表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/138

問題児の部隊 前編

 

 宇宙ステーション型軍事基地、ベース422。

 衛星軌道上に建造された軌道エレベーターを守るべく、敷設された基地の一つにて。

 アンドロイドのみで編制された部隊が駐屯し、二十四時間体勢で地上と宇宙の両方を監視している。

 そんな基地のとある一室にて、基地の司令官と軍の総司令部が会談を行っていた。

 総司令部からの映像はなく、軍のエンブレムである、地球を模ったマークのみが映し出され、男性の声だけが送られる。


『新惑星『フロンティア』……我々の住まう惑星とほぼ同じ環境を持つこの星……調査の為に降り立った研究チームと、君達の所より選抜された、護衛のデルタチームが消息を絶ち、既に三か月が経過した』


 数十年の時を経て、遂に発見された有人の新惑星。

 フロンティアと名付けられ、統合政府と民間企業の合同による調査が行われていた。

 彼らの護衛には、この基地のアンドロイドチーム、デルタが派遣された。

 人間では扱えない兵器を扱える彼女達の存在は、何が起こるか分からない異星では重宝される。

 しかし、三か月前から連絡が途絶えていた。


『そこで、君達の基地から、エリート部隊であるガンマチームを向かわせたが、こちらも、連絡が途絶えてしまった』


 救援チームとして、この基地からエリート部隊を派遣する事となった。

 だが、原因も行方もわからないまま、彼女達との連絡さえ途絶えてしまった。

 残念そうな声色になりながら、総司令官は現状をまとめた。

 ガンマチームはこの基地の最強戦力の一角。

 彼女達からも連絡が途絶えたとなると、状況は芳しくない。

 緊迫した状況のこの基地へ、統合政府から連絡が来た。


『……そして、この事態を前に、政府の要請で、君の所の部隊をもう一つ使う事に成った』

「はい、お送りいたしました資料のご覧の通り、政府からのご依頼通りの部隊をアサインいたしました」


 特徴的な長い髪から軍服まで、ほとんどが白で構成された装いの、長身の女性型アンドロイド。

 彼女がこの基地の司令官であり、アンドロイド部隊の責任者。

 遂に政府直々の命令を受け、とある部隊を動かす事に成っていた。

 その資料のデータを、総司令部へ秘密裏に送信していた。


『……この部隊を使う、という事は』


 データを受け取った総司令官は、ため息交じりに悩ましい声色を出した。

 何しろ、彼女の送ったデータには、問題点しかないのだ。

 文面等に問題は無いが、使う部隊と、予想される理由に問題があるのだ。


「……はい、ですが、作戦の観点で見れば、彼女達を使う事には、私も賛成です」

『……わかった、君の意見を尊重しよう……後の事は、こちらで何とかする』

「ありがとうございます」


 敬礼をした司令官は、総司令部との通信を終了。

 指令室の隅に設けられていたその部屋から出ると、指令室の出入り口が開く。

 入って来たのは、この基地に所属するアンドロイドの少女。

 旧時代から続く伝統的な迷彩服をまとっており、なんとも白い肌の顔以外露出が無く、人間と見分けがつかない。

 セミロングの白髪をなびかせ、アンドロイド特有の青い瞳をキラつかせながら、敬礼する。


「オメガチーム所属、CA-2202-13識別名リージア、到着しました!」


 マジメな表情で、リージアはピッシリと姿勢を正す。

 お手本のような敬礼だが、その状態は一分も経たずに終了。

 帽子も脱ぎ捨てると、まるで再会した同級生同士のように表情を崩しだす。


「司令官!おっひさぁ!」

「……」


 やたらと高いテンションを見せつけながら、リージアは司令官へ絡みだす。

 何とも馴れ馴れしいが、彼女は昔からこうである。

 その為、付き合いの長い司令官は諦め半分に黙認している。


「……も~、ノリが悪いですよ~、一年ぶりくらいに直接会うんですから、もうちょっと感慨とかぁ」

「黙れ、貴様らのようなはみ出し者どもに仕事をくれてやるんだ、ありがたく思え」

