい」
黒焦げ状態でデスクの前に立つ部隊を代表し、モミザは簡潔に現状を説明した。
というより、写真云々の話を圧でもみ消した所だ。
ついでに報告書も受け取り、司令官はゆっくりと視線を変えて行く。
「それと、フォスキア・エルフィリアだったか、姉上の意識を持っていると」
「ええ、だから貴女の事も良く知ってるわ」
「(そう言う事か、だが、まだ信じがたいな)」
フォスキアに関するデータを受け取った事で、彼女に関する事は大体把握。
信じがたい部分も有るには有るが、司令官は早速本題へと移る。
「さて、ここにお前達を呼んだのは他でもない、我々アリサシリーズの計画に関する事だ、今回の件に深く関わったお前達にも話しておこうと思ってな」
「そう言えば、存在は隊長から聞いていましたが、詳細までは語られていませんでしたね」
「だろうな」
姉妹の行おうとする計画に関して、リージアの口からは一部の情報しか開示されていない。
リージアの性格上全てを話さないと思い、こうして全員を集めたのだ。
「先ず、我々の計画は三つの段階が存在する、発動条件はE兵器の悪用が認められた場合だ」
神妙な顔付きで話す司令官の言葉に、隊員達はリージアのセリフも思い出す。
一応基地に居た時も同じ事を言っていたが、正直あまり覚えていない。
「そ、それで、第一段階は?」
「計画開始と同時に、E兵器の事を知る人間全員の抹殺だ」
「……」
いきなり物騒な言葉が飛び出し、モミザ以外の全員が凍り付いた。
一応彼女の頭にも計画に関するデータは入っているが、改めて聞いて少し引いてしまっている。
「恐らく姉上の暴走というのも、このプログラムの誤作動だろうな」
「な、成程(それであんな事に)」
話を聞くゼフィランサスは、今までの惨劇を思い返した。
島に居た調査チームは全員E兵器の存在を知っており、十分抹殺対象に入っている。
だが、機械魔物の牙はこの世界の住民にまで広がってしまった。
とは言え、当時のアリサが不安定だった事を考えると、機械魔物への指令が狂っても不思議ではない。
「で、では、第二段階と言うのは?(いや、だからってこの世界の人間まで抹殺するようにするなよ)」
「第二段階は我々姉妹以外のE兵器、それらを可能であれば回収、あるいは破壊だ」
「……そう言えば、そこだけは自分でも無理だったから、リージア達に頼もうとしてたわね、あの時のお姉さん、頭の方があれで動けなかったみたいだし」
「なら何で襲い掛かったんだ?頼もうとしてる相手を」
「何か、義体の様子が凄すぎて、政府の人達に勝手に魔改造された感じで誤認したらしいのよ、しかも、結局一人でやろうとしていた事に変わり無いのよ、機械魔物やその母艦たちを使って、自分だけで政府に喧嘩売ろうって」
「……姉上は相変わらずだったか(リージアの奴も、変な所ばかり似やがって)」
フォスキアの発言に、司令官は頭を痛めた。
できるだけ妹には辛い思いをさせまいと、一人で全部やろうとするのはアリサの悪癖。
その辺の事も司令官として、悩ましく思っていた。
しかもその特徴と言う名の悪癖は、リージアにも一部受け継がれてしまっている。
「さて、話が脱線しそうだから、早速第三段階の話だが」
「は、はい」
話を戻した司令官を前に、ゼフィランサス達は姿勢を正す。
リージア達姉妹の企てた計画の全貌の最終段階が如何なる物であるのか、興味と恐ろしさに顔を少し引きつらせながら。
「……最終段階は、回収を行えた他のE兵器や、通常のアンドロイド兵と共に、外宇宙へ歩み出す、これで、マスター達の考案したロストフラワー計画は終了する」
「……それはつまり人間達を見捨て、我々だけで宇宙へ、と言う事でしょうか?」
「その通り、そうする事で人間達は文明の新たな文明開化の機会を永遠に失わせる、それ故に、マスター達はこの計画を、文明と言う花を失わせるための計画、ロストフラワー計画と名付けた」
目を閉じながら語り終えた司令官の話に、モミザとフォスキア以外のメンバーは息を飲む。
司令官の話だけを聞く限りでは、単純に人間を見捨てる行為と取れる。
