負け犬の勝ち方
依頼を持ったメイトは受付に報告しに行った。
「そちらは槌崩れですね。武器を溶かす酸を身に纏った厄介な魔物です。遠距離から、魔法などで攻撃するのが一般的ですが、そうすると本体の素材が痛んでしまうのが難点なんです。」
メイトはこの世界に魔法があることに歓喜した。
魔法について興味はある。しかし今はメイトにできる方法で攻略するしかないと考えた。
「ひとまず、死なないように立ち回ります。では、行ってきます。」
メイトはギルドを出て、街の外に向かおうとした。
ギルドの戸を開けると、ちょうどローチバが入ってくるところだった。
「・・・・・・。」
メイトはギロッと睨み付けられたが特に話しかけられることはなかった。
メイトはロジョードの街を出て目的の場所へ向かった。
30分くらい歩くと目的地に着いた。その場所は広い丘の上の草原で、見晴らしが良い。
メイトの膝ほど、高さのある草がなびき、幽かな音を風に乗せる。
「・・・あれか。自然にあるとは思えないほどカラフルな魔物だな。」
緑一色の草原で、赤、黄、青、物体が駆け回っている。
身体は小さいが、動きが速く、メイトの足では追いつけそうにない。そのため、ひとまず作戦を立てることにした。
槌崩れには近接戦は向かない。遠距離から戦う必要がある。メイトに取れる手段は【悪鬼創造】で生み出した悪鬼に特攻させるしかない。悪鬼の実力は分からないが、このくらいの魔物にやられることはないと信じるしかないだろう。
「主の命に従い地の底に囚われし卑しき獣よ、我が力を糧に顕現せよ。【悪鬼創造】『悪鬼』」
メイトは罪点を支払い悪鬼を生成する。メイトの目の前には地獄で何度も襲われたあの怪物が、黒い渦の中から現れた。
メイトよりも一回り小さな黒い鬼。その顔に付いた大きな目と口は、常に気味悪く笑う悪鬼の不気味さを際立たせている。
メイトは閻魔になったことで悪鬼に認められているようだ。メイトの思うとおりに悪鬼の身体を動かせたため、試しに走らせてみる。
悪鬼を走らせてはみたが、槌崩れに追いつけるほど速くない。だが、あの魔物が好戦的ならば近づけばあっちから攻撃してくるだろうと、メイトは悪鬼を槌崩れのもとまで走らせた。
槌崩れは悪鬼の存在に気づき、三匹が取り囲むように近づいてくる。
ここまで近づいて分かったが、槌崩れの正体は鼠のような魔物だった。それが、カラフルな酸を纏って行動している。
メイトは悪鬼の身体で、飛びかかってきた一匹の槌崩れを殴り、迎撃する。攻撃力は申し分なく、槌崩れを瀕死に追い込んだ。だが・・・。
(まずい、思ったより酸の溶けるスピードが速い。)
すでに悪鬼の拳は溶けてなくなっている。早期に決着をつける必要がある。
残った二匹の槌崩れが正面と背後から悪鬼を挟み込むように襲いかかる。
メイトの悪鬼は正面からの敵を蹴り飛ばし、背後からの攻撃を転がることで避ける。悪鬼の身体は右の肩と膝が溶けて立ち上がることができない。
だが、襲いかかってくるところを捕まえ、食い殺せば槌崩れを倒すことができる。
メイトは槌崩れが悪鬼に仕掛けるのを待った。だが、槌崩れが悪鬼に近づくことはなかった。奴は瀕死の仲間の元に移動し酸を吸収する。
他の二匹の槌崩れの命は消えかけだが、残された槌崩れはより大きな酸を身体に纏った。そして・・・。
「あっ!!」
槌崩れは腕を振るい、酸を遠距離から放った。槌崩れの身体から放たれた酸は見事に悪鬼の顔に命中する。悪鬼の身体は見る見るうちに溶けていき、消えてしまった。
狩りを終えた槌崩れはこちらに振り向き、メイトを認識する。
「しまった、逃げないとっ!!」
メイトはすぐさま、魔物から背を向け走り出す。メイトが出せる最高速度、それは異世界の魔物にとって格好の餌と判断するのに充分なほど遅い。
