力の使い方
いつまでも続くかのように思える荒野を、二人の人間が進んでいく。
一人は黒き波紋の模様を持つ虎の背に乗り、もう一方はその足で荒野を駆け抜ける。
「おい、青豚の群れだぞ。」
「ほーう。今夜の晩飯は決まりだな。いつぞやのリベンジといこうじゃないか。」
メイトは進路を塞ぐ、群青の軍団、青豚の群れに向かって地獄虎を向かわせる。
「ぶぎぃぃぃぃっ!!」
大楯を構え、先手必勝とばかりに青豚の群れに突進する。
ガンッと盾をぶつけ、青豚の顔を潰す。だが、さすがは魔物だ。この程度で堪えはしない。
「ぶひぃぃぃぃぃ。」
顔の潰れた青豚は大盾を掴み押し返す。こんな華奢な男に力で負けるわけがないと自信満々に。
その自信通りに大楯は確かに押し返される。だが、その速度は遅く、ほとんど力は拮抗しているようだ。
「さすがに一回りじゃ勝てないか。それならっ【悪鬼強化】二巡!!」
メイトはさらに罪点を身体に纏う。バフの二重がけにより拮抗していた力は覆る。
メイトは大楯を大きく振り回し、盾を掴む青豚を吹き飛ばす。
メイトが一匹の青豚を相手している内に青豚の群れはメイトを取り囲む。包囲を完了した青豚共は勝ちを確信し顔を邪悪に歪ませる。
「囲んでしまえばどうにかなると思ったか?その通りだが、それはお前らも同じだ。『悪鬼創造』囮包囲」
メイトは自身を取り囲む青豚共をさらに取り囲むように悪鬼を生成する。メイトが単騎で乗り込んだのはこのためだ。メイトは深くしゃがみ込み、反動をつけてからジャンプする。
高く、高く、攻撃がどかない場所まで飛んでから詠唱する。新たな配下を生成するために。
「主の命に従い地の底に落とされし大食漢よ、その貪欲な食欲で咎人の罪状を飲み込み消し去れ。【種族融合】『大食漢ドディディ』」
青豚と組み合っていた悪鬼達の身体が崩れる。だが、それは霧散することなく青豚の身体に纏わりながら、一つの存在に統合される。
「イタ・・・ダキ・・・ケヒッ!!」
メイトは大悪漢ドディディの頭に着地する。ドディディの大きな身体の生成に青豚が巻き込まれ、腹から青豚が生えているような姿になっていた。
ドディデイは身動きが取れない青豚の頭をねじ切り、口に放り込んでゆく。
こいつはメイトの命令を聞かないが勝手に周りの魔物を食べてくれる。生成に巻き込めばそれだけで決着が付く。
「ゲプッ・・・。」
青豚共を完食したら大食漢をリリースして罪点を回収する。放置していたらメイトまで食われかねないから、仕方ない。
そして、勝負がついた戦場にネウスがやってくる。
「やったか。少しは使えるようになったじゃねーか。」
「ネウスやマナが検証や特訓を手伝ってくれたおかげだよ。」
これはメイトのこの旅の成果だ。何度も失敗して死にかけたけどネウスがいるおかげで安心して危険を冒せる。
メイトはこの旅でアビリティを上手く使えるようになった。いや、上手くと言うより裏技のような使い方だけど。
ネウスの爆爪の仕組みを聞いたなかったら、こんな発想は出なかっただろう。
ネウスの『部分獣化』爆爪はちぎり取った爪を獣化させて行うのだが、本来の獣化の使い方とは絶対に違う。
獣化の巨大化や縮小化には限界値が設定されている。本来は限界値を超えて巨大化することはできない。
だけどネウスは一瞬で巨大化させることで限界値を超えて獣化せせることができる。ただし、限界値とはそれが不可能だから設けられているわけで、それを無理矢理超えた場合、当然ペナルティがある。
それが爆発だ。ネウスはその爆発を利用して爆爪を使っている。
本当にずるい裏技だよ。
ネウスの裏技を参考にメイトもアビリティのできる範囲を検証した。そして、【悪鬼強化】の二重がけの方法を見つけた。
その名も【二巡】。悪鬼強化のアビリティは各部位に一回しか発動できないが、罪点を纏える量に制限はないのだ。
【二巡】のやり方は一瞬だけ悪鬼強化を解除して、その後すぐに再発動するというものだ。そうすると一回目の効果の上にさらに二回目の効果が乗る。
なぜこうなるかというと、罪点の消失時間に関係する。
悪鬼をリリースするときに残る罪点はすぐには消失しない。これは悪鬼強化で余った罪点も同じだった。
