最強の獣人
純真な少女の魂が地獄に帰還する。少女の帰還を見届けた地獄の王はほっと胸を撫で下ろす。
「ふぅ、ひとまず無事で何よりじゃ。女神にも動きはないようじゃから、ばれてはおらんはずじゃが・・・。」
「やってしまったでござる。さっさとあの男を殺しておけば良かった。」
少女と地獄の王は全く違うことを心配していた。
少女は自らの怒りを発散するために、敵を殺し損ねたことを悔やんでいた。
地獄の王は地獄と現世をつないでしまったことが女神にばれていないかヒヤヒヤしていた。
「あの男は仲間を連れて撤退したぞ。じゃから、メイトは無事じゃ。」
「良かった。・・・次はいつ現世に行けるでござるか?」
「あまり地獄と現世を繋がぬ方がいいからのう、最低一晩は開けた方が良いじゃろう。」
「現世とつなげる時間はあれが限界?」
「うむ、あれ以上は現世に影響が出る。地獄の気配が差したら女神はわしの干渉に気づくじゃろう。」
少女と地獄の王は今回得た情報を交換する。再びメイトが危険に陥った時に助けることができるように。
少女達は再び現世が映った水晶を見下ろす。
「メイト、また変なのに絡まれてるでござる。」
「それは、あいつの宿命じゃな。今度は敵でないといいが。」
マナはメイトの負け続ける運命が、また悪い方に働かないかを心配した。今度は地獄の王も同じことを考えていたようだ。
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静まりかえったロジョードの街の暗がりに、誓いを立てた二人の男が立ち上がる。しかし、日時はすでに夕暮れ、ギルドの職員は帰ってしまっただろう。
「ギルドに、伝えに行かないと・・・。」
「今度は俺が兄貴を止めるっぴょ。」
二人は痛んだ身体を引きずり、ギルドへ向かおうとした。しかし、路地の角から人が現れそれを遮る。相手は深くローブをかぶり、顔を隠している。
「兎人か?一人なら僕でも・・・。ッグ」
「いや、こんな奴は見たことねぇっぴょ。お前何者だっぴょ。」
男は踵を返し、歩き出す。
「坊主たち、いい目をしている。うちにきな、泊めてやる。」
「・・・・・・?」
「まさか、隠れ鍛冶屋っぴょ?」
男は応えない。だが、否定もしない。ローチバの言う隠れ鍛冶屋とはなんだろう。言葉通りに捉えるなら、鍛冶屋が隠れていることになるが、お店が隠れたら商売できないし、どうだろう。
メイトは隠れ鍛冶屋について気になった。
「隠れ鍛冶屋って何だ?」
「お前知らないのかっぴょ!?冒険者にとって隠れ鍛冶屋に出会えることは金貨100枚より価値があるっぴょ。」
ローチバが言うには隠れ鍛冶屋とは武器や防具を売る相手を選ぶ鍛冶屋のようだ。本当にこの男が隠れ鍛冶屋なのだろうか。
「あんたは本当に隠れ鍛冶屋なのか?」
「ああ、そうだ。」
男は隠れ鍛冶屋であることを肯定した。メイトたちに隠したいわけではないらしい。
「黒髪のお前が黒と緑の髪になったとき、達人の武術をしていた。それも、本来の戦い方ではないのにだ。制限時間はあるようだが、それでも俺の打った装備に値すると判断した。」
長年、冒険者を見てきた隠れ鍛冶屋でもあんなのは初めてだったようだ。
マナの戦闘技術を使って戦ったマナトは隠れ鍛冶屋のお眼鏡にかなったらしい。戦闘を見ただけで、こんなに分析できるのはさすがだ。
「俺は選ばれたのかっぴょ。」
「兎人のお前はおまけだ。まあでも、いい目をしている。余った武器くらいなら売ってやってもいい。」
「やったっぴょ。皆に自慢できるっぴょ。」
ローチバは大喜びだった。たが、それを自慢できる仲間は今は敵だ。
「あっ、もう皆とは仲良くできなかったぴょ・・・。」
とっさに自慢したいと思えるほど仲が良かったのだろう。そうこうしているうちに、男の鍛冶屋に着いた。隠れ鍛冶屋は地下にあった。誰かに案内されないとたどり着くことはできないだろう。