息が切れ、胸が軋むように痛い。拙い足取りで、丘を転げ落ちるかのように走る。
丘を下ったその先に槌崩れは回り込む。突如足を止めようとしたばかりに、土を踏み外した足は空を切り魔物に身体を差し出す。
槌崩れが口から垂らすのは、酸かそれとも涎か。どちらにしろメイトに敗北を想起させるには十分な恐怖だった。
(ああ、また死ぬのか。今度も何もなせぬまま。僕は自分の運命には勝てなかった。ごめんな、マナ。お前に負け犬でも力さえあれば、乗り越えられるってとこを見せたかった。)
固有アビリティ『負け癖』を掻い潜ろうと工夫はしたがそれは無理だった。メイトはそう結論づけ、敗北を受け入れた。
この瞬間メイトの勝負は付いた。そしてこれからは・・・。
「馬鹿野郎、速く逃げろっぴょ!!」
愚かな兎人の勝負である。
(誰だ?こんな僕を救ってもどうにもならないというのに・・・、無駄だよ。)
「くっそ、なんで冒険者になってんだっぴょ。お前が、弱いことはあの時分かったはずだっぴょ。」
その特徴的な声は聞き覚えがあった。異世界に来て数少ない知り合い。それも、印象は最悪だったはずだ。
「どうして・・・?僕なんかを。」
「目の前で死にそうな奴をほっとけるかっぴょ。俺は冒険者だっぴょ。」
メイトと槌崩れの間に入ったのは、冒険者ギルドで一悶着あったローチバだった。メイトは新人いびりをする性格の悪い奴だと思っていたが、考えを改める。
メイトは立ち上がり、距離を取る。ひとまずローチバのおかげで助かった。
だが、どんなにローチバが強くとも槌崩れに勝てるわけがない。固有アビリティ『負け癖』のせいでメイトもその仲間も絶対に負ける。だからローチバも必ず負ける。それがメイトの結論だった。
「無駄だ。」
槌崩れはローチバの上部に向けて酸を発射する。時間をおいて降り注ぐ酸にローチバが対処している間に接近し、背後に回る。
酸を上部に放つことで陽動と視線を上部に移す役割をこなし、自身の小さな身体を生かして視界から外れるという、知性の無い魔物の生存戦略にメイトは驚かされる。
「冒険者を舐めるんじゃねぇっぴょ。アビリティ発動【空間聴覚】っ!!」
ローチバはあろうことか戦闘中に目をつむる。だが、降り注ぐ酸に被弾することなく、戦闘を継続する。
これがローチバのアビリティ・・・。聴覚を強化して、物体の動きを感知しているのか?槌崩れは背後に陣取ったまま隙をうかがっている。
「それでも、お前が勝てるわけない。」
危なげなく攻撃を避け続けていたローチバだったが、ついにその膠着状態が瓦解する。
ローチバが地面に残った酸を踏んでしまったみたいだ。やはり、音ですべてを感知することは困難で、止まっている物を把握することができないらしい。そこまで思考したメイトは、背後で構える槌崩れに気づいていない可能性に気付く。
「しまった!?まずい、あいつはどこだ?」
ローチバは慌てて目を開ける。しかし、すでに、槌崩れは跳躍し、ローチバの背中に襲いかかろうとしていた。
「うっ後ろ!!」
この体勢では槌崩れの攻撃を避けることはできないだろう。それでもつい、呼びかけてしまった。
メイトは自身の『負け癖』がローチバにも発動していたのだと確信した。
メイトは再び敗北を意識した。そして、無残なローチバの姿を見たくないと、そっと目を閉じる。
「【兎人武術】『列兎脚』」
ドゴォという鈍い音のち、しばし静寂が訪れる。ローチバは悲鳴を上げなかった。ローチバの犠牲を無駄にしてはいけない。どうにか逃げ延びないと、とメイトは意を決して目を開けた。
「やっぱり魔物は馬鹿だっぴょ。あんなわかりやすい罠に引っ掛かるなんて。俺は最初からあいつの位置は分かってたっぴょ。」
その場に立っていたのはローチバだった。足を振り抜いた体勢で止まっており、その足の先には無残な姿になった鼠がいた。ローチバは槌崩れに勝ったのだ。