だから、解除してすぐに発動すると周囲に残っている罪点を巻き込んで【悪鬼強化】が発動するため効果量が大きくなるということ。
【二巡】のおかげである程度、接近戦が可能になった。可能になっただけでこれだけだと負け癖は発動するし、ネウスと相手したらボコボコにされちゃうけどね。
そしてこの検証でもう一つ気付いたことがある。それは罪点という物質の謎と巻き込み性能である。
いつものように検証しているときだった。【二巡】の練習をしているときに肩に小鳥が乗った。
メイトがかわいいなとか思いながらそのまま発動させたら、小鳥が肩と融合した。悪鬼強化を解除したらもとに戻ったけど、正直凄い焦った。一生肩に小鳥を飼ってる変人になるなんてごめんだと。
なぜこうなったのかを考察してみた。
まず分かったのは【種族融合】のように悪鬼同士でなくても融合が可能だということ。ただし、その場合はただの合体になり、融合元の意識は両者とも残ったままだ。
もう一つは罪点の実体性。罪点でできた悪鬼は不思議な存在だ。悪鬼は魔物に触れることができ、魔物も悪鬼に触れることができる。しかし悪鬼は壁や木などはすり抜けることができる。
この差は何かと検証した。その結果分ったことは意思あるもの、意思が乗ったものはすり抜けることができないということだ。
例えば、地面に置いてある大岩はすり抜けられるがネウスに投げつけられた大岩はすり抜けられないといった感じだ。
悪鬼同士の融合でない不完全な融合で、頭や手足だけ出てくるのはこれが理由だ。融合される際に意思ある部位、頭や動かそうとした手足など、は罪点がすり抜けられないため融合できないということだ。
すでに融合された部位は融合体のものなので融合体が解除されない限り戻らない。
メイトはこの原理を応用してさっきみたいに【種族融合】に相手を巻き込んで討伐する方法を考えた。これがなかなか有効で僕を囮に魔物を囲み、一網打尽にできる。
この技を囮包囲と名付けた。
そしてもう一つ、これはマナに教えられて気付いたことだが画期的に戦いやすくなる方法を思いついた。マナは嫌だと言っていたが。
それは固有アビリティ『負け癖』の裏技だ。裏技といっているが実は前からやっていたのだ。だけどメイトはそのことに気付いていなかった。マナが言ってくれなかったらまだ気付けてないだろうし、さっきの囮包囲も使えなかった。
『そういえばマナトの時は負け癖は発動してないでござるな?今更でござるけど。」
そう、マナの魂が僕と融合しマナトになっているときは『負け癖』は発動していない。これを応用すればマナに頼らず、『負け癖』を発動させずに戦闘することができる。
その方法とは・・・。
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地獄にて一人の少女が水晶の前に立っている。ただし、水晶から目を背けている。
そんな意味の分らない行為をしている少女に閻魔大王は声をかける。
「ほれ、もうメイトは悪鬼との融合は解いたぞ。そんな嫉妬せんでもいいじゃろうに。」
「むすっ・・・。」
「契約した私が言うのもなんですけど、あんなのの何がいいのかしら?」
メイトが『負け癖』を発動せずに済む方法、それは一時的に悪鬼と融合し肉体の主導権を悪鬼に渡すというものだ。
融合中はメイトは肉体を操作できないという欠点があるものの、そもそもメイトに肉弾戦の才能は無いため戦闘中に使うデメリットはない。
しかし、メイトにその方法を伝えた本人は教えたことを後悔していた。
「メイトと融合していたのは私だけだったのに・・・あんまりでござる。」
メイトがこの方法を確立してからマナを呼び出す回数は減った。
だから、マナはメイトが融合中は水晶を見ない。
「どうせ私なんて必要ないんでござる。」
絶賛嫉妬中の少女の、代わりに閻魔大王は水晶を確認する。そして、メイトの危険を察知した。
「どうやら出番のようじゃぞ。」
マナはすぐさま切り替えて水晶を確認する。そして久しぶりにメイトと融合できると確信し、張り切って現世に送ってもらう。
