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神罰 後編

 フォスキアとリンクしたアリサは、変異した大剣を携えて空高く飛び上がった。

 貴族全員の放った魔法の弾幕を掻い潜り、その先で待機していたアスガルドと会敵する。


「何をしようと、この空間に居る限り貴様に勝機は無い!我々を侮辱した事を後悔するがいい!!」

「あはは!威勢のいい人は、大好きだよ!(心の折がいが有って)」


 変異したアリサの大剣と、アスガルドの聖剣は衝突。

 衝突によって近くに有った魔法はかき消され、その中央で二人はにらみ合う。

 と言うより、アスガルドが一方的にアリサを睨んでいるだけだが。


「この空間では、陛下が味方と認識する者の思考は共有され、貴様の魔力の動きも筒抜けだ!つまり、我々は貴様の動きを先読みしつつ、無数の攻撃を浴びせる事ができる!!」

「……え?あ、そう、説明ありがとう(どうしよう、多分、状況に絶望させたかったんだろうけど、私には攻略方法教えてくれてるようにしか聞こえない)」


 冷や汗を流しながらお礼を言うアリサからすれば、ゲームでよくある道中で拾う資料に書いて有る攻略をほのめかす情報。

 しかし、アスガルドから見た彼女の反応は、状況に言葉を無くして強がっているように見えていた。

 勘違いからの笑みを浮かべたアスガルドは、魔法の接近を確認してアリサの前から離脱。

 その瞬間、アリサの居た場所に魔法が着弾する。


「……チ、避けられたか!」

「攻撃を続けろ!所詮一人だ!!」


 攻撃を回避された事に気付くなり、アリサへの攻撃は再開。

 アリサより発生する魔力を認識するエルフ達は、爆炎に紛れる彼女へ攻撃を集中させる。


「あはは!その調子だよ!もっと頑張れ!」

「なめるな!」


 空間全てが魔法に包まれようと、アリサは軽々と攻撃を回避。

 ヴァナヘルムの岩魔法や、イダヴェリルの騎士型人形が加わり、エルフ達の攻撃密度はリンク前の比ではない。

 そんな状況であっても、アリサは顔色一つ変えてない。


「言った筈だ!貴様の動きはコチラに筒抜けだと!!」

「さっさとくたばりな!駄肉女!!」


 魔法攻撃を一切寄せ付けないアリサへ、二体の騎士型とアスガルドは前へと出る。

 共有された思考の元に彼等の動きは完全にシンクロし、三本の剣による猛攻がアリサへ襲い掛かる。

 だが、そんな物はアリサの前ではただのチャンバラ。

 全て軽くあしらい、笑う余裕さえもある。


「良いよ!良いよ!相手が私じゃなかったら、俺が最強だ!って、威張れちゃう位だよ!」

「まだ侮辱するか!!」

「早く倒さないともっとしちゃうよ~」

「だったら死ね!」


 煽るアリサはその苛烈な攻撃を易々と回避しつつ、大剣でも攻撃を防ぎ止める。

 しかも彼らを援護する為の魔法も放たれており、リンク前だったら今頃また滅多裂きだっただろう。

 全てを見切るアリサは、自分に影が落ちた事に気付く。


「ん?」

『ひっかかったな!!』

「うへ、臆病者の意地って奴?」


 アスガルド達によって誘い込まれたのは、ヴァナヘルムのキルゾーン。

 魔力を大量に込められた両腕は、タイミングよくアリサへ振り下ろされる。


『誰が臆病者だぁぁ!!』


 岩の両腕は地面に叩きつけられ、そこを中心に地面は広範囲に砕ける。

 衝撃波は周囲に居るアスガルド達にも降り注ぎ、細かな破片も周囲へ飛び散った。

 だが、その拳に手応えは無い。


『……ケ、外したか』

「うんうん、おしいおしい、モロにくらってたら私でもダメージは免れなかったけど、臆病者の意地は虚しく空振りだね」

『だから、誰が臆病者だぁぁ!』

「あはは!」


 怒りを乗せた裏拳を放つも、それさえ虚しく空振った。

 発生した突風に身を任せながら下がるアリサへ、再び上空からの魔法攻撃が放たれる。

 上からは大量の雷撃と光の槍に襲われ、下からは大量の岩石が逃げ場所を潰そうとしてくる。


「いや~、いい運動だよ、リハビリには、丁度良い!」


 逃げ場の無い弾幕に晒されながらも、アリサは障害物競走程度の感覚で回避。