「どうして、勝てたんだ!?お前は絶対に負けるはずなのに。」
思わず、心の声が漏れる。
メイトは固有アビリティ『負け癖』について勘違いをしている。それを今回の敗北で学べるかが今後の鍵になる。
「何言ってるんだっぴょ。強い方が勝つ。当たり前だっぴょ。」
不思議そうに首をかしげながら、ローチバは靴を脱ぐ。靴はドロドロに溶けてしまっているが貫通まではしていない。もともとかなり分厚い靴だったのだろう。
ローチバはその靴で酸を踏みわざと隙があるように見せた。
最初から、意図をもって戦っていて、勝利をもぎ取った。
そこに『負け癖』による影響はなかったようにメイトは感じた。
では、なぜ悪鬼の時は負けてしまったのか。まさか、悪鬼は思ったより強くないのか?単純に負けただけか?とメイトの思考は回る。
「おいっ、素材はもらってくっぴょ。お前のせいで出費がかさんでるっぴょ。それと、素材を取ったらすぐにずらかるっぴょ。」
「ごめん、いつか借りは返すよ。それで、ずらかるって何かあるのか?」
「何かって、そりゃ魔物の血で他の魔物が集まるだろうが。用事があるから、早く帰りたいってのもあるが・・・。」
その辺は地球の野生動物とかと変わらないのかとメイトは理解した。
借りができたから、ローチバの用事っていうのも手伝ってやりたいが、自分がいても良い方に転がることはないからとメイトは自重した。
「待てよ?そういえば残りの二匹の槌崩れのとどめを刺してなかった。」
せっかく倒したのに素材を持って帰らなきゃ、宿代が払えない。瀕死の槌崩れにとどめを刺すくらいメイトでもできるだろう。
メイトはローチバに二匹の槌崩れの素材をもらっていいか聞こうとしたときだった。
「お前まさか、血を流した魔物を放置したのかっぴょ!?」
「うん?まずかったかな。」
「馬鹿野郎!!父さん母さんに教えてもらったことないのかっぴょ。」
メイトの父も母もイアケシの世界の常識を知っているわけがないし、そもそもメイトが幼い時に死別している。
メイトは魔物の性質の危険性を把握していなかったばかりに、事態を把握できていなかった。
その時、ゴゴゴゴッという地鳴りとともに大地が小刻みに揺れる。
遠くの景色の一部がこちらに移動している。異世界ではそんなことがあるのか、と呑気になっている場合ではなかった。
「嘘だっぴょ。やばい、やばいやばい!!魔物行列だっ!!」
動いていた景色は数百の槌崩れの群れだった。それはそれは凄いスピードでこちらまで走ってくる。
メイトは隣のローチバの顔を見る。「・・・・・・。」ローチバは地獄を見たような顔をしていた。
「終わった、終わった、終わった終わったっぴょ。父さん、母さん・・・兄貴、ごめんっぴょ。」
絶望しているローチバは役に立ちそうにない。そして、メイトは絶対に勝つことができない。
時間を稼いで、ローチバだけでも逃がさないとな。
「ローチバここは僕が囮になる。だから、全力で逃げてくれ。」
「お前なんか囮にもなんねぇっぴょ。それに、もう間に合わないっぴょ。」
ドドドッという地鳴りとともに槌崩れの群れに囲まれる。これで逃げるという選択肢はなくなった。
メイトは自分が戦えば負けるということは分かっている。けれど、最期まで抵抗をやめる気は無い。ローチバに生かしてもらった命だから。
「【悪鬼創造】悪鬼」
「うわぁ、何だこいつら。気味悪いっぴょ。」
突如現れた、悪鬼達にローチバは引き気味に驚愕する。だが、それがメイトの仕業だとは分かっているようで悪鬼の背に隠れるように縮こまっている。
通常の悪鬼は一度呼び出したため、ノータイムで生成できるようになった。だから、メイトは10体の悪鬼を生成して命令した。
「悪鬼達よ、僕たちを守れ!!」
悪鬼は各々の判断で行動を開始した。8体の悪鬼が数百の槌崩れの群れに襲いかかる。残りの2体はメイトとローチバの側で待機している。
