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負け癖閻魔、異世界でルーザーズラン  作者: May
ロジョードの街
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功罪

メイト達はロジョードの街に帰った。人も死んだ。神器も逃がした。けして誇れる成果ではない。それでも街の人々に事件の真実を伝えることができる。今までに多くの若き冒険者が亡くなってしまったが、今回は救うことができた。成果が無いわけではないのだ。


「あっ!!おかえりなさい、メイトさん。」


ギルドに入ると受付嬢のエクテクさんが笑顔で迎えてくれた。時刻は真夜中でエクテクさんの勤務時間は大幅に超えているはずなのに、本当に待ってくれていた。

そしてもう一人、ギルドの中で待ってくれていた人物がいた。


「バード、イーグよく戻ってきてくれた。メイト、本当にありがとう。」


その人物はヴェルツ・カッチェリード。この街の衛兵でバードとイーグの保護者だ。


「戻りました。報告したいことがたくさんあるんです。」


メイトはエクテクさんとヴェルツに塔であった出来事、兎人の事情、神器の洗脳など真実を伝えた。


「塔については早急にギルドの方でも対応を考えます。ただ、事件に関わった兎人への処遇はご本人方で解決していただきたいです。塔とは無法の地、塔の中で起こったことはギルドも街の司法も関われませんので。」


「俺は罰を受け入れるっぴょ。」


その時だった。突如メイトの背中から悲鳴が上がる。


「きゃあああああああ!!!!ああああああああああああっ!!うぅぅっうあ。あああああああ。」


「お姉ちゃん!!」


「バード!!」


「ぐはっ!!」


意識が無かったバードが目覚めた。しかし、バードは苦しみ暴れる。メイトは暴れるバードに殴られて、バードを落としてしまう。

バードが背中から地面に落ちそうになった時、ネウスが地面の間に手を挟みバードをキャッチする。


「バード!!どうしんだ!?」


「痛いいいぃぃぃ。あああああああっ。」


バードは痛みで泣き叫び、暴れる。それをネウスが優しく抱えている。


「お姉ちゃん!!」


「バードさん・・・。」


「仕方ない。緊急事態だから許せ。」


「ああああぁぁぁぁ、あっ・・・・・・。」


ネウスは魔袋から薬を取り出すと同時に手刀でバードを気絶させる。気絶させた後もバードの身体は痛みに反応して痙攣している。即座にネウスが薬を飲ませるとやっと落ち着いた。


「これが罪点(ギルティ)を流し込んだ副作用・・・?」


「目が覚めただけ良かっただろ。」


「こんなに苦しむなら今は起きて欲しくないです。」


ネウスが飲ませた薬は神経を麻痺させるような毒薬のようだ。効果が切れればまた目覚め苦しむだろう。


「これが俺達がしてきたことの結果だっぴょか・・・。こんなことして許されるわけないっぴょ。どんなに罰を受けたところで許されるはずがない。」


ローチバは刀の刃を自分に向ける。


「待て。お前への罰は当事者で決めるべきなんだろう。」


「どうしてっぴょ?」


「俺達の話を聞いてくれ。」


ローチバが自分に向けた刃を止めたのはヴェルツとイーグだった。そしてヴェルツはローチバに語り出す。


「正直、俺はバードとイーグを冒険者にしたくはなかった。冒険者は最も危険な職業だ。魔物にも、同業者にも狙われる。だが、こいつらは遊びで冒険者を目指していたわけじゃ無い。」


ヴェルツはバードとイーグが冒険者を目指す理由を教えてくれた。


「バードとイーグの両親は魔王が出現したときに魔物に殺された。バードとイーグはそれを目の前で見てしまったんだ。最初は泣きわめいていた二人だったが、他にも同じ境遇の子がいっぱいいることに気付いたとき、冒険者になることを願ったんだ。」


イーグは恥ずかしそうに両手で顔を隠す。ヴェルツは構うこと無く話を進める。


「二人には力があった。バードには秘伝武術が、イーグには無限の魔力が備わっていた。二人は力ある者が弱者を守るべきだと幼いながらに考えていた。その思いを聞いたとき俺には二人を止めることはできなかった。」