「メイトには私しかいないってこと教えてあげるでござる。」
閻魔大王は健気な少女を見送りながら、一つため息をこぼす。
「この子らは運が良いのか悪いのかわからんのう。融合中のメイトを見れば一発で分かるはずじゃが・・・。」
「融合中に何かあるんですの?」
「いや、お主には関係ないのじゃがな・・・、これも運命か。本人が気づくまで待とうぞ。」
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その方法とは悪鬼と融合し、肉体の主導権を渡すというものだ。最初は肉体の主導権を渡した瞬間に暴れ出したりして、不可能だと思ったがとある悪鬼がそれを解決した。
「ありがとな、カワニツ。」
「・・・・・・。アア。」
悪鬼には個体差があった。乱暴な悪鬼や温和な悪鬼、近接が得意な悪鬼や、魔法が得意な悪鬼。今僕が融合していた悪鬼『カワニツ』は接近戦が得意であり、さらにとてもおとなしい。それに・・・。
「何度も助けてくれてありがとう。地獄の時も助かったよ。」
この悪鬼は地獄でマナを助けるために移動中に黒炎を潜るのを手伝ってくれた悪鬼だ。このまえ、融合用の悪鬼を生成しようとしたときに、たまたま呼び出せたみたいだ。
メイトは融合を解除して、カワニツを地獄に返す。とはいえ、何度も世話になるはずだからまた呼び出せるようにネームドとして保存してある。
「おい、メイトとんでもない奴が来た。」
ネウスに声をかけられて振り返る。ネウスにとんでもない奴と言わせるとはどんな敵だろうと思ったが、見なかった方が良かったかも知れない。
「ヒッ!!」
「どうやら緑の領域が近いらしい。悪魔が徘徊してやがる。」
ネウスの背後には全長20メートルくらいの化け物が歩いてきていた。化け物は人型だが、けして人族ではない。なぜなら腕が4本、足が4本、顔が2個ある。その顔には大きな縦長の目玉が1つずつついている。
ネウスが言うにはこいつらは悪魔らしい。
「太古の昔、龍と争いその大半が滅んだとされている。が、実際はこうやって各領域の狭間に巣くって生き延びている。」
「追ってきてるけど、倒せないのか?」
悪魔は歩いているだけだが、その巨体のせいで逃げ切れる気がしない。
「奴らは現世と常夜を行き来できる。殺すには特殊な武器が必要だ。俺が持ってるのはこれしかねぇ。」
ネウスは魔袋から短剣を取り出す。確かにあんなちっちゃい短剣でダメージを与えられるとは思わない。
そうこうしているうちに、悪魔に追いつかれた。
「ぐおおぉぉぉんんんんんん。」
悪魔は叫び、メイトたちを踏み潰そうとしてくる。ネウスはメイトを抱え、走って避ける。地面に大きな足形ができる。
「うわあああぁぁ!!あぶねぇ。」
まるで蟻を潰そうとする人間のようだ。しかし、たとえ4本の足があろうとネウスのスピードなら避けるのは容易いが、こちらも有効打がない。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉおおおおんんんんんん。」
悪魔はもう一度叫ぶ。そうすると突如もう一体の悪魔が現れる。二体の悪魔に踏みつけられるのをネウスが必死で避けてくれる。
メイトは悪鬼を生成して攻撃してみる。だが、すぐに踏み潰されて攻撃が当たりもしない。
メイトは潰された悪鬼の罪点を使って『種族融合』を発動する。
「主の命に従い地の底を葬られし首無き獣よ、その業を背負いし定めにて、咎人の支えへし折らん。【種族融合】『葬首獣』」
デュラディンは鉄球を振り回し、足裏を攻撃する。すると、踏み潰そうとする足を弾き飛ばし悪魔を転ばすことに成功する。
「強いぞ、デュラディン!!」
「いや、ダメージはあまり入ってないな。」
デュラディンは足を弾き続けるが、傷を負わすことができない。このままではジリ貧だ。
「「ぐおおぉぉぉんんんんんん。ぐおおぉぉぉんんんんんん!!」」
悪魔二体が大きく叫ぶ。また仲間を呼ばれたのかと警戒する。そして現れたのはさらに大きくいびつな悪魔だった。
大きな縦長の目玉を中心に渦巻くように太い触手が生えている。同じ悪魔ではないようだが、明らかに人型のよりは手数が多いだろう。