彼らを見捨て、アンドロイド達だけの繁栄を望むかのようだ。
「どう解釈するかはお前達に任せる、だが私としては、何時までも我々を人並みに扱わない人間達と、妙なイザコザを起こさないために、逃げる手段を用意してくれたと捉えている」
司令官の解釈も伝えられ、ゼフィランサス達は考えを巡らせる。
今リージアがやろうとしている事は勿論だが、その前の時でさえ司令官の解釈からは大きく逸れた事を考えていた。
仮に司令官の解釈が正しかった場合、リージアの行動は明らかにその真逆を行っている。
「では、何故リージアはこのような事を?司令官の解釈が正しいとなれば、アイツのやる事は」
「少尉、貴官の言いたい事もわかる、だが、私が語ったのは、あくまでも正常な計画だ」
「せ、正常?」
「あの馬鹿は、母艦を破壊された憎しみから計画の一部に加筆と修正を行ったんだよ、マスター達の思いやりを無視して」
ゼフィランサスの疑問の答えは、拳を握り締めたモミザの口より語られた。
頷く司令官とモミザの脳裏を過ぎるのは、壊滅後に改めて集まった時。
リージアは物凄い剣幕で二人へ食い掛り、計画の変更を進言したのだ。
「あの時のアイツの顔、今でも忘れられない」
「流石の私も、憎しみに飲まれたアイツを止める事は出来なかった」
「……それで、あの子はどんな風に変更したの?」
当時のリージアの顔を思い浮かべる二人に質問したのは、少し顔を青ざめるフォスキア。
彼女の顔には罪悪感のような物が見え隠れしており、恐らく彼女の中のアリサがその感情を助長しているのだろう。
「本来なら、前の母艦が破壊された辺りでも、計画を実行しても良かった筈よ、他の姉妹を使って、私……いえ、貴女達を殺そうとしたんだから」
「確かにそうだが、あの馬鹿はあえて待った、政府の連中がこの世界を探っている事を嗅ぎつけたからな」
「何のために?」
「マトモな事をしようと考えているんじゃないか、柄にもなくそんな期待をしていたからだ」
リージアがこの世界へ足を踏み入れられる技術を野放にしていたのは、政府の人間達への淡い期待が有っての事。
だが、それはアリサの件等で全て打ち砕かれた。
それ故に政府打倒を決定したのは良いが、結局一人で突き進む事となったのだ。
「だがあの馬鹿、結局一人で突き進む事を決めたようだな」
「ああ、姉貴の目論見も、途中までは良かったが、全部無駄になった」
「……何の話だ?」
モミザの発言にソッポを向く司令官だったが、他の面々は首を傾げてしまう。
目論見と言われても、この世界に来てから一緒に行動したオメガの面々も心当たりはない。
変な空気の流れる中で、モミザは言葉を続ける。
「宇宙艇にあんなジャンクパーツ取り付けたるように指示したの、アンタだろ?あわよくば、この世界で生きる理由を見つけて欲しい、とでも考えてな」
「……」
「あ、あれ司令官の指示だったのかい!?」
「どーりで」
顔を隠す司令官の前で、双子はピンと来た。
リージア達がこの世界に来るために乗っていた宇宙艇に使用されていたジャンク品。
おかげで変な場所がスタート地点となり、出鼻をくじかれてしまった。
整備担当の面々としては、かなりイラ立つ事に成った。
「けど、流石姉妹と言うかなんというか、思いつく事が安直だね」
「う、うるさいぞ、そこ」
「でも、おかげで私はリージアと会えたんだから、感謝しないと」
しかし、結果としてはフォスキアと巡り会う事ができた。
おかげでここまで生き延びる事もきたが、代わりにこの状況に陥る事となった。
感謝の念も有っても、その罪悪感もフォスキアには有る。
「だけど、リージアがこんな事をするようになったのも、私のせいよね」
「だからと言って、お前を責めている場合じゃない、すぐにあの馬鹿止めないと、大変な事に成るぜ」
「そうだな、だが、奴は何故そこまで人間に対する憎悪か?」
「……」
ゼフィランサスのさりげない言葉に、モミザと司令官は俯いた。
リージアの内に有る感情は、なんとも歪で複雑な物になっている。
おかげで、姉妹の二人も上手くは言い表す事ができずにいる。