鍛冶屋の中には、様々な武器や、防具が並んでいた。
「好きなのを取れ。一つただでくれてやる。」
メイトは並べられた装備を見ながらとじっくりと自分に合う装備構成を考えた。そして、一つの武器とも防具ともとれる装備を手に取った。
「これにするよ。」
「本当にそれでいいのか?お前の体術の邪魔になると思うが。」
男は不思議そうにメイトが選んだ大楯を受け取った。そう、メイトは大楯を持つことに決めたのだ。
「僕はあまりマナに頼りたくはないんだ。自分で戦うならこれが僕のスタイルに合っていると思う。」
「お前の戦い方に口を出すつもりはねえ。壊れるまで使ってやってくれ。」
大楯を受け取るときに伝えられた言葉で、この男は自分の打った装備を愛していることが伝わった。
「他は買い取りだがどうする?武器や防具は値が張るぞ。」
「実は今あまりお金が無くて。」
今日狩った涅の素材をまだギルドに売っていないため、今懐にお金が無い。武器や防具は買えないだろう。メイトは安いものがないか周りを見渡した。そして比較的安そうな黒いマントを見つけた。
「これは、ただのマントですか?」
「ああそうだ。」
メイトが羽織っているマントと比べて色が濃く、格好いいと感じた。メイトはこのまま何も買わないのも申し訳ないし、このマントを買うことにした。
「まいどあり。」
銀貨を払い、マントを受け取る。すぐに今着ている物と入れ替えて着用する。なんとなく身体に馴染む。
「そこの兎人こっちに来い。」
「なんだっぴょ?」
メイトがマントの着心地を確かめているとローチバが男に呼び出された。男は店の奥から何かを持ってきた。男は机の上に武器を一つ置く。
「これを俺にくれるのかっぴょ!?」
ローチバは耳をピクピク震わせて嬉しそうにしていた。男が置いた物は刀だった。
「お前は伝説の冒険者に憧れた口だろ?それならこいつを使えばいい。」
「どうしてそれを・・・。」
「目を見ら分かる。奴はその刀術を多くの若者に見せつけてきたはずだからな。」
「伝説の冒険者を知っているっぴょ!?」
まるで伝説の冒険者と親しいような口ぶりに、ローチバは驚愕する。そして、期待を胸に男へ熱い眼差しを向ける。
「ふん、当たり前だ。何しろ『伝説の冒険者サブロウ』の刀を打った『隠れ鍛冶屋ゴブロウ』とは俺のことだからな。」
「あっ・・・・・・。」
ローチバは感動してその場で崩れ落ちた。石の床に一粒の涙が落ちる。
「この刀は奴に練習用に作って欲しいと言われ、打った物だ。奴を目指すならこれから始めろ。」
「ありがとう・・・っぴょ。」
ローチバは顔を上げ刀を受け取った。刀を支えるローチバの腕は細かく震えていた。
伝説の冒険者とは何者か分からないが、ローチバが泣くほど尊敬しているほど凄い人なのだろう。
「行ってこい、真の冒険者を志す者よ。俺はお前達が伝説に名を残す冒険者になることを期待している。」
「「はい!!」」
メイトらは隠れ鍛冶屋を飛び出した。そして、冒険者ギルドへ駆け込んだ。
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メイトらがギルドについたとき、すで太陽は山を下っていた。日が沈むのも近い。
ギルドに入ると、エクテクさんが待っていてくれた。
「あっメイトさん。良かった、遅かったので何かあったんじゃないかって・・・。その怪我どうされました。装備もずいぶん変わりましたし、何かあったんですか。」
メイトはエクテクさんに事情を説明した。
「そうですか、ですが冒険者が塔で被害に遭うのは自己責任という判断になります。ギルドは介入できません。その兎人もそれを知ってて犯行に及んできたのだと思います。」
ギルドは介入できないらしいが、グレーゾーンという判断らしい。領主とかに連絡した方が良いのか。