 どうしても回避しきれない分は大剣でかき消し、岩は破壊する事で逃げ道を確保する。

 今の身体の慣らしには丁度良いと、軽くあしらっている。


「これ以上、我々をなめるなぁぁ!」


 当然、その態度にはムスベルヘルも激怒。

 後衛に徹していた筈の彼は前線へと赴き、魔力の刃を形成した杖を槍のように扱って自らアリサに挑む。


「ほいっと!」

「チ!」


 死角から打ち込んだ筈の攻撃は、大剣によってすんなり防がれてしまった。

 風魔法によって加速し、尚且つ今の膨大な魔力を使っての身体能力の強化。

 かなり重たい一撃であったが、アリサにとっては触れられた程度。

 一撃の重さは、弾き飛ばされた周囲の空気が物語っている。


「良い腕だよ、ただのガリ勉陰キャ野郎じゃないみたいだね」

「言っている意味は解らんが、バカにしている事は解るぞ!!」

「ごめんね~、思った事すぐ口にしちゃう質でさ」

「だったらその減らず口を叩き切ってくれる!!」

「うへ」


 面倒臭そうな表情を浮かべたアリサは、斬り掛かってきたアスガルドの一撃をかわした。

 それでも、アスガルドはムスベルヘルにアイコンタクトを送る。

 二人の思考は共有されているのでそんな事をしなくても伝わるが、歴戦の戦友同士の彼らは共にアリサへと食い掛る。


「合わせろよ!」

「そちらこそ!」

「へ~(壊しがいがある二人だね)」


 余裕のある笑みを浮かべるアリサに、二人の攻撃が振り掛かる。

 抜群のコンビネーションによる槍裁きと剣裁きを見せる二人を相手に、アリサは大剣一本で対応する。


「面白いから、貴方達には特別に私の剣術をちょっっっとだけ、見せたげる」


 かなり溜めた言い方をしたアリサは、猛攻を続ける二人から距離を取る。

 大剣に魔力を流し込み、アリサは自らの剣術を披露するべく間合いを詰めだす。

 ユグドラシルの魔法の影響で弱体化しているとは言え、動かした限りでは負けようがない事は判明している。


「行くよ!」


 二人に挟まれるアリサは、体術を織り交ぜた剣術を披露。

 出せる全ての力を振り絞るアスガルド達を相手に、互角に切り結ぶ。

 そんな三人の戦いは空気を斬り裂き、辺りに衝撃波をまき散らし、金属音を絶え間なく響き渡らせる。

 彼らは他のエルフ達でさえ目視できない程の速さで動き回っており、もはや援護は邪魔でしかない。


「何なんだ、この動きは!?」

「さっきと、別人すぎる!!」

「良い感じだよ!後一万歩位で私に届くかもね!」


 ユグドラシルの杖からの魔力供給で疲れる事は無く、二人は常に全力を出し続けられるうえに、思考の共有で連携は完璧。

 アリサはそんな二人を一方的に押していき、常に余裕を振りまいている。

 彼女の常識離れした動きに圧倒され、二人の動きは徐々に乱れていく。


「でもちょっと、連携乱れてきた、ね!」

「ガハッ!」


 一瞬の隙を突き、アリサの鋭い蹴りはアスガルドの腹部を突いた。

 全ての内臓が破裂したかのような衝撃に襲われる彼をおいておき、アリサは後方に居るムスベルヘルへ肘鉄を入れる。


「こっちも!」

「グ!」


 顔面を肘で突かれたムスベルヘルは、鼻を抑えながらゆっくり下がって行く。

 すぐに魔法で血は止まるが、それでも痛みまでは中々消えない。

 痛みと怒りに体を震わせながら、ムスベルヘルはゆっくりと顔を上げる


「……あ、あらら~、鼻血出ちゃってるよ、みっともないし、早く拭いたら?」

「グ」


 適当に大剣をもてあそぶアリサを前に、ムスベルヘルは息を荒げる。

 今度は別件の鼻血が出そうな様子を見せながら、全身に魔力を集中。

 全身を薄っすら光らせると、怒りを乗せながらアリサへもう一度肉薄する。


「何だとぉぉぉ!!」

「お」


 間合いを詰めるムスベルヘルの速さは、正に光速ともいえる速度。

 意外な速さに目を丸めるアリサだが、その一突きを紙一重で回避する。

 その回避を読んでいたかのように、ムスベルヘルはアリサの前から消える。


「バカにするのも!」

「ほい」


 突然出現したムスベルヘルは間髪入れずに一撃を入れたが、アリサは簡単に弾き飛ばした。