「ウへ……それで?何の仕事です?循環システムの点検?出撃ハッチの清掃?」


 やる気がないかのように、頭をボリボリとかくリージアに、司令官から作戦の通達がなされる。

 聞いているのか聞いているのか解らない態度で、リージアはその話に耳を傾ける。

 謎の小躍りをする姿を黙認する司令官だが、話を半分以上終えた辺りで、リージアの表情が曇る。


「……それ、マ?」

「マ」

「そ」


 ――――――


 指令官から更に詳細な作戦を通達された、数分後。

 リージアの雲っていた表情はウソのように晴れ、かなり明るい物となっていた。

 しかも、ご機嫌にスキップまでしている。


「さ~いぃた~、さ~いぃた~、チューリップゥのはぁなぁがぁ~」


 鼻歌交じりにウキウキと通路を進むリージアは、自分のチームの部屋に到着。

 部下の皆が喜ぶ顔を思い浮かべながら、部屋へと入る。

 そして、姉妹と言える位、髪型と体格以外に、異なった特徴をあまり持たない少女五人の前に立つ。


「みんな~!お仕事持ってきぃたよぉ~!」

「いえーい!」

「……」

「……」

「……」

「……」


 可愛らしいポーズと笑顔を浮かべながら、リージアは早速仕事が入った事を報告。

 しかし、ノってくれたのは一名だけ。

 彼女だけは、何時用意したのか解らない紙吹雪をまいてくれていた。

 他のメンバーは、デスクに着いたまま、それぞれの作業に没頭している。

 紙ふぶきを頭にかぶりながら、リージアはポーズをとったまま硬直してしまったが、すぐに持ち直す。


「……オホン……お仕事ぉ!持ってきぃたよぉぉ!!」

「イィエエエイィ!!」


 気を取り直し、再度ポーズを取り直しても、結果は同じ。

 乗ってくれた部下は、CO-2209-231、識別名ヘリコニアだけ。

 リージア同様の白髪は、ウェーブのかかったロング。

 義体もリージアより一回り大きく、おっとりとしたお姉さんと言った印象が強い。

 そんな彼女だけが、リージアのテンションに乗り、今度は自作の楽器を適当に鳴らしてくれた。


「……ム~」


 だが、騒がしく乗ってくれているヘリコニア以外は、完全無視。

 みんな相変わらず、手元しか見ていない。

 ホホを膨らませたリージアは、一番手前の席に座る少女に噛みつく。


「お仕事!もってk」

「うるせぇぇ!!」

「ギャアア!」


 デスクを叩きながら接近したリージアだったが、すぐに投げ飛ばされてしまった。

 投げられたリージアは、奥の壁へと激突、そのまま剥がれ落ち、床に転倒する。

 リージアが食い掛ったのは、この部隊の副官。

 CA-2202-12、識別名モミザ、白髪をポニーテルにまとめた、男勝りな少女だ。


「なんなんだよ、さっきからギャーギャーと、発情してんなら他所行け!」

「……だから、お仕事持って来たって言ってるでしょ!話位聞いてよ!」

「どうせゴミ出しだとか、基地の外の清掃とかだろ?良いよ、そんな大仰にしなくても……てか、ヘリコニアは内容知ってんのか?」

「いいえ、リージアちゃんが凄く嬉しそうだったから、ちょっと乗ってあげたの」

「中身知らねぇのに乗ってたのかよ!?」


 三人がやり取りを行っていると、モミザの後ろの席の少女も視線を上げる。

 GS-2205-75、識別名ホスタ。

 腰まで届くストレートの白髪を持った、物静かな少女だ。

 手遊び感覚でいじっていたライフルから目を離し、騒がしいリージア達に冷えた目を送る。


「……ところで、その仕事というのは何ですか?」

「ふっふ~、ホスタ君、よくぞ聞いてくれた、今回のお仕事、それはなんと~」


 リージアの空気に合わせ、ヘリコニアは何処からか取りだした小太鼓を叩き出す。

 もったいぶらないで早くしろ、と言う目をぶつけるモミザの前で、リージアはポーズを決める。

 彼女の行動に一拍遅れる形で、ヘリコニアはシンバルを叩いた。


「楽しい救助活動でーす!」

「わあああい!」


 内容を言った後で、ヘリコニアは紙ふぶきに楽器と、先ほど見せた反応を全て見せた。