その時だった。ギルドに獣人の男が入ってきた。その瞬間、ギルドの空気が変わる。皆黙ってその男を見る。
「ずいぶん待った。俺を待たせるとは良い度胸だな。」
男はこちらに向かってくる。俺の閻魔の力は信用ならないが、この男が怒っているのは肌で感じる。
男はそのままエクテクさんの元に向かう。
「言われたとおり来てやった。こいつがお前の言う見込みのある冒険者か?。」
「そうです。ですがたった今事件が発生しまして面会ができそうにありません。」
「俺の目的は知っているだろ。その邪魔をする奴は誰であろうと殺す。」
男は常に怒っている。話を聞く限り、エクテクさんが呼んでくれていたのだろうか。
「メイトさん、こちらの方が元勇者パーティーのメンバーにして、このギルド1の冒険者のネウスさんです。貴方に用事があったのですが、先に兎人を捉えるのを手伝って下さるみたいです。」
ロジョード1の冒険者はネウスというらしい。見た目は金色の毛並みに、鋭い爪、牙を持っている。一言で言うと金色の狼人間だった。
「おい、お前誰を殺せば良い?言え。」
メイトはネウスに事情を伝えた。話の途中早とちりしたネウスがローチバに殴りかかろうとするが、慌ててメイトが制止して事なきを得た。
「固有アビリティを持つお前に免じて今は許してやる。だが、後で必ずお前のアビリティについて聞かせてもらう。断るなら今ここでローチバを殺す。」
「ローチバは罪を購う気があるんです。だから、アジトに案内もしてくれます。僕は何でもしますから、ローチバにチャンスをくれませんか?」
「ふん。それはこいつの働き次第だ。時間が惜しい、早く行くぞ。」
ネウスは兎人のアジトを潰すのを手伝ってくれるみたいだ。ローチバはビクビクしながらも前に出て案内してくれるみたいだ。
「ありがとうございました、エクテクさん。必ず兎人を捉え、無事にギルドに帰ります。」
「こういうときはギルドは何もできませんから、冒険者の方々に任せるしか無いんです。それでも私にできることは精一杯したので後はメイトさん達に託します。どうかこの蛮行を終わらせて下さい。」
メイトたちはギルドを出て、兎人のアジトに向かった。
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地獄虎を呼び出し、三人で乗って移動したから早く着いた。ネウスは突如現れたモンスターに驚くが、すぐにメイトが呼び出したことを把握し背中に乗ってくれた。
兎人のアジトは塔の中にある。だが、塔の中では悪鬼を呼び出すことができない。今日はもうマナを呼ぶこともできない。塔の中のメイトはこの世界で最も弱い存在になるだろう。
「バード、イーグ。必ず助ける。」
それでもメイトはネウスとローチバを信じて、塔の中へ足を踏み入れた。塔の内部は石造りの壁で覆われているがなぜか明るかった。
「こっちだぴょ。」
メイトたちはローチバの後に続き、塔の奥へと進んでいく。何度か上に続く階段を見かけたが上らない。一階にアジトがあるようだ。
「おいっ、本当にこの階にアジトがあるのか?てめぇも騙そうとしているんじゃねぇだろうな。」
「本当だっぴょ。もうすぐだっぴょ。」
ローチバはもうビクビクしない。自らの罪に贖うために真剣だ。
また、階段を見かけた。今度はその階段に近づき裏側に回る。そしてその階段を押し出すと地下に続く隠し扉が出現した。
「この下に兄貴達がいるっぴょ。そして、バードとイーグも。」
「バードとイーグは無事なのか?」
「・・・・・・。ごめんっぴょ。」
メイトは希望を込めてローチバに尋ねたが、聞いたことを後悔した。メイトは先に進めなくなってしまった。
「てめぇ、新人を塔におびき出して何をしていた?」
ネウスはローチバに問いただす。常に口調が強いネウスだが、今回は怒鳴られていないメイトが竦むほどの凄んだ声をローチバにかける。