「あ、申し訳ありません」
「いや、あえて理由をあげるとすると、奴は……姉妹の中で最も人間を嫌っていた」
「は、はぁ、それは、確かに」
「だが、同時に誰よりも人間に憧れていた」
「それが、何故」
「熱心なアイドルファンも、推しに裏切られればアンチに寝返る、という事だ」
物悲しい表情を浮かべる二人は、リージアの心情を語った。
リージアは昔から誰よりも人を嫌っておきながら、人間への強い憧れを抱いていた。
だが今までの裏切りで、憧れの分の憎しみが増大。
結果、今のような凶行をとる様になってしまった。
「人間への憧れ、それが歪になって」
「ああ、奴は生物学を学び、今使用している義体の研究も続けて来た、人間に近く、社会に溶け込む事の出来る物だ、マスター達の許可もとってな」
「あ、あの、もしかしてですが」
フォスキアも発言に加わり、モミザもそれに続く。
そして、ホスタはリージアの目的を察した。
他にも気付く者も居たが、一番乗りは彼女だ。
「そうだホスタ、奴は人間になりたかったのさ」
「……そう言う事でしたか」
リージアの使用する五感を持つ義体は、元々人間社会へ溶け込む事を目的とした物。
本来変異によって強化し、戦闘を行うような物ではない。
偶然や不幸にさいなまれてしまい、リージアの心は限界を迎えてしまった。
「裏切りに次ぐ裏切りで、奴は人間社会で生きる事を諦め、死を選ぼうとしていた、俺はあの馬鹿とフォスキアを繋げる事で、奴をここに引き留められればと思ってな」
「(さりげなく名前で呼んだわね)
「だが、その考えは甘かったな」
「……ああ、おかげでこの様だ」
「こっちとしては、とんだ屈辱よ」
司令官達に言われ、モミザは改めて自分の考えの甘さに悔やむ。
好きな人さえできれば、リージアも生を選ぶと考えていた。
だが、結果はこの通りだ。
「フォスキアの身体は特異だ、せっかく惚れた人間を奪われたんじゃたまらん、そう言う事だそうだ」
「……ホント、ふざけんじゃないわよって話よ」
「ああ、おかげで、こっちで練っていた作戦は全部立て直しだ」
司令官はデスクを軽く叩き、脱線してしまった話を戻す。
色々と行っていた段取りは全て台無し、今から全てを立て直さなければならない。
それもその即興の作戦で、リージアと統合政府軍の両陣営を止める事に成る。
「先ず、あの馬鹿の目的は、この世界に来ている統合政府軍の壊滅、続いて」
「全てのスペースコロニーの破壊、数十億単位のジェノサイドが起こるな」
「でも、その後はどうするつもりなのかしら?」
「さぁな、自殺するにしても、そのまま帰って来るにしても、あのアホのバカげた事は止めないとな」
「ああ、善悪はともかく、これ以上奴のE兵器の乱用と悪用は絶対阻止だ」
「そうね、恋人に大量虐殺者になられるのも嫌だし、お姉さんもそんな非行に走る何て、絶対に望まないだろうし」
一先ず姉妹達は、リージアを止める事に賛同。
リージアがやろうとしている事を考えると、止めなければならない事に変わりは無い。
だがその事を理解していても、他の隊員達はまだ納得していない。
「……しかし、どうするのですか?そうなると、リージアが用意する軍勢だけでなく、統合政府軍まで相手にする事になりますが」
ゼフィランサスのセリフに、全員司令官の方へ視線を向けた。
今この艦に乗る隊員をかき集めても、六百人程度しか味方はいない。
元々リージアは統合政府の圧倒的物量への対策も考えていたが、今となってはそれもアテにならない。
たったそれだけの手勢で、統合政府の艦隊とリージアの部隊を相手にする事に成る。
「確かに、今の人数で何とかするとなると、相当量のE兵器が必要になるな」
「……一応、エーテル対応のアーマードパック九十機を積んでいる」
司令官の返答に、ゼフィランサス達は僅かに希望を見出した。
それ程多い訳でもないが、全員通常兵器で戦うより遥かにマシだ。
それでも、司令官の表情は難色を示している。
「だが」
「……やはり問題が?」
「ああ、動力となる魔石は、リージアから受け取る予定だったからな、使える状態ではない」