 用意していた紙ふぶきが無くなり、楽器だけが虚しく響く。

 そんな部屋の中、リージアの話を一応聞いていた面々は、口を開けたまま硬直していた。


「……は」

「……え」

「……まじ?」

「……ゆめ?」


 リージアの発言に、ヘリコニア以外のメンバーは目を丸めた。

 彼女の近くで、呑気に手を叩いているヘリコニアの気が知れないが、それは置いておく。

 任務内容を伝えられたメンバーの内、一番奥に居る二人は、冷静になる成り目を細めだす。

 その内の一人、派手な雰囲気に白髪をくくった少女が、手を上げる。


「ちょっと良いかい?」

「はい!何でしょう!?レーニアちゃん!」


 IS-2214-34『レーニア』『ブライト』

 二人は本当の姉妹機であり、どちらも不良の女子高生のような印象が有る。

 姉妹並んで、一緒に機械をいじっていたが、リージアの発言の内容に、二人そろって否定的な目を向けだす。


「どうも臭いね、今までアタシには、掃除だのの裏仕事ばかりやらせてただろ?」

「あーしもお姉と同意見、モミザもそうっしょ?」


 レーニアの言葉には、ヘアピンで分けた長い白髪をいじるブライトも賛成した。

 オメガチームは、軍の正式な部隊とは言え、任務はほとんど掃除等の裏方。

 今までの彼女達の仕事や、信用等を考えても、そんな重要な任務が与えられるとは思えない。

 そもそも、このような重要な任務は、また別の部隊に声がかけられる筈だ。


「ああ、俺も同意見だ、第一、救助活動なら、ガンマは……出ててるか、だから、アルファかベータだろ?」


 疑問をぶつけられるリージアであったが、話された事を簡潔に伝えるべく、ホワイトボードを持って来る。

 そして、司令官に話された調査中の惑星の絵を書く。


「そうなんだけど……この、フロンティアって惑星、みんな聞いた事有るよね?」

「……ああ、確か、十年以上前にデルタが調査チームの護衛に出た新惑星だろ?たしかガンマも応援で向かったな」

「そ、で、そこでの通信が、完全に不通になったらしいのよ」

「ッ、それって!」


 リージアの言葉に、ホスタは勢いよく立ち上がった。

 何時もクールな筈の彼女の珍しい反応に、少し驚きながらも、リージアは首を縦に振る。


「そ、壊滅したか、あるいは、機器の故障だね」

「……なら、機材の故障か何かです、あの人達が簡単に壊滅する筈有りませんから」

「私もあの人らの実力は知ってるよ、だから、私達が行くのは、あくまでも安否の確認みたいな物だよ、だから、今は私の話を聞いて」

「……解りました」


 唇を噛み締めながら、ホスタは席に着いた。

 目に影がかかるホスタに、気を使いような笑みを浮かべたリージアは、ホワイトボードの方を向く。

 適当な絵や説明を書きつつ、リージアは解説を開始する。


「ご存じの通り、この新惑星は何十年もかけた一大プロジェクトの末に見つけた、有人惑星、市民に発表は伏せられてるけどね」


 まるで学校の教師のように、ボードに絵や文字をつづっていく。

 先ほどまでやる気の無さそうにしていたモミザ達だったが、真剣に説明だけは聞こうとしている。

 ボードのすみっこに書かれている落書きは無視して。


「人が居るってだけでも大騒ぎ何だけど、市民に伏せている理由は、後二つあるの」

「あら、二つも有るの?」

「その秘密ってのは、チームと連絡が消えた理由と関係あるのかい?」

「まぁね、そんで、一つ目の秘密、この星がどんな場所なのか」


 リージアの真剣な雰囲気の話し方に、ヘリコニア以外は息を飲んだ。

 何しろ、ガンマチームの実力は折り紙つき。

 彼女達が壊滅したかもしれないような世界、どんな場所なのか気になる。

 緊迫した空気の中で、リージアはまた変なポーズをとる。


「そこは、剣と魔法の世界!花は咲き乱れ、ドラゴンが飛び、エルフやドワーフまで居る理想郷!」


 急に気の抜けた話し方になったリージアに、レーニア達は落胆した。

 珍しくマトモだと思ったら、すぐにこれである。