ネウスがすべての攻撃を避けられるかと祈ったとき、救世主が現れる。
『こうゆうのは私に任せて欲しいでござる。』
マナが助けに来てくれた。メイトはすぐにマナの魂に触り融合し、身体の所有権を渡す。
「おっマナトか。どうにかできそうか?」
肩に抱えていたメイトが変化したのを見て、マナトを下ろす。
「ほんとは一人で片づけたかったけど、あいつの力を使うでござる。ネウスも手伝って。」
「・・・あいつ?」
マナトは立ち上がり、振り下ろされる足に向けて手を向ける。
「来て、緑龍。緑龍術『繋』」
マナトの手元に黒い刀が現れる。その刀から放たれる植物が悪魔の足を掴む。そして悪魔を投げ飛ばす。
「私はあのぐるぐるの悪魔の相手するから、でかいのはネウスに任せるでござる。」
「いや、俺はあいつに触れられないんだが。」
ネウスは自分の攻撃が悪魔に届かないことを説明する。すると、マナはネウスに向けて植物を向かわせる。
「これで、殴れるでござるよ。」
マナトはネウスの両腕に植物を巻き付けた。マナトの植物は悪魔に触れることができるみたいだ。
「これ、もっと大きいのにも巻き付けれるか?」
「ん?できるでござるが、何するつもりでござるか?」
「久しぶりに暴れてやる。全身獣化【巨大化】」
ネウスは【獣化】の本来の使い方で暴れるつもりだ。相手が化け物ならこっちの方がやりやすいのだろう。
「おお~、でかいでござるな。それじゃ、さらに巻いとくね。」
これで、メイト陣営のフルパワーを発揮できる。二人は悪魔の方を向き直り、刀と拳を向ける。メイトの生成していた葬首獣が攻撃を捌ききれずに吹き飛ばされる。
それを合図に、お互いの獲物に向かって飛びかかる。
マナトの方には大きな触手が弾丸のように飛んでくる。植物を利用してその攻撃を躱し、逸らし、懐に潜り込む。
そして、目の前で立ち尽くす。
「戦華博覧【型】」
悪魔はこれを好機と捉え一斉に触手を発射した。
ズジャ、ブジュ、グリュン、ズジュジュルル、ベチャ、ジュン、ギィン、バチャ、ズシャ、キュゥン。
刀を振るう音は、肉塊が切り刻まれる音にかき消される。マナトの射程に入った物体はそれより前に進むことはできなかった。
すべての触手を失った悪魔は逃げようと、存在が薄れていく。
「逃がさないで緑龍。緑龍術【縛】」
完全に常夜へと逃げようとした悪魔を刀から放たれた植物が捉える。
一方、完全獣化をしたネウスは二体の人型の悪魔を殴り飛ばす。マナトに巻き付けてもらった植物のおかげで攻撃が通る。
悪魔の半分ほどの大きさになったネウスは完全に打ち合いを勝利していた。
「ぐおおぉぉぉんんんんんん。」
自分たちの不利を悟った悪魔は常夜に逃げようとする。それを見たネウスはすぐさま悪魔に接近し、腕を引っ張り二つある内の顔を殴り飛ばす。
顔が一つになった悪魔は残る3本の腕でネウスに攻撃する。ネウスの顔に放たれた三つの攻撃はネウスの一本の腕に殴り飛ばされる。
ネウスは顔と腕が1つずつしか残っていない悪魔を、もう一体の悪魔へ投げ飛ばす。
「思ったより脆いな。次で終わらせてやる。」
マナトとネウスの攻撃が同時に悪魔の息の根を止める。
「戦華博覧【舞】」
「剛拳!!」
マナトの刀が悪魔を切り刻み、ネウスの拳が悪魔に体の胸を穿つ。悪魔は霧が晴れるように消滅する。
巨大な足跡が無数に残る戦闘の跡地で二人は目を合わせる。
「やるでござるな。」
「お前もさすがだ。」
マナトは融合を解除し、メイトに戻る。ネウスはすでに旅に出る準備をしていた。
メイトも慌てて、地獄虎を呼び出す。
「おいっ、俺も乗せろ。」
「え?いっつも一人で走ってるのに!?」
いつも無尽蔵のスタミナを見せつけてくるネウスから乗せてくれと頼まれる日が来るとは思わなかった。
「巨獣化は疲れんだよ。」
そう言って地獄虎の背に乗ってきた。
メイトはネウスとの信頼関係が深まったような気がして少し嬉しかった。
それからも旅は続く。もちろん、敗北も重ねて・・・。
それでもメイトはその経験を糧に成長していく。
そして、ついにジュラリックの領土へたどり着いた。




