ヒールは泥酔にも効く
「じゃあ、リネアは?」
「はい、私はリネア・マルクトと言います。家はとても貧しかったので、人生を一発逆転するために様々な手段でお金を集めて『盗賊』を授かって冒険者になりました。ランクはCで、『俊敏』『器用』『感覚強化』『剣技』の四つのスキルをとっています」
戦闘特化のエルナと違って、リネアは汎用性の高いスキルをとっているらしい。身体能力が上がっているので回避や命中にも影響があるが、索敵や罠解除などそれ以外のことにも幅広く役に立つ。
きちんと役割分担が出来ていることから、二人の信頼関係がうかがえた。
「俺はアルス。職業『支援魔術師』のFランクで、スキルは『回復魔術』だけだ。小さいころから冒険者に憧れていて、一年前に家を飛び出してきたんだ」
二人と比べると俺は特に大した背景もなくて少し申し訳なくなった。
リネアは信じられない、という顔で言う。
「Fランクであの魔力とは、常識破りですね」
「本当に俺もよく分からない」
「マスター、お代わり!」
それはそれとしてリネアと俺が話している間、ずっとエルナは酒を飲んでいるが大丈夫なのだろうか。
「なるほどね。まあ前はいろいろあったと思うけど、魔法が使えることが分かって良かったわね!」
「そ、そうなのかな?」
効果がすごいのは嬉しいが、女性にしか効かない上に副作用があれすぎていまいち素直に喜べない。
するとエルナの表情がさっと変わる。
「いや、やっぱりそんな訳ないわ! あ、あんな破廉恥な魔法なんか使って恥じゅかしくないの!?」
「え!?」
さっきと言ってることが違う、と思ったらいつの間にかエルナの顔は真っ赤になっていて、呂律も少し怪しくなっている。
「これ、大分酔ってますね」
リネアが小声で俺に耳打ちする。
「多分依頼が無事終わって、緊張が解けたんだと思います」
「もっと堅物だと思っていたがいつもこんななのか?」
「そんな感じです」
「そうか、それならいい……のか?」
「全く、あんな魔法を使うなんて支援魔術師じゃなくて変態まじゅちゅしに改名した方がいいわ! お代わり!」
呂律の回らない口で叫びながらエルナは次の酒を頼む。
ちなみに職業にオリジナルの名前をつけることは分かりづらくなるので禁止されている。職業を自由記述にすると、極端な話剣士なのに魔法使いを名乗ることとかも出来てしまうためだ。
「これ大丈夫か?」
俺はリネアと顔を見合わせるものの、エルナは気分がよくなったのか、次々に酒を飲んでいく。
そして。
「うぇ……」
二時間ほどの酒盛りの後、店を出るとエルナはふらふらと数歩歩いた後、真っ青な顔で地面の端っこに座り込む。
先ほどまでエルナの好きにさせてマイペースに飲んでいたリネアもさすがに眉をひそめた。
「これはだめかもしれません……すみませんが、回復魔法をかけてあげてもらえませんか?」
「え?」
確かにただの飲みすぎならヒールで治るが。
「かいふくぅ? 大丈夫、しょんな変態魔法ゆりゅさないわ……うっ」
エルナは抗議しようとするが、明らかに呂律が怪しい。しかも文句の途中で何かがこみあげてきたのか、口元を抑えている。
大丈夫と言っているが、しゃべればしゃべるほど心配になってくる。
ちらりとリネアを見ると彼女は頷いた。
「いや、やっぱ酔い過ぎだ、ヒール!」
俺は意を決してヒールをかける。
「あ、今酔ってるからやめてぇ……はうっ!?」
魔法がかかった瞬間エルナはびくりと体を震わせる。
「だめぇ、これ気持ちよすぎぃ……酔ってるのに、今酔ってるのに~! 我慢できない、ふぅ、あ、あ、もうだめぇぇぇぇぇぇ!!」
酒に酔っているせいもあり、戦闘中にかけたときとは比較にならない反応だ。
ヒールしているだけなのに悪いことをしている気分になってくる。
やがて最後に一際高い声をあげると、それで酔いが醒めたのだろう、我に返って慌てて口元を抑える。
「はっ!? ちょ、ちょっと、何勝手なことをしてくれてるのよ!?」
そう叫ぶものの、普段に比べて言葉に力がないし、顔も真っ赤になっている。
「いや、そんなこと言うならそもそも酒を飲み過ぎるなって」
「そ、それは……し、仕方ないじゃない! もう、お休み!」
エルナは恥ずかしくなったのか、そう叫ぶと逃げるようにこの場を去っていった。
後に残った俺はリネアと顔を見合わせる。
「すみません、エルナがあんなで」
「いや、まあ悪い奴じゃないのは分かるからいいんだが……」
むしろ親しみがわいたと言えるかもしれない。
するとリネアが少し恥ずかしそうに言う。
「ところであの……申し訳ないですが、私にも酔い醒ましをかけていただけませんか?」
(その、エルナのを見ていたら私も……)
「え?」
不意の依頼に俺は困惑する。しかも後半は声が小さくてうまく聞き取れない。
が、暗くてよく見えなかったが、確かにリネアの顔も赤くなっていた。あまり表に出ないだけで酔ってはいたのだろうか。
「わ、分かった……ヒール!」
「んっ、これやっぱりすごいっ、ですっ……」
リネアは懸命に声を抑え、両手で体を抑えているものの小刻みに体を震わせている。それでも顔は平静を保っていた。
そこで俺はちょっとしたいたずら心が芽生えるのを感じる。そうだ、エルナと違ってリネアは自分から頼んできたことだし、ちょっとぐらいいいだろう。
俺は少しだけヒールにこめる魔力を増やしてみる。
「んんっ♡ そ、それだめぇ、や、やめてくださいっ!」
あまり表情を変えなかったリネアはびくりと体を震わせると、急に顔を真っ赤にして大声で叫び、両手で自分の体を抱くようにしてその場に座り込む。
「ご、ごめん、ちょっと力みすぎた!」
慌てて魔法を止めると、彼女は尻餅をついたままぎろりと俺を睨みつける。
「それ二度としないでください……もし他の人にやったらパーティー追い出しますからね!?」
「本当に悪かった……」
俺は慌てて頭を下げて謝る。それを見てリネアはため息をついたが、幸いそこまで怒ってはいないようだ。
しかし他の人にやったら、というのはどういうことだろうか?
「ほ、本当にもう二度とだめですからね……!?」
(私が頼んだとき以外は、ですが……///)
「わ、分かった! 本当にごめん!」
リネアが小声で何か言ったような気がするが、俺は必死で謝るのだった。
こうして親睦会は仲が深まったようなそうでもないような感じで終わったのだった。