「俺はこんなことはしたくなかったっぴょ。だけど・・・。兄貴の信念のある悪意を止めることはできなかった。」
ローチバは竦まない。その目は怒鳴るネウスを見ておらず、どこか遠くの、過去の自分を眺めていた。
「すべて話すっぴょ。兎人の村に起きた悲劇から、地獄を生き抜いた日々を・・・。」
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俺の里は貧しかったぴょ。それでも兄貴達と協力して魔物を仕留めたり、山菜を採ったりする日々は楽しかった。
ある日、魔物達に襲われて里が崩壊するまでは。
「みんな、まずいっぴょ。魔物の群れがすぐそこまで。」
魔王の勢力が拡大し、里の周りの魔物が活性化した。この戦いで里の戦力である兎人がたくさん死んでしまった。
俺と兄貴はまだ若くて、見ているだけしかできなかった。
そこへ、伝説の冒険者サブロウが訪れるまで、里は魔物に蹂躙されてしまった。
「大丈夫か。」
伝説の冒険者の実力は凄まじかった。初めて見た刀という武器で活性化した魔物達を捌き、里に一時の平和をもたらした。
里の長はお礼を渡そうとしたが、里にはもう払えるものはなかった。それに気づいた、サブロウは優しくこう言った。
「俺は正しい行いをしただけだ。礼は必要ない。」
俺と兄貴はこの言葉に心打たれた。俺は冒険者のかっこよさに。兄貴は正しさを貫ける強さに。
「兄貴、俺は冒険者になるっぴょ。」
「俺もだ。弱いままじゃ、この里を守れない。」
俺と兄貴はこの時から冒険者を目指した。
サブロウはいつの間にか里を去っていた。そして、里に訪れていた平和も去った。
里に食糧難が訪れたのだ。
魔物の群れとの戦いで狩り人を失った里は、いつ来るか分からない魔物に恐怖しながら、山菜で飢えをしのぐ。ある日、兄貴の弟は飢えで死んだ。里の希望である兄貴に食料を渡すため、自分は何も食べていなかったらしい。
「俺は里を出て稼いでくる。お前達はどうする。」
「俺もついていくっぴょ。」
里の若者達はリーダーの兄貴について行った。そして、なんとかロジョードの街にたどり着いた。
だが、里に着いた俺達は限界だった。空腹で空腹で何でも口に入れたかった。
俺はすぐにでも冒険者になりたかった。あの伝説の冒険者のようにかっこよく人々を助けられるようになりたい。その思いで空腹を押し切り、冒険者ギルドに一人で駆け込んだ。
冒険者になれる条件は意外と厳しくなかった。すぐに冒険者になることができた。
僕は兄貴達のもとに戻った。しかし、そこに兄貴達の姿はなかった。兄貴を探しても見つからず、仕方なく兎人の聴力と相性の良い槌崩れを狩ってお金を稼いでいた。
翌日兄貴達は帰ってきた。しかし、みんな悲しい顔をしていた。
「兄貴ごめんっぴょ。勝手に行動して皆とバラバラになっちゃったっぴょ。」
兄貴はずっと黙っている。ほかの兎人も口を開く気配がない。
「みんな、どうしたっぴょ?」
兄貴は重い口をようやく開く。
「俺達はもう冒険者になれない。捕まっちまった。」
兄貴達はお店の食べ物を勝手に食べてしまったらしい。問題を起こしてしまったら、冒険者にはなれない。この中で冒険者になれたのは俺だけだった。
「そんな、兄貴がいないとやっていけないっぴょ。」
「お前がやるしかないんだ。俺達は別の方法を探す。」
俺は地道にお金を貯めた。でもこれだけじゃ、里を飢餓から救うには全然足りない。
俺達はパーティーを組んで塔の攻略に乗り出した。本当は冒険者以外は入ってはいけないが塔の回りは魔物が出るので衛兵がおらず、ばれずに入ることができる。
最初は順調そうに見えたが、トラップにはまって仲間を一人失った。
体液を吸い出された仲間の変わり果てた姿を見て、塔の攻略に絶望した。
だが、トラップは体液を吸うだけではなく、対価としてハイポーションを生み出す力を持っていた。