ヴェルツはネウスが背中に担ぐ、バードを受け取った。


「こいつらがこんな風になってしまったのは俺と、こいつら自身の責任だ。それでも罪を償いたいと言うなら、ずっとこの街を守ってくれ。ここは、こいつらの第二の故郷みたいなもんなんだ。」


「それで、俺たち兎人がやったことが許されるはずがないっぴょ。たとえ貴方たちが許してくれても俺たちは他にも多くの人を殺しているんだから・・・。」


ローチバの言いたいことは分かる。たとえ被害者が罪を許そうと加害者は自分を許さない。メイトだってあの時から自分を許したことはない。それでも、前に進まなければならない。なぜなら・・・。


「ローチバ。お前の言うとおり罪が消えることはない。誰かに許されて消えてしまうモノは罪ではない。罪は己の中にあるモノだから。」


「だから!!・・・俺は責任をとるべきだっぴょ。」


「死んだって罪は消えねぇよ。それは僕が身を持って証明したんだ。」


「どういうことだっぴょ?」


「・・・・・、僕は地球という星で一度死んでいる。そして地獄から帰ってきた。」


「「「「「・・・っ!!」」」」」


この場にいる全員が驚愕する。本当は女神に気付かれる可能性があるから言わない方が良かったのだが、この場にいる人たちを信用した。


「罪はけして消えないが、功と両立することはできる。ローチバ。君も功罪を目指すんだ。」


「功罪?」


「人に咎められる過ちを犯してでも、人に称えられるような成果を出すことだ。君は今回の過ちから学び、成果を出すんだ。そうすれば罪は許されなくても君の正義は貫くことができる。君が目指す成果は何だったっけ?」


メイトはローチバの口から言うべきだと思った。ここで宣言することでローチバは成長することができると思ったからだ。


「俺は・・・、俺は伝説の冒険者になる。俺の正義は俺達みたいな人間が生まれない世の中にすることだっぴょ。」


自らの正義を見つけたローチバのもとにイーグが近寄る。


「ローチバさん。ぼくは貴方たちがお姉ちゃんをこんな風にしたことを許しません。きっとこれからもずっと許せない。」


そこでイーグは言葉が詰まる。自身でも消化しきれていない繊細な気持ちをどう表現すればよいか迷っているようだ。


「・・・けど、もしローチバさんが伝説の冒険者のようにこの街を、この世界を救ってくくれたら貴方とともに戦うことができるかもしれないです。きっと、お姉ちゃんもそう思ってます。ぼくたちの願いを叶えられますか。弱者を救う強者になれますか?」


イーグは自分の正義をローチバに伝える。そして、ローチバに手を差し出す。この手を掴むかどうかがローチバの答えになる。


「伝説の冒険者になるには色んな正義を叶えないといけないみたいだっぴょ。やってやるっぴょ!!」


ローチバはイーグの手を取り、握手をした。



バードは街の病院で見てもらうことになった。しかし、回復魔法や薬を使っても痛みを和らげるしかできることは無かった。ヴェルツやイーグには救ったことを感謝されたが、これしか手が無かった自分が悔しかった。