 尚、リージアの姿勢に一番腹が立ったのは、ホスタ。

 冗談としか思えない説明を受け、コレクションの一つを持ちだし、弾丸を装填。

 無表情になりながら、ホスタはリージアへと迫る。


「……」

「え、ちょ、ちょちょちょ!!」


 持ち出したのは、五十口径の対物ライフル。

 特殊な金属素材でできているアンドロイドであっても、一撃で破壊する威力を持つ。

 上官に対して、ホスタはそんな物騒な物突きつけた。

 これには流石のリージアも顔を青ざめてしまう。


「冗談は良いです、早く本当の説明を」

「待って!待って!マジだから!九割マジだから一旦落ち着いて!!」


 手をつき出してホスタをなだめようとするリージアの言い分に、みんな硬直した。

 流石に空気が読めなさすぎる冗談だと、モミザ以外は思っていた。

 彼女の言う残り一割は置いておき、ホスタは銃を下げようとしない。


「残り一割は、この際良いとして……何?本当に魔法使いとか居んの?」

「そう!そうだよ!ブライトちゃん!居るよ!居る居る!」

「……」


 ブライトの言葉を必死に肯定するが、それが余計に怪しさを際立ててしまう。

 そろそろプツンとキレそうなホスタは、無言で安全装置を解除。

 流石のリージアも焦りを見せてしまう。


「だから待ってってば!ホントの本当なんだって!マジでガチで本気だってば!!」


 正にゴミを見るような目のホスタを前に、リージアは必死に弁明を始めた。

 情けなく泣き出しそうなリージアの姿を見て、モミザはため息交じりに立ち上がる。

 ライフルを撃てる状態にまで持って行ったホスタの背後に立ち、なだめる為に銃に手を置く。


「その辺にしてやれ、何時も冗談ばっかだが、ウソは滅多に言わねぇんだよ」


 何時もマジメなモミザが言うのならば、と説得に応じ、ホスタはライフルを下ろした。

 しかし、どうも解せなかった。

 リージアは仕事中でもふざける事が多く、その度にモミザの鉄拳制裁が炸裂した。

 なのに、今回はすんなり受け入れている。


「……珍しいですね、何時もは殴ってばかりなのに」

「真面な話なら、殴ったりはしねぇよ」

「……あんなホラ話を信じると?」

「信じる信じないの前に、コイツが上からの命令を正確に報告しなかった事、有るか?」


 ライフルから弾を抜きながら、ホスタはこの部隊に来てからの事を思い出す。

 配属されて二年の新参者という事も有って、リージアとの関係はまだ浅い。

 何時もふざけてばかりの印象があるリージアだが、上からの連絡はしっかりと通達していた。


「……解りました、今回はすみません」


 かなり不服だと言わんばかりに、ホスタはリージアに頭を下げた。

 そして、不機嫌そうにライフルの二脚を展開し、デスクの上に置き、自分も席に着いた。

 そんなホスタの姿にため息をつきながら、モミザは呟く。


「はぁ……やれやれだ」

「ウワぁぁん!怖かったぁぁ!」

「ワガッ!」


 頭を抱えるモミザの背後から、リージアは弾丸のような勢いで抱き着いた。

 死角からの奇襲で、姿勢を崩すモミザだったが、すぐに持ち直し、リージアの拘束を解く。


「何しやがんだ!クソがアアア!」


 続けざまに力強く踏み込み、その動きに合わせながらリージアのアゴを打ち上げる。

 抱き着かれてからわずか一秒程で、モミザの鋭いアッパーカットが炸裂した。


「ヒデブ!!」

「(あら、強く殴った割に、少し嬉しそうね)」


 天上に突き刺さる程、リージアを強く殴った割に、妙に喜んでいたモミザを、ヘリコニアは見逃さなかった。

 しかし、面白そうだったので黙る事にした。

 肩で息をしながら自分のデスクへ戻るモミザに合わせ、リージアは天井から首を引っこ抜く。


「もう、またそうやってすぐに殴るぅ~」

「うるせぇ、だったら無暗に抱き着くな」

「つれないなぁ~、そんな事してたら、司令官みたいに嫁ぎ遅れた妙齢のオバさんみたいになっちゃうよ~、あんなんだから、総司令にも何時まで経ってもこくはく……」