 弾かれると共に、ムスベルヘルは再びアリサの前から姿を消す。


「いい加減に!しろ!!」

「あはは!こんな攻撃する人、生で見れるとは思わなかったよ!」


 現れては一撃を入れ、再び消える。

 そんな攻撃を見る機会が有ったのは漫画やアニメ位だったが、初めて経験するその攻撃を面白半分で防ぎ続ける。

 何度かそれを繰り替えしていると、やがて鍔迫り合い状態へと持ち込まれる。


「生意気な口を!貴様如きが、この私に勝てると思っているのか!?」

「むしろここまで攻撃当てられて無いのに、まだそんな事言えるの凄いね」

「黙れ!ただ逃げ回っていただけではないか!そんな貴様は、攻める事もできない軟弱者だ!!」

「ふ~ん、なら、軟弱者は軟弱者らしく、逃げるとしますか!」

「ッ!」


 槍を弾いたアリサは、早速距離を離す。

 もちろん、舐めたような態度は変えていない。


「さ!ご自慢のスピード、もう一回見せてよ!ほらほら!」

「良いだろう、見せてやるぞ!この軟弱者が!!」

「あはは!鬼さんこちら~!」


 軽い笑みを浮かべるアリサの挑発を受け、ムスベルヘルは先ほどのように消えたように速く動く。

 その度に槍を振るうが、アリサはその攻撃さえ回避。

 進言通りアリサはただ逃げ回るだけ、反撃のような事はせずにひたすら逃げる。


「この世界でもっとも速いのは光、その光と同等の速さを出せる事私から、逃げ切れると思うな!!」

「そだね、理論上そうだよ!」


 文字通りの光速を叩き出すムスベルヘルは、今度こそはと槍を突き出す。

 そんな槍の一撃を回り込むように避けたアリサの姿は、ムスベルヘルの目は捉える。

 常人程度で有れば速すぎる動きだが、彼から見ればそれ程速い動きではない。

 すぐにアリサを追うように、槍を剥ぎ掃う。


「どれだけ早く動こうが、見えているぞ!!」


 だが、その刃が捉えたのは虚空だった。


「な、何!?」


 次は確実に捉えたと思っていた一撃が当たらなかっただけでなく、アリサの姿も見失っていた。

 その事に目を見開いていると、アリサの魔力が今どこに有るのか認識。

 それと同時に、ユグドラシルの声が響き渡る。


「ムスベルヘル!後ろだぁぁぁ!」

「な!?」

「見えるって何?UFO?お化け?」


 アリサが居たのは、ムスベルヘルの背後。

 しかも攻撃をする事も無く、何かを探している。

 彼女の姿を確認するなり、ムスベルヘルはすぐに距離をとった。


「あはは、見えるってもしかして、私の残像だった?そんな速く動いたつもり無かったけど」

「グ(バカな、槍が当たる寸前までは、見えていたというのに!)」


 片眼鏡のズレを直しながら、ムスベルヘルは記憶を巡らせた。

 先ほど放った横薙ぎの一撃は、間違いなくアリサへの直撃コースだった。

 実際刃はアリサの首筋に差し掛かり、間違いなく首を切断できるという確信も有った。

 だが、その瞬間にアリサはムスベルヘルの視界より消えたのだ。


「まぁまぁ、熱くなりすぎて幻覚見ただけかもなんだから、そんな気を落とさないで」

『まさかソイツの後ろとっただけで、もう勝った気になっているのか?』

「あはは(後ろとった時って言うか、最初から勝った気で居るけどね)」


 いつの間にか、エルフ達はアリサの事を包囲していた。

 あらゆる方向からでも狙える陣形を取り、攻撃態勢を維持する彼らを認識。

 それでも尚、アリサは表情を崩さない。


「皆殺る気満々だね」

「それよりも」

「ん~?」


 包囲に参加するアスガルドは、未だに笑顔を浮かべるアリサに怒りの聖剣を向けた。

 まだ腹部のダメージが有るらしく、少し顔を青ざめていても、強気な姿勢だけは崩していない。


「貴様!本気でやっていないな!?」

「え?さっき言ったじゃん、先ず準備運動って、話聞いてなかった?(この子、私に無い大きな物持ってるから色々とバランスがね)」


 返答をするアリサは、フォスキアとの体の違いに表情を虚無にした。

 先ほど言っていた様に、今までのアリサの実力はただの準備運動。

 一応アリサも中身は女性、フォスキアの身体に圧倒されていた部分も有る。