塔についてはひとまず封鎖されることになった。神器が自我を持っていたなど知られていなかったため他の塔を管理している冒険者ギルドに使者を送り、情報を共有するそうだ。





「それじゃあ、俺との約束を果たしてもらおうか。」


粗方、事件の後始末が片付いた時、ギルド内でネウスから話しかけられた。


「約束?」


そういえば、会ったときにアビリティについて教えろって言われていた。そのことをメイトはすっかり忘れていた。


「ああん?忘れたのかよ。というかあいつから何も聞いてないのか?おい、エクッ!!」


ネウスは受付をしていたエクテクさんを呼んだ。


「あっ、そういえばメイトさんに何も伝えていませんでした。あの時はいきなりで伝える時間も無かったですしお許しください。」


「何か約束していたんですか?」


「実は元々ネウスさんはメイトさん面会するためにお呼びしてたんですよ。」


「僕とお話ですか・・・?」


「はい、実はネウスさんは見込みのある冒険者を探しておられまして。特に特殊な力を持つ冒険者を・・・。そうですよね、ネウスさん。」


エクテクさんはネウスに話を振る。後の説明はネウスに任せるらしい。


「ああ、そうだ。ということだから、付いてこい。面会室借りるぞ。」


「どうぞ。良いお話ができるといいですね。」


メイトはネウスと1対1で話すことになった。




「お前のアビリティについて教えろ。固有アビリティを持っているんだろ。」


「確かに持ってはいるけど教えると弱点になるからあまり言いたくは無いな。」


僕の固有アビリティは『負け癖』と『身体脆弱』だからな。これを知られるだけで僕を倒すのなんて誰でもできるから信用できる者以外に教えるわけにはいかない。


「兎人の件、手伝っただろ。お前は何でもするって言ったはずだ。」


あまり覚えてないが言ったような気がする。さすがにネウス相手に嘘をつくのはまずいよな。


「分かった。ただし、どうして僕の固有アビリティを知りたいのかを教えて欲しい。信頼できる相手にしか僕のアビリティは教えられないからね。」


「・・・いいだろう。俺が固有アビリティを探しているのは俺の妹のためだ。」


「妹・・・。詳しく聞いても良いか?」


「少し長くなるぞ。」




ある日、狼人の村に二人の人間が来た。片方は自分のことを勇者と名乗り、もう片方の女は神に仕える神官と名乗った。

狼人の村には、ある言い伝えがあった。いずれ世界に危機が瀕したとき、使命を持った男女二人組が金の体毛を持つ狼人に会いに来ると。

俺は産まれながらに金の体毛を持ち、大地の精霊にウコチョンを授かった。だから、掟に従い里を出ることになった。


「ごめん、母さん。妹が産まれるまでには帰ってくるから。」


母のお腹には子供がいた。大地の精霊によると女の子のようだ。母が大変なときに側にいてやれないことに罪悪感を感じていた。


「いいのよ。貴方にはなすべき使命があるのだから。この子のためにも平和な世界を作っておくれ。」


「お前は強い。だが、相手は魔王だ。油断するなよ。必ずここに帰ってこい。」


俺は父さんと母さんに別れを言い、村を出た。

旅の途中、ドワーフの英雄と、エルフの魔法使いを仲間にし魔王城に乗り込んだ。

魔王城の魔物は外にいる奴らより強かったが、俺達の相手にはならなかった。あっという間に魔王のいる最上階まで登った。


「おおっ憎き勇者よ。よくぞここまで来た。お前をこの手で殺さなければわしは・・・。」


魔王の正体は、リヴァイド国の貴族だった。勇者に何らかの恨みがあるようだったが、俺達は難なく魔王を倒すことができた。


「これで僕が真の勇者だ!!」


勇者は魔王の腕と足を切り落とした。決着はついた、そう思っていた。

だが、魔王は口から何かを吐き出した。


「我が息子よ。わしが弱いばかりにお前を守れなかった。本当なら勇者になるのはお前のはずだったのに。」


魔王は切り落とされた腕から出る血を、吐き出した子供に塗りたくる。


「せめて、我が一族の無念果たさなければ・・・。悪魔よ本当の勇者の身体をやる。だから、偽物の勇者をそいつの家族全員、呪い狂わせろ。」


魔王は悪魔と契約していた。その悪魔が子供の身体を使い顕現しようとしていた。勇者パーティーのメンバーは悪魔の恐怖で動けなかった。俺以外は。