クヒヒヒッと嗤いながら悪鬼達は前進する。メイトが操っていた時とは違い、その動きは獣そのもの、猿のように四足で地を駆け回り、分散する。
「純魔法【オルク】、【オルク】【オルク】クッヒッヒッッヒヒヒャアア」
駆け回る悪鬼達は酸を避けながら、魔法を放ち、一発で数匹の槌崩れを黒き炎で焼き払う。メイトが操っていたときより、遥かに高い戦闘能力を見せつけ、槌崩れの群れを処理していく。
悪鬼にそんなことができたなんてと驚いていたところ、側にいた悪鬼が【オルク】と黒炎をメイトの頭上へと放った。
ジュワッと水が蒸発する音が聞こえ、悪鬼が酸から守ってくれたのだとメイトは理解する。振り返ると、跳躍し終え、着地する一匹の槌崩れがいた。
この場に居る10体の悪鬼が怒り狂うような、嗤い声を上げ一斉に魔法を放つ。
「「「「「「「「「「純魔法【オルク】」」」」」」」」」」
10の黒き炎が一匹の槌崩れを焼死体へと変えた。悪鬼達はまた、それぞれの役割に戻った。その光景を見た他の槌崩れは徐々にメイトたちから距離をとる。槌崩れの恐怖を感じ取った悪鬼達は一斉に咆哮する。怪物による降伏勧告だ。
槌崩れは敗北を自覚し、ちりぢりに逃げ出した。悪鬼達は深追いをせず、槌崩れの死体を拾い上げる。
鼻を突くような血生臭いと戦いの後とは思えぬ異様な静けさの中、悪鬼達は主人へ勝利を捧げた。
与えられた勝利に、悪鬼の主人は困惑していたが。
「勝ったのか・・・、僕が?信じられない。」
異世界での初の勝ち星を得て抱く感情は、歓喜ではなく驚愕だった。どうして今回は勝つことができたのか。
メイトは頭を回転させ、その要因を探る。メイトは最初のローチバとの戦闘を思い出す。
(ローチバとの戦いはぼろ負け。もちろん直接戦ったから、固有アビリティ『負け癖』は発動しているだろう。実力も足りてない可能性は高いけど。)
続いて、槌崩れの3匹との戦闘を思い返す。
(悪鬼は1体で3匹の槌崩れなど軽く屠れるほどの実力を持っている。それなのに、敗北したのは僕が操作したからだ。悪鬼の実力の把握ができておらず、操作も拙かったのも要因だろう。だが、そもそも槌崩れと悪鬼では格が違うように感じた。)
ローチバと槌崩れの戦いを追憶する。
(僕は手を出してない。少し、声を掛けた程度だ。ローチバが勝手に守ってくれた。そして、ローチバは勝った。)
最期の槌崩れ数百匹の群れとの戦闘を俯瞰する。
(悪鬼に命令したのは僕たちを守ること。操作は一切しておらず、唯一の圧倒的な勝利を手にした。)
メイトの思考は完結した。そして、一つの仮説にたどり着いた。
「僕の仲間、配下には『負け癖』は発動しない。ただし、僕が操たり、具体的に命令したりなどで戦闘に関与した場合、発動する場合がある、とかか?」
もし、この仮説が正しいのならば上手く立ち回れば一人で魔物に勝つことができる。
メイトは大きくガッツポーズをした。
気づけば悪鬼達は死体を集め終え、メイトの前に跪き、死体を捧げていた。
「よくやった。今後もよろしく頼む。」
メイトは悪鬼を罪点に変換した。傷を負ったようには見えなかったが、生成に払ったときより減っていた。これは魔法を使ったせいだ。
「お前、何者だっぴょ?本当に新人か?」
戦闘から今までの一連の光景を見ていたローチバが疑問の声を投げかける。あれだけ、弱かった奴がこんなアビリティを持ってたら驚くのも無理ない。
「僕は新人だ。だから、ローチバ先輩には助けられたよ。ありがとう。」
「お前っ・・・。いや、何でもないっぴょ。」
何か言いたいことがあったみたいだが、言い淀んでしまった。今は疲れているから深く追求するのはやめておこう。メイトは数十の死体の処理をどうするか考える。
「この量の死体が入る袋なんてあったりする?」