 しかも戦いの動きにかなり影響を受けるので、先ほどから慣れるのに苦労していた。


「そこまで愚弄するか」

「……まぁね、でも大丈夫、次からは、かる~く、本気で行くよ(ようやく身体の調整が終わったからね)」


 やっと慣れて来たと筋を伸ばしながら、アリサは笑顔で答えた。

 相変わらずの舐めた口調に、アスガルドは腸を煮えくり返すような怒りを覚える。


「そうか、ではその思い上がった態度もろとも、今度こそ貴様を斬り刻んでくれるわ!!」

「あはは、まぁ頑張ってよ、サービスタイムもどんどん終わってる事だし」

「何?」

「よく見てよ、今の私は、髪白くなって鎧着ただけ、折角だし、冥土の土産にでも見て行ってよ、この子の新しい変異姿……ていうか、戦闘形態かな?」


 現在張られているユグドラシルの魔法の中において、アリサの力はかなり制限されている。

 それだけでもかなりのサービスであるが、今の恰好もその内の一つだった。

 鎧や大剣はあくまでも基本的な装備で、他にも用意した物はいくつかある。

 戦闘形態と言う表現に言い直したアリサは、左手を高く上げて指を弾く。

 乾いた音を響き渡らせると、周囲の物が光り輝く。


「何だ?」

「何をする気だ?」

「さて、ビックリの準備はしておいてね~」


 周囲を見渡すエルフ達が捉えた光った物は、ウロボロスと機械魔物の亡骸と、ストリクスの残骸。

 赤く発光するそれらからは線が伸び、アリサの方へと集約。

 ストリクスは翼と脚部までもが飛んでいき、アリサの事を覆い隠す。


『何のつもりだ?』

「知らないけど、そんなこけおどし」


 身構えるエルフ達の前で、アリサは自らの周囲に暴風を発生させる。

 彼女の周囲は発生した竜巻に包み込まれ、吹き荒れる風はエルフ達にも襲い来る。

 やがてその風は収まり、アリサが姿を現す。


「ジャ~ンッ!(特に意味無く風起こしたけど、やっぱ雰囲気は大事だよね)」


 背中に生えた鎧と同じ雰囲気のカラーリングの翼を羽ばたかせ、足も猛禽類のように大きく鋭い鉄の爪を輝かせる。

 左手の黒いガントレットは人一人を握り潰せる程巨大になり、ギミックの稼働確認を行う事で、色々な部分がカタカタと動く。

 まるで魔王と形容できるような容貌となり、エルフ達は戦闘態勢に入る。


「ふぅ、この姿を見せたのは、貴方達が初めてだよ(まぁ初めてなったんだけど、雰囲気、雰囲気)」

「ほう、とうとう本性を現したという事か……我らの神聖なる魔法で、必ず滅ぼしてくれる!!」

「あはは、あんな寝ぼけた魔法、通用しないよ」


 エルフ達の敵意と殺意を身体に受けながら、アリサは笑みをこぼす。

 彼女達を作った研究員の一人は、元よりこの世界の魔法学者。

 最初に作られたという事も有って、研究員二人が創り出した魔法も彼女の頭に入っている。

 あまりにも強力過ぎて、妹どころか政府にすら秘匿していた物の数々。

 それと比べてしまえば、エルフ達の魔法は寝ぼけている。

 そして、そう思う理由は他にもある。


「(それに、たとえ貴方達がどれだけ死力を尽くしても、あの人達が全力を持って作り上げた研究には勝てないよ)」


 彼女の記憶を過ぎ去っていくのは、二人のマスターとの研究の日々。

 数十年かけた研究の末、見つけ出してきた可能勢の数々。

 それを思えば、敗北のイメージは湧いてこない。


「(エーテルを扱う上で重要なのは、やっぱ効率、あの人達と私の研究では、人間がどれだけ集中しても、補助の為に魔法陣を用いても、制御できる魔力は消費した分の三割だけ、残り七割は制御できずに体外へ放出されてしまう、でも、私達アリサシリーズがその七割を制御する事で、常人には成しえない事をできるようになる)」


 数十年かけた研究の末に導きだした答えと、その研鑽によって考案した魔法。

 大戦時は使用不可能だったその魔法は、インチキフィールドを含めて今や使い放題だ。


「見せてあげる、魔法はこうやる物だって」


 不敵な笑みを浮かべたアリサは、大剣を展開させた。




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