「俺はここで死ぬわけにはいかん。妹に会うんだ。」


俺は完全に悪魔が完全に顕現する前に子供の首を蹴り飛ばした。その時宙に浮いた子供の顔が俺を睨む。

その目は赤く光り、俺に呪いをかけた。悪魔はその後、力尽きた。


勇者にかかるはずだった呪いが俺にかかったのだ。だが、呪い避けの装備を持っていたため()()()不調はなかった。

女の神官に聞いたところ悪魔は対象の一番嫌がる呪いをかけるらしい。俺は勇者パーティーを離れ、村に帰った。


「ネウス、おかえり・・・。」


寝たきりの母が息を切らして迎えの言葉をかけてくれた。母は衰弱しきっていたえ。いつ力尽きてもおかしくない。呪いは俺だけでなく、家族にもかけられていた。

俺は悪魔から呪いを受けたことを両親に伝えた。


「父さん達がお前を恨むわけないだろ。無事に帰ってきてくれてありがとう。」


父はまだ余裕がありそうだが、呪いは確実に身体を蝕んでいた。

父と母の前でごめんと泣きながら謝り続けた。


母の出産の日が来た。弱りきった身体で子供を産むのは無理だと反対したが、母は死んでも産むつもりだった。

そして、妹を産んだ母は死んでしまった。


「あなた、ネウス。アンリを頼みます。」


母の最後の言葉を聞いた。俺は妹は何があっても守り抜くと心に決めた。

だが、アンリは産まれてから一度も泣かなかった。


「ネウス・・・。アンリのことはお前に託す。どうか呪いを解いてやってくれ。」


それから数日後、父も逝ってしまった。俺はアンリの呪いを解く方法を探した。

アンリは産まれてから声を出すことがなかった。呪いの影響だ。


俺は呪いを解く方法を試し続けた。神官を呼んだり、アイテムを使ったり、できることはした。だが、何を試しても呪いを解くことはできなかった。


俺はアンリを村に預けて、伝説の冒険者がいたとされるロジョードの街へ向かった。

伝説の冒険者はすでに街を去った後だったが、新たな手がかりを見つけた。

それは、塔を攻略し、神器を手に入れることだ。一国を作れるほどの力を持つ神器ならアンリの呪いを解けるかもしれない。


事情を説明したら、ロジョードのギルド長は協力してくれた。


冒険者になりに来る者が持つアビリティなら、呪いを解けるものがあるかもしれないと教えてくれた。

そして、見込みのある冒険者が来たら俺に伝えてくれた。


俺の力を持ってしても塔の攻略は進まなかった。力だけで攻略できる作りではない。

一刻も早く、妹を救いたい俺は固有アビリティを持つ者が来るのを待ち続けた。だが、何もできない自分に怒りが溜まっていった。






//






「これが俺が固有アビリティを求めている理由だ。次はお前のアビリティについて教えろ。」


ネウスはただの優しいお兄さんだった。いつも怒りっぽいのも理解できる。焦っているだけなのだ。話しを聞いたメイトはネウスを助けてあげたくなった。


「分かった。冒険者の証を見せるよ。」




=========================


ネーム| 敗色零斗

年齢| 18 

種族| 人間(上級閻魔)

アビリティ

|地獄鳥 (悪鬼強化、悪鬼創造、種族融合(黒)、位階融合(黒))

|閻魔 (判決、感情増幅、閻魔覇気、悪心看破)

固有アビリティ

|負け癖

|身体脆弱

契約者

地獄鳥、マナ


=========================


対価を払いギルドカードを開くと前と同じように文字が浮かび上がった。種族だけ閻魔から上級閻魔に変わっているが他は変わりない。


「お前の固有アビリティ・・・どうやって使うんだ?」


「どうやっても使えなさそうだろ。実際ほとんど使えないんだけど。」


「まあいい、それより種族が上級閻魔になっているが前に死んだことがあると言っていたのと関係あるのか?」


種族や、アビリティについて話すにはメイトについて詳しく話す必要がある。ネウスの話しを聞いて信用できると分かったし、そろそろ自分について伝えておくことにした。


「それじゃあ、僕について教えるよ。ただ、君の話よりも長くなるよ。」


「早く話せ。」


メイトはネウスに語る。メイトたち兄妹を襲った悲劇の結末と地獄で紡いだ少女との出会いを。

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