「安い魔袋だが、ぎりぎり入るっぴょ。今度返しに来いっぴょ。」
メイトは魔袋と呼ばれる袋をもらい、死体を詰める。見た目よりたくさんの物が入るらしい。ローチバが親切で助かった。
「ありがとう。・・・一緒に帰る?」
「俺は用事があるっぴょ。お前は一人で変えるんだっぴょ。あっでも、塔には近づくんじゃないっぴょ。」
最期まで親切な人だった。メイトの中のローチバの印象は最初と大きく変わった。
メイトはローチバと別れ、まっすぐギルドに帰った。
//
「メイトさん、こんなにたくさんの槌崩れを一人で倒したんですか!?魔物行列でも起こしたんですか?」
ギルドに帰ってきたら、まだエクテクさんが受付していたので素材の回収をしてもらった。エクテクとは今朝の受付嬢の名前だ。ギルドの壁紙に受付嬢の名前が書いてあったため、メイトは知ることができた。
メイトはローチバからもらった魔袋から回収した死体を取り出した。その数は35匹。
「実はそうなんですよ。一人では結構危なかったですが、ローチバのおかげで助かりました。魔物って怖いですね。」
メイトは過度に期待されると困るからと、この功績はローチバに譲っておいた。
「ローチバさんでは魔物行列に立ち向かうことなんてできませんよ。・・・あっいえ、ローチバさんもお強いんですが、魔物行列はブロンズ冒険者が100人はいないと勝つことはできませんので。」
ローチバに全部肩代わりは無理があった。それにしても、ほんとうはメイトと同じランクの人間が100人必要であったようだ。ローチバは確かシルバーだったからシルバー冒険者は10人分くらいか?10体の悪鬼で余裕があったから、悪鬼一体の戦力はシルバー冒険者以上の戦力であると想定できる。
「確かに僕がほとんど倒しましたけど、ローチバさんが居なければ僕は死んでいたでしょうし、彼が強いのは分かっています。」
「ほとんど一人で・・・。それが本当ならゴールド冒険者と同等の戦力を持っていることになりますね。近頃優秀な新人を亡くしているロジョードギルドとしては嬉しい限りです。」
メイトには固有アビリティ『負け癖』があるため、事件に巻き込まれる可能性があるし、気をつけておいた方が良いだろう。
エクテクさんは精算が終わったのか、死体を銀色の魔袋に詰めた。
「偶然かも知れませんが、メイトさんも気をつけて下さいね。はいっ、こちらが今回の報酬になります。内訳をお聞きになりますか?」
エクテクさんは慣れた手つきで、硬貨を並べる。金貨が8枚、銀貨が52枚、銅貨が38枚机に並べられた。
メイトはエクテクさんのことは信用しているが、最初の報酬だし騙されないようにアビリティを使用する。
(アビリティ発動【悪心看破】)
『閻魔』の能力の一つの悪心看破を試してみた。エクテクさんには反応は無し、ギルド内のメイトを睨むおっさん達は少しだけ頭部に黒い丸が浮かんでいる。嫉妬とか妬みだろう。
【悪心看破】の説明には強い悪心を読み取れることがあるってあったけど、そんなに強くなくても感知できるようだ。
「エクテクさんのことは信用しているので、大丈夫です。」
「今、アビリティを使用されましたね?私や周りをジロジロ見ていて分かりやすかったですよ。」
クスクス笑いながら、硬貨をまとめて渡してくれた。
(さっきから嘘ついたら全部ばれてるんだけど、これも『負け癖』が発動してるのか。それとも、エクテクさんが上手なだけか?)
なんにしても、しばらく宿代にしては十分すぎるほどのお金を手に入れた。他にも必要な物が買える。
今日はもう疲れた。今夜の宿を探して、買い物してゆっくり休むことにしようと、メイトは苦い顔をしながらエクテクさんから硬貨を受け取り、ローチバからもらった魔袋に入れた。
「では、また明日。今日はありがとうございました。」
エクテクさんに挨拶し、ギルドを後にした。