 と、リージアがモミザを茶化した瞬間、部屋の扉が開き、ヘリコニア以外の隊員の表情が青ざめた。

 予想と大分違う反応に、首を傾げたリージアだが、まばたきをした次の瞬間、頭部を襲った衝撃で全てを察した。


「スコンブ!!」


 リージアは壁に激突し、殴られた何かと共に突き刺さってしまう。

 その後すぐに壁から顔面が抜き取られ、犯人に胸倉を掴まれたうえで、顔を合わせる事となる。


「ブヘア!」

「……リージア軍曹、誰が、何だって?」

「……あー、えっとですね~」

「ああん?」


 情けない声と共に引き抜かれたリージアは、司令官と顔を合わせた。

 壁に激突する程強い衝撃をおみまいしたのは、司令官自身。

 その理由は、やはり先ほどの失言。

 何とか誤魔化そうと、思考を巡らせるリージアだが、もう何を言っても司令官は許してくれそうにない。

 それでも、リージアは泣きそうな声色で応答する。


「し、司令官は何時見てもお美しいです」


 セリフが言い終わると同時に、司令官はリージアの胸倉を手放し、間髪入れずにかかと落としを決めた。

 本当に何を言っても許してくれなかった。

 そんな後悔を抱きながら、リージアは地面とキスする。


「……」

「さて、冗談を言っているという事は、ブリーフィングは終わった、と捉えるぞ」


 ハイヒールのかかとの先をリージアのホホに突き立てながら、司令官は問いただした。

 しかし、ホスタをなだめるのに必死で、ブリーフィングは半分も終わっていない。

 ウソを言ったら何をされるか分かった物ではないので、リージアは素直に答える事にする。


「あ、えっと、まだ、です」

「チ、そんな事だろうと思った、後は移動中に話せ」

「は、はい……ん?」


 半ば呆れながら、司令官は手に持っていた箱をリージアの視界に入るように落とす。

 見た感じでは、ただのウェポンケースだ。

 もう一つ同じ物が司令官の手に握られているが、それはモミザの方に向けられる。


「これって」

「貴様ら二人に特別支給だ、有難く使え、保管も使用許可も、全て苦労したんだ」


 そう言った司令官は、リージアから足を放し、向こうから来てくれたモミザに箱を手渡した。

 そして、不甲斐ないリージアの代わりに、司令官は部隊の前に立つ。


「良いか!?これははみ出し者の貴様らに与えられた、最初で最後の実戦任務であり、最期のチャンスだ、失敗すれば、貴様らの安全は保障できん!元々、貴様らは解体処分されてもおかしくないのだからな!」


 彼女の重圧なセリフに、部隊の面々は話に耳を傾けた。

 何しろ、この任務をしくじれば、待っているのは解体処分かもしれないのだ。

 今は司令官の根回しで延命されているだけで、場合によっては何時でも首は跳ね飛ばされる。


「それが解ったら、四十秒で準備を済ませ、それまでにこの部屋を出ろ!さもなくば……遺書をしたためておけ」


 全員の前で、司令官はアサルトライフルを構えた。

 既に弾が装填されており、安全装置も外れている。


『はい!』


 空気が振動しそうな程の大声の司令官の言葉に返事をし、リージア達は荷物を纏めだす。

 もって行く物をバックパックに詰め込み、部屋を飛び出す。

 慌てて出て行く彼女達を見送り、司令官は最後に部屋をでる。


「全く、先が思いやられる」


 そう言いながら、最後に外へ出た司令官は、勢いよく扉を閉めた。

 扉には、大きめの画用紙に、色鉛筆で書かれた十三本のチューリップの中央に、マジックで『ようこそ!オメガチームへ!』と書かれている。

 まるで文化祭のポスターのような用紙は、四隅をテープで止められていたが、勢いが強すぎて剥がれ落ちてしまう。

 その紙の下より『備品倉庫』と、書かれたプレートが姿を現した。



閲覧いただき、ありがとうございます。

日曜日と月曜日の週二日で投稿投降いたしますので、よろしければブックマークの方、お願いいたします。

感想も受け付けておりますので、お気軽にどうぞ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