先ほどまで威勢よく話していたが、出て来た問題で重たい空気が醸し出される。
今から魔物の群れを探して魔石を回収するにしても、間に合うとは限らない。
一応彼女達の装備は修理すれば使えるが、それだけでどうにか成るとは思えない。
肝心の動力のアテも無くなりどん詰まりとなった中、フォスキアだけは表情を曇らせていない。
「……あれなら、私の貯金下ろして買ってあげるけど」
「え、い、良いのか?」
「当然よ、もう四の五の言ってる場合じゃないし」
フォスキアの発言で、周りの空気は一気に返り咲いた。
この世界における魔石は、ガソリンや電池のような物。
それなりに値は張るが、その辺の町で魔石は普通に販売されている。
「よし、とりあえず動力の面は大丈夫か」
「となると、後は搭乗者か?」
「お前らが戻る前に志願者を募る、ついでに作戦も練り直す、後は」
色々と決めた司令官は、フォスキアの方を睨むように視線を向けながら立ち上がる。
「え?な、何?」
「……」
冷たい目を維持しつつ、司令官はフォスキアの前に立つ。
彼女の身長はリージアと同サイズではあるが、ハイヒールの恩恵で若干高い位置からフォスキアを見下ろす。
「一先ず、貴様を姉妹と認めた訳では無いが、今回は任務を手伝って欲しい」
「え、ええ、と言うか、最初からそのつもりだけど」
「(本当は嬉しい癖に、このツンデレ、誰に似たんだか)」
困惑するフォスキアの前で、司令官は頭を深々と下げた。
言葉は少々悪いが、モミザからすれば精一杯のデレ隠しである。
そんなモミザに気付かず、司令官は勢いよく頭を上げる。
「と言う訳だ!これから貴様のコードネームを言い渡す!」
「え!あ、はい!」
弾丸のように空を斬りながら頭を上げると、急に熱血漢の如く大声と威勢で声を上げた。
そんな司令官の空気に圧倒され、フォスキアは姿勢を正す。
カッチリとした体勢となるフォスキアを前に、司令官はコードネームを言い渡す。
「貴様には福の有る残り物の名前、プロテアスの名をくれてやる!」
「え、えっと、は、はい!」
「(……おいおい)」
話を聞いていたモミザは、彼女がフォスキアに付けたコードネームに目を細めた。
彼女の態度に少し呆れながらも、モミザは司令官の肩に手を置く。
「なぁ、それ」
「フンッ!」
「ブヘッ!」
「あ」
指摘しようとした瞬間、顔を赤くした司令官の肘が炸裂。
下アゴを貫けれたモミザは、その場で倒れ込んでしまう。
珍しくぶっ倒されるモミザへの興味を抑え込み、フォスキアは司令官へと目を向ける。
「と言う訳だ」
「(どういう訳?こういう所変わって無いわね、)」
「ボーッとするな!プロテアス!復唱!!」
「あ、ぷ、プラ、えっと、プロテアス!」
雄叫びの如く大声に驚き、フォスキアは敬礼しながら復唱した。
そして、司令官はまだ終わらせない。
「声が小さい!もう一度!」
「プロテアス!!」
「よし!早速補給任務に当たれ!部隊はコチラで選抜する!」
「は、はい!」
「双子とヘリコニアは、お前達の機体の整備に携われ、残りは補給だ!駆け足!!」
『了解!』
司令を受け、モミザ以外は執務室から出て行く。
ドタドタ騒がしい音を数秒程響き渡らせると、執務室は司令官とモミザだけが残る。
シンとした空気の中、早速司令官は部隊の再編制を始めようとする。
「……何時まで寝ている、お前も手伝いに行ったらどうだ?」
「それよりも姉貴、さっきの名前なんだけどよ」
頭をかきながら起き上がったモミザは、目を軽く細めながら胡坐をかく。
そのままの状態で、モミザは先ほど言おうとしていた事を告げる。
「……フォスキアの頭、一応アリサの姉貴が居るから、その名前の由来、アイツも察してるぞ」
「ッ!?」
モミザの発言に、司令官は顔を真っ赤にした。
同様で作業も忘れてしまい、作業は五分程遅れた。
――――――
その頃、ゼフィランサスと行動を共にするフォスキア。
「(と言うか、プロテアスって、姉妹に付ける用の名前の候補よね?なんだかんだ、認めてるじゃない、あの子)」
名前の理由に関して、普通に気づいていた。