そのポーションは高く売れた。俺の稼ぐ金なんかとは比べられないほど。
兄貴は俺達を地獄に連れて行く提案をする。
そこから俺たちは堕ちていった。新米冒険者に手を出してしまった。
「いやあああああああああああああああああ」
ずっと耳に残り続ける数々の悲鳴。
「ぐああああああああああぁぁぁ・・・・。」
「きゃああああああああああああ・・・・。」
「やめろおおおおおおおおおおおぉっっっっっっっっっ!!」
もう嫌だ。いつまでこの生活を続けなければならないんだ。俺はこんなことがしたくて冒険者になったんじゃない。正しい行いを貫ける伝説の冒険者を目指していたのに。
今日も、新たに冒険者になりにきた男が現れた。男は見るからに弱そうで、さらに身につけている物がぼろぼろの黒いマントだけ。冒険者になる準備を一つもしていないのだと感じた。
あの時の俺たちよりよっぽど未熟だ。
もう地獄を見るのは止めにしよう。この男にも俺たちのように地獄を見ないで欲しいっぴょ。
だから、冒険者にならないでくれ。
俺はこの男が冒険者にならないように驚かすことにした。
結果は失敗だった。メイトは冒険者になったし、俺は資格を剥奪されそうになった。
「ローチバ、次が最後だ。あと一回ハイポーションを作れれば村に帰る。だからもう一度頼む。」
これで最後にしようと、二人の冒険者を塔に連れていった。バードとイーグは今まで嵌めてきた冒険者の中で一番若かった。案内する途中に心が折れそうになった。だけど、これで最後だ。これを乗り切れば・・・。
「あああああああああっっっ・・・・・・。いぃっ・・・ぐ・・・。」
「お姉ちゃんっ。止めてよ。僕を庇わないで!!死んじゃうよ。」
バードは弟を庇い、大量の魔力を吸い取られる。もともと魔力の少なかったバードはすぐに生命力まで吸われていく。そして、干からびて。
「許さないっ。ローチバッ!!ぁぁああああああああああがががが・・・・・・。」
今度は今にも息絶えそうな姉をイーグが庇う。
もう嫌だ。こんなの耐えられない。俺は塔の外へと逃げ出した。
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そこからはメイトに出会い、逃げだし、ローチバがハイポーションを無駄遣いしてメイトを助けたことが兄貴にばれた。そして今に至る。
ローチバの話を聞いた後のメイトはどうしたら良いのか分からなくなった。
バードとイーグのことを悲しめば良かったのだろうか。怒れば良かったのだろうか。ローチバに同情すれば良かったのだろうか。
「俺はどこで間違ったっぴょ。」
「今更てめぇに怒ったり、同情はしねぇ。俺たち人間の判断に正解はねぇんだから。」
ネウスは目の前で拳を握る。
「それでも、やらなくちゃならないことはある。てめぇにもあるだろ、信念が。」
今回のネウスの言葉には怒りが込められていなかった。それはネウスの経験から出た言葉だったのだろうか。まっすぐと拳をローチバの胸に突きだして問うた。
「俺は、兄貴たちを止めないと。道を踏み外した俺でも、正しいことを求めても良いのかっぴょ?」
ローチバは胸に当てられた拳を掴む。ネウスはローチバの信念を受け取り、腕を引く。
「知らねぇよ。でも、やるしかねぇだろ?」
やはり、ネウスにも何か壮絶な過去があったのだろう。言葉の端々から後悔を感じる。それでも前に進んできたのがネウスで、今前に進もうとしているのがローチバだ。
メイトやマナが地獄で前に進むと決めたように、これが生きるということなのか?
「俺が兄貴を止める。ネウス、メイト、後ろを頼む。」
「ローチバ、任せてくれ。」
「てめぇがくたばらねえ限りは、親玉には手は出さねぇでやる。」
メイトたちは地下へと向かった。兎人にも、新人冒険者にも地獄を見せた塔の隠し部屋へ入室する。